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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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263/275

263話 巻き込まれる


 共和国の村人をマイクロバスに乗せて、王国へ帰国中だ。

 この峠も王国のはずなので、すでに王国には入っているのだが、前途は多難。


 崖っぷちと谷底の間を蛇のように這う道を進み、なんとか峠の頂上に到着。

 頂上にはかつての宿場町の廃墟があったのだが、そこにはワイバーンの巣ができていた。

 こいつを倒さないことには先には進めないので、皆の力を使ってワイバーンを撃退。

 また魔物の討伐数が増えた。

 こんなに魔物退治している貴族っているのだろうか?

 今回のできごとを全部物語にしたら、全何巻になるだろう。

 いや、お城に報告するとなると、なぜ共和国にまで飛ばされたのか、話さなくてはならなくなる。

 転移門のことは隠しておきたいのだが、リリスはどう対応しているだろうか?

 俺が単に留守だとして、通常業務を行なってくれていればいいのだが……。


 あまり留守にしている時間が長いと、お城に怪しまれるが、長くてもあと1週間もあれば済む。

 通常なら、この世界は移動に長時間を費やす。

 1ヶ月ぐらい予定が遅れてもどうってことはない。

 宿場町の廃墟で1泊した俺達は、峠を下り始めた。


 下りの道は結構植物が多い。

 道にも植物がはびこっていて、崖の上から落ちてきている木などもある。

 落石なども多いので、バスから降りるとアイテムBOXに収納しながら進む。


「ケンイチのアイテムBOXがあれば、どんな道でも進めるにゃ」「そうだな」

「あまりデカいものは入らないから、どんな道でもってわけにはいかないぞ?」

「大丈夫大丈夫、旦那ならなんとかしてくれるって」「にゃはは」

 獣人たちは、あまり深刻に考えないのがデフォルトらしく羨ましい。

 いや、俺があれこれ考えすぎなのだろうか?

 性分で余計なことまで考えてしまうとはいえ、なにかあったときの対策とかシミュレーションは必要だ。


 落石や倒木はあるが、道が崩れていないのはありがたい。

 こちら側は地盤はいいのかもしれないな。

 無線機のマイクを取る。


「アキラ、そっちはどうだ?」

『問題なし!』『&^%$$^』

 ツィッツラの声が聞こえてくる。


「セテラ、なんて言っているんだ?」

「大丈夫って言ってるんだよぉ」

「そうか」

 しばらくバスは曲がりくねった道を進む。

 特に危ないのはブラインドコーナーだ。

 コーナー自体も危険なのだが、その先がどうなっているのか解らない。

 突然、道がなくなっている可能性だってある。

 十分に注意しなければならない。


「丘を越え行こうよ~っとくらぁ」

 いつも俺が歌っているので、アネモネとアマランサスが続きを歌ってくれる。

 調子よく進んでいると、アオイが俺の所にやってきた。


「ケンイチ様、滝の音がする」

「滝?!」

 アオイの言葉を疑ってしまったが、道がなくなっていて滝になっていたりしたら詰む。

 そのまま注意して進むと、ミャレーとニャメナも気がついたようだ。

 

「旦那! 聞こえてきたぜ!」「そうにゃ」

 これは間違いないな。


 獣人たちの言うとおり、俺たちの前に現れたのは水の流れ。

 滝といっても、大きな滝ではなく、道の上を水がバシャバシャと流れている状態だ。

 ここらへんは岩盤なので、水の流れでも削れることもなかったのだろう。

 それとも比較的新しい滝なのだろうか?

