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【アニメ化決定!】アラフォー男の異世界通販生活  作者: 朝倉一二三


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211話 のんびりと


 南の港町オダマキの鉱山から溢れた魔物を退治した。

 ダンジョンの奥にあったのは、テレポートできる魔法陣。

 ゲームやアニメに出てくるテレポートなんて、夢物語かと思っていたが、魔法で実現できてしまっている。

 これじゃ、俺たちがいた世界より進んでいるんじゃないのか。

 アイテムBOXなんてものもあるしな。

 アイテムBOXもテレポートも、元世界にあったら世界が変わってしまうだろう。

 船もトラックも飛行機も列車も全部なくなってしまう。

 その能力を持っている者は莫大な富を得られるに違いない。

 それとも、失業失職を恐れた者たちから命を狙われるか――。


 そのアイテムBOXに入っていたスケルトンも、崖から落っことすという裏ワザで簡単に退治できた。

 現在アイテムBOXには生き物は入らないが――もしも生き物が入る仕様であったなら、どんな敵の大群でも簡単に全滅させることができるってことだ。

 考えるだけで恐ろしい。

 とても平和的で人々の生活の役にたちそうな機能が、あっという間に虐殺のルーチンと化してしまう。

 魔法だってそうだ。

 簡単なお湯を沸かす魔法や乾燥の魔法でも、攻撃に使えるしな。


 スケルトンを崖から落として退治したあと、俺たちは浜辺に1泊――次の日には、オダマキの街に帰ることになった。

 魔物が退治されたと聞いて、逃げようとしていた鉱夫や商人たちも、鉱山へ戻ろうとする者が増えた。

 逃げても金にならないからな。

 吟遊詩人のポポーも、慰安の仕事が残っているので、鉱山に戻るらしい。


「それじゃなポポー。あの魔法陣のことは秘密にしてくれよ」

「あんなの歌っても誰も信じてくれませんよ」

「まぁ、そうかもな」

 朝飯を食べたあと、アイテムBOXから出した船に皆で乗り込み、アキラの操船で海を進む。

 やって来たときとの違いは、途中で一緒になった犬人がいることだ。

 深い藍色の毛皮を着たグレイハウンドのような犬人が波しぶきを被り、毛皮を濡らす。

 毛は短く絨毯のような手触りで、毛の下の筋肉がよく解る。

 猫人たちとは、ちょっと離れて乗っているのだが、それでもミャレーたちはしっぽをブンブンしている。


「そういえば、名前を聞いてなかったな」

「ワルターでございます」

「俺はケンイチでいい」

 帝国風の名前だと思ったのだが、犬人は帝国風の名前を名乗ることが多いらしい。

 名前にそんなにパターンがあるわけでなく、同じ名前の犬人が結構いるという。

 ペーターとかハンスとかエーリッヒとかそんな感じか。


「ケンイチ、本当にそいつを連れていくにゃ?」

「領民を募集しているんだから、もちろんだ。差別とかは駄目だぞ」

「私なら大丈夫ですよ。慣れていますから」

 彼の言葉の意味は――仲良くするつもりはないが、暮らすのは大丈夫だと言いたいのだろう。

 犬猿の仲ならぬ、犬猫の仲なのだから、俺も無理強いするつもりはない。


 話している間に、船は波間をジャンプしながら港に到着した。


「ケンイチ様の船はすごいものですな! わずかな時間で港まで到着とは」

 犬人は船の速さに驚いたようだ。


「街道を走る鉄の召喚獣もすごい速さにゃ」

 ぶっきらぼうに、ミャレーが答える。


「へぇ、そいつは楽しみだ」

 桟橋に到着すると、皆を降ろし、船をアイテムBOXに収納した。

 サクラから船を持ってきていてよかった。


「海に船で出て、釣りでもしようかと思ってたんだがなぁ。それどころじゃなくなったな、ははは」

「ケンイチ、あれがあればいつでも海には来られるようになったじゃん」

