21話 他にもいるのか?
――重い……助けてくれ……。
ってマジで重いんだけど! 俺は暗い中、目を覚ました。すると目の前には森猫の顔が……。
「なんだ、お前かよ。重いんだけど」
「にゃぁ」
そう言うと俺の顔に右手を乗せてくる。いや右手じゃないか右前脚だ。
「なんだなんだ」
俺が身体を起こすと彼女はベッドから降りて、ドアの前に座ってこちらを向いている。
どうやら外に出たいらしい。
「解った解った」
ちょっと肌寒い中、毛布を巻いてドアを開ける。外はまだ暗いが、少し明るくなっているようで色が黒から青に変わりつつ――。
一面に薄い霧が発生していて遠くの方が白くなり、立ち並ぶ巨木が溶けて消えている。
森猫がそのまま霧の中へ消えていくのを見て、彼女達の朝は早い事が解った。
「ふぁぁぁ」
明るくなったら起きるのがこの世界だが、さすがにまだ時間が早い。まだ眠いわ。もう一眠りする事にしよう。
プリムラさんの方を見ても安らかな寝息を立てている。
それにしても俺が若い時に結婚していれば、このぐらいの娘がいてもおかしくはないよな。
しかし同じおっさんのよしみとして、こんな美人で出来た娘を他の男に取られるというのは、どんな胸の内なのであろうか?
あのマロウさんの心中を察すると、気の毒すぎて俺は手を出す気にはならない。
しかし俺の行動も、ちょっと迂闊過ぎるかなぁ。
日本語が通じるのと、出会った人が良い人ばかりなので、日本の延長のような価値観で付き合ってしまっている。
隣店のアマナだって、人が良すぎるって言っていたしな。
たまたま出会った人々が良い人ばかりだったので調子に乗ってしまったが、そのうち詐欺や美人局等が、やってくるかもしれないな。
注意しなければ。勝って兜の緒を締めよ――ちょっと意味が違うか?
ちなみに、ここら辺では――森を抜けるまでは喜ぶな――と言うらしい。
俺はベッドに入ると再び毛布を被った。
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明るくなって目を覚ますと、すでにプリムラさんが起きていた。
「お早うございます」
「お早うございます」
普通に挨拶を交わす。
ベッドをアイテムBOXへ収納して、テーブルと椅子を出す。部屋が狭くても収納や物置は必要ないので、このぐらいの広さでも十分に暮らせる。
例えば8畳の部屋でも周囲に机やタンス、棚などを置いてしまえば部屋の中心部分しか使えない。
だがアイテムBOXがあれば部屋が丸ごと使えるのだ。ベッドは普段から置きっぱなしだが、これも収納してしまえば部屋は広々。
何か家の中で工作したりする時や、大人数を呼んでパーティをしたりする時も捗るってわけだ。
さて朝飯は何にしよう。
ミャレーや道具屋の爺さんにも好評だったグラノーラにするか。宿屋のアザレアにも好評だったしな。
皿とスプーンを出して、グラノーラと牛乳を用意する。
「これは?」
「牛乳を掛けて食べる物ですよ。色んな人にも食べさせましたが皆に好評でした」
プリムラさんは早速食べてみるようだ。
「美味しい。これは美味しいですね」
彼女は口に手をあてて、驚いたように目を見開いている。
「乾燥させてありますから保存食にもなるんですよ」
「これは似たような物を作れるような気がします」
さすが商人の娘だな。常に商売の事を考えるのを欠かさない。
「あの……この寝間着を売っていただきたいのですが」
「気に入りましたか?」
「はい」
金色の髪が、ピンク色の寝間着によく似合う。いや、これだけ美人なら何を着たって似合うはずだが。
昨日洗った髪の毛がサラサラに見えるのは、やはりリンスを使ったせいか?
