214話 暗いサクラで
南の港町オダマキからの帰宅途中――俺たちは移住希望者をマイクロバスに乗せて帰ってきた。
夕方にダリアを過ぎて、真っ暗な森の中を突き進む。
エンジンで動く車があるからできる芸当であって、この世界の常識からはかけ離れているのは確かだ。
ダリアから続く街道を左折して、うねうねした道をしばらく進み川を渡る。
サクラが見えてきた。
「ふぅ~やったぁ」
家の前の広場に、ハ○エースとマイクロバスが停車した。
「ここか?」「着いたのか?」
「は~い! 皆、疲れただろう、サクラに到着したぞ」
住民たちが、窓にへばりついて周りを見回している。
「「「おおおっ!」」」
ドアを開けると、待ってましたとばかりにベルとカゲが飛び降りて、周囲をクンカクンカ。
そのあと皆を降ろすと――早速、食事の準備だ。
夕方になっても食事も摂らずに爆走してきたからな。
さすがに、今日中に到着したかった。
プリムラとマーガレットが支度を始めた。
アイテムBOXから、テーブルや食材を出すと、住民の女たちにも手伝ってもらう。
スピード優先なので、またインスタント中心にしよう。
飯の準備をしていると、カールドンが行ったり来たりとウロウロしている。
早く研究したくて仕方ないようだ。
まずは彼のために、黒いコンテナハウスの研究室を、元の場所に出してやることにした。
アイテムBOXから部屋を出すと、地面を揺らす。
いつもこんな感じで出しているのだが、中の本が崩れたりしないだろうか?
彼からクレームなどが入ったことがないのでわからん。
そっと出したくても、どうしても空中から現れてしまうからな。
「ケンイチ様、ありがとうございます! もう、ワクワクが止まらないのでございます!」
新しいおもちゃをもらって、待ちきれない子供のようだ。
「あまり根を詰めて、身体を壊すんじゃないぞ? 飯はどうするんだ?」
「扉の前にでも置いてくださいませ」
「解ったよ」
カールドンの所から戻ってくると村長がやってきた。
「あの、辺境伯様、ここが本当に……?」
どうも、あの村から1日でここまでやってきたのが信じられないようだ。
まぁ、馬車で数週間、徒歩なら1ヶ月以上はかかるからな。
「ほら、目の前に月が映っているデカい湖があるだろ? 対岸まで25リーグ(40km)はある」
「た、たしかにアストランティアの近くには大きな湖があるとは聞いたことがありましたが……」
「「「おおおっ」」」
住民たちから声が上がるが、次のミャレーの言葉に微妙な表情になった。
「あの湖には馬鹿デカい魔物がいたにゃ! お城ぐらいの大きさがあったにゃ!」
「えっ!? 魔物でございますか?!」
魔物という単語に反応して、村長が心配そうだ。
「ああ、大丈夫。ちゃんと退治したから」
「そのような巨大な魔物が……」
「旦那の言っているのは本当だぞ。俺たちも戦いに参加したんだから」
「トラ公たちは歴戦じゃないか。こりゃ恐れ入ったねぇ」「お姉ちゃんたち、すご~い!」
「にゃはは」
三毛と娘の言葉に、ミャレーが頭をかいていると、ニャメナが続く。
「ははは、そうだろう。そうじゃなきゃ、獣人で貴族の愛人になんてなれねぇ」
そんな理由ではないが、ミャレーとニャメナの能力が優れているから、俺も囲っているのは間違いない。
「でも、トラ公は――本当はビビってるにゃ」
「当たり前だろ! でも、命がけにならないと、旦那に相手にしてもらえねぇし……」
「そんな、怖いなら無理にやらなくてもいいんだぞ?」
ニャメナのピカピカの虎柄をなでると、俺の腕に尻尾を巻き付けてきた。
「なーん↑」
「ぎゃぁ! トラ公、その声は止めるにゃ!」「キメェぇぇ! どこから出してるんだ!」
ミャレーと三毛の毛が逆立ち、尻尾が太くなった。
そんなに嫌か。
「ケンイチ様! あれは湖ですか? まるで海のような大きさですな」
猫人たちのギャアギャアを横目で見ながら、ワルターがやって来た。
「向こう岸が見えないぐらいの大きさだから、海を知らない人間に、ここを海だと言ったら信じるかもな」
「そうでございますな」
