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92話 出発準備


 峡谷へ向かう前に、魔道具の事を尋ねるため、宮廷魔導師のカールドンさんの工房を訪れた。

 場所は――王宮の外れ。階段の下の扉から入る半地下へ潜る。

 そして、四隅を鉄板で補強してある分厚い木で出来た扉の前にやって来た。


「この部屋じゃ! カールドン! おるかぇ?! リリスじゃ!」

 部屋の奥からバタバタと、走ってくる音が聞こえて扉が開いた。

 出てきた魔導師は、かなりラフなツナギのような服を着ている。

 髪もまとめていなくて、バサバサだ。のんびりとしているところだったのかもしれない。


「これはリリス様!」

 だが、彼は一緒にいる王妃を見て驚いたようだ。


「王妃様まで! このような格好でお許し下さいませ。こんな辺鄙な場所へ何の御用でございますか? 王女殿下ご依頼の魔道具はまだ出来ておりませんが……」

「別件じゃ」

「カールドン様、貴方が魔道具にお詳しいと聞いて、お聞きしたい事が――」

「おお、ケンイチ殿でしたな!」

 俺はアイテムBOXから、いつも燃料を生成するのに使っている『不』型の魔道具を取り出した。


「これは液体の成分を分ける魔道具なのですが、これと同じ物を作るか――もしくは、どこかで購入する事はできないでしょうか?」

「ふむ? ふむふむ――おおお~っ! これは懐かしい!」

 左目に嵌ったメガネをくりくりして眺めていた彼だったが、突然何かを思い出したように大声を上げた。


「え? 知っておられるのですか?」

「これは、おそらく私の祖父が作った魔道具だと思います。私が子供の頃に見た記憶があります――いや、この意匠は間違いない」

「それでは、同じ物を製作していただくというのは……?」

「いいえ、祖父は既に亡くなっておりまして――」

「そうですか……」

 だが、カールドンが何かを思い出したようだ。


「いや、まてよ?! そういえば、売れ残りでこれと同じものが、実家の倉庫に埃を被ったままだったような……」

 マジか! それは欲しい! しかし、こんな凄い物が売れ残りだとは……そりゃ、使い方が解らなければ粗大ゴミだからな。


「それが本当であれば、是非とも購入したいのですが!」

「いやぁ、タダで差し上げますよ。本当に邪魔で仕方ないのですから、あはは。でも母が捨てたり、燃やしたりしていなければいいが……」

 男のロマンは女性には理解されにくい。「貴方が死んだら、そんなの全部ゴミよ!」そんな幻聴が聞こえてきそうだ。


「しかし、こんな魔道具をどこで買われたのですか?」

「アストランティアの道具屋ですよ。スノーフレークって婆さんなんだけど……」

「ほう! そんな所におったのか?」

「王妃様、スノーフレーク婆さんをご存知なので?」

「ナスタチウム侯爵の母であろ?」

 マジで知っているようだ。でも、侯爵の母って事は――取り上げられた子供は男の子だったのか。

 そこら辺は婆さんに聞いてなかったな。

 王妃様に話を聞くと、先代の王妃様と婆さんは同じ学校だったらしい。

 もっとも先代王妃は普通科、スノーフレーク婆さんは魔導科で、直接の付き合いはなかったようだが、やはり美人で有名人だったという。


「平民出なので、子供を取り上げられて、手切れ金を渡されたと……」

「まぁ、よくある話だな」

 王妃もやるせない表情なのだが、どうしようもないのであろう。


「それで――これをいくらで購入されたので?」

「金貨5枚(100万円)です」

「え? そりゃまた、ぼったくられましたね」

 あのBBA~。まぁ、婆さんも売れるとは思ってなかったんだろう。


「だが、十分に元を取ってくれていますよ。私にとっては、とても大事な物です。それ故、もう一台欲しいと思った次第でして」

「そうでしたか。そんな方にもらっていただけるなら、祖父も喜ぶでしょう」

 そして明日、彼の実家へ向かう事になった。まぁ車で行くなら時間は掛からんだろう。


 用は済んだので、王妃様と別れる。


「待っておるからの!」

「いやいや、待ってても行きませんから」

「つれないのう」

 笑っているが目がマジだ。本当に暇を持て余しているんだろうな。


「それから、ケンイチ!」

「はい?」

「城の蔵書は有意義に使うのじゃぞ?」

「は?」

 一言残し、王妃はニヤリと笑うと通路の暗闇の中へ消えていった。


 うぇ!? もしかして蔵書をコピったのがバレて、敵対勢力だと疑われたのが、今回の顛末か?

