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81話 お城と王女様


 俺の家族と、途中で拾った商人の男を乗せたラ○クルプ○ドは、ついに王都までやって来た。


「ほぇ~、もう王都だよ。俺も、この目で見ても信じられねぇよ」

 ニャメナが、窓から首を出して王都の街並みを眺めている。

 その前にはベルが窓から顔を出しているが、街へ入るので首に鑑札を付けさせた。

 

「ほ、本当に、王都へ着いてしまった」

「どこで降ろせばいいんだい? 城郭の中まで行くのか?」

 その商人の話では、城郭の外に住んでいる商人のようだ。そして商売で成功して、いつか壁の中へ店を構えるのを夢見ているらしい。


「もうちょっと行った所で、降ろしてほしい」

「はいよ~」

 街ゆく人々も、馬なしで動く奇妙な鉄の車に目を見張っている。

 1km程進んだ所で、男を車から降ろした。


「それじゃぁな」

 革袋を担いだ男に別れを告げると、再び車を走らせた。下街の中を抜けるだけでも、結構時間がかかるな。

 人が多いので、あまりスピードも出せないし。街の中とはいえ舗装はされておらず土のままだ。

 プリムラの話では、城郭の中は石畳で舗装されているらしい。

 その城郭が徐々に近づいてきた。高さ7~8mはあるだろうか――巨大だ。これだけ作るのに、どれだけの年月と延べ人数が掛かったのだろう。


「あの商人は上手くいくかね?」

 ニャメナは、商人の行く末が気になるようだ。


「さぁな。勝負は時の運、運も実力の内ってな。商売で成功するやつは、総じてツキが太くて博打も強い。俺の経験則だけどな」

「それじゃ、マロウやプリムラも博打が強いにゃ?」

「多分な」

「私は博打はやりませんが、父は負けた事がないと言ってました」

 まぁ、そんなもんだろう。持ってるやつは持っているんだ。

 だが、異世界へやって来た俺だが、こんなチート能力を授かったんだ。俺にもツキが回ってきていると思いたい。


 城壁に近づくと、何やら茶色の巨大なロボットらしき物が動いているのが見える。

 まさか、本当にロボットがあるわけないだろうが……。大きな石を持ち上げて、城壁の修理を行なっているようだ。


「ありゃ、なんだ? 随分と大きいが……」

「旦那、ありゃゴーレムだよ」

 ニャメナが巨大なゴーレムを指さす。


「へぇ、アレがそうか」

 まぁ、ファンタジーなら出てくるな。つまり、魔法で動く人形だ。


「地方じゃ全く見なかったからなぁ」

「ゴーレムを使役するには、かなり高位の魔導師でなければなりません。そうなると、あまり地方にはいないと思いますよ」

 プリムラがそう言うのだから、間違いないのだろう。


「それに、ゴーレムを起動するには、国の許可がいるにゃ」

「国のか?」

「そうです。手続きを踏まない、魔法生物の起動は違法ですよ」

 どうやら、この世界の解釈では、無機質な人形でも勝手に動く物は、生物って事になるらしい。


「それだけ危険って事か」

 まぁ、あんなのが悪事に使われたら、確かに大変だよな。下手すると、俺の重機もゴーレムって言われる可能性がありそうだ。


「アネ嬢なら、ゴーレムも動かせるんじゃね?」

「やってみたい!」

「ダメですよ。見つかったら大変な事になります」

 だが、山の中や、森の奥などで暮らしている変人魔導師は、ゴーレムを使役させている場合があるようだ。

 手伝いやら、警戒やら、戦闘に使えるからな。


「まぁ、小さな人形を動かすぐらいならバレないんじゃね?」

「うん」

「ゴーレムに関する本や魔導書とかもあればいいな」

 これだけデカい街だ、本屋ぐらいはあるだろう。


 車は大通りを進み城壁の門を潜る。だが、警備の兵士に呼び止められた。

 帷子を着て、手脚に簡易のアーマーを付けた兵士だ。帷子の上から模様が描かれたゼッケンのような物をつけている。


「止まれ~!」

「はいはい、なんでございましょう?」

「こ、この乗り物は何だ?」

「これは、召喚獣でございます」

「何? これが?!」

 俺がアクセルをあおると、エンジンが唸りを上げて、尻から黒い煙を吐き出す。

 それを見た兵士達が、ビビって後退りする。


「実は、陛下から呼び出しを受けているんですが」

 俺は、アイテムBOXから、国王陛下の署名入りの手紙を出して兵士に見せた。


