254話 黒い甲虫
共和国の村についた俺たちは、村人の原始人のような生活に驚いた。
物資も満足に配給されておらず、人々の生活はギリギリ一杯。
次の収穫も満足に望めず、このままでは全滅してしまうという。
見かねた俺は、国際問題になるのも覚悟で村人たちを助けることにした。
情緒によって領の行く末を決めてしまう俺は、きっと為政者には向かない人間なんだろうが、ここで彼らを見捨ててしまえば、きっと後悔する。
そう思った俺は行動を起こした。
2台のマイクロバスを用意すると、彼らを全員乗せて暗闇に紛れて出発したのだ。
まるで絵に描いたような夜逃げ。
彼らに生活に必要な物資を渡し、ぬかるみにマイクロバスが埋まり、脱出したと思ったら――一難去ってまた一難。
ココらへんに生息しているという、突撃虫という甲虫に襲撃されることになった。
獣人たちの耳で虫の接近を感知したら、車のエンジンを止める。
虫は、温度と二酸化炭素に寄ってくるらしいからな。
アキラから連絡が入る。
『ケンイチ、なにかいい方法はねぇか?』
「鉄板は出せるけど、装着するのに時間がかかるし、それで防げないかもしれん」
『鉄板なら相当厚くないと駄目だぞ?』
シャングリ・ラを検索すると鉄板は売っているが……。
こいつを溶接でくっつけるとなると、重量の問題も出てくるし。
今でも完全に定員オーバーなのだ。
重量オーバーで車体に故障でも発生したらヤバい。
サイトを見ると、売っているのは20cm×30cmで9mmの鋼板。
コ○スターの側面は7m×2mほどのスペースがある。
ここをシャングリ・ラで買った鋼板で埋めるとなると……片面で223枚が必要。
両面だと466枚で、サイトにあるデータは1枚3.5kgらしい。
466枚全部取り付けたとなると――約1.6t……。
おおよそ中型の車1台分になる。重量オーバーなんてもんじゃない。
値段は1枚2500円だから466枚で116万5000円。
こいつが2台分だ。
鉄の重さで問題があるなら、シャングリ・ラにはチタン板も売っている。
こいつなら軽いが……値段がめちゃ高い。
費用は鉄板のざっと3倍~4倍。
もちろん、人の命は金には代えられないが……。
「時間と費用を考えると、獣人たちに頑張ってもらい、羽音が聞こえたら防御魔法でしのぐのが一番コスパがいいと思う」
『そうかぁ。事前に知って時間があれば、じっくりと改造もできるんだろうけどな』
「そうだな」
ニャメナが運転席にやってきた。
「旦那! 俺たちも外に出たほうがいいか?」
「いや、ミャレーとニャメナは窓を開けて外の音を聞いてくれ」
「解ったにゃ!」
俺の話を聞いたマサキが、すぐに席の交換を始めた。
ミャレーたちを窓側に座らせたのだ。
「アキラ、獣人たちに周囲の音を拾うために耳を立てるように頼んでくれ」
『おう!』
「たのむ――アネモネも魔法を頼むな」
「うん!」
「ケンイチ、私にはぁ?」
「セテラも頼むぞ」
「わかったぁ!」
「聖騎士様! 妾は?」
「アマランサスも頼む」
「心得ました!」
マイクロバスの窓を開けて出発する。
ミャレーとニャメナが窓から頭を出しているのが気になるが、非常事態だ。
「窓から頭を出すと危険だから、気をつけてくれよな」
「解ってるよ、旦那」
屋根に乗っているナンテンたちも木の枝やらが危険なのだが、獣人たちのタフさに甘えてしまおう。
それから1時間ほど進む。
「旦那! 来たぜ!」「来たよ~! 左側!」
ニャメナと、屋根に上ったナンテンからの声が聞こえてきた。
「アキラ、停止する!」
『おう!』
エンジンを止めると、アネモネの聖なる盾を使ってやり過ごす。
左側に透明な魔法の盾が顕現しているが、上手く斜めに設置できているらしい。
じっとしていると、上から声が聞こえてきた。
「通り過ぎたよ!」
「ありがとう、ナンテン!」
「にゃはは」
上から彼女の笑い声が聞こえるが、飯を腹いっぱい食っているせいか、とても元気だ。
「アネモネ、上手く斜めに防御魔法を出せたみたいだな」
「うん!」
マイクを取って、アキラの車に連絡を入れる。
「アキラ、帝国ではなにか防ぐ手はなかったのか?」
『ああ、そういえば家畜用に虫除けのアイテムがあったはずだが……』