 この状態でも、長い年月をかければ徐々に岩肌が削れて、峡谷が作られるのだと思う。

 俺は無線機のマイクを取った。


「アキラ、滝になっている」

『マジか! 車で突っ切れそうか?』

「多分、大丈夫だろうが、屋根に乗っている連中が流されてしまうな」

『どうする?』

「う~ん」

 しばし考える。


「アキラはそこで待って、上に乗っている連中を降ろしてやってくれ」

『オーライ』

「オーライにゃ? また新しいのにゃ」

 アキラの出した単語にミャレーが反応しているが、それどころではない。


「俺がハ○エースで戻ってきて、ピストン輸送する」

『な~る』

 彼も、俺の作戦が解ったようだ。

 作戦が決まったので、迅速果敢に行動する。

 まずは、俺のマイクロバスの屋根に乗っている連中も降ろす。


「このまま滝に突っ込むと、おまえたちが流されてしまうから、一旦降りてくれ」

「俺たちゃ濡れても大丈夫ですぜ?」

「水の流れを甘く見ると大変なことになるぞ?」

 獣人たちが耐えられても、子どもは無理だろう。

 アキラの車の上からも獣人たちが降ろされているのを見て、降りる気になったようだ。


「先に渡ったら、お前たちを迎えにくるから、そこで待っててくれ」

「「「へ~い」」」

 アキラの車からも降ろされた連中と合流して、大きな塊ができた。

 それを確認すると運転席に戻り、車を発進させると、徐行運転で滝に突入する。

 水の流れとともに、たくさん植物もぶら下がっている。

 栄養と水を求めた結果だろうか。


 ワイパーを全開にしたが、前がよく見えない。

 体験したことがないような土砂降りの中に突入したようになった。

 ものすごい力でマイクロバスの外板を叩き、凄まじい音が車内にも響く。

 まるで巨大な圧力で押しつぶされるような感覚。


「「「ひぃぃぃ! うわぁぁぁ!」」」

 車内に村人たちの叫び声が響く。

 5秒ほどで滝を抜けたが、ものすごい時間が進むのが遅かった。

 思わず走馬灯が回りそうだ。

 無線が入る。


『ケンイチ、大丈夫か?』

「ああ、大丈夫だ。こりゃ、上に乗っていたら完全に流されるな」

 獣人たちを降ろしてよかった。


『ははは、無理だろ?』

 これがアトラクションなら面白い体験になるだろうが、流されたら崖下で一巻の終わり。

 こりゃ洒落にならない。

 100mほど進み、バスから降りた。


「皆はここで待っててくれ」

「「「はい」」」

 アイテムBOXからハ○エースを出すと、滝の中を戻るわけだ。

 こいつでピストン輸送をする。

 アイテムBOXのいいところは、立ち位置で車の向く方向を変えられるところ。

 方向転換できないような狭い道でも、向きを変えられる。


 運転席に乗り込むと、来た道を戻り滝をくぐる。

 こいつはマイクロバスよりは幅が狭い。

 滝の内側を通ることができるため、あまり影響がないようだ。

 皆の所に戻ると車から降りて、一旦アイテムBOXに収納する。

 車の向きを変えるためだ。

 再び出すと、スライドドアを開けた。


「よし、ここに乗ってくれ」

「「「へい」」」

 最初は獣人たちに乗ってもらう。

 村で助けた獣人たちは猫人犬人合わせて12人。

 あとで拾ったマツたちは3人だが、アオイは俺の車に乗っていた。

 全部で14人だ、問題なく乗れるだろう。


「あまり詰めなくてもいいぞ。なん回か往復するつもりだからな」

 短距離なので、補助席を出す必要もない。

 通路にも立ち乗りをしてもらう。

 もっとも頭がつかえるので、しゃがむことになるが。


「旦那は、こういう鉄の召喚獣も呼び出せるんだね」

 ナンテンが、白いボディをベシベシと叩いている。

 

