242話 エルフの村から出発
トラップなのかは不明だが、転移門で共和国に飛ばされた。
現在位置も不明で、王国のサクラに帰れるかどうかも不明だったのだが、俺たちを追ってアキラやアマランサスもやってきた。
もちろん森猫たちも一緒だが、そこにエルフのセテラもいた。
彼女から聞かされる、この大陸の歴史は驚くべきものだった。
エルフ――彼らは宇宙からやってきた移民だったらしい。
俺たちの言葉で異星人ってことになるが、にわかには信じがたい。
そう考えるのが普通だとは思うのだが、エルフ種族全体で口裏を合わせて嘘を言う理由もない。
――ということは、事実なのだろう。
――アキラたちが追ってきた次の日の朝。
アキラは昨晩一緒に遊んだと思われる若いエルフを連れて朝帰りしてきた。
短い金髪が輝く細い腰を抱いたりして朝からイチャイチャである。
ああもう、本当に。あとで、レイランさんに怒られても知らんぞ?
「ケンイチ、ツィッツラにも飯を食わせてやってくれ」
「それはいいけど――まさか、そのエルフも連れていくって言わないよな」
「ええ? アキラ、ダメぇ? 僕は、アキラともっと一緒にいたいんだけど」
エルフがアキラに抱きついてしなを作っている。
「はは、大丈夫だって心配すんな」
マジでこのエルフを連れていくつもりだ。
そんなに気に入ったのだろうか?
「いや、アキラが連れていくっていうなら俺は文句はないんだが、なにがあるか解らんぞ? いいのか?」
「魔物なら平気だよ?」
「いや、途中で村に帰れなくなったらどうする?」
「まぁ、そのときはそのときさ」
エルフも引き下がらない。
「俺たちは川を下るつもりなんだが、それでもいいのか?」
「ああ、それもアキラから聞いたけど、でっかい魔物がいるぞ?」
「ケンイチ、どうやら首長竜みたいな魔物がいるらしい」
アキラが、エルフから情報を仕入れてきたようだ。
ちゃんとやることはやっている。
いろんな意味で。
「ええ? マジか……でも、一度見てみないことには……」
「それじゃ、やばかったら陸路に変更ってことで」
俺もアキラの案に賛成した。
「エルフの村を離れていいのか?」
「ああ、あまり村を離れてはだめってことになっているが、エルフにとって2~3年は、数ヶ月と変わらんからな」
どうやら、このエルフは100歳未満らしく、本当に若いエルフだ。
「それじゃ、100歳過ぎたら別の村に行くってことか」
近親による血が密になるのを防ぐためであるが――。
「そうだよ。それが少し早まっても大丈夫ってことさ」
「ええ? もしかしてあの山脈を越えてもいいっていうのか?」
俺は万年雪が積もるコスモ山脈を指差した。
「別に、どこどこに行っちゃだめなんて、決まりもないしね」
「そりゃ、俺たちの村の近くにも2箇所、エルフの集落があるけどなぁ……」
「問題ないだろ? エルフはエルフ。元々19人の母親から生まれた、みんな親戚みたいなもんだ」
「はぁ~アキラの旦那もまったく物好きだぜ」「そうだにゃ」
獣人たちも呆れているが、個人の趣味にとやかくは言えない。
エルフも納得しているようだし、拒む理由もない。
それに、エルフなら魔法も使えるし、戦闘能力もかなり高いだろう。
貴重な戦力になる。
土地勘がまったくない俺たちの貴重な情報源にもなるしな。
「だいたいだな! 男の最大のロマンである男の娘が目の前にいるんだぞ?」
彼も自分の趣味を、もう隠すつもりもないようだ。
「ああ、お菓子とかに入っているやつな。天津甘栗とか」
「そりゃ、マロンやろ!」
アキラのツッコミが入る。
彼はいつもこのネタで1人ボケ1人ツッコミをしているのだが、今日は俺がボケてみた。
「その男の娘が目の前にいるんだ、据え膳食わずにいられようか、いやいられない!」
「カッコ反語」
「そのとおり!」
「アキラの心意気は解ったが、男のロマンという最大の同類項で囲むのは止めてくれ」
「ちぇ、ケンイチなら解ってくれると思ったのに……」