「ここで作れないか?」
『センセがいればなんとかなったと思うが、どういう仕組みなのか解らん』
助手席に座っているエルフの大先輩に聞いてみる。
「セテラは、そういう魔法は?」
「普通の虫除けの魔法なら知っているけどねぇ」
「アキラ、虫除けの魔法は使えないのか?」
『普通の虫除けの魔法は設置型なんだよなぁ』
「つまり、移動できない?」
『そう』
たとえばキャンプをしている所で、虫除けの魔法なら使えるが、移動する車などには使えないってことか。
移動をするためには、アイテム化して持ち運びできるようにしなければならないようだ。
「アキラ、あまりに頻繁に襲われるようなら、なにか手を考えよう」
『オッケー!』
「オッケーにゃ!」
再び車が走り出す。
「セテラ、魔法の虫除けはキラーホーネットみたいなデカいやつには効かないのか?」
「ああいう類は無理ねぇ。あくまでも小型の虫用」
「そうなのか」
蚊取り線香みたいなもんだな。
大型の虫には強烈なやつが必要ってわけだ。
30分ほど走ると、今度は右側からの襲撃だという。
アネモネに聖なる盾を使ってもらうと、車体の右側に大きな音と閃光が走った。
「「「うわぁぁぁ!」」」「「「きゃぁぁ!」」」
座席に伏せている村人たちから、悲鳴が上がる。
「虫が衝突したのか?!」
アキラから無線で連絡が入った。
『ケンイチ! 大丈夫か?! すげぇ、光と音がしたぞ!』
「大丈夫だ、アネモネの魔法が防いでくれた」
「えへん!」
「やるねぇ、小さい大魔導師さんは」
「ケンイチのためだもん!」
エルフにも褒められて、アネモネはご満悦のようだ。
「右、左、右と来たから、もしかして1つの個体だったのか?」
「あ~旦那の言うとおりかもなぁ」「そうだにゃ」
「そうかもしれませぬ」
家族と話していると、屋根からナンテンが飛び降りて、なにかを探している。
「ナンテン、どうした?!」
しばらくウロウロしていた彼女だが、俺が座っている運転席の窓の所にやってきた。
手に持っていた、なにか黒いものを差し出す。
「旦那、これ」
彼女が差し出したのは、カブトムシのような真っ黒な甲虫。
大きさもカブトムシに近く、つやつやと光っている。
カブトムシは角が上に伸びているが、そいつがまっすぐに水平に伸びて流線型を成す。
この形態が超高速を出すのに一役買っているようだ。
「へぇ~こいつがそうか」
手にとってみると、軽くて黒光りして、顔が映りそう……。
ちょっと格好いいんだが。
元世界でも、子どもに人気が出そう。
「これ、もらっていいか?」
「うん」
「ほんじゃ、対価でこれをやる」
俺はアイテムBOXから、チュ○ルを取り出した。
「ほれ、これをやる。王国じゃ働いたら対価を貰えるから、それに慣れたほうがいいな」
「これは?」
「こうやって、先端を切って舐める食べ物だ」
「だ、旦那~俺にも」「ウチにもにゃ~」
「ここでお前たちにやったら、後ろの獣人たちにもやらんとまずくなるだろ?」
「うう……」「うにゃー」
俺の言葉を聞いたナンテンが、チュ○ルをおそるおそる舐める。
「ん! ペロペロペロペロペロペロ――」
舐め始めた彼女が、一心不乱に舐めている。
「美味いだろ? 旦那のために尽くせば、そういうのがもらえる」「そうだにゃ」
ミャレーとニャメナが窓から顔を出して、よだれを垂らしている。
「はぁぁ~、こういう美味いものがもらえるから、獣人が旦那の傍にいるんだね!」
「それだけじゃない。酒も飲めるし、ふかふかのベッドもある」「毎日、ブラシをかけてもらえるにゃ」
「いいなぁ……」
「あいにく、獣人の愛人枠は俺たちの分で埋まってるから無理だけどな」「そうにゃ~」
やっぱり、愛人枠ってことになっているのか。
まぁ、やることやっているわけだから、そう言われても仕方ないが。
獣人たちのことはさておき、ナンテンからもらった黒い虫を皆に見せる。
「ほう! これが、その虫かぇ?!」
「すげぇ! 初めて見たぜ」「ウチもにゃ」
「ふわぁ!」
うちの家族にも見せてやるが、その前に――。
「アイテムBOXに収納」
収納できないってことは、こいつはまだ生きている。
そういえば、動かないが脚が開いたままだ。
虫が死ぬと脚が閉じる。
