24話 装備を整え野盗討伐へ出発!
「マロウさん! 俺が何とかする!」
彼の肩を掴んで、そう叫んでしまった。
マロウのキャラバンが野盗に襲われて全滅してしまったという。その時に彼の一人娘、プリムラさんが逃げ遅れたらしい。
彼にしてみれば、最愛の1人娘を残して逃げるのは断腸の思いだっただろう。
引き返そうとするマロウさんを護衛の連中が引きずって街へ戻ってきたらしい。
だが、キャラバンとしては依頼主を守るためには、そうするしか無い。
俺の言葉を聞いて街ゆく人々達は――この男は一体何を言っているんだ? ――という顔をしている。
そりゃ、そうだろう。ベテラン冒険者でもない、全く素人の男に何が出来るのか? 皆がそう考えているのに違いない。
「しかし、どうやって……」
俺の言葉を聞いたマロウさんも、にわかに信じられてないような顔をしている。
彼にしてみれば――娘を助け出すため藁にもすがりたい思いだろうが、俺はその藁にもなっていないという事か。
だが、お姫様が拐われたら、助けに行くのが騎士の務め、ここで何もしなかったら俺は後々絶対に後悔をする事になるだろう。
異世界に巣食う外道を叩いて砕く、俺がやらねば誰がやる。
さりとて、本当に何の力も無く、こんな事を言っているのであれば、ラ・マンチャの男ならぬタダの道化だが、今の俺にはシャングリ・ラがある。
「マロウさん、支度金が必要です。後で商品で埋め合わせをいたしますので都合できませんか?」
「それならば、この金を使って下さい! 娘を助け出すためならば金に糸目はつけません!」
彼が差し出したのは金貨が大量に入った袋。何枚入っているかは不明だが、そいつを受け取るとシャングリ・ラにチャージを始めた。
入金したのは都合、金貨50枚(1000万円)である。
先ずは戦力を奴らのアジト近くまで運ぶ脚が必要だろう。冒険者や街にいる連中で馬を持っている人間は少ない。
馬を飼うのは凄い金が掛かるからだ。それ故、遠出する時などは馬屋からレンタルをする。
別に馬を買う必要はない。シャングリ・ラで乗り物を探せば良い。もう、ヤケクソだ――どうとでもなれ。
俺は、シャングリ・ラを検索した。とりあえず荒れ地で物を運ぶなら4WDトラックだろう。俗に言う4t車なら、20~30人は運べるはずだ。
「よし、これか」
俺は目当ての物を探し当てると、周りの見物客に注意を促した。
「これから俺の召喚魔法を使う! デカい物が召喚されるので、ちょっと場所を空けてくれ!」
「召喚魔法だって?」「あいつは魔導師だったのか?」
「ケンイチさん、一体なにを――」
「マロウさん、本当に召喚しますので注意して下さい。やって来い来い! M菱 キ○ンター5.2 ワイド ロング ディーゼル 4WD 三方開 17万Km 210万円!」
俺はシャングリ・ラの【購入】ボタンを押した。
空中から4tトラックが出現して地面へ落下。フレームとサスペンションが軋む大きな音を立てて着地――バウンドした。
本当はユ○ック付きにしたかったが、それは後で考えよう。とりあえず人員と物資を運べれば良い。
17万Km走っている中古車だが、トラックで10万kmなんて慣らし運転の範疇。20万km過ぎてからアタリが出て本調子になるぐらいだ。
「うぁああ!」「なんじゃこりゃ!」
突然出現した巨大な鉄の化物に人々は逃げ惑う。
「大丈夫だ! これは俺の言う事しか聞かない、馬なしで動く鉄の車だ」
「う、馬なしで動くだって?」
逃げ遅れて尻もちをついている男が車を見上げて呟く。
ドアを開けて運転席へ乗り込む。俺の免許なら中型まで乗れるし、トラックの運転も出来る。問題は無い。
まぁ異世界で免許なんて関係無いけどな。
だが、こんな異世界でトラックに乗るとは思わなかった。キーを捻ると、ディーゼルエンジンが始動する。