「必要であれば、少量卸す事も可能ですよ」
「いえ、これは私だけの物に……」
そう言って彼女が示した買値は銀貨2枚(10万円)。この手の着物は、このぐらいするそうだ。そりゃこの世界の着物は全部手織りだからな。
しかし、そいつの生地はポリエステルなんだが、大丈夫なのか? プリムラさんは生糸か何かと思っているようだが。
それで通用するなら、それで良いのだが。解析する手段もないだろうし。
飯を食い終わったので、プリムラさんと一緒にマロウ商会へ行く事になった。
取引先のお嬢さんを一泊させてしまったんだ、一応弁明しておく必要があるだろう。
家から出ると、プリムラさんに太陽電池パネルを見つけられてしまった。
昨日は暗くて解らなかったのだろうが、わけの解らん板が沢山並んでいるんだ。そりゃ気になるだろう。
だが魔法に使う道具だと誤魔化しておいた。とりあえず意味不明な事や物は――魔法。これでゴリ押しする。
それに魔法だと言うと意外と納得してくれるのだ。
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プリムラさんがいるので自転車は使えない。2人で歩いて街まで向かうが仕方ないな。
街へ入ると乗り合いの馬車に乗る。一応主要な地点には、この馬車が走っていると言う。だが料金は小四角銀貨1枚(5000円)でかなり高い。
庶民が気軽に乗れるものではない。
赤いソファーに座り馬車に揺られながら、プリムラさんに質問をしてみる。
「プリムラさん。人力車というのは無いのですか?」
「人力車?」
解らないようなので、アイテムBOXからスケッチブックを出して人力車の絵を描いて見せる。
「こうやって人が引く1人用の乗り車です」
「まぁ面白い。でも見たことがありませんわ」
「獣人は走るのが得意みたいですし、こういう仕事があれば、彼等も金が稼げるのにな。それに、これなら馬車より安く出来るでしょう?」
人力車なら、この世界のテクノロジーでも作れるだろう。馬車とそんなに変わらないし。
「中々面白そうですけど、獣人達を家畜扱いしているようで……」
「ああ……そういう見方も出来ますか、それじゃちょっと難しいか」
そういえば、西洋で人力車って見たことがないな。そこら辺が関係しているのだろうか。
マロウ邸へ訪れると、マロウさんが玄関で待ち構えていた。
「どこへ行っていたんだ。連絡も無しに」
「城壁の外にいたのですが、帰れなくなってしまったので、ケンイチさんの家へ泊めて頂きました」
「大切な取引先のお嬢さんを野宿させるわけにもいかず、やむを得ず私の所でお預かりいたしました」
「これは、娘が大変ご迷惑を……」
あれ? 怒られたり抗議されるかと思っていたが、そうでもない。彼女と俺の歳が離れているので、そんなに心配をしていないのか――それとも、それだけ信用してもらっているのか。
「一体、誰に似たのか……」
「お父様に決まっているではありませんか。いい商売があると聞けば、矢の降り注ぐ戦場や、魔物が跋扈する森もお構いなしでは、ありませんでしたか?」
「はぁ……」
マロウさんは、プリムラさんのお転婆ぶりに手を焼いているようだな。
父親としては、娘に商人として国中を渡り歩くより、落ち着いて家庭へ入ってほしいと考えているに違いない。
そりゃ、こんな可愛い娘を危険な目には遭わせたくないわなぁ。俺だってそう思う。
「その甲斐があって、良い商品を仕入れる事が出来ましたよ」
「困った娘だ」
マロウさんの書斎へ通されて、商売の話になる。机の上に、バスタオルやバスローブ、プリムラさんが買った物とは別デザインの寝間着が置かれている。
「ほう、これは変わった布だ。湯浴みの際の拭き布や、風呂上がりに着るものですか」
「吸水性に優れて、肌触りも良いと思います」
バスローブの卸値は1着銀貨1枚(5万円)、タオルは1枚小四角銀貨5枚(2万5千円)だ。それぞれ5枚ずつ卸す事になった。
すでにデカい買い物を全て済ませてしまって家まで建てた。
後はスローライフをするだけのメシ代を稼ぐだけで良いのだから、別に派手な取引はする必要が無い。
