210話 落下
南の港町、オダマキの重要産業でもある石灰の鉱山。そこがダンジョンと繋がりスケルトンが溢れだした。
急遽駆けつけた俺は、スケルトンをアイテムBOXに入れるという裏ワザで討伐。
さらにダンジョンの奥に進み、中ボスらしいドラゴンのゾンビを撃破した。
アイテムを拾って喜んでいた俺たちの前に巨大な魔法陣が出現。
俺の力を使って魔法陣を起動することができたのだが、信じられない現象が俺たちを襲う。
光に包まれたあと、一瞬でサクラの隣にある台地の上まで飛ばされたのだ。
元世界の科学でも不可能だった魔法という超技術。
俺たちは、サクラとオダマキとの間を一瞬で移動できる方法を手に入れた。
いくらサクラの近くに飛んできたからといって、そのまま帰宅するわけにもいかず、俺たちは再びオダマキに舞い戻った。
鉱山の出口に近づくと徐々に気温が上がり、まばゆい太陽の光が俺たちを出迎えてくれる。
あまりの気温差に、身体の調子が悪くなりそうだ。
あの魔法陣が寒冷地と繋がっていたら、どうなってたんだろうな。
それどころか、溶岩地帯とか海の底とか――今考えると、いきなり魔法陣を使ったのはかなり軽率だった。
反省もしてみるが、使ってみないと解らないこともあるしなぁ……。
鉱山から出ると、貴族たちと傭兵たちが集まり食事を摂っていた。
貴族というと、戦の後ろでふんぞり返って高級な飯を食っている――そんなイメージがあるのだが、ここの貴族たちは地面に座り、戦友たちと分け隔てなく食事をしている。
どうやら街から商人たちがやってきて、物資を運んできたらしい。
その中にはシュロもいて、俺の姿を見ると叫んだ。
「辺境伯さま!」
「足が悪いのに、こんな所までやってきて大丈夫なのか?」
「商売をするのに、そんなのは言い訳になりませんので」
「それより、ハナミズキ男爵はどこだ?」
「あ、あちらに……」
彼の案内で、男爵の所に案内してもらう。
地元の親しい貴族たちに囲まれて、食事を摂っていた。
おそらくは、親戚とかそういう仲なのだろう。
皆の雰囲気が似ている。
「男爵、ダンジョンの主を討伐した」
「「「おおっ!」」」「なんと!」
周りにいた貴族たちからは驚きの声が上がるが、男爵は黙ったままで渋い顔。
「その主というのはこいつだ」
俺は、アイテムBOXに収納していた、ドラゴンゾンビの頭蓋を出した。
「「「うわぁ!」」」
その場にいた面々が、白い骨でできた小山に腰を抜かす。
足の悪いシュロは、その場でコケてしまったので、手を貸してやる。
「も、申し訳ございません、辺境伯様。し、しかし、これが……?」
俺の手に掴まった、シュロの手が震えている。
「このドラゴンゾンビか、ドラゴンスケルトンか解らんものが、ダンジョンの主だったのだが――実はまだこいつは生きている」
「ひっ!?」
近くに自分の身体になる骨がないので集まれないが、中に入っている魔石はまだ生きているからな。
その証拠に、口がガタガタと動いている。
俺は、魔物の動力源となっている魔石を取り出すために、コ○ツさんを召喚した。
アダマンタイトの刃がついた、戦闘バージョンだ。
黄色い巨大な重機が、地面を揺るがして落下してきたので、そいつに乗り込むとエンジンを始動させた。
「「「おおっ! 鉄の魔獣が吠えたぞ!」」」
ダンジョンの中で切ろうとして頭蓋に弾かれてしまったのだが、今度は高く振り上げてから、突き刺してみることにした。
洞窟の中では高さの制限があったので、これができなかったのだ。
重機の黄色いアームを限界まで振り上げると、アダマンタイトの刃を立てた。
「いけっ!」
俺の操作によって、巨大な剣の切っ先が白い頭蓋へ落下。
小気味よい音とともに、白い山が真っ二つになった。
「「「やった! お見事!」」」
貴族や傭兵たちが盛り上がっているので、男爵は面白くないようである。
アームを操作して、巨大な剣で頭蓋の割れ目を広げると重機から降りた。
