251話 毒ワイン
俺たちは共和国の村にたどり着いた。
彼らの暮らしぶりは貧窮しており、まさに崩壊寸前。
エルフの一言から、俺が隣の王国の領主だと話してしまった。
彼らは、村から出て王国に行きたいと言う――つまり亡命だ。
このままここにいても餓死を免れないと悟ったのだろう。
作物が不作でも森で食料はなんとか手に入るから、10人ぐらいは生き残るかもしれないが、その先はどうなるかまったく解らない。
共和国から逃げて森の中で自給自足をするか、村を放棄して他の村に併合されるか……。
併合されたとしても、他の村でも似たような状況らしい。
ここから逃げても好転しないというわけだ。
都市では食糧不足から、人肉食まで行われている――なんて話もあるらしい。
そんな状況下、彼らに他の選択肢がなくなったものと思われる。
そこで問題になるのが、ここを管理している郷長だ。
やつをなんとかしなくてはならない。
まぁ、殺してしまえば手っ取り早いのだが、なるべくならそんなことはしたくない――とか綺麗事を言いつつ、もっと酷い非人道的なことをしてしまうのだが。
俺はシャングリ・ラからワインと樽を買った。
バッグインボックスとかいう代物で、紙の箱にワイン入りのビニルの袋が入っており、こんなものがあると初めて知った。
容量は3L――こいつをどれだけ買えば樽がいっぱいになるだろう。
俺が行う非人道な行為の肝となるのが、サイトから買ったエチレングリコール。
今までなん回も使った甘い毒である。
それを見た獣人たちが、俺がなにをするか解ったようで恐れおののいている。
彼女たちには嫌われてしまうかもしれないが、民と王国を守るためだ。
俺はアイテムBOXから、メスシリンダーを取り出してワインを入れた。
どのぐらい甘い毒を入れればいいのか調べるためだ。
とりあえずシャングリ・ラで売っている電子書籍から、毒物に関する本を漁ってみる。
致死量は100mLと書いてある――結構飲んでも平気のようだ。
混合率は4:1にしてみるか……。
メスシリンダーに毒を注ぐと、試し飲みをしてみる。
試し飲みと言ったが、口に含むだけだしすぐに吐き出す。
それに俺には祝福があるので毒は効かない――というアキラの話だ。
「ひぇ!」「ふぎゃ!」
俺が毒入りのワインをあおったので、獣人たちがおののいている。
「ぷっ! 本当に甘くまろやかになるんだな」
すぐに水でうがいをする。
「ケンイチ、俺にも試させてくれ」
「はいよ」
アキラにもメスシリンダーを渡すと、彼がそれを口に流し込んだ。
「ぺっ! マジで甘い!」
アキラもうがいをしていると、アマランサスがソワソワしている。
どうやら、ためしてみたいらしい。
「だ、大丈夫か?」
「飲まなければよいのであろ?」
「まぁ、そういうことになるが……」
彼女もワインを口に入れ、味を確かめたあと口を手で隠すとすぐに吐き出した。
口をゆすがせる。
「なんと! 本当に甘い毒とは! これでは毒とはまったく気づかぬ!」
彼女が驚くのは無理もないし、俺が甘い毒だと言っても信じていなかったのかも知れない。
「こんな毒があったら、毒殺に使われまくりだろ?」
「恐ろしい……これが知れた時点でワインなど、飲めなくなるわぇ……」
「アネモネ、君は駄目だぞ?」
「……うん」
興味はあるようだが、身体が小さいってことは少量の毒でも効くってことだ。
確かめさせるわけにはいかない。
「ははぁ……確かに分子構造的に、甘い毒ってのはあるわねぇ」
セテラがワインを覗き込んでいる。
知識は忘れてしまったというが、なんとなくは覚えているのだろう。
面白がっているが、毒を試してみたいという酔狂はないようだ。
「ケンイチ、エルフにも効くと思うか?」
「生理機能がまったく違うだろうしなぁ。たとえば、俺が使ったキシリトールも人間は平気だが、犬にはアウトだし」
「エルフが毒なんて飲んでも、体内の精霊で分解されるから意味ないけどぉ」
「そうなのか?」
「うん……まぁ、絶対ではないけどねぇ。でも、この世界にあるものなら、ほとんど平気じゃないかしらぁ」
さすが究極の二足歩行生物。
だって科学を極めた超生命体だしなぁ……。
まぁ、エルフのことはいい。
あの郷長に渡すための、ワインを用意する。
樽の容量を調べると――約160Lらしい。
――ということは、あのワインのバッグインボックスは3Lなので……53個必要。
その中にエチレングリコールを1:4で入れるから……32L:128Lか。
1樽につき、3Lのワインが42個で、それを3樽用意するから、全部で――え~と、126個!
