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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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268/275

268話 王都のマロウ商会


 王国と共和国を隔てる峠をやっと通過。

 これからの道のりは楽ちんだと思っていたら、隠し畑を見つけてしまった。

 アマランサスの話では、反王家派の資金源になっている可能性が高いという。

 街道を塞いでいた砦から攻撃も受けたので、ここらへん一帯を治めているシラー伯爵に抗議に向かったのだが、会うことができなかった。

 そのまま西の都セジーナをあとにした俺たちだが、問題になるのは次の宿泊地だ。

 順調なら夕方に王都に到着することができるが、俺たちは多数の難民を抱えている。

 俺の狙いは、広いスペースがあるお城の庭である。

 お城が対応してくれるならば、相手にはアルストロメリア様が出てくるはず。

 そこで色々と報告をしながらお城の庭を借りてキャンプしてしまおうという算段だ。


 駄目ならそのまま王都を抜けて、人気のない街道の脇でキャンプを張る。

 そう決めてから、王都には向かわずに途中の森でキャンプをした。


 ――朝起きると、皆で食事を摂る。

 共和国に飛ばされてから、なん回目の食事だろうか。

 そろそろ家に帰りたいもんだ――そう考えて、サクラが故郷だと認識している俺がいた。

 住めば都か。人は異郷に生まれて故郷に帰るという言葉もあったな。


 食事が終わると、再び皆でマイクロバスに乗り込んだ。

 もう魔物がいるような地域ではないので、皆の顔も明るい。

 このまま順調なら、昼には王都に到着できるだろう。


「すげー! 見渡す限りの麦畑だ!」「「「おお~っ!」」」

 王都に近づくと畑ばかりになる。

 やはり主食の麦が多いが、野菜畑も青々とした緑をしている。


「そりゃ王都の民を支えているからな」

「こ、このぐらいの畑がないと、都市の住民は食わせていけないのですね……」

 後ろからマサキの声が聞こえる。


「共和国だと、自分たちの食い扶持も不足していたからな」

「王都に近いから人が多くなってきたにゃ!」「にぎやかだぜ!」

 獣人たちの言うとおりだ。

 街道は整備されていて十分な幅もあるのだが、輸送の馬車や人が多くて、あまりスピードを出せない。

 馬車や人々を追い越すと、驚きの表情を向けてくるのもいつものことだ。

 鉄の乗り物に、屋根まで人が満杯に乗っているのだから当然だろう。

 馬車でこんなことをしたら、馬が牽くことができない。

 上の獣人たちが騒々しいので、道行く人たちに手を振ったり挨拶をしたりしているようだ。


「よ~、兄弟! そんなへんてこなものに乗ってどこから来たんだ?!」

 声がしたので横をみると、虎柄の獣人が並走していた。

 おそらく手紙を届ける飛脚だと思われる。


「俺たちは、共和国から来たんで」

「はぁ? 共和国ぅ? はっはっは! 面白い冗談だぜぇ!」

「いや、冗談じゃねぇし」

「はっはっは! 気をつけていけよ」

 そういえば皆に口止めをするのを忘れていた。

 窓を開けて、屋根にいる獣人たちに注意する。


「お~い! 共和国から来たってのは、なるべく秘密にしてくれ!」

「あ! さーせん!」

 上の獣人たちもマズいと思ったのかもしれない。

 バスの後ろに乗っている連中にも話す。


「マサキ、共和国から来たってのは秘密にしてくれよ。他国の人間だとあまりよく思わないやつもいるかもしれないし」

「解りました」

「誰も知らない森の中からやってきてぇ――とか言っておけ」

