表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

269/275

269話 アルストロメリアと話し合う


 俺は難民を連れて王都に到着した。

 ここからサクラまでは1日あれば到着できる。

 いや、屋根に人を乗せているから2日かな?

 ここまでやって来れば街道に危険はないので、慌てる必要はない。

 せっかく戻ってきたのに、事故や怪我でもしたら大変だ。

 急いては事を仕損じる。


 たくさんの難民を抱えているので、行動が制限される。

 少人数ならどうとでもなるのだが、さすがに90人以上を抱えていると、できないことが多い。

 キャンプするにしても、それなりの広さが必要だし。

 街の中で宿に泊まることも不可能だしな。


 王都のお城に到着した俺は、王族のアルストロメリア様を訪ねた。

 面識はあるし色々と贈り物をしているので、便宜を図ってくれるかもしれないという期待。

 報告したいこともあるしな。

 共和国から難民を拾ってきたことも、この際に話したほうがいいだろう。


 裏門の前にある石橋の上にテーブルと椅子を出して、のんびりと待つ。

 俺たちはのんびりだが、バスに乗っている村人たちはちょっと退屈だろう。

 森の中のように、ちょっと降りて薪拾いってわけにはいかない。

 皆で飲み物を飲みつつ、シャングリ・ラで買った商品を箱に詰めて待っていると、女性の声がした。


「辺境伯!」

 その声のほうを見れば、白いドレスに金髪を編んでまとめた女性がいる。

 以前は、普通のウエーブヘアだったのだが、今はアップにしているらしい。

 親族なので似ているのは当然だが、背は小さく細いミニアマランサスといった感じ。

 アマランサスは、武人やアスリートのような体つきなのだが、彼女は普通の細い女性だ。

 後ろには黒い制服を着た護衛の騎士を引き連れており、前に世話になった顔も見える。


「これは、アルストロメリア様には、ご機嫌麗しく――」

「よいよい! いったい何用じゃ」

「まずは、これを」

 俺はお土産が詰まった箱を差し出した。

 さっき見繕ったものだ。


「おおっ!? これは、チョコじゃな?!」

「はい」

「こちらの小瓶は?」

「これは化粧水と、白粉(ファンデーション)(リップ)でございます」

「おおおっ!」

 飛びつくように驚いたのだが、ピタリとその動きが止まった。


「なにか?」

「喜ぶのは早い、そなたいったい何が望みじゃ?」

「ちょっとお城の裏庭を貸していただけたらと」

「ははぁ――あの鉄の箱に乗っている連中を、庭で野営させようと言うのじゃろ?」

「お察しのとおりで」

「解らいでか! そなた、以前もそのようなことをやっておったしの!」

 俺は彼女に近づこうとしたのだが、騎士団に囲まれた。

 すぐさま反応したアマランサスが俺の前に立つと、騎士団が気圧されジリジリと下がり始めた。

 彼らはアマランサスの恐ろしさを知っているからだ。


「よい、騎士団は下がれ」

 不満げな騎士団が下がると小声で囁いた。


「国と王家にも関係する、重要なご報告があります」

「まことか?」

「はい」

「聖騎士様は、嘘を申しておらぬ」