「いやいや……」
そんなことを言われても困る。
「まぁ、俺は己のロマンを追求するから」
「僕もアキラのためにがんばるよ」
また、エルフとイチャイチャしているのだが、彼をサクラに連れていって大丈夫なのだろうか。
まぁ、なにがあってもアキラの自己責任だから、俺は知らん。
とりあえず朝飯を食う。
いつものグラノーラだ。
エルフは牛乳はだめなので、調整豆乳を使っている。
「うめー! なんだこれ!」
「美味しいよねぇ」
新旧2人のエルフが、グラノーラをほお張りながら微笑んでいる。
片や5000歳で片や100歳未満だが、姿形は姉と弟。
人間では信じられないような光景だ。
森猫たちには、いつもの猫缶。
椅子から降りると、美味しそうに食べているベルの背中をなでる。
「お母さん、人間と同じ食べ物のほうがいいかい?」
「にゃ」
「とても美味しいから、これでいいってか? それならいいけど」
元人間って聞いてしまうと、猫缶でいいのかな? っていう疑問が出てくるよな。
まぁ、猫になってしまったから味覚も猫になっているだろうし、それなら猫の味覚に合わせた猫缶のほうがいいのか。
なんだかモヤモヤが残るが、彼女がこれでいいと言っているのだから、これでいいのだろう。
美味しそうに食事を平らげると、2匹で森の中に散歩に向かう。
俺はテーブルに戻ると、エルフの家族について聞くことにした。
彼らは100歳を超えると別の村を目指す。
血が濃くなるのを防ぐためだ。
「セテラ、エルフの近親婚ってどんな影響が出るんだ?」
「ええ? 食事をしているときに、そんなこと聞くぅ?」
「ああ、スマン」
セテラが渋々教えてくれたが、死産が多いらしい。
「ケンイチ、エルフって凄い早産で生まれるんだよ」
「へぇ? そうなんだ」
アキラがエルフの育児の方法を教えてくれる。
彼はエルフと一緒に暮らしていたので、エルフの社会に詳しい。
超早産で生まれた未熟児は食事もできないし、放置すればすぐに死んでしまう。
元世界なら、未熟児で生まれても保育器があるが、この世界にはもちろんそんなものは存在していない。
そこで、エルフが村を上げて、24時間つきっきりで精霊を使って支援をするという。
「つまり魔法で保育器を作るわけか」
「まぁ、そうだな」
「しかし、なんでそんなに早産なんだ?」
「あの腰を見てみろ、赤ん坊が産道を通らないんだよ」
「ああ、そうなのか……そりゃ大変だな」
「ケンイチ! 産道ってなに?」
黙って俺たちの話を聞いていたアネモネが、会話に入ってきた。
「ううん? う~ん……」
こういうことを教えてもいいものなのだろうか?
まぁ、アネモネは賢いから大丈夫だろう。
俺はシャングリ・ラで骨格標本を検索した。
ちょうど骨盤の骨格標本が3500円ぐらいで売っている。
もちろん本物ではなくて樹脂製だし、大きさも小さい。
実物の1/3ぐらいの大きさだろうか。
学校の理科室にもあった骨格標本だが、昔は本物もあったらしい。
「ポチッとな」
「みぎゃぁ!」「ぎゃぁぁ!」
目の前に落ちてきた骨格標本に、獣人たちが叫び声を上げた。
「そんなに驚くなよ。作りものだって。骨がこんなに小さいわけないだろう」
「だって、子供の骨じゃ……?」
「違う違う」
獣人たちににおいを嗅がせて触らせてみると、模型だって理解したようだ。
「まったく朝から心臓に悪いぜ……」「まったくだにゃ……ケンイチは、なにをするか解らないから、怖いにゃ」
「悪い悪い」
「して聖騎士様。その腰骨の模型がなんだと申されるかぇ?」
「ほら、この穴が産道だ」
腰骨――つまり骨盤の真ん中には、丸く穴が開いている。
「なるほどのう……」
「ここを赤ちゃんが通って生まれてくるので、この穴より赤ちゃんが大きくなると……」
「そうなんだ……それじゃエルフは、この穴が小さいんだね?」
アネモネも理解できたようだが、子どもにこんなことを教えてもいいのだろうか?