まだ微妙に動いているので不気味だが――割れ目の中を覗く。
中は真っ暗。
「ケンイチ大丈夫か?」
「大丈夫にゃ?」「旦那!」
「聖騎士様!」
皆が寄ってきたが、とりあえず中の魔石を取り出さないと……。
アイテムBOXから、LEDライトを取り出して中を照らす。
頭蓋の中は、白く干からびたような線が走っており、なにか干物のようなにおいがする。
その中心に、その干物に絡まった黒い魔石があった。
ソフトボールより2周りほど大きい。
そいつを掴むと、そとに出た。
「やったぞ! これで完全勝利だ!」
魔石に力をこめると、中が青く光りだしたので、そいつを高く掲げた。
「ちゃららら~!」
アキラが口で効果音を入れてくれた。
「そ、それではもう、この鉱山は安全ということなのですか?」
「ああ、主を倒したから平気だ」
「ああん! 聖騎士様ぁ~!」
変な声を出して抱きついてきたのは、アマランサスだ。
顔を赤くしているので、興奮しているらしい。
「国軍を投入しても仕留めるのが難しいと思われる、あのような魔物をお一人で仕留めてしまわれるとは――んふふ」
太ももを上げて俺の身体にスリスリしてくると、唇を重ねにくる。
その様子を見て立ち上がった男爵が爆発しそうだ。
「こらアマランサス。人前で止めなさいって」
「2人ともくっつきすぎー!」
俺とアマランサスの間に、アネモネが割って入ろうとしている。
アネモネに構わず、アマランサスの矛先が男爵に向かった。
「どうじゃぇ? 領主閣下。妾が奴隷になった意味が解ったかぇ?」
「もう、挑発するんじゃないよ」
「んふふ」
アマランサスは、俺の話を聞きそうにない。
パワーも彼女のほうが上なので、力ずくで剥がすのも無理。
奴隷契約があるので命令すれば聞くだろうが、ここで彼女が反発してゴロゴロ地面に転がりでもすれば、火に油を注ぐことになりかねない。
「け……」
ブルブルと震える男爵が口を開いた。
「け?」
「決闘だ! 貴殿に決闘を申し込む!」
予想外の男爵の行動に俺は呆れた。
「なんでそうなるの!?」
「うるさい! 剣を取れ!」
「俺の剣というと、アダマンタイトのあれになるけど、いいのかい?」
俺はコ○ツさんに装備されたアダマンタイトの剣を指差した。
「アダマンタイト?」「アダマンタイトだって?」
俺の剣の正体を聞いた野次馬がざわつき始めた。
「あんな魔獣などを使わず、尋常に勝負しろ!」
「尋常ってねぇ――それじゃ、俺はアマランサスを出すわ」
「なにぃ!?」
「だって、彼女は俺の護衛だからな、当然だな」
「そのとおりだわぇ」
「ぐぬぬ……」
男爵は今にも爆発しそうだが、こんな無理難題にまともに相手をするつもりもない。
「彼女に勝てば、好きにできるんだぞ?」
「承知した! 出した言葉は飲み込めんぞ! アマランサス様、申し訳ございませんが貴女に勝たせてもらい、この悪夢から解放させていただく!」
「ふむ――それでは、いつでも来やれ」
男爵が自分の剣を抜いて、構えた。
「剣は? どうなさいます?」
「心配いらぬ」
「いざ、参る!」
男爵がそう言った瞬間――目にも留まらぬスピードでアマランサスが間合いを詰めた。
彼女の手には、いつの間にか剣が握られていて、一歩も動けなかった男爵の首元に切っ先が突きつけられていた。
「う! ぐ!」
顎を上げた男爵が冷や汗を流して、その場で固まる。
「「「おおっ!」」」
目にも留まらぬアマランサスの早業に、周りから驚嘆の声が上がる。
「勝負ありだな、男爵」
アマランサスが剣を引くと、彼が尻もちをついた。
そのまま固まっていたのだが、諦めがついたように座り直すと膝をついた。
「数々のご無礼をお許しください、辺境伯様」
「いや、貴殿の誤解が解けてよかった。それよりも――」
話すことがある。
ちょうど証人になる貴族たちもいることだし、ここで言ってもいいか……。
「それで、今回の討伐での戦費と礼金についてだが」
「う……」