 まぁ、嘘は言ってない。

 マイクを取って、アキラのバスにも同じことを告げた。


『オッケー! 後ろの連中にも言っておくぜ』

「頼む」

 それでも徐々に噂が漏れるだろうけどな。

 俺が共和国から連れてきた! ――と、断言しなければ事実にはならんし。


 バスが進むと住宅や集落の数が増えて、街道の先には王都が見えてきた。


「「「おお~っ!」」」

 村人たちから、驚きというかため息に似た声が漏れる。

 俺は無線機のマイクを取った。


「アキラ、王都が見えたぞ」

『お~! やっとここまで来たかぁ~』

「いや、今回は本当に死ぬかと思ったが……」

『ははは、そうだな』

「ブラック企業の帝国から逃げてきたのに、こんな危ないことに巻き込んですまなかったな」

『ははは、いいってことよ。俺が勝手についてきたわけだし』

「でも、転移門で飛ばされるのは、付き合う必要はなかっただろ?」

『それも気にするなって』

「ありがとうな」

『はは、照れるぜぇ』『*&&**』

 ツィッツラの声が聞こえる。

 なんと言っているのだろうか。


「セテラも王都には来たことがあるんだろ?」

「うん、でも前に来たときよりも大きくなっているみたいだけどぉ」

「前っていつの話なんだよ」

「う~ん? 100年ぐらい前?」

 さすがエルフはタイムスケールが違う。


「只人と知り合いになって、今度遊びに来るよ~って100年後だったら、死んでるぞ?」

「それは私も理解しているからぁ」

 俺は後ろをチラ見した。


「アマランサス、お城まで道案内を頼むよ」

 ナビゲーションは、運転席の後ろにいるアマランサスだ。


「任せてたもれ」

 王都の道は侵入者からお城を守るために迷路のようになっている。

 軍事機密のため、王都の地図などは販売禁止。

 地図などを持っていれば、スパイの疑いをかけられても仕方ない。


 王都に近づくとバラックの家が増え、それが塊になって街を形成している部分もある――貧民街だ。


「マサキ、この国の王都だって、こういう家も仕事もない連中が住んでいる場所があるんだ」

「はい……でも、豊かに暮らしている人たちのほうが多いです……」

「まぁ、共和国の全員貧乏で平等よりはなぁ」

 貧民街の様子を、フロントガラスからアネモネがジッと見ている。


「アネモネ、彼らを全員助けてくれって言われても無理だぞ?」

「解ってる……」

「でも、国がよくなれば、徐々にああいう人たちも減らせるはずだ」

「うん……」

 アネモネは頭がいいので、解っているだろう。


「ケンイチ様ぁ~」

 突然、後ろからマサキの顔が出てきたのだが、涙を流している。


「うおっ?! なんだ!?」

「ケンイチ様は、我々のような他国民を助ける前に、あのような人々を助けなければならないお方なのに……」

 マサキの言うのは貧民街にいる者たちのことだ。


「そう言われれば、あそこにいる者たちに悪い気がするが……」

 王国の貴族なのだから、他国民を助ける前に自国民を助けろと言われれば、返す言葉もない。


「それなのに、我々のために命がけであんな危険な峠を越えてくださり……」

「まぁ、なんだその――成り行きだから気にするな」

「ありがとうございます~」

 山崩れに巻き込まれてから、マサキの崇めぐあいが上がったような気がする。

 あまり崇められても困るのだが。

 俺はただのオッサンだし。


 人々と馬車の間を縫うように王都に入る。

 建物の多さと人の多さに、後ろの村人たちからも声が上がる。

 あの村から比べたら、ここは天国だろう。


「ここにもドライジーネって乗り物が!」

 そう、王都にはたくさん走っているな。

 さすが大都市――流行に敏感だ。

 マロウは脚で漕ぐタイプも開発していたようだが、上手くいっているのだろうか?

