41話 クロトン一家との別れ
サンタンカのクロトンという男を悪党共の手から救出するため――。
俺達はアストランティアの街にある悪所に巣食う無頼達のアジトを急襲、これを壊滅させた。
後はこの街を脱出して、クロトン達は村から引っ越しをしなければならない。
無頼達の主要メンバーは殲滅したので、追手が掛かる事はないだろうと思われる。
だが、街の門は朝まで開かないので門の近くにあった廃屋へ一時避難する事にした。
門の近くには何台か馬車が止まり、そこでキャンプをしているのだが、宿屋に泊まると金が掛かるので節約のために車内泊をしているのだ。
――俺達は、クロトンが言っていた廃屋へ到着した。
馬を繋ぐと、そこの井戸を使って獣人達が血糊を落とすために身体を洗い始めた。
「ミャレー、石鹸な」
「にゃ」
俺は馬に井戸の水をやる事にした。俺たちが暴れていた時に、馬は道草を食べていたようだったから飯は大丈夫だろう……多分。
草をやろうにも、ここら辺には無い。可哀想だが門が開くまで我慢してもらうしかないのだ。
シャングリ・ラから、4人分の毛布を買う。クロトン親子と、ニャニャスの分だ。
俺やアネモネの分は、アイテムBOXの中にしまってあるので、それを使う。
「ほら、夜は冷える。この毛布を使え」
「ありがたい。だが、これは売り物なのだろう?」
「まぁそうだが。代金は悪党の巣から持ってきたから気にするな。そのまま持っていっていいぞ」
「ありがとうございます」
クロトンの女房が頭を下げる。
「それよりも、身体は大丈夫か?」
「ああ、なんとか……」
「明日、治癒魔法を使える奴を探してみるか?」
「いや、そこまで世話になったんじゃ……」
「せっかく助けたのに、予後不良じゃ困るからな」
魔法が使えそう――となると、道具屋の婆さんか。ダリアの爺さんとも知り合いって事は魔導師なんだろう。
魔法にも詳しかったしな。
「しかし、アイテムBOX持ちとはなぁ。それに凄い魔法――そりゃ、王侯貴族から逃げるわけだ」
「解ってくれたか」
「お母さん、お腹減った……」
マリーが空腹を訴える。父親が助かってホッとしたので、空腹感が襲ってきたのかもしれない。
確かに、3時頃からバタバタして何も食べていなかったからなぁ。
「子供が腹を空かしてちゃイカンな。それじゃ寝る前に飯を食おうか――何を食う?」
「カレー!」「にゃー!」
アネモネとミャレーが叫ぶ。
またカレーかよ。まぁ、それでいいと言うならいいのだが。野菜も肉も炭水化物も取れるから、栄養的には問題はない。
このメンツでインスタントってわけにはいかないだろう。
アイテムBOXから道具とカセットコンロを2つ取り出して、1つに水を入れた圧力鍋を掛ける。
大人が5人と子供が2人だから……4Lもあればいいか。余ったらアイテムBOXへ入れればいい。
LEDランタンの青白い光で照らしながら、料理の準備をし始めた。
材料の野菜と肉もアイテムBOXの中に、たっぷりと入っている。クロトンの女房がいるので野菜の皮を剥くのを手伝ってもらう。
野菜は全部、アストランティアの市場で買った物だ。少々アクの強い野菜が多いので、アク抜きをする。
カセットコンロでお湯を沸かし重曹を投入して野菜を煮た後、水を替えながら20分程晒す。
手間が掛かるが、まともな料理ってのは時間が掛かるもんだ。
腹が減っているマリーも、じっと料理が出来るのを待っている――良い子だな。
肉を炒めて、圧力鍋のお湯が沸いたらアク抜きした野菜と一緒に投入。
最後に、S○Bの赤い缶に入っているカレー粉を投入して塩梅を整えれば完成だ。
まぁ、カレーというよりは、いつものカレースープだが。
アイテムBOXから皿やスプーン等を出す。シャガ討伐の時に冒険者達の為に沢山買った物だ。
シャガのアジトから連れてきた女達に餞別として、色々と持たせてやったのだが、それでもまだ残っている。
パンは、シャングリ・ラでいつも買っている訳あり商品の袋詰パンのセットだ。
「美味しい!」
カレーを一口啜ったマリーが感嘆の声を上げた。
「美味しいよね。ケンイチの料理は皆凄く美味しいんだよ」
「にゃー!」
「これは、香辛料のスープかよ。こんなの滅多に食えねぇ」