「ふん、王族籍を捨てて、奴隷に落ちた女の言葉など聞こえん……の……う」

 アルストロメリアの顔が、徐々に青くなってガタガタと震え始めた。

 アマランサスが威圧しているからだ。


「はいはいアマランサス、ちょっと話がややこしくなるから」

「妾と聖騎士様がおれば、城ごと粉砕してここを我らの居城にできますわぇ?」

「そんなことをするつもりはないよ。アルストロメリア様、お時間を少々いただけますかねぇ?」

「……やむを得ん。誰かある!」

「はい、アルストロメリア様」

 メイドが1人やってきた。

 栗色のウエーブヘアをしてメガネをかけている、見たことがないメイドさんだ。


「午後の予定は全て取りやめじゃ」

「はい」

「ケンイチ! さっきのチョコはまだあるのか?」

「ありますよ」

「謁見の予定があった貴族どもに、土産を持たせてやれ」

「かしこまりました」

 メイドが俺をじ~っと見ている。

 余計な仕事を増やしやがって――という抗議であろうか。

 他の理由を考えるならば、マイレンを筆頭にしたお城のメイドを大量に引き抜いたことに対する抗議であろうか。


 俺は追加でチョコを購入した。

 貴族用には、立派な箱に入った高級チョコ。

 それとは別に、透明な袋に入った一山いくらのお徳用チョコを買った。


「綺麗な箱は貴族の方々へ、こっちのはメイドたちで食べてくれ。仕事を増やして済まないな」

「……」

「毒味とかいいんですかね?」

 メイドが黙ってチョコを受け取ると、お城の中に戻っていった。


「そなたがそんなことをするとは思えぬ。だいたい、そなたたちの戦力を以ってすれば、毒などを使わずとも、この城を制圧できるのじゃろ?」

「まぁ、はは」

「それに、エルフまでおるではないか!」

 アルストロメリアは、テーブルでお菓子を食べているエルフたちに気がついたようだ。

 見ればひと目で解るか。


「いますよ。そのための辺境伯ですし」

「よくもまぁ、あの偏屈な連中を手懐けたものじゃのう」

「お褒めいただき、ありがとうございます」

「別に褒めてはおらぬが、やつらの言葉は解るのか?」

 もうしかたな~く、俺の願いを聞いているのが解る。


「はい、私と竜殺しが解りますし、女性のエルフは我々の使う共通語も話せます」

「ほう……」

「あの~、獣人たちもたくさんいるのですが、大丈夫ですかね?」

「構わぬ」

 王族の許可が出たので、裏門からマイクロバスを2台入れた。

 中は十分な広さがあり、90人以上いても平気だ。

 バスが停車するとワイワイと人が降り始めた。

 ベルとカゲも飛び降りて、裏庭にある花壇の辺りをクンカクンカしている。


「いいか~、ここはお城の中だからな。ここから動かないように」

「「「へ~い!」」」

 マサキがやってきた。


「あ、あの! ここは王様がいるお城なんですよね?」

「そうだぞ」

「大丈夫なのですか?」

「ここから動かなければ大丈夫だ。ウロウロすると間諜スパイだとか言われるから、ここで飯食って寝るだけにしろよ」

「わ、解りました」

「お~い、お母さんもあちこち行かないでくれよ~」

「にゃー」

 解っているんだろうな。


「凄い……」

 アオイがその場でぐるぐると回って、辺りを見ている。

 目が回らないのだろうか?

