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78話 戦いの後処理


 王都へ行く途中、イベリスという街へ寄ったのだが、そこの冒険者ギルドから面倒な仕事を押し付けられてしまった。

 その仕事とは、ゴブリン退治。そして農民達と一緒に、子鬼退治をしたのだが、そこには沢山の犠牲者の遺体。

 その遺体を埋葬するために、俺はコ○ツさんを召喚した。


「おおっ!」「ひっ!」「なんじゃこりゃ!」

 突然、目の前に現れた鉄の巨体に驚く農民達を尻目に、深さ4m程の穴を掘ると、その中へ死体や骨を入れて埋め戻した。

 通常なら浅い穴を掘るだけでも1日仕事だが、俺のアイテムBOXと重機があれば30分も掛からない。


「すげぇ……鉄の魔獣だ……」

「ナンマンダブナンマンダブ――成仏してくれよ。皆が頑張ってくれたから、今回は召喚獣の出番はなかったけどな」

 いや、この世界の神様は違うだろうから、成仏はまずいのか?

 足場を登って中に戻ると、ゴブリンの死体が山積みにされていた。そしてアネモネの魔法で乾燥させた後に火が放たれた。

 生身の死体は水分で燃えないが、乾燥させれば松明のようによく燃える。

 ゴブリンの死体もゴミ箱へ入れればいいのだが、こんな物を入れたくはない。

 それに、ゴミ箱があるのは皆に秘密にしているしな。


「旦那、結構銀貨があったよ」

「にゃ」

 獣人は数が数えられない。パッと見だが金貨が数枚と50枚程の銀貨と銅貨があるようだ。

 ゴブリンは金を使ったり買い物をする事もないらしいので、ただ集めているだけなのだろう。

 彼等は経済活動もしないらしいからな。何の生産もせず、ただひたすらに人の物を奪うだけの存在なのだ。


「あと、これもあったよ」

 アネモネが見せてくれたのは、汚物塗れの黒い本。


「これ魔導書か?」

「多分そうだと思う。中身は回復ヒールって書いてある」

「おおっ! ついに回復系の魔法が! 棚からぼた餅、鰯網で鯛! 後で綺麗にしような」

「うん!」

 臭いので、とっととアイテムBOXへ突っ込む。

 遺跡の中は片付いたので、足場を収納して遺跡の外を片付ける。

 コ○ツさんで大穴を掘り、ユ○ボの排土板でゴブリン共のバラバラ死体を穴の中へ押し込んで埋め戻す。


「わはは! 孫に自慢したいと言ったが――鋼鉄の魔獣や、いきなり現れる鉄の管を使った足場。これがありゃ、城攻めだって出来るじゃねぇか」

「そうだな、それは可能かもしれないな」

「こんなの話しても、孫に信じてもらえないぜ?」

「子供なら荒唐無稽な話は大好きなはずだから、見たまま話せばいい。多分、目を輝かせて食いつくと思うぞ」

「しかし、ゴブリンを50匹以上討伐して、かすり傷を負った奴すらいないなんてな」

 切り取った耳を勘定した結果ゴブリンは53匹いた。結構な大所帯だ。


「まぁ、運が良かっただけさ。勝負は時の運ってな」

「ふぅん――本当に実力あるってやつは、そういう言い方をするんだよねぇ」

 助っ人の三毛の女がコ○ツさんを見上げているのを横目で見ながら、皆から武器とシールド、そして集めた矢を回収。

 アイテムBOXからトラックを出すと、その荷台へ生き残った女達を乗せて、新品の毛布を被せてやる。

 1人は受け答え出来るが、1人は朦朧――最後の1人は息はあるが、意識はない。

 ベルがやって来ると荷台に飛び乗り、女達をクンカクンカしている。


「ケンイチ、回復ヒールの魔法を試しちゃだめ?」

「う~ん、どうかなぁ……」

 だがこりゃ、人体実験になってしまうよなぁ。


