70話 至高の障壁
約20日程の出稼ぎ工事の仕事を終えて、俺達は元の家があった場所へ帰ってきた。
戻ってきて解ったのだが、この場所はやはり落ち着く。
朝食を食べた後、色々と設置をし直す。
ツリーハウスを設置、崖を登る足場を設置、そしてニャメナの小屋を設置。
そうそう、太陽電池パネルも設置しないとな。これがなくてもガソリン発電機があるので、それなりに生活出来てしまうのだが。
プリムラはニャメナと一緒に、子爵様の屋敷へ行っている。財務状態のチェックをするためだ。
以前は獣人を屋敷には入れてくれなかったが、俺の件以来、プリムラの護衛としてニャメナは屋敷に入れてもらえているようだ。
屋敷内を自由に歩き回ったりは、させてもらえないようだが。
貴族と関わる事を避けていたが、やむを得ずここの領主夫人と付き合ってみて解った事がある。
この領地を治めるユーパトリウム子爵は、あまり頭の切れる人間ではないらしい。
夫人も世間知らずのお嬢様だしな。今、子爵領に群がっている虫達(商人)を排除出来れば、代わりに俺が色々と便利に使える寸法だ。
夫人が俺の名前を出したことで、他の貴族にも知られてしまっただろうが、ユーパトリウム領で保護されてる事になれば、他の貴族は手出し出来ないだろう。
これは、いい隠れ蓑になる。色々としょうもない事が続き呆れた用水路工事だったが、棚から牡丹餅、瓢箪から駒だったかもしれない。
さて、貴族の事はプリムラに任せて、俺は畑をいじろう。
出かける時に、畑にトウモロコシを植えて、アネモネに魔法を掛けてもらったのだが、かなり良い感じに生育していた。
緑色に真っ直ぐに延びて、天辺には花が咲いている。こいつはスイートコーンなので、背は低い。
天辺に咲いているのが雄花で、ヒゲが生えているトウモロコシの部分が雌花。
北海道を回ると、背のデカいトウモロコシ畑を見かけるのだが、あれはデントコーンで家畜用だ。食ってもクソ不味い。
下にトウモロコシが3つ程出来かけているのだが、一番下を除き摘んでしまう。こうやって、1個だけに栄養を回して、糖度を上げるためだ。
ベルが、摘み取ったトウモロコシの山をクンカクンカしている。
「へぇ~変わっている植物だね!」
アネモネが不思議そうにトウモロコシを手にとっている。
「こういう穀物は見たことがないのか?」
「ない!」
「ウチもないにゃ」
この世界には、トウモロコシがないのかもしれない。デントコーンを売るだけでも儲かりそうだが……。
けど、種を渡したら、それっきりだな……う~ん。珍しい植物だからといって、種だけで何千万円も出してくれそうにないしな。
周りの雑草を抜いて、追肥と水をタップリとやる。滝から流れている川が近くにあるので、土が乾燥し過ぎるという事はないようだな。
「アネモネ、植物に魔法を頼む」
「む~! 成長促進!」
これを何回かやれば、すぐに食えるようになるかも。
「なんで、実を摘んでしまうにゃ?」
「1個に栄養を集めて、美味しくするためだよ」
「にゃ~、そんな贅沢な事、普通は出来ないにゃ」
「そうだねー」
この世界の農法は、間引いたりせず結実させるだけ結実させる。
ならば、市場で売っているリンカー等も、適度に間引いて栽培すれば、もっと大きくて美味い実がなるのかもしれない。
「ミャレー、森の中でリンカーの若木を見つけたら、掘ってきてくれないか?」
「家の近くに植えるにゃ?」
「ああ、あれは美味いからな」
あんな美味い果実が、森の中に普通に生えているんだからな。
「解ったにゃ。でも、あれは虫だらけになるから、ちょっと家から離して植えたほうが良いにゃ」
「ほほう……」