「こ、これは、確かに……解った、通ってよい!」

「ありがとうございます~」

 まるで水戸黄門の印籠だな。

 そんな事を3回程繰り返した後、徐々にお城に近づいてきた。


「中々着かないにゃ」

「城郭の街の中を一直線にしてしまったら、敵に攻め込まれてしまうでしょ?」

「ああ、それで迷路みたいな造りになっているのか」

 壁の中は石畳になっているので、土よりは良い感じもするが、ゴツゴツと突き上げる感じがずっと車体を襲う。

 3階建てや、4階建ての建物も多く、見通しもあまり良くない。


「ケンイチ、平民は正門からは入れませんよ。裏門に回らなくてはいけません」

「はいよ~せめて、地図があればな」

「それも、都市防衛のための秘密なのでありません。地図を作っているのがバレたりしたら間諜の疑いを掛けられて、拷問とかもありますよ?」

「なにそれ怖い!」

 間諜ってのは、スパイの事だな。地図は重要な軍事機密って事か。

 GPSでナビが使えればな――無理に決まっているが。ドローンを飛ばして、上空から都市の様子を把握する手もあるが……。

 だが余計な真似をして、大事になったら大変だ。そのうち、走ってりゃ着くだろう。


 お城を周り込むようにぐるりと回ったのだが……。


「行き止まりじゃん!」

 ――というか、180度ターンして今度は、反対方向へ向かうようだ。

 そのまま、道なりに進むと――お城の正門に着いてしまった。正門じゃイカンというのに……。

 とりあえずそのまま道なりに進み、ぐるりとお城の周りを回ってみる事に。

 だが、また180度ターンして、今度はお城から遠ざかり始めた。


「なんじゃこりゃ!」

 やむを得ず、車を止めて露店の爺さんに道を聞くことにした。あまり新鮮そうじゃない、リンカー一皿に銅貨2枚(2000円)を払う。

 聞けば、このまま道なりに行って、再び180度ターン、そして左へ曲がれば、裏門へ行く道になるようだ。

 なんとややこしい。こんな街でも長年住んでいれば、道は覚えるんだろうな。

 露天の爺さんが言うとおり、お城をぐるりと回る道になり、やっとお城の裏門が見えてきた。


 こりゃ、車じゃなかったら、街を歩くだけで1日とか掛かりそうだな。

 やっとお城の裏門へ到着。お城の周りはぐるりと堀で囲まれており、その上にはゴツイ石橋。

 橋を渡った先には石造りの門があり、2人の衛兵が見える。

 俺達は車から降りて石橋を渡ると、衛兵に話しかけた。

 2人とも、プレートアーマーを着ているのだが、重くないのだろうか。


「あの~、国王陛下から呼び出しの手紙をいただいたのですが……」

 衛兵に羊皮紙の手紙を見せる。


「むっ! これは確かに。しばらく待て!」

「あの!」

 その場から立ち去りそうになった衛兵に、重要な案件を伝える。


「なんだ?」

「イベリスへ向かう街道の橋が落ちていたんですが」

「なんだと! それは本当か?」

「はい、両岸で沢山の商人が足止めを食らって、辟易しておりました」

「解った! 報告してくれて感謝する!」

 衛兵は重そうな甲冑をガシャガシャと鳴らしながら、奥へと消えていった。

 残った衛兵にちょっと金を渡して情報を仕入れる。

 王都の人口は100万人以上。毎日大量の物資を消耗する。それ故、四方八方から物資を輸入しているのだ。

 その物流の大動脈が1つでも塞がれば深刻な物不足に陥ると言う。


「なるほど、そりゃ慌てるわけだ」

 だが、待てと言われたので、待たねばならない。

 アイテムBOXからテーブルとパラソル。そして椅子を出して皆で座る。

 ベルはテーブルの下で香箱座りだ。


「買ったリンカーでも食うか」

 だが、取り出したリンカーだが、腐っているものも多い。


「旦那、こりゃ酷いぜ」

「こんなのでも銅貨2枚(2000円)だからな」

 ダリアでも、アストランティアでもこんな酷い物は売っていなかったし、もっと安かった。


「まぁ、腐った所をそぎ落とせば、食えない事もない」

「王都ってのは、見掛け倒しにゃ」

「こんな物でも売り物になるぐらい、物が不足しているのですわ」

 プリムラの言うとおりだろう。彼女が、テーブルに置かれたリンカーをじっと見ている。


 さて、やる事もないし暇なので、シャングリ・ラで暇つぶしに使えそうな物を適当に検索する。

 この世界の住民でも出来る物――ゲーム? それともパズルか?

