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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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229話 電車ゴッコ


 俺たちは、台地の上を流れる川を辿り湖を発見した。

 そこに巣食っていたヒポグリフという魔物を、毒殺という手段で撃破。

 ちょっと卑怯か? ――いいのだ、俺は英雄や勇者ではない。

 楽して倒せるのに無理に戦う必要はないのだ。

 スケルトンだって、アイテムBOXに入れるという手段で倒したではないか。

 それに見ているものはいないのだから、艱難辛苦の果てに凶悪な魔物を倒したと言っても、それが正史になる。

 歴史ってのは勝った者が作れるのだ。


 魔物を倒した俺たちは湖の中心になる中の島に上陸した。

 緑に埋もれた石造りの遺跡。

 獣人たちはお城だと言っていたが、お城っぽくはない。

 遺跡の所々には白い鳥が巣を作っており、繁殖地になっているようだ。


「ケンイチ! どうするにゃ?!」

「まずは、空から全体像を見てみよう」

 俺はアイテムBOXから新しいドローンを取り出した。

 今まで使っていたものは、ヒポグリフによって破壊されてしまったのだ。

 自分の縄張りを荒らす生き物だと思ったのだろう。

 完全に破壊されてしまったので、もう使用不可能だ。

 2号機を空に飛ばす。


「うひゃー! やっぱり旦那の召喚獣はすごいぜ!」

「たかーい!」

 同じクワッドコプタータイプで、限界高度は100m。

 多分電波法かなにかの法律で出力が決まっているせいだと思われる。

 中を開けて改造すれば、もっと飛距離を延ばせるかもしれないが……。

 まぁ、いまのところ、これで困ってはいない。

 飛んでいる様子は、コントローラーについている液晶画面で見ることができる。


 映し出された映像は、直径30mぐらいの穴が開いており、深さは50mぐらいだろうか――。

 下になにかガラス製のドームらしきものがあるように見えるが、そこまでドローンを降ろすのは難しそうだ。

 もっと近づいてからのほうがいいだろう。

 穴の岩肌に沿って建物が造られているが、人工物があるのは俺たちのいる側だけらしい。

 反対側は岩肌のまま、それが下まで繋がっている。

 穴は真円に近く、どう見ても人工的に開けられた穴だ。


「ケンイチ! 見せて見せて!」

「アネモネ、ちょっと待ってな。皆にも見えるようにしたほうがいいだろう」

 ドローンを呼び戻すと、アイテムBOXからノートパソコンを取り出した。

 今の映像は、コントローラーのSDカードに記録されている。

 そいつを取り出してノートパソコンに入れれば、皆で映像を見ることができる。


「あ、絵が出た! すごい!」

「うにゃー! 鳥から見るとこんな景色なのきゃ?」「すげー穴だな! どうやって掘ったんだ?」

「ぱっと見、なにかの実験施設みたいな感じだが……」

 アキラの言葉だが、俺の第一印象もそんな感じだった。


「これほどの建築物を造るとなると費用と人手はいかほどだろうのう……」

 やっぱり為政者のアマランサスはそこらへんが気になるか。


「アマランサスの言うとおり――これだけの建築物を造るためには膨大な費用と人手が必要だ。それだけの大工事が行われれば王国が気づかないはずがないが……」

「それでは聖騎士さま、これは先史時代のものなのかぇ?」

「解らん――そこまで古いようにも見えないがなぁ……」

 さて、見れば入り口らしきものもあるが――罠がある可能性もある。

 準備をしよう。

 まずは安全帯だな。

 シャングリ・ラで安全帯を購入するが、安物で役に立たないと困る。

 それなりのものを購入することにした。1本9000円が6本。