 ここには敵もいないし彼の耳も鼻も出番がない。


 お城の裏口のある部分、壁がえぐれて通路になり、たくさんの柱が並ぶ。

 そこに俺たちを見張るように騎士団の連中が10人ほど並んでいる。

 俺はそこに行くと、騎士の1人にチョコを差し出した。


「お前たちも食わないか?」

「任務中ですので」

「以前、ミレット――だったかな? 女騎士がいたと思ったが」

「彼女は配置換えになりました」

 そこにアルストロメリアから声がかかる。


「ケンイチ! その報告というのを、さっさとせい!」

「あ~はいはい」

 俺は彼女の所に行くと白いテーブルと椅子を出した。

 ガラスのティーカップを購入して並べる。

 クリスタルカットされていて、方向によってキラキラと輝く。

 透明なガラスで作った、こういうカップはこの世界にはないだろう。

 テーブルに座る2人を、俺の家族は遠くから眺めている。


「ほう! 見事なものだな」

 彼女はガラスのカップを持つと、日に掲げた。

 そのカップのために紅茶も淹れようと思ったのだが、面倒なのでペットボトルに入った紅茶を買う。


「私が普段飲んでいる常温のもので、味はイマイチかもしれませんが」

「たまに不味いものを飲んでみるのも一興だろうて」

 彼女がガラスのカップに注がれた紅茶を飲んだ。


「ふむ、そんなには悪くない。喉が乾いたときなどには、これでいいかもしれん」

 ご機嫌を取るためにケーキも買おう。

 シャングリ・ラを検索する。

 個人的にタルトが好きなので、どうも目がタルトにいってしまう。

 俺も食いたいのでイチゴタルトにした。


「ポチッとな」

 箱に入ったホールのタルトが落ちてくる。

 茶色の生地の上には真っ赤なイチゴが花のように乗っている。


「ほう! これは美しい!」

「切り分けますよ」

 白い皿と包丁を出して切り分ける。


「もっと大きく切るがよい!」

 彼女が指示したのはホールの1/4。

 マジで? 俺は1/8にした。


「うむ! 美味である! この口の中に広がる甘味と酸味!」

「お口に合ったようで、安心しました」

 アルストロメリアがこちらをじ~っと見ている。


「なにか?」

「そなたがサンバクを引き抜いたせいで、宮廷料理も茶菓子もかなり水準が落ちたぞ?」

「私が引き抜いたのではありません。サンバクが私についてきたのです」

「同じことであろ!」

「申し訳ございません」

 俺は頭を下げた。


「まぁよい――それで?! あの者たちは?!」

「さて、どこから話していいものか……?」

「そんなに複雑な話なのか?」

「はい」

「どこからでもいいので、話してみるがよい」

 俺は、彼らが共和国の住民だということを、アルストロメリアに話した。


「なにっ!?」

 彼女の反応に護衛をしている騎士団がざわつく。

 それを彼女が手で止めた。


「彼らを共和国から連れてきたんです」

「いったいどうやったのじゃ?」

 急に顔を突き合わせて、ひそひそ話になる。


「あの鉄の箱に乗せて……」

「そうではない!」

「え~とですねぇ――私の領地に広大な台地がありますでしょ?」

「アゲラタム高地じゃな」

「そこを測量していたら遺跡を見つけまして」

「ほう……」

 オダマキに行く転移門のことは秘密だ。


「その遺跡にいた魔物を倒しつつ、最下層に降りたんです」

「ダンジョンになっていたのか?」

「まぁ、そんな感じです。そして、その下にはリッチがいまして」

「リッチ?!」

 アルストロメリアが立ち上がったので、再び騎士団がざわめく。

 彼女が騎士団を制すと、ゆっくりと座った。


「それでどうした?」

「リッチを倒したのですが、そこで転移門の罠に巻き込まれまして……」

「は?!」

 彼女が口を開ける。

 固まる姿が中々かわいい――いや、そうではない。


「転移門ですよ転移門」

「なんじゃと!」

 再びアルストロメリアが立ち上がった。


「落ち着いてください」

「落ち落ち、これが落ち着いていられるか?!」

「その転移門で山脈の向こうの共和国まで飛ばされて、命からがら戻ってきたんですよ」

「は~転移門など、神話に出てくる失われた技術じゃぞ?」

 彼女がストンと座った。


「嘘だと思うなら、アマランサスに聞いて下さい」

 彼女がアマランサスのほうをチラ見した。


「必要ない。しかし、そのようなことが……」

