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75話 丘を越えて


 俺達を乗せた車は、アストランティアの街を出て、街道をアキメネスへ向かう。

 左手には、俺達が登っていた大崖、そして右手には工事で掘った用水路が走っている。

 もう、水路には水が流されているようだ。

 青空の下、舗装もされていない土の道を車は走る。砂利も敷いていないので、雨が降ったら大変だろう。

 こいつは四駆で、デフロックも付いているし、多少の悪路も平気だと思われる。


「丘を越え行こうよ~口笛吹きつつ~」

 歌を口ずさむ――ちなみに、この歌の著作権は切れているらしい。


「でも、せっかく王都まで行くなら、新しいアネモネのローブとプリムラの上着は着せて行きたかったなぁ」

「虫糸から紡ぐのであれば、致し方ありません。そんな贅沢品なんて、普通は着ることさえ出来ないのですから」

「ケンイチは、歌も沢山知っているんだね!」

「まぁな」

 元世界じゃ、音楽に囲まれて生活していたからな。流行りの歌じゃなく、童謡なんかでもかなりの数を知っているかも。

 具体的に数えた事はないけどな。


「ガァガァ」「メェェェ!」

 車の中で、皆で大合唱だ。この世界でも解りやすい歌詞であるのだろう。

 アヒルはいないみたいだが、山羊はいるみたいだし。アヒルの歌詞の部分を鶏にしてコケッコーにすりゃいい。

 車の中で、皆で笑いながら騒いでいたのだが、突然ニャメナが変な事を言い出した。


「旦那ぁ! 俺、やっぱり嫌だよ! 旦那が役人になるなんてさ」

「なんだ突然。さっきの話をまだ引きずってたのか」

 アストランティアの街で、そんな話をしていたのである。


「トラ公はケンイチの事、何も解ってないにゃぁ~。ケンイチは、そういう仕事をする人間じゃないにゃ」

「そうそう、そんな面倒な仕事なんて、ごめんだな。人生は明るく、そして楽しく! ナントカ団心得、人生エンジョイ&エキサイティング!」

「何語にゃ?」「さぁ?」

 しばらく車で進むと、右手に大きな湖が見えてきた。

 結構大きな湖で、名前はカズラ湖。俺がコ○ツさんで掘った用水路は、ここから水を引いているらしい。

 だが俺達の家の前にあった湖はもっとデカい。元世界でいうと琵琶湖が丸くなったぐらいの大きさがあるのではないだろうか。

 そして、そこから1時間45分程で、アキメネスの街が見えてきた。

 どの街にも城壁があるのか、この街にも石造りの壁が見える。街の大きさは、アストランティアよりちょっと大きいぐらいだ。

 

