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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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275/275

275話 異世界通販生活(完)


 突然空からやってきた謎の男。

 その男はこの世界を管理している者たちの代理人だという。

 異世界のあらましを、男から説明を受けた。


 アキラと2人で納得したような、してないような複雑な気持ちだが、元世界はすでに滅んでいるためにどうしようもない。

 納得できる対価をもらって諦めることに――。

 そのために、男が住んでいるという国を訪れた。

 そこには管理者の息がかかっている地域が存在し、そこで身体をいじってもらえるらしい。

 人間の身体を簡単にいじり、世界を簡単に滅ぼすことができるという管理者。

 その正体は不明だが、俺たちでは手の出しようがない。

 男が乗ってきた小さな白い乗り物だけで、地球の大都市を滅ぼすだけの力があるのだ。


 病院らしき所につれてこられて、施術を受ける。

 寝て起きたら終わっているらしい。


 ――俺は白い病室で目を覚ました。

 身体を起こすと隣でアキラが寝ている。


「個室じゃないのか」

 まぁ無料だし仕方ない。

 自分の身体を見ると、白い入院着が着せられていた。

 ベッドの横には、俺の着ていた服が畳んで置いてある。

 横を見れば窓が見えるので、ベッドを降りるとそこまで行く。

 窓ははめ殺しになっているようで開かないらしいが――そこから見える景色はSFの世界のよう。

 ここが俺たちがいた世界と同じ世界なんて、ちょっと信じられそうにない。


 窓を見ながら唸っているとドアが開いて、看護師の女が入ってきた。


「お身体の具合はどうでしょうか?」

「う~ん、特に問題はないようだ」

「シミュレーションの結果でも問題なしだったので、すぐにでも退院できます」

「これで本当に、この世界の人間と子どもが作れるようになったのか?」

「はい、間違いありません」

 本当ならいいが……。

 なんだか狐につままれた気分だ。

 ステータス画面を開いてみる――まったく同じで、アイテムBOXも開ける。


「う~ん……」

 俺の隣で寝ていたアキラも目を覚ました。


「オッス、アキラ」

「オッス……これって終わったのか?」

「はい、施術は問題なく終了しています」

 しばらく、ぼ~っとしていたアキラだが、気合を入れるためか自分の頬を両手で張った。


「おっし! ケンイチ、例の力ってどう使うんだ?」

「ああ、ステータスオープン」

「ええ? マジで?」

「マジで」

「ステータスオープン……わっ! マジでなんか出たわ!」

 彼は喜んでいるが、俺にはまったく見えない。

 これは個人の脳内で完結している処理らしい。

 傍からみると、俺もこんな感じだったのか。


「下になにかあるだろ?」

「ん? シャングリ・ラ……?」

「そうそれ」

 アキラがバタバタしている。


「これか?! はは、マジか! あ~、まさか通販サイトだとは思わなかったぜ」

「そこで対価を入れると、ものが買える」

「はぁ~なるほどなぁ。対価ってなんでもいいのか?」

「金でもいいが、買取りって場所があるから、そこに突っ込めば査定してもらえる」