 魔石モーターが簡単に作れるようになれば、動力タイプも作れるかもしれないし。


「石造りの大きな建物が沢山あるぞ!」「お~っ!」

 王都には3~4階建ての建物も多く、人口密度も高い。

 これだけ人がいれば、消費される物資の量も桁違いだ。


「アマランサス、案内は大丈夫か?」

「はい、王都の構造は頭に入っておりますゆえ」

 多分、戦略上重要だからってことなんだろうなぁ。

 王族の嗜みってやつだ。


 峠もウネウネ道路だったが、ここも石畳のウネウネ道路。

 まっすぐな道がないのは凄い。

 これでも王都に住んでいる人たちは迷わないで生活できるのだから、慣れというのは凄い。

 感心していると、大きな商店らしき建物が見えてきた。

 お客もたくさんいて、店先に馬車が止まり商品の受け渡しをしている。

 道が狭くなっているので、すり抜けが大変だ――とか思っていると、見かけた姿がある。


 俺はクラクションを鳴らした。

 ついやってしまったのだが、当然街の人間は飛び上がって、こちらを見ている。

 人を満載にした得体のしれない鉄の化け物が、近づいてきていたことに気がついたのだ。


「あ!」

 アネモネも彼に気づいたらしい。


「どうしたのぉ?」

 エルフが不思議そうな顔をしている。


「知り合いだ。マロウ!」

 俺の掛け声より先に、彼は俺のことに気がついたようだ。

 そりゃ、この国で馬なしで動く乗り物なんて持っているのは、俺しかいない。

 俺はマイクを取った。


「すまんアキラ、ちょっと停車する」

『どうした?』

「マロウがいた」

『ああ! そういえば、ここはマロウ商会だったような……なん回か来ているんだが、道が覚えられねぇ』

 アキラは、俺から借りた4tトラックで、王都のマロウ商会まで運送のバイトをしてたりする。

 マイクロバスを道に寄せ、止めてから降りると、マロウがやってきた。


「これはケンイチ様! 王都にいらっしゃるなら、連絡をしていただければ!」

 彼は普段のようにニコニコしている。

 マロウ商会には世話になったのに、呼び捨てにしたり、様をつけられるのは未だに慣れない。


「俺のこと、なにも聞いていなかったか?」

「はい? もしかして連絡の行き違いがありましたかな? それならば、申し訳ございませんでした」

「いやいや、違うんだ。お城にちょっと用事があってな」

「そうですか。しばらく領主様が留守にするということでしたが、このことでしたか」

 マロウが、マイクロバスの上に山積みになっている獣人や子どもたちをチラ見している。


 どうやら、サクラからマロウ商会へと、俺がいなくなったという連絡をされていないようだ。

 もちろん、プリムラにはリリスが連絡しているだろうから、彼女の下で情報が遮断されているのだろう。

 そりゃ領主の俺がいなくなれば、民に動揺や混乱が広がる。

 せっかく軌道に乗りかけている領地で、それは避けたいというリリスやプリムラの配慮だろう。


「それより、マロウ商会は王都でも繁盛しているようだな」

 ダリアにあるのが本店で、王都にあるのが支店ってことになる。


「これもケンイチ様のお陰でございます」

 彼が揉み手をしながら、ニコニコしている表情から見ても商売が上手くいっているのがわかる。


「それはよかった」

「あの……こんな場所でなんなのですが、お願いがございまして……」

「ん? なんだい?」

 彼によると、頼んだ商品が中々入荷しないで、困っているそうだ。

 そりゃ俺が留守にしているから、シャングリ・ラから買っているようなものは、品不足になっている。

 特に足りないのが洗濯バサミらしい。


 それなら簡単なので、シャングリ・ラから木製の洗濯バサミをたっぷりと買う。

 購入ボタンを押すと、ドサドサと袋につまった洗濯バサミが落ちてきた。

 1袋に100個入っているので、それを50袋購入した。

 全部で5000個だ。

 これでもすぐにはけてしまうだろうけど。


「おい! 人を回してくれ!」

 マロウが馬車から荷物を降ろしている者たちに、急遽手伝わせた。

 次に彼が欲しがったのが、シャンプーとリンス。

 これは貴族の奥方連中に高く売りつけるらしい。


「どうせ、高そうな瓶とかに入れ替えて売るんだろ?」

「はい」

 それなら特大の詰め替えようでいいか。

 シャンプー、リンスも2L入ってて1500円ぐらいだ。

 リンスとコンディショナーってなにか違うのか?