 木造と石造りの建物が交じり合った街。アストランティアと同じように、高い建物はせいぜい3階建てだ。

 高い建物がないので、空が広いのはどこでも同じだな。


 そのまま車で街の中へ進入する。アストランティアと同じように、見たこともない乗り物に、住民たちの好奇の視線が集まる。


「はは、大人気だな」

「そりゃ、こんな馬なしで走る車なんて、王都でも走ってないにゃ」

「俺だって、聞いた事がないよ。それに、この速さ! 今日中に王都に着いちまうんじゃないのか?」

「多分、順調に行けば着けると思うけど、急ぐ旅じゃないんだ。王様だって、今日到着するとは思ってないだろ」

 プリムラの話では、手紙等が到着するのに最短で――1泊2日。

 これは獣人を使った飛脚によるもので、これが手紙配達の最短時間という事になる。

 恐らく、俺が貰った国王陛下からの手紙は、この飛脚による特急便だろう。

 ただし料金は高く、量も運べないので、通常の手紙は馬車で荷物等と一緒に運ばれて、1週間程掛かるらしい。


「プリムラ、伝書鳩はないのか?」

「ハト? なんですか?」

 ああ、この世界には鳩がいないのか。


「――鳥の帰巣本能を使って、彼等に手紙を運ばせるんだよ」

「あの、詳しく教えてください」

 彼女に、伝書鳩の仕組みを教えてあげる。


「それは、どんな鳥でも可能なのですか?」

「帰巣本能が強くて、人に馴れやすくて飼育が容易――そして速さと長距離を飛ぶ体力――種類は限られていると思うよ」

「でも、それを使えば、手紙をやりとりする速度が上げられると……」

「まぁ、そうだねぇ。もし、それに適した鳥種が見つかれば、アストランティアから王都だと1日で運んでくれるぐらいの速度は出るはずだよ」

「そんなに!」

 元世界の伝書鳩だと、平均で時速70km以上、最高速は100km以上出るらしいからな。

 獣人達は時速60km――瞬間的には80km近くは出せるが、あくまで短時間で巡航速度は1時間に30km程。

 彼女の話では、この世界ではワイバーンやドラゴンに乗ったりする航空便はないらしい。


「それに普通の手紙だけじゃなく、戦の時に本国へ戦況を知らせるのにも使えるぞ」

「シャガの時に、ケンイチが貸してくれた、遠く離れた場所と話す魔道具は使えないのにゃ?」

「あれは、使えて数リーグだな」

 シャングリ・ラを検索すると20Wクラスのアマチュア無線機器が売っているが、まさかこれを売るわけにはいくまい。

 それにコイツを使うには、デカいアンテナを張らないとダメだ。


 アキメネスの街の中をゆっくりと走る俺達の車に、物珍しさから人々が集まってくるのだが、車から顔を出す黒い森猫に、獣人達が気が付くと慌てて手を合わせている。


「この街は、犬人も多いみたいだな」

「たまに来るけど、嫌な街だにゃ」

「俺も、あまりこの街には、やって来ないなぁ」

 急ぐ旅でもないので、アキメネスの市場を見物するために、車を降りてアイテムBOXへ収納する。

 車で困るのは駐車スペースだが、それもアイテムBOXがあれば心配いらない。


 街中にはドライジーネが何台か走っているが、生産しているのは今のところダリアだけなので、ダリアから離れると徐々に値段があがり、購入する人も少なくなる。

 そのうち真似をしてコピーを生産する業者も出てくるかもしれないが、マロウ商会は次の新型の開発も進めている。

 この世界には特許やらのシステムがないので、儲けるためには一歩先を進まなくてはならない。

 王都の商人と契約を結んで、新型を生産する工房を立ち上げる計画の話もあるようだ。

 さすが、マロウさん。どんどん行くねぇ。


「品揃えはアストランティアとそれ程変わらないなぁ」

「まぁ、そうですわ」

 小腹が減ったので、露店で売っていた串焼きを買う。焼いて塩を振っただけだ。

 アイテムBOXから胡椒を出して、振りかける。


「ほら、お前等にも掛けてやる」

「ありがてぇ」

「にゃー!」

「美味しいね!」

 皆で串焼きにかぶりついているが、何の肉かは不明だ。獣肉というよりは、鳥のササミっぽいのだが――。

 獣人達の話だと、トカゲのようだ。


「胡椒をパラパラと振りかけるだけで、串焼きがご馳走になるんだから、止められねぇ」

「そうだにゃ」

「アストランティアじゃ、香辛料の組合シンジケートが無くなったから、このぐらいの料理は市場で売られるようになるかもしれないぞ」

「そうですわね」

 胡椒が掛かってない肉を串から外し、ベルに食べさせると、パクっと丸呑みだ。

 森猫と一緒にいると、商人達が集まってきて売ってくれと言われるのだが――無論、拒否。

 まぁ、人間に馴れている森猫ってのは、そのぐらい珍しいんだろう。


 露店を見まわっていると、そのうちの一軒――そこの店主が、見慣れた物を使って計算をしている――そろばんだ。

 木で出来た菱型の珠が沢山並んでいる――少々大きいが、その姿形も間違いなく、そろばん。

 そこの店主にちょっと金を渡して、話を聞く。この世界、対価無しじゃ情報は全く得られない。

 金をケチると、ろくなことがないのだ。


「ご店主、その計算器はどこから手に入れた物なんだい?」

「ああ、これは帝国から入ってきている物でなぁ。帝国との国境に近いソバナの街から流れてきているんだよ」

 プリムラの話では、国境を挟んで2つの街が並ぶように隣接していると言う。

 帝国側が、ドンクレスウエストエンドシュタット、王国側がソバナという街らしい。


「使ってみると、とても便利でな、手放せなくなってしまったよ」

「私もそうですわ。父に教えたら、大変興味を示していましたし」

「まぁマロウ商会なら、同じ物が作れるだろう」

 ダリアの職人に作れるなら、高い金を出して帝国から輸入する必要もない。

 しかし、この帝国で使われているそろばんというのは、例の転移者が考案した物だろう。

 この世界は特許が無いので、こういう発明品をしても儲からないんだよな。

 だが、マロウ商会のように、発明品で社会に多大な貢献をしたと認められれば、家名を名乗れて箔が付く。

 そうなれば、金回りが良くなるのも事実だ。


 ついでに、この街の道具屋の場所を何箇所か聞く。

 何軒か回ってみたのだが、全部外れ。最後の一軒を訪れてみた。

 この世界の道具屋といえば、ダリアの爺さん、そしてアストランティアの婆さんの店のように、乱雑なイメージがあるのだが――。

 訪れた店は、それに反して小奇麗な店。石造りの2階建てで、1階にはガラスの窓が嵌っている。

 