 トランプも良さそうだが、アラビア数字だしなぁ。UN○も皆で出来そうなのだが、こいつもアラビア数字だ。

 チェスや将棋はルールが複雑すぎるし……。

 だが、よさ気な物を見つけた――バックギャモン。バックギャモンってのは、西洋のすごろくみたいなゲームだ。

 これなら、ルールを説明すればアネモネやプリムラは解るだろう。

 獣人にはちょっと難しそうではあるが。


「ポチッとな」

 トランクのような箱に入ったバックギャモンのセットが落ちてきた――4000円だ。


「ケンイチ、これは?」

 プリムラが興味深そうに、緑と赤の模様が並ぶ盤面や白黒の駒を眺めている。


「これは、駒遊びだよ。この角から出発して、ぐるりと周り最後は、この溝に全部先に入れた方が勝ち。遊び方を教えるよ」

「へぇ~」「なんだか、難しそうだにゃ」

 ゲームをしながら、プリムラやアネモネにルールを教えると、一発で覚えた。

 まあ、そんなに難しいルールじゃないからな。


 ――とりあえず、やってみたのだが。

 強い! 強すぎる! プリムラが強すぎるのだ。大店の商人は博打が強いって話をしていたが、彼女も生まれながらにして持っているようだ。

 多分、博打をやらせても強いと思われる。だが、博打なんかをやらなくても、彼女はそれ以上の金をすぐに稼げるのだ。


「面白い!」

 アネモネもバックギャモンが気に入ったようだ。


「これは、面白いですわ。ケンイチ、これも売ってもいいですか?」

「ああ、これなら、似たような物をすぐに作れるだろうし」

 ルールも難しくないし、この世界でも流行るかもしれない。元世界でも、かなり歴史があるゲームだからな。


「あ~、俺達にはちょっと無理だな」「そうだにゃ」

 バックギャモンでだめとなると、獣人達にボードゲームやカードゲーム等は全部ダメだな。

 裏門の前に陣取り、皆でゲームを楽しんでいると、役人がやって来たので中断。


 だが役人らしき黒と金糸の制服を着たオッサン連中や、護衛らしき若者を従えた、白いドレスの女の子がいる。

 背中まで伸びるウェーブした美しい金色の髪と、パッチリとした青い目。豪奢ではないが、フリルがついた上等そうな白いドレス。

 そして、頭の上には銀のティアラ――こりゃ、もしかして王族か? 歳は15歳ぐらい、身長は150cmぐらいか……。

 見るからにやばそうなので、皆で膝を折り平伏する。


「其の方が、父の手紙を持ってきた者か?」

「ははっ! 商人のケンイチと申します」

「これには、魔導師となっているが?」

「いやぁ、本人は商人のつもりなのですがねぇ」

 お姫様らしきその少女は、なにやらニマニマしている。子供がいい玩具を見つけた顔だ。


「それで――街道の橋が落ちていたと言うのは真か?」

「はい、イベリスへ向かう街道で――ここから60リーグ(約100km)程行った所の橋が完全に落ちていました」

 それを聞いた、後ろの役人達が「あの橋か――」「確かに老朽化が進んでいたな……」などと、あれこれ騒ぎ始めた。


「それはいつの事だ?」

「え~、昨日の朝過ぎてから、前が見えなくなるぐらいの大雨が長時間降りまして――多分、その時に流されたものと……」

「何? 昨日の朝? その事をどうやって、其方が知り得たというのだ?」

「はい? そこから、我々が街道を通って、王都までやって来ましたので……」

「なに?! 其方も申したが、あそこからは60リーグは離れているのだぞ? どうやって、1日で到着する?!」

「お前達! 王女殿下の前で、いい加減な事を言うと――」

 後ろにいた、護衛の1人が俺に掴み掛かりそうになる。それよりも、やっぱり王女様か……。