「あのぉ、治癒魔法が使えるようなら、お願いしたいのですが……」

 俺とアネモネの会話を農民達が聞いていたようだ。


「この子が初めて使う魔法だから、成功するか解らんぞ? それでも良いのか?」

「しかし、このままでは……」

 魔法の治療を受けるのは金が掛かる。農民達に治療を受ける金はなく、医学も発達していないこの世界では、助かる見込みが少ない。

 魔法の実験台として、タダで治癒魔法を使ってもらえれば、僥倖というわけだ。


「それじゃ――魔法の実験台として、無料で施術するって事で同意するか?」

「はい……」「魔法を使ってもらえるだけで、ありがてぇ」「どのみち、これじゃ……」

 農民達は、アネモネの魔法実験に同意した。本人の同意がないのだが、非常事態につきやむを得ない。

 アイテムBOXから、回復ヒールの魔導書を出す。


「くそ、こりゃ汚ねぇな」

 アイテムBOXからティッシュを取り出して、とりあえず拭く。汚れたティッシュはステータス画面のゴミ箱へ。


洗浄クリーンの魔法を使ってみるよ」

「お? 新しいやつか」

「うん! 洗浄クリーン!」

 アネモネが魔法を唱えると、汚物まみれだった黒い魔導書を青白い光が包む――それが終わると、若干綺麗になったような……。


「う~ん? もう1回やる! 洗浄クリーン!」

 結局、3回程魔法を使い、やっと臭わなくなった。なるほど――この生活魔法ってのがあれば、電化製品は要らないかもな。

 金持ちは魔導師を雇って、電化製品代わりに使っているのかもしれない。


 アネモネは荷台に乗ると、毛布を被せた女達の前で魔導書を開く。そして精神を統一し始めると、青白い光が彼女の胸の前に集まっていく。

 女達の側にいたベルが荷台から飛び降りると、俺のところへやって来たので、しゃがんで身体をでてやる。


『全ての根源たる真理よ、傷つき病に倒れた者を癒やす光を与え給え』

 眩しく光る小さな玉が、動かない女の身体へ染み込んでいく。

 魔法が終わったようなので、荷台に昇って女の様子を確かめる。


「ん~、若干顔色は良くなったかな? だが、しばらく経たないと成功したかは解らないな」

 アストランティアの婆さんの所で治癒魔法を見たが、この世界の回復ヒールの魔法はこんな感じらしい。

 ゲームのように、いきなり死にかけが復活したりとか、無くなった手が生えてきたりはしない。

 まして、復活の呪文で生き返ったりもしないのだ。残りの女達にも魔法を使った。


「手伝ってくれてありがとうな。お前達にも何か分前をやろうか?」

「と、とんでもありません。治癒魔法まで使っていただいたのに」

「魔法は実験台にしてしまったのだから、気にするな」

「しかし……」「仲間や女房の仇が討てただけで、万々歳ですよ」「そうだなぁ、犠牲者どころか、けが人も出てないし」

「まぁまぁ、皆で頑張って討伐を成功させたんだ、何か手土産があってもいいだろう?」

「俺みたいに、牙で首輪を作ったらどうだ?」

 会話に割り込んできた爺さま獣人が、自分の首に掛けている動物の白い牙を指差す。


「いやぁ、ゴブリンの牙なんて……」「なぁ……?」「ちょっと、それは……」

 どうやら、ゴブリンは不浄の象徴らしく、手元には置きたくない模様。


「それじゃ、こいつはどうだ?」

 俺は、シャングリ・ラから2500円のくわと4000円のすきを購入してみた。鋤の方が作るのに手間がかかるのか、値段が高い。


「こ、こんな新品の農具なんて」「こりゃ、立派なもんだな」

「手伝ってくれた褒美に、どちらか好きな方をやるよ」