ベッドの中で考えていた、シャングリ・ラのブラックホール問題もある。これからは少々取引を控えるつもりだ。
「こんな物もあるのですよ」
俺はシャングリ・ラから、向こうが透けて見えるピンクのセクシー系の寝間着を取り寄せた。
だが俺が広げた物を見たマロウさんが目を覆う。
「おお、なんと破廉恥な……」
「まぁ!」
父親の表情に対して、プリムラさんの目がキラキラと輝く。
「これぞ! ――という意中の男性の前で、これを着ればどんな堅物もイチコロという――」
そう言いかけたのだが、マロウさんの表情を見て、それを引っ込めた。
「申し訳御座いません。悪ふざけが過ぎたようです」
「ああ……」
アイテムBOXへ仕舞った透け透けに、プリムラさんが残念そうな表情を見せて手を伸ばす。
少々気まずい雰囲気が漂う中、ドアが開いてメイドさんが沢山の帳簿を持ってやって来た。このメイドさんは、俺の露店から洗濯バサミと銀細工を買った女性だ。
「さすが大店ですね。帳簿が山のように」
「帳簿の方式が新しくなりまして、書き換えている最中なのですよ」
「ほう? どのような方式なのでしょう?」
異世界方式ってあるのかな? 俺は常に丼勘定だからな。シャングリ・ラの残金と、アイテムBOXに入っている硬貨の数でしか見ていないし。
「これは最近、帝国で発明された複式簿記という物でして。大変な優れ物ですよ」
「え? 複式簿記ですか?」
「ご存知で?」
「いやぁ、その名前だけは……」
マロウさんの話では、帝国のとある地方商業都市で、そこのギルド長が発明したらしい。
あっという間に帝国中に広がり、その実績から発明したギルド長は、次期の商業大臣に推される可能性が高いと言う。
しかし複式簿記か。偶然なのか――それとも……。
俺が思案していると、帳簿を持ってきたメイドさんが、プリムラさんの髪の毛をじっと見ている。
「お嬢様……御髪が」
彼女が、プリムラさんの髪の異変に気がついたらしい。
「ああ、これは――その」
プリムラさんが俺の方へ向くので、メイドさんが俺の方へやって来た。
「じー」
見てる見てる。
「なんでしょう?」
「じー」
俺の問い掛けにも、ただひたすらに、じっと俺の事を見続けるメイドさん。正直怖い。
「じー」
彼女の無言の圧力に、ついに俺は折れてしまった。
「解った、解りました。貴方にも差し上げますので。でも、くれぐれもご内密に」
それを聞いたメイドさんが、コクリと頷く。
こういうタイプは苦手だ。下手に断ると、いきなり刺されるかもしれん。
プリムラさんが気まずそうな顔をしているが、彼女は確かに何も言っていないからな……。
「それはそうと、お父様。今日はアレの実験の日ではありませんでしたか?」
「そうだ。品物が出来上がったと職人から連絡があったので、今日の午後に試験をするよ」
「それならば、そこでケンイチさんが持っている物も一緒に見ていただきたいのですが」
「外でか?」
「はい、大きな物なので」
彼女が言っているのは、ドラム缶風呂の事だろう。しかし新製品の試験って言ってるな。何を作ったんだろう? ちょっと気になる。
「ケンイチさん、よろしいですか?」
「私は良いのですが新製品の実験に部外者が立ち会ってもよろしいので?」
「ああ、構いませんよ」
商会トップのマロウさんの許しがあるなら良いのだろう。
だが、それは午後からか。時間があるな――。
「それならば私は午後に、もう一度お伺いしたいと思いますが」
「承知いたしました。それではお待ちしております」
午後まで時間がある。それなら冒険者ギルドへ行って登録をしてこよう。
プリムラさんに冒険者ギルドの場所を聞くと大通り沿いにあるという。
高い料金の馬車に一々乗っていられない。30~40分も歩けば到着するのだ。
通りにあったのは、剣と盾の看板が掲げられた石造りの2階建ての建物。結構古い物で中々に風格があり、建物の端が蔦で覆われている。
窓にはガラスが入っているので、中に入っても明るい。
結構人がいて賑わっているが――そりゃ、この世界のハロワだっていう話だからな。職を求めている人が沢山いるんだろう。