「私の召喚獣に乗って、街道を走って参りましたので」

「なに? 召喚獣だと?」

「お見せいたしましょう」

 皆をどかして、車を出すスペースを作ってもらう。


「ラ○クルプ○ド召喚!」

 目の前に鉄の白いボディが現れて、堀の上に作られた橋の上でバウンドする。


「なんじゃこれは?!」

「ですから、私の召喚獣でございます」

 俺は車に乗り込むと、キーを捻りエンジンを掛けた。今の車はプッシュスタートだが、こいつは結構年代物だ。

 咆哮を上げた白い車を橋の上で走らせて、バックで戻ってくる。


「我々は、これに乗り込み数時間で、橋が落ちた所から王都までやって来たのです」

 だが、俺の話を聞いた王女がドアを開けると、助手席に乗り込んできた。ドアの開け方は俺のを見たのだろう。


「「「殿下!」」」

 王女は役人や護衛達の心配の声など、歯牙にもかけない。


「もう一度、走らせるがよい!」

「承知いたしました」

 アクセルをちょっと多めに踏み込むと、加速でシートに押し付けられる。

 そして、再び橋の上を走りだすと道まで行き180度Uターンをして、元の場所へ戻ってきた。


「これは凄い乗り物だの! 確かに、これなれば60リーグぐらいはあっという間じゃろう」

「王女殿下、不用心に訳の分からない乗り物にお乗りになって、このまま連れさられたらどういたします?」

「ほう! それは面白そうじゃの! やってみるがよいぞ」

 あ――このお姫様は、平穏な日常に波風立てまくって、トラブルを起こすのが大好きな人だ。


「ほんの冗談でございます。ご無礼をいたしました」

「なんじゃ、つまらんのう」

 車から降りた王女に、部下が駆け寄ってきた。

 金糸が施された黒い制服に身を包んだ若い連中は、近衛騎士らしいな。


「殿下、あんな訳の分からない物にお乗りになられて、何かあったらどうなさいます!」

 まぁ、皆そう言うわな。


「は! 其方達が心配しているのは妾の事ではなく、其方達の首の事じゃろうが――それよりもじゃ。はよ、父上に橋が落ちた報告をするがよい! 王都の一大事じゃぞ?」

「ははっ!」

 役人達が、バラバラとその場を離れてお城の中へ吸い込まれていく。そして王女の護衛だけが残った。

 その光景を横目で見ながら、アイテムBOXへ車を収納する。


「ケンイチと申したな」

「はい」

「このような魔法を使う其方は独自ユニーク魔法使いであろ?」

「端から見れば、そうなるんでしょうかねぇ……」

「少なくとも、商人ではないな」

 王女はテーブルの下でじっとしているベルに目を付けたようだ。

 売れとか譲れとか、無茶を言われるかと思ってハラハラしていたのだが――しばらくベルとにらめっこをした後、諦めたらしい。


「一応、商業ギルドにも登録して、商売もしているのですが」

「ふぅむ――面白いのう。これなら、ナスタチウム侯爵のあの娘も、ぎゃふんと言わせられるかもしれぬ」

 ぎゃふんって今日日聞かねぇなぁ……だが、王女の顔はなにか悪巧みをしている顔だ。

 随分とお転婆なお姫様っぽいな。


「ケンイチ、よくぞ素早い報告をしてくれた。礼を申すぞ」

「これは、王女殿下より過分な褒めのお言葉を賜り、光栄の至り」

 上腕を腹に当て、礼をする。


「貴族の真似事は止めよ、胸糞が悪くなる」

「姫様! そのようなお言葉を――」

「黙れ! ロウ!」

 護衛の1人が、王女の言葉遣いをたしなめようとしたのだが――王女に一喝されて、大人しくなってしまった。

 黒い制服と金色の剣がよく似合う、金髪の男前だ。近衛騎士なのだから腕前は確かなのだろうか?

 それとも子爵領の騎士のように縁故採用の、へなちょこだろうか?

