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62話 貴族様がやって来た。


 皆に協力してもらい、ツリーハウスが完成した。

 俺の城がまた一つ完成したわけだ。だが、こいつはここに固定なので、動かすこともアイテムBOXへ入れる事も不可能だ。

 上に載っている小屋だけは、アイテムBOXへ収納できるが。


「わ~い!」

 アネモネが、テラスの上ではしゃぎ回っている。そして部屋の扉を開けると、ベッドだけで部屋はいっぱい。


「ここには、ベッドしか置かないの?」

「そう、寝るだけの部屋だ。たまにここで寝るのも、良いだろうって思ってな」

 テラスにはテーブルと椅子も備え付けているので、ここで読書をしたりするのもいいだろう。

 こういったツリーハウスは虫だらけになってしまうのだが、この世界には虫除けの魔石がある。

 婆さんの所で買ってきた魔石をセットすれば、虫除けは完了だ。


「そういえば、蛇って木も登るよな」

「ふぎゃ?」

「まぁ旦那がいれば大丈夫じゃね?」

「確かに俺は蛇が平気だが……後で、柱に蛇返しでもつけるか」

「そのほうがいいにゃ!」

 ミャレーは本当に蛇が嫌いなようだな。


 完成したツリーハウスで夕飯を食べるために、下で料理をしてアイテムBOXへ入れる。

 アイテムBOX内では時間が止まるようなので、こんな事も可能だ。

 今日は、リクエストでカレーにした。なんかいつもカレーを食っている気がするが……。

 そして、今日はツリーハウスの完成祝いなので、ハンバーグカレーにしてみた。

 この前、処分した子牛の肉がまだあるのだ。


 子牛の肉をミンサーに入れ、ひき肉にしてから、繋ぎの卵と小麦粉、玉ねぎのみじん切り、そして塩と胡椒少々。それらを良く練る。


「よ~し、アネモネはこれをグチャグチャに混ぜて、よく練ってくれ。プリムラは、カレーを焦げ付かせないようにな」

 ベル用に玉ねぎ抜きバージョンも作ろう。


「うん!」「はい」

「焼く時に1つにするなら、細かくに切らなくてもいいのにゃ」

「硬い肉でも美味しく食べられるし、普通の肉焼きより、こっちのほうが好きってやつもいるぐらい美味いんだぞ?」

「相変わらず、旦那の料理は凝ってるねぇ」

 練上がった種の真ん中を凹まして、鉄板の上で焼く。


「いい匂いにゃ!」

「たまらねぇ!」

 獣人達が我慢しきれず、よだれをタラ~リと流している。

 ハンバーグが焼きあがる頃、タイミング良くご飯も炊きあがった。米を食べているのは俺とアネモネだけだが。

 料理が完成したので、ツリーハウスへ皆で登る。

 上に登るにはハシゴしかないので、アイテムBOXが無ければ大変な事になりそうだが、その心配もない。

 テラスに設置されているテーブルの上に、出来上がった料理を並べた。

 ベルには、俺達と同じハンバーグに追加して猫缶を開けてやる。彼女のハンバーグは塩分を控えめにしてある。


「ケンイチ――私も、その白いのを食べてみたいのですが」

「ご飯か?」

 この前、プリムラは赤飯を食べて美味かったらしいので、米に興味が湧いたらしい。


「うにゃ! 肉が柔らかくて美味いにゃ!」

「おほ! 確かに、硬くて噛みきれない肉も、こうすりゃ美味いだろうなぁ。しかし食事の度に、あんな手の込んだ事なんて出来ねぇ」

「それなりに手間暇掛けないと、美味い料理は出来ないぞ。ベルが食っている、お前達が好きなあれも、手間暇掛けて加工してあるんだから」

 あれというのは猫缶である。


「なるほどなぁ……でも、俺達が肉なんて練ったら毛だらけになっちまう」

「別に手でなくてもいいんだぞ? 木のヘラで練ってもいいんだ」

「そうか、そうだな」