「へ~……お?! そうだ、俺のマヨネーズとか買ってくれねぇか? そしたら無限増殖できるやんけ」

 興奮しているのか、アキラが妙な言葉遣いになっている。


「チャージするなら金貨がおすすめだぞ? 銀貨は価値が低い」

「それじゃ金貨を1枚チャージ」

 相変わらず、金貨1枚で20万円のレートらしい。


「おお! これで買い物すればいいんだな?」

「なにか買ってみるのか?」

「まぁな」

 そうしていると、彼のベッドの上に、口が広い蓋付きの瓶が出てきた。


「それをどうするんだ?」

「こいつにマヨネーズを入れるわけよ」

「もしかして、そいつを買取りに出すつもりか?」

「そゆこと、フヒヒ」

 アキラがマヨネーズ入りの瓶をアイテムBOXに入れたのだが、すぐに結果が出た。


「買取り拒否?!」

「あ~、やっぱり駄目か」

「ん~、ラベルを貼ったらどうだ?」

 彼がシールのラベルとマジックを買って、なにやら書き始めた。


「え~と、超自然マヨネーズ。添加物は一切使っておりません」

「そんなので騙されるか?」

「やってみなきゃ解らんだろ?」

 結果は――NO。


「そりゃそうだ」

「くそ~っ!」

「自己出産みたいなことはできないようになっているんだろ?」

「そうかな~? どこかに抜け穴があると思うが……」

「多分、アキラの油を加工して、バイオディーゼル燃料にすれば買い取ってくれると思うぞ」

「そんなの面倒くせーじゃん」

 アキラがあれこれ試していると、ずっと看護師さんが立っている。


「アキラ、看護師さんが待っているぞ」

「お? ああ、悪い悪い! 面白くてな、つい」

 入院着から服に着替える。


「看護師さ~ん、着るの手伝ってくれねぇ?」

「かしこまりました」

 するすると流れるような手さばきで、アキラの服を着せていく。


「おお! すげー! ねぇ、お触りオッケー?」

「おい、アキラ」

 彼の悪ノリを注意したのだが、看護師さんから意外な言葉が返ってきた。


「どうぞ」

「へ? いいの? 触っちゃうよ」

 アキラが女性の身体をベタベタと触り、スカートの中にも手を入れる。


「おいおい」

 呆れてその様子を見ていると――彼が突然、声を上げて飛び上がった。


「うわっ!」

 彼の腕に鳥肌が立っている。


「どうした、アキラ?」

「ついてるものが、ついてねぇ。穴もねぇ」

「は?」

「残念ながら――私は、看護機能が優先されておりますので、そのような機能が実装されていません」

「ええ? も、もしかしてロボット?」

「はい、私は自動人形です」

 どうやら、アンドロイドとかそういう類のものらしい。

 傍目からは、どうにも人間だが、よくよく見ると――違う。

 最初に覚えた違和感は、これか。

 俺も一応、絵を仕事にしてきた人間だからな。


 2人で服を着ると1階のホールに向かう。

 さっきの看護師の件で、アキラは少なからずショックを受けているようである。


「そんなにショックか?」

「いやぁ、最初からロボットだと知ってれば、そんなにショックではなかったとは思うんだがなぁ……」

「コーヒーだと思って飲んだら烏龍茶で、慌てて吐き出したみたいなもんか」

「はは、そんな感じかな」

 ホールに到着すると、しばらく待つように言われた。

 2人で、椅子に座って待つ。

 懐かしい日本製の自販機などもある。

 まだ製品などを作っているのだろうか?

 それとも在庫を入れているだけ?