 それにつなぐハーネスが1本4000円。こいつは5本。


「皆、これを巻いてくれ」

「旦那、これは?」

「落とし穴除けだ。皆で繋がってれば、1人落ちそうになっても平気だろ?」

「な~る」「トラ公は、そんなことも解らないのきゃ?」

「うるせぇ!」

「先頭は獣人たちに任せたいが……」

「ウチらのほうが反応が早いにゃ!」

「俺もそう思うんだよ、悪いけど頼む」

「任せてくれよ、旦那!」

「ここを調べ終わったら、ブラシをかけまくってやるからな」

 俺の言葉を聞いたニャメナが、尻尾を立てている。


「なに今からさかってるにゃ?」「盛ってねぇよ!」

「アキラ――あとは罠っていったらどんな感じだ?」

「そうだな、よくあるのが矢が飛んでくるやつだな」

「なるほど」

 壁から仕掛けられた矢が飛んでくる――ありがちだな。

 それらの対策するために、アイテムBOXからポリカーボネート製の透明な盾を取り出した。


「前に使った透明な盾にゃ!」「確かに、これなら矢は通さねぇぜ」

 皆と罠について話していると、元世界のゲームを思い出した。

 なんか侵入者に罠を連続で当てて倒すゲームがあったな。


「あと、丸い石のゴロゴロとか?」

「ははは、ゲームや映画だと定番だが、そういう罠には出会ったことがないぞ?」

 この手の探索もしたことがあるアキラでも、丸い巨石のゴロゴロには遭遇してないらしい。


「もしかして、作るのが大変なんだろうか?」

「多分な」

「高いところに持ち上げるのも大変だしなぁ」

「罠が発動するたびに、それをしなければならんし」

 一応、獣人たちにも聞いてみる。


「石が転がってくるとか聞いたことがないぜ?」「攻城戦で石を落とす話は聞いたにゃ」

「それとはちょっと違うんだがなぁ」

 どうも丸い石のゴロゴロは、俺たちの世界独特の文化らしい。

 まぁないならないで越したことはない。

 そんな罠じゃ、ポリカの盾じゃ防げないし。

 アネモネの聖なる盾(プロテクション)の魔法ならなんとかなるかな?


 準備ができたので、石でできた入り口らしき場所から入る。

 扉はなくてただの通路だが、ベルたちが入らない。


「ベル、一緒に行かないのか?」

「にゃー」

「ええ? 解った」

「ベル姉さんはなんだって?」

 アキラが通訳を求めてくる。


「この島の外周を探索してから行くってさ」

「はは、そっちが気になるのか」

 ベルとカゲに別れを告げて中に入ると、巨大な円形の縦穴に埋め込まれた石造りの建物の中。

 正面は吹き抜けており、そのまま縦穴に落ちてしまう構造だ。

 柵などもなく、建物を支えている太く四角い柱以外はなにもない。

 左右を見れば――幅が5mほどの廊下も縦穴に沿って作られており、円弧を描いている。


「おお~すげー!」「すごいにゃ!」

「おい、危ないぞ」

 獣人たちが際まで行って、下を見下ろしている。

 これじゃ安全対策の意味がない。

 とりあえず、そこまでは安全らしいので俺たちも向かう。

 下を覗くと――びゅうびゅうと風が吹き抜け、下まで50mほどの巨大な縦穴が開いている。


「こりゃまたすげーな!」

 アキラが叫んだ。


「すごい!」

「なんともみごとじゃのう」

「これ、絶対に観光地になるのになぁ」

「ははは、この世界にゃそういう概念がないからな」

「帝国でもないのか?」

「まぁ、貴族なら別荘ぐらいはあるがな」

 アマランサスに聞いても、景色を見たりするために旅行をすることはないらしい。

 この世界の人間が旅行をするとなると、商売かなにか目的があって、その地に向かうということだ。

 俺はアイテムBOXからドローンを出して再び飛ばした。

 空中から俺たちのいる場所を見ると、下にもずっと階下が続いているようだ。

 続いてドローンを降下させる。

 やはり、ガラスで覆われたドームのようなものがある。

 温室かなにかだろうか?

 知られていない未知の植物園とか?


