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42話 牙熊退治


 湖畔にあるサンタンカの村から、クロトン一家を見送ってから数日後――。

 俺は道具屋の婆さんから買った魔道具を試していた。大枚叩いて買ったんだ、使えないと困るからな。

 目下の目標は重機で使うバイオディーゼル燃料の精製だ。

 今までは燃料に混ぜ物をした白灯油を使用していたが何せ値段が高い。

 何とかして燃料代を抑えたいのだ。そこで白羽の矢が立ったのが、バイオディーゼル燃料だ。

 安いサラダ油等を薬品を使い改質してディーゼル燃料として使う。

 だが問題がある。使う薬品がアルカリで毒性が高く非常に危険なのだ。


 そこで見つけたのが、この魔道具。

 上の器に入れた液体から、指定したある成分を抜き出してくれるという優れ物。

 魔法という、元世界の科学力でも説明が付かないこのチートっぷり。さすが異世界。


 サラダ油をディーゼル燃料として使う時に邪魔になるのが、油に含まれているグリセリンだ。

 こいつを魔道具で抜けばいい。

 魔道具の上の器にサラダ油を注ぎ――中間の小さな器にシャングリ・ラで買ったグリセリンを入れる。

 俺が薬品を使って、バイオディーゼル燃料を自作した時に出来たグリセリンは赤茶色のドロドロだったが、購入した物は無色透明――トロトロの液体だ。

 だが、真ん中の器にグリセリンを入れた途端、両脇の通路から液体が流れ始めた。


「おいおい! いきなり始まるのかよ!」

 そういえば婆さんがやったデモンストレーションでも、先に器を両脇に置いてたな。

 慌てて液体が落ちる場所へプラ製の容器を置いた。

 左側へ落ちる液体は茶色のトロトロ――右側へ落ちるのはサラサラの黄金色の液体。

 指でちょっと摘んでみる――灯油や軽油というよりは、粘度の低いサラダ油って感じだな。


「こりゃ使えるわ」

 液体が落ちるのに時間は掛かるが、器に油を入れて放置しておけばいいのだから、寝ている間にでもディーゼル燃料を作らせておけばいい。

 落ちる時間は5分で500mlぐらいだ。10分で1L――1時間で6L――12時間稼働させれば、72Lの油を処理出来る。

 出たグリセリンも燃えるからな。燃料としても使えるし、植物由来なので堆肥に混ぜて肥料としても使えるかもしれない。

 ただ、グリセリンは甘いんだよね。アネモネやミャレーがペロペロしないように注意をしなくては。

 高い保湿ティッシュが甘くて美味しいなんて話があるのだが、あれは保湿成分にグリセリンを使っているせいだ。


 定番なのは石鹸を作ったり化粧品を作ったりだが、それはシャングリ・ラで買えるからな。

 魔道具の使い道もこれに限らない。例えば、液体の濃度を上げるのにも使用出来る。

 試しに、上にスコッチウイスキーを注いでみた。

 左側に流れるのは水――そして右側へ出てくるのはアルコール度数100%に近いスコッチウイスキーだ。

 普通に蒸留器を使ってもこうは出来ない。

 こりゃ凄い。

 試しに、約100%スコッチを飲んでみる。


「ふぉぉぉぉぉ! ゲホっゲホっ!! 咳にも火が点きそうだぜ!」

 こりゃ酒好きに売れるかもな。酒は強いほうが美味いって言う飲兵衛さんも多いし。

 アルコールから水を抜いて濃縮出来るって事は他の薬品でも可能って事だ。

 

