244話 巨大な首長の魔物
俺たちはエルフの村を出発して川を下り始めた。
川から海に出れば、海岸伝いにカダン王国に戻れると思ったからだ。
ニャメナの提案だが俺もそれが一番早いと思う。
丸1日が過ぎて240kmほど進むが、川が曲がりくねっているため、直線距離は稼げていないかもしれない。
接岸できる場所を見つけると、コンテナハウスを出して1泊。
アキラは、エルフの村でナンパしてきた男の娘とイチャイチャしている。
こんなときでも色恋沙汰を忘れないとはさすが歴戦の勇者。
まぁ趣味に関しても、個人の自由なのでなにも言うつもりはない。
一晩コンテナハウスで過ごした獣人たちは俺にベッタリで、身体をスリスリしている。
嫌われたわけじゃなかったのでよかった。
そんな俺たちをみて、アネモネがなにか言うかな? ――と思っていたのだが、彼女は本を持ってエルフに色々と質問をしている。
アネモネが持っている本は、リッチがいた遺跡から盗んで――ゲフンゲフン手に入れたものだ。
そこに書かれている古代文字をセテラが読めるらしい。
どうやら魔法やらの資料らしいので、失われた技術の復活が可能になるかもしれない。
うちの大魔導師様に期待だ。
皆で朝飯を食べる。
森猫たちには猫缶だが、食べている森猫たちの背中をなでて、すぐに出発する旨を告げた。
パトロールに出かけられると困るからな。
「すぐに出発するから、周囲の警備はしなくていいぞ」
「にゃー」「みゃ」
朝食を食い終わったので、アイテムBOXにコンテナハウスとスライム避けを収納した。
たとえスライムが進入したとしても鉄の箱を突破できるとは思えない。
他の魔物に関しても森猫や獣人たちが反応していなかったので、問題なかったのだろう。
やはり敵感知センサー担当がいると安心だ。
夜もぐっすりと眠れる。
俺だけじゃどこから魔物が襲ってくるかまったく解らんし、初めての森の中で逃げ回ったときのような状態になると思う。
獣人たちは、エルフたちの接近にもすぐに気がついたしな。
出発準備も整ったので、係留してある船に皆で乗り込んだ。
操るのは今日もアキラだが、船を出す前に燃料を入れる。
「その燃料ってなにからできてるの? 有機物でしょ?」
セテラが俺の持っているガソリン缶を不思議そうに見ている。
これは、アキラのマヨから作った油ではなくて、シャングリ・ラから購入した2スト燃料だ。
成分は2ストオイルとガソリンの混合液。
「地中から湧く化石燃料だが、どうやってできるかは諸説があって……」
「へぇ~」
エルフの世界では化石燃料はなかったらしい。
もしかして過去にはあったのかもしれないが、そういうものをまったく使わない社会になっていたのだろう。
「あれ? 地面に埋まった生物の化石じゃなかったか?」
「それが一般説だけどな」
「俺たちがガキの頃は石油はあと30年で枯渇するとか言われてなかったっけ?」
「俺もそう聞いたぞ。小学生の頃に読んだムック本に載ってた」
「それどころか増えてるよな? 新しい油田も見つかってるし」
「そうなんだよなぁ」
俺の服をアネモネが引っ張る。
「化石燃料って?」
「え~とな、油が地面から湧いてくるんだよ」
「地面から油が?」
「俺たちの世界だとそういう場所があったんだ。もしかしてこの世界にもあるかもしれないがなぁ」
「元世界でも地表に湧き出ている油田もあるって話だが、帝国でもそういう噂は聞いたことがないな」
アキラのいた帝国でも、燃える井戸やらの話はなかったらしい。
俺はアマランサスにも聞いてみた。
「アマランサス、王国でそういう噂や報告は?」
「聞いたことがありませぬわぇ」
「ケンイチ、石油じゃなくて先に石炭だろう」
「帝国では?」
「ない」
もちろん王国でもない。
ガソリンを入れ終わり、アマランサスと話していると獣人たちがスリスリしてくる。
「な~」「にゃ~」
「どうした?」
2人の頭をなでてやる。
なにかあるわけではない、ただ甘えたいだけのようだ。
獣人たちをなでていると、アキラの口にした単語にアマランサスが反応した。