「多分な――あの腰を見てみろ。細いだろう?」
「うん」
皆の視線が、セテラの腰に集まる。
「ちょ! ちょっとぉ! 朝から、そんな視線を向けないでくれるぅ!?」
珍しくセテラの顔が赤い。
「……」
俺の話を聞いて、アマランサスが少々難しい顔をしている。
こういう解剖学的なことは禁忌らしいからな。
「アマランサス、スマンな。こういう話は聞きたくはなかったか?」
「いいえ、王侯貴族でも、難産の果てに命を落とす者がおりますので、おそらくはこういったことが原因なのかと……」
「女のケツがデカいと安産型なんて言われるけど、経験則的な理由があるんだろうな」
「うむ」
「でも、ケンイチ、赤ちゃんが生まれてこないときはどうしたらいいの?」
「あ~う~ん」
「どうしたの?」
俺は答えを迷った。
「これは言っていいものか……」
「私は平気」
「妾も、もしや助けることができる女子が増えるやもしれぬゆえ」
「帝王切開だよ」
「そ、それは?」
そんな単語、この世界にはないので、アマランサスが首を傾げている。
「解りやすく言うと――お腹を切って赤ちゃんを取り出すんだ」
「ぴゃ!」「ひっ!」
全身の毛を逆立てた獣人たちが立ち上がったのを見て、俺は「しまった」と心の中でつぶやいた。
彼女たちは、逃げるようにそのまま森の中に消えてしまった。
「あ~あ、まずかったかな……」
「でも、ケンイチの世界の医療行為では、普通に行われていたんでしょうぉ?」
エルフたちは平気のようだ。
セテラは、かなり進んだ医学を経験していたはずだとは思うが、若いツィッツラも平気なのは意外だ。
「まぁな。それに腹を切っても死ぬことはないし」
「そうなのかぇ?」
「なぁ、アキラ」
「ああ――でも、この世界でやるのにはハードルが高すぎるな」
「はあどるってなに?」
聞き慣れない単語に横にいたツィッツラが反応した。
「こうやって、飛び越える柵みたいなもんだな」
「ああ、そういうこと」
アキラが飛ぶ真似をしての説明に、エルフも納得したようだ。
「つまり、より沢山の民の命を救おうとするならば、それに相応しい技術と知識が必要になるというわけじゃな」
「そうだな。だが、この世界じゃ禁忌になっているようなことが多いし。獣人たちの反応を見ても解るだろう」
あの様子だと、母子ともに危険と言っても帝王切開なんてできないだろう。
民の理解を得られないまま、サクラでそんなことを強行すれば領の経営が崩壊する。
それどころか、異端者として王国から追放される可能性すらあるな。
「うむ……」
「この世界には治癒魔法があるとはいえ、今の話の難産とかは魔法でなんともならないしな」
「治癒魔法でぇ、治らないものも多いよぉ。たとえば流した血が増えることはないし」
それを補うためには輸血が必要になるが、それがまた大問題だ。
この世界で実施するには不可能に近い。
「アネモネ、今の話は全部内緒な?」
「うん」
「まぁねぇ異端者として吊し上げを食らって、最悪火炙りねぇ」
「そうなるのは勘弁してもらいたいが――ありえる話だ」
朝飯を食い終わったが、獣人たちがどこかに行ったまま、戻ってこない。
嫌われてしまっただろうか。
エルフのツィッツラが、族長の所に行ってくるという。
「族長に相談なしに、村から出ることを決めてしまって大丈夫なのか?」
「いずれは、この村を出るんだし」
ツィッツラと入れ替えに他のエルフたちがやってきたので、チョコをやる。
「今日、発つのか?」
「ああ、エルフが1人一緒に行くって言ってるんだが、大丈夫だと思うか?」
「ツィッツラだろ? あいつもそろそろ旅立ちの日が近づいているから、それが多少早まるだけだろ」
エルフたちからみても問題ないらしい。
チョコの人気のせいか、沢山のエルフたちに囲まれると草のにおいが充満する。