ワインは5個パックで6000円なので、全部で約15万円。
エチレングリコールは、20Lの缶入りが1万円で、それが4つ必要だな。
計算した個数を、シャングリ・ラで購入すると、ドサドサとワインの紙の箱が落ちてきて山積みになる。
「おおい、ミャレーとニャメナ! この箱に入っているワインを樽に移してくれ」
「……解ったよ、旦那」「にゃ」
彼女たちに漏斗を渡す。
どうも彼女たちは恐ろしい毒を使う作戦に乗り気じゃないみたいだな。
「ケンイチ、俺も手伝うぜ」
「灯油ポンプを出すか?」
「そんなのも作れるのか?」
「ああ」
電池式の灯油ポンプなら、1個500円ぐらいで売っている。
一緒に単一電池も買う。
「ポチッとな」
落ちてきた灯油ポンプをアキラに渡す。
彼は、これがなにか知っているので説明はいらない。
「しかも電池式のやつか」
「石油ストーブに使ってたが楽ちんだぞ? 獣人たちも使うか?」
「樽に移すだけだろ? そんなの要らないよ」「そうだにゃ」
乾電池を入れると、早速アキラが使い始めた。
「おお、こりゃ楽ちん」
「北海道で使わなかったのか?」
「俺が牧場に住み込んでたときには、こんな便利なのなかったぞ?」
「そうなんだ。そういえば普及したのは最近かなぁ……」
オッサンの最近ってのは10年前とかになるので、若者と話すときにジェネレーションギャップを感じてしまうことが多々あるが。
アラフォーの10年前は30代だが、20代の10年前は小学生だからなぁ……。
そりゃ、ジェネレーションギャップがあるだろう。
「アキラ、僕にもやらせてよ」
「おお、いいぞ」
アキラとツィッツラがワインを樽に移しながらイチャイチャしている。
「すごい! 面白い!」
「ふ~ん便利ねぇ」
エルフたちが楽しそうだが、こういう便利グッズはエルフの世界にはなかったのだろうか?
「う~ん? そういう雑用は精霊がやっていたからぁ」
「精霊?」
「うん」
セテラの話を聞いてみると――どうやらロボットのようなものらしい。
森にいるなんだかよく解らないものも精霊だし、お手伝いロボットも精霊と言うようだ。
言語の体系もまったく違うので、それに相当する単語がないだけかもしれないが。
ワインを樽に入れ終わったので、試飲用の瓶も作る。
これで準備完了だ。
樽をアイテムBOXの中に入れて、郷長の所に行く。
他の家よりちょっと上等な板張りの家の前に到着すると、板の階段を上った。
ちょっと横から裏を見ると馬がおり、簡素な馬車もあるようだ。
あいつを使って、中央と連絡を取っているのだろう。
一呼吸置いてから、ドアをノックする。
「誰だ!」
「先ほどの商人でございます」
「なにか持ってきたのか?」
「はい、ワインの樽をお持ちいたしました」
「よし! 入ってこい!」
ドアを開けて中に入ると、板張りの部屋の中に所狭しと物資が並んでいる。
小麦粉の袋や、塩の袋。なにかが入っている樽。
こいつが全部独り占めして溜め込んでいるものだが、村人は70人ちょいいるので、まともに暮らせばこれでも足りないだろうな。
男が物資に囲まれたソファーにふんぞり返って座っていた。
それを見た俺はアイテムBOXから、毒ワイン樽を3つ出す。
「これでございます」
「ほう! いい樽だな! これだけでも価値がある」
「ありがとうございます」
「うむ」
男は樽をまじまじと見て満足そうだ。
「実は――この樽のワインは、大変貴重なワインでして」
「なに!?」
俺はアイテムBOXから瓶の毒ワインを出すと、グラスに少量注ぐと差し出した。
「ご賞味ください」
男はグラスを受け取ったのだが、口をつけずにクンカクンカしている。
どうやら警戒しているようだ。