頭に上った血が冷めたのだろうか? 彼は現実に引き戻されたようだ。
「なんじゃ領主閣下。自領の兵では押さえきれず、国軍の到着を待てば壊滅的な被害が出たのは確実じゃったろう。それを、わずかな兵だけで成し遂げた聖騎士様に礼金を出し渋るというのかぇ?」
「あ、アマランサス様、その聖騎士というのは……」
彼女の代わりに俺が説明をする。
「聖騎士ってのは、王族による祝福で選ばれた者だ。それゆえ俺は、成り上がりで辺境伯という地位を得た。既存の貴族からすれば、目の上のたんこぶみたいなものだろうが――まぁ、よろしく頼む」
「ははっ」
まぁ、男爵もこれ以上は、こじらせるつもりもないだろうし、俺も無理難題をふっかけるつもりもない。
「俺が望むのは、あのダンジョンだ」
俺は出てきた穴を指差した。
「鉱山の経営権をよこせと?!」
「いやいや、勘違いしないでくれ。俺が欲しいのは新しくできたダンジョンだけだ。鉱山に興味はない」
「ほっ……」
男爵が胸をなでおろす。
この領の重要な産業である鉱山を取られたら相当痛いだろうし。
「聖騎士様、鉱山ぐらい望んでも問題ありませぬわぇ?」
「そんなことをしたら、オダマキの街に影響が出るだろ。ここの領民に恨まれたくないし」
「ここの防衛に失敗すれば、魔物がオダマキに流れ込み、街の壊滅は不可避でしたわぇ? それを犠牲者もなく収めたのですから、鉱山どころか領地の割譲を望んでよろしいのでは?」
「あ、アマランサス様、何卒……」
彼女の言葉に男爵が青くなっている。
「妾にではなく、聖騎士様に申し上げたらどうじゃ」
「そんな無茶な要求をしても拒否されたら、どうしようもないだろ」
「当然の報酬も払わん領主という話が広まれば、次になにかあったときに、どこの諸侯も手を差し伸べますまい。もし、そんなことになれば、次にどこと手を組むとお思いですかぇ?」
「はいはい! ここから近いのは帝国だよね」
手を挙げてアネモネが答えた。
「おいおい、話が飛びすぎだろう」
男爵のほうをチラ見すると――否定できない顔をしている。
ここは、王都より帝国のほうが近い。なんらかの関係を持っているのかもしれない。
この領地は領民を大事にしているのは、街の様子を見ても一目瞭然。
領民を助けるために手段を選ばない――ということになれば、帝国と組むことも十分に考えられる。
「やむを得ぬとはいえ、それは王国に対する裏切り――そんなことになったら城が黙っておるはずがない」
「王都の軍は送れないと思うが……」
王都は、帝国と共和国の2つに挟まれていて、その防衛に当たっているからな。
「そうなると――近隣の諸侯にハナミズキ領討伐の命令が下るでしょう――そうなると、筆頭になるのは」
アマランサスが、どこからか出した扇子で俺を指した。
「俺か?」
「当然ですわぇ。王国を守る聖騎士で、崩落した峠の神速での開通や、ドラゴンやワイバーン、数々の魔物を仕留めた英雄が先頭に立つのは必定」
「そうなりゃ、ここも辺境伯領になるなぁ」
アキラが悪ノリすると、獣人たちも続いた。
「ケンイチの所には、帝国の竜殺しもいるにゃ!」「帝国の夜烏のレイランもいるぜ」
その名前を聞いた野次馬たちがざわめく。
「帝国の竜殺しと夜烏のレイランといえば、帝国の皇帝の懐刀。なぜ辺境伯に――」
「ケンイチが、帝国から引き抜いたにゃ」
「なんと……」
「平民から、いきなり辺境伯になったのだぇ? 尋常ではないことが解るじゃろ?」
「あの――辺境伯領には、エルフもいると聞きましたし……」
ポポーが手を挙げてつぶやいた。
「エルフ!?」「辺境伯領はエルフとも繋がっているのか?!」「あの偏屈な連中をどうやって……」
確かに偏屈っちゃー偏屈だが、ポポーのセリフに、ハナミズキの貴族たちが動揺しているようにみえる。
「ああ、エルフたちは海の匂いが嫌いらしいから、ここまでは来ないぞ、あはは」
いまさら、そんなことを言っても、周りのざわつきは収まらない。