「アネモネ、こいつを魔法で温めてくれ、お風呂よりちょっと熱いぐらいの温度で」
「うん! 温め!」
加熱をすると虫の脚が閉じたので、これで確実に死んだだろう。
こんどは乾燥してもらう。これで保存ができるはず。
個人的にも保存しておきたい逸品だ。
男の中に埋もれている、少年の心をくすぐって止まない。
「有名なのに、見たことがないのか?」
「旦那、普通は殺られて終了か、すぐに逃げるんだよ。立ち向かったなんて聞いたことがねぇ」「うちもにゃ」
「セテラは?」
「あそこらへんにはいなかったしねぇ。いても捕まえることはなかったし」
ワイワイしていると、無線で連絡が入った。
『ケンイチ、どうした? 大丈夫か?』
「俺たちを襲っていた突撃虫を捕まえた」
『へぇ? 捕まえるの難しいんだぜ? 帝国なら、好事家が高く買うんだが』
「うぇ! 虫を買うのかい? なにか薬になるとか?」
アキラの言葉にニャメナが反応した。
どうやら帝国には、甲虫の格好よさが理解できる男が多いらしい。
確かに、これは欲しくなると思うが。
試しに、シャングリ・ラの買取に入れてみる。
「うぇ!」
「ど、どうしたんだい旦那?!」「にゃ?」
「な、なんでもない」
シャングリ・ラの買取価格に表示されたのは、100万円。
マジか――でも、ハッキリ言って、こいつと対峙するのは命がけだ。
割に合わないような……。
いつまでも止まっていると、後ろで待っているアキラたちに悪いので、突撃虫をアイテムBOXに収納すると車を発進させた。
「さっき捕まえたのが、1匹で俺たちを襲ってたならいいけどな」
「それなら、もう襲ってこなくなるね」
「まぁな」
余計な出費と時間の心配しなくて済むしな。
ナンテンを屋根に戻し、それから数時間走ったが虫の襲撃はなし。
後ろの車に連絡をいれた。
「アキラ、そろそろ飯にするか?」
『おう! そうだな』
そろそろ昼近くだろ。
俺が車を停止させると、すぐにベルたちがドアの所に向かう。
「ミャレー、そこを開けてやってくれ」
「解ったにゃ」
「お母さん、止まっているのは1時間ほどだからね」
「にゃー」「みゃ」
2匹の森猫が黒い疾風となって、暗い森の中に消えていく。
ここはまだ未開の森だ。一体どこまで森が続いているのか。
途中に分岐などもないし、一本道。
入植者などはいるのだろうか?
こんな場所に送り込まれたら、命がけの罰ゲームだな。
皆で車から降りる。
「ほんじゃ、昼にするか?」
「うん」
アネモネが微笑み、獣人たちが伸びをしていると、マサキがやってきた。
「あ、あの~」
「1時間ほど、ここにとどまる。俺たちは軽く飯にするが、お前たちはどうする?」
「ひ、昼に食事などをしたことがないので……」
「そうか――でも、座りっぱなしで疲れただろう。休んだり、出すものを出したほうがいいぞ?」
「それでは、食料や薪を調達しに、森に行ってもいいですか?」
「ああ、いいぞ。遠くに行って迷子にならないようにな」
「はい!」
アキラに連絡を入れる。
「アキラ、村人たちは昼めしを食わないで、森で薪拾いをするらしい」
『おう! こっちもそんな話をしていたところだ』
「1時間ほど停車するっていってくれ。まぁ、時計がないので解らんだろうが」
『解った、そう伝える』
車から降りて、村人たちのコンテナハウスを出してやる。
今のうちに薪やらを拾っておけば、すぐに夕飯のときに準備ができるだろう。
獣人たちは狩りをするようなので、クロスボウを貸してやることにした。
「おおい、獣人たち集まれ~」
「なんだい、旦那?」
ミャレーとニャメナも来たのだが、彼女たちは関係ない。
村の獣人たちは、犬人も猫人も一緒だ。
犬人の女が俺の近くにやってきて、しっぽをパタパタさせているのだが、ミャレーとニャメナが威嚇して近づけないようにしている。
「森の中で狩りをするなら、これを貸してやる」
俺はアイテムBOXからクロスボウとコンパウンドボウを取り出した。
「「「おおっ! すげぇ!」」」
「弩弓は使ったことがあるか?」
「「「……」」」
どうやら弓などを作ったこともないらしい。
普通の獣人たちは、親や部族の者から武器や罠の作り方を習うらしいが、そういう文化も破壊されてしまっているのだろう。
