261話 頂上決戦
断崖絶壁に、ひたすら続く細いサンダーロード。
一歩間違えると奈落の底へ真っ逆さま。
王都とソバナを繋ぐベロニカ峡谷も中々すごかったが、あそこは現役で使用されており、整備もそれなりにされている。
こちらは共和国と王国が国交断絶してからまったく使われておらず、荒れ放題。
落石はあるわ崩落はあるわで、洒落にならないアトラクションの連続。
それでもベロニカ峡谷で経験値を積んだことが生きているし、アネモネの魔法も進歩している。
以前には俺の重機で土砂の排除などをしていたが、彼女のゴーレム魔法を使って同様の作業を簡単にできるようになった。
なんとか夕方には頂上付近に到達して、キャンプを張れそうだ。
ベロニカ峡谷と同じように、頂上には宿場町の跡があるらしい。
やれやれとホッとしたのもつかの間、屋根にいるアオイが不穏なにおいをキャッチした。
なにかがいるらしい。
俺はミャレーとニャメナを偵察に出したのだが……。
2人は叫び声をあげながら戻ってきた。
デジャヴュである。
「おい、どうした?!」
「なんかいた! なんかいたにゃぁ!」「旦那! デカイのだぜ!」
血走った目をした2人が、逃亡せずに俺の後ろに隠れた。
毎回毎回逃げ出しては、さすがに格好悪いと思ったのか、なんとか踏ん張っているようだ。
頑張って耐えている彼女たちだが、耳を伏せ尻尾を太くしてカタカタと震えている。
そこにアキラがやってきた。
「ケンイチ、どうする?」
「山の上にいるってことは、ワイバーンあたりだろうか?」
「ああ、多分な。けど、真竜じゃないことを願うぜ」
「はは、ここにはドラゴンスレイヤーがいるじゃないか」
「あんなのは、もうまっぴらごめんだぜ? それにここじゃ、ドラゴンの口に入る方法がない」
彼が帝国でドラゴンを倒したときには、4階建ての建物から敵の口の中に飛び込んだらしい。
「ケンイチ様!」
心配そうな顔をしたマサキがやってきた。
「ワイバーンかなにかがいるらしい」
「ワイバーンですか?!」
バスの窓を開けている村人たちや、屋根に乗っている獣人たちからもどよめきが起こる。
「大丈夫だ、ここに帝国の竜殺しがいるし、俺もワイバーンなら倒したことがある」
「本当ですか?!」
「本当にゃ!」「俺らと一緒に倒したんだよ」
「私も手伝ったよ!」「にゃー」
アネモネとベルたちも降りてきた。
アマランサスも一緒だ。
「聖騎士様、いかがなさいますかぇ?」
「当然、打って出る。ここを通過するしか、道はないからな」
「承知いたしましたわぇ」
「マサキ! 皆を集めて、後ろにできるだけ下がれ。やる気のある獣人たちは武器を取れ! 強制はしないぞ?」
「「「おおお~っ!」」」
獣人たちが雄叫びを上げて、次々とバスから飛び降りた。
欠員はないようで、全員が参加するようだ。
「おいおい、大丈夫か? 相手はワイバーンらしいんだぞ?」
「竜殺しがいれば平気じゃないですかい!」「それにケンイチ様の鉄の魔獣もいるし」「大魔導師様にエルフ様もいる!」
なんだかやる気まんまんだ。
カメを倒したりして自信をつけたのだろうか。
それに、ここにはアキラという歴戦の勇士がいる。
彼を群れのボスと認めているのだろう。
強いボスがいれば、群れはまとまり強敵に立ち向かえるようになる。
彼らはアマランサスの力にも一目置いているようだ。
「森猫もいるしな」
「にゃー」
ベルが俺の脚に身体をスリスリしている。
「お前たちはどうする?」
一応、俺の後ろに隠れている、うちの獣人たちにも聞いてみる。
「や、やるに決まっているにゃ!」「そ、そうだよ!」
まぁ、他の獣人たちがやる気になっているのに、弱味は見せられないってところだろう。
獣人たちの上下関係にも響く。