とりあえず正面の窓口へ行ってみる。白いブラウスに赤いベストのお姉さんが対応してくれた。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で?」
「登録をお願いしたい」
「はい、承知いたしました。お客様、他のギルドへの登録はなされていますか?」
「ああ、商業ギルドへの登録をしています」
「それでは登録料銀貨1枚と、ギルドの証をここへお願いいたします」
どうやら、ギルドの証は共通で使用できるらしい。そりゃ便利だな。また書類とかを書かなくても済む。
お姉さんが奥へ引っ込むとすぐに戻ってきた。
「登録が完了いたしました。お仕事の依頼は、あちらの掲示板へ貼り出している物をご覧ください。また特殊な件は窓口でもお伺いしております」
「ありがとうございました。あの~依頼とは別に買い取ってもらいたい物があるんですが?」
「それなら、一番左端の窓口へどうぞ」
言われるままに一番左端へいく。
「おう、何を持ってきたんだい?」
そこに居たのは、全身に傷が目立つ口髭を生やした、ごついおっさんだ。なんだか歴戦って感じがするな。
「角ウサギを1匹頼む」
「丸ごとかい?」
「肉だけ貰えるかな? その他は買い取りで」
俺がアイテムBOXからウサギを出すと、男が驚く。
「アイテムBOXか、久々に見たぜ。それに、まだ温かいじゃねぇか」
男は何やら黒板を見ながら、チェックをしている。予定が入っているのだろう。
「夕方には出来てるから取りに来な」
そう言われて数字が入った金属製のチップを渡される。これが引換証らしい。失くさないようにしないとな。
ついでに依頼が貼られている掲示板を見てみる。
珍しい薬草採り、探しもの、尋ね人――何でもあるね。その一番上段には高額賞金の指名手配犯の似顔絵が貼ってある。
以前に聞いた、シャガという野盗の物もあるようだ。頬に大きなキズがある親玉に懸かっている賞金は――金貨100枚(2000万円)だ。
野盗は50人程いるらしいが、ギルドからの賞金プラス国からも報奨金が出るらしいので、全滅させればかなりの金額になると言う。
稼ぎに税金等は取られないが、獲物の処理を頼んだり色々とすると手数料が取られるようだ。だが、そのぐらいは仕方ないよな。
冒険者ギルドを出ると少し早い昼飯にすることにした。
立ち食いの店に入ると料理を頼む。
ごく普通の野菜と肉が入ったスープとパンだ。何の肉だか解らんが一口すする――う~ん、イマイチ!
隠れてアイテムBOXから、だしの素を出してパラパラと振り掛ける。
「うん、美味い!」
ほんの一振りで、イマイチの料理が普通に食えるようになるのだから旨味調味料は偉大だ。
ウチの田舎の爺婆共も、その味に感激したのだろう。なにしろ戦中戦後の貧しい食事がご馳走になったのだから。
その記憶が鮮烈なのか爺婆は山のように旨味調味料を入れる。
後は砂糖。どんな料理でも大量に砂糖を突っ込むので辟易した事がある。だが甘い物イコールご馳走だった世代なのだ、それも致し方ない。
だが納豆やトマトにも砂糖を掛けるのは勘弁してくれ。美味い上等な刺し身にも旨味調味料を掛けて食うし……。
いや、異世界でそんな感慨に浸っている場合ではないな。
飯を食い終わったので、またてくてくと歩いてマロウ邸まで戻ってきた。
街中でも自転車が使えれば楽なのになぁ。だが初期の自転車で地面を蹴って進むタイプがあったじゃないか。
あれなら、この世界でも作れるかもしれない。
マロウ邸へ赴くと実験とやらの準備は整っていた。場所はマロウ邸の裏庭にあった井戸。
だが、そこにあったのは――。
「これは、ガチャポンプ?!」
俺の言葉にマロウさんが反応した。
「ご存知でしたかな?」
「この棒を上げ下げすると、井戸から水を揚げられるカラクリで御座いましょ?」
「ほう、さすがケンイチさん。お耳が早い。これも帝国で普及し始めた物なので御座いますよ。早速取り寄せて職人に試作品を作らせたところです」
さすが著作権や特許がない世界だ。すぐにコピーしまくり。
いやしかし、ガチャポンプとはな。昼前の複式簿記もそうだが偶然にしちゃ出来すぎだ。元世界からやって来た奴が俺の他にもいる?