「そうだ、ナンテンも乗ってくれ」

 車に乗るように促していると、獣人の女たちに抱きつかれた。

 4人の女たちが、俺の身体にスリスリしている。


「ほら、そういうことしている場合じゃないぞ?」

「もう! いつも、あの怖い女たちが見張ってるしさぁ」「少しぐらいいいじゃない」

「ハフハフ!」

 目の前でぴょんぴょんしているのは、2人いる犬人の女だ。

 尻尾をパタパタとさせているが、犬人なので尻尾パタパタは嬉しい証拠だ。

 耳がピンとしている黒髪の女と、茶髪のたれ耳。

 しょうがないので、頭をなでてやる。


「ほら、乗った乗った!」

 獣人たちを詰め込むと、運転席に乗り込んだ。


「ほい発進!」

「「「おおっ!」」」

 すし詰めの獣人たちから声が上がる。

 そのまま滝の中に飛び込むと、バシャバシャと天井を水が盛大に叩くが、バスのときよりは酷くない。

 黒いものが動いたと思ったら、滝の所にベルがいた。

 水を飲んでいるみたいだ。


「こりゃ、すげぇ!」「雨の中で動いても雨に濡れねぇってことだよな?」

「そうだ。もっと道がよければ、獣人が走るスピードで延々と走り続けることもできる」

「「「ほ~っ!?」」」

 獣人たちの声は、信じているのかいないのか?

