260話 崖と絶壁
共和国の村から人を連れて、王国への帰路の途中。
俺たちは峠のふもとに到着した。
ちょうどいいスペースがあったと思ったら、峠の宿場町の廃墟らしい。
ここでキャンプを張ることにした。
使えそうな建物が多いので、アイテムBOXに入れて再利用を考えている。
共和国に変わる以前に建築された建物らしく、しっかりとした作りが多い。
屋根などは落ちてしまっているが十分に使える。
それでなくとも、サクラは住宅不足だ。
共和国から村人たちを連れていっても、皆の寝床がない。
それをここから持っていく廃墟で賄えればと思っている。
共和国が倒れて、この峠がまた使われるようになったときに、ここから資材を運んでしまうとまたゼロからの開発になるとは思うが、それがいつの日になるかは解らない。
いつになるか解らない未来より、村人たちの明日だ。
旅は道連れ世は情けでドンドン乗員が増えるのだが、いまのところなんとかなっている。
これ以上増えたらちょっとマズいのだが、途中で一緒になった兵士たちの話では――ここから先には人が住んでいないらしい。
共和国に変わり、カダン王国との国交が断絶してしまったので、峠がまったく使われなくなってしまったせいだ。
――峠のふもとでキャンプをした次の日の朝。
コンテナハウスの中で目を覚ます。
ベッドの俺の上にはアネモネが乗っている。
「ん……」
「アネモネ、朝だぞ?」
「んん……」
彼女の頭をなでなでしてやると、アネモネを腹の上から降ろして外に出る。
ドアを開けると、ベルとカゲがするりと出ていった。
昨晩作ったマイクロバスとコンテナハウスの鉄の陣地の中で、村人たちが食事の準備をしている。
彼らは働き者――いや、働かなければ飢えて死ぬしかなかったので、そうするしかなかったのだろう。
サクラで村を作って、少しでも余裕ができればいいのだが。
途中で一緒になったアオイたち獣人と、10人の子どもたちは別のコンテナハウスで寝た。
砦近辺で一緒になった兵士たちは、大型テントで寝ている。
下級兵士たちの砦での生活も中々大変だったらしく、普通に眠れるだけでも彼らは喜んでいた。
昨晩は暗くて解らなかったが、本当に町の廃墟だ。
石造りの家はだいぶ収納したが、まだ使えそうなものがある。
潰れている木造家屋も、端材などがそのまま使えるだろう。
この世界で板を作ったりするのには、大変な労力が必要になる。
もったいないので可能な限り回収しなくては……。
皆の所に戻ると外で食事を作る。
寸胴に肉を入れたインスタントスープと、シャングリ・ラで買ったパン。
アオイたちのグループと、新参の兵士たちが美味いと喜んでいる。
「う、美味い! こんな美味い食事を食べていいんですか?!」
「まぁ、旅をしている間だけな。領地についたら食い扶持を自分で探さないとだめだぞ?」
「それは解っています」
「自分たちで森を開拓して農業をするというなら、援助もする。共和国みたいに口先だけじゃないぞ? ちゃんと面倒はみるからな」
「はい!」
痩せ細った兵士たちの顔にも明るい表情が浮かぶ。
ここから先はバスに乗っての移動だ。
屋根に乗ったりして大変だろうが、歩くよりはいいだろう。
飯のあとは引き続き家屋の収納をする。
「瓦礫をアイテムBOXに入れるのは、ちょっと大変だなぁ」
ある程度まとまっていないと、個別に認識されてしまって1個1個収納しなくてはならない。
さすがにそれは面倒くさい。
そこにアネモネがやってきた。
「ケンイチ、あれを集めればいいの?」
「ああ――そうか、ゴーレムのコアで集めればいいのか」
「うん!」
大型のゴーレムのコアを出して、アネモネに瓦礫を集めてもらう。
瓦礫でゴーレムを作るわけだ。
土や水でゴーレムが作れるなら、瓦礫でだって作れる。
ガラガラと木材が集まっていくと、まるでスライムのように動き回り、瓦礫を次から次へと飲み込んでいく。
「「「おおおっ!」」」
食事の片付けをしている村人たちが、魔法で動き回る瓦礫に驚いている。
「す、すごい魔法だ……」
兵士たちも彼女の魔法に驚嘆したまま固まっている。
「うちの小さな大魔導師様だから、敬ってくれよな」
俺はゴーレムを操っているアネモネを指した。
「はは~っ!」