「ハマダ領と男爵領、統治にはさきほどのものが使えますわぇ……」
扇子で顔を隠し小言で話すアマランサスの目が笑っている。
さきほどのものというのは転移の魔法陣だ。
確かに、あの転移門があれば、サクラとオダマキは隣も同然だ。
それも可能だろう。
「いやいや、お前ら――男爵をあまり脅かすなよ。男爵! 俺は、新しくできたダンジョンの所有権だけでいいからな」
「……承知いたしました」
真っ白になって放心状態になっている男爵から許可をもらい――鉱山とダンジョンが繋がった穴には、鍵のついた扉が設置されることになった。
「聖騎士様は甘いわぇ! ここを押さえれば、南部連合として多大な力を持つことができるというのに……」
「そんな力を持ってどうするんだよ」
「それは当然、聖騎士様とぉ妾の国ぉ――」
アマランサスが顔を赤くして、もじもじしている。
それなら奴隷になるより、正室を主張したほうがいいと思うのだが、彼女がなにを考えているのか解らん。
「アマランサス、暴走しすぎだぞ」
「……」
男爵は、もうなにも言うつもりはないようだ。
俺の力が解ったので、君子危うきに近寄らず――ってやつだろ。
ダンジョンの鉄の扉の設置は、シュロに頼む。
「頼むぞ、シュロ」
「かしこまりました。ただちに設置いたします」
「運搬が大変なようなら俺が運んでやる。それなら設置もすぐに終わるだろう。俺も早く辺境伯領に帰りたいしな」
「承知いたしました。では、早速手配いたします」
振り向いて皆に告げる――まだやることがあるのだ。
「それじゃ扉ができるまで、スケルトン退治でもするか?」
「にゃ?」「旦那、どういうことだい?」「なんのことだい?」
獣人たちは、俺の言っていることが理解できていないようだ。
「何を言ってるんだ。スケルトンは俺のアイテムBOXに入っているだけなんだぞ? アイテムBOXから出したら、また動き出す」
「そうきゃ!」「ああ! なるほどな! 俺はすっかり倒してた気分になってたぜ!」「あたいもすっかり倒した気分だったよ」
「はっ、これだから猫どもは……」
「うるせー! 犬コロに言われたくねぇよ!」「そうだにゃ!」
「こら、喧嘩すんな。魔石を出してバラバラにして収納した分は死んでると思うが。その他はまだ、生きてるんだ――って最初から死んでるんだけどな」
そこにアキラがやってきた。
「ケンイチのアイテムBOXにはゴミ箱みたいなものがあるって話だったが――そこに入れるってのは?」
「もちろん、それが一番簡単だが、魔石がもったいないだろ?」
「そりゃそうか――それで、どうやってやる?」
「う~ん」
俺はしばらく考えた。
1体1体出して、タコ殴りにするのがデフォルトだろうが、なにかいい方法はないか……。
「そうだ、上陸した海岸に崖があったろ?」
「あったな……」
「俺が崖の上からスケルトンを落っことすから、皆が下で待ち受けるってのは?」
俺は海がある方向を指差した。
「落下ダメージでバラバラになって、すぐに死ぬかもしれないな」
「それが狙いだ。アネモネ、君は休んでていいぞ」
もう、魔法の出番はないだろう。
「うん」
「男爵、あとの処理は俺たちでやるので、解散して構わんよ」
「しょ、承知いたしました……」
男爵が、貴族や傭兵たちに撤収の命令を出した。
ぞろぞろと隊列をなして、兵がオダマキに向けて帰っていく。
それを見ながら、俺たちは仕上げの準備をした。
アキラに、アイテムBOXから出したトランシーバーを渡した。
崖の上と下で作業の連携をしなくてはならないが、車の無線では少々無理がある。
俺とアキラの車を出して分乗する。
アネモネとアマランサス、吟遊詩人のポポー、森猫たちはこちらだ。
スケルトンをぶっ叩くのは、体力が余っている獣人たちに任せる。
海岸にも逃げる準備をしていた獣人たちがいたので、戦力が足りなかったら、そいつらを雇ってもいい。
「俺たちは崖の上を行く」
「ほんじゃ、俺たちは崖の下に行ってるぜ」