「本当です。それで、死にそうだった村人たちをあの鉄の箱に乗せて、艱難辛苦の果てに王都までたどり着いたんです」

 彼女は椅子にもたれかかり、空を見ている。


「その転移門とやらで帰れたのではないのか?」

「いえ、飛ばされた先の転移門は壊れておりまして、一方通行でした」

「は~なるほどのう……それは理解したが、これは外交問題に発展する恐れが……」

「それは大丈夫です」

「なんじゃと?」

「目撃者はいませんから、村人が逃亡していなくなっただけだと処理されるでしょう」

 アルストロメリアに共和国の惨状を説明する。


「共和国は、そのような状態になっておるのか」

「勝手なことをいたしまして申し訳ございません。しかし、彼らの惨状を目の当たりにすると、放ってはおけず……」

「うむむ……」

 彼女は眉をひそめ、渋い顔をしている。

 一歩、まつりごとを間違えれば、王国とて同じことになるので、当然だ。


「ほとんどの村や都市で飢餓が続出して、食人まで行われているとか」

「なに?!」

「彼らからの情報です」

 俺は村人たちを指した。

 なにを話しているのだろうと、彼らが心配そうにこちらを見ている。


「ふむ」

「それに住民を連れてきたのがバレたとしても、峠は完全に崩落してしまっているので、抗議のためにこちらに来ることは不可能です」

「そなたたちが越えてきたのにか?」

「私が大型のアイテムBOXを持っているのをご存知だと思いますが?」

「うむ、食料や物資などを大量に持ち運べるというわけか……」

 アルストロメリアがタルトを口に放り込むと、なにかを考え込んでいる。


「そのとおり――それゆえ峠を越えられたのです。実際、山崩れに巻き込まれまして、あの鉄の魔獣を1頭犠牲にしてしまいました」

「よく死ななかったの?」

「まぁ、死んだと思いましたけどね、はは」

 今考えても、走馬灯が回りまくりのイベントばかりだ。

 思い出しても肝が冷える。

 生きているのは、凄い能力を持っている家族と仲間がいるからだ。

 アイテムBOXからスケッチブックを出して、今までの経路を説明する。


「なるほどのう。その転移門を使えば、共和国までひとっ飛びというわけか」

「魔法陣を稼働するためには大量の魔力が必要なので、簡単にはいきませんが」

「そうじゃろうのう……」

 上手く丸め込めたようだ。


「それに、もう一つ重大なお話が……」

「まだあるのか?」

「西の都市、セジーナがありますよね」

「シラー伯爵領じゃな」

「昔の砦の名残があるのはご存知でしょう」

「ああ、あるのう。伯爵の話では形骸化しているので、もう稼働していないということじゃったが」

「その砦の向こうで、広大な隠し畑を見つけまして」

「なんじゃと!?」

 再びアルストロメリアが立ち上がった。


「アマランサスも知らないと言っていたので、アルストロメリア様も当然……」

「知らぬ。そのような場所を開墾していたと、届け出を受けておらぬしな」

 開墾数年は税金が免除されるが、それを過ぎたらそれに応じた税を納めなければならない。


 彼女がアマランサスを手招きした。


「なんじゃ?」

 アマランサスは奴隷の身分なので、こんな口の利きかたをしたら手打ちものなのだが、この国に彼女にそんなことをできる者がいない。


「シラー伯爵領で、広大な隠し畑を見つけたというのは本当か?」

「うむ、あそこは届け出されておらぬはず。妾の視察のときも、砦の先にはなにもないと説明を受けて追い返された」

「シラー伯爵は反王家派らしいので、その勢力の資金源になっているのでは?」

 一応、俺が撮った写真と動画を見せた。


「私が魔道具を使って保存した絵です。ここが砦で――広大な畑が広がっているのが見えるでしょう?」

 アルストロメリアがじ~っと動画を見つめている。


「クソ、あのバッフェ(タヌキ)め」

 アルストロメリアが親指の爪を噛んだ。


「以上です」

「あいわかった! はるばる、ご苦労だったな!」

「それでは、裏庭を使っても?」

「構わん」

「明日の朝には発ちますので、それまでお借りいたします」

「うむ」

 彼女が騎士団のところに行くと、黒い制服が集まってきた。


「アルストロメリア様」

「全騎士団の準備をさせろ! 非常勤の魔導師もじゃ! 妾は円卓会議の爺どもを集める」

 彼女が右手を掲げた。

 本当に国王陛下は飾りになっちゃってるんだなぁ……。