最近のトラックはATもあるようだが、こいつはMT仕様だ。Nにいれると、ちょっと派手目にエンジンを吹かす。
轟くエンジン音が怪物の咆哮に聞こえたのだろう。人々は次第に後ろに下がり始めた。
1速に入れると、クラッチを繋ぐ――すると、唸りを上げている鉄の塊はするすると前に進み始めた。
「おおっ!」「ホントに馬なしで動いてるぜ!」「魔法か?」
人々の驚く声を聞きながら、バックで元の場所へ戻ってきた。
俺はトラックから降りると、荷台に上がって皆に向かって叫んだ。
「こいつを使って野盗のアジトまで戦う奴を運んでやる。後、武器と盾も供給するぞ! これは一攫千金の好機だぞ!」
皆がざわざわと隣同士で話をしているが、名乗りを上げる奴は今のところはいない。
だが聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「どんな武器だにゃ?!」
尻尾を振りながら、トラックの荷台にいる俺を見上げている獣人の女。
「ミャレーか。そういえば、お前は弓が得意だと言っていたな」
シャングリ・ラから75ポンドという一番強いコンパウンドボウを購入する。コンパウンド式ってのは、滑車を使った複合式の弓だ。
フレームにカーボンを使っているし完全にオーバーテクノロジーの代物だが、非常事態につきやむを得ない。
75ポンドともなると男でも引くのが大変だが、獣人はパワーがある。彼女でも十分に引けるだろう。
「にゃ! にゃんだこれ?! こんな凄い弓は見たことが無いにゃ!」
コンパウンドボウを俺から貰った彼女は目を皿にしているが、早速カーボンの矢を番えてみせる。
関連商品に狩猟用の矢じりが売っているので、後でこいつに交換しよう。相手は外道だ、問答無用で良いだろう。
俺は、アイテムBOXから木の板を取り出して荷台から飛び降りると建物の壁に立てかけた。
だが、ミャレーはいつもと違うコンパウンド式の弓の扱い方が解らないらしい。
「ミャレー、もっと引いて。引き切ると軽くなるからな」
「こうにゃ? ――本当に軽くなったにゃ!」
「それで、ゆっくりと狙いが付けられる」
そして、カーボン製の矢が放たれると、板は真っ二つに割れて木片が飛び散った。
「凄い威力だにゃ!」
「でも引くのにちょっと時間がかかるので連射には向かないがな」
それを見ていた聴衆の中から獣人の男達が歩み出た。いつも俺の家で飯を食っていた獣人の男3人組だ。
リーダーのニャケロが一歩前に踏み出してきた。
「俺っち達にも武器は、もらえるんで?」
俺が彼等に手渡したのは、150ポンド仕様のコンパウンド式のクロスボウ――値段は5万5千円だ。上部には光学式のサイトが装着されている。
普通の人間なら先端に付いている輪を足で踏んで両手で引き上げなければならないが、獣人達は軽々と片手で引いてみせた。
「この弩弓の上についている丸い筒は?」
「それを覗いて十字に捉えれば、そこへ矢が飛んでいく。勿論、矢は山なりに飛ぶので、距離によって調節しなければならないが」
「へぇ……」
ちょうど、ニャケロが覗き込んだ先、屋根の縁に留まっていた白い鳥がいる。
彼が狙いを定めて引き金を引くと、カーボン製の黒い矢が、白い羽を飛び散らせて獲物を貫通した。
「なんじゃこりゃ! 凄すぎるぜ! この大きさで、軍隊が持っている弩砲ぐらいの威力があるだろ」
「それなら、らくらく鎧も貫通するにゃ」
「ケンイチ、俺は剣が欲しいんだが」
「剣か……あまり大型の剣は無いんだよなぁ」
だが、そんなことは言ってられない。再度シャングリ・ラで検索をしてみると、大型のマチェトが目に入った。
これなら結構デカイな。関連商品にハンドガードが付いた物も売っている。商品名はカットラスとなっているな。
カットラスと言えば、海賊映画で悪玉の船長が持っているような奴だろう。
一番デカいマチェトは全長80㎝もある。これは銃刀法ナントカは平気なのだろうか?