「聖騎士さま、石炭というのは?」
「黒くて燃える石だな」
「石が燃えるとな?」
「石が燃えるにゃ?」
ずっと、「にゃ~にゃ~」言っていたミャレーが久々に会話をした。
頭をなでながら街の噂に詳しいニャメナにも聞く。
「街でそういう噂を聞いたことは?」
「そんな話は――聞いたことがない――かな?」
いつもの勢いはないが、獣人たちは平常運転になりそうな感じだ。
「実物を見せてやればいいんだが……そうだ」
俺はシャングリ・ラで石炭を検索した。
「ケンイチ、出発するぞ~」
「おう、やってくれ。話はたゆたいながらでもできるからな」
「オッケー」
「オッケーにゃ!」
ミャレーにも元気が戻ってきたようだ。
ウインドウに表示される商品を眺める――。
豆炭とか、オガ炭とか、練炭とかが売っているから、石炭も売っているかと思ったのだが――売ってない。
以前ドワーフたちにコークスを渡したのだが、コークスは売っているのに石炭は売ってない。
燃料として使うならコークスのほうがいいのかもしれないな。
石炭を探していると、教育用の鉱物のサンプルとして、セット販売されているものを見つけた。
砂鉄、コークス、石炭、鉄鉱石の鉱物サンプルだ。
値段は5000円と少々高いが、この世界で石炭を探したりするための資料として使えるので購入してみた。
購入ボタンを押すと白い蓋の小瓶に入った資料が落ちてくる。
その中の黒い塊が石炭だ。
俺は蓋を開けて、中身を出してアマランサスに見せてやる。
「アマランサス、コレが石炭。つまり石の炭だ」
「こ、これがかぇ?!」
アマランサスが石炭を握ったり、天にかざしたりしている。
普通の木炭は軽いが、石炭は重い。
「ほ、本当に石のようだが……」
「炭が地面に埋まってぎゅっと潰れたものだと思えばいいかな?」
昔の植物の化石だから少々違うのだが。
「ケンイチ、見せて見せて!」
アネモネにも見せてやる。
「ほい」
「黒くて硬い――本当に燃えるの?」
「それじゃ燃やしてみるか」
こういうのは、実際に実験して見せるのがいい。
石炭を皿に乗せて、トンカチで少々叩くと小粒を出す。
カセットバーナーで炙ると、石炭が燃え始めた。
「本当に石が燃えてるにゃ?!」「旦那! 俺にも見せてくれよ」
獣人たちも調子が戻ってきたようだ。
「懐かしいな。石炭なんて久々に見たぜ」
俺のやっていることを眺めていたアキラがつぶやいた。
「まぁ、俺もそうだ。小学校以来かな?」
「教室のストーブがよ~石炭ストーブでな。離れた石炭小屋まで取りに行くのが嫌でな」
アキラは親の都合で、日本全国を巡っていたようだが、雪国にいたこともあるようだ。
当然、俺も小学校は北海道の田舎だった。
「俺もそうだったな。日本全国共通なのだろうか?」
「さぁな。あの頃は石炭が安かったんだろう」
「多分な」
「ケンイチの魔法で石炭を作れるなら、それを使えばいいんじゃね?」
「いや、こいつは対価がめちゃ高いんだよ。こんなの使ってたら破産しちまうわ」
「そうなのか。でも、ドワーフたちにコークスを渡してたよな」
「コークスは確かに作れるが……」
いつもいっているが、俺の能力をベースにしては領の経済は組み立てられない。
俺になにかあったら即詰みするからだ。
俺は普通の人間でいつ死ぬか解らないゆえ、この世界の技術で生産できるものを利用して領を運営していかなければならない。
アキラが油を出せるからといって、彼を生体油田としてモノカルチャー経済を構築したらどうなるか。
彼がなにかあれば、瞬時に経済は破綻するだろう。
「このようなものがあれば、火石や薪や木炭を使わずに済むわけじゃな」
「あるところには大量にあるから、大量に掘れば安く供給できるってわけだ」
「さすが旦那だぜ、こんなものを持ってるなんて」「そうだにゃ~」
獣人の2人が、また俺にスリスリをしている。
なんだかボディタッチが増えたが、これで心を落ち着かせているのかもしれない。
そのままにしてやろう。
「それって地中に埋まっている炭よねぇ?」
「エルフの故郷にはなかったか?」
「多分、あったようなぁ……」