 シャングリ・ラを検索すると、便所の洗剤として10%の硝酸が売っている。こいつから水を抜いて濃縮すれば硝酸が手に入る。

 同じく10%の硫酸も1000円以下で売っている。

 硝酸と硫酸があれば、ニトロ化が可能だ。原料のグリセリンが目の前にあるし、シャングリ・ラではトルエンも売っている――。

 ――という事は、ニトログリセリンでも、トリニトロトルエンでも、トリニトロベンゼンでも好きなだけ作れるって事だ。


「まぁ作らないけどな。危なすぎるし」

 これでリッター約3000円の燃料が300円で作れるようになったのだが、その差額は2700円か。

 これで100万円の元を取ろうとすれば――え~と370L以上作ればいいか。

 まぁ400Lとしても直ぐに元が取れるな。大型重機なら400Lは燃料が入るし。

 しかも、他に使い道が色々とあるしな。これは良い買い物をしたかもしれん。

 例えば、塩水から水を抜いて塩を残したりも出来るのだが、通路に結晶がこびりついてしまい掃除が大変だと解った。

 牛乳から水分を分離して、生クリームやバター等も作れる――道具の使い方はアイディア次第だ。


 だが、出来上がった燃料を試験的にディーゼル発電機に使ってみたのだが、調子がよろしくない。

 どうも燃料の生成に失敗しているようだ。再度、バイオディーゼル燃料の本を端まで読んでみる。

 人生、何事も勉強である。失敗は成功の母というが、マザーボード、マザーテープ、母国語――お父さんはどこへ行ったんだろう。

 まぁ、そんな事はどうでもいい。


 本を読んで解ったのは、単純にサラダ油からグリセリンだけを抜けばいいという物ではなく、燃料生成のためにはアルコールとアルカリを使ったエステル化は必要なようだ。

 これは生成の方法を変える必要がある。


 先ずは、サラダ油にアルカリとアルコールを投入して、エステル化を行う。

 そいつを魔道具の上の皿に乗せて、真ん中の皿には既に出来上がったバイオディーゼル燃料を入れる。

 すると当然、両側から液体が滴り始める。左側から落ちるのは出来上がったと思われるバイオディーゼル燃料。

 そして、右側にはドロドロのグリセリンを含む不必要な成分が滴る。これでいけるはずだ。


 実験で出来た燃料をディーゼル発電機へ投入してみたが、問題無く稼動し始めた。


「ふう……いきなり重機に試さなくて良かったぜ」

 高価な重機をぶっ壊すところだったな。何事も経験ってやつだ。


 ------◇◇◇------


 魔道具の実験が上手くいったので、畑の世話をする事にした。

 トマトが大きくなっているので、脇芽を取って挿し木にする――こうすれば、どんどん増やす事ができるのだ。

 シャングリ・ラでメ○デールという薬品を買う。挿し木にはこいつを使う、定番商品だ。

 畑に虫除けの魔石を置いているので、結実のための虫媒は望めないな。ト○トトーンも買っておくか……。

 シャングリ・ラを眺めて、色々と思案していたのだが――なんだか、森がざわついているような――なんだろう。

 すると、何かの叫び声が聞こえてきた。


「ふぎゃぁぁぁぁ!」

 この声はミャレーか?! なんだいったい?

 バキバキと枝が折れる音を出して、草が激しく揺れると、ミャレーが飛び出してきて俺の後ろに隠れた。

 そして、その後ろには巨大で真っ黒な生物がくっついてきているではないか。


「ガアァァァッ!」

 黒い巨躯を怒らせ毛むくじゃらの怪物が4脚を踏ん張り、デカい牙を剥きだして俺たちを威嚇する。

 ――それは巨大な熊。しかし元世界のヒグマより巨大で、長く鋭い牙が口からはみ出ているのだ。


「うあぁぁぁ!」

 俺は腰を抜かして畑に手を付いたのだが――熊と俺の間に黒い影が素早く割り込んだ。


「フシャァァァッ!」

 負けじと牙を抜き出して敵を威嚇する黒くしなやかな身体――俺の前に現れたのはベルだった。

 彼女が牽制している間、俺は体勢を立て直すとアイテムBOXから、クロスボウを取り出した。

 何台かのクロスボウには、非常用として矢が装填されたままになっている。

 クソッ! これじゃトレイン(*1)じゃねぇか!


 鋭い爪を持つ腕を天高く振り上げて立ち上がった熊――デカい! 4m以上はあるだろう、バンザイすりゃ5mに届く。

 俺たちの前に立ち塞がる黒く巨大な壁に向かって、クロスボウを発射した――命中! カーボン製の矢が深々と熊の身体へめり込んだ。

 だが熊の動きは止まらない。

 アイテムBOXからもう1台、装填済みのクロスボウを取り出して再度発射!