とりあえず、栽培してみないと解らない事も沢山あるな。
木に虫除け魔石となると、ちょっと贅沢な気もするし……でも、マジで黒山の虫だらけになるようなら、魔石が必要になるか。
だが、トウモロコシを見ていたら、ポップコーンを思い出して食べたくなった。
トウモロコシというと、網の上での焼きトウモロコシを想像するやつもいるかもしれないが、俺の地元じゃそんな食い方をするやつはいない。勿論、異論は認める。
シャングリ・ラを検索すると、業務用の爆裂種が売っている。これは買うっきゃない――1kgで500円だ。
ちょっと昼には早いが、食ってみよう。テーブルとカセットコンロをアイテムBOXから出して、フライパンにはバターをたっぷり。
そこへ、爆裂種を投入する――量はテキトー。溶けたバターが種に絡むように揺する。
「この種を温めると、弾けて食べられるようになるんだよ」
「へぇ~! それじゃ、魔法で温めてあげる」
「ちょっと、ま――」
俺が止めるより早く、アネモネが魔法を使ってしまった。
爆裂音と共に一瞬で全部の種が弾け飛んで、テーブルにポップコーンが溢れた。
「ふぎゃ!」
大きな音にミャレーが慌てて後方へジャンプして、毛を逆立てている。
ベルも驚いたのか、森の中へ隠れてしまった。
「なにこれ! 面白~い!」
「溢れてしまったが大丈夫だな」
大きな皿をアイテムBOXから出すと、ポップコーンを拾って入れ、俺も一口。
「うん、香ばしくて美味い」
「美味しい!」
「にゃに? 美味いにゃ?」
2人の言葉を聞いて、ミャレーがすぐに飛びついた。
「うみゃー! 塩味だけど、これは香ばしくて美味いにゃ!」
「美味しいよね! これも、畑で作ってたトウモロコシって奴なの?」
「まぁ、そうなんだが、ちょっと種類が違うんだ」
「ふ~ん」
アネモネは頷きながらも、むしゃむしゃと、ポップコーンを食べ続けている。
「にゃ! にゃ! これは、美味いけど、歯に何かが挟まるにゃ!」
口をモニョモニョしていたミャレーが、自分の爪で歯に詰まった物を取り始めた。凄く気になるらしい。
「プリムラとニャメナにも食べさせてあげたいから、もうちょっと作るか」
「私も、もっと食べたい!」
「解った解った」
彼女はポップコーンが気に入ったようだが。やめられない止まらない例のお菓子ではないが、単純だが後を引く美味さ。
沢山作ってもアイテムBOXへ入れておけば、いつでも美味しく食べられる。
大鍋で大量に作る事にした。爆裂種に熱したバターを絡ませて、アネモネの魔法で炙ればいいのだから簡単だ。
結果、大鍋に溢れるぐらいの大量のポップコーンが出来た。
戻ってきたベルにポップコーンを差し出してみたが、匂いを嗅ぐだけで食べなかった。どうもお気に召さないらしい。
残ったポップコーンをアイテムBOXへ収納、アネモネはミャレーと狩りにいくらしい。
さて、俺は工作でもするかな――議題は武器の拡充である。
アンホ爆薬を使って圧力鍋爆弾は強力で使えると判ったが、起爆が困難。
起爆に必要な爆裂魔法を使えるアネモネがいないと、使えないのである。
もう少し、簡単に使える物がほしい……となると、やはり黒色火薬を使った手投げ弾だろう。
なにはともあれ、とりあえず試してみないとな。
シャングリ・ラから酸化剤となるゴニョゴニョを購入。こいつをバラして、過塩素酸カリウムを取り出す。
よく黒色火薬に使われている硝石より、こいつで作った方が威力がデカい。
フヒヒ――ガキの頃から、こんな事ばっかりしていたので、ここらへんの知識はばっちりよ。
爆発は男のロマン! だからな。
そして、硫黄と木炭――この2つはシャングリ・ラでも普通に売っている。