セテラの話では、エルフの科学文明は物質を自在に合成することができるレベルにまで達していたようだ。
そりゃ恒星間航行技術があるのなら、そのぐらいは可能なのだろう。
そんな連中が石炭やら石油を欲しがるわけがない。
「エルフって光の速さより速く飛べたりは?」
「超光速航法ね――もちろん、それがないと恒星間航行なんてできないしぃ」
やっぱりなぁ。
アネモネも俺たちがなにを話しているかは、よく解っていない。
「それじゃ、火石みたいなものが、地面に埋まっているの?」
アネモネが石炭を返してくれた。
「まぁそうだな。地表近くに露出していれば掘り出して使うことができるんだがなぁ」
どこかの誰かが偶然見つけてくれるのを期待するしかないか。
船はそのまま進み、俺の身体には獣人たちがスリスリをずっと繰り返している。
アネモネとセテラは古代文字のお勉強。
ずっとアキラに操船させておくのも悪いので、俺が代わることにした。
激しい操船じゃなければ、別に俺でも問題ない。
流れも緩やかだし、まっすぐすすんで、カーブがきたら舵を切る。
それだけだ。
俺と代わったアキラは、舳先にいるツィッツラの所に行ってイチャイチャしている。
そのうち、彼のアイテムBOXから出したチョコをエルフと一緒に食べ始めた。
アキラが一口食べると、ツィッツラの口の中にそれを放り込む。
それも、エルフ的ななにかの慣習なのだろうか?
イチャイチャしている2人を見たセテラが、なにを思ったか、アキラからチョコを貰って俺の所にやってきた。
半分チョコを食べると、それを俺の口元に持ってくる。
「なんだ?」
「もう、私に対する愛はないのぉ?」
俺の態度を見てセテラがふくれっ面を見せたのだが、その光景を見てアキラが笑い始めた。
「ははは、ケンイチ! 自分の食っているものを人に渡すってのは、エルフの最上級の愛情表現なんだよ」
彼の言葉を聞いて俺は合点がいった。
「ああ、そういう……」
「ん~」
しょうがない。俺はセテラが差し出すチョコを口に入れた。
「むう!」
それを見て、顔を赤くして険しい表情になったのはアマランサスだ。
どこからか出したチョコを口に含むと、俺に抱きついてきた。
多分、自分の小さなアイテムBOXの中におやつとして忍ばせてあったものに違いない。
「こら、アマランサス危ない」
「ん~」
俺は、船外機から手を離してアマランサスを抱きとめたのだが、彼女がなにをやろうとしているのか、やっと解った。
「口移しは止めなさい」
俺の言葉にアマランサスの動きがピタリと止まる。
彼女には奴隷紋があるので俺の命令には逆らえず、止まったまま泣きそうな顔をしている。
普段の調子だと止まるときと止まらないときがあるのだが、今はちょっと強めの調子だったのかもしれない。
俺は本気で止めてほしいと思ったのが、そのまま口に出てしまったのだろう。
彼女の顔を見て、ちょっと罪悪感が湧く。
「解ったから」
彼女と唇を重ねて、溶けかかったチョコを口で受け取る。
「ケンイチ、私のは?」
見ればアネモネもチョコを持っている。
多分、アキラからもらったのだろう。
「アネモネも口移ししたいのかい?」
「ううん、はい」
さすがに口移しは恥ずかしいと思ったのか――彼女が指でつまんだチョコを俺に差し出したので、口で受け取る。
口の中にチョコが3つ。
「口の中がチョコだらけだよ。ミャレーとニャメナも真似するのか?」
「にゃ? ウチらはいいにゃ」「そうだよ旦那」
まぁ、獣人たちはキスをしないからな。
俺のアイテムBOXから出したチョコを獣人たちにやった。
「ほい」
俺は普通に受け取るかと思ったのだが、ニャメナが口でチョコを咥えた。
「ウチもにゃ!」
「ほら」
俺の手からパクリとミャレーがチョコを食べる。
「な~ん」「うにゃ~」
彼女たちがまた身体をスリスリしてくる。
「なんだ、お前たち。随分と甘えたさんになったな」
その様子を、船の底で丸く香箱座りしている森猫たちが、呆れた顔で見ている。
チョコを食べている間、一休み。
なんでこうなったんだっけ?