ハンドガードが付いているマチェト2本と、全長1mのバトルアックスを購入してみた。3本とも1万前後の代物だ。
アックスは刃の反対側はピック状になっていて鋭く尖っている。これで殴られれば薄い鎧は容易く貫通するだろう。
目の前に購入したマチェトとアックスが落ちてくる。
「俺が持っている在庫では、これしか無いな。これでダメなら街の武器屋で購入するしか無いが……」
「随分と薄い刃だな。 折れちまわねぇか?」
獣人が2人、マチェトを取ると突然斬り合いを始めた。だが本気でやっているわけではない。軽い模擬戦だ。
だが、そのスピードは半端ではなく、剣がぶつかる度に金属音と火花を飛ばす。
「へへぇ! 薄いから軟かと思ったら、折れも曲がりもしねぇ。こいつは気に入ったぜ」
「魔法で強化してあるからな」
大嘘だ。
「マジかよ」
「それじゃ、俺はこの斧をもらうぜ」
鉄無垢のバトルアックスなので結構な重量があるのだが、男は片手で楽々と振り回している。
こんなの食らったら真っ二つだな――剣呑剣呑。
「おっしゃ! この話、乗ったぜ! そろそろ、デカイ稼ぎをしようと思ってたところだしよ」
リーダーのニャケロの話に他の2人も頷く。勿論、ミャレーも話に乗るようだ。
「そうか、やってくれるか」
「おう!」
3人の獣人が剣と斧を掲げてクロスさせ気勢を上げる。
これで俺を入れて5人か……。
「それでは私も参加させていただくかな」
やってきたのは俺の店のお得意様――騎士爵様だ。
「おお! 騎士爵様が一緒に行ってくれるとは、これは心強い」
「貴公も、やむを得ず魔法を見せてしまったのだろうが、このような物まで出せるとは……」
「もう、ヤケクソですよ」
「それより、我がウルフファングが完成したぞ?」
騎士爵様が銀色に光る刃渡り1m程の大剣を掲げる。おそらく俺が提供した鋼材――A○S-34で打たれた剣だろう。
「ウルフファングとは……?」
「当然、この剣の名前だ。しかし鍛冶屋の親父も、この鋼材の扱いには相当苦労したらしく泣いていたぞ」
なんだか、うっとりとした表情で剣を眺める彼だが、この人もちょっと変わった人だったようだ。
「なにせ普通の鋼鉄とは違いますからね」
「うむ。シャガ狩りとは我がウルフファングの初陣に相応しい。たっぷりと悪人どもの血を吸わせてやることにしよう」
「よろしくお願いします」
さて、これで6人か。確かに騎士爵様が合流してくれたのは、こころ強い。何があっても彼が証人になってくれる。
この世界で公人が一緒にいるというのは、色々と捗るのだ。
だが――まだまだ戦力が足りないな。
「ほほ、中々面白そうな事をしようとしているな。命知らずも良いところじゃ」
暗い緑色のローブを着た白髭の爺さんが、そこにいた。俺がいつもアイテムを買っている道具屋の爺さんだ。
「まさか爺さんも、やろうってんじゃないだろうな。年寄りの冷水だぞ?」
「何を言うか。これでも元冒険者じゃぞ? ほれ」
爺さんが下から上へ手を動かすと、地面に小さい火柱が立ち、地面を焦がす。
「おお! 爺さん、やっぱり魔導師だったのか?」
「すでに引退した身じゃが。最後に一花咲かせるのも悪くないじゃろ。それに、お前さんが使っている魔法にも興味があるしな」
「魔導師がいれば、戦力としてかなり強化されるな」
前衛を獣人達に任せれば、後衛から強力な魔法が使える。RPGのセオリーだ。
「ほほ、そういう事じゃ」
これで、7人……。
だが、もう一人男が歩み出た。そいつは俺が家までベッドを運んでやったマッチョな男だ。
「あんたか……あんたも元冒険者とかなのか?」
「一応登録はしてあるぜ。黒狼狩りに参加した事もあるしな」
「でも、あんたは新婚だろ?」
「ああ、そうなんだが――実は旦那の店で色々買い込んだら、女房から怒られちまってな」
「金を使いすぎたか?」
「生活するならボロで十分、新品なんて要らないのに――って言われちまって」
「なんだそれ、滅茶苦茶良い女房じゃないか」
ノロケか? ノロケなのか?
