231話 黒い魔獣
サクラの象徴にもなっている滝。
その滝に流れ込んでいる川をさかのぼり、転移門を発見して水源も見つけた。
水源には湖があり、中の島には遺跡がある。
これは探検するしかないということで中に入ると――そこはダンジョン化していた。
様々な罠や、魔物を退けて階下に下っていく。
触手というイソギンチャクのような魔物をクリアしたときに、アキラが階下から火を点けた。
通路を焼き払って綺麗にしておけば、帰りや逃げるときも楽じゃないか?
皆の意見が一致したので、少々荒っぽいが――アキラの指から出るマヨネーズの油を使って、魔物に放火した。
触手から身体を守るために着てきたゴムスーツで、皆が汗びっしょり。
獣人たちは汗をかかないが、暑さで水浴びはするので結果的にずぶ濡れ。
皆で水浴びをして、アイテムBOXから出したジェットヒーターで身体を乾かす。
服だけならアネモネの魔法も使えるのだが、乾燥を人体に使用するのは危険だ。
男はすぐに乾くのだが、女性は髪の毛があるから大変。
同じように毛皮を着ている獣人たちも同様だ。
大量に汗をかいたので、シャングリ・ラから経口補水液を購入して皆に配る。
「飲み物にゃ?」「俺はエールのほうが……」
「ダメダメ。まぁあまり美味くはないと思うが、とりあえず薬だと思って飲んどけ」
「まぁ、これだけ汗かいたら、ビールはマズいな」
「アキラ、お酒は駄目なの?」
「アネモネちゃん。酒ってのは、身体の中の水を出す効果があってなぁ」
「汗をかいて、身体の水が少なくなっているところに、酒を飲んだりすると――」
「まぁ、『く~っ!』って感じで飲みたくなるけどな。水分補給にならねぇし」
「なるほどのう、理にかなっておるのう」
「でも、甘くて普通の水より美味いにゃ」
獣人たちは暑さに弱いので心配だ。
「2人とも大丈夫か? 調子が悪くなったら早めに言ってくれよ。無理すると結局皆の足を引っ張ることになるからな」
「大丈夫だよ旦那」「そうにゃ」
まぁ、獣人たちは基本的に体力が半端ないからなぁ。
服を着たら、またこの階の探検だ。
他の階と同じように弧を描いた廊下が続いているので、車を出した。
皆で車に乗り込み廊下を進む。
「ははは、こんなダンジョンの攻略法ありか?」
アキラが後ろの席で笑っているが、クリアできればなんでもいいのだ。
だいたい、車を使おうと言い出したのはアキラなのだが。
「別にゲームじゃないんだから、ルールはないだろ?」
「そりゃそうだ」
車の右側にはポリカーボネート製の盾が固定されていて、矢避けを行う。
ゆっくりと石の床を進み、廊下の中央部分まで来ると、右側に下に降りる階段らしきものがある。
右側は岩盤なので、その中を進むってことか。
意外と複雑な造りだと驚くが、ダンジョンっていうぐらいなんだから、それも当然か。
「ケンイチ、階段にゃ!」
「下に行く道はそこしかないみたいだな」
廊下の先を見る――扉も部屋もないし、階段もない。
ハンドルを右に切ると、階段の前まで行ってみることに。
「うお!」
突然、激しい衝撃が車を襲う。
どうやらフロントタイヤが落ち込んだようだ。
「落とし穴だにゃ」
ミャレーとニャメナがリアゲートから出てフロントタイヤを確認している。
「下に行く道だと喜んで走ってきたところを、下に落っことすんだろ?」
「トラ公が引っかかりそうな罠にゃ」
「落とし穴は、クロ助も引っかかっただろ?!」
「みんな、注意して車から降りてくれ」
皆が車のドアを盾にしながら降りる。
ドアには透明な盾がくくりつけられているので、矢ぐらいでは貫通できない。
「問題ないみたい」
「そのようじゃの」
アネモネとアマランサスも周囲を確認している。
どこに罠があるか解らんし。
「まぁねぇ。こんなの住居不法侵入だからなぁ、撃退されてもこちらは文句は言えないんだけど」
元世界のゲームに慣れてしまっていると、ダンジョンでアイテム拾ったり宝箱開けたりが当たり前になってしまっている。
勝手に民家に上がりこんで、タンス開けたりツボを壊して薬草を手に入れたりしているしな。