ニャニャスもカレーを食べて、尻尾を立てている。
ダリアにはバコパというスパイスシンジケートがあったが、この街にも似たような組織があると言う。
それだけ香辛料は儲かるって事なんだろう。それを、くすねようとして、クロトンは失敗したらしい。
「このパンも柔らかくて甘くて美味しい!」
「あの……うちのマリーは野菜嫌いで困ってしまうのですが、どうやったらこんなに野菜が美味しくなるのでしょう」
カレーを食べたクロトンの女房が野菜の味に気がついたようだ。
「ああ、野菜にな――苦い成分やら変な味がする成分が含まれているんだよ。それを抜かなければならない」
「野菜を煮る時に使った白い粉がそうなのか?」
クロトンが、目ざとく見ていたらしい。
「俺は専用の薬品を使っているが竈の灰でも同じ事が出来る。灰で煮て、一晩水に浸ければいいんだ。あまり煮過ぎないようにな」
「竈の灰ですか?」
クロトンの女房が信じられないような顔をしているが――。
「まぁ、試しにやって見ればいい。山野菜にも使えるぞ」
「旦那、独身かい?」
カレーを食いながら、ニャニャスが妙な質問をしてくるのだが。
「ああ、それがどうした?」
「男にこんな料理を作られたら女房の立場がないな。そりゃ女が寄り付かない訳だ。ハハハ」
「余計なお世話だ」
この手の話は、皆から言われるな。アマナも同じような事を言っていたし。
飯を食い終わって後片付けをする。アイテムBOXの中に入っている木灰を取り出して洗剤代わりにした。
灰は肥料にもなるし色々と使い道があるので、なるべく集めて保存しているのだ。
クロトンの女房にも手伝ってもらうが、マリーとアネモネは腹が一杯になったのか、もう眠っている。
そりゃ、いつもならとっくに寝ている時間だからな。
クロトン親子は荷馬車の荷台の上で毛布を被り、川の字になって眠るようだ。
俺は、バイオディーゼル燃料の実験をした時に作った小屋を、アイテムBOXから取り出した。
「俺たちは、この中で寝ようぜ」
「俺もいいのか?」
ニャニャスが遠慮がちに聞いてくる。
「狭いが、何とか眠れると思うが……」
縦は2m50cmぐらいあるので、図体のデカい獣人でも大丈夫だろう。
とりあえず、中に入って毛布を被ってみたが、なんとか横になれる。地面で寝るよりはマシだ。
門の近くなので暴漢に襲われる事もないだろう。
外で、アイテムBOXからコーラを出して一休みしていると、クロトンが俺の所へやってきた。慌ててコーラを隠す。
「助けていただき、本当に感謝している」
「はは、あんな可愛い娘と美人の奥方を置いて、友達の女房に横恋慕とは良いご身分だな」
彼は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐに察したようだ。
「面目ない……」
一応、元役人だ。それなりに学もあるはずで頭は悪くないのだろう。だが、学があるのに馬鹿な奴はいる。
「さっきも言ったが、アネモネとマリーに頼まれたからな。俺としては、もっと嫌味を言いたいところだが――すでにボコボコのようだし、良い子のマリーと奥さんに免じて許してやるよ」
「すまない……」
とりあえず、夜が明けるまで寝ることにした。
------◇◇◇------
――次の朝。
小屋の中で目が覚めた。この小屋には窓がないので、イマイチ時間が解らん。
扉を開けると辺りは白みだしていたが、少々肌寒い。
回りの家々を見ると竈の煙が上がっているので、すでに起きている住民がいるようだ。
俺は暖を取るための薪を燃やし、アイテムBOXからカセットコンロを出すと、鍋に井戸の水を汲んでお湯を沸かし始めた。
朝の食事は面倒なので、インスタントスープにしてしまおう。インスタントならとりあえず、お湯を沸かせば飯が食える。
このままサンタンカの村へ帰って、引っ越しの準備という力仕事をするとなると朝飯は必須だろう。
お湯にインスタントスープの素を入れて、かき混ぜていると皆が起きてきた。
「お早うございます」「おはよう」「にゃ~」「おっす、ふぁぁぁ~」
大きなあくびをしたのはニャニャスだ。
疲れが溜まっていたのか、マリーとクロトンはまだ眠っている。