 待っていると、1人のメイドさんがやってきた。

 黒い髪をして、黒いスカートに白いエプロン姿のメイド。

 この国でも、メイドはメイドの姿らしい。


「ケンイチ様と、アキラ様ですね」

「ああ」

「こちらへどうぞ」

 彼女についてトラムに乗って外に出ると、あの男が待っていた。


「よぉ! 施術は上手くいったようだな?」

「ああ、色々とありがとう」

「あとは帰るだけだが、どこか行きたい所はあるか? 親類がいるようだったから、そこに連れていってほしいというなら、連れていってもいいぞ」

「……それじゃ頼む。アキラ、いいか? スマンな回り道をさせてしまって」

「いいってことよ。俺も日本人の街を見てみたいしな」

 アキラも賛成してくれた。


「あの白い乗り物なら、すぐに到着できるんだろう?」

「そうだな」

「あっ! そうだ!」

 アキラがなにかを思い出したのか、声を上げた。


「どうした? アキラ」

「ダークエルフを見てぇな」

「ああ、それなら俺も興味がある」

「はは、それじゃ途中でダークエルフの集落に寄ってみるか」

「いいのか?」

「まぁ、ちょっと覗くだけならな。俺の所や街にもいるんだが、探すのが面倒だ」

 彼の話では、ダークエルフと一緒に暮らしているらしい。


「もちろん、いるのはダークエルフだけじゃないんだろ?」

「まぁな。エルフもいるし獣人もいるが」

「やっぱりなぁ。異世界といえば、ハーレムだしなぁ」

 アキラの言葉に男が苦笑いをする。

 ここにいる3人は、それぞれが多数の女性を囲っているので、お互いに詮索はしない。


 駐車場に行くと、上空から白いアレイが現れて下に降りてきた。

 先に男とメイドが乗り込んでから、俺とアキラが乗り込む。


「そのメイドさんもハーレム要員なのか?」

「彼女は、管理者から貸してもらっている自動人形だ」

「ええ?」

 アキラが変なポーズで固まる。


「どうした?」

「彼が病院の看護師に手を出して、ショックを受けててな、ははは」

「あれは最低限の機能しかない自動人形だが、こいつは違う」

 男の話では最高級品らしい。


「それじゃ、ナニをナニする機能もついているのか?」

 アキラはどうにもその機能が気になるらしい。


「そうらしいが、試したことはない」

「う~ん、俺もロボットとやるのはなぁ……」

「あんな美人で爆乳のレイランさんやら男の娘がいるしな」

「フヒヒ、サーセン」

 白いアレイはゆっくりと飛び上がると、ギザギザの城郭を持つ街を飛び越えた。


「辺境伯領も、こんな具合に発展できるのかなぁ?」

「ここは日本と繋がったせいで、テクノロジーやら元世界の富が流れ込んだんだろ?」

「そうだよなぁ」

 だが、シャングリ・ラが日本の代わりにならないだろうか。

 アキラもシャングリ・ラを使えることになったし、上手く使う方法を考えれば発展に加速がつけられるが……。


「だがまぁ、近代化だけが皆の幸福ルートとも言えんし……」

 アキラの言葉ももっともだ。

 俺の一存で辺境伯領の命運が決まるし、下手すると多数の住民たちが路頭に迷う。

 ここの管理者のように遊びでやるわけにはいかん。


 要所には大砲らしきものも見え、男がいうゲートの方向を狙っている。

 敵が来るとすれば、あそこから――ということなのだろう。


「日本につながる門はまったく開けてないのか?」

「実は、なん度か調査隊が送り込まれている」

 彼の話では、資源調達のためだと言う。

 雪に埋もれた都市鉱山から、使えるものを掘り出そうというのだろう。

 門が都市の近くなら――という条件がつくが。


「その門ってのはどこに開いたんだ?」

「東京のT川の近くだな」

「それなら街まで行けば使えるものを発掘できるかもしれないな」

「そういうことだ」


 線路の上を黒い煙を吐いて走る蒸気機関車が見える。


「あれ、日本の蒸気機関車じゃないか?」

「そうみたいだな」

「ゼロから作ったものもあるが、中古をレストアしたものも走っている」

「蒸気機関ってことは、石炭もあるのか?」

「ああ、大規模な露天掘りが行われているぞ。ちょうどダークエルフの村に行く手前に鉱山があるから、上空を通る」

 彼の言うとおり、すり鉢状になった露天掘りの鉱山が見えてきた。

 鉱山の周りには街ができて、沢山の人たちが働いているのが見える。

 重機も動いているようなのだが、半分は人力だ。


「ほぇ~ここじゃ、産業革命があったのか」

 アキラが下の鉱山を見て、ため息をつく。


「やっぱり石炭が出たのが大きかったが、ボイラーは石炭と魔法の併用で動いているぞ」

「なにかメリットがあるのか?」

「普通はお湯を沸かすのに時間がかかるが、魔法ならすぐに沸くからな」

 魔法でお湯を沸かし、温度の維持には石炭を使っているのか。

 なるほどなぁ。

 俺たちの国でも石炭が出たら、参考にさせてもらおう。


 鉱山の上を飛び越えると、乗り物は高度を落とし始めた。

 側板が透明になった窓から、森の中に動いている人たちが見える。

 浅黒い肌で黒い革の装備をしている者たちだ。


「彼らがダークエルフだ」

「そうなのか! もっと近くに寄れねぇか?」

 アキラが窓にかじりついている。


『映像を拡大しますか?』

 乗り物のAIから返事がくる。


「頼むぜ!」

 画面の一部が拡大されて、ダークエルフという人たちの姿がよく見える。

 長い耳に銀髪でボン・キュッ・ボンのスタイル抜群。

 まるで映画に出てくる戦士のようだ。


「ファイヤー!」「ジャストミート!」

 2人の声がハモる。


「おお~っ! すげ~!」

「写真撮れないかな?」

 俺はアイテムBOXから、カメラを出してマクロ撮影をしてみた。

 モニタの解像度は凄い高く、まるで肉眼で見ているような映像。

 マニュアルで焦点を合わせるといけそうだ――写真を数枚撮る。


「エルフのやつらは最低だが、ダークエルフの女性はまともだ」

 上から男の声が聞こえる。

 ここでもエルフの評判はよろしくないらしい。

 まぁ、文化的な違いを理解されないことが多いのだろう。

 なんといっても宇宙人だし。

 だが、ちょっと待てよ、ダークエルフの女性はまともってことは男は駄目なのだろうか?