 アキラの言うとおりだ。


「そうだな。新鮮な海の幸も食い放題だな」

 シャングリ・ラでも購入できるとはいえ、やはり採れたてにはかなわない。

 それにサンゴも発見したしな。

 あれは強力な資金源になること間違いなしだ。


 アイテムBOXから車を2台出すと、ワルターが驚いている。


「こ、この鉄の箱がそうなのですか?」

「魔法で馬もなしに動くにゃ」

「なんと……」

 彼は近づくと、車のにおいを嗅いでいる。

 鉄だからにおいはしないと思うが――まぁ、排気ガスのにおいはするかな。

 猫人たちとベルたちを乗せるので、ワルターにはアキラの車に乗ってもらった。

 車の中は色とりどりの毛皮でギュウギュウ。毛が沢山舞うので、鼻がムズムズする。


 皆を乗せて、車はシュロの屋敷に到着した。

 そこには、プリムラたちが待っているが、先にシュロが戻っているはず。

 なにがあったかは、現場から戻ってきた彼から聞いたかもしれない。

 俺たちは崖からスケルトンを落っことして、半日潰してしまったからな。

 屋敷の庭に車を入れると皆を降ろして、鉄の箱をアイテムBOXに収納。

 プリムラと抱き合う。


「お疲れ様でした」

「心配かけたな」

「いいえ、ケンイチなら大丈夫だと思ってました」

「また、帰るのが2~3日延びそうだよ」

「洞窟の中が辺境伯領の管轄になったと聞きましたが……」

「そうなんだよ。入り口に扉をつけるから、その運搬と確認をしなくちゃならない」

「解りました」

「帰りが遅くなると、リリスが怒るだろうなぁ……」

「でも、辺境伯の仕事ですから」

 プリムラの言うとおりなのだが、こういう場合は理屈じゃないんだよねぇ。

 俺は、心の中で苦笑いをした。


「まー!」

 アマナに面倒を見てもらっていた、三毛の子どもが母親の下に走る。


「寂しかったかい?」

 三毛に抱きつき、彼女に抱えられた子どもが首を振ると、そこにアマナがやってきた。


「悪いな、面倒見てもらって」

「手間のかからないいい子でしたよ。それよりも旦那! またおっかない化け物を倒したんだって?」

「まぁな」

「本当ねぇ。あたしだったら、怖くてすくんじまうけどねぇ」

 子どもを抱いている三毛の所にいく。


「お前、辺境伯領に行くって子どもには聞かなくて、いいのか?」

「そんなの大丈夫さ! ミッケ、この人が新しいお父さんだよ」

「ぱー!」

「おいおい、洒落にならんから止めろって」

 そんな話をしていると、ミャレーたちが飛んできた。


「お前、なにを言ってるにゃ!」「愛人枠はもうねぇって言ったろ!」

「言ったもん勝ちさ!」

「俺は怒らんが、貴族相手にそういう冗談は通じないやつもいるから、気をつけろ」

 ミッケという、三毛の娘を抱かせてもらう。

 子どもも三毛なのだが、ふわふわのもふもふで本当にかわいい。


「こ、子どもが可愛いのは認めるけどにゃ! お前を認めたわけじゃないにゃ!」

「かわいいな。でも家族を増やすのは駄目って言われてるからな」

「ちぇ――いいよ、それでも旦那の領に行くからさ」

「ここの家とかは?」

「借り部屋だしぃ」

 そういう彼女の名前はミーケだと言う。

 そのままやんけ。


「三毛のやつはそういう名前が多いにゃ」

「そうなんだよ、旦那。適当なやつが多いんだ」

「適当って言うなよ!」

「なにも考えなしに、ケンイチの領に来るやつは適当じゃないのきゃ?」

「考えてるに決まっているだろ? 旦那の所に行けば、食いっぱぐれないって直感だよ」

「それって考えじゃねぇ!」

 ニャメナのツッコミが入る。

 まぁ、獣人達が深く考えて行動していることがあるのか? ――と聞かれると少々微妙だと思うが。


 獣人の相手は獣人たちに任せて、プリムラを連れてカールドンの所に行く。


「カールドン!」

「ケンイチ様。話は聞きました、ご征伐おめでとうございます」

 彼が頭を下げる。