 店の中に入る。中も明るく小洒落た感じで、爺さん婆さんの真っ暗な店とは対照的なのだが、あの道具屋のワクワク感がないのは少々残念な気もする。


「こんにちは~」

「いらっしゃい」

 店主は妙齢の女性――栗毛のウェーブヘアに胸の開いた暗い紫色のタイトのワンピースを着て、腰には飾りを巻きつけている。

 彼女も魔導師なのだろうか? こういうちょっと派手な格好をしているのは、魔導師だと思うのだが。

 俺と一緒に付いてきた皆も、店の中をキョロキョロと見回し、ベルは入り口付近で座って待っている。


「何かお探しで?」

「魔道具や、魔導書を探しているのだが」

「あいにく出物は無いねぇ。魔導書は爆裂魔法エクスプロージョンがあるけど……」

爆裂魔法エクスプロージョンは持っているからな」

 何やら無関心そうだった女店主が、ピクリと反応した。冷やかしかと思ったら、金の匂いを感じ取ったのだろう。


「名義変更はしてあるのかい?」

「ああ、アストランティアでやってもらった」

「あの婆さんは、まだ生きてるのかい?」

「生きてるぞ。知り合いかい?」

「まぁ、魔導師ってのは、だいたいが知り合いさ」

 それじゃ、あの人の事も聞いてみるか……。


「白金のアルメリアという魔導師は知っているか?」

「んあ? そいつは、10年程前に行方知れずになって、それっきりって噂だけどねぇ。あんたは関係者かい?」

「まぁ、そんなところだ」

 彼女にも少々金を渡して世間話をする。


「ここで、大討伐が行われたって聞いたんだが、獲物は何だったんだ?」

「ああ、レッサードラゴンさ。ここの連中じゃ手に負えなくってねぇ、王都から大魔導師様がお出ましってわけさ」

「おい、ニャメナ。レッサードラゴンって普通のドラゴンと違うのか?」

「大きさや火力が全然違うよ。ドラゴンモドキなんて言う奴もいるけど、レッサードラゴンだって、討伐するのは大変なんだぞ」

「じゃあ帝国でドラゴンを倒した奴ってのは、大偉業だったんだな」

「そりゃ本物のドラゴンを初めて討伐したんだぞ?」

 なのに儲けを全部取られて不憫な奴。やはり王侯貴族には十分に気をつけないとな。


「あの森猫は調教テイムしてあるのかい?」

「ああ良い子だよ」

「なかなか、やるもんだねぇ」

 実際のところ――森猫が何故こんなに懐いてくれているのかは不明なのだが。


 ここの店からは、虫除けの魔石を何個かと、親子の方向探知機があったので1セット買った。あると便利だからな。

 例えば、俺が子機を2つ持って、アネモネと家に親機を持たせたり設置すれば、双方の位置関係を把握出来る。

 アネモネが狩りから帰ってこなかったり、行方不明の時にも対処出来るってわけだ。

 まぁ獣人がいれば臭いで追えるから、要らないといえば要らないが、備えあれば憂いなしって言うじゃないか。


 腹ごしらえを終えて、買い物も済んだので、アキメネスの街を出る事にした。

 皆でラ○クルプ○ドに乗り込み城壁を潜ると、また街道を走りだす。

「次の街は、なんていう街なんだ?」

「イベリスです。王都の隣街だけあって、かなり大きな街ですよ」

 アキメネスから先は、ダリアやアストランティア近辺のように大きな深い森はなく、小さな森が点在するだけの穀倉地帯。