 それとも単なるカマかけか――? いや待て待て、まさかそれだけが原因って事はないだろう。

 それとも、あそこには極秘の資料等もあったのだろうか? 俺達は魔法関連の本しか目に入らなかったからな。

 お城の暗い通路を王女と2人で歩き出した。俺の目の前で歩く王女の金髪が揺れている。


「ケンイチ、大丈夫であろうな?」

 王女の心配は、俺の顔色の事か――それとも王妃との関係の事か。今は動揺を隠すのが精一杯だ。


「つ、妻も子供もおりますから」

「だといいが……それにしても、色々とすまぬのうケンイチ。許すがよい。しかしとて、妾ではどうにも出来んでな」

「い、いやまぁ……国王や王妃様のお立場もありましょうから」

「――それにしてもケンイチ、よく母の挑発に乗らなんだのう」

「わざと怒らせようとしていたのが、見え見えでしたから」

 敵対勢力だと疑われたのは仕方ないとして――王妃の挑発で、俺がマジで斬りかかったりしたらどうするつもりだったのだろうか?

 歩きながら、そこらへんを王女に問う。


「命拾いをしたのは其方のほうじゃぞ?」

「そうなんですか?」

「あの部屋では、其方の召喚獣を出せぬであろう?」

「まぁ、そうですね……」

「民には余り知られておらぬし、剣技も滅多に見せぬが――母上は、剣の達人でもあるからの。狭い部屋では魔法が発動する前に剣が届く」

「それは貴族様達も、ご存知なので?」

「無論じゃ」

 そういう事か――俺がマジ切れしても、軽くいなせるぐらいの実力者なので、あんな挑発をしても平気なのか……。

 そりゃ国王の頭が上がらないのも無理もない。もしかして、俺に頭を下げたのも王妃にやらされていたのかも。

 象徴としての国王はあるが、実権を握っているのは王妃か……。

 しかし、いくら相手が剣の達人とはいえ、いざとなればチェーンソーもあるし、草刈機もある。アイテムBOXには爆薬もはいっているしな。対抗手段はいくらでもあるぞ?


「しかし剣でございますか? 持ってはおられぬようでしたが……」

「母は、小さいがアイテムBOX持ちじゃぞ?」

「えっ?!」

 クソセーフ!

 ブチ切れないで良かった。そういえば、どこからか扇子や鍵を出していたな……。

 何の事はない。その気になれば――王妃1人で、あそこにいた俺達全員を始末して事態を収拾出来たのだ。

 それじゃ、あの凄いプレッシャーは殺気って事か――剣呑剣呑。


「申し訳ございませんリリス様。助け舟を出していただいた事に気が付きませんで」

「いや、妾もああ言えば、其方が乗ってくるとうぬぼれておった、許すが良い。しかし其方が真珠などを持ちだしてくるとは――思いもよらぬ結果となってしもうた」

「いけませんでしたか?」

「あんな国宝級のお宝を目の前にぶら下げられて、正気を保てる女子おなごはおるまい。あれですっかりと、母の気を引いてしまったぞぇ?」

「はぁ……」

 ため息しか出ない。まさに綱渡り――だが、もしかしたら身から出た錆の可能性が。


「しかし、私を切り捨てたとして、峡谷の事はどうするおつもりだったのでしょう?」

「それは決まっておる。王家と貴族共で通常の対応じゃ」

「……それはつまり、いくら強大な力を持っている者でも、王家に御せぬ者なら必要ないと?」

「その通りじゃ。下手に反体制派に取り込まれたり、帝国にでも寝返られたら事じゃからな」

 う~む……やっぱり、強大な力を持っているとバレると――こういう権力闘争に巻き込まれる事になるのか……。

 しかし、帝国へ亡命したとしても、彼の国だと魔導師は強制的に軍に徴発されるらしいし……。

 ドラゴンを倒した帝国の転移者らしい奴も、ドラゴンを取り上げられたって話だ。

 理不尽な裁きを受ける王国と、軍に徴発されて死地へ追いやられ手柄を横取りされる帝国――どっちもどっちだな。

 制度的に共和国は選択肢にありえないとして――お飾りなのかはしらないが、国王から天下御免の書状も貰ったし、あの王妃の顔色を伺って王家に恩を売っておけば、王国の方が安全といえる。