まぁ、ダンジョンでアイテムを拾うのはこの世界でも合法なので、倫理観が欠如しているなんてことは言われないのだが……。
俺のつぶやきにアキラが反応した。
「ははは、まさにそのとおりだな。だが解っちゃいるが解るわけにはいかんってわけよ」
何もないようなので、落とし穴に前輪が落ちてしまった車をアイテムBOXに収納した。
車がなくなると、目の前には暗い下りの通路。
通路は暗いのだが、ゴールの向こうはオレンジ色の光が灯っているように見える。
「うっ!」
ニャメナが耳を畳んで、尻尾を下げている。
明らかになにかを警戒している仕草だ。
「どうした?」
「なんかやべぇにおいがする……」
「クンカクンカ……これワン公のにおいきゃ?」
「そんなケチなもんじゃねぇぞ? こりゃ」
獣人たちは、なにかヤバいもののにおいを感じ取っているようだ。
どうやら犬のような魔物らしい。
「俺たちからすると、犬と熊のにおいって似たような感じだと思うんだが、やっぱり違うのか?」
「ああ、こいつは熊じゃねぇな。嗅いだことはねぇにおいだけど――半端な魔物じゃねぇ」
遭ったこともない熊のにおいに犬はビビるって話も聞いたことがあるから、においにもランク付けみたいなものがあるのだろうか?
ニャメナは耳を閉じて、ぷるぷると小刻みに震えている。
「そんなに恐ろしいなら、この先に行かなくてもいいぞ」
「旦那! さっきも言ったけど、先陣から獣人が逃げたなんて言われたら一生馬鹿にされる」
「そんなことを言っても、こんなに震えているじゃないか」
固まっているニャメナを抱き寄せて、背中をなでてやる。
「あっ! ……旦那、頼みがあるんだけど……」
彼女が小言で俺に話すのだが、恥ずかしいのかもしれない。
「もっと、ぎゅっとしてほしい……」
「お? こうか?」
ニャメナの身体を力を入れて抱きしめる。
抱くというか――サバ折りに近い。
普通の女なら悲鳴を上げるところだろうが、獣人の身体は鋼のように強靭だ。
「よし! 旦那、大丈夫だ!」
彼女が俺から離れると、自分の頬をバシバシと叩く。
気合を入れているらしいが、さっきと違い活力を取り戻したように思える。
「ほら、ミャレーも来い」
いつものように軽口を叩くと思ったのだが、黙って俺になでられている。
彼女は普段と変わらないように見えたのだが――俺の目の前にある大きな目が尋常ではない。
彼女もかなりのプレッシャーを感じているようだ。
「おい、ミャレー大丈夫か?」
「大丈夫にゃ」
「本当か?」
「大丈夫にゃ」
どうにも心配なのだが、獣人たちが前に行くと聞かないので、いつもの布陣でいく。
皆で電車ゴッコのように繋がり、下りの階段を降りる。
黒い通路の両側には、罠などを組み込むための十分なスペースがあり、罠がある可能性は高い。
LEDヘッドライトを頭に装着した獣人たちを先頭にして列を作り、両側に盾を持って階段へと足を踏み出す。
おそるおそる進むが反応はない。
「何もないみたいだね」
下に隠れているアネモネが俺のほうを見上げる。
そのまま進むと――なにか見えてきた。
太くて黒い縦の線。
「な、なんにゃ?」「こりゃ――鉄格子?」
真っ先に獣人たちが取り付いた。
「は~」
俺も駆け寄り、黒い鉄格子らしきものを握るが――扉らしきものはなく、太い鉄の棒だけ。
何本か横棒も入っており、上下左右がガッチリと構造材に固定されている。
手で叩いてみても、びくともしない。
俺はアイテムBOXから、LEDライトを取り出して階段に置いた。
「うにゃ!」「おりゃ!」
獣人たちが蹴りを入れているが、まったく効き目がない。
「これって、扉もないのにどうやって入るんだ?」
アキラも鉄格子をバシバシと手で叩いている。
「基本的に出入りしないのか、それともどこかに抜け道があるのか?」
「でも、ケンイチ。こんなのクリアするのは簡単だぜ?」
「壊すのか?」
「ああ、横か下をケンイチの重機でぶち壊せばいい」
「鉄格子じゃなくて脇をやるのか」
「そうそう」