舐められたら終了なのだ。
「そうか、それじゃ――」
アイテムBOXからクロスボウやら、ポリカの透明な盾を出してやる。
追加で購入しようとしたのだが、前に購入したものが売っていない。
やむを得ず、3人一組とかで使ってもらう。
それに戦闘は俺やアネモネがやるので、獣人たちの仕事はそれの援護だ。
別に敵に肉迫するわけじゃないが、前に購入したカットラス刀や、新規に購入した剣鉈を与える。
銃刀法があった元世界準拠のシャングリ・ラには大型の刀剣がない。
いざというときのために、ドワーフたちに作ってもらったほうがいいかもしれない。
それは帰ったときに考えよう。
「ケンイチ、私はぁ?」
「セテラは、村人たちを守ってくれ。魔物を倒しても村人に犠牲者が出たんじゃ意味がない」
「解ったぁ」
「僕は、アキラと戦うよ!」
ツィッツラが、アキラのアイテムBOXから出したコンパウンドボウを受け取った。
「頼む。ここまできたら、お前たちもやるだろ?」
俺は途中から合流した5人の兵士たちに尋ねた。
「兵士だってのに、ここでやらなきゃ男がすたる」
「ははは――まぁ、正面での戦闘は俺たちがやるから、弩弓で援護してくれ」
彼らにクロスボウを購入して渡した。
まったく戦争ってのは金がかかるぜ。
「すげぇ弩弓だ!」「王国はこんな武器を使っているのか……」
ここで説明をしている時間がない。
「よし! 皆、準備はできたか!?」
「「「おう!」」」
「うにゃ!」「くそ! 俺もやるぜ!」
さて、俺も召喚獣を出すか。
巨剣を装備したコ○ツ戦闘バージョンもいいが、相手は空を飛んで素早い。
機動力があったほうがいいだろう。
ここはホイールローダーか。
「よし、ホイールローダーだ!」
オレンジ色で巨大なタイヤを持つ鋼鉄の魔獣が空中から落ちてきて、バウンドする。
「「「おおお~っ!」」」
獣人たちから歓声が上がる。
俺は運転席に乗ると、エンジンを始動させてライトを点灯させた。
辺りはすでに薄暗くなりつつある。
勝負をつけるにしても、早いほうがいいだろう。
それとも皆で一旦後退して、魔物が留守のときを見計い突破したほうがよかっただろうか?
色々と頭の中をぐるぐると思いが駆け巡るが、皆の士気も上がっている。
やるっきゃないだろう。
「私も乗る!」
アネモネが運転席に乗ってくる。
「ケンイチ! 俺たちはバケットに乗せてくれ!」
「危ないぞ? 大丈夫か?」
「へーきへーき」
元世界なら、完全に「ヨシ!」案件だ。
バケットを少し上げると、そこにアキラたちが乗り込む。
アマランサスやベルたちも、バケットに入ったようだ。
「アキラ大丈夫か?」
「オッケー!」
彼の声を確認してから後ろを見て、マサキと村人たちの様子も確認。
列をなして道を下っていくのだが、薄暗い中にセテラの金髪が目立つ。
問題ないようなので、ギアを前進に入れて発進。
こうこうとライトを灯しながら進むホイールローダーの後ろに、獣人たちの列が続く。
峠の頂上付近に近づくと見えてくる、町の廃墟。
国破れて山河あり――共和国は破れてはいないが、この国を象徴するような景色だ。
ボロボロだが、ふもとの町と一緒でまだ使えそうなものも多い。
「どこらへんにいるんだ?」
偵察をしたミャレーとニャメナに場所を聞く。
「廃墟の奥のほうだよ旦那!」「にゃ!」
町の中を進むとすぐに大きくて黒い小山が見えてきた。
どうやら巣を作っているようで、そこに猫のように丸くなっている。
身体より、折りたたまれた翼が目を引く。
「「「……」」」
獣人たちも息を呑んでいるのか、静かだ。
「ケンイチ! 真竜じゃなくてよかったな!」
バケットから降りたアキラのいうとおり、こいつはワイバーンだ。
俺たちが接近しているのだが、寝ているのだろうか?
