98話 ロケットパーンチ!
ベロニカ峡谷という峠が崩れたということで、俺達は土砂の除去をするためにやって来ている。
この峠が繋がっている街道は、王国の生命線ともいえる街道で、不通になれば王都が干上がり国が傾く可能性がある。
現場へ到着すると、確かに峠が100mに渡って崩れて塞がっている。
これは一筋縄ではいかない。頼れる相棒のコ○ツさんでも荷が重い。
そこで、新しい重機を購入した。オレンジ色のホイールローダーのヒ○チさんだ。
しかし、ホイールローダーなんて運転するのが初めての上、この狭い道で操作を誤れば、谷底へ真っ逆さま。
日が傾き、重機から降りると――俺は疲労困憊で倒れ込んだ。
――次の日。
朝食を食べる。プリムラが作ったスープとアネモネが焼いたパン。
そして、シャングリ・ラからベーコンを買って、ベーコンエッグにした。
「ほう! なんじゃこの肉は?! 旨味が凝縮されておる!」
「肉を塩漬けにして、塩抜きをした後に、燻蒸した物でございます」
「なに? 塩漬けの肉が、こんなに美味くなるのか?」
「これは、美味しいわ」
メリッサもベーコンの味に満足しているようだ。
保存食としての塩漬け肉はこの世界にもあるようだが、さすがにベーコンはない。
「うひょーこりゃ、うめぇ! 旦那はまだこんなうめぇもん隠していたのかよ!」
「にゃー!」
胡座をかいているニャメナとミャレーの隣で、3人の獣人の女が一緒に飯を食っている。
1人は三毛、もう1人は白くて小さいが子供ではなく、顔に大きなキズがある。そして最後の1人は黒くて大きい――が太っているわけではない。横に広いタイプで体格がいいのだ。
「はぐはぐはぐ!」「美味いな!」「美味しいね」
「なんで、お前等が一緒に飯を食ってんだよ!」
「あんたが変な臭いをばらまくから、男どもが殺気立って、近くで寝られないんだよ! そんな奴が外をウロウロしてんじゃないよ!」
「うっ――そりゃ悪かったよ。仕方ねぇだろう……旅先でなっちまったんだから……」
女の獣人達に責められて、ニャメナはバツが悪そうだ。
「だいたい、女なら、あの時期は把握してるもんだろ?」
「俺も、まだ先だと思ってたんだけど――あの旦那が、レッサードラゴンを一発で仕留めたのを見たら、我慢出来なくなっちまって……」
「なっ?! レッサードラゴン?」「マジかよ?」「そういえば、あの旦那――レッサードラゴンの死体を出してたね」
飯を食っている獣人達の目が光り、涎を垂らしながらこちらを見ている。だから、もうダメです。定員いっぱいです。
大体、身体がマジで保たねぇ。
「それにしても、結界を潜る魔石を使った故、てっきりケンイチが夜這いにきたものじゃと思うたら……」
「王族にそんな事をしたら、首が飛びますでしょ? それに、プリムラとメリッサ、メイドさん達もいるのに、どうやってするんですか?」
「妾だけ外に連れ出すとか、あるじゃろ?」
「お断りいたします」
「其方、もうちと他の言葉はないのかぇ?」
「もう、仕事を放り投げて逃げますよ?」
「……」
俺を玩具にして遊びたいのだろうが、そんな事をしている暇はない。
朝食の後、ホイールローダーに出来上がったバイオディーゼル燃料を給油。
燃料が満杯に入った浴槽を、アイテムBOXから出して重機の後部に載せる。
そこから、ホースを使って燃料を流し込むわけだ。給油口より浴槽が高い位置にあるので、勝手にタンクへ流れていく。
よしよし、獣人達にはドンドン燃料を作ってもらわねば。
なんといっても、この浴槽2つ分の燃料を毎日食うわけだからな。
「それは、そんなに油を食うのかぇ?」
「はい、毎日この浴槽で2つ程……」
「下手をすると、油代で破産するの?」
「それ故、軍資金が欲しいと申したのでございますよ」
「なるほどのう……」
普段の生活で1日中重機を動かす事なんてないからな。1~2時間ぐらいで終わるような作業ばかりだし。
しかし、このホイールローダーがあれば、土木工事は捗るが、故障しても修理も出来ないから買い換えるしかない。
コストパフォーマンスは悪そうだ。大体、こんなデカいタイヤの交換だって出来ないぞ?
いや、コ○ツさんでタイヤを吊り上げて――みたいな事をやれば、出来ないこともないか?