ここでの新しい生活に思いを馳せているのか、彼の尻尾が振られている。
獣人たちのことはさておき――。
「村長、このあたりに来たことは?」
「若い頃に、ダリアには何度か……」
「それじゃ、ダリアを通り過ぎたのは解っただろ?」
「たしかに、そうですが……」
どうにも信じられないようだ。
まぁ、信じられなくても、1日中車に乗りっぱなしだ。疲れて腹も減っただろう。
マイクロバスの所に行くと、後部からスライムの入った箱を取り出す。
「よし、収納」
バスをアイテムBOXに入れた。
運転手をやってくれたアキラをねぎらう。
「はう~、疲れたぜぇ」
まぁ、彼も祝福持ちなので、飯を食えば回復する。
「アキラ、サンキュー。ほれ、トリビー」
アイテムBOXからビール缶を取り出して、彼に投げてやる。
「おおっ! ありがてぇ」
アキラがビールをキャッチして、プルトップを引くと、ごくごくと3口ほど飲んだ。
アルコールもエネルギーになるので、これでも回復するかもな。
「ふぇ~っ! 一仕事終わったって感じだぜぇ!」
「ただ港町に行くつもりが、色々とありすぎだな」
「まったくだ」
「ケンイチ! トリビーってなんにゃ?」
ミャレーが俺たちの所にやって来たが、さっきから獣人たちは元気だな。
まったくいつもと変わらん。
「とりあえず、これを飲むってこと」
俺は、アキラのビールを指差した。
「それじゃ旦那! 俺もトリビー!」
「ニャメナも頑張ってくれたな」
彼女にもビールを渡した。
「やったぁ!」
「あたいにもおくれよ!」
「今日だけだぞ」
三毛にもビールをやると、娘のフワフワの頭をなでる。
「もうすぐ、飯ができるから待ってな」
「うん……」
フワフワで可愛い。このままお持ち帰りしたくなるのをぐっとこらえた。
食事の準備をしていると、俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ケンイチ~!」
暗闇の中から、背の高い女が走ってきて、キラキラ光る金髪のおかっぱヘアを揺らしている。
スレンダーなので、走っても他の所は揺れない。
これが、プリムラや爆乳のレイランさんなら、大変なことに。
やって来たのは耳が長いエルフのセテラだ。
耳がいいので、俺たちが帰ってきた音を聞きつけたのだろう。
走ってきて俺に抱きつくと、鼻腔に草の香りが飛び込んでくる。
「やっと帰ってきたのねぇ! もう、暇で暇でぇ」
「はは、ただいま。留守中になにかあったか?」
「なにも~ん~クンカクンカ――海くさ~い!」
「ええ? においがするか?」
腕をクンカクンカしてみたが、わからん。
洗濯とかはしてないが、アネモネの魔法で綺麗にしてもらっているはずだがなぁ。
俺に抱きつくエルフを見て、移民たちがどよめいている。
「エルフだ!」「エルフ!?」「本物?!」「あの耳を見ろ」
住民たちはセテラを指差しているが、どうやらエルフを見たのは初めてらしい。
まぁ、彼女たちは排他的と言われてるし、見たことがあるやつのほうが珍しい。
俺の身体に長い手足を絡ませているセテラ――その2人の間に、アネモネが割って入ろうとしている。
「もう、くっつきすぎぃ!」
「なんだよぉ、ちびっこは寝る時間だぞぉ」
「子供じゃないから!」
「私から見れば、皆子供さ」
エルフがドヤ顔を見せる。
まぁ、こいつは数百歳らしいから、それから見たら子供に見えるかもしれないが。
「それじゃ私は、あなたのことをBBAって呼ぶから」
「BBAって言うな!」
「「ぐぬぬ……」」
セテラと、アネモネがにらみ合う。
エルフと向き合っても、一歩も引かないとは――アネモネも随分とたくましくなったものだ。
いや、元々大魔導師の娘だ。最初からたくましかったのかもしれない。
「こらこら、帰ってきてそうそうに、喧嘩するんじゃない」
「え~? 悪口言われたの、私なんだけどぉ」
「アネモネのこと、子供って言っただろ?」
「だって子供じゃん」
「子供じゃないから! エルフのBBA!」
「「ぐぬぬ……」」
エルフとウチの大魔導師をなだめていると、メイド長のマイレンが長い髪を振り乱して走ってきた。