うちの大魔導師に礼をする兵士を横目に、大きな山にまとまったものの収納を試みた。
「収納!」
目の前から山が消えた。
「「「おお~っ!」」」
また村人たちが沸く。
アネモネのおかげで瓦礫のほとんどを収納できた。
これで村作りもはかどることだろう。
「マサキ、ここにあったものを移築して、お前たちの村を作ってやるからな」
「あ、ありがとうごじゃいます~」
突然彼が、地面に膝を折ると泣き始めた。
「まてまて、泣くやつがあるか」
「我々一同、ケンイチ様のためにつくしゅましゅ~」
「「「ケンイチ様~」」」
今度は村人たちが集まってきて膝をついた。
その光景に、アマランサスもうなずいている。
「これぞ、正しき為政者の姿。さすが聖騎士様」
「本当ぉ、領主様っぽいよねぇ」
セテラも長い耳をピコピコさせて俺をからかってくる。
「まいったな」
「はは、ケンイチ。モテモテじゃねぇか」
アキラとツィッツラも笑っているが、まだまだ先は長い。
村人たちを立たせた。
「ほらほら、出立の準備をしてくれ。まだ王国に着けると決まったわけじゃないんだぞ?」
「「「はい!」」」
「アキラ、峠が通行できるか解らないんだぞ?」
「まぁ、しばらく使ってねぇみたいだし、道の崩落やら埋まってたりするかもなぁ」
「そうだろ?」
「でも、ケンイチの重機とアネモネちゃんの魔法があれば、へーきへーき」
「うん!」
アネモネがガッツポーズをしているが――。
「だといいがなぁ」
ここでいくら心配してても始まらない。
俺たちは出発の準備を始めた。
村人たちの荷物を専用のコンテナに入れて、収納する。
「お~い! ベルぅ!」
俺の呼びかけに森猫たちも戻ってきた。
準備が終わると皆でマイクロバスに乗り込み、ルーフキャリアのハシゴで屋根の上にも登らせる。
「峠のサンダーロードを走って、屋根の上じゃスリル満点だと思うが……」
「しゃーねぇ、こんだけ増えたんじゃ、どう詰めても中には乗れねぇし」
村人たちの乗車をアキラと一緒に見ているが、彼の言うとおりだ。
「お~い! しっかりと、その金具を繋ぐんだぞ?」
獣人たちが安全帯とハーネスの使いかたを教えてやっている。
昨日の夜は適当に乗せてしまったが、今日は険しい峠道だ。
右に左に揺られて大変なことになる。
兵士たちも、屋根に乗っている子どもたちの真似をして、ルーフキャリアにハーネスを繋ぐ。
おっかなびっくりだが、なんとかなっているようだ。
「ナンテン、アオイ、大丈夫か?」
「大丈夫だよ旦那!」「は~い」
皆が乗り込んだので、俺とアキラも運転席につく。
「アキラ、そっちはどうだ?」
『問題な~し』『&*&&^%%』
ツィッツラの声も聞こえる。
「ほんじゃ、出発進行!」
『オッケー!』
「オッケーにゃ!」
無線機からのアキラの声に、いつものミャレーの声がバスの中に響く。
アクセルを踏むと、マイクロバスは坂道を登り始めた。
しばらく直進しながら徐々に坂がきつくなってくるが、バスなら問題ない。
『ケンイチ、今日はどの辺まで行くんだ?』
「いくらゆっくりでも、頂上付近までは行きたいなぁ」
『向こうの峠は、頂上に宿場があったが、ここにもあったのかね?』
「あ! そうだな、もしかしてあるかもしれない」
頂上にも宿場の廃墟があったら、それも使えるな。
『ケンイチが根こそぎ持っていったら、ここを使うようになったら大変だな』
「まぁ、俺もそれは考えたよ。でも、それがいつになるか解らないし」
「そのときは、ケンイチが他から家を運んできてあげればいいでしょ?」
「はは、アネモネの言うとおり――というか、本当にそうなったら、お城からそういう任務を賜るかもしれない」
『そうだな、ありえる』
その前に、共和国が潰れるのが前提になるが……。
「その可能性はかなり低いと言わざるを得ませんわぇ」
俺の後ろからアマランサスが首を出した。
「やっぱり、アマランサスもそう思うか?」
「はい、そう簡単には国は倒れませぬ」
「旦那! 旦那の毒入りワインが、中央に持ち込まれたとしてもかい?」
ニャメナの言うとおり、あのワインが効果を発揮してくれても、この国は倒れてはくれないかもなぁ。
「一度できた国ってのは、なかなか倒れないものなんだよ。ここを統一した将軍様ってやつが死んだとしても、家族や取り巻きの誰かがあとを継ぐだろう」