「ダークエルフの男は駄目なのか?」

「小学校の教室で騒いでいる男子――みたいなやつらだからな」

「なんとなく解った」

「頭はいいはずなのに、アホみたいな詐欺にひっかかったりするし。意味が解らんよ」

 彼は、ダークエルフたちとも付き合いがあるらしい。

 念願のダークエルフを見たので、日本人街を目指す。

 森の上を飛ぶと近いらしいのだが、色々な場所を見せてくれるようだ。

 下を見ると、延々と続く直線道路が見える。

 ここを通って日本人が避難していったらしい。

 距離的には1000kmほど。

 乗り物がない者は、歩いて約束の地へ向かったという。

 健康な若者でなければ、その時点で脱落確定だ。


「ここにスーパーカーを持ち込んで、最高速トライアルとかやった連中もいたんだぜ」

「ははぁ、どこにでもいるなぁ、そういうやつら」

 アキラが呆れている。

 異世界には道交法はないが、事故を起こせば異世界の法律で処罰される。

 奴隷に落ちて強制労働とかな。

 実際に、そうなったやつらがいて、そのニュースが流れた途端に無茶するやつらはいなくなったらしい。

 次に見えてくるのは巨大な穴。


「なんだこりゃ!」

 アキラが下を見て叫んだ。


「デカい穴か……」

「俺の師匠が魔法の実験で開けた穴だ」

「え~? 魔法でこんなこともできるのか?」

「まぁな。お前たちと一緒にいるエルフなら、このぐらいはできてもおかしくはないんだぞ?」

「そうなのか? でも、ちょっと大きな魔法を使ってぶっ倒れていたが……」

「それをクリアする方法が――実はある。教えられないがな」

「どうせ、危ない方法なんだろう?」

「まぁ、危なくはないんだが教えられない。察してくれ」

うちの子(アネモネ)にそんなことはさせられないから、別にいいけどな」

 左手には、石油コンビナートが見えてきた。


「おお~っ! 本当に石油が出るんだなぁ」

「港に金属製の船が泊まっているぞ。なんだか軍艦っぽいが」

 アキラの指す方向に、銀色の船が泊まっている。


「洋上プラットフォームの近くにサーペントやらが出るんで、そのために配備されているんだ」

 一応、ここもこの国が所持している軍の一部らしい。


「やっぱり、石油があるとないとでは大違いだなぁ」

「俺が使っていた重機や車も軽油がないとただの鉄の塊だしな」

 通販とかいうチートがなければ、石油を見つけてこういう製油所まで作らないと車や重機が使えないってことだからな。


 そのまま乗り物は海岸沿いに進み始めた。

 するとすぐに見えてくる巨大な都市。

 異世界に避難した1000万人の日本人が肩を寄せ合い暮らしている街だ。

 その周りを埋め尽くす畑や田んぼ。

 この世界に稲はなかったので、日本から持ち込んだものだろうが、都市の食糧事情を賄うには少々心もとない。

 見るからに物資不足がうかがい知れる。

 それにこの世界には化学肥料がないはずだ。


「世界が終わる前に日本の技術援助で、肥料工場を作ったんだよ。そこから若干供給している。なにせ、我が国がファーストだから、多くは渡せない」

 男が教えてくれた。

 日本が異世界から買っている物資はすべて借款だが、日本側にも小規模ながら製鉄所や肥料工場が立ち上がりつつあるらしい。


 都市にはビルも見える。

 体裁が整っているようにも見えるが、ほとんどがバラックのような建物。

 同じ形が並び、長屋や仮設住宅団地のようなものも見える。

 車も走っているのだが数は少ない。

 エンジン剥き出しの車体に荷台を取り付けたようなトラックも走っている。

 とりあえず、なんでも使おうということだろう。


「はぁ~、戦後の焼け野原みたいな感じか……」

 アキラのつぶやきに上から声がする。


「ここは原生林だったんだ。そこを一から開墾したんだから、これでも開けたほうさ」

 本当になにもないゼロからのスタート。

 ここまでするにも、多大な労力がかかったことだろうが、都市として機能しつつあるようにも見える。

 前の日本から察するに、ここから加速度的に発展する可能性もある。