「そうなんだよ、俺には勿体無いぐらいの女だ。だから女房には良い暮らしをさせてやりてぇ」
おい、ちょっと待て。
「そのためには金がいるじゃねぇか」
こら、止めろ。変なフラグ立てるんじゃねぇ。
「どうしてもやるのか?」
「おう! 俺はやるぜ!」
「そうか、やるのか」
ちょっと危険なフラグが立って危ない気もするが、これで8人だ。猫の手も借りたい気分なので大変にありがたい。
「ちょいと! あたしを仲間外れなんて酷いじゃないかい!」
そう言って現れたのは、派手な服装にアクセサリーをジャラジャラと鳴らした、ウチの隣店の店主アマナだ。
「何を言ってるんだ、アマナ。戦闘なんだぞ?」
「いくら戦闘だって飯は食うんだろ? 飯の用意ぐらいは出来るさ」
「う~ん、そう言われればそうだな」
「その代わり危なくなったら、あたしゃ逃げるけどね」
「解った」
アマナが加わってくれたが、戦力としては期待出来ない。もう少し戦力が欲しい。
俺はもう一度、荷台に乗ると聴衆へ向けて叫んだ。
「俺も、戦闘用の召喚獣を使うぞ、超強力な鉄の魔獣だ! 見てろ!」
荷台の上から呪文を唱えた。
「ユ○ボ召喚!」
4tトラックの横に緑のパワーショベルが出現する。
俺は座席に乗り込むと、エンジンを始動させて、スロットルを全開にした。
そして、その場でグルグルと回ってみせて、アームを高く掲げると――そのまま地面へ向けて振り下ろす。
地面を揺るがす大音響と共に鋼鉄製のバケットが地面へ食い込むと、それを見ていた聴衆は腰を抜かした。
「どうだ! この鉄の魔獣があれば、野盗の10人や20人は軽く薙ぎ払えるぞ! もう一度言う、これは一攫千金の好機だ!」
「お前さん、調教師なのか?」
爺さんが驚いた顔をして俺の所へやって来た。
「まぁな」
このデモンストレーションが効いたのか、冒険者7人が名乗りを上げてくれた。
正直、噂の通りで相手が50人の悪党だとすれば、それでもかなり分は悪い。
だが馬鹿正直に正面から当たる必要など無いのだ。寝込みを襲う等、奇襲を掛ければチャンスはある――と思う。
コンパウンド式のクロスボウを10台購入して使いたいやつに配る。マチェトも欲しがっている奴がいたので、追加で3本購入した。
「言っておくが武器は貸すだけだからな。後で回収するぞ?」
「こんな凄い武器なんて金じゃ買えねぇ。それも仕方ねぇな」
クロスボウをいじっている冒険者の1人が呟く。申し訳ないが完全にオーバーテクノロジー品だからな。巷に流れると拙い。
――ってもう遅いかもしれないが。
メンツが決まったので冒険者ギルドで、シャガ討伐の申し込みをする。
職員から驚きの表情で見られるが至って本気だ。
成功すれば、ギルドからの報酬、マロウ商会からの報酬、そして国からの報奨金が合計され、かなりの金額になるのは間違いない。
まぁ、生きて帰れればの話だが。
「ケンイチさん! 何か隠し事をしている方だとは思っておりましたが、このような魔法を使える方だとは、つゆ知らず……」
「マロウさん、お願いがあります」
「わ、私に、できることなら、なんなりと」
シャングリ・ラには冒険者の装備として無い物が多い。例えば鎧や防具だ。
一応、鎧やアーマーで検索を掛けてみたが、そのような物は売っていなかった。
マロウさんの知り合いの武器屋を紹介してもらい、足りない武器や防具を揃えてもらう。
レザーアーマーやスケルメイル、チェーンメイルなど、当人の好みによって違うようで、それぞれの好みに合わせて購入している。
武器も、より大きなツーハンドソードなどが欲しい者がいる。だが、どうせ戦闘で使うのだ中古の防具で十分だ。
中古の装備であれば、マロウ商会の金を使って購入してくれる事になったので、冒険者達もここぞとばかりに装備を新しくしているようだ。
そして弓を使う者は矢筒を買っているが、矢は俺から供給する事にした。
この世界で売っている矢では、コンパウンド式のクロスボウに合わないかもしれないからな。
俺も一番軽いレザーアーマーを買ってみた。
勿論、剣など振ったことがないし、斬り合いに参加するつもりもない。使うならコンパウンドボウか、スリングショットだろう。
「ああ、盾は俺が良い物を持っているので買わなくても良いから」
「その盾ってやつも魔法が掛かった凄い奴なんだろ?」
ニャケロが俺に話しかけてくる。
「まぁ、そんなところだ。ここでは出せないので、街から出てから見せてやる」
「へへ、そいつは楽しみだ」
「飯も全部、俺が用意してやるから心配するな。全部アイテムBOXに入っているから美味い物が食えるぞ」
「ひょ~! そいつは楽しみだぜ」
冒険者の1人が、表情をほころばせる。
「旦那の飯は美味いからなぁ」
「にゃ~!」
獣人達も飯に期待しているようだ。
「遠征に向かうと不味い飯ばっかりになるからなぁ」
「美味い飯を食うだけで、やる気が違うってもんよ」
運転席に乗り込んで燃料計を見ると軽油があまり入っていないが、50kmぐらいなら保つだろう。
殴り込みの前に食事を取ると思うので、その時に追加の燃料を入れるか。
装備を整えるのを終えた15人の冒険者と1人の女が、4tトラックの荷台に武器などの装備と一緒に乗る。
昼が終わる頃、人々に見送られ街の西門を出て荒野を目指し出発した。
人々の中には指を差して嘲笑を送る者もいる。
たった15人で敵うはずが無いと言うのだ。
だが、男にはダメだと解っていても、行かねばならぬ時があるんだよ。