74話 王都へ向かうぞ
子爵領を食い物にして、プリムラの店にも嫌がらせを繰り返していたソガラムというゴロツキ商人を、アストランティアから追い出した。
悪徳商人だったのだが、意外と家族には優しく子煩悩であったようだ。
妻子という弱点を俺に知られてしまったので、仕返しをしてくる事もないと思われる。
俺の家を度々訪れる子爵夫人からの要望で途中の川に橋を架ける事になった。
川の幅はそれ程ないので、10mの丸太を渡して橋にする予定。
川の両岸に、崖を崩した時に出た岩と土を使って、橋の土台を作る。
そのためには、岩と土を運ぶ手段が必要だ。コ○ツさんで一々運んだのでは、量も少ないし時間も燃料も掛かってしまう。
ここは新しい重機を買うしかないな。
シャングリ・ラで検索を掛ける――見つけたのは、M菱の土砂ダンプ。ダンプといっても用途によって色々と種類がある。
土砂不可って書かれた物もあるので、やはり土砂が運べる物を購入した方が良いだろう。
走行距離は70万km――錆びてボロボロだが、動けば問題ない。その代わり値段は350万円と安い――はず。
ダンプなんて買った事がないからな。だが聞いた話では、新車で買えば1千万円以上したはず。
車検も100万円ぐらいとかな。まぁ、異世界なんで車検なんて関係ないが。
壊れたら新しいのを買うしかない。
「ポチッとな」
大きなタイヤが10個ついた大型ダンプが地響きを立てて現れる。
新しい相棒へ乗り込むと、エンジンを始動――燃料は問題なし。1速へ入れると、そのままそろそろと、コ○ツさんの所へ向かい停止。
今度は、コ○ツさんを使って岩と土をダンプへ積み込む。なんという、一人土木工事。
「すげぇぇぇ!」
「凄いにゃ! ケンイチ1人でお城も建てられるにゃ!」
獣人達がダンプの荷台の上で、はしゃいでいる。
「おおい! 土砂を降ろすから、どいてくれ!」
「にゃ? どうやって降ろすにゃ?」
俺がハンドル下のボタンを押し運転席の右のレバーを引くと、荷台が徐々にせり上がる。
スロープになった荷台からは大量の土砂が滑り落ちた。
「これも、凄い召喚獣にゃ!」
ダンプで普通に走っているが――燃料を節約したければ、俺が動いてアイテムBOXから出し入れすれば、燃料の節約は可能。
橋の両端に土砂を下ろしたら、ユ○ボの排土板で均してスロープを作り、ダンプで踏み固める。
スロープには、シャングリ・ラで買った砂利を敷いて、耐久性を上げる事にした。
最後に、俺が川の真ん中へ入り、アイテムBOXから10mの丸太を出し橋を架ける。
後は板を張れば完成なのだが、丁度いい板がシャングリ・ラで売ってない。そこでアストランティアの材木屋を利用する事にした。
もう隠す必要もないので、堂々とオフロードバイクで、街まで乗り込む。魔法で動くドライジーネって言えば、丸め込めるわけだ。
アイテムBOXにバイクを収納すると、店員に声を掛ける。
「板を探しているんだが。ちょっと、どんな種類があるか見せてもらえるかな?」
「裏手へどうぞ」
白いエプロンのような作業着を着て、頭に布を巻いている男が相手をしてくれた。
屋根だけで壁がない倉庫のようなところに、所狭しといろんな木材が立てかけられてズラりと並んでいる。
収納と乾燥を一緒にやっているのだろう。元世界のホームセンターでもこんな光景を見た事があるかも。
そこで幅30㎝長さ約3mの分厚い板を購入する――1枚小四角銀貨2枚(1万円)だ。
商品の値段は、あまりシャングリ・ラと変わらないか? むしろ安いかもしれない。
「何枚ぐらいご入用ですか?」
「とりあえず、そこにある分を全部くれ」
そこで板を50枚程購入――金貨2枚と銀貨2枚だ。たまには街で買い物をして、金貨を還元しないと。