「でも、柔らかい肉ばっかり食っていると弱くなるとか言う、頭の堅い男もいるにゃ」

「ああ、いるなぁ~そういうやつ……」

 どうも獣人の男、あるあるネタのようだ。確かに顎の力は鍛えられるから、噛み付きの攻撃力は上がるかもしれない。


「けど、獣が獲物を仕留めたら、柔らかくて栄養のある内臓から食うんだぞ?」

「そうだよなぁ」

 あれこれ喋りながら食べている獣人を横目に、アネモネとプリムラは黙々と、カレーを食っている。


「アネモネ、今日は静かだな」

「美味しい物は、じっくり味わうの! こんな美味しい物が2つ合体するなんて、今日は特別なんでしょ?!」

「今日は、家の完成祝いだからな」

「カレーに、この穀物は合いますわ! これは、とても美味しいです。ケンイチがいつも食べているのも納得です」

 そりゃ、不味ければ米は主食にならないからな。


「多分、麦でも美味しいと思うが……」

 麦ごはんでカレーって食った事があったかな? 記憶にないが……。


「街の奴らもよぉ――香辛料を買い占めて値段を釣り上げている奴らに文句を言えば、こういう美味い料理が食べられるようになるってのに」

「そうにゃ!」

「しかし、こんな洗練された香辛料料理の事を、街の人達は知りませんから」

 プリムラの言うとおりだ。


「旦那が言ってたけど、自分が不幸だって知らないってのは、幸福な事なんだな」

「まぁな」

「でも、俺は知っちまったから、もう戻れない……」

「ウチもにゃ……」

「全く、旦那の料理は、女を虜にする悪い薬みたいなもんだぜ」

「人聞き悪いなぁ」

 プリムラにサンタンカの村の様子を聞いてみるが、順調に干物やスモークサーモンの生産が行われているようだ。

 まぁ、手間が掛かるだけで、そんなに難しくはないからな。魚を三枚に下ろすのだって、特別なテクがいるわけじゃないし。

 村では、子供と女達が総出で、俺から買った毛抜きを使って骨を抜いているらしい。

 忙しくなれば人手が欲しくなる。排他的だった村でも、新しい村民を募集しているという。ちゃっかりしている。


「そりゃ貧乏な村だからさ、新しい仕事が出来て金が儲かると解れば、考えを改める奴だっているんじゃね」

「泣いていた子供にリンカーをあげれば、泣き止むみたいなもんにゃ」

 そのリンカーだが、スモークサーモンを作る際の燻蒸チップに、リンカーの木が使えるという事だ。

 俺も、チップを貰って匂いを嗅いでみたが、リンゴのチップによく似た匂いをしている。十分に燻蒸に使える。


 魚の干物やスモークサーモンも順調に売れているようだが、かなり大きな湖なので、獲物に困る事はないだろう。


 ------◇◇◇------


 プリムラの店も順調。サンタンカで生産している魚の加工品の卸売も順調。家の周りも平和そのもの――。

 そんなある日の午後、湖から1そうの船がやって来た。

 アイテムBOXから、双眼鏡を出して覗く。


 乗っているのは、白いドレスを着た女性。そして、その後ろには2人の騎士。兜は無いが、フルアーマーに近い鎧を着込んで帯剣している。

 そして、もう1人はマントを羽織りヘソを出した背の高い女――。

 長いスカートにはスリットが入っているらしく、白く色っぽい太ももが見えている。

 この世界では、ヘソを出したり脚を露出するのは、はしたないといわれていて、普通の人間がそんなファッションをする事はない。

 こういう格好を好んでする連中――それは魔導師だ。


 そして、先頭に座っている女性――白いドレスは地味ではあるが、かなり上等な代物で、街の住民が着れるようなものではない。

 大体、護衛の騎士が側に付いているなんて、普通の身分ではないだろう。

 船の後ろには、プリムラとニャメナも乗っているのが見える。


 このドレスを着た女性は貴族だと思われた。

 