まぁ、その時になったら考えよう。
アイテムBOXからレーザー距離計を出して、ホイールローダーの大きさを測ってみる――全長8m。
アイテムBOXに入れられる大きさ、ギリギリである。
メリッサのゴーレムもスタンバっているが、あいつで土砂を運ぶのは効率が悪い。
重機で持ちあげられない大きな岩等が出てくるまで、待っててもらう。
運転席に座り、エンジンを掛ける。昨日、1日の習熟運転で、かなり慣れた。
今日はそれなりに動けるだろう。
「よし、いくぞ!」
周りを確認すると、アクセルを踏み込み土砂にバケットを食い込ませる。
そして満杯になったバケットを持ち上げると、崖下へ投げ捨てる。崖に近い所は、そのまま押して下に落としてしまった方が早い。
「「「おおおお~っ!」」」
商人達から、歓声があがる。
すごく順調だ。これなら、殊の外早く土砂を排除出来るんじゃないのか? ――そう思ったら、3m程のデカい岩にぶつかった。
さすがに、これは持ち上がらない。
「おおい、メリッサ! 頼む!」
ホイールローダーをバックさせて、ゴーレムのためのスペースを作る。
「やっと私の出番ね」
アイテムBOXからゴーレムの核を出すと、彼女の魔法でゴーレムが起動する。
そして、大きな岩を持ち上げるとポイと崖下へ投げ捨てた。
「「「おおおお~っ!」」」
また商人達から歓声があがる。彼等も商人として、生きるか死ぬかの瀬戸際だからな。
俺達に期待しているのだと思う。本当は彼等からも謝礼をもらいたいところなのだが、これは国王から依頼された公共事業だし。
代金を支払うとすれば、国王陛下――つまり国だろう。
メリッサのゴーレムを引っ込め、再びホイールローダーで土砂を運ぶ。
下の土砂がなくなったら、コ○ツさんをアイテムBOXから取り出して、上から崩す。
完全に1人土木工事だよ、こりゃ。しばらくすると、更にデカい岩が土砂の中から出てきた。ゴーレムと同じぐらいの大きさがある。
こりゃ重機じゃ無理だ。運転席から降りて、アイテムBOXへ収納を試みるが――ダメだ。
大きさは10m未満だと思うんだが――土砂に埋まっているせいだろうか? メリッサに頼む。
「メリッサ、こいつもゴーレムでいけそうか?」
「やってみるけど……」
このデカい岩がゴーレムで動くかな? 彼女も自信がなさそうだ。
メリッサが詠唱を始める。
『大いなる万物に連なる者よ、この石の礫に仮初の命を与え給え――』
俺がアイテムBOXから出した核に土砂が集まり、ゴーレムの形となる。
そして巨人は、同じぐらい大きな岩と相撲を始めた。だが、びくともしない。やはり半分以上土砂に埋まっているせいだろうか?
「ダメだな。掘り起こした方がいいかもしれない」
「――そうね」
掘り起こすのであれば、コ○ツさんの出番だろう。
彼の巨大な腕と、鋼鉄の爪で岩の周りを掘り露出させる。
作業後、コ○ツさんを収納すると、メリッサの所へ行く。
「これで、どうだ?」
「やってみる」
再び巨大なゴーレムが起動して、岩と格闘を始めた。
「メリッサ、こう――岩を捻るようにして、ちょっとずつ移動させられないか?」
「そんな複雑な動きは難しいのよ?」
だが、ブツブツ言っている彼女だが、やってみるようだ。
岩をちょっと傾け、回転させて、今度は反対方向へ傾ける。これを交互にやることで、ちょっとずつ動かせるはずだ。
だが、こんな動きをさせた事がないのだろう。汗をかきながらメリッサがゴーレムを必死にコントロールしている。
だが、すこしずつではあるが、確かに岩が動いて土砂から出てきた。
「メリッサ、ちょっと試させてくれ」
ゴーレムを待機させると、アイテムBOXへの収納を試みる。
「収納!」
目の前から巨大な岩が消えた。
「「「おおおお~っ!」」」
また商人達の声だ。だが、アイテムBOXへ入ったなら後は簡単。収納した岩を崖の外へ出せばいい。
アイテムBOXから出された巨大な岩が地響きを立てて、崖下へ転がっていく。
ドスンドスンと振動が身体に伝わり、上から小石がパラパラと落ちてくる。
一応、上も警戒しないとな。サッカーボールぐらいの岩でも、頭や身体に当たったら致命傷になる。
その後は問題なく作業が進み、1日が終了。
結局10m程進んだ。1日10m進めるってことは、埋まった区間が100mなら、10日で街道が開通するってわけだ。
夕方になり、また商人達がプリムラの料理を食べにやってきている。
「この分だと10日もあれば、通れるようになるのでは?」「10日の損失であれば、そんなに大きくはないな」
馬車で商品を運び、街道に魔物や盗賊が出るこの世界では、10日ぐらいの遅れは許容範囲なのか?