店員の話では、ここで大工の斡旋もしているようだが、プロを頼む程の事でもない。後は橋に板を打ち付けるだけだからな。
帰りに、プリムラの露店へ寄り、顔を出す。忙しそうなプリムラと対照的に、護衛のニャメナはすっかりと暇になってしまったようだ。
店の後ろで腕を組み、大きなあくびをしている。
マロウ商会の傘下になった事と、悪徳商人のソガラムを追放してしまったので、市場がすっかりと平和になってしまったのだ。
「ニャメナ、暇そうだな」
「あんな鉄の召喚獣を操れる魔導師の女房がやっている店に、ちょっかい出してくる奴なんていやしないよ」
「そりゃ、そうか」
まぁ、色々と街の皆にも知られてしまったのだが、それが抑止力になっているようだ。
冒険者ギルドへ行っても、話を聞かせてくれと――話しかけられる事が多くなった。
それに野盗を討伐したといっても、俺だけでやったわけじゃないからな。男爵もいたし魔導師の爺さんもいた、それに獣人達もいたしな。
アストランティアの商人達によるスパイスシンジケートも解散させられてしまったので、この街では普通に香辛料が売られるようになった。
値段もそこそこで買えるとあって、隣のダリアやアキメネスからもまとめ買いをしにやって来る連中もいるらしい。
他の街の商人が圧力を掛けたくても、領主がバックアップをしているし、極悪人のシャガを倒した魔導師がいると解っては手出しが出来ない。
いずれは、ダリアやアキメネスではスパイスの売上が落ちるはずで、値段を下げざるを得ないのではないか?
そうすれば、スパイス料理も、もっと盛んになるかもしれない。スパイス料理が大好きな獣人達も喜ぶだろう。
家に戻ってきて、アイテムBOXから板を取り出し、力自慢のミャレーに並べてもらう。
「全部並べればいいにゃ?」
ひょいひょいと、板を軽々と持ち上げて、ぶんぶんと頭の上で回している。多分、30kg以上はあると思うんだが。
「この板切れを挟んで、隙間が空くように等間隔に並べてくれ」
人間の脚が落ちないぐらいの隙間を空けて張れば板を節約出来る。
そして俺は、アイテムBOXから、ネイルガンと高圧コンプレッサーを出して釘を次々と打ち込んでいく。
森に、ダンダンという板を叩く音が響く。
「もう、ケンイチと召喚獣だけで、全部出来ちゃうにゃー」
「でも、俺1人じゃこんな板を持ち上げるのも大変だからな」
30kgの板を運んでいるだけで、ヘトヘトになるだろ。重機はこういう微妙な工作には向かないしな。
「お城でも作れちゃうんにゃ?」
「どうだろうなぁ」
「ケンイチの召喚獣なら、ゴーレムにも勝てるにゃ」
「ゴーレムか……」
ミャレーの話では、デカい普請ではゴーレムが使われて、重機のような役割を担っているという。
ダリアやアストランティアでは、そんな物を見た事がないのだが、高位の魔導師でないと使えないらしいので、辺境で使われる事が少ないらしい。
それに、ゴーレムの起動には国の許可がいるらしい。
コ○ツさんをお城の建築で使うとなると――アタッチメントで、マジックハンドのようなつかみ機というのがある。
そいつで石を掴み、積み上げれば城も作れるかもしれないが、石をカットする作業もあるし、やっぱりマンパワーが必要だろう。
ただ、工作のスピードアップが図れるのは間違いない。
ネイルガンを使っているので、あっという間に釘打ちも終わって、橋が完成した。
「たった一日で、橋が完成したにゃー!」
3mの幅があるし、橋に登るスロープも長めに作ったので、大型の馬車でも問題無いと思われる。
この川の水源は森の中の泉らしいので、氾濫する事もないようだ。
ミャレーが完成した橋の上で連続バク転を見せてくれる。橋の板の間に隙間があるんだけど、大丈夫なのか?
