エティオの帰還と高待遇
バルザックの亡骸は、真理に従い持ち帰られることになった。すなわちマアトの補助で発動させた次元魔法を用いて作った、収納用異次元空間=通称:異次元ポケット(エティオ命名)での運搬である。異次元なので時間経過もなく、容量無制限の使い放題プランである。
冒険者として害獣や魔物の死体には慣れてしまったエティオだったが、魔族とは言え人の形をした高度な知性を備えた相手だった死体を触るのには忌避感があり、また大事なマイ収納袋に入れるのは気分的に憚られた。そこでマアトの補助を受けて、それに触ることなく異次元ポケットへと格納してもらっていた。なおマアト曰く、異次元への完全な収納は座標の指定などの制約が多く、生物のように不規則に動いているものは対象にできないとのことだったが、これも真理として当然のように受け止められた。
その後エティオはマアトのナビを受けて、主を失った建物内を捜索。地下にある研究室と思しき場所には厳重な施錠がされていたが、牢と同程度かやや強いほどの強度しかなかったため、鍵の部分を抉り取るという原始的かつ脳筋的対処にて難なく突破。その中では不可思議な魔法陣が書かれた資料や、禍々しい雰囲気を放つ魔法具らしきものをいくつも発見したが、解析の結果碌な使われ方をしない物ばかりだったので、マアトにお願いして適切に処理してもらっておいた。何から何まで本当に高性能だな、とエティオは感心していたが、その思考を共有すると調子に乗るかと思い、秘匿したままにしておいたが。
研究室の中からは唯一実用的なものとして、魔法の収納袋(中)を発見したが、それ以外に建物内に目ぼしい物はなかった。あまり長居したい場所ではなかったこともあり、早々に立ち去ることにしたエティオは、肉体活性をしても王都への帰還にそこそこの時間がかかることを知り、帰りの道すがらマアトに真理が使えるかどうかの質問をしてみることにした。
(マアト、帰り道が遠いんだけど、次元の門か何か作って、こうピュピューっと帰れたりはしないの?)
(エティオの言うようなことは理論的には実行可能ではありますが、オルビスの構成に対する精査が行われていない現状においては実行不可能です。今後エティオの精査が終了すると同時に、引き続きオルビスの構成の精査に移り、必要な情報が解析終了次第、エティオに通知させていただきます)
(分かった、それで頼むよ。ただオレの精査とやらにそんなに時間がかかってるのなら、オレの生きている間にはオルビスの精査なんで終わらないんじゃないの?)
(いえ、そんなことはありません。ワタシの能力をもってすれば、オルビスの精査はそう長い時間が掛かることはないと予測しています。
どちらかと言えば、エティオの構成に異常が多すぎるのが問題かと。あまりにも不可解な部分が多く、完全なる把握には今しばらく時間がかかってしまう予測を立てていますが、これはひとつの銀河系の構成を解析するのと同等以上の所要時間となります)
(え、オレってそんなにびっくり人間だったの?)
(はい、人間という括りに入れるのが躊躇われるほどのびっくり加減だと言えます)
(は〜、それはすごくショックな情報だ。でもまあ、考えてみれば神様から異能をもらった時点で、致し方ないと言えなくもない、か)
(次元魔法だけでも途轍もないものですからね。これは人間には絶対に扱いきれないと、断言できます)
(そうだよな。それはよく分かるよ。
ところでさっきの質問とは違うかもしれないけど、何でこんな深い森の中を走り続けているのに、害獣や魔物とかの雑魚と遭遇しないか分かる?)
(はい、それはワタシが遭遇しそうな雑魚を、エティオの魔力を使った魔力弾にてすべて討伐し、異次元ポケットへと逐次自動収納しているからです)
(え、ナニソレ? 聞いてないんだけど?)
(初めに許可を頂いたとおり、エティオのためとなることだという前提からは外れていないと判断しての自発的な能力行使でしたが、エティオの意に沿わない結果でしたでしょうか? それでしたらすぐにでも当該行為を停止しますが)
(いや、そうじゃないから安心して。ただビックリしただけだから。勘違いさせて悪かったよ。オレのためにありがとう。ただ周りの環境への影響もあるし、今後は必要最小限に留めてくれると助かる。
それと消費魔力は問題ないのか?)
(っ、はい! 勿体ないお言葉です!! そのお言葉だけで、ワタシにとってどれほどのご褒美か……以降、必要最小限に留めることをお約束致します。
また消費魔力についてもまったく問題ありません。魔力弾に用いられるのはごく少量で、また異次元ポケットへの収納についても、収納後の異次元において雑魚から漏れ出てくる魔力でお釣りが来る程度のものです。
そもそもエティオの肉体活性の副次的な効果である多大な自然回復量であれば、そこそこ大きな消費をしてもすぐに元どおりどころか、魔力は貯まる一方ですよ。虚数次元なのでどれだけ貯めても問題はありませんが)
(気持ちは分かるけど、無駄遣いはしない方針で。
お金持ちはケチだからお金持ちになれたんだよ)
(なるほど! 勉強になります。って、もう使い途を考えるのが難しいくらいには、お金持ちだと思いますけどね。魔力は貯めるだけでは意味ないですから、きちんと使うところでは使ってくださいね。
お金と一緒で、魔力も天下の回りものです。一箇所に貯めすぎるのは良くないので、余りにも量が増えてきたら、ワタシの判断により世界に還しておきますからご了承ください)
(うっ……確かに。それは分かったよ。
じゃあオレのあり余る魔力を使って、オレも次元魔法以外に、何か攻撃魔法とか使えたりしないかな? こうババーッと派手なやつとか。実は憧れだったんだよね)
(残念ながらオルビスの精査が終わっていない現状においては、実行不可能ですね。そちらの方も精査完了後は魔力を用いて魔法と似たような現象の再現は可能かと思いますが、それはエティオの嫌いな魔力の無駄遣いに該当するかと。
エティオの肉体活性と次元魔法はその組み合わせが余りにも有効すぎて、完全に使用が可能となった暁には、ほかの魔法の真似事をするくらいなら、最大強度の活性と次元魔法の併用による多数殲滅とかの方が断然魔力の有効活用ができますね)
(そうか、そこに浪漫はないのか。残念だけど、諦めるか)
(いえ、否定している訳ではないので、エティオがどうしてもというのなら、吝かではないと申しますか……)
(ありがとう。ただ無駄遣いはやっぱり趣味じゃないので、どうしてもという場合以外はやめておくよ)
(了解しました。では今後はそのように致します)
(うん、頼むよ。ほかにも何か思うところがあったら教えて。オレは今まであまり誰かに頼るという経験がなかったから、どうにもそういう部分が弱いらしいと思うからさ)
(分かりました。では早速、エティオの口調ですが、ワタシは今の方が好きですよ)
(え、オレしゃべり方何か違ってる?)
(ふふ、いえ、お気になさらず。エティオは、自分の思うがままに)
(ええ、そうなの? 気になるんだけど…)