アキラの車に獣人たちが乗り込んだ。
「俺がたどり着けなかったら、作戦変更な」
「オッケー」
「オッケーにゃ!」
そういったものの、海に向かっている崖のほうには道があるのだ。
近くにいた商人に話を聞いてみると、崖の端には見張り台があるらしい。
アキラの車と2台に分かれると、俺は崖の上を走り出した。
崖の上に道があるといっても人1人が歩けるような細い道が、背の低い草むらの中に続いているだけ。
海風のせいか塩分のせいか、延々と背の低い草むらが続く。
ラ○クルで草を乗り越えていくが、このぐらいは余裕だ。
時速10kmほどで20分ほど進むと、石灰でできた見張り台が見えてきた。
あそこが端だろう。
到着したのだが、見張り台には誰もいなかった。
魔物が出たと言われたので、逃げたのかもしれない。
トランシーバーを使う。
「アキラー、聞こえるか?」
『おっ! 聞こえるぞ!』
「今、崖の端っこに到着した。これから草を刈って足場を作る」
この草を刈らないと、どこが崖の端なのかまったく解らん。
『オッケー』
『オッケーにゃ!』
下と連絡がついたので、アイテムBOXから草刈り機を出して草を刈る。
「君たちは、休んでていいぞ」
「うん」
「アネモネは疲れたろう」
「大丈夫」
まずはラ○クルの周りの草を刈って、テーブルとデッキチェアを出してやった。
「そこで休んでてくれよな」
「私はなにもしなくていいんですか?」
「吟遊詩人は音楽でも弾いてやってくれ」
ベルとカゲは、周囲のパトロールを始めた。
「お母さんたちは、崖から落ちないでくれよ」
「にゃー」「みゃー」
パトロールは彼女たちに任せて、俺は2ストエンジンの甲高い音を立てて草を刈り始めた。
広範囲を刈る必要はない。俺が歩き回るだけのスペースがあればいい。
崖に向かって草を刈ると端が見えてきた。
あまりギリギリまで行くと、崩れるかもしれないので慎重に進む。
草がなくなったら、単管の足場を組むときに使う鋼板製の踏み板を、シャングリ・ラで購入した。
そいつを崖の外に伸ばして、反対側をラ○クルで踏む。
車で重しを載せれば、踏み板に乗っても崖から落ちる心配はない。
おそるおそる、鉄の板に乗って端まで行くと下を覗く。
アキラたちらしき人や、逃げるために集まっているたくさんの人々が見える。
船も見えるが、相変わらず1隻しかないので混雑しているようだ。
もう討伐は終わったんで、逃げる必要はないと思うが……。
下まで20mぐらいか……まぁ、落ちたらヤバいな。
波による浸食のせいだろうか、崖はオーバーハングになっており、上に行くほど崖が飛び出している。
ここから落としても崖の途中でぶつかることはないだろう。
「アキラ、足場ができたぞ」
『こっちもオッケーだ。多分、ケンイチらしきものが見えている――あ、手を振ったな』
「ははは、そのとおり」
やはり、下にいるのはアキラたちで間違いないようだ。
「もう魔物は討伐したと下にいる連中に伝えてやってくれよ」
『さっき言ったぞ。信じてないようだが、ははは』
まぁ、とりあえず逃げたいのだろう。気持ちは解る。
さて準備は整ったので、あとは下に落とすだけだが……どこに落ちるだろうか。
まずは、なにか落として確認を――と思っていると、いいアイディアが閃いた。
防犯に使うカラーボールだ。ぶつけると色がつくやつ。
シャングリ・ラを検索すると、2個2000円で売っている。
「アキラ、まずカラーボールを落とすので、そいつで位置を確認してくれ」
『カラーボール?』
「コンビニとかで、強盗に投げるのがあるだろ?」
『ああ、あれかぁ』
シャングリ・ラでカラーボールを買い、蛍光オレンジのボールを、足場から下に落とした。
『おおっ! 落ちてきた! オレンジ色になったぞ! ケンイチ、ちょっとまっててくれ』
「どうした?」
『ここに岩を置けば威力が倍増するだろ?』
「そうだな」