――と思っていたら、大丈夫らしい。
ベルもやって来て、橋の隅や丸太のところをクンカクンカしている。
しかし、この橋を渡って、ベルがサンタンカの村へ行ったりすると、住民が警戒したりするかなぁ。
一応、俺が森猫を飼っていると知っているはずだが。あの村には獣人もいるしな――多分、大丈夫だろう。
------◇◇◇------
――次の日。
お宝探しの時に刈り取った草が、アイテムBOXの中に入りっぱなしだったので、堆肥を作る事に。
先ずは、ユ○ボで穴を掘る。そして刈り取った草を押切で刻み、穴の中へ投入。
掃除で集めた落ち葉やゴミ等も全部入れて、ユ○ボで土を被せて混ぜる。
発酵して湯気が出てきたら、また重機でかき混ぜればいい。
土で汚れたバケットは、川でバシャバシャ洗う――その後、アネモネの魔法で乾燥してもらえばいい。
「乾燥!」
黒く濡れていたユ○ボのバケットは、みるみる白く乾燥していく。
「魔法は便利だなぁ……」
俺も簡単な魔法でも使えればいいんだが―― 一番初歩である生活魔法すら反応がないからな。
まぁ、シャングリ・ラが使える時点で十分にチートなのだから、ないものねだりかもしれないが。
そんな事をやりつつ、畑で大きくなっていたキャベツ等を収穫していると――出来上がったばかりの橋を渡って白い馬車がやって来たようだ。
あれは子爵様の馬車だろう。早速やって来たか。
あまり付き合いはしたくないのだが、そうも言ってられないだろう。
馬車が止まると、子爵夫人が白いドレスをワシャワシャさせて、降りてきた。
「ケンイチ殿! もう、橋を作ったのか?」
「はい、1日で出来ましたよ」
「これも召喚獣の力か……」
「いやぁ、ウチには力自慢の獣人もいますからね」
「カナン――今日は、そんな話をしに参ったわけじゃないよ」
後から、子爵が馬車のドアから降りてきた。相変わらず、パッとしない子爵様だな。
「そうでした」
かしこまる夫人と一緒に、子爵を家の前まで案内すると、テーブルと椅子を出す。
丁度、昼飯時なので、朝作ったスープと、シャングリ・ラのパン、そしてミルクをお出しした。
夫人が柔らかそうなパンに興味を持ったのか、一つ摘んで千切って口に入れた。
「むっ! なんと柔らかいパンだ!」
夫人に釣られたのか、子爵もパンを一口頬張った。
「なんと! 確かにこれは柔らかい! そして、甘い! ……いや、そうではないのだ。今日は大事な用件があって参ったのです」
「なんでしょうか? また何か問題でも?」
「誠に申し訳ない!!」
いきなり子爵が、突っ伏してテーブルに頭を擦りつけた。一緒に夫人も頭を下げているのだが……。
「そんな、いきなり子爵様に頭を下げられても、わけが解りませんよ」
「理由はこれです!」
子爵が、紙を丸めた物を差し出してきた。茶色の紙――おそらく羊皮紙だと思われる。
「読んでもよろしいので?」
「勿論です」
「え~、『ユーパトリウム子爵領領主、ガラム・ド・ユーパトリウム殿。貴領に滞在している、魔導師ケンイチなる人物を、直ちに王都へ登らせよ。国王ラナン・キュラス・カダン』」
右下には、尻尾の長い鳥が大きな羽を広げている、赤い蝋印が押してある。
ここは、カダン王国っていうのか――初めて知った。皆が王国、王国としか言わないからな。
さすがに聞くわけにもいかないし……。
「これは――もしかして国王陛下直々のお呼び出しですか?」
「その通りです。大恩あるケンイチ殿に、誠に申し訳ありませんが、陛下からの勅令であれば、我々は逆らう事はできません」
「そりゃ、王侯貴族は縦社会ですからねぇ。上からの命令は絶対でしょう」
「そうなのです!」
命令絶対、規則はいっぱいか――そんな歌があったな。
「ここで、私が逃げたりしたら……」