いつものメイド服ではなくて、薄ピンク色でピラピラのついたワンピースの寝間着姿。
寝ていたのか、いつもと違い髪を下ろしている。
「ケンイチ様! ハァハァ……お出迎えもせず、申し訳ございません!」
マイレンは、肩で息をしながら頭を下げた。
「構わん。まさか、こんな夜に帰ってくるとは思わないだろうし」
「本当よねぇ。本当に真っ暗な森の中をあれで走ってきたのぉ?」
セテラが出しっぱなしのハ○エースを指差した。
「そうだよ。あれはどんな魔物よりも速いからな。絶対に襲われることがない」
「ドラゴンや、ワイバーンよりもぉ?」
「そんなのは、ここらへんにはいないだろ? ここにいるのは牙熊か黒狼だし」
「ケンイチ様――早速、他のメイドたちも集めます」
マイレンの顔がキリリとしたお仕事モードになった。
「ああ、起きている子たちだけでいいよ。寝てるのを起こしたら可哀想だ――それに人手はあるし」
「ケンイチ様、あの者たちは?」
マイレンは、俺がつれてきた者たちが気になるようだ。
横目でチラ見している。
「サクラへの移民者だ。30人ほどいる。途中で集めてきた」
「呆れたぁ――まさか、村をまるごと運んできたんじゃないでしょうねぇ」
「まさにその通り」
「……」
エルフが言葉をなくしているが、彼らの荷物や家までもが、俺のアイテムBOXの中に入っていることを説明した。
「呆れて言葉もでないわぁ。そんなの聞いたことないんだけどぉ」
「聖騎士様には、妾たちのような凡俗の常識は通用せぬ」
アマランサスがやってきて、エルフに反論した。
王族が凡俗なわけないだろう。
王族が凡俗なら、普通のオッサンの俺はなんなんだと思うが、アマランサスの言葉にセテラが納得している。
「はぁ、王族が祝福を与えたってのは、だてじゃないってわけなのねぇ」
「そのとおりじゃ」
「まったくケンイチがいると、面白くて退屈しないわぁ」
エルフとアマランサスが、うんうんと唸っていると――マイレンが、マーガレットに気がついたようだ。
「あのケンイチ様、あの者は?」
「プリムラの個人的なメイドなんだよ。まぁ、仲良くしてやってくれ」
「承知いたしました」
プリムラの個人メイドなので、彼女が出かけたりしても一緒についていく。
側室なら、辺境伯領のメイドを使ってもいいのだが、気心の知れたマーガレットのほうがいいだろう。
マイレンと話していると、また俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ケンイチ! 帰ってくるなら、帰ってくると連絡を寄越すがよい!」
薄ピンク色のワンピースの寝間着に、ストールのようなものを肩にかけてやって来たのは、リリスだ。
「リリス、ただいま! 起きてたか。どんな速い飛脚を使っても、俺の召喚獣のほうが速いし」
「それはそうじゃが……」
彼女を抱き寄せるとキスをする。
「んん~っ! 人前でぇ――ん~っ!」
「え~っ! 私にはそんなことしてくれなかったのにぃ!」
エルフがブーブー言っているが、彼女は側室でもなんでもない。
愛人枠で入ったわけでもないし、正式なエルフの大使だからな。
「君は、エルフの大使だろ? リリスは正室だ、やって当然」
「そ、そうじゃが……ん~っ」
もう一度、キスをする。
「もう! そんなにしなくてもいいのに!」
今度はアネモネがブーブー言っている。
「リリスは留守番してくれてたんだから、このぐらいはしてあげないと」
「そ、そのとおり――そうではない! まったく、人前で――ゴニョゴニョ」
「ああ、リリスの順番が溜まっているから、たっぷりとしてあげないとな」
「だから、ケンイチ! そ、そのようなことは……」
リリスと話していると、アマランサスが絡みついてきた。
俺に抱きつき、口を近づけてくる。
「ああん、聖騎士様ぁ~! それでは、妾とぉ~」
「こら、アマランサス」
「け、ケンイチ、いったい母上はどうしたのじゃ?」
「ちょっと前から、こんな調子なんだよ……」
「リリスは、やらぬのじゃろ?」
「そうとは言っておりません!」
「それでは、一緒にぃ~」
「ええ? それって倫理的にどうなのよ」