 いいのかなぁ。

 その元凶が俺にもあるのだが。


「「「ははっ!」」」

「会議のあと作戦を伝えるゆえ、それまで待機。それから、あの者たちを監視する必要はない」

 アルストロメリアが俺たちを指した。


「承知いたしました」

「準備急げよ!」

「直ちに!」

 バラバラと騎士団の連中が散っていく。

 俺の言葉だけなら簡単には信じなかったかもしれないが、元王族のアマランサスの証言もあるとなれば、話は別だ。


「ええ? まさか一戦交えるつもりか?」

「武力を伴った取り調べですわぇ。相手が抵抗する可能性があるゆえ、最初から兵力を集めて対処いたします」

「時間をかけると証拠隠滅もあるし、相手に色々と手を打たれる可能性があるか」

「妾たちが伯爵邸を訪れたので、もう手を打っているかもしれませぬ」

「手を打つといっても、あの広大な土地をなかったことにはできないだろうしなぁ」

「徹底抗戦に備えて、すでに守りを固めておるかもしれませぬ」

「最初から大きな戦力で向かえば、相手が戦意喪失するかもしれないし。結果的に犠牲者も少なくて済むか……」

「そのとおりですわぇ」

「その前に、伯爵の手の者が俺たちを追ってきているとすれば、途中で接触するかも」

「ありえますわぇ」

 俺は残ったタルトだけ持って、茶器とテーブルと椅子をアイテムBOXに収納した。


「やったぁ!」

 俺が持っていたタルトが突然奪われた。

 誰かと思ったらセテラだ。

 彼女は皿ごとホールのタルトを持って逃げてしまった。


「「「……」」」

 咄嗟のできごとに、皆が固まっている。


「BBAぁ!」

 真っ赤なタルトを食えるかと目をきらめかせていたアネモネが、目の前から獲物を取られて憤慨している。


「はいはい、そういう言葉遣いをしないの」

 コンテナハウスを出すと、追加でタルトを購入。

 うちの家族には、その中で食べてもらう。

 村人たちとの食事格差が、どうにも気になってしまうがやむを得ん。


「やったにゃ!」「やったぜ」

 獣人たちも甘いものは楽しみにしているらしい。

 家族がおやつタイムをしている間に、キャンプの準備をしている村人たちの所に向かう。

 準備はいつもと一緒だが、ここは外敵に襲われる心配が一切ない。

 この国の中で一番安全な場所といえる。

 まぁ、俺のことを快く思ってない連中が、暗殺にやってきたりはするかもしれないので、一応警戒はしている。

 獣人たちがたくさんいるし、森猫たちもいるので、敵意がある者の接近にはすぐに気がつくだろう。


 安全な場所なのだが、逆に気を使うこともある。

 トイレの場所だ。

 森の中とか道端なら、そこら辺でしてもOKなのだが、ここではそうもいかない。


 ちょっと離れた場所にユ○ボを出す――久々の出番だ。

 穴を掘ってブルーシートを入れると、そこにプラケースを置く。

 板を渡してスチール製の小屋をかぶせる。

 簡易トイレの完成だ。

 出発するときに全部アイテムBOXに入れてから埋め戻せばいい。

 排泄物は、アイテムBOXのゴミ箱に投入。

 手も汚れない。

 アイテムBOX様様である。

 人数が多いので同じものを2つ作った。


 俺たちはのんびりだが、お城の中は騒々しい。

 バタバタと人と物資が集まってくる。

 俺のバスは、ほぼ1日で走破してしまったが、普通の騎兵や馬車が移動できる距離は1日で数十km。

 伯爵領まで5~7日はかかる。

 その分の食料や物資などを、急遽用意しなくてはならない。


「おそらく商人どもは、今日は徹夜になるはずですわぇ」

「それじゃ、マロウ商会も駆り出されるんだろうか?」

「間違いありませんわぇ」

 お城の皆が忙しそうにしているので、俺たちが邪魔になるんじゃないかと少々心配。

 なるべく壁際の隅っこに移動したが、大丈夫のようだ。

 このままシラー伯爵領まで付き合えとか言われたらどうしようかと思ったのだが、そんなことはなかった。

 俺がたくさんの難民を連れていることに配慮してくれたらしい。

 王族の心遣いもあるのだが、俺にあまり借りを作りたくないのだろう。

 ハマダ領が力をつけすぎるのもよくない。

 現在でも、国軍にも負けず劣らずの戦力を所持しているのだから。


 空はちょっと日が傾き始めた。

 夕飯の準備をしながらアマランサスに尋ねる。


「アマランサス、伯爵領の戦力ってどのぐらいなんだ?」