俺と一緒に寝ていた連中は皆が起きてきたので、宿泊に使っていた小屋をアイテムBOXへ収納した。
この小屋は中々便利だな。ちょっとした宿泊に使える。テントよりも安全だしな。
小さい窓をつけたり、荷物が置けるような棚を付けたり、改造するのも面白そうだ。
「お世話になりっぱなしで、申し訳ございません」
クロトンの女房が、料理をしている俺に頭を下げてくる。
「いいってことよ。一樹の陰一河の流れも他生の縁ってな」
彼女が髪の毛や身だしなみを気にしているので、アイテムBOXから櫛を出してやった。
髪を櫛でとかし、合間に見えるうなじが妙に色っぽい。さすが大人の女だ。
やっぱり女はこのぐらいじゃないとなぁ、大人の色気ってもんが――いかんいかん。
「もう、食事は出来るぞ。クロトンを起こしてくれ」
「解りました」
皆で朝食を取った後、門が開いたのでサンタンカの村へ向かう前に、道具屋の婆さんを訪ねた。
案の定、彼女は治癒魔法を使えると言うので、金貨1枚(20万円)を払ってクロトンに治療を受けさせた。
内臓をやられてたりして、旅の途中で急変とかされると困るからな。
その治療の合間に、ミャレーに噂話を街中で拾わせる。
街に流れている噂では、悪所に犬人達を引き連れた化け物が出たらしい。
巨大な腕で建物を薙ぎ払って、無頼達に多数の死者が出た――という話になっている。
「これなら、追手はかからないな」
「にゃ」
「しかし、犬人達に罪をなすり付けて良かったのか……」
「良いに決まっているにゃ」
「そうでさ」
「いいのかなぁ……」
荷馬車は村に向かって出発したが、荷台で揺られている子ども達はまだ眠たそうだ。
クロトンに今後の予定を聞いてみる事にした。
「サンタンカを出て行く宛てはあるのか?」
「それが……無いんだよ。何しろ急だったからな。しかし、こんな荷馬車まで用意してもらって、俺達には対価が……」
「荷馬車は、奥さんが村長から買った物だ」
「それでは、あんたへの御礼の分が……」
「それは、昨日の晩に悪党共からもらってきたから、心配するな」
「しかし……」
言葉に詰まるクロトンだが、うつむき加減だ。家族を抱えて未知の土地へ行くんだ、不安が一杯だろう。
「行く宛てが無いなら――ダリアへ行って、そこからノースポール男爵領へ行けばいい。最近出来たばかりの領だが領民を募集している」
「それはありがたい」
「男爵様は俺の知り合いだから紹介状を書いてやる。貴族だが話の解るお人だ。きっとよくしてくれるだろう」
新しく出来た男爵領では、人手不足だろう。この男は元役人で役に立つはずだ。
「何から何までありがとうございます」
奥さんが頭を下げてくる。
「お礼はマリーに言うんだな。アネモネと仲良くしてくれたからな」
「ケンイチ、マリーに絵本を作ってあげて……」
アネモネが俺の腕を掴んできた。
「ああ、そうか。絵本作りの途中だったな。後は刷って綴るだけだしな。多分すぐに出来るし餞別に贈ってあげるか」
「うん」
別れが決まっているので、アネモネも寂しそうだ。せっかく出来た同い年の友達なのにな。
俺たちはサンタンカの村へ到着した。
生きて帰ってきたのを喜んでいる住民もいるが、トラブルを引き込んだとして反発している住民も多い。
やはり、引っ越すしかなさそうだ。
クロトン達は家財道具を荷車に積んで引っ越しの準備を始めた。
――とは言っても、小さな荷馬車だ。荷物もそんなには持っては行けない。
小さなタンスと机、小物が入った木箱が少々。ベッドは載るかなぁ――マリーの小さなベッドは載るだろうが、夫婦用のダブルベッドは無理だろう。
色々と置いていくしかない。
力仕事はニャニャスとミャレーがいるので困らないはずだ。ニャニャスは一緒に旅へついていくらしい。
俺は、マリーに贈る本を作るために、村の外れにアイテムBOXから小屋を取り出して中に篭もる事にした。
小屋の中にテーブルを出すと、ガリ版刷りの道具と裁断機。そして製本機とそれに繋ぐモバイルバッテリーを収納から取り出す。
1枚ずつだけガリ版で刷ればいいのだから簡単だ。それに一度作っているので要領も解っている。
印刷した紙を纏めて本の背中に糊を塗り込むと、バッテリーを繋いだ製本機へ入れてスイッチオン!