 オッサンなので解らん。

 似たようなもんだろ。


「ポチッとな」

 2L入りの詰め替え用パッケージが10個ずつ落ちてきた。


「おおっ!」

「詰め替えて売るのだから、これでいいだろう?」

「ありがとうございます!」

 マロウと話していると、アキラもやってきた。


「マロウさん、久しぶり!」

「おお! アキラ様まで」

 アキラを捕まえてヒソヒソ話をする。


「マロウ商会には、俺たちが行方不明だと知らされていないらしい」

「そうなのか」

 マロウと向き直る。


「アキラ様も留守ということで、運送が遅れておりまして」

「はは、悪いな。ちょっと大事な用事があったもんでな」

「そうでしたか」

「あ! そうだ。 アキラの獲物をマロウ商会に売ったらどうだ? 王都なら買う貴族がいるだろ?」

「そうだな」

 その話を聞いたマロウの目が光る。


「なにか素晴らしい商売の予感がしますぞ? その売り物とは?」

「洞窟蜘蛛なんだ」

「おおっ! 洞窟蜘蛛! 実は、洞窟蜘蛛を求める貴族の方々が多くいらっしゃいまして」

「そうなのか?」

「以前、ケンイチ様が、王家を通じて洞窟蜘蛛をお売りになられたことがあったとか……」

「ああ、そうだな。巨大なやつを売ったんだ。いい値段がついた」

「その蜘蛛から作られた白い鎧が評判になりましてな。同じものを求める貴族の方があとを絶ちませんで」

 洞窟蜘蛛の甲殻は白く硬い。おまけに魔法の耐性があるから魔法を弾く。

 その素材から作られた鎧は、超高額商品らしい。


「どうせ前線に出ることもない貴族が、そんな立派な鎧なんて必要ないだろうに」

「ははは、違いねぇ」

 アキラも笑っているが、帝国でも似たような感じらしい。

 マロウの話では、白い鎧は鉄よりかなり軽量だという。

 軽くて疲れないし見栄も張れる。

 こりゃ買うっきゃないでしょう。


「それじゃ、洞窟蜘蛛を持ってきたのは、タイミング――じゃなかった、ちょうどよかったな」

「はい!」

 マロウが見たいというので蜘蛛を出してやった。

 見物客が多いので、場所を空けてもらう。


「ほいっと!」

 ひっくり返って脚を閉じた白くて巨大な蜘蛛が、石畳の上に現れた。


「きゃぁぁぁ!」「おおおっ!」「魔物?!」

 あちこちからどよめきと、悲鳴が上がる。

 石畳を走っていたドライジーネも脚を止めて、こちらを見ている。

 まぁ、プリムラに見せたときもぶっ倒れたから、女性にはちょっときついだろうな。

 ここで出す必要もなかったと思うが、これはマロウが考えた宣伝に違いない。

 マロウ商会はこういうものも扱えるんだぞ――というアピールだ。


「これは損傷もありませんな」

「油で焼いたんだけどな、燃える気配はなかった」

 アキラが戦闘中のことをマロウに説明している。


「おそらくは焼け死んだというよりは、炎で酸欠になって死んだのでは?」

「どちらにしろ、これはよいものです!」

 マロウの顔が紅潮して目が光っている。


「それでマロウさん。どのくらいで引き取ってくれる?」

 アキラが交渉を始めた。


「そうですな……金貨120枚(2400万円)!」

「「「おおお~っ!」」」

 周りで見ている野次馬から歓声が起こる。


「前に王都で売ったときは、小さなオスが金貨80枚(1600万円)だったから、いい値段じゃないか?」