チャンスかもしれない。
「後ろ! 魔法で先制をぶちかますから、鉄の魔獣の後ろに固まれ」
アキラたちも後ろに回った。
いよいよ決戦だが、いつも使う粘着爆弾の在庫がない。
忙しくて作っていないのだ。
車をずっと運転しっぱなしだし。
粘着爆弾はないが圧力鍋爆弾ならある。
「ニャメナ!」
「なんだい、旦那!」
アイテムBOXから出した、圧力鍋爆弾を彼女に渡した。
「いつものやつだ。魔物の前に投げてくれ」
「任せてくれよ!」
彼女にいつも頼むのは、コントロールがいいからだ。
「アネモネ、銀色の鍋に魔法を頼む! 皆、陰に隠れろ!」
「解った! うん! む~!」
彼女の精神統一に呼応して、薄暗い中に青い光が舞う。
「おりゃぁぁ!」
ニャメナが投げた銀色の鍋が宙を飛び、魔物の前に着地した。
あの爆弾は鈍感なので投げたぐらいじゃ爆発しない。
それゆえ起爆剤が必要なのだが、それがアネモネの魔法だ。
「爆裂魔法(小)!」
ガランガランと鍋が転がる音で、魔物が敵の接近に気づいたようだ。
長い首を持ち上げたのだが、もう遅い。
鍋に青い光が集まり、白い煙となって炸裂した。
「ギョェェェェッ!」
突如爆炎に包まれたワイバーンが、叫び声を上げた。
耳をつんざく爆音と衝撃波が地面を這い、俺たちの所まで到達すると、ヒュンヒュンと礫の飛ぶ音を鳴らす。
「「「おおおおっ! すげぇぇぇ!」」」
爆炎を見た獣人たちから歓声が沸き起こる。
成功したアネモネの先制攻撃だが、これで倒れるほど魔物は甘くない。
「キョェェェェッ!」
かなりのダメージを負ったようだが、血まみれになって侵入者――つまり俺たちに向かって突進してきた。
「む! 聖なる盾!」
小さな大魔導師が出した透明な盾に、魔物の突進が阻まれた。
肉の潰れる音と、鱗がこすれる音が聞こえてくる。
「撃て撃て!」
防御魔法がなくなると、獣人たちが持っていた武器から次々と矢が放たれた。
放物線を描いていく白い矢が、ワイバーンの鱗に叩き落とされる。
硬い魔物の防御を貫通できないようだ。
俺の出番だ。
「おりゃ! 発進!」
アクセルを踏み込むと、鋼鉄のバケットを正面に構え魔物に突進した。
鉄の召喚獣の激突に、ワイバーンがもんどり打ってひっくり返る。
「翼の膜は薄い! 膜を破れないか?」
とりあえず、やつの飛行能力を奪わないと。
空に飛ばれると、こちらが不利になる。
「光弾よ! 我が敵を討て!」「*%$**!」
アネモネの上に顕現した白い光の矢、ツィッツラが構えたコンパウンドボウからも、光の矢が飛んでいく。
ツィッツラのはエルフの魔法らしい。
「ギョェェ!」
2人の魔法の攻撃が命中すると、ワイバーンの右翼を引き裂いた。
「はっ!」
今度は剣を構えたアマランサスが前に出る。
「アマランサス!」
確かに彼女は強いが、相手がワイバーンでは――という俺の心配をよそに、華麗なステップで魔物の牙をかいくぐり敵の懐に飛び込んだ。
「やぁっ!」
彼女の気合とともに、ワイバーンの左翼が下から上に切り裂かれ、ぶらぶらと垂れ下がる簾のようになった。
「「「うぉぉぉぉっ!」」」
アマランサスの活躍に、獣人たちが沸く。
これで魔物は空に上ることはできないだろう。
元々、これだけの巨体を飛ばすのは、かなり難しいはず。
高所からハンググライダーのように滑空して離陸していたのではあるまいか。
それなら高所でしか生息していないのも理解できる。
「おっしゃぁ!」
俺は再び、ホイールローダーでの体当たりを行なった。
「ギャァァァァ!」