木炭はアルコールに浸けると、威力を増す事が出来るようなので、試してみよう。
アネモネ達はいないので、デジタル秤を出して、正確に重さを量る。火薬は混合の比率が大事。
大量に作ると、事故った時に大変な事になるので、小分けにして使わない分はすぐにアイテムBOXへ入れる。
これで安全だ。とにかく、アイテムBOXへ入れておけば、爆発する事はない。
火薬はここら辺が怖いんだよね。静電気でも発火する事もあるし、油断は出来ない。
爆薬やら作ってて、自爆で部屋を吹き飛ばすなんてネタはいくらでもある。
とりあえず完成したので、点火実験をしてみる。
テーブルの上にステンレスの皿を置いて、その上に完成した黒色火薬。そして、そこへ火を近づけると――。
「おっ!」
赤い炎を上げて、一瞬で火薬が燃え上がり、白い煙がモウモウと舞い上がる。そして漂う硝煙の匂い。
よっしゃ! 上手くいった。
さて、点火はどうしようか……普通に導火線でも良いんだが、もっと使い勝手を良くしたい。
う~ん、ここはタイマー点火だな。
使うのは1.5Vの豆電球。先ずは、こいつのガラスを割る。そして、剥き出しになったフィラメントに火薬をまぶし、乾電池へ繋ぐ。
すると赤い炎が上がる――こいつを点火線に使えばいい。
そしてタイマーは、シャングリ・ラに売っている普通のデジタル式のキッチンタイマーを使う――800円。
こいつはボタンで時間をセットして、ゼロになるとアラームに電流が流れて音が鳴る仕掛けだ。
そのアラームの接点から豆電球へ線を引き出せばいい。そうすれば、タイマーがゼロになった時に起爆が出来る。
デジタルタイマーなら、時間は正確だ。しかも1秒単位で指定可能。最長で……最長で何分だ?
ちょっと試してみる――99分みたいだな。1時間39分だ。99分の次は00に戻ってしまった。こういう仕様なのだろう。
少々長めに時間をセットして、陽動等にも使えるかもしれない。
問題は手投げ弾の本体だ。シャングリ・ラを検索すると、鉄製の手榴弾の複製が売っていた。
試しに購入してみる。実物から型を取った物らしいが火薬を入れるスペースがあまりない。
う~ん……しばし悩んだが、足場を作る際に使った単管パイプを切断して、その中に火薬を詰める事にした。
パイプの両端を塞ぐために、溶接機を購入――8万5千円。
そして鉄板を使って蓋を作るために必要なプラズマ切断機を購入――コンプレッサー内蔵タイプでこいつも8万5千円也。
溶接機は使った事があったが、半自動溶接機は初めてだ。それに、プラズマ切断機は初体験。
恐る恐る、鉄板に切断機のノズルを当てて、トリガーを引くと、青い閃光と共にシャワーのように火花が飛び散る。
「こりゃ、すげぇ! 鉄板が紙みたいに切れるわ」
しかし、鉄板を丸く切るのが難しい。だが、ノズルを固定して、鉄板をクルクルと回せばいいんだ。
一緒に溶接用の自動遮光面を購入。窓が液晶で強い光を感知すると自動で暗くなって遮光してくれる――1万円だ。
元世界で欲しかった工具が色々と買える。こりゃ、たまらん。もう無駄遣いしまくりである。
普通ならこんなに買い込んだら、小屋の中が一杯になってしまうが、アイテムBOXに入れればそんな心配もない。
ああ、ここまで来たら旋盤とフライス盤も欲しいな……色々と欲しい物が増えてしまうが、それは後回しだ。
溶接機を使って単管パイプの両端を塞いだら、シャングリ・ラでボール盤を購入
ボルト用の穴を開けてネジ穴をタップで切り――そして、ボルトに縦に貫通する穴を開ける。
ボール盤は少々高いが、日本メーカー物を購入。
安い彼の国製もあるのだが、ベアリングがすぐに死んだり精度が悪くて、結局最初から高い物を買った方が外れがない。