 戦後はなにもなかったが、ここには今まで積み重ねた日本の全てがあるわけだし。

 街の奥のほうに、堀と壁に囲まれた大きな建物が見えた。


「あの、大きな建物は?」

「あれは皇居だよ」

「ああ、そりゃなぁ……」

「そうだよなぁ」

 アキラと俺で納得する。

 その横には戦車やヘリコプター、森を切り開いた長い滑走路も見える。

 ジェット機がなん機か止まっているが、使われているのだろうか?


「兵器は使われているのか?」

 アキラが下にある兵器群を見ている。


「ああ、ドラゴンが出たりするからな」

「ドラゴンか……まぁ、たしかに近代兵器なら、ドラゴンでも大丈夫だと思うが……」

「そうでもない。あいつら防御魔法を使うし」

「そうなのか?」

 俺はまだ、本物のドラゴンに出会ったことがないからな。

 ドラゴンが出ると、日本からの要請を受けてこの白いアレイを使って撃退するらしい。

 もちろん有料だ。


「ドラゴンを倒したことは?」

「俺はないが、こっちのアキラは倒したことがある」

「大きさはどのぐらいだった?」

「そうだなぁ、30mぐらいだったはず」

「口をカンカン鳴らして火を噴くやつだろ?」

「ああ、それだ!」

「それは亜竜だな。真竜だと、もうふた周りほどデカイ」

「え?! マジかよ!」

 アキラが命がけで倒したのよりさらにデカイドラゴンが来たら、王国はどうなるのだろうか?

 その対策も考えていたほうがいいのかもしれない。

 こちらの大陸から、武器を融通してもらう手もあるな。


「武器のメンテとかどうしているんだ?」

「かなり苦労しているようだな。もう部品を作ろうにも簡単には作れないし」

 そのため、ゲートから雪の都市の中に入って、資源を調達しようという話になっているようだ。

 近くの自衛隊基地に行けば、部品を調達できるって寸法だ。

 男の話では、すでに自衛隊ではなく国防軍ということになっているらしい。


 話の間にも乗り物は下降を続けて、街の近くまでやってきた。


「これだけの密集している住宅街で、俺の身内の場所が解るのか?」

「大丈夫、住所は調べたから」

 戸籍などもしっかり管理されているようだ。

 そのまま乗り物が降下すると、ある長屋の前に降りた。

 同じタイプのコンクリートブロックと木製の長屋が10棟ほど並び、沢山の子どもたちがいる。

 子どもは異世界には避難してこなかったそうだから、この子どもたちは、異世界で生まれた子どもたちということになる。

 彼らにとっては、ここが故郷ってことになるのではないだろうか?


「このまま、この白いので降りて平気なのか?」

「まぁ、こいつは有名だからな。はは、大丈夫」

 白い乗り物に乗っているこの男も、かなりの有名人らしい。


 長屋の屋根はバラバラで、板やら鉄板やら草葺もある。

 とりあえず、使えるものはなんでも使う――そういった感じ。

 下水が完備されておらず、地下浸透なのか異臭が漂う。

 元世界の俺の地元も数十年前までは、こんな感じだったのだ。

 そのにおいにすら郷愁を感じる。


「ここに来ていいこともある」

 男の言葉に俺は振り向いた。


「いいこと?」

「地震がまったくない。あと台風もないし雪も降らない」

 普通の低気圧による嵐はあるが、熱帯低気圧ではないようだ。


「耐震の設備や津波対策に金を使わなくてもいいのはデカいな」

 アキラの言うとおりで、その分を復興のために使えるってことだし。


「でも、そのための技術が退化してしまうんじゃ」

「それはあり得るけどな」

「それに英語を勉強する必要がなくなった、ははは」

「そりゃいいな」

 アキラが男と一緒になって笑っている。

 その代わり、異世界と商売するためには異世界語を学ぶ必要がある。

 女性名詞と男性名詞がある、面倒くさいタイプの言語らしい。

 英語のほうがかなり簡単だと言う。


 男との会話を終え簡素な家の前に立つと、小さな札が下がっており――浜田と書いてある。

 本当にここだ。


 高校生の彼が、親元を離れて1人で異世界にやって来て、どれだけ苦労しただろうか?