「皆で協力して倒したんだから、俺の手柄じゃないけどな」

「それでも、世間ではケンイチ様のお手柄ということになりますよ」

「それは仕方ないな。いちいち否定して回るわけにもいかないし――それよりお土産だ」

 俺は、ダンジョンの中で拾った、宝箱を彼に手渡した。

 杖が入っていた、見かけより中が広いという魔法の箱だ。


「こ、これは!?」

「見かけより、中が広いだろ?」

「な、なんと! こんな面妖なことが」

「この魔法を実現できれば、この鉄の箱の中を、見た目をそのままで拡張できることになる」

「素晴らしすぎます!」

「これを、お前にやるので研究してくれ」

「これを頂いてもよろしいので?」

「まぁ、壊してもいいぞ。研究のためなら、そういうのも仕方ないからな」

「もちろん、なるべくは破壊しないようにいたしますが……」

 構造を調べる、イコール分解だからな。

 俺もガキの頃、どうやって時計が動いているのか知りたくなって、バラしてみたら戻せなくなったことがあったし。

 カールドンなら、こいつの能力を実現できるかもしれない。


「魔法のとっかかりでも、つかめれば上等だ。それにな――」

「まだ、なにか?」

 プリムラも呼ぶ。


「ダンジョンの奥に、転移の魔法陣があってな」

「て、転移の魔法?」

「聞いたことがあるか? 王家の秘書には記されているらしいが」

「魔導師がよく話す、与太話に出てくるのですよ」

「それが本当にあったんだ。実際に俺が使った」

「動いたのですか?」

「ああ、相当魔力を突っ込まないと起動しないようだったが」

「さもありなん……しかし、こんな魔法の箱の他にも、転移の魔法陣とは……」

 よく解っていないプリムラを呼ぶ。


「プリムラ、その魔法陣を動かせば、一瞬で別の所に行けるんだ」

「……一瞬で?!」

 彼女も、ことの重大性に気がついたらしい。


「その別の場所っていうのが――」

「はい」

「サクラのあの崖の上だ」

「……ええ?! 本当なんですか?!」

「ああ、皆も一緒に行って確かめてきた」

「そ、それでは、馬車もいらずに、本当に一瞬でサクラからオダマキまで?」

「そういうことになる」

「素晴らしいですわ!」

「でも、商売に使うってわけにはいかないぞ? 俺の力を大量に消費するからな」

「そ、そうですよね……」

 俺の話を聞いたプリムラが残念そうだ。

 たぶん商売に使えると喜んだにちがいない。

 そりゃ、サクラ、アストランティア、ダリア、そしてオダマキの支店が、繋がったようなものだからな。

 運送費もロハ(死語)で運べると思ったに違いない。


「だが仕事をしたり、大事な買い物などには使える」

「船の建造状況を確認したりでございますね」

「そうだカールドン。いちいち何日もかけて街道を走る必要がなくなるわけだ」

「すばらしい! なんと太古に失われたと言われていたものが残っていたとは……」

「今まで見つかっていなかったのか?」

「はい――いや、帝国などが見つけていても隠蔽している可能性が……」

「アキラの話では、見たことがなかったということだったがなぁ……」

「帝国皇帝が極秘に握っている情報ならば、側近にも明かしていないかもしれません」

「そうだな――転移魔法陣は使えるみたいだが、普通に商売に使うためには、やっぱり船が必要になるだろう」

 いつも言っているが俺の能力をあてにした商売やシステムを構築してしまうと、俺になにかあったりしたときに一瞬で詰んでしまう。

 魔法陣の起動はアキラに頼めば可能だと思うが、非常時以外にそんなことは頼めない。

 あの魔法陣を動かすのは相当きつく、カロリーを大量に消費する。

 俺はいつでもシャングリ・ラから大量に食料を購入できるが、彼はその機能を持ってないし。


 カールドンに研究用の魔法の箱を渡し、彼からは世話を頼んでいたスライムを受け取った。


「元気にしてたか~」

 まぁ飼育に手間もかからないし、なんでも食うしな。