 船が岸についたので、そこへ駆け寄る。

 身分が高い人間がやって来たと解っているのに、無視するわけにもいかないだろう。

 理由はともあれ、ここにやって来てしまったのだから。


 プリムラが一緒にいるという事は、この地を治める子爵様の関係者だと思われる。

 俺は出迎える事にしたのだが、船が岸に着くと、プリムラとニャメナが水の中に飛び降りて、慌ててこちらへ走ってきた。


「あの、ケンイチ! あの……」

「ああ、解った解った、大体察しはついているから」

 船の横には、水の中に膝を突いた騎士の2人が人間桟橋と化して、貴族らしき女性の踏み台になっている。

 最後は、魔導師らしきヘソを出した女性に手を引かれて、白い鳥は岸に降り立った。

 その姿は、優雅で艶やか――やはり、普通の女性とは違う雰囲気を醸し出している。

 編みこんだ金色の髪を後ろで纏めて、大きく胸が開いた白いドレスが湖畔の風にたなびく。

 多分、外出用のドレスだろうが、街で見た事がないぐらい上等な品。

 湖と同じ色の目で俺の事をじっと見つめている。


 俺は、その女性の所へ行くと膝を突いた。


「このような所へ、良くぞお越しくださいました。ここの長をしております、商人のケンイチと申します。お見知りおきを」

「ふむ――ユーパトリウム子爵正室、カナン・ル・ユーパトリウムである。よしなに」

 あ~、やっぱり子爵夫人かよ。なんだってこんな所にやって来たんだ。

 貴族の奥方というだけあって、確かに美人だ。チラリと見た横顔は、プリムラが夫人の所へ持っていったカメオに刻まれていた像によく似ている。

 歳は30代前半か――だが、その美しい瞳の奥は寂しそうに見えるのは気のせいか。

 とりあえず、家の前まで案内して、外にテーブルを出す。

 家の中はベッドしか無いからな。


「申し訳ございませんが、我々の家は小さい故、中にはベッドしかありませんので」

「構わぬ」

 椅子を勧めると、子爵夫人は席についた。

 向かって右には騎士の男、金髪の短い髪と青い目。もう一人の騎士は、赤い髪をしている若い男。


 その夫人に、魔導師らしき女性が耳打ちをする。ウェーブした赤い髪が腰まで伸びて、大きな胸とくびれたウエストが目に付く。

 彼女達の視線の先には、警戒した顔のアネモネとミャレーが立っていた。


「ほほ、随分と可愛らしい魔導師のようだが、我らはここに喧嘩をしに参ったわけではない」

「アネモネ、ちょっと家の中に入ってなさい」

「……」

 アネモネとミャレーは警戒している表情は崩さないまま、黙って家の中に入ると扉を閉めた――いや、隙間からこちらを窺っている。

 夫人に飲み物を出す。少々迷ったが――フルーツ牛乳にしてみた。それに、いつもの陶器のカップじゃまずいだろう。

 シンプルなガラス製のタンブラーに注いで出した。

 