「ええっ!? 本当にいいんですか?」

「ああ」

 お礼に銀貨1枚~2枚となると、日本円で5万円~10万円だ。シャングリ・ラで買った鍬や鋤で済むなら、そちらの方が安上がり。

 しかも、この世界で新品の農具を買うと、全て注文打ちで10万円~20万円相当と高価なのだ。

 農機具を買えない貧しい農家は、庄屋からレンタルして借賃を払う。しかも、壊したら弁償しなくてはならない。

 農民としては銀貨を貰うよりは、品質の高い新品の農具を貰った方が嬉しい――つまりこれは、WINーWIN。

 シャングリ・ラから、鍬を9挺、鋤を11挺購入して、農民に渡した。新品の農機具を手にした彼等は、実に嬉しそう。

 ゴブリン退治をした時より嬉しそうにしているのが印象的だ。


「ねぇ旦那ぁ。凄い召喚獣とか凄い物とか沢山持ってるしぃ、獣人にも別け隔てないみたいだしぃ、もう1人ぐらい獣人を雇わない?」

 農民達と話していると、助っ人の三毛の毛皮を着た女が身体をすり寄せてきた。


「ふしゃー! この年増! 何やってるにゃ!」

「身体をすり寄せて、変な匂いを付けるんじゃねぇ!」

「ああん、あんな小娘達より、あたいの方が何倍もいいんだから……」

 そう言いながら首に手を回してくるので、顎をでてやるとゴロゴロと喉を鳴らす。

 女はクルリと尻を向けると、長い尻尾でおいでおいでをしている。ミニスカで下着を履いていないので、ゴニョゴニョが丸見えだ。


「はは、これ以上増やすなって言われてるからな。無理だな」

 彼女の尻尾をでてやると、俺の手に絡みつく。


「もう、簡単にふるんだねぇ」

「ゴメンな」

 三毛の女は尻尾をピュンピュンと振ると、俺から離れた。それと同時にミャレーとニャメナが飛んで抱きついてくる。


「うにゃ! 油断も隙もあったもんじゃないにゃ!」

「おい、クロ助ヤバいぞ。美味い料理に、美味い酒。俺達に優しくしてくれるし、毛皮にもブラシを掛けてくれる。どんな獣人の女でもイチコロだ!」

「ええ~っ! ブラシも掛けてくれるのぉ? そりゃ、当たりじゃないか?!」

「へへへっ――もちろん、当たりさ」

「そんな良いご主人さま、あたいにも分けておくれよぉ」

「ダメに決まってるにゃ!」

 2人で白い牙を剥きだしにして、威嚇をしながら懸命に俺に身体を擦りつけて、匂いを上書きしようとしている。


 彼女達が話している『当たり』とは何の事かと思ったのだが――。

 

 この世界には3種類の人種の男がいるらしい。

 1つ――獣人が嫌いな男。

 2つ――獣人は相手にするが、ただゴニョゴニョするだけの男。

 3つ――獣人を好きだし、可愛がってくれる男。

 どうやら俺は、その3番目で『当たり』という事らしく、数が少ないらしい。え~っ? そうなのか……こんなに可愛いのに。

 毛皮だってもふもふだぞ? そんな事を考えている俺の足元へやって来たベルもスリスリを始めた。


「あ~あ、森猫様のお手つきじゃ、あたいじゃ敵いっこないじゃない――ちぇっ」

 三毛の女は残念そうだが、諦めてもらうより仕方ない。


 とにかく全て片付いた。忘れる前に最初に飛ばしたドローンも回収し、アイテムBOXへ収納した。


「よし! ギルドへ帰るか!」

「「「おおっ!」」」


 ------◇◇◇------


 皆をトラックに乗せて帰路につく。

 ギルドに到着すると、昼ちょっと過ぎ。トラックを横付けして、皆を荷台から降ろすと、プリムラが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、ケンイチ」