彼らにクロスボウの使い方を説明する。
「こういう武器だってことは知っているんだろう?」
「ああ」「兵隊が持っているのを見たことがある」「私は見たことない」
どうやら、そこから教えないとだめらしい。
「普段はどうやって獲物を獲ってたんだ?」
「石とか槍とか……」
槍といっても、鉄の鏃がついた立派なものではない。
枝を石器などで尖らせただけのものだ。
停車している時間が短いので、使い方が解る獣人たちにだけクロスボウを渡した。
「そんなに長い間止まってないからな。時間になったら音を出して教える」
「音?」
俺はバスに戻ってクラクションを鳴らした。
「うわぁ!」「ひっ!」
大きな音に獣人たちが飛び上がる。
「この音なら、聞けば解るだろ?」
「ああ……」「それじゃ、行ってくるか!」「こんなすげぇのがあれば、すぐに鳥が獲れるぜ!」
「時間があったら、弩弓を知らないやつにも教えてやってくれ」
「解ったぜ」
猫人と犬人が仲良くしていると妙な感じがするが、文化的なものが破壊されているから、疑問にも思わないのだろうか。
これがいいのか悪いのか……確かに平等といえば平等だが。
複雑な思いでいっぱいだ。
俺たちのコンテナハウスも出して、道の真ん中で軽く昼食にする。
どうにも村人たちのことを考えると気が引けるが、やむを得ない。
村人たちも気を使っているのか、コンテナハウスには近づかないようにしている。
「中々大変だな、ケンイチ」
アキラがカップ麺をすすりながら、口を開いた。
「すまんな、巻き込んでしまって」
「いいってことよ。アマランサスさんの押しに負けたとはいえ、押しかけたのは俺だし、ははは」
「だが、村人を抱えてても、進む速度はそんなに変わらんと思う」
「まぁ、この道じゃな」
「世界旅行でこういう道を走ったことは?」
「ん~、オロシアに行ったときに近いと思うが、あそこは全部が泥まみれだったしなぁ」
ツンドラ地帯とかそういう場所だろうか?
普通はオロシアには行かないと思うが……。
「聖騎士様、オロシアという国は、どのような所なのでしょう?」
「ん~? デカい帝国でな、革命でここと同じような共和国制になったんだが、また革命が起きて帝政に逆戻り」
「そうそう、俺が大学中退したあたりだったかなぁ」
「皇族は全部皆殺しになったとか言われてたのに、生きてたんだよな」
「俺がオロシアに行ったのは、帝政に戻ったあとだな。共和国だった頃は、秘密警察だらけで危なくて行けたもんじゃなかったし」
この共和国にも秘密警察とかあるんだろうか?
こういうのはセットになっているようなものだから、ありそうな気がするが……。
「セテラ、エルフの本星も共和制だったのか?」
「まぁ、似たようなものだけど、一応帝室はあったしぃ」
「ええ? 帝国だったのか?」
「うん、皇族はハイエルフって言われてたぁ」
「ハイエルフってマジでいるのか?」
「へ~、でもハイエルフより、ダークエルフに会いてぇな」
アキラの言葉に、セテラが彼を睨みつけるが何するものぞ。
「この大陸にダークエルフはいないから、ツィッツラは会ったことないんだよな」
「知らないよ、そんな連中は」
「まぁ、ここに降りてこなくて、よかったわぁ」
「じ~っ」
気づくと、アネモネがじっとこちらを見つめていた。
「なんだい? アネモネ」
「なんで、そんなにダークエルフに会いたいの?」
「え? まぁ、そんなに会いたいってわけじゃないけど、見たことがない種族だから興味はある」
「只人って胸が大きいのが好きだけどぉ、ケンイチたち稀人もそうなのぉ?」
「まぁその、なんというか……ゴニョニョ」
「俺はどっちでもいいかな?」
「――といいつつ、レイランさんは爆乳やんけ」
「フヒヒ、サーセン!」
「彼女と初めて会ったときに、『ファイヤー!』」
「ジャストミート!」
俺の掛け声に、アキラが続く。
「――とか言ったんだろ?」
「ははは、バレてるし」
オッサンの会話にアネモネが入ってくる。
「胸がいいなら、私のを触れば!?」
小さな大魔導師様が俺の所にやってきて胸を突き出してくるのだが、正直困る。
「妾の自慢の胸もあるぞぇ?」
まぁ、確かにアマランサスの胸は形がよくて美しい……そうじゃなくて。