意外と用心深いらしい。
まぁ、村人から憎まれているのは解っているはずだから、仕返しを恐れているのかもしれない。
物資の代わりに女を要求したりしているのだから、当然だ。
「お前が飲んでみろ」
男が、グラスを差し出してきた。
「それでは――」
俺はそれを受けると、中の赤いワインを飲み干した。
このぐらいなら影響はないだろうし――俺には祝福がある。
「よし! もう一度つげ!」
男に言われるまま、俺はグラスにワインを注いだ。
俺からグラスを受け取った男だが、まだ警戒している。
じっと見つめていたのだが、やっと赤い液体を口に含んだ。
「む!? 甘いぞ!?」
「そうです。これは大変貴重で数千に1本できるかどうかという、甘いワインです」
「なんと! こいつは驚いた! もっとよこせ!」
男に瓶を渡すと、盛大にグラスに注いで飲み始めた。
「このワインは、どうやって作る!?」
男はこのワインの製法が気になるようだ。
「醸造蔵の秘伝なので私もあまり知らないのですが、ぶどうの木がある病気にかかると、凄く甘い実をつけるそうでして……」
「それを集めてワインを作ると、こんな味になるというのか?」
「おそらく……」
「ふむ……」
男がじっとグラスを見つめている。
俺が話したのは、貴腐ワインの話なのだが、もちろんこいつは貴腐ワインなんかではない。
毒甘味料入りのワインだ。
用心深い男だ。
咄嗟の話題を振って、俺にボロを出させようとしたに違いない。
返答をする俺の様子を見て、真偽を確かめるつもりだったのだろう。
嘘を信じさせるには、ほんのちょっと真実を紛れ込ませればいい。
毒ワインという虚構の演出をするために、貴腐ワインという真実をスパイスとして入れたのだ。
男がふたたびワインを飲む。
実に満足そうだ。
「どうでしょう、これを中央に献上すれば、あなた様の地位も――」
「なるほど! そのときには、お前も引き立ててほしいということだな」
「そこまでは望みませんが、中央の方々とお取引できればと思っております」
「ふむ――面白い! ふひひ、この俺にも運が回ってきたということか」
男はワイングラスを掲げて上機嫌なので、引き上げることにした。
外に出ると、3時頃だろうか。
そろそろ日が傾き始めている。
郷長の家を離れると、村のリーダーがやって来た。
「やつに、なにか渡したのですか?」
「ああ、たっぷりとワインを渡したので、今日は上機嫌で飲みつぶれるだろう」
「それで……そのあとは、どうするのでしょう?」
「今日の真夜中、ここを発つ。気取られないように、なるべく静かに急いで」
「はい!」
「なにか持っていくものはあるのか?」
「いいえ、我々にはなにもありません。農具すらないのです」
農具もないのに、農業をやれなんて無茶すぎるよな。
それでも多少の荷物はあるらしい。
リーダーに皆に伝えるように言って別れた。
彼らのことは彼らでやってもらうしかない。
俺は村人たちの顔も知らないしな。
皆の所に戻る。
「ケンイチどうだった?」
アキラが少々心配顔をしている。
「酒を渡したら喜んで飲んでた」
「ひぇぇ……毒ともしらねぇで……」「恐ろしいにゃ……」
獣人たちは耳を伏せて完全にビビっている。
「やつは酔い潰れるだろうから、今日の真夜中にここを出発する」
「おう! でもケンイチ、あれだけの人数がいるが、大丈夫か?」
「まぁ、おそらくは……」
大型の観光バスでも買おうかと思ったのだが、全長が10m以上あるとアイテムBOXに入らない。
それに峠を走るとなると、王都とソバナの間にあるベロニカ峠みたいな曲がりくねった道だろう。
大型バスが走るのは不可能ではなかろうか?
