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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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249話 まるで原始人


 俺たちは深い森を抜けて、エルフたちと一緒に共和国の村に到着した。

 他国の人間なのだが言葉は通じるし、エルフたちがいるおかげでトラブルを避けられそうだ。

 共和国はエルフの社会を参考にして作られており、森の妖精たちは人々から尊敬されている。

 ツィッツラの話では、これから訪れる村では医者などが不足しているらしい。

 エルフが訪問したときに病気や怪我などの治療などを対価にして物資を得ていたようだ。


 その到着した村だが、畑は草ボーボー。一見すると原野のよう。

 粗末な格好をした村人たちも、農具を持っておらず木の棒を持っていた。

 もしかしたらくわなども満足になく、木の棒を使っているのだろうか?

 王国の貧乏な村でも、ここまでは酷くなかった。


 村人に案内されて村に行く。

 地面に杭を立てて、そこをロープで結んだだけのフェンスで囲まれている。

 中には家――というかバラックが並ぶ。

 建築資材に板がないのだろうか? 板を使っている家も少なく、藁や細い木の枝を編んで壁にしているらしい。

 屋根も藁葺き屋根だが、元世界で昔見た茅葺の屋根より数段劣り、村人たちの服装もボロボロで、疲れ果てた顔をしている。

 小さな子供にいたっては裸の子が多い。

 村人がこちらをじっと見ているのだが、突然の訪問者がなに者か判断をしかねているようだ。

 ――とはいえ、エルフがいればトラブルにはならないだろう。


「エルフ様」「エルフ様が2人も……」

 やはり、ここではエルフは尊敬されているらしい。

 村を見渡してアキラが俺の所にやってきた。


「これはひでぇな」

 アキラのひそひそ話にうなずく。

 アネモネが黙って俺の服の裾を掴んだ。


「これが、共和国の実態かぇ……」

 国を治める為政者だったアマランサスにとっては、これは見たくない光景のはず。

 国の舵取りが悪ければ、国中の村がこのようになるのだから。


「旦那、獣人たちもいるぜ?」「結構いるにゃ」

 意外、村人の1/3ぐらいは獣人たちだが、皆が裸。

 つまりなにも着ておらず、毛皮がボーボー――言っちゃ悪いが、まるで野生動物のよう。

 それに、猫人も犬人も一緒に住んでおり、只人たちとも分け隔てがないように見える。

 人種の隔てなく平等で、村の全部の財産が共有財産。

 なるほど平等かもしれない。

 俺は嫌だが。


「森猫だ……」「森猫様……」

 猫人の何人かが、その場でひざまずいた。

 それはいいのだろうか? あとでトラブルにならなければいいが……。


「ツィッツラ、この村で取引なんてできたのか? ものがなにもないように見えるが……」

「塩や小麦粉はなんとかなっていたよ?」

「そうなのか?」

 どう見ても、物資がありそうには見えない。

 案内してくれている男に尋ねる。


「ここの責任者に会わせてくれ」

「もしかして郷長だべか?」

「郷長……ツィッツラ、郷長ってのは村長と同じなのか?」

「それは中央から派遣されている集落の管理者だよ」

「うん? もしかして、その郷長とは違う、あなた方のまとめ役がいるのか?」

「へぇ、いますだ」

「その人に会わせてくれないか?」

「解りましただ」

 男が案内してくれたのは1軒の家。

 他と同じようにボロボロの草葺きの家だ。

 壁も草でできており、玄関にも扉はなくゴザがかかっている。

 建築方式を見ればエルフの村とほとんど一緒なのだが、こちらはみすぼらしく見える。

 エルフの村はそんな風には見えなかったのに……。


 男が中に入ってしばらくすると、30歳ぐらいの背の高い男が出てきた。

 穴だらけのシャツに、半ズボンのような下。

 元々普通のズボンだったものを切ったのか千切れたのか。

 茶色の髪はボサボサだが、だらしないというか諦めている感じはしない。

 他の村人と違い目にしっかりとした意思が見える。

 身なりを整えたらイケメンだろう。


 挨拶をしようとした俺だが、男は無視をしてエルフの前にひざまずいた。


「エルフ様、けが人と病人がおります。助けていただけないでしょうか?」

「用があるのはあっちねぇ」

 セテラが俺のほうを指差したのだが、彼女が発した言葉に驚いたようだ。

 エルフは只人の言葉をしゃべれないという認識だったのだろう。


「エルフ様が我々の言葉を……」

「そのエルフは長生きしているので、只人の言葉を喋れるんだよ」

「お前は?」

 男が立ち上がった。

 どうやら、俺にひざまずくつもりはないらしい。

 まぁ、そりゃそうだ。俺だってそのつもりはないし。


「俺は商人のケンイチ。エルフたちと取引している者だが、わけあって森に迷い込んでしまった」

「商人? こんな所に?」

 男は明らかに警戒をしている。

 案内してくれた村人にも商人と言ってしまったのだが、この国に商人はいるのだろうか?

