222話 発想の逆転
俺の女性関係で不機嫌なプリムラのために洗濯機を作ってみた。
まだわだかまりはあるようだが、彼女は早速洗濯機をマロウ商会に運んだ。
商会で研究をしながら、生産コストや需要を踏まえて、商売になるか吟味するためである。
実際に使ってみて、改善できるところはしなくてはならないし。
エネルギー源に高価な魔石を使うことも心配な点である。
そのためにも、スライムと毒の花の芋を使った魔石生産工場を作り、安価な魔石とコアモーターの普及をさせたいのだが――実現は少々先になる。
この2つは、かなり危険な代物で、外に漏れたりすれば大変なことになる。
特に毒の花は、都市が壊滅するほどの被害をもたらす。
大々的に毒の花の栽培などをすれば、近隣から非難の声が上がるだろう。
他の領が同じことをすれば、俺だって非難の声明を出す。
サクラやアストランティアが巻き込まれたら、取り返しのつかないことになるわけだし。
色々と勘案して、ひとまず魔石生産は保留だな。
洗濯機を手動式にするという手もあるが――。
メイドたちの反応をみても、放置していれば洗濯が終わっていて、その時間で他のことができる――ということが大事なのだ。
一応、洗濯機と一緒に樽の本体を回すドラム式の洗濯機のイラストも持たせてみた。
この世界で洗濯機が広まるかどうかは、まだ解らない。
うちのメイドの反応を見れば、需要はあると思うのだが……。
そのメイドたちにせがまれて、追加で3台の樽洗濯機を作った。
以前なら、シャングリ・ラから電気洗濯機を買って発電機につないでいたところなのだが、領の未来を考えれば、なるべくこの世界のテクノロジーで再現できるもので運営しなければならない。
大きな木製のテーブルを置いて、そこに3台のローラー式脱水機も取り付けた。
脱水機はシャングリ・ラで購入したものだが、ローラーをハンドルで回すだけなので、この世界でも実現可能だろう。
洗濯機は洗い場に設置した。
いつもメイドたちが洗濯をしている場所で、ここから出た排水は水石によって浄化されて下水へ流れる。
洗い場には井戸がありガチャポンプが設置されていたが、洗濯機に入れやすいように1mほど高い位置に設置し直し、塩ビ管による分水栓を設けた。
これで洗濯がはかどるだろう。
試作2号機なので、一番下に水抜きの栓を追加し改良も加えた。
洗濯機の設置ついでに、周りに街灯も設置。
離と同じように丸太の台座を置いて、その上にプラ製の街灯を立てたものだ。
上部には太陽電池がついており、暗くなると自動的に光る仕組み。
まぁこれは売りものじゃないので、シャングリ・ラで購入したものでもいいだろう。
「「「ケンイチ様、ありがとうございます~」」」
メイドたちが揃って礼をしていると、リリスとエルフがやってきた。
2人で洗濯機を覗き込んでいる。
「これが洗濯をするカラクリかぇ?」「へぇ~変なのぉ」
「王族にも、魔法を使うエルフにも縁のない代物だろ?」
「そうだのう……これを売り出そうというのかぇ?」
「こいつはコアモーターと魔石を使うからなぁ。どちらも潤沢に手に入るとは言い難いし……」
「少し高価でも、王侯貴族や商人の裏方として需要があると思いますよ」
その裏方である、メイド長のマイレンが見解を示してくれた。
「大きいお屋敷では、洗濯物が大量に出ますから、毎日が格闘ですよ」
「それが少しでも楽になるとなれば、買うやつもいるか」
「はい」
「でも、実際に金を出すのはメイドや裏方じゃなくて、偉い人だからなぁ」
「現場に疎い偉い人も多いからねぇ」
俺の話にエルフが苦笑いしている。
「妾も、ここに来るまでは、洗濯がこんなにおおごとだとは思わなんだ」
「王族が洗濯の現場になんてやってこないし」