暫し待つ――ブザーが鳴れば完成だ。
3方を裁断した本を持って、クロトンの所へいくと、山積みになった荷物を荷馬車にロープで括りつけていた。
アネモネはマリーと一緒にいたので、出来上がった本を彼女に渡す。
「クロトン、手伝えなくてすまんな。アネモネ、君から絵本をマリーに渡してあげな」
「うん!」
アネモネは俺から絵本を受け取ると、マリーに手渡した。
「元気でね!」
「うん……」
マリーが大粒の涙をポロポロと流し始めると、アネモネは黙って彼女を抱きしめた。
「ニャニャス、これを持っていけ」
俺は、アイテムBOXからカットラス刀を取り出して彼に渡した。
「こんな良い剣をいいんですかい? あれだけ暴れたのに、欠けもしないなんて普通の剣じゃないでしょうや」
「マリーを守ってやってくれ」
俺はクロトンに金貨を5枚(100万円)渡した。
「これは餞別だ。文無しじゃ、どこへ行くのにも困るだろう」
「しかし、これだけしてもらって、俺には……」
「なぁに、金は悪党共の巣からかっぱらってきたんだから心配するな」
一応、マロウ商会と道具屋の爺さんの場所も伝えておく。物を揃えるなら爺さんのところがいいだろう。
「ああ――俺が、どこにいるかは聞かれても内緒でな」
「解った……」
「そして、コレが紹介状だ。元役人だし、仕事も出来ると認めてある。きっと良い仕事をくれるだろう」
「ありがとうございます」
俺の所へやって来た、クロトンの奥さんが俺に礼を言うのだが、彼女に苦言を呈する
「奥さん、今度コイツが下手を打つような事があったら、本当に見捨てた方がいいぞ」
「いや、大丈夫だ! 心を入れ替えて働くから」
クロトンと奥さんが顔を見合わせて頷くと、何かを差し出した――彼の掌に載っていたのは金の指輪が2個だ。
「申し訳ないが、俺達に残っている金目の物はこれぐらいしかない」
「おい、これって結婚指輪じゃないのか?」
「誂えた物じゃないんだ。昔、古道具屋で買った物さ。金貨1枚分の価値もないと思うが受け取ってくれ」
「いや、しかし……」
「頼む……」
「解った。それじゃ、これは担保として貰っておく。金貨5枚は貸しという事でな。いつか金が出来たら、その時この指輪と交換してやるよ」
クロトンが手綱を取り、荷馬車が出発した。
一緒についていくニャニャスは、走っていくと言う。
まぁ、時速10㎞ぐらいじゃ、獣人にとっては歩いているようなものか。
「マリー! 元気でね!」
「アネモネもね!」
涙を流し手を振り合う2人であったが、すぐにカーブした道で彼等の姿は見えなくなった。
アネモネはしばらく、彼等が消えた先を見ていたのだが――。
「ふぅ……疲れたわ。俺たちも帰るか」
「うん……」
一応、サンタンカの住民にも挨拶をしたのだが、彼等は俺たちには興味はないようだ。
所詮よそ者だからな。
ニャニャスとクロトンの女房が俺達に助けを求めたのも、村からの疎外感があったのかもしれない。
これから彼等が向かうノースポール男爵領は新規の住民が多い。移民には向いているだろう。
アネモネを抱え太腿まで浸かり川を渡る。湖に流れ込んでいる所は流れは速くない。
川を渡り終えた後、村から見えない所で、オフロードバイクをアイテムBOXから取り出してアネモネとタンデムした。
やはり、バイクは速い! あっという間に家に到着した。
「にゃーん!」
ベルが黒い毛皮を光らせて出迎えてくれた。
だが、その顔は――お前ら私を放置してどこに遊びにいってたんだよ? ――みたいな顔に見えなくもない。
「悪い悪い」
彼女の顎下を撫でると、ゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らす。
色々とやったが、一段落してホッとした。
全く、人助けなんてするような柄じゃないんだがなぁ……。
可愛い女の子達に頼まれちゃしょうがねぇ。
なんだかんだで、もう昼だ。