 全財産が共有財産だっていうし、すべて配給制とかになっているならば、商人がいないのかも……。

 だが、商人という言葉は知っているので、それ自体はいるのかもしれない。


「商人というわりには、なにも持っていないが……?」

「俺はアイテムBOX持ちだ」

 いつも使っている鍋を収納から取り出してみた。


「アイテムBOX!」

「俺の身元は、そのエルフが保証してくれる」

「まぁね。私の言うことを信じるならねぇ」

 男はしばらく考えていたのだが、エルフの言うことを信じるようだ。


「失礼した。私はマサキといいます」

 男が頭を下げた。


「ここの郷長とやらとは違う、村の長――ということで間違いないのだろうか?」

「ええ。私が村を取りまとめているのは事実です」

「さっき言ったとおり、俺は商人だ。なにか欲しいものがあれば取引するが?」

「……ほ、欲しいものがあるのは山々ですが、我々には金もありませんし……」

「対価になるなら、なんでもいいが?」

「物資も底を尽きかけてまして……なにも。あるとすれば……」

 マサキという男が下を向いてしまった。

 彼の表情から見て人身売買みたいなことなのだろうが、それは受けられない。

 畑の作物があるが常にギリギリなのだろう。

 そりゃ、あんな畑で肥料もなく作物が豊富に採れるはずがない。

 焼き畑をしている風でもなかったしな。


「おい、ツィッツラ。こんな状態の村とどうやって取引していたんだ?」

「前に来たときは、こんなに酷くなかったんだよ?」

 エルフが話す前ってことは、5年とか10年とかそんな話なんだろうけど。


「エルフ様と普通に会話を……」

「さっき言っただろ? エルフと取引しているから、会話ができる指輪をもらっている」

 俺は指にはまっている指輪を見せた。


「それは本当よぉ」

 セテラも俺の持つ指輪の正当性を主張してくれた。


「それは解りましたが……我々には、なにも残っていないのです」

 彼の深刻そうな顔が、全てを物語っている。


「それでは情報を買うよ。色々と聞きたいし、答えてくれたら対価を払う」

「なんなりと……」

 彼の反応を見て、正直に話してもいいと思った。


「実は、俺たちは共和国の人間じゃない」

「そう――なのですか?」

 彼が訝しげな顔をしているが、信じられないのも仕方ない。

 悪いが、転移門のことを話すわけにもいかないしな。


「ああ、理由は言えないが、エルフが住んでいる近くの森に迷い込んだ」

「そのようなことが……」

「それでな、この国のことを色々と聞きたいんだ」

「解りました」

 まずは、俺の身分を適当に商人と言ってしまったのだが、この国にも商人はいるらしい。

 地方には回ってくることもなく、支配階級やら、他国との貿易を行なっている連中のようだ。

 なんだ全然平等じゃないじゃん。

 要は経済ピラミッドがぶっ壊れて、ひたすら底辺が広くて一部だけが高い塔になっただけだな。


「村には、物資や人材が配給として送られてくると聞いたが?」

「満足に送られてきたことがありません。役に立たない人材を送られてきてもただの穀潰しなので、拒否したら物資も送られてこなくなりました」

 素人みたいな医者がやって来ても役に立たないだろうし、下手したらかえって悪化する。

 それなら民間療法や薬草でも使ったほうがマシだし、回復ヒール魔法を使える魔導師ってのは結構貴重な存在。

 各村々に送り込むほど、数もいないだろう。

 そんなこんなで、医者も魔導師もいないらしい。


「それじゃ今は自給自足なのか」

「はい」

 自給自足と言っても限度がある。

 大工がいなければ家は作れないし、鍛冶屋がいなければ農具も作れない。

 布だってなんらかの方法で糸を紡いで機織り機がなければ作れないし、布がなければ服だって無理。