「今日はまた、どのようなご用件で、こんな辺鄙へんぴな所まで」

「む――まさか、アイテムBOX持ちとは……ケンイチ……? アイテムBOX持ちで、ケンイチとな? 其方まさか、ダリアでシャガ一味を討伐した魔導師か?」

「はて、何のことやら……それで、ご用件のほどは?」

 とりあえず、とぼけてみる。


「むう……近くまで来たものでな。それに、あの素晴らしい魚の燻製には其方が関わっているそうではないか」

 そうか、スモークサーモンの出処を探っているうちに、ここまで辿り着いたのか。


「まぁ、その通りでございますが」

「それに、村の者に聞けば、こちらから大きな爆発音まで聞こえるという話……」

 爆発の音って、結構遠くまで届くんだなぁ。ちょっと、派手にやり過ぎたか――これは誤魔化しが利かないようだ。


「ああ、それは魔法の実験でございます」

「其方のか?」

「いいえ、先程の小さな魔導師の魔法で」

「何? あのような小さな子どもが、爆発系の魔法だと?」

 夫人の横にいた魔導師の女性が驚いた。


「ええ、あの子には天賦の才能がございます故」

「むう……」

 何やら考えこむ、美しき子爵夫人。さすがに貴族の頼みとなれば、プリムラは断りきれなくて、ここに案内してしまったのだろう。

 そのプリムラは、俺の後ろで小さくなっている。横にはニャメナも一緒だ。

 しばらく考えていた夫人ではあるが、目の前の飲み物を試してみたくなったのだろう。

 テーブルに置いてあったフルーツ牛乳を――横にいる騎士の前に差し出すと、金髪の若い男が口にふくむ。

 恐らく、毒味だと思われる。


「む! これは美味い! あ、いや、失礼いたしました」

「其方が我を失うとは、さぞかし美味いのであろう」

 ――そう言うと、夫人も一口フルーツ牛乳を飲んだ。


「なるほど、これは美味である。これは一体……?」

「それは牛乳を果実の汁で割った物で御座います」

「ほう……私の勘は鈍っていなかったようだな。このような場所で、このような味に出会えるとは」

 夫人は、フルーツ牛乳を一気に飲み干すと、席を立ってスタスタと崖へ向かい緩い斜面を登り始めた。

 俺は、テーブルと椅子をアイテムBOXへ収納すると後を付いていく。いやぁ、あまり詮索されると困るんだがなぁ……。


「これは?」

 夫人が指さしたのは、カモフラージュネットで偽装された、太陽光発電パネル。


「これは、魔導の秘術に関わる事なので、お答えできかねます」

「何! 貴様!」

 騎士が剣に手を掛け、食って掛かろうとしたのだが、夫人が止めた。


「其方――やはり魔導師なのであろう?」

「まぁ、そういう事になりますかねぇ」

 夫人と、魔導師の女が俺の姿をジロジロと品定めしている。とてもそんな風には見えないと言いたいのだろう。

 魔導師の女はアネモネが魔法を使えると看破したようだしな。


「なるほど……」

 夫人はそのまま、崖へやって来た。当然、そこには崖の上へ登るための足場がある。


「こ、これは一体なんだ?」

「崖の上に登るための足場でございますが」

「が、崖の上に登るなどと、今まで聞いたことがない」

「木の足場等を使って、登る事もなかったのでございますか?」

「そのような事に金を使っても、見返りがあまりに少ない……もっと金を使う場所が山ほどある故」

「確かに、薬草や鳥しかいませんしねぇ」

「鉄の管を使った足場か……このような奇々怪々な物を……」

 夫人が足場に登ってみたいと言うので、彼女の手を引いて天辺まで登る事に。

 本当に柔らかい手だ。こういう人は、スプーンより重い物を持った事がないんだろうなぁ。

 プリムラもお嬢様だが、実家では荷物の積み下ろしを手伝っていたりしていたそうだから、結構体力もあるし。

 夫人の手を握っている俺を、お付の騎士が睨んでいるのだが――仕方ないだろう。


「おおっ! こんな高い場所に簡単に登る事が出来るとは! アスチルベ湖の対岸まで見える! まさか、アゲラタム高地へこのような形で登る事になるとは……」

 アゲラタム? 崖の上にも名前があったのか。それにアスチルベ湖か――一応、地名が付いているんだな。

 まぁ領主なら自分の土地にも詳しくて当然か。

 夫人が崖の下を覗きこんでいる。


「端まで行くと、危のうございますよ」

「崖が崩れているのだが……」

「爆発系の魔法の実験でございまして」

「地面が掘り起こされているのは?」

 それは当然、俺がコ○ツさんを使って掘り起こした跡だ。