 放置してもまず死ぬこともない。

 箱の中のスライムを眺めていると、ワルターがやってきた。


「ケンイチ様、それはなんでございますか?」

「これはスライムだよ。研究のために飼っている」

「魔物を飼うとは……」

「まぁ、この箱に入っている間は危険はないから、心配するな」

 彼に関しては、森猫たちが警戒していないから大丈夫だとは思うが、100%信用するのにはまだ早い。

 転移門や俺の持っているアイテムを見て、金になりそうだと思って移住を希望したのかもしれんし。


 現在、この屋敷の主であるシュロに、ダンジョンの入り口に取り付ける鉄の扉を作ってもらっている。

 鍵付きのやつをだ。

 それができないうちは帰路につけない。

 まぁ開けておいても、誰も怖がって入らないとは思うが……。

 鉱山で働いている者たちも、穴がふさがっていたほうが安心できるだろうし。


 鉄板をプラズマカッターで切り出して、俺が作ってもいいんだがな。

 シャングリ・ラでセメントも売っているし、アネモネの魔法で養生をしてもらえれば、すぐにコンクリも固まる。

 まぁ、シュロに頼んでしまったし、のんびりと待つとしよう。


 早く帰らないと、リリスが首を長くして待っているだろうが、領の発展を左右する重要なものだからな。


 俺は、パラソルとデッキチェアを出してのんびりすることにした。

 アキラは釣りに行くようだ。

 美味い海の幸が食い放題ってのは、中々いい。

 ただ、もう少し涼しければいいのだが。


 ------◇◇◇------


 扉ができるのを待っている間、皆でバカンスを楽しむ。

 夜はシュロの差し入れや、アキラの釣ってきた魚に舌鼓を打つ。

 ――その間に、この地方の商人や貴族たちの訪問を受けた。

 商人は、シュロかマロウ商会を通してくれ――で終了だが、貴族はそうもいかない。


 シュロが貴族の来訪を断れるわけもなく、屋敷の庭で会見となった。

 やって来たのは3人の貴族。

 金糸の刺繍を施された青や緑の服を着て、腰のベルトには短剣を差している。

 歳は30~50歳ぐらいでバラバラ。

 若いやつも白髪が多いのだが、苦労しているのだろうか。

 アイテムBOXからテーブルを出して、飲み物としてりんごジュースを並べた。

 夜なら酒でもよかっただろう。


「突然、押しかけまして申し訳ございません。礼儀がなっておりませんのは、重々承知の上ですが――」

「ダンジョンを塞ぐ鉄の扉ができるまでは暇なので、構わんよ」

 彼らの話では――辺境伯領と友好関係を結びたい一派がここにやって来たようだ。

 上手く運営されているこの男爵領といっても、一枚岩ではない。

 男爵から、疎遠にされている者もいるのだろう。

 それなら辺境伯にいい顔をしておいたほうが、おこぼれをもらえると考えたのかもしれない。


「1つ聞きたいのだが、ここにはどんな噂が伝わってきていたのか、教えていただきたい」

「……はぁ、その……」

 領主が魔法を使えるとかドラゴンを倒したとかいう話は――聞いたが眉唾だと思っていたらしい。

 それが本当に鉄の魔獣を使ったり、魔物を倒したりしたので、気が変わったのだろう。

 他にも、辺境伯領に興味を示している貴族はいるようだが、領主の手前――ここには来れなかったようだ。


「リリスとアマランサスの話は?」

「噂には聞いておりましたが、まさか本当にお城を出ているとは……」

 貴族たちは、俺の近くにいるアマランサスをチラ見している。


「一応言っておくが――リリスとアマランサス、2人とも俺が陛下から強奪した――とかじゃないからな。正式に離縁して、王籍も抜いて俺の所にいるわけだ」

 ヤったのも離縁したあとだし。


「「「はぁ……」」」

 貴族たちは、前代未聞の話に信用していないような顔だが。

 まぁ、地方の貴族にどうやって話が届いているかという参考にはなった。