鋼鉄の体当たりに吹っ飛び転がるワイバーンだが、魔物が寝ていた場所が若干高くなっていて、端材などで囲まれていた。
丸くなった陣地の中に白くて丸いものが見える。
俺の記憶から似たようなものを検索するのだが――それは卵のようだ。
卵といっても、巨大なワイバーンのものなので1mぐらいの大きさ。
重機が乗り上げたことでいくつかは割れ、孵りかけの中身が出てしまっている。
それから察するに――ここは、こいつの巣だったのか。
そいつは悪いことをしてしまったが、こちらも多数の村人を抱える身なんでなぁ。
弱肉強食――悪く思うなよ。
ひっくり返るワイバーンの前に、腕を組んだアキラが立った。
「待たせたな!」
「「「おおお~っ! 待ってました! 竜殺しの旦那!」」」
なんだか知らんが、凄い盛り上がっている。
「おりゃぁ! ぶっかけマヨフルパワー!!」
「「「おおお~っ!」」」
アキラの両手から、大量の黄色いニュルニュルが噴き出して、ワイバーンの上に降りかかっていく。
文字通りのぶっかけだ。
近づくことができれば、彼の必殺――万物窒息が使えるのだが、今回は無理だろう。
「ギョェェ!」
身体にまとわりつく謎の物体を、魔物が懸命にこそぎ落とそうとしているのだが、どう見ても無理だ。
黄色に染まったワイバーンを見て、アキラが叫んだ。
「分離!」
彼の掛け声とともに、大量のマヨが茶色のどろどろに姿を変えていく。
「「「なんだ?! なんだ、ありゃ?!」」」
彼のこの技を獣人たちは初めて見ただろう。
カメのときは、マヨを直接口に突っ込んで窒息させただけだからな。
「アネモネちゃん、火だ!」
「うん! む~!」「*&^&**!」
アネモネと同時に、ツィッツラも魔法の準備に入ったのか、2人の周りに青い光が集まっていく。
「むー! 憤怒の炎!」「*^%^^&!」
多分、ツィッツラが唱えたのも炎の魔法だろう。
火炎放射器のような放物線を描いた炎の橋が、ワイバーンまで届いた。
2人の魔法の炎によって、周囲がオレンジ色に照らし出される。
アキラが出すマヨの油は植物油で簡単には燃えないが、十分な火力があれば白い煙となり一気に気化して炎となる。
「ギョェェェェ!」
たっぷりの油に浸されたワイバーンが、巨大な松明と化す。
敵まで距離があるのだが、頬がじりじりと熱い――すごい熱気が伝わってくる。
魔法に耐性があっても、アキラの油に火が点けば、本当の火炎地獄だ。
叫べば肺の中まで炎が入り込む。
「「「おおお~っ!」」」
すでに暗くなりつつある峠に巨大な松明が灯り、辺りを照している。
まるで昼間のように明るい。
「おっしゃぁ!」
俺はホイールローダーを前進させて、燃え盛るワイバーンを突き飛ばした。
「グギャァ!」
魔物の巣の裏手は崖になっていて、そこに炎をまとった敵が落下していく。
重機の運転席から降りると崖の下を覗いた。
10mほど下に、燃えるワイバーンがまだうごめいているのが見える。
「重度のやけどを負っただろうし、すぐに死ぬと思うが――」
ちょっと可哀想と思ってしまったのだが、相手は魔物。
情け無用。
「ロックフォール!」
アイテムBOXから、峠で入れた岩を取り出して下に落とす。
ガラガラと巨大な岩が転がっていき、ワイバーンに命中した。
「「「おおお~っ!」」」
一緒に谷底を見ていた獣人たちから歓声があがる。
「それってアイテムBOXから出しただけだろ?」
アキラのツッコミが入った。
「まぁな。丸太フォール!」
複数本の丸太が、ガランガランと崖を転がり敵を押しつぶした。