「……それは、私の魔法でして、お答え出来ません」

「貴様!」

 また、騎士が俺に突っかかってくるのだが、無視する。


「やめよ。騎士が2人と魔導師を見ても臆する事がないということは、この男がその気になれば我らを瞬殺出来るという事だろう」

「くっ!」

「まるで、巨大な爪で掘り起こされたような……得体のしれない何かを操るとみえる」

「これは、ご彗眼でございますなぁ」

「其方が、そのような魔法を使えるのであれば、私を――いや、この子爵領を助けてはくれぬか?」

「助ける?」

「そうだ、この通り」

 騎士達が止めるのも構わずに、子爵夫人が頭を下げる。余程、何か困っている事があるらしい。


「う~ん――貴族様に頭を下げられて、無視するわけにもまいりませんなぁ。まぁ、お話をお聞きいたしましょう」

 俺は、アイテムBOXから再びテーブルと椅子を取り出し、夫人を座らせると――彼女の話を聞く事にした。


 夫人の話を伺うと、どうやら子爵領で行われている普請が予定通り進んでおらず、まずい状態になっているらしい。

 それは他領との合同で行われ、国王の命令で進められている公共事業――用水路の建設だ。

 貴族領同士のしがらみを越えての大用水路網を作り、農地を増やそうという計画のようだ。

 用水路といっても、道路の側溝のようなチャチな物ではない。

 

 それ故、他の貴族領が用水路を計画通り完成させているのに、この子爵領だけが工事の完了が出来ないとなると、メンツに関わるという。

 まぁ、確かにそうだろうな。他の貴族領といっても、ダリアがあるアスクレピオス伯爵領はこの計画には参加していないらしい。

 間に大きな森があるからな。あそこを重機もなく人力で切り開くのは、かなり無理があるだろう。


 夫人の話では、残っている工事区間は約3リーグ(5km)だと言う。それを1ヶ月で完成させなければならない。

 なるほど、人力で用水路を掘るか……大量の人夫を入れて1日どのぐらいの距離を掘れるものであろうか?

 50mぐらいは掘れるとすれば――1ヶ月で1.5km……間に合わないな。

 1日100mでも3kmだからな、ちょっと厳しいだろう。


「この通りだ! なんとかならぬか?」

 夫人が再び頭を下げる。だが、この手の話をするなら、領主――つまり子爵様がやって来るのが道理なのでは?


「この非常時に子爵閣下はどちらに?」

「子爵様は、王都へ出向中だ。突然、呼び出されてな」

 貴族が呼び出されるということは、国――つまり国王からの命令か要請だろう。

 忙しい時期に重なるというのは、少々おかしい……何か謀略に嵌められているのでは?

 夫人の話では、役に立つ家臣も少ないようだ。人材の育成をしてこなかったのが、裏目に出たといったところか……。

 陣頭指揮を執る子爵閣下が留守で、普請の知識もない夫人が四苦八苦している光景が目に浮かぶ。


「褒美が欲しいというのであれば、何でも申せ。私の身体でも良いぞ!」

 慌てて、騎士達が止めに入る。夫人も、なりふり構っていられないのだろう。


「それは、必要ありません。金貨以外で何か褒美になるような物をご用意いただくことは可能でしょうか?」

「何? 私の身体は要らぬと……そして、金貨以外の物だと?」

 夫人は俺の言葉にショックを受けたらしく、しばらく固まっていたのだが、何かを思いついたようだ。


「其方も魔導師ならば、魔導書に興味があるだろう?」

「ほう、どんな魔導書でしょうか?」

至高の障壁(ハイプロテクション)だ」

 勿論もちろん、初めて聞く魔法だ。だが、俺の後ろから、ニャメナの声が聞こえてきた。


至高の障壁(ハイプロテクション)だって、マジかよ」

「ニャメナは知っているのか?」

 後ろを向いて、彼女に確認する。


「そいつは帝国で作られた魔法なんで、魔導書になっている数は極端に少ないと思うぜ。隣のアキメネスで大討伐が行われた時に、王都からやって来た大魔導師が使ったのを見たことがある」

 ニャメナの話では、嘘か真か知らないがドラゴンのブレスも防げるという、上級の防御魔法だ。

 それがマジなら凄いお宝だ。是非、アネモネに使わせてやりたい。

 勿論もちろん、彼女にその才能があればだが。それに、それだけ貴重な魔導書なら、価値も高いだろう。

 つまり、お宝だ。


 しかし依頼を受けるか否か――それが問題だ。


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