「「「おかえりなさ~い!!」」」

 プリムラと一緒だった農民の子供達が、元気よく挨拶してくれて、無事に帰ってきた大人達と抱き合う。


「ああ、ただいま。心配したろ?」

「いいえ、ケンイチがゴブリンごときに負けるはずありませんもの」

「まぁ、けが人も出ないで良かったよ。皆も頑張ってくれたしな」

 皆でギルドの中へ入ると、受付へ行く。あの受付嬢がいるカウンターの上に、ゴブリンから切り取った耳がたっぷりと入った壷を置く。


「ひぃ! あの……ゴブリンを全部、討伐したんですか?」

「その通りだよ!」

 アネモネが、受付嬢の言葉に胸を張る。


「ああ、数えたら全部で53匹だった。それから、さらわれていた女を3人救助した。手当を頼む――一応、うちの魔導師が治癒魔法を使ったが」

「あ、あの……治療の代金は?」

「おい! そのぐれぇ、そちらで背負ったらどうなんでぇ!」

 受付に食って掛かろうとした、爺様獣人を止める。


「……俺の報酬から引いてくれ」

「承知しました」

 彼等を責める事は出来ない。こういう都市は冒険者の仕事はなく、ギルドの運営は厳しいのだろう。

 逆に商業ギルドは儲かっていそうだけどな。

 持ってきたゴブリンの耳を検品している間、ホールで待っているとギルドマスターが顔を出した。


「まさか、こんな短時間で討伐を成功させるとは。噂は本当だったのですね」

「まぁ、けが人もなくてよかったよ。助けた女達の治療代も払ったんだ、最後まで面倒を見てくれよな」

「それは、承ります」

 提出した討伐部位の検品も終わり、女達の治療代を引いた金貨9枚(180万円)を受け取った。

 そこから、助っ人の獣人達へ金貨1枚(20万円)ずつを渡す。


「へへっ、1日で金貨1枚か。良い稼ぎだぜ」

「まったく、あんな楽な戦闘で金貨1枚だからねぇ」

 危ない橋を渡ったなら、金貨1枚じゃ不満も出るかもしれないが、今日のは危なげない戦闘だったからな。


 ここで、皆に提案をする。


「せっかくだ、ここの裏庭で飯でも食っていかないか? 討伐成功祝だ」

「いいのですか?」

 願ってもない言葉に、農民達が沸く。


勿論もちろん

「酒も飲んでいいんで?」

 獣人達は酒を飲みたいようだ。


「まぁ、まだ日も高いし、少しならいいぞ。お祝いだしな」

「うひょ! 旦那、話が解るぜ!」

「爺様、人の良い魔導師様に、あまりつけ込むんじゃないよ?」

 女の獣人が、爺様獣人をいさめるのだが、彼はあまり気にしていない様子。


「俺だって、それぐらいは心得てるぜ?」

「どうだか」

「まぁまぁ、カップで2杯までな」

「旦那の出す酒は強いんで、それぐらいで十分でさぁ」

 皆から飯のリクエストを聞くと、カレーが食いたいらしい。カレー大人気だな。


 皆で食事を取った後、ほんのちょっとの間の祝勝パーティだったが、農民と獣人達は、ほろ酔い気分で在所に帰っていった。

 時間は午後3時頃だが、村人達は今から帰らないと明るいうちに村へ到着出来ない。

 俺達も、いまから王都へ出発するのは少々時間が遅い。ギルドの裏庭でもう一泊する事にして、明日の朝一で出発する事にした。

 そうと決まったら時間が余ったので、皆でこの街の道具屋巡りをする事に――。


 だが、何軒か店を回ってみたが、めぼしい物は売ってなかった。

 ついでに、ゴブリン共から剥ぎとった物を売却したが、大量にあったのに、全部で金貨1枚ちょっとにしかならなかった。

 まぁ、宝箱に入っていた金貨と銀貨――そして回復ヒールの魔導書だけで、十分に元は取ったけどな。

 ニャメナは、ゴブリンの小ボスが持っていた、少々上等な剣を装備してご満悦だ。

 どこかの騎士か何かを襲ってゲットした物なのだろう。


 ゲットした金額を数えると金貨銀貨合わせて約460万円相当――それと魔導書。回復ヒールの魔導書は金貨25枚(500万円)以上はするようだ。

 アネモネは魔導書をゲットしたので、分前を辞退。


「今回、ウチも分前を放棄するとトラ公の取り分が増えるから、ウチも分前を貰って、ケンイチに預けておくにゃ」

「てめぇ、クロ助。分前を取らねぇなら俺によこせよな」

「嫌だにゃ」

 結局、ニャメナの取り分は金貨8枚(160万円)だ。まぁ一日の稼ぎとしては破格だな。

 ゴブリンの宝箱に入っていたのは、殆ど銀貨だったので、彼女にも銀貨で分前を渡した。


「うひょ~、こんな纏まった大金見るのは初めてだぜ!」

「良かったね」

「ウチは、シャガを倒してもっと稼いだにゃ~」

 だが、ニャメナは銀貨の詰まった袋を見ながら少々悩んでいる様子。

 彼女の持っている銀貨の詰まった袋を、ベルがクンカクンカしている。


「ニャメナどうした?」

「旦那――この金を旦那のアイテムBOXへ入れてもらっていいかい?」

「ああ、構わないぞ」

 冒険者ギルドの口座へ預ければ、ギルド証に記録されて、どこの都市のギルドでも金が下ろせる親切システムなのだが――。

 この街でギルドのサービスを利用しようとすれば登録しなければならない。登録料は銀貨1枚(5万円)だ。

 ニャメナは、その金が勿体無いと考えたようだ。今後、この街でギルドを使う予定はないだろうからな。

 俺だって、嫌々登録させられて、仕事までさせられたんだから。


 アイテムBOXの中は、フォルダを作れて仕切れるので、ニャメナの分はそこへ入れておけばいい。

 ミャレーのフォルダもあって、彼女の分前は、そこに入れてある。


「ケンイチ、預かり金を取ればいいにゃ」

「そんなの取らないよ。ニャメナ、金を少しずつ増やしたいなら、アストランティアに帰った時に、プリムラの商売に投資すればいい」

「そう、言いましても、損をする事があるのが商売ですから、絶対に儲かるわけではありませんよ」

 プリムラは謙遜するのだが――。


「いや、獣人の俺が何かするよりは、お嬢に頼んだ方が確実だ」

 まぁ、アストランティアに帰るまでは、まだ日がある。しばらく悩んでもいいだろう。

 