 イベリスという街があるエキナセアベア公爵領は、豊かな土地であるようだ。

 そのイベリスは、王都の人口100万人に次ぐ、30万人程が暮らす大都市らしい。


 それだけの大都市となると、インフラの整備が大変だと思うんだが、都市が維持出来てるって事は、魔法とかで何とかしているのかもなぁ。

 下水の浄化も、水石って石でなんとかなるみたいだし。魔法ってのは侮りがたいよな。

 道の途中――アストランティアの悪徳商人だったソガラムらしき馬車を追い越した。

 彼等はアキメネスを通過したらしい、つぎのイベリスへ向かうのか、それとも王都まで行くのか。

 だがもう、彼等とは終わった話だ。


 穀倉地帯の中を真っ直ぐ延びる街道を走ると、2時間程でイベリスの街が近づいてきた。

 車の時計では、午後3時過ぎ――ただ、時間はタダの気休めだ。こんな世界だ、アバウトな時間が解れば良し。

 このままイベリスを突っ切って王都まで向かえば、閉門には間に合うと思うのだが、無理をする必要もない。

 高い城壁の外にも、入りきらない住宅が並んでいるのだが、粗末な家が多い。

 俗に言うスラム街なのだろう。人が多いって事は、そういう人口も多いってことだ。


「城壁の外にいるのは、職が無い日雇い労働者や、離農者などが多いようです」

 プリムラが、この街の様子を教えてくれる。この街やこの先の王都にも行った事があるようだ。さすが、お嬢様。


「ダリアやアストランティアは、城壁の中に貧民街があったけどなぁ」

「人が多いので、外に溢れてしまっているのです」

「この分だと、王都もこんな感じなのかい?」

「ここしばらくは王都を訪れていませんが、以前行った時には、ここよりもっと酷い有様でした」

「王都に行けばなんとかなると、考えてしまうのかなぁ。ダリアのノースポール男爵領みたいなところに行けば良いのに……」

「ダリアまでの旅は困難なのですよ。旅にはお金が掛かりますし」

 う~ん、元世界の感覚で考えてしまうからなぁ。

 車なら100kmぐらいはすぐなんだが――ここには馬、馬車、そして徒歩しか移動手段がない。馬車に乗るにはかなり高い運賃が必要だし。

 徒歩での旅行となると、1ヶ月以上掛かるか……途中のメシ代もいるし、街へたどり着けなかったら魔物や野盗の危険があるのに野宿しないとダメだしな。

 例えば、ダリアとアストランティアの間でも約100km離れている。都市間で走っている高速馬車で2日――途中で1泊。

 馬車に乗れなければ、危険な森の中で何泊もしなくてはならない。

 戦闘力が高い獣人などが同行していればよいが、戦闘が出来る者がいなければ護衛を雇う必要がでてくる。

 それには金が掛かる。この世界で、貧乏人が他の土地へ行くというのは、文字通りの決死なのだ。

 それ故、生まれてから1歩も故郷から出ないで一生を終える住民が多い。


 城壁の門を潜ると、石畳の立派な道路。石造りの高い建物が並んでいる。パッと見ただけで、4階建ての建物も見える。

 ダリアやアストランティアに比べると、かなり近代的な感じがする街だ。

 俺は、車を脇道に入れると、皆を降ろしてアイテムBOXへ収納した。

 余り脇道に入ると、危険が増すと皆が言うので注意をする。そういうのが、この世界の常識のようだ。

 