 半信半疑って声をしている。

 話している間に滝を渡りきり、俺たちの家族の所に到着した。

 皆を降ろすと、また滝を渡って戻り、今度はあとで拾った子どもたちと兵士たちを乗せる。

 全部で15人。

 楽勝だ。


 子どもたちは鉄の魔獣にも慣れたようで、滝を渡ってもはしゃいでいる。

 小さい子は順応が早いのだが、兵士たちはまだおっかなびっくり。

 滝の音を聞いて、車体にバシャバシャと水をかぶると、悲鳴を上げている。


「子どもたちは平気なのに、大人が悲鳴を上げるなよ」

「ケンイチ様、そ、そんなことを言われても……」

「ははは」

 そんな話をしている間に滝を渡り、皆の所に到着した。

 残っているのは、アキラのマイクロバスだけだ。

 バスに乗り込むと、無線機のマイクを取る。


「アキラ、いいぞ――渡ってくれ。滝の圧力は結構凄いから気をつけてくれよな」

『オッケー!』

「オッケーにゃ!」

「「「オッケーにゃ!」」」

 子どもたちが、にゃーにゃーとミャレーのマネをしているのだが、子どもが好きな彼女が怒るはずもなく、からかわれてむしろ喜んでいる。


 アキラの車両が動き出して、ゆっくりと滝に向かった。

 滝行のように激しい水の流れに打たれており、外から見るとかなりの水量があるのが解る。


「「「おお~っ」」」

 見物している獣人たちからも声が上がる。


「やっぱり、上に乗せたまま突破はできなかったな」

 それでなくとも、危険は避けるべきだ。

 アキラのマイクロバスが俺たちの所までやってきた。


「アキラどうだった?」

「かなりの水量だな。満員で重量があるのが、よかったのかもしれねぇ」

「そうだな」

 皆が揃ったところで、そろそろ昼頃だ。

 村人には悪いが小腹が減った。

 休みついでに、昼飯にすることにした。


「マサキ」

「はい!」

「悪いが、俺たちは軽く食事をさせてもらう」

「解りました」

 彼に頼まれて、村人たちのコンテナハウスを出す。

 どうやら滝の水を汲んだりするらしい。


「滝は気をつけてくれよ。流されてしまったら助けるすべがない」

「解っております」

 その前に、下まで落ちたら即死だろうしな。


「う~ん」

「ケンイチ、どうした?」

「川の水より、ここの滝のほうが、水が綺麗で美味そうだな――と思ってな」

「確かに、なんとかのおいしい水みたいな」

「そうそう」

「魔物の糞とか小便とか混じってねぇだろうし」

「ははは、まぁ元世界でもエキノコックスとかあったしなぁ」

 そういうこともあるので、生水は厳禁なのだ。

 アメーバ赤痢になったりすることもあるしな。


 マイクロバスの陰で飯を食う。

 どうも俺たちだけ飯を食うってのは慣れないが、仕方ない。

 俺たち家族と、あとから拾った獣人たちと子どもたちで軽く食事を取る。

 5人の兵士たちは遠慮するらしい。

 屋根の上に座っているだけなので、それほど腹も減っていないようだ。


 飯が終わると俺も滝に水を汲みに行き、鍋に水を入れてみる。

 すごく冷たくて綺麗な水だ。

 この山脈の上は万年雪が残っているので、雪解けの水なのかもしれない。

 一度アイテムBOXに収納してから、取り出して口に入れてみる。


「こりゃ、美味いな」

 なんとかのおいしい水に対抗できるぐらいに美味い。

 これで酒を作ったら美味そうなのだが、ここまで汲みにくるわけにもいくまい。


「なにしてるのぉ?」

 暇なのか、セテラがやってきた。


「水の味を確かめているんだよ」

「それで味はどう?」

「美味いな」

「へぇ~」

 村人たちがこちらを見ているのだが、俺は特殊だからといって皆に釘を刺す。


「真似するなよ?」

 まぁ、最初からやらなけりゃいいのだが、水の味が気になるじゃないか。

 新規にドラム缶を1つ購入して、滝の水で満たすとアイテムBOXに収納した。


「お~い、出発するぞ」

「「「は~い!」」」

 皆でぞろぞろと列になって、マイクロバスまで戻った。

 屋根の上にも再び乗るのを見たあと、再度確認。


「ヨシ!」

 大丈夫だ。

 ベルとカゲも戻ってきて、バスに飛び乗った。

 俺も運転席に戻ると、エンジンを始動する。


「アキラ、行くぞ? 大丈夫か?」

『問題な~し!』

「よし! 出発!」

 初めての滝で大きなトラブルがなくてよかった。

 もっと大きな滝だったら、詰んでいたかもしれない。

 その場合、なにかいい手があるだろうか?

 アネモネの防御魔法で水を逸しながら渡るとか?


 そのまま車は、ウネウネとした峠道を時速10kmほどで下り続け、時間は多分3時頃になったと思う。

 凹んだコーナーを回ってくると、上からバラバラと石が降ってきた。


「落石か?!」

「ケンイチ様! 凄い音だ!」

 後ろにいた、アオイが叫ぶ。

 そのままスピードを上げて抜けようとしたのだが、地面から湧いてくるような低周波が響いてきた。

 窓から上を見ると――ゆっくりと山がこちらに迫ってくるように見える。

 目の前が崩れて、巨石で道を塞がれた。

 間に合わん。


「アネモネ、防御魔法! デカいやつ!!」

「む! むー!」

 アネモネの青い光が集まっている間にも山が崩れてきている。


「「「うわぁぁ!」」」「「「きゃぁぁ!」」」

「――至高の障壁!(ハイプロテクション)