身を投げた若い商人も、もうちょっと待っていれば、なんとかなったかもしれないのになぁ……。
だが、初日が調子良かっただけかもしれない。例えば、アイテムBOXに入らないような巨大な岩が埋まっているかもしれないしな。
そうなると――爆薬が必要になるな……。
皆が、プリムラのスープを食べると言うので、俺はカップ麺を食べることにした。
さすがに、麺類は未だに不評だ。だれも食べると言わない――1人を除いては。
「おおっ! ケンイチ、それはエルフの虫料理か?」
「エルフ?」
王女の話では、エルフ料理で細い虫を煮た料理があると言う。あ~マジでそんなのがあるのか、そりゃ皆が虫だと言うはずだわ。
「リリス様。虫ではありませんよ。小麦粉を細長く伸ばしたものです」
「よし、妾も食べてみるぞ」
「ええ?!」
マジかよ。王女にカップ麺とか食わせていいのか? この王女様、マジで何でも食うな。
だが、本人ご所望であれば仕方ない。アイテムBOXからカップ麺を取り出すと、お湯を入れて王女の前に出す。
「しばらく、お待ちください」
「どのぐらいじゃ?」
「え~と、ゆっくり180数えるぐらいです」
「ほう、解った」
王女が目の前のカップ麺を見つめながら、ブツブツ言っているので、マジで数えているようだ。
「そろそろ時間でございましょう」
「何? そうか」
カップ麺の蓋を取ってやる。
「おおっ!」
箸は使えないので、使い捨てのプラ製のフォークをシャングリ・ラで買う。
「これで、お食べくださいませ」
「なんと、軽い!」
王女はプラ製品に驚いたようだ。そして、麺をフォークで掬い、口に運ぶとまた驚いた。
「おおっ! これは美味い! 珍妙な食い物じゃが、実に美味い」
「私もそう思うのですが、家人にはすこぶる評判がよろしくないのでございます」
「ははは、見た目はまさにエルフの虫料理じゃからのう」
ハフハフと言いながら、王女は麺を食べているのだが、啜れないようだ。
麺を啜る食い方は、日本人の特殊技能と聞いた事があるし、麺類を初めて食べた王女が啜れなくてもおかしくはない。
「ケンイチ! 美味いが量が足りぬぞ!」
「え~? それでは、いかほどおかわりをご用意いたしますか?」
「3つじゃ!」
「2つで十分ですよ」
「3つじゃ!」
どこかで聞いたようなやりとりをしながら、カップ麺の追加をシャングリ・ラから購入した。
包装をはがすと、蓋を開けてお湯を注ぐ。食うのが早いので、全部一緒に作ってもいいだろう。
「ケンイチ、私も食べたい……」
アネモネからもリクエストがきた。王女が美味しそうに食べているので、興味が湧いたのだろう。
アイテムBOXから追加でカップ麺を出してお湯を入れる。
「ほうほう――時間が経つとふやけて柔らかくなるの! じゃが、これはこれで美味い」
王女は伸びたラーメンも好きと――カップ麺は多少伸びても食えるけど、本物のラーメンは伸びたら不味いような気がする。
実に美味そうに食べている王女であるが、その横にいるメリッサや、後ろに控えているメイドさん達は横を向いている。
やはり、気持ち悪いらしい。そんなに嫌そうな顔をしていると、王女に罰ゲームとして食わされそうな気がするのだが……。
「どうだ、アネモネ?」
「うん、すごく美味しい!」
やっぱり見た目だけの食わず嫌いだよな。食えば美味さはわかると思うし。
食事が終わると、アネモネが何かを持ってきて、テーブルの上に載せた。
「人形?」
土か泥で出来た、人形に見える。
「えへへ……」
アネモネがニコニコ笑っている。そして何かを唱えると、土塊がよたよたと動き始めた。
「これってゴーレムか?」
「そうだよ」
「へぇぇ! 凄いなアネモネ! もうゴーレムが作れるようになったのか?」
頭を撫でてやると、彼女は嬉しそう。
「なんですって? 何故、こんな事が出来るの? 私だって、初歩的なゴーレムを動かすだけで数ヶ月掛かったのに!」
「本で覚えた」
「本!?」
「昨日――いや一昨日か。話しただろ? 王家の書庫で本を読んだんだよ」