 俺の後ろからも気力を取り戻したミャレーがコンパウンドボウから矢を放った。

 戦意を喪失していた彼女ではあったが、俺という心の支えが出来たせいで、再び敵に立ち向かう行動を起こしたのだろう。


「クソ! 止まらんぞ?! タフ過ぎるだろ!」

 このままでは、ただ殺られるだけだ。何かないか……威嚇でも何でもいい。


「そうだ! 爆竹で逃げないか?!」

 俺はアイテムBOXから爆竹を取り出すと、ターボライターで火を付け、熊へ向かってほうり投げた。

 だが黒い毛むくじゃらは何を考えたのか、その爆竹へ食いついたのだ。

 まるで、投げたボールを犬が口でキャッチするように――。


 熊の口の中で連続した炸裂音が鳴り響く。どんな凶悪な生物だろうと、口の中で爆竹が爆裂したらどうなるか?


「グオォォォ!」

 黒い巨躯の獣は完全に戦意を喪失し口から血を流しながら、畑の上で七転八倒し始めた。


「ユ○ボ召喚!」

 畑の上に現れたパワーショベルに乗り込むと、エンジン全開――レバーを操作して、アームを高く振り上げた。


「ユ○ボアタック!」

 のたうち回る熊の頭へ向かって、鋼鉄のバケットが振り下ろされる。

 地面へ伝わる振動――鋼のアームとバケットが軋む音。


「おりゃ、もう一発!」

 再びバケットが黒い巨躯にめり込み、漆黒の毛皮を持った獣はピクピクと痙攣したまま動かなくなった。


「念の為に――」

 再度、バケットで小突いてみるが反応はない――完全に沈黙した。

 辺りに静寂が戻る……しかし、せっかく作物が大きくなっていた畑はメチャクチャになってしまった。


「はぁ……ミャレー、こんなのを連れてくるなよ……」

 俺は、パワーショベルの座席の上で、うなだれた。

 こんな事は考えたくはないが、これがゲームならNPCノンプレイヤーキャラクターを使ったMPK(*2)だな。

 いやいや、変な事を考えるのは止めよう。

 しかし、この世界へやってきた時には逃げるしかなかった俺だが、こんな化け物に立ち向かって仕留める事が出来るようになったのも、あの葉っぱのおかげなのか?

 だとすれば、正に諸刃の剣だな……。


「ごめんなさいにゃ……逃げきれなかったにゃ」

 そりゃ、熊は森の中でも時速60㎞ぐらいのスピードが出るからな。


「ケンイチなら何とかしてくれると思ったにゃ」

「そりゃ、頼ってくれるのはありがたいけどな」

 流石の獣人も単騎で熊には太刀打ち出来ないようである。

 ライフルでもあればなぁ。それか矢に炸裂弾を仕込むとかな。非常用に少量でも爆薬を作ってみるか?


「ケンイチ! 大丈夫?!」

 家から、騒ぎを聞きつけてアネモネが走ってきた。


「大丈夫だが、せっかくの畑がダメになってしまったよ」

「ごめんにゃ……」

「ミャレー、気にするな。こういう事もある。それに大物も仕留められたしな――これは熊だろ?」

「牙熊にゃ」

 凄い牙が生えているから牙熊かよ。しかし、この牙だけでも素材になりそうだな。

 それに、この毛皮も凄いだろう。敷物にしたら暖かそうだ。

 しかし獣臭い! 漂ってくるのは、洗っていない汚い犬の臭いを酷くしたような悪臭で鼻が曲がる。

 極太の腕と爪も凄い。こいつで引き裂かれたら一発でアウトだな。


 熊の攻撃で怖いのは、内から外へ弾き出すようなパンチだ。そいつを喰らえば人間などは即死。

 逆に、こいつ等は自分の胸や腹は叩けない――身体構造的に無理なのだ。

 それ故、立ち上がった瞬間に懐に飛び込めば攻撃は受けない。まぁ、そう言うのは簡単だが実際にやるのはかなり不可能に近いが。

 だが立ち上がった熊の懐に飛び込み、熊がぶっ倒れるまで一緒にダンスを踊り続けて、熊を倒したという逸話もある。

 また、熊の口の中へ拳を突っ込み窒息させて勝ったという人もいるのだ――マジで。

 