「さて、宿屋を探すか……」

「おい、クロ助、俺達も探そうぜ?」

「そうだにゃ」

 獣人達は、別々に宿屋を探す算段をし始めた。


「ちょっと待て、一緒に泊まらないのか?」

「旦那ぁ、獣人と一緒に泊まれる宿屋なんてないよ」

「けど、獣人が泊まれる宿屋はあるんだろ?」

「そりゃあるけど、あまり上等な宿屋じゃなくて、木賃宿だよ?」

「まぁ、良い宿が無かったら、街の外へ出て野宿しようぜ」

「はぁ……旦那って本当に物好きだねぇ」

「何言っているんだ、家族じゃないのか?」

「そうだよ!」

「……!」

 俺とアネモネの言葉を聞いたニャメナが泣きそうな顔になっている。まぁ、獣人には涙腺がないので涙は出ないのだが。


「とりあえず、ここの冒険者ギルドへ行ってみようぜ。そこで聞くほうが早いだろ」

「そうだにゃー」

 道で露店をやっている婆さんに銅貨を渡し、冒険者ギルドの場所を教えてもらう。

 この街には2カ所の冒険者ギルドがあるようだ。さすがに、デカい街だな。

 その一つ、南街冒険者ギルドへ向かう。


「ということは――王都にはもっと沢山の冒険者ギルドがあるって事か?」

「いいえ、王都には冒険者ギルドは一箇所しかありません」

 プリムラが奇妙な事を言う。100万人もいるデカい都市で、冒険者ギルドが1箇所しかない……?


「え? どういうことだ?」

「冒険者の仕事がないのです」

「ああ、そういう事か……」

 つまり、森も無くて周りは全部畑――魔物もいないし、薬草も生えてない。やることがないのだ。

 ある仕事といえば、下水のネズミ退治や、害虫駆除の仕事ぐらいしかないという。

 そんな仕事なら、ギルドへ入らなくても日雇いやらでやりゃいいからな。


「ここ、イベリスも人口に比べれば冒険者の数は少ないはずですよ」

「なるほど、冒険者ってのは地方の仕事なのな。でもドラゴンとか、デカい魔物が出たらどうするんだ?」

「そういう時は旦那。軍隊のお出ましさ」

 ここの公爵領も王都にも、立派な騎士団が存在していて歩兵などの軍隊もいるという。


「そりゃ、確かに冒険者の出番はなさそうだな。けど地方なら、子供でも薬草を摘んで小遣い稼ぎが出来るのに、ここら辺じゃそういうのも無理って事か……」

「その結果が、あの貧民窟なのです」

 街が大きいってのも良し悪しだな。


 そんな話をしながら、この街の冒険者ギルドへやって来た。石造りの4階建ての建物、窓にはガラスが嵌っていて、玄関の作りも立派だ。

 中も明るく広い、床は板張り。柱は石なのだが、壁は木の板が張ってあるようだ。

 とりあえず皆を引き連れて、正面の受付へ行く事にした。赤いベストを着た女子職員が座っている。

 どこのギルドもこの制服なんだな。だが、森猫に気がついた、獣人達がゾロゾロと寄ってきた。


「この鑑札は――旦那がこの森猫様の主人なんで?」

 サバトラの男の獣人が話しかけてきて、ベルの首に飾ってある銀の鑑札に気がついたようだ。


「まぁな、森猫様を拝んでもいいぞ」

 俺にそう言われて――凛と座っているベルを前に、屈強そうな男達がペコペコとお祈りをし始めた。


「森の中で、森猫に会うのは難しいのか?」

「そうにゃー、結構森の奥に行っても滅多に会わないにゃー。だからにゃー木の上にお供えをして、出てきてもらうにゃー」

 ああそれなのに、出てくるのは黒狼ばっかりなので、猫人がブチ切れるってわけだ。


 しかしそうなると、この辺りにはもう大きな森はないという事なので、森猫に会う確率はゼロって事か。

 そりゃ拝みたくもなるかもな。お祈りが終わった獣人達は、凄い幸せそうだ。

 ――「これで、俺にもツキが回ってくるかもしれないぜ」――そんな事を考えているのかもしれない。


 ひと通り、獣人達のお祈りが済んだようなので、ここの受付へ向かい話を聞いてみる事にした。


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