 アネモネが唱えた最大級の防御魔法によって、巨大な透明な壁が山崩れはなんとかせき止めている。

 かろうじて止まっているだけで、魔法が消えれば流される。

 至高の障壁の上からも土砂が越えてバラバラと降り始めており、時間はあまりない。

 俺はバスの後ろを確認した。

 ――まだ逃げるスペースがある。


「全員降りろ! 後ろに走っていけ! 早くしろ!!」

「うみゃぁぁ!」「わぁぁ!」

 ミャレーとニャメナがドアを開けて真っ先に飛び降りた。

 彼女たちが昇降口の前にいるので、降りてもらわないと村人たちも脱出できない。

 続いてアオイ、ベルとカゲも飛び出した。


「「「わぁぁぁ!」」」

 車内は阿鼻叫喚――補助席を出しているので、簡単には降りられない。

 皆が椅子を乗り越えたりしている。


「窓からも出られる者は出ろ! 間に合わん!」

 上から降りた獣人たちが手伝って、窓から村人たちを引っ張りだしている。


「アマランサス! お前も行け!」

「いやじゃ! ぎゃぁぁぁ!」

 アマランサスが頭を押さえて椅子に頭を打ち付けている。

 俺の命令に逆らったので、激痛が走っているのだろう。


「うう……」

「アネモネ!」

 デカい魔法を発動させたままなので、アネモネの顔色がみるみる悪化していく。

 俺はアイテムBOXから、大きい魔石を取り出した。


「む!」

 力を込めると、黒い魔石の中に青い光が灯る。


「アネモネ、これを!!」

 彼女と一緒に、それを握る。

 ここからしばらくは魔力を引き出せると思うが、そう時間はない。


「セテラ! お前も降りろ!」

「ええ? 私も付き合うけどぉ?」

「そんなことを言っている場合か!」

「聖騎士様! 妾は死ぬまで一緒だわぇ!」

 アマランサスが俺に抱きついてきた。


「そんなことをしている場合か!」

 その間にも村人たちが順調に脱出している。

 俺はシャングリ・ラを開いて、敷布団を10枚買った。

 目の前に落ちてきた、まだビニル袋に入ったままの布団を、ガラスやハンドルの前に敷き詰めた。

 これでショックを吸収できないだろうか――という浅はかな考えだ。

 無線からアキラの声が聞こえるが、応答している時間がない。


「ケンイチ……!」

 もうアネモネが限界っぽい。

 後ろを確認する。

 皆が降りているのを確認してから、アネモネ、アマランサスと一緒に布団にくるまった。


「アネモネ、いいぞ!」

 彼女から青い光が抜けると上から土砂が一気に押し寄せてきた。

 アネモネを固く抱きしめる。

 突然暗くなり、横倒しになったかと思うと、轟音とともにゴロゴロと転がりはじめた。


「うおぉぉぉっ!」

「あはははは! 聖なる盾(プロテクション)!」

 セテラの笑い声が聞こえるのだが、なにがおかしいのだろうか?

 エルフのやることはさっぱりと解らん。

 バタンバタンと連続でひっくり返り目が回る。

 まるで洗濯機の中にぶち込まれているようだが、敷き詰めた布団のお陰で痛い思いはしていない。

 あまりのできごとに走馬灯が回る暇もない。

 フロントガラスが割れて車内に土砂が侵入してくると、カビ臭い冷たい土が顔に当たる。

 運転席はセテラが唱えた防御魔法で支えられているらしく、潰れたりする気配はない。

 10回転ほどしたところで動きが止まった。


「生きてる……アネモネ?」

「大丈夫」

「アマランサスは?!」

「大丈夫だわぇ」

「ふう……」

 アネモネと抱き合いながら、彼女の髪にため息を吹きかける。

 ホッとしているとエルフの抗議の声が聞こえてきた。


「私に対する愛はないのか!?」

「はいはい、5000歳のお姉さんは大丈夫ですか?」

「5000歳言うな!」

「だいたい、なんでセテラが残ってるんだよ」

「助けてあげたのに、それを言う?!」

「ありがとうな」

「もう! それにしても、5000年生きてやっと死ねるかな~と思ったんだけど、中々死なないものねぇ」

「なんだ、死ぬ機会を探しているように聞こえるが?」

「そうかもねぇ」

 とりあえず、潰れるのは免れただけで助かったわけではない。

 土の中に埋まり真っ暗なので、アイテムBOXからLEDランタンを出した。

 車内は窓から入ってきた土で塗れ、セテラの魔法と俺が出した布団によって、運転席の空間だけがなんとか確保できている状況だ。

 無線機のマイクを取ってみた。

 壊れてないか? 見た目には大丈夫そうだが。

 