崩れた場所などがあれば、どうしても一旦乗り物から降り、アイテムBOXに収納して渡ることになる。
やはり大型バスは無理。
そこで、ト○タのコ○スターをもう1台買う。
シャングリ・ラで検索すると、ほどよい程度のものが350万円で売っていた。
ここにきてケチっていられない。
なにせ70人ちょいの村人がいるのだから。
こいつは28人乗りだが、1台に35人~36人が乗る。
かなりぎゅうぎゅう詰めになると思うが、なんとか気合で乗ってもらうしかない。
運転手はアキラと俺しかいないのだ。
アネモネとセテラならもしかして……それは最後の手段だな。
「ポチッとな」
白いマイクロバスが落ちてきた。
程度はいつも使っているのと同じぐらいだな。
「ケンイチ、これでいけるのか?」
「ケンイチ! これは前に使っていた子と違う子だね!」
「え? アネモネちゃん、そうなのか?」
アネモネはよく見ていて、形が違うと解ったのだろう。
「これは新しいコ○スターだ。いつも使っているやつと2台体制で行くしかない」
「もっとデカいバスは?」
「作れないこともないが、アイテムBOXに入らない」
「そ、そうか……いや、大型バスだと悪路が駄目だな」
「多分」
なにせ道なき道を進むからな。
いつものラ○クルなら平気なのだが、少々マイクロバスには荷が重いかもしれない。
心配だが選択肢がこれしかない。
「旦那! いつものやつと2匹で行くのかい?」「にゃ?」
「そうだ。1台だと乗り切らないからな」
「ううむ……一気に70人もの人間を運んでしまうとは……さすが聖騎士様……」
アマランサスも腕を組んで感心している。
軍隊の移動にも使えるとか思案を巡らせているに違いない。
無論、そんなのに使うつもりはないのだが、今回の事件をきっかけに共和国との戦端が開かれれば、俺は責任を取らなくてはいけない。
そのときに召喚獣を使えと言われたら、拒否できないだろう。
「へぇ~、こういうものもあるのねぇ。重力制御で飛んだりはしないの?」
「無理無理」
エルフは重さを変えられる魔法を持ってるようだから、それを使えば空も飛べるかもしれないが。
「アキラ、運転大丈夫だよな?」
「ああ、任せろ」
「それじゃ、こっちにも無線機をつけるか」
シャングリ・ラの履歴から前と同じ無線機を購入して、運転席に取り付けた。
「アキラ、燃料を頼む」
「ほいきた」
アキラが、自分のアイテムBOXからバイオエタノール燃料を取り出して、マイクロバスに入れ始めた。
「すげー! この鉄の召喚獣も、ケンイチが作ったのか?」
ツィッツラがバスの車体をペタペタと触っている。
「ああ、こいつはアキラが操る」
「すげー!」
100歳近いってのに、見た目も行動もまるで目をキラキラさせた少年のようだ。
一応、オイルと空気圧のチェックをする――問題なし。
過酷な道のりになると思うからな。
少々心配だが、そこは信頼の日本製。
過酷な外国の環境でも走っているのをTVなどで観たことがある。
70人ちょいの村人を乗せて、頑張ってくれるはずだ。
そこに村人のリーダーがやってきた。
「そ、それは……?!」
「え~と、マサキだっけ?」
「はい、そうです」
「これは俺の召喚獣だ。お前たちを乗せて運んでいく」
「こ、これに乗る? 馬車ではないのですか?」
「まぁ、馬なしで動く馬車みたいなものだと思えばいい」
実際にアキラに運転してもらう。
一応、問題がないか、チェックをしたほうがいいからな。
アキラがマイクロバスに乗り込むと、エンジンを始動させた。
「おおっ! う、唸ってますが、大丈夫なのですか?」
「ああ、大丈夫だ。術者の言うことしか聞かないからな」
「アキラ、ちょっと動かしてみてくれ。余り派手に動かすと、あいつにバレる」
「オッケー!」
「オッケーにゃ!」
ツィッツラとアネモネと、獣人たちが乗り込んだ。
乗り込んでも、前に進んでバックするだけだが。
「す、すごい! 本当に馬なしで動いている!」
「これに全員を乗せて、ここを脱出する」
「はい――しかし、追手の心配はありませんか?」
「それは心配しなくてもいい。こいつはどんな馬よりも速いし、休まずに走れるからな」
「食事もしないのですか?」
「食事は俺が作った特殊な油を食べるから、心配いらん」
「解りました」
マサキがマイクロバスを見つめており、その目は希望に満ちている。
俺に助けを求めたが、決死の覚悟で生きてたどり着くことはできないかも――と考えていたに違いない。
それが夢や幻ではなくなったのだ。
「戻って皆に伝えてくれ。腹ごしらえをしたあと、コレに乗って深夜に出発だ。はしゃいで気取られるなよ?」
「解っております。静かに確実に行動いたします」