1人だと気にならんが、やっぱり沢山いたり狭い部屋の中で一緒だと、においがするな。
嫌なにおいではないのだが……。
「ああ、そうだ」
セテラに質問をしてみる。
「なぁに?」
「この大陸の始まりのエルフは50人って聞いたが、他の大陸にもエルフたちはいるのか?」
「多分、降りてるはずよ」
彼女の話では、この大陸の反対側や、南半球にも大陸があるらしい。
「そっちでは、すごく繁栄していたりして?」
「どうかしらねぇ」
彼女の反応だとその可能性は薄いらしい。
「他の大陸にも只人はいるのか?」
「それは解らないわぁ。管理人がその種族をどれだけこの星につれてきているのかも知らないし」
「それじゃ他の人類が、めちゃ文明発達してたりして……」
「海はヤバいって聞くけど、空を飛べばなんとかなるな」
海は巨大な魔物がうようよいるらしい。
アキラの話によると、かつて帝国でも外洋に出ようという計画があったが、魔物に襲われて頓挫したようだ。
「皇帝から聞いたのか?」
「まぁな」
「皇帝?」
突然出てきた単語にエルフたちが訝しげな顔をしている。
「この男は、帝国皇帝の懐刀だったんだよ。歴史上初めてドラゴンを倒した男だぞ?」
「ドラゴン?!」「はは、まさかなぁ」「よくある只人のホラ話だ」
エルフたちが金髪を揺らしながら笑っている。彼らはドラゴンスレイヤーの話を信じていないらしい。
まぁ、目の前で見たことがないから、仕方ないのかもしれないが。
「エルフでドラゴンを倒したという話は?」
「ない」「ない」「そんなのあるはずがない」「あれは動く災害だからな」
「そうねぇ」
ドラゴンはさておき、他の大陸の話が気になる。
「アマランサス、他の大陸から人が流れ着いたとかそういう噂は?」
「聞いたことがないわぇ」
まぁ、オダマキでも、そんな話は聞いたことがなかったからなぁ。
「でもアキラ。他の大陸の文明が残っていて高度に発達していれば、いずれはファーストコンタクトに」
「平和的なファーストコンタクトならいいが、侵略だとヤバいぞ?」
「向こうが近代兵器じゃ、多少火薬やなにやらがあっても手も足も出ないな……」
「そうだなぁ、そうじゃないことを願うしかねぇな」
セテラの言う、この世界の管理人ってのが本当にいるなら、なんとかしてくれるんじゃなかろうか?
根拠もなにもないが。
別の大陸の文明について話し合っていると、ツィッツラが戻ってきてアキラに抱きついた。
「大丈夫だったか?」
「ああ、お祝いとして、村の財産から短剣と弓の持ち出しが許されたよ」
「弓なら、ケンイチから貸してもらえばいい」
アキラの言葉に、エルフも関心があるようなので、アイテムBOXからコンパウンドボウを出してやる。
「ほら、これだ」
「す、すげー! なんだこれ!」
ツィッツラが、玩具をもらった子どものように目を輝かせている。
「魔物退治にはそれを貸してやる」
「やったぁ!」
はしゃぐツィッツラだが、他のエルフたちは戸惑っているように見える。
その様子をみてセテラがつぶやいた。
「ほら、これなのよねぇ」
「あ……」
彼女の言いたいことが解ったような気がした。
外からの文明が持ち込まれて、持つ者と持たざる者が分けられてしまう。
これを防ぐために、彼らはすべての財産を共有するという原始共産制を営んでいるのだ。
「セテラ殿の言うとおりだ」
エルフたちを分けて、長い金髪を揺らして族長が現れた。
「迷惑をかけて申し訳ない。我々は、すぐにここを発つことにする」
「そのほうがよいだろう」
彼らには彼らの歴史と暮らしがある。
土足で踏み込んではいけないのだ。
族長の指示によってエルフたちが解散したので、出立の準備に入る。
森猫たちは戻ってきたが、獣人たちはまだだ。
さっきのことを怒っているのだろうか?