まじかよ。
複式簿記を発明して、帝国の商業大臣になるって男がそうなのか?
だが帝国は敵国らしいし接点はなさそうだな。機会があれば会ってはみたいとは思うが……。
俺が他の転移者について考えていると実験が始まった。
マロウさんが、ポンプのレバーを一生懸命動かしているのだが一向に水が揚がってこない。
「水は出てきませんね、お父様」
「そのようだな」
2人が途方に暮れているので俺が代わる。だが、レバーを動かしても手応えが無い。
これは俺が作った井戸と同じ現象だ。中に水が入っていないので、ポンプが空回りしているのだ。
「これには呼び水が必要なのですよ」
釣瓶に入った水をドボドボとガチャポンプの上から注ぎ入れる。それから、レバーを上下させると綺麗な水が滔々と流れ始めた。
「お父様!」
「おおっ! これは凄い! すぐに生産をしなくては!」
その後、俺の持ってきたドラム缶風呂もマロウさんに見せたのだが、ガチャポンプの後ではインパクトに欠ける。
風呂よりは、このポンプの方が明らかに売れるだろう。マロウさんの反応も宜しくない。一旦、保留という事になった。
そりゃ風呂よりはポンプの方が売れるよなぁ。今すぐに必要な物だもん。
「ケンイチさん、申し訳ございません」
「いえいえ、プリムラさんのせいではありませんから。それに、このカラクリの方が絶対に売れますよ」
でも、ちょっと悔しいので、アイテムBOXからスケッチブックを出して脚で蹴って進む自転車の絵を描いてみた。
「プリムラさん。こんな乗り物はどうですか?」
「ほほほ! これは何ですか?」
「脚で地面を蹴って進む乗り物なんですが」
「ほほほほ! お父様これを見て下さい」
プリムラさんは腹を抱えて大笑いしている。余程、ツボに入ったようだ。
「ん? ははは! これは珍妙だ。ケンイチさんは絵もお上手だが、冗談の素質もお持ちとは」
どうも、相当に珍妙に見えるらしい。何事もパイオニアってのは嘲笑の対象になるものだ。
この世界で空を飛べると言ったりしたら爆笑されるだろう。
「しかしこれは、走ったりするより速く移動できて、疲れない乗り物になると思いますよ。好事家に売れませんかねぇ?」
「ふぅ――そう言われてみれば、走るよりは楽そうに見えますなぁ。機会があれば作らせてみましょう」
機会があればってのは無理かなぁ。プリムラさんはまだ笑っているし。
俺のマウンテンバイクを見たら、彼女は何と言うだろうか。
マロウ邸からの帰り、冒険者ギルドで処理済みのウサギの肉をもらう。
毛皮と角は小四角銀貨1枚(5000円)の買い取りだった。肉も食えるし、1日1匹捕れば普通に生活出来ちゃうよな。
――だが、その一ヶ月後。
1台の足蹴り式の自転車を街の中で見かけた。話を聞けば、マロウ商会で売りだした物だと言う。
それから2台と3台と数が増え、いつの間にか街の中で普通に自転車を見かけるようになった。
絵に描かれた自転車を笑っていたマロウさんではあったが、数日後その便利さに気づいて試作品を作ったと言う。
それを街の中で走らせて、デモンストレーションを行なって宣伝をしたようだ。さすが一流の商人だ、儲ける事には鼻が利くらしい。
役所の連絡等にも用いられているようで、元世界のメッセンジャーに近い職業か。
そして俺は、アイディア料として金貨5枚(100万円)をゲットした。
元世界の特許料に比べれば安いと思うが、ネタに金を払ってくれるだけかなり良心的だ。
だが、これで俺のマウンテンバイクを見ても、あまり怪しまれる事は無くなるかな?
まぁ街の中で、あれに乗ろうとは思ってないが。
マロウさんは自転車という発明で国の改革をしたという功労が認められ、領主から表彰を受けて、苗字――家名を許される事になったらしい。
もちろん自転車のアイディアを俺が出したという事は内緒にしてもらっているし、俺の名前は一切出てこない。