「アキラ、聞こえるか?」

『ケンイチ! 生きてるか?!』

「まぁ、なんとかな」

『助けに行くか?!』

「いや、二次災害になる可能性があるから、止めてくれ」

『わ、解った』

 いつも飄々としているアキラだが、珍しく慌てているように聞こえる。


『旦那ぁ!』『うにゃー!』

 無線機から、ミャレーとニャメナの声が聞こえる。


「大丈夫だって他の連中にも言ってくれ。それと逃げ遅れたやつがいないか確認を頼む」

『任せろ』

 マイクを放り投げた。


「ふう……とりあえず、ここから脱出しないと」

「私がやるぅ?」

「アネモネは限界だ。できるならやってくれ」

「解ったぁ」

 暗い中に赤い玉が見えたと思ったら、大きな炸裂音が響く。

 破れたフロントガラス部分から、さらに土砂が流れ込んでくる。


「酷くなってねぇか?!」

「それじゃ、もう1回」

「ちょっと……」

 再びの炸裂音が響くと、割れたガラスの向こうに白い光が見えてきた。


「やった!」

「もう1回やるね」

 再度炸裂音が鳴ると、土砂が上方に吹き飛ばされた。

 火山が噴火するように、土砂を吹き飛ばしたのだ。


「よし、これで出られる」

 土に布団を敷くと、崩れたフロントガラス部分から這い出る。


「これって、爆裂魔法エクスプロージョンなのか?」

「違うよ。空気を圧縮してから、解放したのぉ」

 圧縮したガスボンベに穴を開けるようなもんか。

 さすが元文明人。空気を圧縮すると色々と使えると知っているわけだ。


 車体はもう駄目だろうが無線機はまだ使える――そう思ったのだが、もたもたしていると再度の土砂崩れに巻き込まれる可能性がある。

 諸々諦めて俺が先に出ると、次はアネモネだ。


「アマランサス、送り出してくれ」

「承知いたしましたわぇ」

 ぐったりとしたアネモネをアマランサスが上に送り出してくれたので、小さな手を掴んで引っ張りあげた。

 土砂は斜め45度で積もっており、30mほど落下したようだ。

 崖の上から皆が覗いているのが見えたので、手を振ってみせる。


「「「うおおおっ!」」」

 歓声が湧き上がったのが聞こえてきた。

 無事を祝ってくれているのはありがたいが、こちらはそれどころではない。

 まだ崩れてくる可能性もあるし、実際に小さな石がパラパラと転がってきている。


「アマランサス!」

 彼女の手を掴んで引き上げると、俺に抱きついた。


「あとにしろ、セテラ!」

 最後はエルフの手を掴んだ。


「ふぅ、死に損なったわぁ」

「嬉しそうに言うなよ」

「だって、好きな男と一緒に死ねるなんて機会、そうそうないからぁ」

 あっけらかんとそんなことを言う、エルフに少々面をくらう。


「おまぇなぁ……」

 俺が言いかけると、斜面を人の大きさぐらいある岩が転げ落ちてきた。

 巨大な岩が土煙を上げて、サッカーボールのようにバウンドして襲ってくる。


「聖騎士様!」

「おわぁ! セテラ! 防御魔法を!」

 アネモネは完全にアウトなので、エルフに頼るしかない。


聖なる盾(プロテクション)

 彼女の魔法にぶち当たると、岩が進路を変えて落ちていった。


「ふう……ありがとうな」

 防御魔法を斜めにして、岩の進路を逸したのだろう。


「アネモネ、大丈夫か?」

「うん……」

 彼女は精根尽き果てて、もう1歩も動けない状態だ。

 俺が担いで斜面を登るしかない。


 以前に使った担ぎ紐を取り出して、アネモネを背中に担いだ。

 それから、アイテムBOXからスパイクを取り出す。


「アマランサスも足につけろ」

「承知」

「セテラは?」

「いらないぃ」

「いいのか?」

 彼女はぴょんと飛び上がると、斜面をスタスタと登り始めた。

 なにかの魔法か?


「おおい!」

「なぁに?」

「そんなに簡単に登れるなら、ロープを持っていってくれ」

「ふ~ん……」

 セテラが俺をじっと見ている。

 彼女を少々蔑ろにした俺に対する、抗議の視線だ。


「俺が悪かった! お前が望むようにしよう!」

「解ったぁ」

 アイテムBOXから出したロープの端をセテラに持ってもらうと、上まで届けてもらう。

 エルフはスタスタと斜面を上って、皆の所にまで行ったようだ。

 ロープが張られたのが解る。


「よし! アマランサス、俺の後ろに続け」

「承知いたしましたわぇ」

 俺はそのロープを掴むと、アネモネを背負って土の斜面を登り始めた。


 

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