 それでこんな村の有様なのか。

 初期に持ち込んだものだけを使って、なんとかやってきたに違いない。

 これならまだ貴族支配のほうがいいような気がするが……。


「俺たちは王国に行きたいのだが、道はあるか?」

 彼は黙って指をさした。

 コスモ山脈と並行するように、道があるようだ。

 道と言っても整備された道ではなくて、獣道に毛が生えたようなものらしいが。

 その道をたどれば、かつて王国と交易をするのに使われていたという峠道につながる街道に出ることができるのだろう。


「それだけ情報をもらえば十分だ。対価の物資として、なにを優先したい?」

「魔法による治療か、薬を……」

 エルフたちにも治療をしてくれと言ってたからな。


回復ヒール魔法は使えるが、治らんものもあるぞ?」

「それは承知している」

「それじゃ、病人やけが人を連れてきてくれ」

「本当に治療できるのか?」

「ああ」

「解った、すぐに集める!」

 男が村中を走り回る。


「にゃー」

 ベルが俺の所にやってきた。

 危険はないようなので森に行くと言う。


「よしよし、飯時には戻っておいで」

「にゃ」「みゃー」

 森猫たちが畑の方に走っていく。

 草ボーボーなので、すぐに姿が見えなくなった。


 リーダーの男が走り回ったので、すぐにけが人と病人が集まってきた――人数は10人ほど。

 怪我をしている者には、まずは傷口を消毒してから魔法を使う。

 脚を怪我して、化膿している頭の剥げた爺さんがやってきた。

 ベルに使った抗生物質の軟膏があったはず。

 それをアイテムBOXから取り出すと、傷口に塗って俺の祝福を使う。

 これが魔法かは解らないが、回復ヒールの魔法と効果は同じだ。

 受けた者がちょっとハイになるのが、少々違うところだが。

 化膿した場所の腫れが引いてきた。


「あとは、この薬を飲んでくれ」

 俺はアイテムBOXから鎮痛剤を取り出して、爺さんに渡した。


「むー! 回復ヒール!」

 アネモネは子どもたちを治療しているが、裸の子たちはなんとかしなくてはならない。

 ――とはいえ、大人がボロボロなのに、子供にピカピカの洋服を着せるのも……。

 見れば60~70人ぐらいの村人がいるので、全員に服は配っていられない。


「う~ん」

 俺はシャングリ・ラから麻のシーツを購入した。

 そいつを半分に切って、真ん中に頭を通す穴をあける。

 頭を通して、腰を縄で結べばなんちゃってワンピースの完成だ。

 これでも裸よりは、かなりマシだろう。

 子供は10人ぐらいだったので、シーツを5枚買って、全員に作ってやった。

 男の子も女の子も同じ格好だが、贅沢は言っていられないはず。


「ケンイチ、こっちも終わるぞ」

「サンキュー」

 同じ祝福持ちのアキラとエルフたちにも手伝ってもらう。

 回復ヒールが使えるものが5人いるから、患者が10人いても、1人で2人治療すれば終わる。


「おおっ! 身体が楽になった!」「ありがとうございます!」

「本当は栄養のあるものをとって、なん回か治療をしたほうがいいんだがなぁ」

回復ヒール魔法を使える方がこんなにいらっしゃるなんて!」

 この村のリーダーも驚く、うちのパーティの最強っぷり。


 最後は俺の所にきた背の高い獣人の女だ。

 明るい茶色の毛皮で腹が白いが、2mぐらいあるんじゃなかろうか。

 筋骨隆々の男の獣人たちよりデカくて、元世界のスーパーモデルのよう。

 服を着ておらず裸なので毛皮の様子がよく分かる。

 髪の毛までつながる長い毛は、ボサボサで汚れており毛艶もよくない。

 毛艶がよければ美人さんだと思うのだが残念だ。

 見ればいつのまにか他にも獣人の女たちがいる。

 どうやら俺は獣人の女たちに好かれることが多いのだが、ここでもそうなのだろうか?