「うむ――じゃが、裏方を見ることも大事だと悟ったぞ」
リリスと話していると、ドワーフの親方がやってきた。
「ケンイチ様――げ! エルフ!」
「ぎゃ! ドワーフ!」
双方が睨み合って固まる。
「待て待て、喧嘩するなよ」
「「ふん」」
2人同時にそっぽを向いた。
「親方、用があるのかい?」
「お! そうだ、エルフなんかどうでもいい」
ドワーフは、俺がなにか作っていると聞きつけてやってきたようだ。
「これが洗濯をする魔道具か……」
ドワーフが、早速使われている洗濯機を覗き込んでいる。
「下にあるコアモーターと羽で水流を起こしているんだ」
ドワーフたちにはコアモーターの説明はしているので、仕組みは知っている。
「水流を起こす意味は?」
「洗濯のときに布をこすり合わせるだろう? 水流を起こすことによって、布をすり合わせているのさ」
「ほう、理にかなってるな……」
「すすぎのときも、水流ですすぎがしやすい」
「なるほどねぇ」
「ドワーフたちも魔法を使えるんだから、洗濯機は必要ないだろ?」
「まぁな。しかし、こいつはおもしれぇ……」
ドワーフがぐるぐると回る水流を眺めている。
元世界で売っていた新しい洗濯機は、蓋を閉めないと動かないからな。
昔の洗濯機は、ぐるぐると回る動きが観察できた。
子どもが落ちたりとか危険だから、閉じるのがデフォルトになったのだろうけど。
そこに物陰からやってきた黒い影。
「にゃー」
俺の所にベルがやってきて、脚にスリスリとしたあと、樽の縁に前脚をかけて中を覗き込んでいる。
「あ!」
そして、ピョンと樽の上に飛び乗った。
大きな身体が乗ると、バランスを崩して樽がひっくり返るんじゃないかとハラハラしたが、大丈夫のようだ。
ベルが前脚で、中で回る洗濯ものをチョイチョイとやってる。
どうにも気になるようだ。
完成した洗濯機はメイドたちに使ってもらい、レポートを出してもらう。
それで改善、改良点があれば報告してもらうことになった。
机上であれこれ考えても仕方ない。
実地に勝るものはないのだ。
大分仕事も片付いたな。
相変わらず住宅の供給は間に合っていないが、新しい仕事を聞きつけた流れの職人たちが集まり始めている。
徐々に生産や建築も追いついていくだろう。
元世界でも、ニュータウンなどを作るときはそうだな。
知り合いの建築関係者も、日本全国を飛び回っていた。
作業が終わり夕方になると、アストランティアからヘッドライトを点けた4tトラックがやってきた。
ドアを開けて降りてきたのは、アキラだ。
一緒に乗ってきた只人や獣人の男たちが飛び降りた。
助手席側から降りてきたのは、マロウ商会の手代で、降りた男たちに荷物を運ぶように指示をだしている。
彼のアイテムBOXには、この車は入らないが、マロウ商会の輸送用に貸し出し中。
彼も運送代をもらって小遣い稼ぎをしている。
「オッス!」
「オッスオッス! マロウ商会の荷物を運んできたのか?」
「ああ、この前は王都まで行ってきたぜ」
「燃料は大丈夫だったか?」
「もらっていた燃料も無問題、ははは。でも、少し足りなくなってきたな」
「よっしゃ、新しいのを作るか。それじゃマヨを頼む」
「オッケー!」
「オッケーにゃ!」
どこからともなく、声が聞こえる。
ミャレーだな。耳がいいので反応するようだ。
俺のアイテムBOXから出したデカいプラケースに、マヨネーズを出してもらう。
「おっしゃ、マヨパワー!」
アキラの声とともに指から黄色いニュルニュルが生み出されて、プラケースがいっぱいになる。
このケースは耐油製じゃないが――まぁ、すぐに容器に移しかえるし。
駄目になったら買い換えればいいだろう。
ケースはどうでもいいが、いつ見てもマヨパワーは不思議だ。