「それにしても……あのようなお方(王妃)が国の頂点にいらっしゃると、下々の方々は大変そうでございますね」

「はは、いつも戦々恐々としておる。しかし全て国のため故、狂気とも言える行動にも、誰も悪く言えぬのじゃ――それに」

「それに?」

「正直、陛下――父上では、帝国皇帝ブリュンヒルドや、共和国のチル将軍に対抗出来るとは思えん」

 国をまとめるには強烈なカリスマが必要って事か。独裁の絶対君主制国家なら必須だよなぁ……。


「帝国皇帝の話はよく聞きますが、共和国の将軍とやらもやり手なので?」

「うむ、彼の者は理想家故――無理難題とも言える自分の政策を押し付けて国が傾いている事は確かじゃが、強力な軍を駆使し前王国を倒し国を統一した手腕は侮れん」

 革命したまではいいが、その後の内政でグダグダってのはありがちなパターンだな。


「それにつけても、我が力の矮小な事よ。城の地下にいるネズミのような存在じゃ」

 そんな事はないと思うが――王女には王女の進むべき道がある。

 俺に、「王族の物になれ」とか「贈り物が欲しい」とか一体何かと思ったが――供物の羊を助けるために、14歳の少女が精一杯考えてくれたんだろうな。

 俺の事で、この王女を巻き込んでしまった感がある。


「それでも、私はリリス様の味方でありますので」

「そうか……其方に幾千万の感謝を」

 ついでに、ちょっと気になる事があるので、王女に聞いてみた。


「あの~、陛下の御側室のお話というのは本当にあるのでございますか? あの王妃様に対抗出来るとなると……」

「そのような話があるはずがなかろう。貴族の女共がやって来ても、母の前では顔すら上げられまい」

「そう――ですよねぇ……そうすると、リリス様のご母堂様という方は、王妃様に匹敵するような豪胆な方であらせられたのでしょうか?」

「いや、我が実母は掴みようがない方だったの。全くアマランサス様の事も気にしてはいなかった」

「対立する事もなく?」

「そうじゃ――実際、仲も良かったしの。実母が亡くなった時も、アマランサス様は大層悲しんでの。妾を実の娘として育てる――と宣言された。その時から、妾もアマランサス様を母と呼んでおる」

「……」

 あ~なんだか元世界からすると、信じられないような面倒なお家事情だなぁ……。


「しかし陛下に精力的に頑張っていただき、王妃様との間に男子が生まれれば、全てが丸く収まるような」

「その母の前で、使い物になる男がいると思うのかぇ? ちなみに、陛下の物は一度も役に立たなかったそうじゃ」

 年頃の女の子がそんな事言っちゃ、いけません!