 仲良くしようぜ――という申込みに、こちらとしても断る理由もないので、彼らには贈り物をした。

 いつも貴族たちに贈っている1/2オンスの白金貨だ。

 位階を聞けば子爵もいるのだが、少々少なめにした。

 領主は男爵だが、本当は伯爵クラスはあるとみて間違いない。


「こ、これは白金貨?」

「本物だぞ」

 俺は白金貨を取って魔力を流すといういつものパフォーマンスをする。

 うっすらと光る白金貨に、貴族たちが目を丸くするのも、いつもの光景だ。

 そこにアマランサスがやってきた。


「魔法を使い、鉄の魔獣を操り、アイテムBOXから伝説の白金貨を出す――そのようなお方だからこそ、妾は王家まで捨てて一緒におるというのに」

「あまりに荒唐無稽で作り話みたいだから、信じられないんだと思うよ」

「しかし、それを実際に目の前にしたら、軍門に下るしかなくのうてしもうたわぇ」

 アマランサスが扇子を出して口を隠した。

 元王族の本人から話を聞いて、さすがに貴族たちも話を信じただろう。

 まぁ、信じなくてもいいんだけどさ。

 貴族たちは、りんごジュースを飲み干すと帰っていった。


 ――それから2日ほどたち、鉄の扉ができたとシュロがやってきた。

 皆を待たせ、車を出すとシュロを乗せて職人の所へ。


「暇だから俺も行くぜ」

 アキラも一緒に行ってくれるらしい。


 街の中を車で走り、大きな煙突からモウモウと黒い煙が流れている工房に着いた。

 白い壁の工房から若い職人が出迎えてくれる。

 煤と日に焼けた、黒い肌と短いくせっ毛。

 つなぎのような革の作業着を着ている。

 中に入ると工房の天井は高く、正面には轟々と火が燃えている炉。土間の上にはつなぎを着た職人が多数いる。

 皆、若い職人のようだ。


「ここが、シュロが目にかけている工房なのか?」

「はい、若いやつらばかりですが、いい仕事をしますよ」

 職人に見せてもらったのは、鉄枠がついた分厚い黒い鉄の板。

 扉にも枠がついており、リベット留めで扉の厚みを増す。

 溶接がないので、こういう方式しかないのだろう。


 こいつが扉だ。左側に鍵穴が開いており、そこに鍵を差して回すとガチャガチャとピンが出し入れされる。

 ロックの仕方は元世界のものと変わらないようだが、シリンダー錠とかに比べたら単純な造りだ。

 構造を知っていれば、簡単に解けてしまうが、この世界の鍵は一品もので構造に規格はない。

 みんな構造がバラバラだが、何種類か方式があると、アキラも言っていた。


「取り付けは、私どもに任せて下さいませ」

「解った」

 俺は運ぶだけでいいらしい。

 まぁ、すぐに転移門を使うつもりもないから、鍵さえもらったら任せても問題ないか。

 鉄の扉をアイテムBOXに収納する。


「「「おおっ!」」」

「アイテムBOXがあれば、この重たい扉を現場まで運ばなくて済むので、大幅に工期が短縮できます」

「いやぁ、こいつをどうやって鉱山まで運ぼうかと、皆で悩んでいたんですよ」

 ここにはクレーンもなく、全部手作業だ。

 普通に考えれば、海から船に乗せて運ぶってことになるだろうが――石灰岩なら小分けにできるだろうが、こいつは鉄の塊だ。

 多数の獣人たちを雇って運んでもらう――とかしかないだろうな。


「俺がアイテムBOXを持っていると聞いていただろ?」

「こんなに重いものが本当に入るのか、半信半疑だったもので……」

「とりあえず、親方だけ現場につれていくから、あとはやってくれ」

「解りやした!」

 扉の脇を固めるセメントのような粉や道具を、一緒にアイテムBOXに入れた。

 若いくせっ毛の親方だけを車に乗せると、貴族街に上るための崖を目指す。


「ほぇぇ! 魔法で動く乗り物! すげぇ! はえぇぇ!」

 後ろの座席で、若い親方が大喜びをしている。


「ケンイチ様、無作法で申し訳ございません」

「はは、大丈夫だよ」

 崖に到着すると車を収納して崖を上り、再びアイテムBOXから出した車で貴族街を通過する。