 それを考えるだけで、ちょっと目頭を押さえる。

 オッサンになると、涙もろくなっていかん。


「「「わぁぁぁ~っ!」」」

 白いアレイの所に子どもたちが集まってきた。

 物珍しいのだろう。


「ははは、ガキだらけだな。産めよ増やせよか?」

 子どもたちはアキラに任せよう。


「ふう……」

 俺は深呼吸をしてから、ドアをノックした。


「ごめんください」

「は~い」

 中から声が聞こえる。

 若い女性の声だ。

 ドアが開くと、黒髪の女性が顔を出した。

 当然だが、日本人でTシャツにジーンズ姿である。

 歳は――20歳ぐらいであろうか。

 黒い髪を後ろでまとめて、ちょっと痩せており、頬がこけているようにみえる。


「こんにちは、ここは浜田勇気さんのお宅で間違いないでしょうか?」

「はい……どちら様でしょうか?」

 もちろん日本語だ。

 どうしようか一瞬迷ったが――俺は正直に相手に伝えることにした。


「あの――私は勇気君のお父さんであるケンジの兄で、ケンイチと申します」

「……え?!」

「こちらに勇気君がいると先日に知って、訪ねてきたのですが……」

「も、申し訳ございません、主人は仕事に出ておりまして」

 どうやら、彼女は勇気君の奥さんらしい。


「それなら仕方ない。彼が元気であればそれでいいのです」

「主人には、そう伝えますので……」

「よろしくお願いいたします。あの……、ここで物資とかで欲しいものはありませんか?」

「え?! 物資?! あ、あの……不躾で申し訳ございませんが、お米があれば……」

 米か、米なら任せろ。

 早速シャングリ・ラで、25kgのコシヒカリを1万円で2つ購入。

 あまり大量にあっても虫が湧いたりするし。


「ポチッとな」

 茶色の米袋がドサっと2つ落ちてきた。


「お米!」

 女性が米袋に飛びついた。


「塩などは?」

「お塩は海から取れるので……あの、砂糖もあるなら、お願いできないでしょうか?」

「解りました」

 シャングリ・ラで1kg200円の砂糖を10袋買う。

 砂糖が貴重なら物々交換にも使えるだろう。

 海辺でサトウキビ栽培も行われているらしいが、量が少ないらしい。

 食料もそうだが、こういう世界なら医薬品も貴重だろう。

 バ○ァリンやら、キ○ベジンなどをダース単位でやる。

 え~と、おっとここは正露丸も必要だな。


「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 女性が物資を抱きしめて礼をしている。


「ママァ!」

 奥から半ズボンの男の子が出てきた。

 彼は勇気君の息子か。

 栄養状態がよろしくないのか、青っ鼻を垂らしている。

 これもまた懐かしい光景だが――跡取りがいれば、俺がいなくても浜田家が日本でつながる。

 勇気君に会えなかったのは残念だが、ここでずっと待つわけにはいかない。


「さて、戻ろう」

「本人に会わなくてもいいのか?」

「ああ……物資を渡したが盗まれたりしないだろうな?」

「一応、警察組織はきちんとしているので、大丈夫だと思うが」

 男の話では、政府機関もしっかりと機能しているようだ。


 女性に挨拶をすると、集まった子どもたちを散らして白いアレイは、カダン王国に向けて飛び立った。


 ------◇◇◇------


 ――俺たちがサクラに帰って1年少々が過ぎた。

 あの男が言うとおり、帰ってきて数ヶ月で、リリスとプリムラが妊娠した。

 俺の身体の改造は上手くいったらしい。


 今日はリリスの出産の日。

 俺は家の前にテーブルを出して、コーヒーを飲んでいた。

 ここでジタバタしても仕方ない。

 家の裏では、辺境伯の屋敷が棟上げも済み工事が進む。

 完成まであと半年といったところか。

 次の子どもは、屋敷での出産となるだろう。


 アストランティアのアキラの所も、レイランさんとくっころの女騎士が妊娠して、そろそろ生まれるらしい。

 最近彼も、こちらに顔を出していないが、いそがしくて遊んでいる場合ではないと思われる。


 なにはともあれ赤ちゃんラッシュだ。