「それは、困ります! 勅令に逆らって我が領が逃したか、匿っているとの疑いを掛けられて――下手をすれば謀反の疑いありと看做されてしまう」
「そうですよねぇ」
面倒だが子爵夫妻に恨みがあるわけでもない。しかし、マスメディアとか全くないのに、人の噂は千里走るなぁ。
あるいは、この子爵領を潰そうとしている奴らがいるのか……しかし、そんな事にまで首を突っ込みたくないな。
――とはいえ、国王からの呼び出しを無視するわけにもいかない。
「承知いたしました。王都へ向かいます」
「解ってくれたか。我が領を救ってくれたのに、こんな事になってしまって誠に申し訳ない!」
再び、子爵がテーブルに突っ伏した。
まぁ仕方ないだろう。避けて通れない事もある。
子爵の話によれば、国王陛下から送られてきたこの手紙が、通行証になると言う。
なにせ、本物の国王の蝋印が押してあるからな。水戸黄門の印籠みたいなものだろう。
「ケンイチ殿! 王都での事が済んだら、またここへ戻ってきてくれるのか?」
「カナン様――私は、この場所が大層気に入っているのです。用事が済めば、また家と共に戻ってまいりますよ」
「そうか……」
夫人が安心した顔を見せる。一緒に付いていくとか言われたら、どうしようかと思ったが一応節度はあるようだ。
「本当は、私も付いていきたいのだが――チラッチラッ」
チラッチラッじゃねぇよ。全く何を考えているのか。
「はいはい、夫人が他の男と長期旅行なんてダメに決まっているではありませんか」
「私は、一向に構わないが」
あ~、この子爵様は本当にもう。それに子爵夫人なら王族が顔を知っているだろう。
自ら、辺境の華とか自称するぐらいなのだから、有名人だろうし。
俺と同行していれば関係を勘ぐられる……むしろ、それが狙いか?
「それならば!」
「ダメです!」
身を乗りだしてきた夫人を両手で制する。
何があるか解らないのに、世間知らずのご婦人のお守りと厄介事は御免被りたい。
この世界を知らないって意味では、俺も同じなんだがな。
足手まといにしかならないし、怪我や病気でもされたら、どうする?
当然、拒否である。
――その夜。
皆でベッドの上に座り、今後の作戦会議をする。
「というわけで、俺は王都に行く事になったが、お前達はどうする?」
「一緒に行く!」
「妻ですから、当然行きますわ」
「行くに決まっているだろ、置いていくつもりかよ」
「当然、行くにゃー!」
「にゃー」
ベッドの横にいた、ベルまで返事をしている。
「別に家をここに残したまま、ここで暮らして待っててくれてもいいんだぞ?」
「ケンイチと一緒に冒険に行くって話をしてたでしょ!」
「旦那ぁ、そんな水くさい事は言いっこなしだぜ?」
「そうか――それじゃまた、家やら足場やらをアイテムBOXへ入れて、出かける準備をしなくちゃな」
「にゃー!」
ベルが、ベッドに飛び乗り、俺の顔にスリスリとしてくる。
ギルドの鑑札がついているから、森猫が王都に行っても大丈夫だよな。
------◇◇◇------
――次の日。
皆で朝食を食べた後――家やツリーハウスを始め、俺の作った施設を次々とアイテムBOXへ収納する。
勿論、足場や太陽電池パネルも全部だ。
「へへ、やっぱり、住み慣れた家を持っていけるってのは便利だね」
ニャメナが、腕を組んで俺の収納作業を眺めている。
「そのために、わざわざ小さい家にしているんだからな」
「小さい家を積み重ねて、大きい家にすればいいにゃ」
「まぁ、それも手だな」
プレハブのような積み木を重ねた家なら次々とアイテムBOXへ入れる事が出来るだろう。
「モジュール化か――いいね」
「もじゅーる?」
アネモネが聞きなれない言葉に首を傾けている。
「まぁ、こっちの話だ」
試しに、シャングリ・ラでプレハブを検索してみたのだが、さすがに売ってない模様。