「確かになぁ――ちょっと無理そうかなぁ……」

「其方は、どうなのじゃ?」

「はは……蛇に睨まれたカエルで、冷や汗でびっしょりでございましたから、多分――王妃様の裸体を前にしても……無理でございましょう」

「だろうの……その分、妾に盃が回ってきておるのじゃ!」

 盃が回る――多分お鉢が回ってくるって意味だろうな。

 こういう話を聞いていると、王族っていうのも面倒事ばかりで、羨ましくもなんともないな。


 ついでに、込み入った事まで王女に聞いてしまう。

 あの王様は別家の長男で、王妃は本家の長女。親等的には従兄妹になるらしいが、家の格では本家が絶対。

 ――当然のように国王と王妃は幼馴染。だが国王は小さい頃から、王妃に全く頭が上がらなかったようだ。

 幼馴染が一緒になる――言葉だけなら、なにやら甘酸っぱい感じがするが、この場合は全然羨ましくない。


「あの~恐れ入りますが、それって近親婚……」

「その通りじゃ」

「近親婚が危険なのは……」

勿論もちろん、知っておる。純血とかのたまって、近親婚を繰り返した挙句、滅んだ貴族家や王家は数知れん」

 元世界ではヨーロッパのハプ○ブルク家なんかが有名だな。

 王女のお相手も王家の血が入っている公爵家みたいだし、近親婚には違いない。

 王妃が言っていた、「王家が危ない」ってのはこういう事か。


 王女に今後の予定を話す――。

 明日、カールドンさんの実家へ行き、魔道具をもらった後、そのまま峡谷へ向かう事を伝える。

 王女に峡谷の事を尋ねてみる。


「リリス様。ベロニカ峡谷の途中に街はないのですか?」

「峠の頂上に宿場町があるが、具体的にどこが崩落したのか解らん」

 崩落したって情報だけで、正確な場所等は解らないか……その前に地図すらないしな。

 街で売っている地図も、都市や山川のアバウトな位置ぐらいしか記されていない。

 大体、正確な測量すら行われていないだろう。それでも、ないよりはマシなのであるが。


 お城の通路が途切れると、王女とも別れて皆の所へ戻る――ニャメナが心配だ。


「お~い――明日、魔道具を貰った後に、峡谷へ発つ事になったから」

 家の前にいた皆に声を掛けると、プリムラが駆け寄ってきた。


「ケンイチ! 大丈夫でしたか?」

「問題ないよ。それより皆を危険な事に巻き込んでしまって御免な」

「そんな事ないにゃ! どう見ても、あいつらが悪いにゃ!」

「ケンイチ……王族の方々に、また何か無理難題を押し付けられたとか……?」

「いや、金策と魔道具の交渉をしてきただけだから」

 一応、お城の書庫の本をコピった事も伝えておく。


「本当に、これが原因だったら、本当に申し訳ない」

「お話は解りましたけど、多分それだけが問題ではなかったと思いますわ」

「王族は何を考えているか解らないにゃー」

 本当に解らん。あそこに何か秘密があったかもしれないが……王女の許可もあったしなぁ。


「しかし王族の方々とお付き合いするのは困難が伴うと話には聞いていましたが、これほどとは……」

「どうも、王族の中でしか通じない独特の価値観があるみたいだよ」

「そのようです……」

 しかし後ろ盾としては、この国でこれより強力なものはない。


「ケンイチ、私のせい?」

 アネモネが本をコピーした事を心配しているのだが、勿論もちろん彼女のせいではない。

 全部、俺が悪いのだ。


「でも、ケンイチの事だから、あの王族をぶっ殺してトンズラすると思ったにゃ」

 ミャレーの気持ちも解るが、それをしても何も解決しない。


「おいおい、そんな事したら国中から追われるだろ? それに、あの王妃は只者じゃないぞ?」

「確かに、あの殺気は魔物並にゃ。そんな感じがしたにゃ……ケンイチでも敵わないかにゃ?」

「やってみなくちゃ解らんが、そんな事に皆を巻き込みたくないよ」

 相手が剣士と解っているなら戦いようがある。

 例えば――いくら達人でもポリカーボネートの盾は一刀両断出来ないだろう。

 周囲から大盾で押し込めて、熊スプレーとかスタンガンを使うとかな。まったくもって卑怯千万だと思うが、戦いなら勝てばいい。

 だがそこに魔導師や、命を捨てて突っ込んでくる騎士団が絡んでくると、簡単にはいきそうにない。

 日本で例えるならば――国会に呼ばれたが、扱いが不当だからと言って大臣や総理をぶっ殺しても何の解決にもならない。


「それに帝国へ逃げたりしても、魔導師は軍へ徴発されるって話だろ? 結局、同じ事の繰り返しだ」

「はい、特にケンイチのような凄い魔導師であれば、帝国が見逃すはずがありませんし」

「それなら――ちょっとムカついたとしても、ここの王族に頭を下げてりゃいい。商人風に言えば、頭なんて幾ら下げてもタダだからな」