 為せば成る、勝負は時の運――そうは言っても普通は逃げるが勝ちなのだが……。


「ミャレー、これだけの大物なら、かなり高く売れるだろう?」

「毛皮だけでも金貨3枚ぐらいになるにゃ」

 60万円か。敷物等に加工されれば数百万円で取引されるという。熊の敷物とか成金が好きそうだな。

 通常は10人程で仕留める獲物を2人で仕留めたのだ。それだけ分前も大きい。


「しかし、こりゃ下拵えも出来んなぁ」

「ウチも、これは無理だにゃ」

「しょうがない。アイテムBOXへ入れて、街の冒険者ギルドで処理してもらおう」

「にゃ」

「明日、俺一人で街へ行ってくるよ」

 そろそろ、道具屋の婆さんの所で魔導書の登録も済んでいる事だろう。


 俺は、毛むくじゃらの熊のかばねをアイテムBOXへ収納した。

 これだけ巨大な熊なら肉にもしばらく困らないだろう。それに俺は熊の肉は初めてじゃないしな。

 田舎で何回か食った事がある。独特の臭みはあるが、羊肉でジンギスカンが食えるなら大抵の肉は食えるだろう。

 もっともヒグマと、この熊が同じ味っていう保証もないわけだが。

 ミャレーの話では肉は普通に食えるそうだから問題はないだろう。


 ------◇◇◇------


 ――次の日。

 朝食の後、オフロードバイクをアイテムBOXから取り出して、出発の準備をする。

 そろそろ燃料も入れるか……シャングリ・ラからいつもの混合燃料を購入した。

 チェーンにチェーンルブもスプレーする――こいつは1500円だ。長く使うには、細かなメンテが必須である。


「さて、行ってくるか」

 アネモネとミャレーに留守番をさせて、木漏れ日が溢れる森の中をバイクで走りだした。

 そして、街道へ出てから青空の下、徒歩で街へ入る。

 相変わらず街は賑やかだ。ダリアもそうだったが、人々が重税や圧政に苦しんでいる風でもない。

 この国の政治はそれなりに上手くいっているようだ。


 無頼達のアジトが潰された事件も、悪党共の縄張り争いとして処理された模様。

 こちらにとっては好都合だな。

 市場を少し見て回ってから道具屋へ向かった。


「ちわー。婆さんいるかい」

 ダリアの爺さんの所もそうだが、物が沢山あって暗いってのはこの世界の道具屋のデフォルトなのか?

 たまには明るくて、巨乳のお姉さんがやっている道具屋もあるんだろうか?


「おっと、兄さんかい。魔導書の登録は出来てるよ」

 俺は大口のお得意様だからな。顔を覚えてくれたらしい。


 その婆さんが分厚い表紙の本を出してくる。ページ数はそんなにないのだが、表紙が立派で厚いのだ。

 中身に書いてある事が大事なのなら、ペラでいいと思うのだが……。

 それは日本人感覚なのであろうか?

 例えば、その内容をコンピュータで割付してプリンタで打ち出したらどうなるのか?


「婆さん、こいつの内容を、複写したらどうなるんだ?」

「ああ、魔法の素人ならそう考えるだろうね。一番後ろのページを見てみな」

 言われるままに、本の一番後ろのページをめくると薄く加工された黒い石がはまっている。


「それは魔石さ。その本に書いてある呪文とそいつが紐付けされてるから、石が無いと式が起動しないんだ」

「よく解らんが、本だけを写しても意味がないって事か」

「その通りだね」

 だが魔導書はゲット出来た。

 次は冒険者ギルドだ。


 ギルドの中へ入ると人で賑わっている。ここは街のハロワでもあるからな。

 小さな子どももいる。薬草などを採取して小遣い稼ぎをしているらしい。

 ここなら人の紹介もいらないし、何の資格も要らないので、とりあえず仕事が欲しい奴はここにやって来る。

 