 今日の出産にともない、アマナとセテラが産婆役をしてくれている。

 俺は外で黙って待つだけ――こういうときの男は無力だ。

 外で飲んでいた缶コーヒーが3本ほど空になると、赤ん坊の元気な泣き声が聞こえてきた。

 そわそわしてしまうが、呼ぶまで入ってくるなと言われているので、じっと待つ。

 家のドアが開いた。


「聖騎士様!」

 アマランサスが呼んでいるので、家の中に入る。

 ベッドの上にリリスと小さな新しい生命がタオルに包まれて寝ていた。

 覗き込むと、かすかな金髪で真っ赤な顔をして小さな手をしている。

 黒髪は遺伝しなかったらしい。

 リリスに似たなら美男子になるだろうし、俺としてはそっちのほうがいい。


「ケンイチ……」

 金髪をボサボサにして、疲労困憊といった顔をしたリリスがベッドに横たわっていた。

 彼女の手を両手で握る。


「リリス、ありがとう。皆もありがとう!」

「私が診ているんだから、大丈夫だったでしょう?」

 セテラは魔法でサポートをしてくれたらしい。


「セテラもありがとう!」

「ケンイチ!」

 アネモネが泣きながら抱きついてきた。

 彼女も後学のために出産を見ていたのだ。


「赤ちゃん産むって大変だな」

「うん……」

 俺に抱きついたままのアネモネが頷いた。


「よしよし」

 かなり背が伸びた彼女を抱きしめて、頭をなでてやる。

 去年の今頃より10cm以上大きくなった。


「元気な男の子だよ! 旦那の跡取りが出来たねぇ、ヒヒヒ」

「アマナもありがとう」

 皆に礼を言っていると、ドアが開いた。


「ケンイチ! 生まれたにゃ?!」「旦那!」

「こらぁ! 獣人たちは入るんじゃないよ! 毛が舞うからね!」

「うにゃー!」

 ドアの外で、獣人たちがバタバタと暴れている。


「ケンイチ様のガキの誕生を祝ってぇ! ウラー! ウラー! ウラーァァ!」

「「「ウラー! ウラー! ウラーァァ!」」」

 こりゃ、ここぞとばかりに獣人たちはどんちゃん騒ぎをするつもりだな。


 出産を間近に備えたプリムラは、アストランティアのマロウ商会にいるが、数日中にこちらに移動してくる予定だ。

 近々産まれる予定。

 アキラの所も生まれるし、ベビーラッシュが続くな。


「聖騎士様! 妾も子どもを産んでから、神器を使うことにいたしましたわぇ!」

「だ、大丈夫か?」

「聖騎士様のお力があれば、怖いものなどあるはずがありますまい」

「それじゃケンイチぃ! 私もぉ!」

 セテラも俺に抱きついた。


「エルフと子どもを作るのは、かなり難しいって話だぞ?」

「ええ~? なんとかなるでしょぉ? あいつに頼んでよぉ」

 あいつってのは、例の管理者の代行をしているという男のことだ。

 彼からタブレットをもらって、いつでも連絡ができるようになっている。

 管理者が整備しているネットにもアクセスできて、異世界に移住してきている日本人たちもこのネットを使っているという。

 日本が異世界で政府機能やら戸籍を維持できているのもこいつの力が大きいらしい。


 外にいる獣人たちをかき分けて、誰かが入ってきた。


「遅れた!」

 慌てて入ってきたのは、カナンだ。


「どうした?」

「赤ん坊の産着を作ってきたんだ! デザインが中々決まらなくてな!」

「おおっ! ありがとう!」

 早速、白いフリフリがついた産着を赤ん坊に着させた。


「旦那、子どもの名前は決めたかい?」

 アマナの質問に俺は答えた。


「ケンジにしようと思う」

 出産が近づいてからずっと考えていた――これは弟の名前だ。

 もう再会はかなわないが、彼の分まで健康に育ってほしいと思う。


「「「おおおお~っ!」」」

 名前が決まったことで、外の獣人たちが盛り上がる。

 獣人たちの隙間から、ベルとカゲも顔を出した。


 この国での新しい俺の異世界通販生活が今始まるのだ。


 END



丸4年に渡り連載してきたアラフォー男の異世界通販生活ですが

これにて完結になります。

今までご愛読ありがとうございました。


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