「朝が早かったからな、腹が減ったな。何か食うか?」
「カレー!」
「にゃー!」
「またかよ!」
いいけどさ――昨日の夜に作ったのが、まだ残っているからな。
だが、温めるついでに一手間加える。
昨日作ったのはカレースープみたいな物だったが、ちょっとトロ味をつけよう。
カセットコンロを出して、家の前で料理を始める。
フライパンを出し油を入れて、小麦粉をキツネ色になるまで炒める。こいつをカレーに入れると丁度いいトロ味と香ばしさが付くのだ。
「出来たぞ~」
「何か、香ばしい匂いがするにゃ!」
ミャレーはカレーの皿に鼻を近づけて、クンカクンカしている。
「流石、ミャレーは鼻がいいな」
「アネモネ、ちょっとトロ味を付けたから米の方がいいぞ」
「うん!」
ミャレーはパンにカレーを載せているのだが、実に美味そうに食っている。
「にゃー、カレーって色んな味があるにゃ!」
「色んな物にも合うしな」
「カレーは最強!」
アネモネも美味しそうにカレーを頬張っているが、悲しい事があった時は美味い物を食うのが一番だと思う。
酒を飲んでも解決にはならん――と思うのは、俺が呑んべぇじゃないからかもしれないが。
無論、異論は認める。
「ミャレー、分前をやるよ」
俺が、アイテムBOXから金貨を取り出そうとすると、彼女が止めた。
「要らないにゃ。金ならまだギルドにたっぷり入っているにゃ」
「いいのか?」
「いつも、ケンイチに美味い料理を作ってもらっているから要らないにゃ」
「そう言うなら、いいけどな」
獣人は金の勘定が出来ないから、金遣いが荒そうなイメージがあるのだが。
「男共はそうだにゃ。多分あっという間に金を花街辺りで使いまくって文無しになるにゃ」
「ありがちだな」
「そうすれば、女に集ってくるのは目に見えているにゃ」
なるほど、ミャレーが男共から離れたのは、そのせいもあるのか……。
飯の後、改めて奪ってきた金貨を数えると、30枚程あった。
600万円か……結構良い稼ぎだな。
剣やら装備も拾ってきたしな、売ればもう少し金になるだろう。テーブルの上に積み重なる、金色の山に目が眩む。
笑いが止まらない。
「ははは! なんだよ簡単に稼げるじゃないか。これを本職にした方が早いんじゃないのか?」
「にゃ! それじゃ悪所で、もう2~3箇所襲うかにゃ?」
ミャレーはすっかり乗り気だ。
「はははは……はは…………あれ?」
「ケンイチ、どうしたにゃ?」
「…………」
俺の思考は停止し、固まった。
待て待て待て――どうしてこうなった? 相手が悪党共とはいえ、なんで殺しで、かっぱぐのがデフォルトになってるんだ?
記憶を反芻してみる。むしゃむしゃしてやった、今は反芻している。いや、そんなネタの話ではない。
熟考の結果――俺は一つの結論に辿り着いた。シャガを襲った時に齧った、あの葉っぱだ。
副作用や後遺症はないと、安心していたんだが……。
「ミャレー!」
「はいにゃ?」
「シャガの所へ行く時に齧った葉っぱがあったよな? あれって、殺しに抵抗がなくなったり、殺戮の衝動に駆られたりする副作用はないのか?」
「にゃ? 副作用って何の事だか解らにゃいけど――そういう葉っぱなんだから、殺しが平気になるのは当たり前だにゃ」
ちょっとまてぇぇぇぇ! 思いっきり副作用があるじゃねぇか!
ヤバい……自重しないと……。俺のやった事を改めて考え直すと、背中に冷たい汗が流れる。
「次は、どこを襲うにゃ? また、悪党共が酔っ払ったところを襲うにゃ?」
落ち着け――悪魔の囁きに耳を貸すな……。
「いや――今回は成り行きで、ああなっただけだから。アネモネもいるし――危険な事は、もう止めよう」
「止めるにゃ? わかったにゃ。ウチは、ケンイチに従うにゃ」
「別に俺に従う必要はないんだぞ?」
「獣人が強い奴に従うのは当然だにゃ」
気をしっかりと持て、とにかく自重だ。
俺はスローライフから大きく逸れた舵の切り直しをしなければならなくなった。