エルフの慣習のせいか。
さすが種族が違うと色々とあるな。
そのあと、再び船は川を下り始めた。
のんびりとした風景が延々と続く。
噂の魔物も姿を現さない。
船の舳先では、アキラとツィッツラがイチャイチャしている。
「なんだか平和だなぁ」
思わず口に出してしまったのだが、俺はハッとした。
これってフラグじゃね?
その考えが頭によぎった途端、水面が盛り上がった。
バシャバシャという激しい水しぶきを上げて水面から伸びる長い首。
全身緑色でワニのような鱗が見える。
竜のようだが――首の長いトカゲ?
高さ5mほどあるので、尻尾まで入れたら全長は20mぐらいか?
「ギャォォォン!」
大きく口を開けるその叫び声からして、あまり歓迎されている風ではない。
縄張りに侵入した者に対する警告音と取るのが、妥当だろう。
「アキラ、操縦を代わってくれ」
「ほいきた! ツィッツラ、弓だ!」
「うん!」
アキラがアイテムBOXから弓を出すとエルフに渡し、バタバタと船の操縦を俺と代わる。
戦闘時に船を自由自在に操るとなると、俺の腕では無理だし、彼のほうが適任だろう。
水面じゃ必殺マヨも使えないしな。
「旦那! 俺にも弩弓をくれ」
「あれに効くかぁ? それよりアネモネ! 魔法を!」
「私はぁ? なにをすればいいの?」
「エルフ様は奥の手だから座っててくれ」
「解ったぁ」
「聖騎士様! 妾を前に!」
アマランサスが自分の剣をアイテムBOXから取り出した。
「そんなことできるか!」
「やぁ!」
ツィッツラが、コンパウンドボウから矢を放ったのだが、目の近くに命中して弾かれてしまった。
硬い鱗が矢などは通さないらしく、これじゃ刃物も通るか危うい。
コ○ツ戦闘獣に装備しているアダマンタイトの剣なら切れるかもしれないが、ここじゃ重機なんて出せない。
「むー! 光弾よ! 我が敵を討て!」
爆裂魔法を使うには距離が近すぎて俺たちも巻き込まれる。
コカトリスのときのように隠れる遮蔽物があればいいのだが、ここは水面だ。
「アキラ、やつとの距離を取ってくれ」
「はいよ!」
アネモネの周りに顕現した白い光の矢が4本、海獣へ向かう。
「ガオン!」
首や頭部に魔法が命中して仰け反ったのだが、効いているようには見えない。
魔物が魔法の攻撃に怯んだ隙に、船は反転して魔物から離れ始めた。
「アネモネ、もう一発!」
「いっくよ~! む~! 爆裂魔法!」
青い光が赤い爆炎に変わり、魔物を包み込む。
水面を走る衝撃波が俺たちを襲い、船が激しく揺れる。
「「「おおおっ!」」」
「うにゃぁぁ!」「ゆ、揺れる!」
森猫たちは船底に伏せるようにじっとしているが、さすがの森猫も水の上では戦えない。
「やったか?」
「アキラ、それはフラグだろ?」
「あ……フヒヒ、サーセン!」
その立ったフラグの回収作業が、早速始まる。
爆炎が晴れると長い首が再び俺たちを追尾し始めたのだが、相手も無傷ではない。
鱗もあちこち剥がれて各所から赤い血を流している。
「くそ!」
「もう一発いく!」
「ちょっと待てアネモネ!」
俺は、アイテムBOXからタイマー爆弾を取り出して、10秒にセットした。
爆弾にはトリモチがついており、相手にくっつくので、スイッチを入れるとすぐにニャメナに渡した。
「ニャメナ! すぐに投げろ!」
「うおお! おりゃぁぁ!」
投擲を彼女に頼むのは、コントロールがいいからだ。
敵との距離、およそ30mを直線で進み、爆弾は長い首の中間辺りにくっついた。