「お~い! ミャレーとニャメナ! 出発するぞ~!」
俺の呼びかけからしばらくすると、ガサガサと茂みが動いた。
耳を伏せて尻尾は地面にへばりついており、明らかに警戒している。
「悪い! かなり俺は無神経だったな。もう、ああいうことは言わないから」
「お、俺たちは旦那に命あずけてるから――そ、それはいいんだけど……」「にゃ」
「もう言わないし、俺が言ったようなことを、することもないから心配するな」
「……解った」「にゃ」
アネモネに話したりするときは、獣人たちのいない場所で話さないとだめだな。
彼女たちは耳がいいから、ヒソヒソ話ぐらいでは聞き取ってしまう。
どうもアキラと一緒だと、元世界にいる感覚で喋ってしまうからなぁ。
いや、これじゃアキラが悪いといっているようなものか……。
そもそも俺の配慮が足りてないのが原因だ。
エルフといい獣人たちといい、他種族への対応の試験があるとすれば、これじゃ落第――反省すべき点が多い。
こういう話がサクラに広がってしまうと、せっかく集まった住民が離れてしまうかもしれん。
自重しなくては。
出発間際になって、エルフたちとの関係が微妙になってしまったので、そそくさと逃げるように出発する。
実に気まずいが俺が悪いのだ。
車をアイテムBOXから出した。
「お?! ラ○クル新しくなってるじゃん」
アキラが車を変えたのに気がついたようだ。
「歴戦でボコボコになってしまってな。フロントガラスも割れてしまったし」
「なんだ、色々とあったんだな」
「はは、まぁな。あとでゆっくりと話すよ」
「オッケー、よっしゃ!」
アキラもプ○ドを出した。
「すげー! アキラも鉄の召喚獣もすげー!」
「はは、凄いだろ?」
「森の中を楽に移動できるんだよな!」
「もしかして、ケンイチの召喚獣に乗ったのか?」
「ああ! 最初に会ったところから帰るときに」
ツィッツラが、アキラの車の周りをぐるぐると回っている。
「ほら、俺の隣に乗れ」
「解った」
エルフはアキラの助手席に座るようだ。
それを見て、俺たちも車に乗り込む。
俺の隣にアネモネ、後ろにはセテラとアマランサス。
3列目シートには獣人たちが乗るが、森猫はちょっと厳しい。
「お母さん、アキラの車に乗ってもらっていいかい?」
「にゃー」
「いつもすまないねぇ」
「にゃ」
彼女が、カゲと一緒にアキラの車の後部座席に乗り込んだ。
無理に乗せることも可能だが、森猫たちも座席が広いほうがいいだろう。
3列目シートに乗っている獣人たちは、テンションが低く、じっとしている。
いつも明るい彼女たちが沈んでいると、俺の罪悪感もマシマシである。
あとで彼女たちには再度謝ろう。
「出発!」
こちらを見ているエルフたちに心で感謝しながら、川に向けて出発する。
エルフと一緒に行ったときに方角は覚えていたので、車の天井についている方位磁石を見れば迷うことはない。
それに、アキラの車にはこの辺の地理に詳しいエルフも乗っているし、俺の車の轍も残っている。
そのあとをトレースすればいいのだ。
急ぐ必要もないのでゆっくりと車を走らせたが、30分ほどで川に到着した。
コカトリスを解体したのと同じ場所だ。
「この川かぁ」
アキラたちが車から降りてきた。
ベルとカゲがやってきて、俺の脚にスリスリをしてくる。
彼女たちの毛皮をなでながら、アキラと話をした。
「そうだ、結構デカい川だろ?」
「川幅は100mぐらいありそうだな」
サクラの近くにある大湿地帯と同じように、ここらへんもずっと平地らしい。
川の流れはゆったりで、人が歩くぐらいの速さか。
俺は、アイテムBOXからボートを出した。
ここにはエルフが使っている桟橋があるので、そのまま使える。
アイテムBOXから出したのは、2隻ある船外機つきボートの片方で、以前に使ったスライムよけのコアがそのまま装着されたものだ。
アネモネにコアを起動してもらえば、そのまま使えるだろう。
もう1隻は、遺跡に置いたまま。
アキラのアイテムBOXに入れられないので、そのまま放置してきたらしい。
まぁ、ここで船がなくても再度購入すればいい。
同じ9mの中古船があればの話だが。
魔物が出るという川で、ゴムボートではかなり不安だ。
「ツィッツラ、魔物が出るっていう川を下るんだが、覚悟はできているのか?」
一応、新入りのエルフに決意を聞いてみる。
「アキラがいれば大丈夫なんだろ? 竜殺しなんだからさ」
「確かにそうだが……水の上でマヨ攻撃は使えるか?」
「はは、解らん――が、窒息は無理だが油はかけられるぞ?」
「けど、火を点けても水に潜られたら終了だし」
「まぁ、なんとかなるって」
大丈夫かな~?
俺たちは船に乗り込んだが、獣人たちはまだ黙ったまま。
あ~困ったな。
俺が全部悪いんだけど……。