「よし! 売った!」

「ありがとうございます!」

 アキラから見ても、これはいい取引だろう。

 マロウもホクホク顔だ。


「実はまだある」

「ほう?!」

 商人の目が光った。


「道を空けさせてくれ」

 マロウ商会のスタッフが総出で、野次馬の相手をしてくれる。

 人もかなり集まってきたので、これは大きな宣伝になるだろう。


「それで、ケンイチ様?!」

 彼は待ちきれない様子だ。


「これだ」

 俺はアイテムBOXから、カメを取り出した。


「「「おおお~っ!」」」

「これは?!」

「これはカメだな。こいつの甲羅は、ドラゴンより硬いらしいぞ?」

「本当でございますか?!」

「ああ、間違いない」

 アキラが俺に代わって返答した。


「カメと蜘蛛を仕留めてくれたのは、アキラなんだよ」

「ほ~っ! さすが帝国の竜殺しでございますなぁ」

 そのマロウの言葉に、ギャラリーが反応した。


「竜殺し?」「竜殺しだって?!」「帝国の竜殺しって酒場の噂で聞いたことがあるぜ」

 周りがざわつき始めた。


「帝国の竜殺しは、黄色いウネウネを指から出せるって聞いたぜ!」

 ギャラリーからそんな声が飛んできたので、それにアキラが反応した。

 つかつかと、やじを飛ばした男の所に行くと――。


「手を出してみろ」

 男が出した掌に、マヨが山盛りになる。


「「「おおお~っ!」」」「本物だぁ!」「すげぇ!」

「ねぇ! 私にも出して!」

 今度は妙齢の女性の手にマヨを出してやった。


「「「おおお~っ!」」」

 なんだか知らんが、めちゃ盛り上がっている。

 野次馬はアキラに任せて、こっちは商談にしよう。


「これで盾を作れば、白い鎧と一緒に売ることができそうだが」

「それは素晴らしいですな! ドラゴンの鱗より硬い盾!」

「あ――しかし鎧が白で、盾が黒だと少々合わないか」

「そんなことはございません。白い端材を使って装飾を施すとか、手はありますから」

「そうだな、さすがマロウ」

「マロウさん、こいつの肉も美味いんだぜ?」

 アキラが野次馬の所から戻ってきた。


「まことでございますか?」

 竜殺しの言葉にマロウが乗り出した。


「ああ、身が詰まっていて旨味が濃い。噛めば噛むほどに旨味が溢れる」

「おおお……」

 周りのギャラリーもカメの味を想像しているのだろうか?

 アキラの説明に皆が聞き入っている。


「これだけの材料の加工となると大変だろうが……」

 加工が大変なら、サクラに持ち帰ってドワーフたちに加工してもらう手もある。


「おそらくは問題ないと思います。王都に住み着いているドワーフたちもいますので」

「そうなんだ」

 前の蜘蛛も鎧として加工できたようだし、王都にも腕の立つ職人がいるのだろう。

 石畳の上に置かれた白い蜘蛛と巨大なカメに、黒山の人だかりができている。

 これは、マロウ商会にとっては大きな宣伝になるだろう。


「おい!」

 マロウが従業員に合図をすると、奥からのんびりとした大きな男が出てきた。

 骨太のパワータイプに見えるが従業員の制服を着ている。


「お呼びだべか?」

「ああ、こいつを奥の裏庭に運んでくれ」

「解ったっす」

 力にものを言わせて担ぎ上げる? まさか、こんな大きなものを1人で?