小型のユ○ボなら、この通路にもギリ出せると思うが――それは最後の手段だな。
「壊さなくても、鉄格子1本切れば通り抜けできるだろ?」
「まぁ、確かに」
俺はアイテムBOXから、発電機とプラズマカッターを取り出した。
おっと、こいつにはコンプレッサーも必要か。
「プラズマカッターか?」
「これなら1本ぐらい切れるだろ?」
機械を接続して、発電機とコンプレッサーを回す。
けたたましい音が通路の中に響く。
「う、うるさいにゃ!」「うるせぇ!」
獣人たちが耳を閉じるが、構わずデカいクリップを鉄格子に挟んだ。
プラズマカッターとはいうが、原理はアーク溶接機と変わらない。
電線をショートさせるとまばゆい閃光と火花を出すが、その熱を使って部材を溶かして溶接したり切断をする。
俺はカッターを鉄格子に近づけた。
「あれ?」
アークが飛ばない。
うんともすんともいわない。
「ケンイチ、どうした?」
「これって鉄じゃないのか?」
電気が流れる部材じゃないと、こいつは使えない。
シャングリ・ラでテスターを買う。
普通は電流や電圧を測る機械だが、導通も測れる。
端子を当ててみるが――反応なし。
「鉄じゃないみたいだな」
アキラのつぶやきを聞きながら、シャングリ・ラでディスクグラインダーと、ダイヤモンドカッターを買う。
どうせ、ここでしか使わないと思うから一番安いやつでいい。
ディスクグラインダーとダイヤモンドカッターで5000円だ。
発電機につないでスイッチを入れると、ディスクカッターがすごい勢いで回りだす。
手でしっかりと持って、黒い鉄格子に近づける。
いや、鉄じゃないから鉄格子ではないのだが……。
刃が当たると、凄まじい火花が飛び散り、ディスクが真っ赤に加熱した。
「ふぎゃ!」「うおっ!」
大量の火花を見た獣人たちが、飛び上がる。
「すごい!」
「凄まじい火花じゃのう!」
アネモネとアマランサスも驚くが、俺のほうは手応えがない。
ディスクを離してみても、黒い棒には傷一つついておらず、火花はディスクカッターが減ったものだった。
「なんじゃこりゃ?」
「もしかしてアダマンタイトか?」
アキラのつぶやきに、俺も合点がいった。
「あ~」
俺がなにか口に出そうとした瞬間、獣人たちが騒ぎ始めた。
「旦那! なんか来るぜ!」「ふぎゃー!」
珍しく、彼女たちがバタバタしている。
とりあえず道具をそのままにして、階段を上がろうとすると――。
オレンジ色だった通路の出口が真っ黒になる。
「「「グワァァ!」」」
ルビーのような6つの光る何かが向かってきて、黒い格子に衝突した。
生臭さと酷い獣のにおいが、通路に充満する。
黒い巨体に巨大な3つの口が開き――赤い腔内には、なにものでも噛み砕きそうな白い歯がLEDの光に輝いて見える。
「ぎゃぁぁ!」「ふぎゃー!」
獣人たちが、全身の毛を立てて1mは飛び上がった。
格子に衝突したのは、俺たちの車の倍ほどの大きさ。
真っ黒なので、全体の形はよく解らないが――巨大な犬のような身体に3つの頭が見える。
鋭い爪を立てて格子をガリガリとやり、牙をむき出して齧りつこうとしている。
黒い格子が本当にアダマンタイトだとすれば、こんな攻撃では破壊できないだろう。
「なんだ?! これってケルベロス?!」
あまりのできごとに俺は腰を抜かして、階段に尻もちをついた。
「マジでそんな感じに見えるが……」
アキラの台詞からも、初めて見たようだ。
「聖騎士様は、あの魔物を知っておるのかぇ?」
「まぁな」
アマランサスが剣を出して構えた。
いくら彼女でも、こいつに敵うとは思えん。
「ふはは! 相手が生き物なら俺の出番だぜ!」
アキラが大口を開けて歯をむき出しにしている、ケルベロスに近づいた。
「喰らえ! マヨパワー全開!」
彼が指から出したマヨネーズを噴射すると、大量の黄色いウネウネが黒い獣を襲う。
「ゲハッ!」
アキラの必殺攻撃だが、少し入ったところですぐに口を閉じられてしまう。
それどころか、未知の力に警戒したのか、少々距離を置かれてしまった。
「畜生! 分離!」
アキラの掛け声で、大量の黄色のウネウネが油に変わる。