「そうねぇ――王国で王様が死んだってぇ、他から代わりを見つけてきて玉座に座らせるだけだしぃ。結局、頭をすげ替えるだけなのよねぇ」
セテラが嫌味な顔をして、そんなことを言う。
「まったく、耳が痛いのぉ」
エルフの言葉に、アマランサスが渋い顔をしている。
暗に王族なんて誰がなったって意味がないと揶揄しているのだ。
ガタガタと車体を揺らしてバスが坂道を登っていくと、目の前にそびえ立つ崖が迫ってきた。
どうやら右側に壁を見ながら、峠を登っていくようである。
道幅は馬車2台分は確保されているのだろうが、俺たちの乗っている文明の利器は少々幅が広い。
道が狭くなっている部分など、結構ギリギリである。
周りに木も草もまばらになってきて、本格的な峠道になってきた。
右側には切り立つ壁、左側には断崖絶壁。
当然ガードレールなんてものはないので、落ちたら下まで真っ逆さま。
鉄の箱に乗っている俺たちは、全員投げ出されてその生涯を終える。
元世界の道路は、ハンドルを切るとスムーズにコーナーがクリアできるように設計されている。
コーナーの途中で半径が変わったりすることはないが、ここは違う。
崖の道なりに作った道路なので、超複合コーナーの連続――スピードはまったく出せず時速10kmがいいところ。
崖を削って作った道は、いつ崩れてもおかしくない。
「ふへへ……」
思わず変な笑いが出る。
横をチラ見すると、アネモネがこっちを見ていた。
村人たちも恐怖で騒ぐかと思っていたのだが、ひたすらじっとして息をひそめている。
運転に集中したいので、静かなのはありがたい。
曲がりくねった道は、コ○スターの最小旋回半径ギリギリだ。
多少こすっているが、走れば傷がつくのだから気にしない。
ボロボロになっても走ればいいのだ。
どうしても曲がりきれない場所は、いったんバスから降りるしかない。
「アキラ、そっちはどうだ?」
『ひゃはは! こりゃいつ落っこちてもおかしくねぇな!』
「もっとデカいバスを出さなくてよかったよ」
大型の観光バスじゃ、この道は無理だ。
『ああ、これで正解だな』
「それか、もっと小型のハ○エースを使って、ピストン輸送するか」
『それもありだな』
「うにゃー! すごいにゃ!」「ははは、こりゃ落ちたらやべぇな!」
ミャレーとニャメナも元気だ。
獣人たちは高い所が平気らしいからな。
屋根に乗っている連中も平気だろう。
窓を開けて上に声をかける。
すぐ横には、岩の壁が迫ってきている。
「お~い! 大丈夫か?!」
「平気だよ旦那! 岩の壁に手が届くよ!」
上から壁に反射したナンテンの声が聞こえる。
「危ないから止めとけ」
普通につぶやいたので只人なら聞こえないだろうが、ナンテンには聞こえているだろう。
「只人や子どもたちは震えているけど、ここじゃ逃げ場もないしね」
彼女の言うとおり、ここを切り抜けなければ新天地にはたどり着けない。
たとえ時速10kmでも5kmでもいい。
前に進みさえすれば、いずれは王国にたどり着く――って、ここは王国らしいのだが。
言葉を変えよう、峠を降りられれば俺たちの勝ちだ。
そんな事を考えていると、早速第一の関門がやってきた。
180度折れ曲がるスイッチバックだ。
マイクロバスじゃターンできない。
「アキラ、ストッープ!」
『どうした?』
「180度ターンだ」
アキラと一緒にバスを降りると、確認をしに行く。
目の前には見事な180度ターン。
そこから落ちたら当然、真っ逆さま。
「は~、こいつは馬車でもキツイんじゃね?」
アキラが、ジグザグの頂点を見てつぶやく。
「馬車ってステアリングがないから、どうやって曲がっていたんだろうな?」
「ステアリング付きの特殊車両とか?」
「それを使って、奥にスペースはあるから何回も切り返ししたとか……」
「かもな……」
見れば、奥のスペースに残骸のようなものがある。
もしかして、ここに方向転換を手伝うのを生業にした人間が住んでいたのかもしれない。
「はぁ~」
悩んでいても仕方ない。
皆をバスから降ろすと、アイテムBOXに収納。
切り返し場所から離れた所に、再度召喚した。
今度は壁が左側にあるので、少し隙間を空けないと乗車できない。
「ちょっと乗る場所が狭いが、乗り込んでくれ」
「「「はい」」」