「それだけで、出来たですって? 嘘を言いなさい!」
「だって、本当だよなぁ~実際に目の前で動いているじゃないか。な~アネモネ?」
「うん!」
俺がアネモネを抱き上げて頬ずりをすると、ゴーレムが崩れた。
「大体、国の許可がない魔法生物の起動は違法なのよ?!」
「妾が許可した」
「王女殿下……」
自分に味方してくれない王女の言葉に、メリッサがショックを受けている。
「其方のゴーレムの起動も王族である妾が許可を出しておるのじゃ、アネモネのゴーレムの起動に許可を出してもなんの問題もないじゃろ?」
「アネモネのゴーレムも実戦に使えるようになれば、土砂の除去も捗りますしね」
「ケンイチの言うとおりじゃ」
「お、王女殿下の、御心のままに……」
メリッサが一礼すると、引き下がった。
まぁ、そのためにわざわざ王女がこんな僻地までやってきてるんだからな。
「使えるものは何でも使って、1日でも早く街道の開通を目指すべき――それが王族の務めじゃ」
俺がアネモネを地面に降ろすと、彼女は再びゴーレムを起動した。
気に入ったようだ。そりゃ、ロボットのラジコンと似たような物だからな。
出来るなら、俺もやりたい。
しかし、こんな物を動かせるぐらいなら、空を飛ぶ仕掛けを作れば、空を飛ぶゴーレム――ラジコン飛行機も作れるかもな。
俺は、よたよたと歩く、アネモネのゴーレムを見てある事を思いついた。
「アネモネ、ゴーレムの手をぐるりと回して、ちょうどいい所で腕だけ切り離したら、飛ばせないかな?」
「なにそれ? 面白そう!」
アネモネが俺の言った通りに、ゴーレムの腕を回して切り離した。
だが、タイミングが遅かったのか、腕はテーブルを逸れて足下へ落ちてしまった。
「ちょっと、遅かったな?」
「うん」
再び彼女が挑戦するが、今度はタイミングが早すぎたようだ。斜め45度に飛んで放物線を描いた。
だが、腕を飛ばせるのは確かだ。なくなった腕は、新しい土から補充すればいい。
「よし! もう一回! えい!」
アネモネの掛け声と共に、ゴーレムの腕が水平に飛ぶ。
それを見て、俺はシャングリ・ラから白い紙コップを買って、テーブルの上に並べた。
「アネモネ、これを狙って落としてみろ。そして、呪文は『ロケットパーンチ!』だ!」
「ロケットパンチって何?」
「腕を飛ばす時の呪文だよ」
「よ~し! ぐるぐる――ロケットパンーチ!」
タイミングよく発射されたゴーレムのロケットパンチが、紙コップを「ポコッ!」という音と共に、テーブルから弾き落とした。
「やった! 上手いぞ、アネモネ!」
「えへへ……」
再びゴーレムから発射された腕が紙コップを落とすと、王女が叫んだ。
「こ、これは武器に使えるではないか!」
「まぁ、確かに」
あ~生臭いなぁ。こんな世界だから仕方ないのかもしれないが、なんでも戦に結びつけてしまうとは……。
確かにロケットパンチは武器なんだけど。
「ゴーレムに岩を投げさせたりする攻撃はあったけど、自分の腕を飛ばすなんて……」
「くくく――メリッサ、そこは発想の勝利だ」
俺は右手で顔をおおい、ポーズをつけて指の間から呆れるメリッサを見る。
しかし、発射した瞬間から魔法が切れてしまうので、土は固まる力をなくして散弾のように広がる――それ故、射程は短い。
人間のような物を投げる動作を人形にさせると動きが複雑過ぎる。だが腕を回して切り離すだけなら、そんなに難しい制御も要らないはずだ。
アネモネがテーブルの上で、トコトコとゴーレムを動かしていると――突然、下から黒い手が現れ、動く人形を叩き潰した。
ゴーレムは崩れて土に還り、テーブルの上に放射状に残骸が広がる。
「だめぇ!」
アネモネが叫ぶが――目の前で動く物に、ベルが反応してしまったようだ。
だが、これは本能みたいなものなので、やるなと言われてもやってしまうだろう。それでなくとも、彼女はここでは暇なのだ。
ベルの見えない所でやらないとダメだな。
しかし、ある事を思いついた。ゴーレムの核って俺でも作れるのだろうか?