リリスとアマランサスは親戚で、実の親子ではないが……。
少なくともリリスは、アマランサスを母として慕っているので、その表情は複雑だ。
「城での母上からは全く想像もできんの――それで、ケンイチ。あの者たちは?」
リリスが村人たちを指す。
「ああ、ここへの移住希望者だよ」
「ここまで運んできたのかぇ?」
「彼らは引っ越したかったのに、その資金がなかったんだ。もしかして、こういう村がたくさんあるかも……」
「ケンイチ、まさか他の領から連れてきたのではあるまいな?」
「貴族がいない村だと言っていたから大丈夫だ」
「それならいいが、貧困していて可哀想だからといって、他の領民を連れてきてしまうと揉めるぞ?」
「住民たちが逃げ出して、ここまでやってきたと言えば?」
「まぁ、それなら……」
別に村を捨てるのは違法ではない。
普通の住民は逃げたくても、金や手段がなくて逃げられないだけなのだ。
「獣人も増えておらぬか? 見たことがない顔がおるぞぇ?」
「ああ、若干いるが。ただの移住だぞ」
「本当じゃろうの?」
「もちろん」
三毛の娘のミッケを呼ぶ。ミーケの娘なのでミッケ、安直すぎる気がするのだが、こういう名前が多いらしい。
「なーに? ケンイチ様」
「ほら、可愛いだろ?」
フワフワの毛皮を抱き上げる。
「おおおっ! ここで獣人の子供は初めてじゃの!」
「街なら結構いるけどな」
でも、毛皮がボサボサで可愛くないのだ。
リリスが手を伸ばしてきたので、彼女にも抱いてもらう。
「おおお~っ! なんと愛らしい!」
「お城には獣人は立入禁止だからなぁ」
「抱いて寝たら駄目だろうのう……」
「それはまずい」
ミッケを母親の所に返すと、晩飯ができたようだ。
皆で食事を摂る。
インスタント中心だが仕方ない。
「妾も食べるぞぇ」
「リリス、夕飯は食べたんじゃなかったのか?」
「食べたが、これも食べるのじゃ」
まぁ、いいけどな。
毎回すごい量を食べるのだが、まったく太らないのはすごい。
しかし、俺も10代の頃はメチャ食ってたけど、ガリガリだったし……。
アマランサスや、アルストロメリア様も痩せているので、そういう体質の一族なのかもしれない。
アマランサスは食べるのは普通だが、酒はウワバミだし。
だが、リリスの食事を頬張る顔を見て、帰ってきたことを実感する。
やはり、ここは俺の家なのだ。
皆が食事を摂っているテーブルは4グループ。
俺の家族と、村人たち、猫人たち、そしてちょっと離れた犬人のワルターだ。
犬人はいまのところ彼1人なのだが、この状況で寂しくないのだろうか?
それは事前に説明してあったのだが、彼の決意は変わらなかった。
村長にリリスを紹介する。
「彼女が、正室のリリスだ」
「リリスじゃ、よしなに」
彼女は村長より食うのに忙しいらしい。
「はは~っ!」
村長が椅子から降りて、膝をついた。
「俺が留守のときは、彼女かアマランサスが代理を務めている」
「あ、あの……」
村長の言いたいことはわかる。
アマランサスは奴隷なのだ。
「なぜか奴隷になっているが、アマランサスは、このリリスの母親なのだ」
「そ、それでは貴族様なのですか?」
本当は王族なのだが、廃籍してしまっているから違うし。
「まぁな。奴隷の身分なのだが、領主代行でもあるわけだから失礼なことはしないように。彼女を怒らすと大変なことになる」
「か、かしこまりました」
意味不明かもしれないが、俺だってよくわからんし。
村人たちとワイワイと飯を食っていると、軽装の鎧と剣で武装した3人の獣人たちがやってきた。
ソバナからやってきて、ここに住み着いていた3人組だ。夜の警備の仕事をしている。
三毛子、白い太子、黒いチビ子である。
今回連れてきたミーケも三毛であるが、模様が全然違う。
思わず見比べてしまう。
「ありゃ、随分と騒がしいと思ったら、ケンイチ様が帰ってきてたんですか?」「なんか、すごい新しい人がいっぱい~」「また人が増えるの?」
「巡回ご苦労さん。新しい移住者だ、仲良くしてやってくれ」
「こんな夜の森の中を走ってきたんですか?」
「まぁな」
「さすが、ケンイチ様ですぅ~」