車体と壁の隙間を通って、村人たちが乗り込んでいく。
ルーフキャリアについているハシゴを使って、屋根の上にもよじ登る。
切り返し場所で、ベルとカゲがクンカクンカしてるが、ここにはなにもない。
その間に、アキラのバスから村人たちの降車が完了していたので、アイテムBOXに収納した。
「「「おお~っ」」」
消える鉄の箱に村人たちから歓声が上がる。
同じように切り返す所から離れた場所に再びバスを出した。
「まったくぅ、非常識ねぇ」
「只人にもこんな連中がいたなんて」
エルフたちがなにか言っているが、褒め言葉と取ろう。
「只人じゃなくて、稀人だって話だったろ?」
「そうねぇ。只人じゃこんなことはできないわぁ」
「でも、この分だと、もう1回切り返し場所があるな」
「だろうな――これだと逆方向だし……」
しばらく崖の道を進むと、俺の予想どおりに、180度ターンの切り返し場所が見えてきた。
再び皆を車から降ろすと、アイテムBOXに収納。
切り返しをクリアした場所に再び出す。
これでまた進める。
登り始めたときと同じように、また壁が右側になった。
「さすが、旦那だぜ!」「そうだにゃ!」
「魔法で動く鉄の魔獣を簡単に出したり消したり――ケンイチ様は凄い……」
運転席の後ろで、獣人たちとマサキがうんうんと唸っている。
まぁ、こんな具合に峠道をクリアするやつはいないだろうなぁ。
さらに俺たちを困難が襲う。
「アキラ、ストップ!」
『どうした?!』
「落石だ!」
車を停止させると、乗用車ぐらいある落石が道を塞いている。
土砂崩れではなく単発の落石だが、大きい。
マイクロバスを降りると岩の所まで行く。
「収納!」
これは簡単だ。
アイテムBOXに入れればクリアできる。
「お~い! 獣人たち、手伝ってくれ~!」
「よっしゃ!」「ホイきた!」
獣人たちがバスの屋根から飛び降りてきた。
「小さい石を拾って谷に捨ててくれ。細かいのはアイテムBOXに入れるのが大変なんだ」
「任してくだせぇ!」
獣人たちが石をポイポイと谷に捨てると、あっという間に綺麗になった。
逆にたくさんあるなら、アネモネのゴーレム魔法を使ったほうがいいのだが、このぐらいなら人海戦術のほうが早い。
「皆、飯をちゃんと食っているせいか、動きがいいな」
「もちろんでさぁ!」「飯さえ食えれば100人力よ!」「いつもは腹減って腹減って……」
皆が村での貧しい暮らしを思い出したのか、しょんぼりしている。
「この峠を越えることができれば、もう飢えることはないんだ」
「そうだ!」「オレはやるぜ! オレはやるぜ!」
「「「うぉぉぉ!」」」
獣人たちが、拳を突き上げて雄叫びを上げる。
興奮している獣人たちを屋根に乗せると、再び走り始めた。
地形に合わせて掘られたジグザグの道をひたすら進み、なん回クリアしたか忘れるぐらいの右コーナーを曲がる。
「おわぁ!」
俺は、突然現れた目の前の光景に急ブレーキを踏んだ。
「「「うわぁぁ!」」」「「「きゃぁ!」」」
バスの中に悲鳴が響く。
フロントガラスから見える凄まじい光景。
長さ十数メートルに渡って道路が崩落していたのだ。
「わぁ!」「崩れてるねぇ」
アネモネとセテラがフロントガラスを覗き込んでいると、無線からアキラの声が聞こえてきた。
『ケンイチどうした!?』
「道の崩落だ!」
『ありゃ-!』
「派手に崩れてるにゃ!」「やべぇ」
「聖騎士様」「ケンイチ様」
「アマランサス、マサキ――心配するな、今見てくる」
「はい」
車を降りると、アキラもやってきた。
「うぉ~、派手にいっているなぁ」
崖を見て竜殺しが頭をかいている。
彼自慢のマヨパワーもこういう場面では活躍しようがない。
「まぁ、こうなっているんじゃないかと思ってたよ」
「どうする? ケンイチ」
際を見れば、人が1人通れそうなスペースはある。
「あのキャットウォークを通るしかないだろうなぁ」
俺は端を指差した。
「ああ、やっぱり?」
皆を車から降ろして1人ずつ渡らせるのだが、当然命綱などが必要だろう。
「お~い! 獣人たち、また手伝ってくれ!」
「ほいきた!」「よっしゃ!」
獣人たちが車の屋根から降りてきたので、アイテムBOXから出したロープを手渡す。
1人にロープを腹に巻いてもらい、向こうまで行ってもらう。