なにもない所――つまり無から生み出される大量のマヨネーズ。
理屈は解らんが、出てきたのは間違いなく元世界の黄色い調味料。
さすが異世界。
まぁ、俺のシャングリ・ラやアイテムBOXだって、どういう理屈かなんて解らんしな。
「分離!」
アキラの声で、マヨが分離して茶色の植物油になった。
俗にいう、サラダ油と似たようなものだろう。
こいつを俺が処理して、バイオディーゼル燃料にしているわけだ。
「にゃー!」
走ってきたのは、ミャレーだ。
「アキラ、これ少しもらっていいかにゃ?」
「いいぜ」
アキラが、ミャレーの持っている皿にマヨを少し出す。
「やったにゃ!」
彼女は、喜んで走っていった。
「食うのかな?」
「そうだろうな」
俺の問いに、アキラが短く答える。
「これ、日持ちはどうなんだ?」
「あまり長持ちはしないな――もって1週間、美味いのは3日ぐらいだな」
「あのチューブに入っていたマヨは、偉大だったんだな」
「そうだな、ははは」
彼にも洗濯機を見せた。
「そう、これこれ。マロウ商会に持ち込まれて、あれこれやってたぜ」
「商会の反応はどうだった?」
「女は皆が欲しいって反応だったな」
「やっぱり、女性受けはいいか……」
「たまたま一緒にセンセもいたんだが、欲しがっていたしな」
「ええ? レイランさんなら、魔法があるだろ?」
「基本、家にいるときは研究で忙しいから、そういう家事とかはしたくない人なんだよ。全部、メイドとかに任せているし」
魔法で洗濯することすら、面倒ってことなんだろうか。
「家事をやっているのがメイドなら、洗濯機はあってもいいかもな」
「そうだろ?」
そのあと、アネモネの魔法によるコアモーターの改良で、反転動作が可能になった。
しばらく回ったあと、逆転するようになったのだ。
これで洗濯能力も上昇し、いよいよ洗濯機らしくなったのは間違いない。
懸案であったコアモーターの生産も、魔導師の確保でなんとかなるようだ。
生産性の低さは、ゴーレム魔法を使う魔導師が少ないことが原因だったのだが、それは今までのゴーレムの使われ方に問題があった。
今までのゴーレムといえば人型で、人と同じような動きをするもの――という既成概念のせいで、難易度がかなり高かった。
コアをくるくると回すだけなら、それほど難しくはない。
ゴーレムの起動には国の許可が必要でありハードルも高かったのだが、人型ではないコアモーターなら許可は不要というお墨付きももらった。
マロウ商会によれば、ハードルも下がり金になるならと、開発に協力してくれる魔導師も確保できたらしい。
あとは魔石の問題だけだが、これは今のところ解決方法がないので後回しになる。
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――洗濯機の研究が一段落したある日。
疲れたので、ベッドの上で昼寝中。
1人にしてほしいと、他の子たちも追い出して、まったりしていた。
たまにこういうときがあってもいい。
横を見ると――チェストの上に遊びで作ったコアモーターの模型がある。
模型といっても、実物と同じように魔石で動かすことが可能。
元世界のマ○チモーターみたいなもんだな。
俺はそれを手に取り、ベッドの上で眺めていて――あることを思いついた。
コアモーターは、魔石からのエネルギーを得て回転する。
そのエネルギーはどういうものかは不明だが、回転するのは確かなのだ。
その逆をしたらどうなるだろうか?
元世界のモーターは電気で動き、モーターを手で回すと電気が起きた。
つまり発電機だ。
それと同じようなことを起こせるなら、コアモーターを手で回したり、水車で回したりしたら、魔石に魔力を充填できないだろうか?