白い太子が感心しているが、チビ子は無謀だと思っているらしく呆れている。
3人組が俺に経緯を聞いているのだが、ちょっと離れた場所にいる犬人を見て声を上げた。
「げっ! 犬コロまで連れてこなくても!」
「彼も移住希望者だ。差別はいかんぞ」
「わ、解ってますけど……」「ね~」「ケンイチ様の物好きにも呆れる」
チビ子は、相変わらず口が悪い。
猫人たちは文句を言っているが、彼は正式な住民となるわけで、仲良くしてもらわないと困る。
猫人たちを信じよう。
夕飯を食い終わりやっと落ち着く。
ミーケの娘は、お腹がいっぱいになったのか船を漕いでいる。
村長を呼んだ。
「スマンが、今日はここで泊まりだ。明日飯を食ったら、村の設置を行おう」
「はい――村ができるまでは、外での寝泊まりも覚悟しております」
「そうだな――木を切って地面を均して……多分、1日か2日でできると思うが……」
「え?!」
村長が驚く。
「20軒ぐらいだったよな。なんとかなると思うぞ」
森の中は若干の傾斜はあるが、ほぼ平地。
木を倒して均すのに、そんなに時間はかからないはず。
家を設置したら、あとは開墾だが――それも重機とアネモネの魔法があれば、時間はかからない。
作付面積を広げたければ、あとは自分たちで開墾すればいい。
開墾しただけ自分たちのものになる。
――と言っても、王国のすべての土地は国王のものだしな。
サクラの広場に以前使った大型のテントを出す。
これなら10人ぐらいは寝られるだろう。
さらに、2つ追加して並べた。
「村長、村人の分け方は任せるよ。足りないなら早めに言ってくれ」
「は、はい」
村は高齢者と女が多い。
働けるような若者は、村の生活に嫌気が差して街へ行ってしまうらしい。
俺が元世界で住んでいた限界集落もそんな感じだったが、どこでも似たようなもんなのだな。
腹も一杯になり長旅で疲れたのか、村人たちはすぐに眠り始めた。
俺たちについてきた三毛のミーケ親子は、ミャレーたちのコンテナハウスの近くに新しいコンテナを出して並べた。
やっぱり、獣人たちはある程度固めたほうがいいらしい。
シャングリ・ラで購入した安いパイプベッドと毛布だけ置いてやる。
同じくサクラにやって来た犬人のワルターだが、少し離れた場所がいいということだったので、村の外れにコンテナを置いた。
アイテムBOXで集めてきた家でもいいのだが、彼はこの鉄の箱が気に入ったらしい。
「ケンイチ様に家までもらえるなんて、光栄でございます」
「ベッドの他は、自分で揃えてくれよな」
「もちろんでございます」
サクラは真っ暗――静かになった。
アキラにもテントを貸してやるとすぐに潜り込む。
「アキラ、サンキュー」
「おう!」
明日、朝飯を食ったら、アストランティアにいる愛しのレイランの所に戻るようだ。
「ふう、一段落ついたか……」
ぐるりとサクラを見回し、真っ暗な湖に映る月を見る。
「ん~っ」
バンザイをして伸びをすると、久々に家に戻った。
俺がダリアの森の中で作った自作の家をこんな具合に使うことになるとはなぁ。
新築の屋敷は土台ができて、少々枠組が組み上がってきたようだが、まだまだ時間がかかる。
魔法で、ポンというわけにはいかない。
リリスと一緒に寝る順番が溜まっているのだが、今日は皆で寝ることにした。
まだ寝床が決まっていない、マーガレットも一緒だ。
部屋の中にはベッドが並び、寝間着に着替えた皆が座っているが、構造が少々変わっている。
奥に小部屋が追加されたらしい。
どうやら、メイドの宿直室のようだ。
「マーガレット、オッサンと一緒の部屋で寝るのは嫌というのなら、他の部屋を出すか、ウチのメイドの宿舎を貸してやるが……」
「いいえ、ここでかまいません。お嬢様もいらっしゃいますし」
「そうか」
ベッドの上では、リリスがむくれている。
「妾を独りボッチにして、随分と楽しんできたようじゃの!」
「腹いっぱいになって、機嫌が直ったんじゃないのか?」
「そのようなはずがあるまい!」
「まぁまぁ、色々とあったから、話してあげるよ」
俺は――彼女に旅行中のできごとを話し始めた。