どうやら、アキラは自分のアイテムBOXを使って、岩を下に設置するようだ。
そりゃ砂地に落ちるよりは、岩場に落ちたほうが落下ダメージが入る。
しばらく待っていると、彼から連絡が入った。
『ケンイチ、準備完了だぞ!』
「それじゃ、第一弾落とすぞ」
『オッケー!』
『オッケーにゃ!』
「投下!」
アイテムBOXからスケルトンを空中に出すと、哀れな魔物がジタバタしながら下に落下していく。
下を見ると、激突したようだが……。
「アキラ、どうだ?」
『ははははは!』
下から爆笑する声が聞こえてきた。
『にゃはははは!』『こりゃ、ひでぇ! はははは』『こんな魔物の倒し方ってあるのかい!?』
皆、爆笑している。
「どうなってんだ?」
『ケンイチ、一発でバラバラになったぞ?! ははははは!』
「それじゃ、落下ダメージだけでやったのか?」
『そうらしい』
「ほんじゃ、2連発でいってみるか?」
『よし来い!』
アイテムBOXからスケルトンを2体出すと、下に落下していく。
『ケンイチ、1体は粉砕、もう1体は瀕死って感じだな。どのみち戦う必要はないみたいだぜ』
「なんだ、それじゃ連続投下するぞ」
『オッケー』
『オッケーにゃ!』
なにせ、アイテムBOXの中にはスケルトンが150体以上入っている。
効率よく処分しなければならない。
次々と落としているが、下では問題なく処分できているらしい。
獣人たちは、転がった魔石を拾っているようだ。
『ケンイチ、男爵がやってきた』
「なにか言ってるか?」
『魔物の倒し方に呆れているぞ、ははは』
どんな倒しかただろうが、倒せればいいんだ。
男爵が避難しようとしている人々に事情の説明を始めたようだ。
これで慌てて逃げようとする者も、いなくなるだろう。
そのまま鉱山に戻り、仕事を再開する者も出るはずだ。
崖の上からスケルトンを落とす単純作業が終わる頃、日が傾き始めた。
作業が終わったので、女たちを車に乗せると、来た道を戻って坂を下り、アキラたちと合流した。
このまま砂浜で一泊する。
コンテナハウスは、シュロの屋敷に置いたままなのでテントを出した。
魔物退治も済んだし、後処理を済ませればサクラに帰れそうだなぁ。
海で釣った魚で夕飯を食う。
メニューは、魚介類のスープだ。
「ははは、あんなスケルトンの倒し方があるとはなぁ」
ビールを飲んでいるアキラは上機嫌だ。
「アンデッドがアイテムBOXに入るとは思わなかったからな」
「でも、旦那のデカいアイテムBOXがあるからこそ、できる芸当だぜ」
「トラ公の言うとおりだにゃ」
「いやはや、貴族様の奇想天外な魔物退治に脱帽いたしました。このエールも、この世のものとは思えないぐらいの旨さ」
神妙な顔をしているのは、ビールを飲んでいる犬人だ。
「お前、本当に俺の領についてくるつもりか?」
「もちろんです」
決意は固いらしい。
話している間も、アマランサスは俺にべったり。
アネモネが引き離そうとしているが離れない。
だが、今日の活躍はアネモネということで、彼女と一緒に寝ることにした。
ベッドにはベルとカゲも一緒。
とてももふもふ、もふもふなのだが――気温の高いこの南の街では、少々暑い。
ベルとカゲも、すぐに床でぐったりとなってしまった。
仕方なくシャングリ・ラから、扇風機を買って、モバイルバッテリーに接続。
一緒にアネモネには冷却の魔法を使ってもらった。
彼女も暑かったらしい。
「それなら、くっつかなければいいだろ」
「や!」
シャングリ・ラにはクーラーも売っているが、あれは電気を食うからな。
夜中にエンジン発電機はやかましいし……。
だが、魔法と扇風機の併用でかなり涼しくなった。
これぞ異世界式だ。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
お時間があれば、ポイント評価をしていただけると励みになり、作者のモチベーションアップになります。
よろしくお願いいたします。