 溜まっていた赤露草と青露草を換金したついでに、受付のお姉さんの巨乳を見て目の保養。

 十分に堪能した後、アイテムBOXに入っている大物を換金にいく。


「ちわ」

「おう、何を持ってきたんだい?」

 相変わらずチャラそうな金髪の兄さんが対応してくれるのだが――。


「ちょっと大物なので、ここでは出せない」

「ん? おお、アイテムBOXを持ってるオッサンか。それじゃ裏に来な」

 どうやら、俺の事は覚えていたようだ。

 カウンターの扉を開けて、そのまま受付の部屋を通り抜けて裏口から外へ出る。

 裏手には、解体の工房があるので、そこへ向かった。


「ここでいいだろう。大物はここで解体するんだ」

 通された所は、巨大な分厚いテーブルが置いてある部屋。

 俺は、そのテーブルの上に、アイテムBOXに入っていた牙熊を取り出した。


「牙熊かよ! こいつは大物だな」

 近くにいたギルドの職員も、熊を見に集まってきた。


「仕留めてすぐにアイテムBOXへ入れたから、新鮮だ。あまりに巨大で、下拵えも出来なくてな」

「これだけの大物なら解体して冷やすだけでも、一苦労だしなぁ。全部買い取りかい?」

「いや、肉だけ欲しい」

「それだと、肉を冷やすために、魔導師を雇わなくちゃならんから、その分の料金が追加になるぜ」

「構わん。素材の代金から引いてくれ」

「解った。しかし、この傷は……」

 男は、牙熊に残った傷が気になるようだ。


「これは、矢傷だが頭のこりゃなんだ?」

「デカいメイスで殴ったのさ」

「相当デカいメイスじゃなきゃこんなにはならないぜ? オーガにでも殴らせたのか?」

「別に仕留めた方法を報告する義務はないのだろう?」

「そりゃないけどさ。気になるじゃん」

 随分と気安いのだが、こういう人間はあまり好かん。


「説明するのが面倒だ。どうでもいいから肉だけもらえればいいよ」

「ちぇっ! しかし、この分だと魔石は取ってないな?」

「ああ」

 魔石? 魔物に魔石があるのか?


「魔石があったらどうする? それも換金か?」

「それじゃ魔石と肉を、こちらにくれ」

 とりあえず、なんだか解らんが魔石というのが欲しいので、貰う事にした。

 魔導書に入ってたような物が、魔物の中に入っているのか。


「はいよ~。じゃあ早速やるか。これだけの大物じゃ高く売れるだろうし、処理が遅れて傷めたら、どやされちまう」

「頼むよ」

「急ぎでやるんで、夕方には出来るぞ」

「解った」

 夕方に出来るのは解ったが、朝一でやって来たから、昼にもまだ時間がある。

 こりゃ、一度家に帰ってから、夕方にまた顔を出すか。6時間も7時間も待ってられないからな。


 ------◇◇◇------


 一度、家に戻り、午後の4時頃、再び街を訪れた。

 ギルドからの引取が遅くなったら街へ泊まるかもしれないと、アネモネとミャレーには言ってある。

 夕飯の準備も済ませてきたし、朝の分のパンやインスタントスープも置いてきた。

 作り方は教えてあるので心配ない。


 だが、ギルドへ顔を出すと出来上がっていると言う。


「それじゃ金が金貨3枚(60万円)と、銀貨1枚(5万円)だ。それと、魔石だな」

 男がくれたのは黒い石。滑らかでツルツルしている。


「魔導師を雇った分は?」

「ちゃんと引いてあるぜ」

「そうか、ありがとうな」

「また、大物を頼むぜ」

 こいつの給料は基本給+歩合制らしい。つまり大物が多いと、もらえる給金が増える寸法だ。

 ギルドを出て通りを歩き家路を急ぐ。すぐに辺りが暗くなってしまう。


 だが、いきなり後ろから腕を掴まれた。


「見 つ け ま し た よ ~」

 まるで地の底から聞こえるかのような声に振り向くと、そこには白いブラウスと紺色のロングスカートの女性が立っていた。

 少々やつれて、金髪がボサボサになっていたが――。


 それは、マロウ商会の娘――プリムラさんだったのだ。




 *1 MMORPG等で、モンスターなどを引っ張り特定プレイヤーになすりつけて、killを狙う行為

 *2 MPK Monster Player Killerの略 モンスター等を使って、プレイヤーをkillする行為

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