 吹き抜ける風の音だけではない。

 俺の気のせいかもしれないが、なにか低周波の音か振動のようなものが聞こえるような気がする。


「なんか、ゴー! っていう地響きのような音がしないか?」

「するにゃ!」「するぜ旦那。これは滝の音だと思うが……」

 獣人たちが耳をクルクルと回している。


「滝?」

 ここは地上から10m――いや、川が流れているってことはサクラのほうが低くなっているはずだから、この湖はもっと高い位置にあるのか。

 下まで50mってことは、あそこが本来の地上の位置なのかもしれない。

 岩盤の中に滝があって、湖の水が直接流れ落ちている場所があってもおかしくはない。


「ケンイチ、あそこがゴールなら、ここから降りれば一直線だけどな」

「途中も調べたいんだが……その前に50mもロッククライミングしたくないぞ」

「はは、冗談だよ。ゲームみたいにショートカット見つけてボスを倒せば終了ってわけじゃないからな」

「下に階が続いているってことは、落とし穴の心配はないか……」

「そうだな。もし穴が開いたとしても数メートルだ」

「だが、1メートルは一命取るだぞ?」


 念の為に、安全帯をつけることにして、電車ゴッコのようにハーネスで皆を連結する。

 当初の予定どおりに先頭は獣人たちである。

 罠を感知するために1.5mほどの鉄の棒をもたせた。

 本来は、ロープを固定するもののようで、先端が輪になっている。


 そして壁側にはポリカーボネートの透明な盾。

 もちろん矢除けである。

 アネモネは盾を持って歩けないので、俺にくっついている。


 最初は通路を左に曲がって進む。


「盾は壁側にな!」

「旦那、なんで壁側ばかり注意するのさ」

 ニャメナのつぶやきにすぐにミャレーが反応した。


「トラ公はホントにアホだにゃ! そっち側には空が見えているのに罠なんかあるはずないにゃ」

「そ――! うるせぇ! ちょっと勘違いしただけだ!」

 彼女はミャレーにそう言われて、そのとおりだと思ったのに違いない。

 獣人たちが、ゴツゴツと鉄の棒で床を叩きながら歩く。

 今のところ問題はない。


「ケンイチ、部屋があるにゃ」

「入ってみるか」

 ミャレーが盾を構えて部屋に入った途端――短い矢が飛んできて透明な盾に命中した。

 彼女が耳を伏せている。


「お、やっぱり罠があるのか」

「旦那、罠が生きてるぜ」

「準備しておいてよかったな」

 ホッとしたのだが部屋の中は空。

 空部屋なのに罠だけあるのかよ。

 部屋を出て左にずっと進むと、行き止まりになった。

 完全な石の壁で、その向こうは岩盤。なにもなさそうだ。


「ケンイチ、ケンイチの重機で床を壊して下に降りねぇ?」

 アキラが早速探検に飽きたのか、そんなことを言う。


「まてまて、使えるならあとで使いたいんだけど――こんな立派な施設なら、秘密基地にしたら素敵じゃん?」

「う? う~ん、気持ちは解る。それじゃ――」

 アキラからの提案は車を使うこと。

 SUV車に乗れば、人が落ちるような落とし穴に落ちないし、盾をくくりつければ矢も防げるだろうと言う。

 その前に車を出して床が抜けないだろうな?

 まぁ、これだけの石材を使っていて2tぐらいはどうってことはないとは思うが……。


 とりあえず車を出すと様子を見る――大丈夫だ。

 そのあと皆に手伝ってもらい、透明な盾を右側面に並べて固定してもらった。

 ちなみに固定はダクトテープを使う。


「キター! アメリア人の正義! ダクトテープ!」

 アキラが灰色のダクトテープを張りながら喜んでいる。


「ケンイチ、右側だけでいいの?」

「反対に進むときは、後ろ向きに進めばいい」

「バックで進んで落ちるなよ、ははは」

「そこまで運転が下手じゃないぞ」

 まぁ、矢なら車のボディは貫通しないと思うのだが、盾は念の為。

 これ以上傷もつけたくないしな。

 取り付けることはできたのだが、ドアの開け閉めが少々面倒。

 まぁ、歩くよりは速いか。


「よ~し、皆乗れ~」

「「「お~っ!」」」

 乗員は6人なので余裕だ。助手席にはアネモネが乗っている。

 後ろにはアキラとアマランサス。3列目シートはいつもの獣人たち。

 車で廊下をそろそろと走る。

 別に問題はないらしいようだが、俺が気にしすぎなのだろうか?