「だから、胸は関係ないんだって」
「うそ!」
「うそじゃないよ」
アネモネを抱き寄せて、ナデナデしてやる。
「ふわぁ! もう! そうやってすぐにごまかすん――ふわぁぁ!」
アネモネをナデナデしていると、俺のところにエルフがやってきて抗議を始めた。
「ああっ! それ、私にもやってよぉ! 私に対する愛はないの?!」
また始まった……。
仕方なくエルフを抱き寄せて、頭をナデナデしていると、大きな耳がピコピコしている。
俺は、その耳を両手で掴まえて、スリスリしてやる。
「$*!」
セテラが変な声を出してその場で固まった。
顔が耳まで真っ赤になっている。
「あ~ケンイチ、エルフの耳は敏感なので、あまり触らないほうがいいぞ?」
「え? あ、そういえば、そうだったな」
なぜか、ツィッツラまで顔が赤くなっている。
シャングリ・ラを検索して、ちょっと大きめのリビングソファを購入。
「ポチッとな」
落ちてきたソファーにセテラを寝かせると、外の様子を見に行く。
そろそろ村人たちが森から戻ってきているようだ。
拾ってきた薪をコンテナハウスの中に入れている。
これを使えば、夕飯もすぐに用意できるわけだ。
「「「わぁぁ」」」
なにやら歓声が聞こえてきた。
なにごとかと思ったら、狩りに行った獣人たちが帰ってきたらしい。
彼らの手には、鳥が数羽ずつ握られている。
「旦那! こりゃすげぇよ! 簡単に鳥が獲れる!」
ナンテンが鳥とクロスボウを掲げて喜んでいる。
「そうか、そりゃよかったな。狩りのときにはそれを貸してやるから、頑張って獲ってくれ」
「やったぜ! これで肉がたくさん食える!」
「「「わぁぁ!」」」
獲物を村人たちが囲んでワイワイと大騒ぎだ。
今までは石や手製の槍を使っていたらしいが、そんなものでよく獲物が獲れるなぁ――と感心する。
なせばなるもんだ。
そりゃ食わないと飢えるんだから、命がけだよな。
停車して、そろそろ一時間になる。
「お~い! ベルぅ!」
森猫を呼ぶと森の中から走ってきた。
彼女の黒い毛皮をなでながら、マサキに人数を確認させて、置いてきぼりがないか確かめる。
クラクションを使う必要はないようだ。
全部で71人のはずだから、数えると71人間違いなくいる。
まぁ、村人たちはお互いに全員が知り合いなので大丈夫らしいが。
そりゃ、運命を共にした連中だからなぁ。
助け合わないと死んじまうわけだし……。
なんというハードモード。
俺の家族をコンテナハウスから出すと、鉄の箱をアイテムBOXに収納する。
セテラはなんだかフラフラしているが、大丈夫だろうか?
「セテラ、大丈夫か?」
「……大丈夫だけどぉ、いきなりやらないでよね? びっくりするからぁ……」
「悪い、エルフの耳が敏感だったとか知らなかったものでな」
「今日は許してあげるぅ……」
皆でマイクロバスに乗り込むと、再び道なき道を進み始めた。
果てしない未開の森の中。
こんな所を本気で開拓するつもりだったのだろうか?
いや――元世界でも、俺の住んでいた北海道は、ほとんどが原野だったわけだし。
重機のない時代に、先人が艱難辛苦の果てに開拓して、居住地や田畑を広げたものだ。
俺の爺さんも、長槍持ってヒグマと戦ったらしいしな。
いきなり北海道の原野にぶち込まれたら、異世界転移とさほど変わらない。
ヒグマというエンカウントする魔物もいるしな。
俺が住んでいた北海道のことを思い出していると、前方になにか見えてきた。
道をなにかが横切っている。
近づくとその正体がすぐに解った――川だ。
しかも橋がまったく架かっておらず、幅は10mぐらい。
流れもそこそこ速い。
俺はマイクを取った。
「アキラ、川だ。しかも橋がない」
『くわぁ! マジか!』
バスを降りて様子を見に行くと、アキラも降りてきた。
「はぁ~マジで川だぜ」
アキラが腰に手を当てて呆れたようにつぶやく。
「簡単な橋があったけど流されたのか」
橋桁の土台らしきものもないので、丸太橋のようなものがあったのかもしれない。
「もしくは、水なし川だったけど、今は流れているとか」
「ありえる」
さてさて、このままマイクロバスで渡るのは不可能だが、一番簡単な方法は……。
俺は思案を巡らせた。