「頼む」
「はい」
彼が礼をすると仲間たちの下に戻った。
あれこれやっていると日が傾いてきたので、LEDランプを点けて皆で飯を食う。
夕飯になると、森猫たちも戻ってきたのでネコ缶をあげる。
「お母さん――今日の夜に、村人を連れて夜逃げするからな」
彼女の黒い毛皮をなでながら話す。
「にゃ」
「え? 助けると思ってた? でも、為政者の目から見て、今回の作戦はどうなの?」
『確かに国家間の取り決めからすれば褒められた行動ではないけれど、義をなくした主には従う者もいなくなるわ』
「つまり、そういう選択肢があってもいいと」
『そうね――まぁ、この場合は私でも助けると思うし』
ベルも反対ではないらしい。
皆の所に戻るとスープをすする。
「さてさて、70人分の食事をどうしたもんかね?」
「旦那、道具と材料だけ渡して、やつらにやらせればいいんだよ」「そうだにゃ、なにもケンイチが作ってやる必要はないにゃ」
「まぁ、そうだよなぁ」
その前に70人分とか不可能だし。
「聖騎士様の召喚獣に乗せてやるのじゃ。そのぐらいは苦労してもらわぬと」
アマランサスがつぶやいた。
「まぁねぇ、小麦粉とか塩とかもらえるだけでも凄いんじゃないぃ?」
セテラの言うとおりかもしれないが、そこにツィッツラが入ってきた。
「ねぇねぇ、エルフもケンイチの村に行ったらただで飯が食えるのかい?」
「このエルフの大先輩は、大使ってことでタダ飯食ってるけど、仕事をしなくちゃだめだぞ? ここから連れていく70人だって森を開拓させるんだから」
「そうなのか~」
ツィッツラが残念そうなのだが、彼はアキラの所にいれば飯が食えるだろうよ。
その前に、レイランさんがなんて言うか知らんが。
俺は知らね。
「にゃー」
「ええ? お母さんは楽しみだって?」
どうやら修羅場を楽しみにしているらしい。
飯を食い終わると、準備を始める。
コ○スターをアイテムBOXから出して2台並べた。
ぐるりと回って車体のチェックだ。
そして夜がふけ、辺りを暗闇が包むと、村人たちが集まり始めた。
「皆、静かに行動しろ。村人を半分に分けて、この箱に乗り込め」
「あ、あのこの鉄の箱が俺たちを運んでくれるって本当ですかぇ?」
「ああ、驚くのはあとにしろ。静かにな」
「はい」
「少々窮屈だろうが、ここで暮らすよりはいいだろう?」
「もちろんでございます」
わずかばかりだが、彼らも荷物をもっているようだ。
草や木の枝で作られたカゴを持っている。
その中身は――なにかと思ったら、俺がやった肉の余りだ。
そのまま車内に持ち込んだら、ヤバいことになりそうなので、シャングリ・ラから60Lのプラボックスを20個購入。
落ちてきた箱に肉やら荷物を入れてもらう。
これなら蓋も閉まるし、においも漏れない。
肉の他には、俺がやった塩の袋だ。
箱を買ってやり、村人たちが蓋を開けたのだが、なぜか獣人たちがその中に入り始めた。
小さな箱の中に獣人たちが座り、みっちりと詰まっている。
「なぜ入る?」
「いや、なんとなく、入りたくなっちまって……」
猫が箱に入りたがるようなもんか?
猫人たちが満足そうにしているのだが、そのために買ったのではない。
彼らを追い出して、村人たちに荷物を詰めさせた。
箱に肉を詰め終わったら、コンテナハウスを1つ出す。
「荷物は、この鉄の箱に入れてくれ」
村人たちは俺に言われるまま、荷物をコンテナハウスに次々と入れていく。
搬入し終わったら、アイテムBOXに収納すれば腐ることもない。
肉に雑菌などがついていても、完全に滅菌される。
荷物が積み込み終わったコンテナハウスを収納してから、皆に車に乗るように促す。
その様子を見守っていると獣人の女がバスの屋根に乗ろうとしている。
「おい、そこじゃなくて、中に入るんだよ」
「旦那、あたいは病気持ちだから……」
「そんな所に乗ると危ないんだが……」
「馬車の上にも乗ったことがあるから大丈夫だよ」
う~ん? 獣人の身体能力なら大丈夫か?
彼女の病気は伝染るので、確かに他の獣人たちと一緒にするのはまずい気がするし……。
「ちょっと走ってみて危なかったら他の手を考えるから、すぐに教えてくれよ」
「解ったよ」
出発しようとしたが――気になることがある。
俺はマサキを呼んだ。
「なにか?」
「ものすごい速さで突っ込んでくる虫を知ってるか?」
「はい――しかし、ここらへんにはいませんが……」
「そうか、それならいいんだ」
村にはいないが、森にはいるかもしれないなぁ……。
車ってのは巨大な熱源と二酸化炭素発生源だ。
虫から見たら格好の獲物に見えるかもしれない。
う~ん……。