「アネモネちゃん! ファイヤーボール!」
「うん! むー! 憤怒の炎!」
「ちょっと待てぇ!」
俺が止める前に、ファイヤーボールが発射されてしまった。
オレンジ色の火の玉が黒い格子を擦り抜けて、漆黒の巨体に衝突。
巨大な火柱になった。
「全力退避! 上まで駆け上がれ!」
俺はアネモネを持って、階段を駆け上がった。
慌てて上の階まで駆け上がりひっくり返ると、通路から火柱が噴き出す。
ぐるりと見渡すと、みんな無事のようだ。
「煙突効果で危ないって言ったばかりだろ!」
「悪い悪い」
「ごめんなさい」
俺に叱られたアネモネがしょんぼりしている。
「今のはアネモネは悪くないな。全部アキラが悪い」
「フヒヒ、サーセン」
彼は修羅場をくぐっているから平気だろうが、こっちは素人に毛が生えたようなものだからな。
とりあえず炎が収まるのを待つ。
「やったかにゃ?」
ミャレーそれはフラグだな。
「多分、致命傷にはなってないと思うが……」
「くそぉ、あんな化け物見たことがないぜ……」
ニャメナはまだ全身の毛が逆立っている。
皆の反応を見ていると、この世界でも見かけない魔物らしい。
アマランサスも知らないようだったし、お城にある魔物図鑑とかそういう類の本にも載っていないのかもしれない。
あの破壊不可能な格子のおかげで足止めを食らったが、逆にいえばこっちは安全ということだ。
とりあえず、喉がカラカラになったので飲み物を出す――少々悩んだがポカリにしよう。
「はぁはぁ……」
喉の中がへばりつくような感じだ。
「ふ~っふ~っ」「ふ~!」
隣を見ると、獣人2人が毛を逆立てて大きく肩で息をしている。
こんな2人は初めて見る。
「2人とも大丈夫か?」
彼女たちにもポカリをやった。
「大丈夫、大丈夫だよ、旦那」「大丈夫にゃ」
どうもそんな感じに見えないんだがなぁ。
まぁ、とりあえず落ち着くまで1服することにした。
「ケンイチ、どうする? 拘束の魔法が使えりゃいいんだが……」
「その魔法知らない……」
アキラによると、魔物を拘束してその間に口にマヨネーズを入れるらしい。
「けど、口が3つもあるぞ? 拘束の時間が間に合うのか?」
「そ、そうなんだよなぁ」
そういえば、ソバナの魔導師が使っていたな。
大型の魔物だと数秒しか止められないと言っていた。
一つの頭を潰すのが精一杯だし、さっきの攻撃が失敗したことで、こちらを警戒するかもしれない。
「う、う~ん……警戒されると、爆発物もちょっと無理になるな……」
「離れた場所に仕掛けて、地雷みたいにするのは?」
「遠隔操作のユニットも作れると思うから、できないこともないと思うが……」
「そうか、これから作るのか……」
「手持ちはタイマー爆弾だけだからな。それに頭が3つだと1発で死なないかもしれない」
「その頭が3つってのが面倒だよなぁ――3つの頭に同時に爆弾を……って無理か?」
通路で戦闘となると、頭が通路いっぱいに広がりそこしか狙えない。
「聖騎士様、進言させてもらってもよろしいかぇ?」
「なんだいアマランサス」
「あまりに困難な敵なら、撤退も考えるべきなのではないのかぇ?」
「まぁ、君の言うとおりだ……あ、そうだ!」
俺は安全な方法をひらめいた。
「なんだケンイチ?」
「安全な方法といえば毒があるじゃないか。外にいたヒポグリフもそれで倒したし」
「なるほど――毒なら見てればいいってわけかい旦那」「そうだにゃ」
獣人たちも落ち着いてきたようだ。
「まぁ、バカ正直に正面から戦う必要なんてないしな」
「ケンイチ、あの格子はどうするの?」
アネモネの疑問ももっともだが、それもいい手を思いついた。
早速準備を始めると、シャングリ・ラでまた肉を20kgほど買う。
犬の化け物なら肉が大好きだろうし、カリカリのドックフードも買ってみるか。
あまり安物だと食わないかもしれないので、少々高めのものを買う――20kgで8000円ほど。
最後に今回の作戦の肝となるものを買う。
450gで1000円だ。4.5kg分購入したので、1万円也。