 皆で、ギルドへ戻ってくると、日は傾いて丁度夕飯の時間だ。

 皆で飯の用意をする。パン焼き器を出して、アネモネにパンを焼いてもらおう。

 さすがに、あれだけの人数のパンを焼くのは不可能だったからな。プリムラにはスープを作ってもらい、俺は肉を焼こう。

 アイテムBOXに、畑で収穫したトマトが残っていたので、トマトスープにしてもらう。

 カレーもまだ残っているのだが、さすがにカレー連発は飽きる。アネモネと獣人達はカレーでもいいらしいが、俺が飽きた。


「プリムラ、子供達の相手をさせて悪かったな」

「いいえ、中々楽しかったですよ。でも、子供の世話があんなに大変だとは思いませんでした」

 その様子を思い出したのか、プリムラがぐったりとしている。子供ってのは小型の台風みたいなもんだからな。

 それが、何人もいるんじゃ、さぞかし煩かっただろう。


「でも、計算の仕方や文字の書き方を教えてあげたら、静かになりましたよ」

「文字って、何を教えたんだ?」

「自分の名前の書き方です」

 農民なら読み書きが出来ないのが普通。子供に教えてやりたくても、親も知らないのだから教えようがない。

 まさしく負の連鎖。


 料理の匂いに誘われて、ギルドの連中がやって来た。


「お前等ふざけるなよ。人から金取って、無理やり面倒な仕事押し付けやがって」

「ああん、ここのギルドは経営が苦しいんですよぉ」

 受付のあの女が泣きついてくるのだが……。


「そんなのは俺の知ったこっちゃないね」

「ひーん!」

「泣いても知らん。大体、お前は20歳(ハタチ)過ぎてるだろう?」

「……はい」

「じゃぁ、ダメだな。ゆるさん」

「何がダメなんですかぁ!」

 だが、泣きつく受付嬢との間を割って、ギルマスが頭を下げてきた。


「今回は、無理な仕事を押し付けてしまい、誠に申し訳ない。職権濫用と言われても、否定出来ない行為だ」

「まぁ、ここの経営も苦しいようだし、少ない予算でもなんとか農民を助けてやりたい――と白羽の矢が立ったのが俺なんだろ?」

「その通りです」

「俺もギルドのために仕事を引き受けたんじゃないしな。農民を助けるために受けたわけだし」

「ありがとうございました」

 再び、ギルマスが深々とこうべを垂れた。


「ですからぁ、私達も大変なんですよ~」

 再び、受付の女が泣きついてくる。


「お前はダメだな。ゆるさん」

「なんでですかぁ!」

 見かねたプリムラが間に入ってきた。


「まぁ、いいじゃありませんか」

「それなら、金を取るぞ。1食銅貨2枚(2000円)、酒は1杯銅貨1枚(1000円)だ」

「わかりました」

 プリムラがギルドの職員達と交渉を始めたのだが、昨日、料理を食べた受付嬢から話を聞いていたのだろう。

 皆が素直に金を払うようだ――というわけで、ギルドの職員には、アイテムBOXに残っていたカレーを出した。


「美味い!」「この、香辛料料理は最高だ!」「美味しい!」「こんなの初めて食べた!」

 ギルドの職員達が絶賛しながら、カレーを食べているが、ギルドマスターには俺達が食べている料理と同じ物――酒も安いブランデーをチョイスしてみた。


「む! この酒は……?」

「秘蔵の酒だよ。元はワインと同じ物なんだがな」

「これが、ワインと……?」

「旦那ぁ、そいつを俺にもくれないか?」

 酒に目がないニャメナがブランデーを飲みたいようなので、少し注いでやる。


「ふは~! こいつは相変わらず、うめぇ!」

「だからなぁ、舌を余り肥やすと後で大変だぞ? 自分で言ってたじゃないか」

「む~う~、ん~」

 ニャメナが唸りながら困り顔で、ブランデーをちびちび飲んでいる。


「いや、貴方の言うとおりだ。こんな酒を知ってしまっては、明日から酒を飲むのがつらくなる……」

「はは、つまらん仕事を押し付けてくれた仕返しさ。俺が助けた女達の様子はどうだい?」

「治癒魔法を使ったようですね。命に別状はありませんが、魔法でも心の傷は癒やすことが出来ません」

「まぁな」

 アネモネの魔法は上手く効いたようだな。


「彼女達が、村へ戻るかは解りませんよ」

「シャガって悪党の所から沢山の女達を助けたが、約半分は村に帰らなかったからな」

 女達の事はギルドマスターに任せていいだろう。その後、彼から王都についての情報を仕入れる。

 王都も、ここと同じように冒険者ギルドの力が弱く、商業ギルドの方が隆盛を極めているようだ。

 まぁ、大都市の中じゃ冒険者なんてお呼びじゃないからな。


 中々帰らないギルドの職員から金を取って酒を出し、騒ぎは深夜まで続いた。

 お前等、さっさと帰れよ。


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