「おお! こいつはできたら面白そうだな!」
面白そうなことを発見したら、すぐに実験だ。
俺はすぐメイドを呼んだ。
「お呼びでしょうか、ご主人様」
やって来たのは、薄い金髪を両脇で輪っかにした髪型のメイド。
特徴のある髪型の子は覚えやすい。
あるいは覚えてもらうために、特徴のある髪型にしているのか。
「空の魔石を用意してほしい。小さいやつな」
「ちょうど、空になったものがありますので、持ってきます」
「頼むよ」
空になったものは俺やアネモネが充填をしている。
特に、大型のものは普通の魔導師では充填ができないので、俺がやるしかない。
すぐにメイドが戻ってきたので、彼女から親指先ぐらいの大きさの魔石をもらった。
このぐらいあれば、ランプなどを灯すことができる。
試しに、コアモーターの模型に近づけてみる――動かない。
しっかりと空のようだ。
「あの……ケンイチ様」
「ん? なんだ?」
「見ていただきたいものが……」
「なんだ? いいぞ、見せてくれ」
「はい……」
そう言って、彼女がもじもじしながら自分のスカートをたくしあげた。
ほう……ふむふむ、思ったとおりだ。
いや違う――今はそんなことをしている場合ではない。
「おーい! 誰かいないか?!」
「なんでございましょう、ご主人様」
部屋に入ってきたのはマイレンだったので、スカートを捲っていたメイドが慌てて元に戻した。
「ちょっと仕事があるんで、このメイドを連れていってくれ」
「承知いたしました」
マイレンのメガネが光る。
「ああん! ケンイチ様~」
「メイドが、ご主人さまの仕事の邪魔をするとは、なにごとですか」
メイドがずるずるとマイレンに引きずられて、部屋から出ていった。
メイドはさておき、早速実験だ。
シャングリ・ラを開いて、材料を確保する。
まずは、実験道具を固定する板だな。
次は、12Vのモーター ――こいつは2000円。
モーターの回転を制御するパーツも必要だ。
「ふむふむ――」
モーターコントロールモジュールってのは600円で売っている。
こんなものまで売っているのか……。
こういうものは、昔ならナントカの製作とかいう自作系の雑誌にしか載ってなかったのに。
雑誌の巻末に沢山の自作系のパーツの広告が載っていて、ワクワクしたもんだ。
こいつを買って、あとはモバイルバッテリーに繋げば、モーターは動かせる。
「ご自分で作業なされば40ポンドの節約になります――ほら、簡単でしょ?」
独り言をつぶやきながら、板にコアモーターと普通の電気モーターを固定して、軸をつなげる。
軸同士をつなげる自在継手はゴムチューブを使う。とりあえず簡単でいい。
配線をつないで、モバイルバッテリーをつなぐとモーターが回り始めた。
コントロールモジュールのツマミを回すと、回転を制御可能――ばっちりだ。
電気モーターが回っているので、当然それに繋がっているコアモーターもグルグルと勢いよく回っている。
そこに、空の魔石を近づけた。
俺の予想が正しければ、これで魔石に魔力が充填される――はず。
装置を眺めていると、ドアがノックされた。
「はいよ~、開いてるぞ~」
入ってきたのはマイレンだった。
「申し訳ございません、ケンイチ様」
「さっきのことかい。まぁ、いいよ」
「それで――私もみてもらいたいものが……」
マイレンがもじもじしているので、そのまま追い出した。
「ああん! ケンイチ様ぁ!」
今はそれどころではないのだ。
10分ほど回転させたのち、装置を停止させ魔石を持ち上げた。
これで充填されていたら――俺の勝ちだ!