 俺に向けられる視線を遮るように、ミャレーとニャメナが牽制している。


「ミャレーとニャメナ。問題を起こすなよ」

「旦那、向こうの出方次第だよ」「そうにゃ」

「はい、次はお前か?」

 俺の前に女が立った。


「よろしく頼むよ……」

 彼女が恥ずかしそうにしているが、獣人たちは裸でも問題がない。

 恥ずかしそうにしているのは裸だからではないのだ。彼女に症状を聞いてみる。


「どこが悪いんだ?」

「……」

 彼女が黙って後ろを向く。


「な?!」「にゃ!?」

 女の尻尾の部分を見て、ミャレーとニャメナがダッシュでいなくなった。

 尻尾の付け根部分が禿げていて、それが尻尾の途中まで続いているが、地肌が見えると只人の裸と変わらんな。

 これは多分皮膚病だろう。野良犬や野良猫でこんな具合になっているのを、ネットで見たことがある。

 獣人たちは毛並みや毛艶で優劣をつけるらしいので、彼らにとってこれは厳しい試練だと言える。


「これは、かゆいだろ?」

「ああ、痒くて眠れないときがある……」

 確か、人にも伝染るやつだな。


「これは他のやつにも伝染るから、一緒に寝たりしたら駄目だぞ?」

「だから、いつも1人で寝てるんだ」

「それは、いい判断だな」

 どうやって治療をするか考えていると、離れた所から声がする。


「旦那! それって伝染るやつだぞ!」「全身の毛が抜けてハゲになるにゃ!」

 ああ、犬や猫だけではなく、野生動物でも罹患するのがいるらしいからな。

 熊などの毛が全部抜けて、別の生き物みたいになったのを見たことがあるし。


「う~ん」

 シャングリ・ラで皮膚病の薬を検索するが、処方箋が必要な人用の薬などは売ってない。

 検索でヒットするのは、犬猫に使う皮膚病の薬だ。

 毛皮を着てる時点で、只人よりは犬猫に近い気もするし……これを使ってみるか。

 本当は生理機能が違うからヤバいんだよなぁ。

 人間には薬でも、他のいきものには毒になることもあるし。


 シャングリ・ラから皮膚病薬のクリームを買う。

 まずは消毒か。


「ひゃ!」

 消毒アルコールの冷たさに、女が飛び上がった。


「ふ~ん、尻尾の付け根ってのは、こんな具合になっているのか」

「み、見ないでおくれよ……」

「見ないと治療できないしな」

 瓶に入った軟膏を指で掬い、禿げている部分に塗り込む。

 ちょっと広い範囲に塗ったほうがいいだろう。


「うにゃぁぁぁん!」

 女の腰がプルプルと震えている。


「変な声を出すな」

「だ、だってよぉ……」

「だ、旦那ぁ! そいつにくっつきすぎだろ?!」「そうだにゃ!」

「そんなこと言っても、掴まえてないと塗れないし」

 尻尾にも塗り込む。


「うにゃ!」

 女の身体がビクビクしている。

 最後の仕上げに、回復ヒールの祝福だ。


「おりゃ!」

「ひゃぁぁぁ!」

 茶色の毛皮が、その場に座り込んだ。


「しかし、これで本当に治るのかなぁ」

 相手が寄生虫とかだと、回復ヒールを使っても意味がないような気がするが。

 寄生虫と言えば、全員に虫下しを飲ませたほうがいいかもしれないが……。

 シャングリ・ラを見ても、人間用の虫下しは売ってない。

 あるのは犬猫用ばかりだ。


「ケンイチ、これって疥癬だろ?」

 アキラがやってきて、獣人のハゲた毛皮を見ている。


「まぁ、多分な。寄生虫が原因なのに回復ヒールが効くと思うか?」

「さぁな。祝福ってぐらいだから、なんでも効くんじゃね?」

「ならいいけどなぁ」

 とりあえず、やってみないことには解らない。

 へばっている獣人の女を抱き起こす。


「あっ! 触らないでおくれよ……」

 彼女の身体を触ってみても、村人のように痩せている感じではない。

 獣人であれば森に入って獲物を獲れるので、飢えることがないのだろう。


「これだけ獣人たちがいるなら、畑作業より狩りをしたほうが腹を満たせるんじゃないのか?」

「たまに狩りもやっているけど、これだけの人数を狩りで養うってのは大変だよ」

 彼女の言うとおり、毎日獲物を獲ればすぐにいなくなってしまう。

 近場の獲物の数が減ったら遠くまで遠征する羽目になるしな。


「それなら、獣人たちだけで逃げだして、独立したほうがいいんじゃないのか?」

「生まれたときから皆と一緒なんだ。そんなことはできないよ」

 ここにいる獣人たちは、生まれてからずっと只人と一緒なので、逆に獣人部族のしきたりを一切教えられていないらしい。

 それしか知らないので、獣人たちだけで暮らすという考えすらないようだ。