「子飼いの貴族を集めても、おそらくは500騎ほどでしょう。民を徴兵する時間はないと思われますわぇ」

「それだと、王家は数千の騎兵を用意するのか」

「定石だとそうなりますわぇ」

「そりゃ金がかかって大変だ」

「しかし見過ごすわけにはまいりません」

「そうだなぁ」

 片がつけば、今までの未納の税金のかたに、私財などがボッシュートされる。

 戦費はそれで賄えるか。

 まぁ、崩れて閉鎖された峠を通って誰かやってくるなんて、伯爵は想像できなかっただろう。

 運が悪かったな。


 それはさておき、夕飯だ。


「なにを食う」

「カレーにゃ!」「カレーだな」

 いや、獣人たちはそれでいいだろうが……。

 途中で拾った子どもたちもカレーでいいらしいので、カレーを鍋で作る。


「にゃー」「みゃ」

 森猫たちが戻ってきたので、一足早くネコ缶をやった。


 皆で野菜と芋の皮を剥いてもらうと、鍋に煮込む。

 あとはカレールゥを入れれば完成なので、簡単だ。


「さて、俺たちはどうする?」

「はいはい、リクエスト」

 アキラが手を挙げた。

 珍しい。


「スパゲッティ」

「スパゲッティか。それならエルフたちも食えるな」

「だろ?」

 パスタじゃなくて、スパゲッティなところがオッサンだ。


「なにスパゲッティする?」

「スパゲッティといえば、ナポリタンやろ」

「やっぱり、そうなるか」

 オッサンでスパゲッティといえば、ケチャップを使ったナポリタン。


「エルフがいるので、肉なしになるがいいか?」

「合点承知の助!」

 時代劇に出てくるけど、合点承知の助の語源はなんだろうなぁ。

 そんなことを考えつつ、アキラには寸胴でシャングリ・ラで買ったスパゲッティを茹でてもらう。

 生パスタなどではなくて、一山いくらの乾燥麺だ。


 俺はデカいフライパンで刻んだにんにくを炒め、ケチャップを大量に投入する。

 そいつを焦げ付かないように、じっくりと炒めていく。

 こうやって炒めることで、ケチャップに入っている酢を飛ばすのだ。

 そうすると、甘くて美味いスパゲッティができる。


「今日のは赤いけどぉ? 血とか内臓じゃないよねぇ?」

 セテラがケチャップソースを覗き込んでいる。


「違う、果実を潰したものだ」

 トマトは野菜なのか果実なのか、日本じゃ野菜ってことになっているが、色的には果実っぽいのでそうした。


「へぇ~」

 最後に茹で上がった麺とケチャップソースを絡めれば完成。


「お?! 甘くて美味い!」

 一口食ったアキラが声をあげた。


「ふふふ、ナポリタンにはちょっと自信があるからな」

「びっくらたまげた門左衛門!」

 オッサンしか知らないネタを。


「今日のはスープに浸ってないのねぇ?」

「旦那たちが、また虫を喰っているぜ」「虫にゃ!」

「虫じゃないっての」

 まぁ、ラーメンより麺が太いので管虫っぽく見えないこともない。


「美味しいかもぉ」「美味しいね」

 2人のエルフが声をあげた。


「はぐはぐ!」

 アネモネが口の周りを真っ赤にして食っている。


「ほう、これは単純だが美味いのう……」

 元王族も納得する美味さ。

 スパゲッティにケチャップを使うと、エタリア人がブチ切れるが、これが日本の味よ。


「簡単で美味いってのは男の料理の基本だからな」


 食事が終わると、コンテナハウスを出してアネモネと一緒に寝る。

 森猫たちも一緒だ。


「ん~、やっとケンイチと2人」

 アネモネがベッドの上で、俺にくっついて離れない。

 そこに森猫たちもやってくる。


 明日出発して、上手くいけばサクラの近くまで行けるぞ。

 やっとだ。

 リリスやプリムラは心配しているんだろうなぁ。

 早く無事な顔を見せてやらなくては。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124fgnn52i5e8u8x3skwgjssjkm6_5lf_dw_a3_2
スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様より刊行の月刊「コンプティーク」にて、黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミカライズ連載中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