「私もそう思いますが――ケンイチのお好きなようになさってください」

 まぁ、逃げるしかなくなっても手はある。軍も入れないような隔絶した森の奥地へ逃げるとかな。

 とりあえずの方針は決まったが、ニャメナが心配だ。


「ミャレー、ニャメナの様子はどうだ?」

「酔っ払って寝てるけどにゃ……」

「獣人のこれって、初めてなんだけど――やっぱりアレをやった方がいいのか?」

「そうだにゃー」

「ミャレー的には、いいのか? ニャメナと張り合ってるから、反対すると思ったが……」

「相手がいない時にこれになると辛いからにゃー」

 やはり、獣人は獣人の苦しみが分かるらしい。

 相手がいない時に発情期がきたらどうするのか? ――ひたすら酒を飲んで寝ていると言う。


「ミャレーは飲まないみたいだけど、それでも飲むのか?」

「もう、どうしようもできないにゃ。外へ出て、男共にバレたら輪姦まわされるだけだしにゃ」

「そ、そりゃ大変だな……」

 ニャメナのあんな状態で外へ出たら、黒狼の群れの中へ肉を投げ込むようなものだな。


「しかし、毎回こんな具合になるんじゃ大変だな」

「普通はこんな風にはならないにゃ。余程、ケンイチがレッサードラゴンを倒したのが効いたにゃ」

「そんなに影響があるものなのか?」

「獣人が強い男の精を求めるのは、本能的なものだから仕方ないにゃ」

「じゃあ、ミャレーもああなる可能性があるのか……」

「ウチは、理性的だから多分大丈夫にゃ」

 ミャレーから理性的とかいう単語を聞くとは思わなかったな――偏見か。


「――というわけで、プリムラとアネモネはゴメンな」

「仕方ありませんわ、見てて辛そうでしたし……」

「……」

 子供だが、アネモネも男と女が何をするかは解っている。

 捕まっていたシャガの根城で、それを散々見てきたのだから。

 実に、子供の教育上よろしくないのかもしれないが、この世界じゃ普通だからな。

 それじゃ、覚悟を決めてやる。ミャレーのアドバイスでは、革のアーマーを着た方がいいと言う。

 確かに、アイテムBOXの中には、シャガ戦で使ったライトアーマーが入っているが――。

 しばし悩み――シャングリ・ラで、革製のライダースジャケットを買う。これなら分厚くていいだろう。

 襟を立てれば、首元もガード出来る。

 そしてジャケットを着て、ニャメナの小屋の中へ入る。


「おい、ニャメナ……」

「しゃぁぁ!」

 目を覚ましていたのか、俺を見るなり彼女が跳びかかってきた。


「ちょっと待て待て、ええい――とりあえず、やらないとダメなんだろう! 仕方ねぇ!」

 

 ――というわけで、やってやってやりまくる。文明の利器も使いまくる。

 とにかく、彼女の身体を満足させりゃいいんだろう。しかし、パワーが凄い。

 全力を出しても、とてもじゃないが押さえ切れない。抱きつかれて、デカい万力で挟まれているようなもんだ。

 囓られまくり、爪を立てまくられて、それが一晩中続いた。

 革ジャケットを着てて良かったわ。だが、かなり貫通したぞ。これを脱いだら傷だらけだろうな。



 空が白み始める頃、ニャメナは小屋の床に大の字になって気を失っている。

 腰が抜けた俺は、ズボンだけなんとか履いて、ニャメナに毛布を掛けると小屋の外へ這い出る。

 そこへベルがやって来て、身体をスリスリ。


「なんだ、起きてたのか?」

 ボロボロになってしまった革ジャケットは、ゴミ箱へポイ。

 アイテムBOXから水とタオルを出して身体を拭く。

 ニャメナも風呂に入れた方が良いと思うんだが――彼女も伸びてるしなぁ。


「あいてて――」

 案の定、あちこち傷だらけだ。こりゃ熱がでるかな?

 シャングリ・ラから傷薬の軟膏を買って、体中へ擦り込む。


「おう! 結構冷えるな」

 体中に鳥肌が立つ。空を見れば、大分明るくなってきているが、天井はまだ満天の星。

 天気が良いと放射冷却現象で気温が下がる。そりゃ気温が下がっているのに、水で身体を拭いているんだ。

 寒いにきまっている。

 これから寝たら寝過ごすかもしれん。家の前にテーブルと椅子を出して、牛乳とグラノーラを出した。

 とりあえず朝は、これを食っててもらおう。ここはお城の中だ、盗まれるって事はないだろう。


 俺は厚手の長袖の下着を買って着ると、アイテムBOXから寝袋を出して中へ潜り込んだ。

 すると、俺の上にベルが乗ってくる。


「ちょっとベル、重いんだけど……」

「にゃー」

 へとへとだし……しょうがないので、そのまま寝る事にした。



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