ボルトに開けた穴に豆電球を使った点火線を通して、エポキシパテで固定。
手投げ弾に火薬をいれて、点火線のボルトをねじ込めば、起爆完了だ。
タイマーで時間をセットして、スタートボタンを押す。そして、表示されている数字がゼロになれば爆発するわけだ。
作業に熱中しすぎて、辺りは日が傾いていた。
子爵邸へ行っていた、プリムラ達も戻ってきてしまった。
「ただいま戻りました」
「旦那ぁ、また何か怪しい事をしているのかい?」
「新しい武器の開発だ」
「武器? その、変なのが?」
ニャメナが、テーブルの上に載っている怪しげな異形に、訝しげな視線を送っている。
「にゃー! 帰ってきたにゃー!」
「戻ったよ~」
アネモネとミャレーも戻ってきてしまったが、一発だけテストをしたい。
アイテムBOXから、ポリカーボネートの盾を取り出す。
「皆、危ないから、この盾の中に隠れてくれ」
「にゃ?」
タイマーをもう1個購入――手投げ弾のタイマーも1分にセットして、100m程離れた森の中にあった木のウロに手投げ弾を仕掛けて、スタートボタンを2個同時に押す。
そして、全力で戻ると、皆と一緒に地面へ伏せた。
「旦那、なんだってんだい?」
「錬金術を使った、爆裂魔法だよ」
「この前のやつと似たようなやつにゃ?」
「今度のは、アネモネの魔法がなくても、爆発するんだ」
手持ちのタイマーは時間を刻んでいく――30秒――10秒。
「5、4、3、2、1――」
大音響と共に木の幹が木っ端微塵に吹き飛んで、バキバキという音を立てながら倒れこんだ。
「よっしゃ! 成功だ! こいつは使える!」
本番では、圧力鍋爆弾と同じように、パイプの周りに鉄釘を巻けば殺傷能力をアップ出来る。
「魔法にゃ?!」
「ひょえ~なんだよこれ?!」
「魔力がなくても爆発するから、獣人にも使えるぞ? お前等にも使い方を教えてやる」
「ええ~、そんな怖いのは要らないよ。持ってて爆発したら、バラバラになっちまうじゃないか」
「まぁ、それがないとは言えないが」
「にゃ~、ウチも要らないにゃ~」
「じゃあ、戦闘の前に配るから、使い方だけ教えておくよ」
「「……」」
どうも獣人達は、この新型兵器を信用していないらしい。
まぁ未知の技術だし、わけがわからない物を使いたくないっていう気持ちは、理解出来るけどな。
皆で夕飯の支度をして、食事を取る。
食事をしながら、プリムラに子爵邸の様子を聞いてみた。
「思った以上に酷くて……大変でした」
彼女の話では、商人からの物資購入予算は彼等の言いなり――帳簿に記載されていない物も沢山あって、物資が横流しされていたようだ。
その事を、子爵夫人に報告すると、財務担当の役人は即時に解雇された模様。
コネやら何やらで雇った、貴族の子息連中だろうが、犯罪をしていたとなれば、解雇は当然。処刑されて財産没収されないだけマシと考えねばならない。
とてもじゃないが、プリムラ1人ではどうしようもないので、予定通りに商業ギルドを通じて、ダリアのマロウ商会に応援を頼んだらしい。
「あの夫人や子爵様も、そういう業務を全く見ていなかったみたいだしなぁ」
「そうみたいですわ。全部を部下に任せっきりだったようです」
「よく、行政が破綻しなかったな」
「それは、本体を殺す程の血を吸い取ってしまえば、寄生虫も死んでしまいますからね」
「生かさず殺さずってやつか……」
不正が正されて、予算が他にも回せるようになれば、色々と行政で出来る事が増えるかも。
これがきっかけで、アストランティアの街も、もう少し発展するかもしれないな。