頭は揺れているし的が小さい。
確実に当てやすい首を狙ったのだろう。
さすがニャメナ、いい判断だ。
そう思った瞬間、鋭い爆発音が響く。
緑色の鱗がバラバラと水面に飛び散り、えぐれた首の部分から赤い血がバシャバシャと流れる。
「アネモネ、今だ! えぐれた場所に魔法を撃て!」
「むー! 光弾よ! 我が敵を討て!」
アネモネの放った魔法矢が魔物のえぐれた首部分に命中すると、閃光をともない激しく爆発。
その衝撃で首の上半分が吹き飛んだ。
魔物の鱗には耐魔法効果があるようだが、内臓にはないらしい。
水面に長い首が落下して、ドロドロとした赤いものが水面を漂う。
さすがに首が千切れたし、この状態なら間違いなく死んでいるだろう。
「今度こそやったか?」
「うにゃー!」「やったぜ!」
「この状態で生きているとは思えんが……」
アキラの操船でゆっくりと近づくと、アイテムBOXに収納を試みてみる。
「収納!」
俺が収納したのは千切れた首から上だが、目の前から消えた。
収納できたってことは死んでるってことだ。
残念ながら、胴体のほうは巨大すぎてアイテムBOXに収納できない。
解体すれば可能だろうが、ここでそんなことは不可能。
もったいないが諦めるしかない。
「おお!? 首長の魔物をやっちまうなんて、すげー! マジでお前ら只人なのに、マジですげーな!」
「ツィッツラ、俺の言ったとおりだろ?」
「今度は、アキラのすげーところを見せてくれよ!」
どうやら、アキラは俺たちの魔物退治の話もエルフにしていたようである。
「ははは、俺の力は水の上じゃ役に立たねぇからな」
「水に油を撒いて火を点けるってのは?」
俺の言葉にアキラが反対意見を示す。
「相手が水生生物だと、水に潜られて終了だからなぁ……それにかなり大量に撒かないと」
そりゃそうだ。
「ケンイチ、エルフはなんて言ってるの?」
「こんなデカい魔物を退治できて凄いって褒めてる」
「えへん!」
その言葉を聞いたアネモネが胸を張る。
「相手があんなのじゃ、ウチらはまったく手も足も出ないにゃ」「クロ助の言うとおりだぜ」
「俺も、爆発する魔道具を投げてもらうために獣人たちがいないと困るんだけど」
「それなら任せてくれよ、旦那!」
俺たちの戦闘能力に、ツィッツラも感心しているようだ。
「伊達にコカトリスとかデカい魔物を仕留めてないね」
「まぁな」
「聖騎士様、このあとはいかがなさいますぇ?」
アマランサスの言葉に俺は悩んだ。
「う~ん……」
「まだいるかもしれないよぉ」
セテラの言うとおりだ。
魔法も効きづらいようだしな……。
「よし、次に魔物に遭遇したら、引き返して陸路を選択しよう」
「俺もケンイチの話に乗った」
アキラが賛成してくれたあと、他の皆も賛成してくれた。
「決まりだな――悪いアキラ。そのまま操舵をやってくれ。いつ魔物に遭遇するか解らん」
「オッケー」
「オッケーにゃ!」
アキラが船外機の側で操舵を担当するので、ツィッツラが彼の足下にやってきた。
彼が持っていたコンパウンドボウをアキラのアイテムBOXに収納してもらう。
「アイテムBOX――便利だなぁ……」
アキラのアイテムBOXを見て、エルフがつぶやく。
「エルフに持っているやつはいなかったのか?」
「ここら辺のエルフじゃ聞いたことがないよ」
そうなのか。
エルフってのは魔法に堪能ってイメージなのだが、魔法とアイテムBOXは別物らしい。