 そんなことを考えていると、目の前から洞窟蜘蛛が消えた。


「アイテムBOX?」

 予想外の展開に俺は驚いた。


「はい。大変誠実で優しい男なのですが、この力を悪事に利用されていたようで」

「そりゃ大変だ。俺と同じようにマロウと知り合いになってよかったな」

「そう言っていただけると、商人としても冥利に尽きます」

 亀の買取価格は金貨100枚(2000万円)。

 少々安いが、これで盾を作ったりして評判になれば、もっと価格があがる。

 アイテムBOXに入っている他のカメを売るのはそれからでも遅くはないだろう。


 俺たちがマロウと話し込んでいると、しびれを切らしたのか、アネモネが車から降りてきた。


「ケンイチ!」

「おお、これはアネモネさん。お久しぶりです」

 彼は、アネモネを一人前の魔導師として扱ってくれている。

 まぁ、そこら辺の魔導師が裸足で逃げだすぐらいの実力と実績だし。


「こんにちは!」

「そうだ――マロウは、昔彼女に会ったのを覚えているか?」

「え? アネモネさんに?」

「うん!」

「ウルップの近くで鳥を売ったそうだが……」

「おお! 思い出しました。あの時の女の子が、アネモネさんだったとは!」

「そう! マロウに、鳥のさばき方を教えてもらった」

「そのときに、プリムラはいなかったらしいな?」

「はい、なんというめぐり合わせでしょうかねぇ……」

 やっぱり成功する者は、いろんな才能を持つ人を引き寄せる力が働くのかもしれない。


「あの~アキラさん……」

「なんだいマロウさん」

「マヨをわけていただけないでしょうか?」

「おお、そうだな。留守にしてたから、供給が止まっていて悪かった」

「いえいえ、滅相もございません」

 アキラは、マロウ商会にマヨネーズの卸売をしていたようだ。


「早めに売ってくれよ。あまり日持ちしないからな」

「はい、それはいつものとおりに」

「マヨって、日持ちするイメージだがな」

「やっぱり、あの容器に入っているのが重要らしい。すぐに酸化してしまってな」

「ああ、チューブに入っているのが残り少なくなると変な味になるやつか」

「それよ」


 マロウとの話は尽きないが、俺はあることを思い出した。


「マロウ、伝書鳥って使っているか?」

「はい使っておりますよ。これによって、マロウ商会がいち早く情報を掴むことができております」

「よかった――それじゃ、サクラに連絡を入れてもらえないだろうか?」

「承知いたしました」

 文面は――こちらケンイチ。今は王都にいる。すぐに帰る――これでいいだろう。

 まぁ数日中に帰れるのは確実だが、無事なことを伝えればサクラに残っている連中も安心するはず。


 ちょっと寄り道をしてしまったが、俺たちには行く場所がある。

 マロウ商会の従業員を使って、道に群がる野次馬を整理してもらうと、お城へと出発する。


「「「おおお~っ!」」」「馬なしで動く鉄の魔獣!」「すげー!」

「アストランティアの近くに住んでいる貴族様が、鉄の魔獣を操るって聞いたぜ?」

「へ~っ! それじゃあの方が……」

 ワイワイと盛り上がっている野次馬をわけて、再びお城に向けて走り始めること1時間。

 やっと、お城の裏門が見えてきた。


 堀の上に石の橋が架かっているので、まずは俺のマイクロバスだけが渡る。

 裏門の前でバスから降りた。

 そこには、前に来たと同じように重そうなプレートアーマーを着た兵士が2人立っている。


「こんにちは」

 俺の顔をみた兵士が直立不動になった。


「こ、これはハマダ辺境伯様!」

「え? 俺のことを知っている?」

「以前にも、いらっしゃいましたから!」

 ああ、前に来たときと同じ警備の兵士らしい。

 俺のことを覚えてくれていたようだ。

 ありがたい。


「約束がないのに無理を承知で頼むんだが――アルストロメリア様にお会いできないかな? とても大切な用事があると」

「はっ! しばしお待ち下さい!」

「無理を言っているのは解っているので、時間が許す限り待つよ。美味しいお土産もあると伝えてくれ」

「かしこまりました!」

 兵士の1人が、お城の中に走っていった。


「しょうがない」

 皆もバスから降りてきた。


「頭の堅い杓子定規な連中が、臨機応変に対応するかぇ?」

「解らんが、アマランサスだってそこにいたのに」

「妾は尻を叩くほうじゃったが」

「尻って……」

 橋の上にテーブルと椅子を出した。


「ふ~、お城はあまり変わってないみたいねぇ」

 セテラもやってきて、椅子に座ると伸びをした。

 さすがのエルフも車に乗りっぱなしで疲れたのだろう。

 どうやら彼女は、ここを訪れたことがあるらしい。


 アキラとツィッツラもやってきた。


「本当に数日で共和国の森から王都までやってきたんだね? 凄い速さだよ」

「ははは、普通じゃ考えられねぇよな」

「うん」


「ケンイチ、大丈夫そう?」

 アネモネも椅子に座ると、その下にベルとカゲが潜り込んだ。


「まだ解らないな」


 お土産で釣れればいいんだがなぁ。

 だめだったら、すぐにここを発つしかない。



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