「ポチッとな」
肉とドッグフード、そして決め手のものが落ちてきた。
パウチの袋に入っているものが10個。
「なんだこりゃ? キシリトール?」
「ああ、犬ってのはキシリトールが禁忌だろ?」
「そういえば聞いたことがあるな。重篤な低血糖を起こすとかなんとか……」
「そうだ」
話している間に、獣人たちが生肉をつまみ食いしている。
食欲があるってことは平気なのか。
「旦那、なんだい、その――もぐもぐ袋は?」
「食うか喋るかどっちかにせんかぇ」
あまりに行儀が悪かったのだろう。
アマランサスからクレームが入った。
「甘い毒だ」
「またかい!?」「またにゃ!?」
獣人たちが露骨に嫌そうな顔をする。
普通の毒ならいいのだろうが、甘い毒ってのが理解不可能なのだろう。
パウチに入った袋の封を切る。
「なんかすごい甘い香りがするんだけど?」「そうだにゃ~」
獣人たちが目をキラキラさせて舐めたそうな顔をしている。
袋の中にアキラが指を突っ込んだ。
「ん? 甘いな!」
「ア、アキラの旦那大丈夫かい?!」「ふぎゃー!」
「まぁ、俺は大丈夫だ」
「おい、アキラ。皆が真似をするから止めてくれ」
「悪い。でも獣人にキシリトールは大丈夫じゃね?」
「いや、万が一があったら困るだろ? 低血糖だと回復の魔法で治らん可能性もあるし」
「魔法で血中糖分が増えるとも思えんからな」
「俺もそう思う」
もし魔法で血糖値が増えるなら食事をしなくてもいいことになるが、そんな話は聞いたことがない。
肉とドッグフードにキシリトールを混ぜ込む。
なんか卑怯くさい作戦ばかりのような気がするが、あんな化け物とバカ正直に真正面から戦う必要はない。
俺の作業を、食べたそうに獣人たちが眺めている。
しょうがない――俺は、アイテムBOXからチュ○ルを取り出した。
「ほい、こっちを舐めていろ」
「やったにゃ! 美味いやつにゃ!」「これこれ!」
美味いものを口にしていれば、毒を口に入れたいとは思わないだろう。
混ぜ込んだものをプラケースに突っ込んで、アイテムBOXに収納する。
アイテムBOXがあれば、オレ1人でなんとかなる。
俺は階段を降り始めた。
「旦那、どうするんだよ!」「ケンイチ、なにするにゃ」
「お前ら、そこにいろ。肉を置いてくるだけだからな」
通路に入ると、さっき置き忘れたLEDライトが光っていた。
そこまで行くと、黒い格子の前に立った。
「収納」
なんのことはない。
アダマンタイトだろうがなんだろうが、アイテムBOXに入れればいい。
黒い格子は俺の前から姿を消した。
今度は通路を塞ぐときが大変だと思うが、ちゃんとその方法も考えてある。
そのまま階段をそっと降りると、オレンジ色に染まっている階下まで行く。
頭を出して見つかるとヤバいので、アイテムBOXから鏡を取り出して、左右を確認した。
これなら頭を出す必要がない。
背の高い石造りの廊下が左右に延びており、等間隔で明かりが灯っていて明るい。
多分魔法の光だと思うのだが、今まで俺が見てきた魔法の光は青白いもの。
普通の魔法の光と、ここに灯っているものは違い、白熱電球のような色を発して廊下を照らす。
何もいないのを確認して廊下に出ると、アイテムBOXからさっきの肉を取り出した。
ビクビクしながら通路の真ん中に肉を設置していると、一番奥の左側に黒い影が見えた。
「え?!」
巨大な黒い魔物が姿を現すと、まっすぐにこちらに向かってくる。
「キター!」
クソ、やっぱりピンピンしているじゃねぇか。
俺は慌てて階段に戻ると、坂の中間で叫んだ。
「ダンプ召喚!」
以前使っていた中古のダンプが召喚されると、鉄板がひしゃげるような音を立てる。
そのまま階段をずり落ち引っかかって止まった。
ダンプは傷だらけになってしまったが、こんなのは動けばいい。
車検のない異世界なら、壊れても使えるしな。
ダンプの向こうで魔物が吠えているのが聞こえるが、さすがに鉄のダンプを破壊してこちらまでやってくる様子はない。
あとは毒入りの餌を食ってくれるかどうかだ。