 普通なら貴族街を通り抜けできないが、俺は貴族だし、シュロはこの街の顔役だ。

 1時間ほどで鉱山の入口まで到着した。


「すげぇ速さですね、これ!」

「これ、辺境伯様に無礼ですよ」

「あ! サーセン!」

 まぁ、街の職人に作法とか礼儀とかいっても仕方ない。

 そういう教育すら受けていないのだから。

 仕方ないとはいえるが、公共事業などのもっとデカイ仕事を受けるとなると、貴族やらの謁見も多くなるし、そうなると礼儀作法も必要になる。

 そこらへんは、彼に肩入れしているシュロの仕事になるだろうな。


 鉱山の入り口にいた、警備の兵に許可を取って中に入る。

 兵は先の戦闘にも参加していたので、俺の戦いを見ていたようだ。

 ダンジョンの入り口に扉を取り付ける許可は、すでにシュロが取ってあるので問題ない。

 アイテムBOXからLEDライトを出して、シュロと親方に渡す。


「これは魔道具ですか? すげー!」

 喜ぶ親方と話しながら一緒に歩いていると、鉱山の中で働いている鉱夫たちとすれ違う。

 もう、鉱山も稼働しているようだが、ダンジョンの入り口を塞がないと落ち着かないだろう。

 シュロとそんな話をしていると、ダンジョンの入り口が見えてきた。


「ここだ」

「へぇ! ここがダンジョンの入り口ですか!?」

 アイテムBOXから運んできた鉄の扉を出した。

 デカい音が坑内に響くと鉱夫たちが集まってきたので、工事の説明をする。


「そこを早く塞いでくだせぇよ」「気味が悪くてしかたねぇ」

 デカい図体でビビっている獣人たちの光る目が並んでいる。


「数日で塞がると思うが」

「一番大変な鉄の扉の運搬が済んでしまいましたからねぇ」

 親方は早速仕事を始めた。

 アイテムBOXから、セメントやら工具なども出す。

 寸法などを測って、使う材料の量などを計算するのだろう。

 俺がシャングリ・ラで材料を購入して、作ってしまったほうが早いのだろうが――。

 領主になったんだ、人を使って経済を回すことを覚えなくてはならない。

 シュロも打ち合わせのために、ここに残るらしいので、俺は引き上げることにした。


「シュロ、足が悪いのに大丈夫か?」

「前も申しましたが、商売をするのに足が悪いのを言い訳にできませんよ」

 そうは言うが気になる――が、彼が大丈夫だという。


「そういえば、代金はいくらになる?」

「いいえ、オダマキを守っていただいたのに、代金など――」

 扉が100万、工賃が100万、商人の取り分が100万ってところか――つまり金貨15枚。


「まぁ、そう言うな。ただより高いものはないからな」

 俺はシュロに金貨15枚を渡した。


「ありがとうございます」

 支払いを済ませた俺は、鉱山の外に出た。


「辺境伯様!」

 俺の姿を見て、青空の下を走ってきたのはポポーだ。


「俺は辺境伯領に帰るよ」

「そうですかぁ、残念です」

 彼女が背負っている楽器を見て、いいことを思いついた。

 シャングリ・ラで3万円ぐらいのギターを買う。

 ギターは全然知らないが、日本のヤ○ハ製だ。


「異国の楽器だが、興味はないか?」

「ほぇ! 異国のものですか!」

 原理は彼女が弾いているものと同じ。

 箱に弦が張ってあり、弾くと鳴る。

 すぐに彼女は音を鳴らし始めた。


「いい音ですぅ!」

 彼女なら、すぐにマスターできるだろう。


「興味があるのなら、お前にやる」

「本当ですかぁ!」

「ああ」

 彼女にギターと換えの弦を20本ほど手渡した。

 この世界に、鉄の弦とかナイロン弦とかないからな。

 まぁ、代用品はあると思うが……。


 ポポーにギターを渡し、俺はシュロの屋敷に戻った。

 さて、全て終わったし、明日の朝一でサクラに向けて出発だな。


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