 王国の獣人たちをこういう場所に押し込めたら、確実に独立の話が出るだろう。

 彼らは只人に近い獣人と言えるが――これは種族に対する文化破壊だな。

 俺の心の底辺に黒いものが渦巻くが、ここは自重だ。


 治療が終わり皆が感謝していると、俺の所にアネモネがやってきた。


「この村の皆を助けてあげられないの?」

 彼女が悲しげな顔をしてそんなことを言う。


「う~ん、ここは他の国だからなぁ」

 俺の領であれば、村人に投資しても皆が頑張ってくれればそれが戻ってくるわけだが、他国の人間を助けたとしてもそれがない。

 俺たちがここを発ってしまえば、もうそれっきり。

 子供の純粋な気持ちに、政治やらなんやらという大人の事情という、黒いもやもやで包まれた言葉で返すことしかできない。


「だって可哀想だよ?」

「アネモネはそういうが、ここで多少の物資を渡してもすぐに元に戻ってしまうわけだし」

「それじゃ、皆をケンイチの所に連れてくれば?!」

 彼女が嬉しそうな顔をするのだが、それも問題がある。


「う~ん、他国の人間を勝手につれていくのは、拉致だからなぁ」

「アネモネちゃん、下手にそういうことをすると戦争になったりするんだぜ?」

 アキラの言うとおりだ。

 

「なぁ、アマランサス」

「そのとおりじゃの。王国の人間が他国に乗り込んで、農民を拉致した――などということになれば、国際問題間違いなしじゃ。戦争になったりすれば、まちがいなく聖騎士様の責任を問う声が上がる」

「……」

 彼女には政治の難しい話は解らんだろうが。

 王国の村ならまだ手があるんだが、ここは他国だ。


「じゃが、聖騎士様がどんな決定を下しても、妾はついていきますぞ?」

「はは、ありがと」

「私もそうする……」

「ゴメンな、アネモネ」

 彼女には悪いが自重する場面だ。


 ちょっと大人の事情という格好悪いところを見せてしまったので、ちょっと挽回しておくか。


「ちょっといいか?」

 俺はリーダーの男に声をかけた。


「俺のアイテムBOXの中に、道すがらで獲った魔物などが入っている。それなら分けてやれるが?」

「本当ですか?」

「ああ」

 溜まる一方で処理しきれないからな。

 とりあえず、よく獲れる黒狼を10頭ほど出した。

 彼の話では村人は71人らしい。

 まぁ10頭を解体すれば、70人ぐらいは食えるだろう。

 ここにはアイテムBOXがないので、多く出しても保存に困るだろうし。

 物資がないということは、塩なども限られた分しかないはずだ。


「「「おおっ! 肉だ!」」」

 いつの間にか集まってきていた、村人たちから歓声があがる。


「処理はしてないから、そちらでやってくれ」

「承知した」

「塩はあるか?」

「……ない」

 シャングリ・ラから業務用の塩を買う。

 25kgで2000円と安いが、ここでは貴重品だ。


「ポチッとな」

 茶色の紙袋が落ちてきた。


「ほら、こいつをやる」

「こ、これはもしかして塩か?!」

「そうだ、このぐらいあればしばらくはなんとかなるだろ?」

「ありがたい!」

 リーダーの男がひざまずいて感謝している。

 まぁ、このぐらいなら俺の財布も痛くないしな。


「あ! そうだ」

 俺はアイテムBOXに入れたままの首長の魔物を思い出した。

 身体は巨大で収納できなかったので、首だけが入っている。

 アイテムBOXから出すと、長い魔物の首が出現した。


「うわぁぁ!」「魔物だ!」「ぎゃぁ!」

「俺たちが倒したものだから、もう死んでる」

「こ、これを……?」

「ああ、食えるなら食ってもいいぞ? 処分に困るだろうし」

 その前に食えるだろうか?

 まぁ、レッサードラゴンやらワイバーンも食えたし、巨大な爬虫類みたいなもんだから問題ないと思うが。

 ナイフを取り出すと、薄ピンクの肉を少し切って、アネモネの魔法で加熱してもらう。


 それを口に入れる――脂身のない鶏肉だな。

 変な味もしないし、妙な臭みもない。

 少々の毒があっても祝福持ちの俺には効かない――とアキラが言っているが、まだ試していない。


「うん、普通に食えるぞ?」

「ほ、本当か?」

「ああ、黒狼より美味いかもしれん。鳥肉みたいな味だと思えばいい」

 俺の言葉を聞いて、ワッと村人たちが群がった。

 余ったら塩を追加して、干し肉やら塩漬けにすればいいだろう。


 これでしばらくなんとかなるだろうか?


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