 全部で3人の護衛がいるのだが、その1人は女だ。茶色の巻き髪を肩まで伸ばしている。

 ちょっと太い眉毛をしているので、男装させたら似合いそう……。

 そんな事を考えていたら、王女から褒美があると言う。


「それでのう、ケンイチ。其方に褒美を取らす」

「褒美でございますか?」

「そうじゃ。なんなりと申してみよ」

 王女がニヤニヤしている。俺が何を言うのか、楽しみにしているようだ。

 う~ん、俺はちょっと考えたが、すぐにいい案が浮かんだ。


「それでは――国王陛下への謁見が認められるまで泊まる所がありません。片隅で構いませんので、お城の裏庭に宿営させていただきたい」

「なんじゃと?」

「私の家族には――ご覧のとおり獣人がおりますので、一緒に泊まれる施設が少ないのです」

「旦那ぁ、俺達のために、そんな事までする必要ないのに」

「そうにゃ」

 だが、俺の回答を聞いた、王女が腹を抱えて笑い始めた。


「ははは、城の裏庭に宿営させてほしいだと? このような願いは前代未聞じゃ」

「だめでしょうか?」

「はは……もっと価値のある物を求めぬのか?」

「私にとっては、家族と一緒にいる事が、最高に価値のある事でございます故」

「……解った、許可しよう」

「殿下、お城の裏庭に下賎な者をいれるなどと……」

「黙れ! 其方等の小言は聞き飽きたわ。妾の決めた事に不満があるのなら、職を辞したらどうじゃ」

「……」

 王女に、「気に入らないのなら仕事を辞めろ」と言われたんじゃ、黙るしかないよな。


「本当によろしいのでございますか?」

 俺の再度の確認にも、王女は即答した。


「うむ、二言はないぞ。それに、父との謁見が決まれば、すぐに連絡がつく所に居たほうが探さずに済む故、一石二鳥じゃろ」

 ただ、国王との謁見がいつになるかは不明だと言う。申し込んでから数ヶ月掛る事もザラらしい。

 皆で宿屋に泊まっていたら、宿代だけでもとんでもない金額になるな。


 王女の案内で、お城の裏庭へ入る。石造りの高い塀に囲まれた中には、花壇やら公園が完備されていた。

 管理が行き届いている、緑溢れる公園だ。さすがに金が掛かってるが、天守閣にある中庭はもっと豪華で素晴らしいという。

 だが、平民がそんな場所へ入り込めないだろう。ここで十分だ。

 お城の裏には、警備や門番、メイドさん達の詰め所もあるようだ。


 その裏庭の片隅に空き地があった。塀のすぐ近くであり、黒い影の中に雑草が生えている。

 小さい小屋があるので、庭を管理するための用具置き場に使われているのだろう。側に小さな井戸もある。

 こりゃ、宿営地にうってつけだ。俺が場所の確認をしていると、隣に王女がやって来た。


「ここなら良いじゃろう。好きに使うがよい」

「ありがとうございます。それでは――家召喚!」

 王女の前に、俺達の家が出現する。


「なんじゃ、これは?!」

「私達の家を出したのでございますよ」

「アイテムBOXか?」

「さようでございます」

 王女が家に駆け寄り、ペシペシと木の壁を叩いている。その反対側にはベルが駆け寄り、家の周りのパトロールを始めた。


「こんな大きなものが入るアイテムBOX持ちとは……」

「ずっと隠しておりましたが、色々とやっているうちにバレてしまいまして、はは」

「ユーパトリウム子爵の庇護だと聞いておったが……」

 そこまで知っているのか。もしかすると、今回の呼び出しには、この王女様も一枚噛んでいるのかな?


「最初はダリアにいたのですがねぇ」

「どう見ても、アスクレピオス伯爵の方が力が上だと思うが」

「それも知っておりますが、まぁ色々と訳がございまして」

「なるほどのう」

 王女は、いきなり家の扉を開けた。もう、やんごとなき身分なので、やりたい放題だ。


「ベッドしかないではないか」

「他の荷物はすべてアイテムBOXの中に入っておりますので、随時入れ替えて使用します」

「不便のような、便利のような」

「いいえ、これで十分暮らしていけますよ。それにこれ以上家が大きくなりますと、アイテムBOXの中に入らなくなってしまいますので」

「よし! 決めた! 妾は、ここに泊まるぞ?」

「ええ~っ! ちょっと、お待ちください。家族には獣人もおりますれば……」

「旦那、俺達は外で寝るよ。流石に王族と一緒に寝るわけにはいかないだろ?」

「そうだにゃ」

 俺達の会話に、王女の護衛達が割って入ってきた。


「殿下! わがままも大概になさいませ」

「もう、其方等の話は聞かぬ故、何を申しても無駄じゃぞ」

 王女とお付の護衛が言い争っているが、どう見ても王女の方が強い。

 最終的には押し切られる格好になった。


「本気ですか?」

「無論じゃ! こんな面白そうな事を放っておけるか」

「それじゃ、やむを得ない。ニャメナの小屋を出すので、そこで二人寝てくれるか?」

「しょうがねぇなぁ。クロ助を泊めてやるよ」

「恩を着せるんじゃないにゃ。元々ケンイチの小屋のくせに」

「こらこら、喧嘩するな」

 2人はいつも言い争っているが、互いをライバル意識しているだけなので、険悪ではない。


「それでは、王女殿下。何のおもてなしもできませんが、それでよろしいですか?」

「うむ、こちらが無理を言っているのは承知している故、気にする事はないぞ」

 少々わがままだが、話が通じないタイプではないらしい。


 まぁ、相手が相手だけに断れないよなぁ……。

 突然やって来た、少々面倒なお客様にアネモネは不機嫌、プリムラは致し方なしといった表情をしている。

 プリムラは王族の怖さを知っているからな。



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