この攻撃によって、敵は完全に息の根が止まったようだ。
「「「おおお~っ」」」
「ワイバーンをやったぞ!」
「勝どきを上げろ! ウラァ! ウラァ! ウラァァァァ!」
アキラが、勝どきの音頭を取る。
獣人たちが、めちゃ盛り上がっている。
ワイバーンを倒したなんて、最高の自慢話ができただろう。
どこの酒場に行ってもヒーロー間違いなしだ。
「にゃー」
ベルとカゲが俺のところにやって来て、身体をスリスリしている。
「お母さん、今日は活躍の場所がなかったな」
「にゃー」「みゃ」
2匹とも気にはしてないらしい。
「ふう……お~い誰か、避難している皆を呼んできてくれ。鉄の箱に乗り直すよりここまで歩いたほうが早いだろう」
「おいらが行ってきやす」
マツが手をあげてくれた。
「頼む! ああ、これを持っていってくれ」
彼に、LEDランタンを何個か手渡した。
「行ってきやす!」
彼を見送ったのだが、獣人たちは興奮冷めやらぬといった感じで、ざわざわしている。
「んもうっ! アキラ! 魔法をなんであの子に頼むの!」
どうやらツィッツラは、彼がアネモネに魔法を頼んだのが、気に入らないようだ。
頼むのなら自分に頼めと言いたいのだろう。
「悪い悪い」
アキラはプリプリと怒っているエルフを抱き寄せると、唇を重ね尻を揉み始めた。
おいおい、公衆の面前でなにをするつもりだ。
ちょっとハラハラしていたのだが、アキラがツィッツラを離した。
「ケンイチ、今日ぐらいは酒を飲ませてもいいんじゃね?」
「そうだな。カメを退治したときもお預けだったしな」
シャングリ・ラで一番安い甲種焼酎を30本買う。
4Lで2000円だが、この世界の酒より上等だ。
全部で120Lか、村人全員で飲んでも1L以上飲めるから、十分に足りるだろう。
ついでに、プラの使い捨てカップも買う。
100個入でちょうど1000円のがあるが、こういうのはペラペラだ。
もうちょっと大型でしっかりしたタイプのほうがいいだろう。
50個で1500円のものを2つ購入。
「ポチッとな」
焼酎とカップがドサドサと空中から落ちてきた。
「これは酒だ。今日は好きなだけ飲んでもいいぞ?」
「「「おおお~っ!」」」
早速、獣人たちが酒に群がった。
アキラが、蓋の開けかたやらをレクチャーしている。
「聖騎士様、他の敵は大丈夫かぇ?」
宴会をやらかそうとしている俺たちにアマランサスが心配している。
「アオイ! なにか感じるか?」
俺から言われた彼がクルクルと耳を回している。
「大丈夫みたい」
「そうか」
「それにケンイチ、竜種は縄張り意識が強いから、この近くには他の竜種もいないってことだ」
「そうなのか。さすがに竜殺しは竜に詳しいな。まるで竜博士だ」
「ははは、まっかっせっなっさっいっ!」
こんな山の上には、森の中にいるような狼や熊はいないだろう。
いるとすれば空を飛ぶ魔物だろうが、鳥の仲間は鳥目のはず。
とりあえず大丈夫だと判断した。
俺やアネモネは飲まないし、アマランサスはウワバミ。
アキラも、祝福の力を使ってアルコールは分解できる。
万が一敵の襲撃があっても大丈夫だ。
「飲まないやつには、これをやる」
俺はアイテムBOXからチュ○ルを取り出した。
「あたいもそっちがいい!」
飛びついたのは、ナンテンだ。
「アオイはどうだ?」
「俺も、こっちで……」
彼もチュ○ルを取るようだ。
「ちょっと、ミャレーとニャメナは手伝ってくれ」
「なんだい旦那!」「にゃ」
2人にもチュ○ルをやった。
それから、ここにやってくる村人たちのために彼らのコンテナハウスを出す。