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――1週間後。
プリムラ達と一緒に街へ行って婆さんの道具屋に顔を出すと、魔導書の名義変更が終わっていた。
そして、魔導書をもらった俺は、すぐに家に帰ってきた。
この魔導書をアネモネが待ち焦がれているからだ。早く使ってみたいのだろう。
オフロードバイクで森を抜けると、アネモネとベルが待ち構えていた。
「魔導書は持ってきた?」
「ああ、名義変更は終わってたよ」
「やったぁ!」
「しかし、高価な珍しい魔導書を入手出来ても、使えるとは限らないんだぞ?」
RPGでいうところの魔力が足りないとか、適性がないとか――使えない理由は色々とある。
俺なんて、シャングリ・ラ以外は全く使えないしな。
「うん、わかってるよ」
アネモネに魔導書を渡すと、両手でそれを天に掲げた。
「わぁ!」
それを胸に抱えたまま、広い場所へ走っていくと本を広げた。その後ろでベルが見守るように座っている。
「おい、いきなり使うのか?」
「どうしたにゃ?」
ミャレーが俺達の声を聞いて、駆け寄ってきた。
「アネモネが、至高の障壁の魔法を使うらしい」
「使えるにゃ?」
「さぁ――やってみない事には、なんともなぁ」
アネモネの胸の辺りが青く光り、煌めく光点が無数に集まってくる。何か――ゆらゆらと空間が揺れて見えるのは気のせいか?
『万物の源たる光の礫よ、我の呼びかけに応え、等しき並びをもって、仇なす力を遮る盾となれ――至高の障壁!』
光の点が立方体を重ねる積み木のように並び、それが消えると何かうっすらと透明な壁のような物があるように見える。
心なしか、空間も歪んで見えるのだが――光の屈折率が変化しているとか?
「成功したのか?」
「にゃ?」
俺は地面に転がっている石を拾うと、アネモネの方へ向かって投げてみた。
――すると、音も無く石が静止して、ポトりと地面へ落ちた。
「すげぇ! バリアだよ、バリア」
「にゃ? にゃんだそれ?」
「いや、コッチの話」
俺は、コ○ツさんを召喚した。
目の前に現れた重機に乗り込むと、エンジンを始動させる。
「見せてもらおうか、至高の障壁の実力とやらを!」
俺は、レバーを操作してコ○ツさんのアームを高く掲げると、見えないバリアらしき物に振り下ろした。
「コ○ツアタック!」
――だが、鋼鉄の巨大なバケットは音も立てずに、何かに阻まれるように静止。
再度、振り上げて攻撃をしても、同じ結果となった。
「すげぇぇ! これなら、マジでドラゴンの攻撃でも耐えられるかも!」
俺が重機から降りて、アイテムBOXへ収納すると、アネモネが力尽きたように膝をついた。
それと同時に見えない壁は消失したようである。
「アネモネ大丈夫か?」
俺がアネモネに駆け寄ると、彼女はベルに抱きついていた。
「ハァハァ……うん、大丈夫だよ」
「凄いな! 本当に、こんな凄い防御魔法が使えるなんて」
「にゃー! こりゃもう、大魔導師並にゃー!」
「そうそう、ニャメナは大魔導師がアキメネスで使ったって言ってたよな」
俺達がアネモネの魔法の成功を喜んでいると、一台の馬車が湖畔に現れたのだ。
どうやら、川を渡ってきたらしい。まぁ大きな馬車なら超えられる深さではあるが、中々豪快だな。
ボディをエンジ色に塗られた中々凝った作りの、4頭立ての大型馬車だ。
しかし、この馬車って何処かで見たような……。
その馬車から降り立つ2人の男。
草色の上下に、馬車と同じエンジ色のベストを着て、口髭を蓄えた初老の男性。
そしてもう一人は、深緑色のローブを着た、白髪の長いヒゲの老人――。
「マロウさん! 爺さん!」
俺は、彼等の下へ走りだしていた。