「ちょっと危険な仕事だぞ?」
「がってん!」「俺が行く!」「俺に任せろ!」
獣人たちが円陣を組んでなにかを始めた――じゃんけんだ。
「「「チケタ! チケタ!」」」
そういえば王国の獣人たちも、じゃんけんらしきものをやっていたな。
「へっへっへ!」
どうやら渡る者が決まったらしい。
得意満面だが、こんな場所でも彼らは恐怖を感じていない。
腹にロープを巻くと、まるで平地を走るように向こうに渡ってみせた。
「大丈夫そうだな……それじゃ、なん人か向こうに渡って、この縄をピンと張ってくれ」
「「「がってん!」」」
ロープの端と端を獣人たちが持ってピンと張る。
屋根に乗っていた兵士たちをモデルにして、ハーネスの使い方を教える。
「張られた縄にこの金具を通せば、安全に渡れる。万が一、足を踏み外しても下まで落ちることはない」
「「「……」」」
理屈は解るだろうが、やはり怖いのだろう。
可哀想だが、ここを越えねば次に進めない。
只人の村人たちと俺達の分のハーネスを購入した。
崩落している場所が他にもあるかもしれないし、ここで全員分購入したほうがいいだろう。
使わなかったら、シャングリ・ラの買取に入れればいいわけだし。
「ポチッとな」
落ちてきたハーネスを皆につけさせて、キャットウォークを渡らせる。
1人、また1人と平均台のような狭い道を歩いていく。
小さな子どもたちは、獣人たちに抱いて渡ってもらう。
「エルフたちは?」
「そんなのいらないぃ」「僕もいらない」
エルフたちは金髪を揺らして妖精のように渡り、森猫たちも平気な顔をして渡っていった。
「私も行く!」「妾もじゃな」
フンスと気合を入れたアネモネがおっかなびっくり渡り、そのあとをアマランサスがスタスタと続く。
彼女は武術の達人らしく、こんな場所でも正中線がぶれることはない。
最後に残ったのは俺とアキラ。
「アキラ、先に行ってくれ。俺はコ○スターを収納してから行く」
「オッケー!」
誰もいなくなったマイクロバスの所に行くと、俺は叫んだ。
「収納!」
鉄の召喚獣をアイテムBOXに突っ込んだ俺が渡り、最後にロープを張っていた、獣人たちが渡り終えた。
「おっしゃ! クリア!」
「やったぜ!」
「「「おおお~っ!」」」
「皆も怖かったと思うが、この他にもこういう場所があるかもしれない。だが心配することはないぞ」
「同じ感じで渡ればいいにゃ」「クロ助の言うとおりだぜ」
「「「おお~っ!」」」
まぁ最初はおっかなびっくりだろうが、慣れればどうってことはない。
ただ、キャットウォークすらない崩落現場があったらどうしようかなぁ……。
不安ではあるが、それを口に出したり表情に出したりはできない。
村人たちを元気づけて、サクラまで連れていかねばならないのだ。
途中のなん箇所かで休憩と食事を取り、山崩れがあった場所ではアネモネのゴーレム魔法で土砂を押し流した。
ベロニカ峡谷のときに、このゴーレムの使い方を知っていればなぁ。
もっと簡単に土砂を除去できたのに……。
――といってもあとのカーニバル。
それだけアネモネが成長した証だと喜ぼう。
そろそろ峠の頂上が見えてくる頃、空はオレンジと紫のグラデーション模様になり、ちぢれ雲が浮かんでいる。
マイクロバスのトリップメーターは約80km――時速10kmで10時間ほど走ってこの距離だ。
途中で色々な障害物をクリアしてこの結果なので、いいタイミングで頂上に到着することができた。
「やったぞ! 峠の頂上だ」
頂上はちょっと広くなっている場所があり、やはり建物の廃墟が何軒かある。
「ケンイチ様! なにか変なにおいがするよ!」
屋根の上から聞こえてきたのは、アオイの声だ。
「変?」
『ケンイチ、どうした?』
「アオイが、変なにおいがすると言っている」
『どうする?』
「ここまで来て下がれない。偵察隊を出すか」
『了解!』
「ウチが行くにゃ~!」「俺もだぜ!」
「だ、大丈夫か?」
「任せるにゃ!」
ミャレーとニャメナに頂上付近の偵察を頼む。
早くしなければ、暗くなってしまう。
なにかいたとしても、暗闇で戦うのはかなり不利になる。
俺が焦っていると、獣人たちの叫び声が聞こえてきた。
「ふぎゃぁぁぁ!」「ぎゃぁぁぁ!」
あ~、なんかデジャヴュ……。