「ケンイチ、どうするの?」
アネモネも俺の所にやってきた。
「下に降りて、ワイバーンを取ってくる」
ワイバーンの卵もあったようだが、とりあえず屍を拾ってこよう。
「確かにもったいないぜ」「ワイバーンは美味いにゃ」
「そのとおり――アキラ! 村人たちが来たら飯を食うように伝えてくれ。酒も飲んでいいとな」
「オッケー!」
「オッケーにゃ!」
村人たちはアキラに任せて、俺はアイテムBOXからロープを取り出した。
以前も峠で谷底に降りたが、今日は10mぐらいでそんなに高くはない――とはいえ、辺りは暗くなりつつあるので回収するならさっさとやらないとマズい。
明日の回収では、肉が使えなくなってしまう。
「アネモネは料理をしていてくれ」
「解った!」
「旦那! おめでたい日はカレーだろ?!」「そうにゃ!」
おめでたくなくても彼女たちは、カレーなのだが。
「それでいいなら簡単だが」
アキラもそれでいいというので、インスタントカレーにした。
エルフたちはなにを食べるのだろう。
彼女たちは肉を食わないから、ツィッツラに聞くとインスタントラーメンでいいと言う。
毎日ラーメンで飽きないのだろうか?
今のところ飽きていないらしい。
ちょっとシャングリ・ラを検索してみると、レトルトのおかずセットが5000円で売っている。
15種類ぐらいで肉もあるのだが、芋の煮付けとかマメとひじきの煮物など、家庭料理のおかずのようなものが多い。
これなら食べられるのではないだろうか?
一揃い購入してみた。
エルフたちも温めの魔法が使えるから、すぐに食える。
アキラがいれば大丈夫だろう。
料理はアネモネとアキラに任せて、俺は崖下に向かう。
アイテムBOXからロープを出して獣人たちに持ってもらうわけだ。
「あたいも手伝うよ!」
ナンテンもやってきてくれた。
獣人が3人いれば、俺1人ぐらいなら軽々と持ち上げられる。
以前に崖のロッククライミングで使ったハーネスを出すと、装備してロープを繋ぐ。
アイテムBOXからLEDヘッドライトを取り出して、頭に装着。
彼女たちにロープを持ってもらい、俺は崖に脚をかけた。
「頼むぞ」
「任せるにゃ!」「大丈夫だよ旦那!」
「あの、俺は……」
アオイがウロウロしているのだが、彼には周囲の警戒を頼む。
「それじゃ降ろしてくれ」
「はいよ」
暗い谷の底へ、ずるずると降りていく。
今回は10mなので、すぐだ。
ワイバーンを燃やしていた炎はすでに消えており、タンパク質の焼けるにおいが下から上がってくる。
爪や髪の毛が焼けるようなにおいで、鼻をふさぎたくなる。
暗い谷底に到着すると、LEDヘッドライトで辺りを照らす。
焼けただれたワイバーンは完全に死んでいるようだ。
これは使えるのだろうか?
まぁ、解体して駄目だったら、アイテムBOXのゴミ箱に投入すればいい。
まずは岩をアイテムBOXに収納してから、丸太も入れる。
岩も丸太も武器として十分に使えることが解ったので、これを利用しない手はない。
峠にまだ落石があるかもしれないので、そのときにもとっておくとするか。
最後にワイバーンの死体を収納すると、上から人の声がたくさん聞こえてくる。
「ケンイチ様!」
上から声がするので見上げるのだが、暗いのでよく解らん。
多分、マサキの声だと思う。
「今、戻る! お~い、引っ張り上げてくれ!」
「解ったにゃ!」
俺の身体が引っ張られていく。
崖を蹴って歩くように上を目指した。
さて、これから勝利の宴会だな。