勝ち負けが関係あるのかって? あるに決まっている。
電気モーターとコアモーターを切り離して、魔石を近づける……。
コアモーターが動き始めた。
「ファイヤー! ジャストミート!」
アキラの癖が感染ったな。
「聖騎士様!?」
俺の叫び声に、あわてて飛び込んできたのはアマランサスだ。
喜んでいたのもつかの間。
コアモーターはすぐに停止してしまった。
「だめか?」
離したり近づけたりしても、コアモーターは動かない。
つまり魔石が空になってしまったのだ。
だが、一瞬動いたのは間違いない。
追試を何回か繰り返した。
「聖騎士様?」
俺の傍らで、ずっとアマランサスが寄り添って見ている。
「悪いな、今は構っていられない」
「構いませぬわぇ」
何回やっても、一瞬だけコアモーターが動いて魔石が空になってしまう。
「う~む……」
「聖騎士様――これは?」
彼女にこいつの原理を説明する。
「魔石から魔力でコアが動くよな?」
「はい」
「逆に、コアを動かすことによって、魔石に魔力を充填しようとしている」
「……え?! そのようなことができるのでございますかぇ?!」
「できる――はず。実際、一瞬コアが動くのだから、充填はされている」
それでないと、この動きは説明できないのだが、すぐに止まってしまう。
「むむむ……」
1人で悩んでいても仕方ない。
ここはプロの意見を聞くべきだろう。
俺は、装置をアイテムBOXに押し込めると、カールドンのコンテナハウスに向かった。
俺のあとを、アマランサスがついてくる。
「お~い、カールドン! いるかい!?」
コンテナハウスのドアを叩く。
サッシ窓にはカーテンがかけられて、中は窺い知れない。
このコンテナにはアルミが多数使われているのだが、彼の研究に影響はないのだろうか?
中から気配がして、ドアが開いた。
「これはケンイチ様。アマランサス様も、どうなさいました?」
顔を出したカールドンは、ゆったりとしたポンチョのような服を着ている。
家にいるときは、こんな恰好なのだろうか?
いや、そんなことはどうでもいい。俺は、アイテムBOXから実験装置を取り出した。
「この実験装置をみてくれ。こいつをどう思う?」
俺は装置を動かしてみせると、彼が興味深そうに覗き込んでいる。
とりあえず、バッテリーなどは俺にしか扱えない魔道具だと事前に説明済み。
その俺たちの様子を、ちょっと離れた場所でアマランサスがじっと見ている。
「そして、空だったはずの魔石をコアモーターに近づけると……」
「おおおおっ! これは?!」
彼もその重要性に気がついたようだ。
「ケンイチ様! これはまさか――コアモーターを動かすことによって、逆に魔石に魔力を充填できると?!」
「そういう動きだと思うんだが、すぐに止まってしまうんだ。思うに、少ししか充填できていないのかもしれない」
「むむむむ……」
彼が腕を組んで、穴があきそうなぐらいに装置を凝視している。
「解り――ました!」
「解った?」
「おそらくは――コアモーターによって充填された魔力で、すぐにコアモーターを回してしまっているのでしょう」
彼の話では、コアモーター→魔石に充填されてすぐに、魔石→コアモーターに魔力が戻ってしまっているということらしい。
「ああ、なるほどなぁ。でも、充填できるのは間違いないのか」
「はい――でも、これはすぐに修正できると思います」
「修正できる? 魔力が逆流しないようにか?」
「はい! すぐにコアの魔法陣を修正いたしますので、1時間ほどお待ちください」
「すまんな、忙しいところ」
「なにをおっしゃいます! ケンイチ様の下に来てからというもの。毎日、どきどきわくわくが止まりませんよ! やはり、ここに来たのは間違いではなかった。まさに天啓!」
彼が大空に向けて両手を広げた。
「それはよかったよ。俺も連れてきた甲斐があったというものだな」
「はい! それではしばらくお待ちを!」
彼が、取り外したコアモーターを持って、コンテナハウスの中に引っ込んだ。
1時間待つしかないな。
俺もすぐに結果を試してみたいし。
コンテナハウスの前に、アイテムBOXからテーブルを出してくつろぐことにした。
「上手くいきそうなのですかぇ?」