 少々心配しすぎの感はあるのだが、部屋の罠は生きていたしなぁ……。


 そのまま車が進むと行き止まりで、右側に部屋、左側に下に行く階段がある。


「ケンイチ、あそこの部屋を見てくるにゃ」

「頼むから2人で行ってくれよ」

「解ったにゃ」

 このラ○クル、リアゲートを後ろから開けられるように改造がされている。

 中古なので、前のオーナーが改造したものだろう。

 まさか異世界で獣人たちに使われるなんて夢にも思わないだろうが。

 獣人たちは、ダクトテープで車の側面に貼り付けられた透明な盾を引っ剥がすと、2人で部屋に向かう。

 ミャレーが先頭で部屋を覗いたのだが――。


「みゃ!」

「どうした?!」

「また、矢が飛んできたにゃ!」

「やっぱり、罠は生きているのか――廊下にもあるかもしれんから注意しないとな」

 彼女たちを待っていると部屋の所で騒いでいる。


「お~い、なにかあったか?」

「なにもないけど、下から棘が出てくる罠があったにゃ!」

「あ~、そういうのもあるよなぁ」

 獣人たちが戻ってくると、盾を張り直した。

 下に向かう階段があるので、俺たちも車から降りる。


「でも旦那。下から棘が出てくる罠は床に穴が開いているから、暗い所以外は大丈夫だと思うぜ」

「それじゃ、足下が暗い場所だと注意しないとな……」

 元世界で平和に平々凡々と過ごしていれば、こんな人の悪意に晒されることはない。

 これはこれで探検らしくていいのだが、これは遊びやアトラクションではなくてマジだ。

 罠にかかれば大怪我から致命傷までありえる。


「下に降りるか……」

 一応、マッピングもする。


「ケンイチ、私にやらせて!」

「それじゃ頼む」

 マッピングはアネモネに頼んだ。


「廊下に部屋が2つと罠が――あるよっと」

「いつのものか知らんが、まだ動くってのがすごいな」

 アキラの言うとおりだが、動いたり動かなかったりってのも逆に怖い。

 1回目は錆びついて動かなかったのに2回目には罠が稼働したとか――。


 ブツブツ言いながら下に降りる。

 まったく同じ作りなので、再び車を出すとバックで移動した。

 途中の部屋を探してもらうも、なんもなし。

 廊下の端まで行くと、再び下に降りる階段。


「ずっとこの調子かね?」

「そうかもな」

 アキラが物足りなさそうな顔をしている。


「聖騎士様の身に危険が及ばぬようであれば、妾はそれでよいわぇ」

「まぁ、攻略しやすいなら問題はないが……」

「この巨大な施設が聖騎士様のものになりますわぇ」

「うん、それは素直に嬉しいけどな」

 再び車に乗って移動――今度は前進だ。

 少々、冒険と呼ぶには間抜けな感じも否めないが、わざわざ危険を冒すこともない。

 部屋があったので、再び獣人たちに調べてもらう。


「うにゃー!」

 ミャレーとニャメナが慌てて、部屋から出てきた。


「どうした?!」

「スケルトンにゃ!」

「え?!」

 ついに魔物が出たか!

 彼女たちは盾しか持っておらず、武器がない。

 それにスケルトンといえば俺の出番だ。

 俺は運転席から出ると、スケルトンの前に立つ。

 目の前に現れた魔物は、カタカタ動く骨で古びた剣を持っていた。


「収納!」

 生き物ではないスケルトンはアイテムBOXに収納できる。

 そのまま廊下の縁まで行くと、入れたばかりのスケルトンを外に出した。

 空中に現れたスケルトンは、そのまま落下していく。


「うにゃー! バラバラになったにゃ!」「ははは、こいつはいつ見ても笑えるぜ」

 アイテムBOXから双眼鏡を出して下を覗く。

 確かにスケルトンがバラバラになっており、動く気配はない。

 散らばった骨を見て、獣人たちがゲラゲラと笑っている。

 どうやら魔物を高い所から落下させて倒す――という行為が彼女たちのツボを刺激するらしい。


 下にあるガラスの温室らしきものが壊れたかと思ったのだが、大丈夫のようだ。

 ガラスに見えるが、ガラスじゃないのか?

 なにか他の透明素材か?