プレハブが売っていれば、わざわざキットの小屋を建てる必要もなかったな。ミャレーに言われるまでプレハブには気が付かなかった。
この前作った橋もアイテムBOXへ入れられるのだが、こいつは必要ないだろう。
例えば橋が無い川があっても、車をアイテムBOXへ入れて俺が渡り、対岸でまた車を出せばいいのだから。
小さい川なら、アイテムBOXの中に丸太が何本か入っているし、そいつを使えばいい。
しばらく留守にするかもしれないので、畑の野菜も取り込んだ。後は放置プレーになってしまうが仕方ない。
車――ラ○クルプ○ドを収納から出して、皆で乗り込む。
異世界の空の下、今日もエンジンは一発で掛かり快調だ。
作ったばかりの橋を渡り、街道を走る馬車を追い越し、街へ到着。
そのまま真っ直ぐメインストリートを抜けて、東門へ抜ける。アストランティアの街を迂回するバイパスは無いので、ここを通るしかない。
人混みを抜けてノロノロ運転だが、馬なしの車に気がついた奴らが、車の方へやって来る。
「魔導師様、お出かけですかい?」
俺も街では有名人になってしまったからな。車の中に森猫の姿を見つけた獣人達が拝み始めた。
「いやぁ、国王陛下に呼ばれてな。王都まで出かけるんだよ」
「ええっ! 国王陛下に?! そりゃ、大出世じゃないですか?」
話を聞いた、街ゆく人々がどよめく。
「そういう話ならいいんだけどな。それに俺は出世とか仕官とか興味ないんだが」
「なんですかそりゃ、勿体無い!」
この世界で出世といえば公務員――つまり仕官して公職に就くこと。
それ故、俺の言葉が信じられないらしい。
「まぁ、話が済んだら、すぐに戻ってくるつもりだよ」
「本当ですかい?」「信じられねぇ」「せっかくのお話を……」
別に、仕官の話がきているわけじゃないからな。行ったら行ったで――ろくでもない案件かもしれないし。
「旦那、こいつらの言うとおりだよ。マジで仕官の話なら、勿体無いぜ?」
「書面には、そんな事は一言も書いてないからな。王侯貴族の気まぐれで、面白半分で呼びつけただけかもしれないし」
「ありえますわ」
貴族の事をよく知っているプリムラは、あり得る話だと言う。
「そりゃ、そうだけどさ」
「けど、相手が王様にゃら、話を聞かなくちゃいけないにゃ」
「そうなんだよ。無視出来ないからな。でも俺が仕官なんて事になったら、皆と遊べなくなるじゃないか。ニャメナはそれでいいのか?」
「そりゃ……役人なんかになったら、獣人とは遊べないかもしれないけどさ……」
ニャメナはしょんぼりして、黙ってしまった。
「まぁ心配するな。そんな事はないからさ」
そんな話をしながらのノロノロ運転――だが、この街を出る前に寄る場所がある。アネモネのローブとプリムラの上着の製作を注文した服屋だ。
糸から紡ぐので、時間がかかる。王都から帰ってくるまで、どのぐらいの時間が掛るか解らないので、一応話をしておいた方がいいだろう。
車を店先に停めて、俺だけ店の中へ入る。
「へぇ、王都まで」
前に来た時と同じように、女の店主は大きく胸の開いた派手な色のワンピースを着ている。
「ちょっと、どのぐらいで帰ってくるか解らないんだよ。ローブと服が出来ても、置いといてくれるかい?」
「よろしゅうございますよ」
「保管料が必要なら金を払うよ」
「いいえ、あれだけ上等なローブと上着の縫製で、料金も過分に頂いてますので、大丈夫でございますよ」
「それじゃ、よろしく頼む」
「お任せください」
店を出ると、再び大通りをノロノロ運転だ。そして人混みを通り抜けて、東門を潜った。
とりあえず、この前に用水路の工事をした場所を抜けて、先ずは隣街アキメネスへ向かわなければならない。
隣街までは約200km――安全運転で時速60kmぐらいで走っても、3時間ちょっとで着くから、昼前には到着するな。