「まぁな」
缶コーヒーを飲む。
アマランサスには、フルーツミックスジュースを出してやった。
「ケンイチ、何をしてるのぉ?」
アマランサスと一緒にまったりとしている所に、やって来たのはエルフだ。
揺れる金髪と、細い身体で俺の前でダンスのようにフラフラ腰をくねらせている。
「ウチで使っているコアモーターの改良だ」
「ふ~ん」
エルフが俺の膝に腰を降ろした。
「おい、ちょっと」
「待つがよい! なぜ、当然のようにそこに座るのじゃ!」
「ええ? 奴隷にそんなこと言われたくないしぃ」
「ぐぬぬ……」
エルフにとって、只人の王侯貴族など、どうでもいい存在に違いない。
利用するのに便利な存在とすら思っている節がある。
「ケンイチ~!」
そこにアネモネがやってきた。
「おお、アネモネ」
「む……」
アネモネが、俺の膝の上に乗っているエルフに厳しい視線を送ると、俺に手を伸ばした。
「ケンイチ、抱っこ」
「はいはい」
エルフを放り投げて、アネモネを膝の上に乗せた。
「ちょっとぉ! なんでぇ! 大人とか言ってるくせに、そんなちびっこみたいなことしてぇ!」
「ちびっこじゃないし!」
「いい歳して、張り合うんじゃないよ」
「歳は関係ないでしょぉ!」
俺の言葉にエルフが激昂した。
どうやらいい歳ってのは禁句のようだ。
「しょうがないなぁ」
アネモネの頭をナデナデする。
「ふわぁぁ」
「ずっるーい! 私にもその『ふわぁぁ』ってやつをやってよ!」
何を言ってるんだ、このエルフは。
セテラが金髪の頭を差し出してくるので――ピコピコと動いている耳を、両手で掴んだ。
「ひゃぁぁぁ!」
突然、エルフが大声を上げてひっくり返る。
「あーどうした?」
「わかんない……」
セテラがその場で伸びてしまったので、アイテムBOXからベッドを出すとそこに寝かせた。
そのあと、ベッドでひっくり返っているエルフを見ながら、アネモネをなでたり、アマランサスをなでたりしていると――カールドンの作業が終わったらしい。
「ケンイチ様! できました!」
カールドンが、できあがったコアを持ってコンテナハウスから飛び出してきた。
「本当か? 早速試してみよう」
アイテムBOXから実験装置を取り出して、コアを固定してみる。
「なになに?」
実験装置を動かして、アネモネに原理を説明する。
「そんなことできるの?」
「一応できたんだが、魔力が逆流してしまうので、コアの魔法陣を書き換えてもらった」
元世界のように、モーターと発電機、どちらでもなるわけではなく――。
モーターはモーターにしか、発電機は発電機としか、コアは使えないってことだ。
アイテムBOXから別のコアを出して、充填し終わったと思われる魔石を近づける――すると。
「動いた! 凄い! こんなこともできるんだ!」
回るコアにアネモネがはしゃいでいる。
「やったな、これなら止まらないぞ」
「ケンイチ様! これは凄いですよ! 水車や風車に取りつければ、魔導師がいなくても魔石に充填できるのですから」
「ああ、さらに魔石の生産が可能になれば、世界が変わるな……」
「素晴らしい! この目で、まさに世界の変革を目の当たりにできるとは!」
「これだけじゃないぞ、カールドン。まだ転移魔法や、空間拡張魔法もある」
「そのとおりです。ああ、一体どれから手をつけていいものやら……」
カールドンが、ウロウロし始めた。
研究したい事柄が多すぎて、絞りきれないのだろう。
「いや、カールドンは、あの魔法の箱に使われている空間拡張の解析を頼む」
「承知いたしました」
「転移魔法は、帝国のレイランさんに頼んでみようかと思っている」
「ほう……確かに、それはいい考えかもしれませんな」
「手柄を独り占めできなくて残念だとは思うが」
「いいえ、流石に全部は手に負えかねますので……」
とりあえず、今日行なったコアの改良を、アネモネにも教えてもらうことになった。
「アネモネ頼むぞ」
「うん、任せて」
これで簡単に魔石に魔力を充填できるようになる。
あとは魔石を生産できるようになれば……。
俺の計画では、それはカールドンの空間拡張魔法の解析の成功にかかっている。
彼に期待したい。