 それはそれで欲しい。


 ここまで順調だったのだが、壁にぶち当たった。

 文字通りの壁だが――そこに小さな通路があり、岩盤の中に下に向かう階段がある。

 真っ暗なのだが、LEDライトもあるし別に困ることもないだろう。


「は~こう来たか……」

 俺は頭をかいた。


「つ~ことは、向こうの岩盤の中にも、なんらかの施設があるか――ゆっくりと下りつつぐるりと回り込んで階下に繋がっているか……」

 アキラが縦穴の対面にある岩盤を指差した。


「とりあえず、俺たちが入ってみるぜ!」

 名乗りを上げたのはニャメナだ。


「大丈夫か?」

「旦那の透明な盾もあるし、明かりもある! 矢除けもできるって」

「これは、ゴロゴロ転がる岩の予感かもな」

 アキラが不吉なことを言う。


「けど、この通路の幅なら、転がってきても大した石じゃないような……」

「50kgぐらいある玉がぶつかったら結構なダメージがあるぞ?」

 アキラの言うことも一理ある。


 獣人たちが安全帯をハーネスでつないで2人で入ってみるようだ。

 頭にはLEDヘッドライト。両側に透明な盾を持ち、矢の罠に備える。


「ガスが出てもガスマスクもあるし、なんとかなるだろう」

 ――そう思っていたが、獣人たちの叫び声が聞こえてきた。


「ぎゃぁぁ!」「ふぎゃぁぁ!」

「おい、どうした?!」

 慌ててミャレーとニャメナが戻ってきたが、盾が透明な粘液で濡れている。


「なんだこりゃ?!」

 透明な粘液を指で掬ってみると、ヌルヌルと指に絡みつく。


「なにこれ! ヌルヌル!」

「ほう、これは面妖な」


「これってローションみたいだな、ははは」

「俺もそう思ったが……こりゃスライムか?」

「いや、旦那! こいつは触手だよ」「そうだにゃ!」

 彼女たちの話によると、イソギンチャクみたいな生物らしい。

 触手をニョロニョロと伸ばしてきて、獲物を捕獲する。


「刺されるとトンデモなく痛いんだぜ?」「腫れるにゃ!」

「大丈夫か? 刺されなかったか?」

「大丈夫、旦那の盾のおかげさ」

「ふう……そうきたか……」

 そのイソギンチャクがどのぐらいいるかも不明だが、スライムのときに使ったゴム胴長があれば大丈夫だろう。

 スライムも刺胞を持ち、刺してくる生き物だったが、分厚いゴム製のあれには歯が立たなかった。


「アキラ、スライムのときに着たゴム胴長で突破できる」

「ああ、あれか……確かにな」

「私の魔法で倒しながら進むのは?」

 アネモネは魔法を使いたいようだ。


「通路の中にどのぐらいの触手がいるか解らんし、もっと強い敵が出てきたときのために魔法は残しておくべきだろう」

「ふむ、聖騎士様の言うとおりじゃの」

「うん」

「それじゃ、俺の油を流し込んですべて焼き払うってのは?」

 アキラがまた物騒な提案を出してきた。


「いよいよとなったら、それも仕方ないが、アイテムやら本やらがあると困る」

「まぁ、アイテムがある可能性はあるな……」

「その前に、一番下から火を点けないと、手前しか燃えないんじゃね?」

「それもそうだ……」

 彼は実際に油の海に魔物を沈めて焼き殺したことがある人物。

 魔物の殲滅が目的ならそれでもいいが、今は探索をしている最中だ。

 オダマキのダンジョンにあったような超常のアイテムがあったりすると困る。

 元世界の科学でも再現できないようなチートアイテムがあるなら是非手に入れたい。


「旦那、本当にその穴の中に突っ込むのかい?」

 ニャメナは、イソギンチャクが嫌なようだ。


「他に手がないだろう」

「下に降りちゃだめかい?」

「下?」

 どうやら、ロープなどで下の階に降りてショートカットを狙っているようだ。


「う~ん? 獣人たちは身軽だから大丈夫だろうけど」

「私も大丈夫だよ!」

 アネモネはそう言うのだが、ロープで下まで降りられるか?


「う~ん……そうだ!」

 俺はシャングリ・ラを検索した。探すのは縄ハシゴである。

 8mほどのものが2万6千円で売っている。


「ポチッとな」

 ガチャと黄色い縄ハシゴが落ちてきた。


「縄ハシゴか――でもケンイチ、こいつを引っ掛けるところがないぞ?」

 この手の縄ハシゴは、ベランダの手すりなどに引っ掛けるようになっているのだが、ここにはそんなものがない。


「縄でできたハシゴにゃー!」

 獣人たちが伸ばして遊んだりしているが、俺はシャングリ・ラから鉄筋を2本購入した。

 そいつを壁に開いた空き部屋に入れると、入り口の部分で横にして固定する。

 ここに縄ハシゴを固定するとハシゴの長さが足りないので、こいつにロープを結んでひっぱっていく。

 ロープの先に横にした鉄筋を結び、ここに縄ハシゴを引っ掛ければいい。

 ハシゴの先端は、カラビナフック状になっているので、ガチャンと固定できる。

 ハシゴの後端を空中に放り投げて下に垂らすと準備完了だ。


「旦那、下まで届いているぜ」

「これなら、私でも降りられる!」

「まぁ待て待て、アネモネ。まずは偵察だ。皆で行ってなにかあっても、このハシゴじゃ逃げるに逃げられない」

「うにゃー! 任せるにゃ」「俺たちの出番だぜ!」

 獣人たちは活躍できる場面が多くて、張り切っているようだ。

 ミャレーとニャメナが、背中に透明な盾をくくり着けると、縄ハシゴを降りていく。

 さすがに身が軽く、ひょいひょいと軽業師のよう。


「うにゃー! にゃはは!」

「こらぁクロ助! わざと揺らすんじゃねぇ!」

「こら! 無茶するな!」

 彼女たちの無茶っぷりに、たまらず注意した。

 まさか、このぐらいでロープは切れないと思うが、こっちが見ててハラハラするわ。

 心臓に悪い。


 ここから覗き込んでも下は見えない。

 ドローンを出すか迷っていると、叫び声が聞こえてきた。


「ふぎゃー!」

 これはミャレーの声だ。


「どうした!?」

 下に降りるべきか、ドローンを出して確認すべきか?

 俺は判断に迷った。

 

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