そういえば、魔法を使えないアマランサスやマロウもアイテムBOXを持ってるしな。
船の上で話していると、魔物の死体があっという間に透明なもので覆われた。
「スライムだ!」
ツィッツラが叫んだ。
「うにゃ?!」「こんなにいるのかよ!」
「へぇ~、ちびっこが作ったスライム避けは、本当に優秀なのねぇ」
「えへん!」
エルフも認めるアネモネの魔法。
彼女は凄い大魔導師として、歴史に名前を残すかもしれない。
そのまま船は進み、船の上で昼食を食べたあと川下りを続けたのだが――。
前方に首長の魔物が見える。
「あちゃーやっぱり、まだいるのか……」
「ケンイチ、こりゃ無理っぽいぜ」
「ああ、俺もそう思う。あんなの相手に連戦は無理だ」
皆に確認して、引き返すことにした。
さすがに、このさき化け物が何頭いるか解らんのに、戦闘をしつつ川を下るのは無理がある。
ルートがここしかない! ってのなら、死中に活! で一点突破もありだとは思うのだが。
ボートが反転すると、突然目の前の水面が盛り上がった。
「おおっと!」
アキラが舵を取って水の小山を避けると、大量の水しぶきを上げて鱗に覆われた長い首が現れた。
「ここにもいるにゃ!」「魔物だらけだぜ!」
「聖騎士様!?」
「このまま突っ切る!」
アキラが叫んだ。
「了解!」
アキラがスピードを上げると、水面から次々と長い首が現れて落ちた水滴が水面を叩く。
「ちょっとまて! なん匹いるんだ?!」
「魔法使う?!」
「ふふふ――それじゃ、ちょっと調子に乗っているちびっこに、本物の魔法を見せてあげるぅ」
そう言ったエルフの周りに、青い光がまとわりつき始めた。
「爆ぜよ蒼き衣を纏いし小人達――我が敵を貫く刃となれ。爆裂小球!」
集まってきた首長の上に閃光が走ったかと思うと、それは光のシャワーになって敵に注ぎ始めた。
数千の小さな光の弾が、魔物や水面に衝突すると、けたたましい爆音が鳴り響く。
もうもうと水蒸気が舞い上がり、川の上に白いカーテンがかかったようになった。
「エルフの魔法、すごい!」
アネモネも目を輝かせて、魔法の威力を小さな瞳に刻み込んでいる。
「魔法の散弾か!」
エルフのすごい魔法に感心したのも束の間、セテラが俺の所に倒れ込んできた。
「後は頼むぅ」
「マジで?!」
どうやら、いまの一発で魔力を使い果たしたらしい。
そのぐらい大きな魔法らしく、広範囲に使える殲滅魔法のようだ。
彼女の大魔法で後ろの魔物たちは行動不能になっているようだが、前方にもまだ首長がいる。
「アキラ、最高速でくぐり抜けてくれ」
「オッケー!」
彼がエンジンを吹かすと、ボートは水面を飛ぶように走り出した。
「うにゃにゃ!」「うおお!」
皆がボートにしがみつく。
「すげー! はぇー!」
ツィッツラはアキラにしがみついている。
俺はアイテムBOXからあるものを取り出した。
「爆雷投下ぁ!」
クラーケン戦に使った爆雷である。
なにがあるか解らないので、武器は常に製作してアイテムBOXに保存してある。
数秒後、爆雷が爆発。
川底の泥まで巻き上げて、コーヒー牛乳色の巨大な水柱が立った。
「うにゃ!」「すげー!」
水中衝撃波の威力は半端ではない。
鋼鉄やらチタンの潜水艦がひしゃげるぐらいの威力なのだ。
近くにいた首長の魔物はすべて行動不能になっただろう。
爆発で湧き上がった波に乗り、俺たちはその場から遁走したのだが――これってただの自然破壊では?
俺の頭にそんな言葉が浮かんだ。