作るのは簡単だ――クリオネみたいな形を作ればいいんだからな。
ただ、作る過程1つ1つの挙動に全て魔力を込めないとダメ――そんな作り方であれば無理。
「アネモネ、ゴーレムの核って削る時にも魔法が必要なのか?」
「そんな事ないよ。人が作った核でも、上書きで使えるみたいだし」
なんだそうなのか。それじゃ、俺が作った核をアネモネに使ってもらうって事も可能なわけだ。
シャングリ・ラで糸鋸盤を買う。安い某国製もあるが、ここは安心の日本メーカー製だろう――2万円だ。
アイテムBOXから出した発電機に糸鋸盤を繋ぐと、一緒に出した板に核の絵を描き、切り出していく。
「おおおっ!」
見たこともない工作機械に、王女が驚く。
そして、切り出しが終わったら、今度は核の角を丸めなくてはならない。
アネモネは切り出しで削っていたが、俺は工作機械を使う――ベルトサンダーだ。
これも日本製で2万円。ぐるぐる回転するベルト状になったサンドペーパーが、みるみる核の角を丸くする。
「うるさいにゃー」「そうだな……」
愚痴を言っている獣人2人に、甘い物と酒を渡す。
胴体と同じように腕を作って、両方に凹型の切れ込みを入れて合体。最後はドリルで穴を開けて木ネジで固定。
「よっしゃ完成だ!」
出来上がったのは長さ10㎝ぐらいの核。
「なんじゃと、もう核が出来たというのかぇ?」
「今、見てましたでしょ?」
使った道具をアイテムBOXへ収納する。こういうのって作るのは楽しいのだが、片付けるのが面倒。
だが、アイテムBOXへ収納すれば一発で片付く。
俺が作った物をアネモネに渡す。
「これでちょっと、ゴーレムを動かしてみてくれ」
「うん」
アネモネがなにやら、呪文を唱えている。核を使用者に合わせてイニシャライズする儀式のようだ。
形は似ているが、これで動くのだろうか? そして、腕の固定に金属の木ネジを使ってしまったが、影響はあるのか?
そして起動の呪文を唱えると――テーブルの上にあった土が集まり、ゴーレムがトコトコと動きだした。
「やった! 俺が作った核でも動かせるじゃん」
「もうデタラメだわ……こんな物でゴーレムの核を作るなんて……」
デタラメだろうがなんだろうが、作ったもん勝ちだ。
別に核を作るのに道具を使ったとか、材料に金属が混じっているとかは関係ないようだ。
例えば金属はダメとか、接合もダメとなると――巨大な核を作るためには、より大きな丸太が必要になる。
それが解っただけでも、実験した甲斐があった。
寝る前に、また獣人の女達がやって来たので、結界の中に入れてやる。
本当に襲われたりするんだな――マジで大変そう。しかも警察とか裁判とかない世界だから、自分の身は自分で守らないといけない。
女には厳しい世界だ。
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それから数日、順調に土砂の除去が進んでいく。
巨大なホイールローダーが鋼鉄のバケットで土砂を押しのけ、運び――崖の下へ投げ落とす。
徐々に伸びていく街道。喜びはしゃぎ回る商人達。もう勝負に勝ったも同然って顔をしている。
これから何があるのかも解らないのに。
「『森を抜けるまで喜ぶな』――ですよね」
ダリア地方の諺を呟く、プリムラの言うとおりだ。
そして誰かが峠の入り口の町まで行ったのか、一旦峠を下りた商人達が、再び峠を登ってきたのだ。
最初に残っていた商人の馬車10台程だったのだが、それが15台になり20台程になった。
作業をしている最中にも、崩れた土砂の上を越えて、単独の商人達がこちらへ渡ってきている。
作業は順調だが、準備は怠らない。
もしかしてアイテムBOXに入らないような巨大な岩が出てくるかもしれない。
発破が必要になるかもしれないから、肥料の硝安を使ったアンホ爆薬も追加で作っておこう。
お城で、圧力鍋爆弾も1個使ってしまったしな。もう2発ぐらい作っておくか……備えあれば憂いなしってな。
そして工事は順調に進んでいたように見えたが俺の悪い予感が的中した。
土砂を除去しながら進んでいくと――アイテムBOXにも入らないような巨大な岩が土砂に埋もれていたのである。
どーすんのこれ?