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198話 小さな村


 ダリアでの用事を片付け、俺たちは南の港町オダマキに向かうことになった。

 道の途中、脱輪している馬車を助けると、森猫の子どもをゲット。

 助けたのはいいが、ここで放すわけにもいかず、旅に同行させることに。

 そのまま街道を走り続けたのだが、さすがにオダマキへの道のりは遠く、一日で走破はできない。

 途中で一泊しようとすると、ちょうど街道の右手に村が見えてきた。


 以前、シャガという野盗を討伐したのだが、そのときに囚われていた女たちを解放し、出身の村に送り届けた。

 そのうちの1人がここの出身だったような気がする――というわけで、その村に向かいキャンプする場所を貸してもらう交渉をすることにした。


 街道から脇道に逸れて、2台の車が村に向かう。

 一応、柵らしきものもあるのだが、朽ちていてボロボロ。

 村の様子もゴーストタウンのように見えているのだが、人はいるようだ。

 アキラと一緒に車を降りると、村人が何人か集まってきた。

 ボロボロの服と穴の開いたズボンを穿いた、爺さんと婆さん。

 その後ろには、麻のワンピースを着た中年の女性。


「あの……なんの御用ですかな……?」

「ここの長はいるだろうか? 旅の者なのだが、端っこでいいので野営する場所を貸していただきたい――と思ってな」

 村人が顔を見合わせるが、すぐに長を呼ぶために戻っていった。


「貸してもらえるかな?」

 アキラも心配そうだが。


「こういう集落ってのは、よそ者に厳しいからなぁ」

「短期のアルバイトみたいな感じだと歓迎されるんだが――実際に引っ越してくると、なんか疎外されるよな」

「ああ、わかるな。ははは」

 アキラの話に苦笑いするしかない。

 元世界の俺の集落でも、外から来た人ってのはちょっと疎外されてた。

 孫の代になると、よそ者だって知ってる人もいなくなるから溶け込めるって感じだったな。

 そういうところは都会のほうがいいのかもしれない。


 アキラと2人で10分ほど待つ。他の皆は車の中だ。

 駄目だと言われたらすぐに移動しないといけないからな。

 少々心配になってくると、村人たちと白髪の爺さんがやってきた。

 村人の数はさっきより増えているが、皆ボロボロな格好なのは同じだ。

 ここは裕福な村ではないらしい。

 水源から離れているし、ここらへんは雨も少ない。

 農家をするのは大変だろう。

 女性が多く若い男が少ないのだが、出稼ぎに出ているか、村を捨てて稼げる街へ行ったのかもしれない。

 余裕のある者、能力のある者から脱出してしまう。


 ここじゃ離農は別に違法じゃないからな。

 ここら辺は貴族の治めている土地ではないらしいが、どこかの領ならば――まともな貴族なら援助をしてくれるだろう。

 その場合、村を脱走する者がいるなら領主が悪いということになる。


「旅のお人、野営の場所を貸してほしいということだったが」

「ここの村長かい?」

「ああ」

「別に怪しい者じゃない。俺はケンイチ・ハマダ――貴族だ」

 その言葉を聞いた皆が驚く。


「き、貴族様でございますか? これは大変失礼いたしました」

「そして、あちらにいるのは、マロウ商会だ」

「マロウ商会というと、ダリアの大店の?」

「そうだ」

 俺の話を聞いた住民たちがざわつく。


「なに、もてなせとか言っているわけじゃないんだ。村の隅っこでいいから野営する場所を貸してもらえればいい。それにタダとはいわん」

 ざっと見たところ、村人は10人ってところか。

 俺はアイテムBOXから、ダリアの森で採った黒狼のむくろを3体出した。


「こいつをやる。肉が食えるぞ」

「アイテムBOXだ!」「おおっ!」「黒狼だ! 3匹も!」

「どうだ? 食えるならもうちょっと出すが」

 ダリアの森だけじゃなく、ノースポール男爵領でも黒狼を仕留めたからな。

 通貨として使えるなら、どんどん使っていきたい。

 黒狼の毛皮を見て――俺たちからちょっと離れた場所で、住民たちが輪になった。

 その中に白いブラウスを着ている若い女がいる。

 彼女が俺が助けた娘だろう。彼女には悪いが――正直よく覚えていない。

 森の中で、雀の学校をしていた女たちは、一緒にしばらく暮らしていたので、よく覚えているのだが……。


 待っていると結論が出たようだ。


「承知いたしました。なにもおもてなしできませんが……」

「ああ、大丈夫だ。こちらで用意させてもらうので心配いらない。それより黒狼は3匹でいいか? もう少し出せるが」

 その俺の言葉に、また井戸端会議になってしまったが、すぐに結論が出たようだ。


「それでは、ご無礼を承知でもう一体……」

 村長の顔からすると、生活は厳しいらしい。


「解った」

 アイテムBOXからもう1匹出した。


「おおおっ!」「肉だ!」

 早速、村人は黒狼を解体するらしい。

 むくろを喜び勇んで運んでいった。


「それから村長。ちょっと頼みがあるのだが」

「なんでございましょう?」

「空き家はないか? あれば買い取らせてほしいのだが」

「空き家でございますか?」

「ああ、俺の領地では家不足でな。移築できる家を探している」

 少々ボロでも、ゼロから建てるよりは早いし、倉庫に使う手だってある。

 屋根の応急処置なら、ブルーシートって手もあるしな。


「領地? あの領主様なので?」

「ああ、ダリアの向こう、アストランティアの隣にハマダ辺境伯領というのができたんだ」

「おお……」

 空き家はともかく――キャンプはOKということなので、皆を降ろして食事の準備をしてもらう。

 アイテムBOXから、食事の道具を出して並べると、カールドンのコンテナハウスを出す。

 俺たちのコンテナハウスはあとでいいだろう。


「ケンイチ様ありがとうございます」

「カールドン、たまには一緒に飯をどうだ」

「申し訳ございません。他人と食事をするのは苦手でして……」

「解った、気が向いたら声をかけてくれよな」

「承知いたしました」

 まぁ、無理強いはよろしくない。


 飯の準備は女性陣に任せて――俺はマロウと一緒に、村長と家を見に行った。

 アキラにはビールを渡して、飲兵衛たちに配ってもらう。


「ほんじゃ、俺は先に飲ませてもらうぜ」

「今日の運転ありがとうな」

「いいってことよ、ははは」

 売ってもいい家は5軒ほどあるらしい。

 ボロボロなのもあるが、程度のいい物件もある。

 マロウと相談して値段を決めさせてもらう。


 程度のいい物件は金貨5枚(100万円)、ボロ屋は金貨2枚~3枚(40万~60万円)ということになった。

 合計で金貨18枚――360万円だ。

 少々足下を見てしまったようだが、これも商売だ。

 それに使ってない空き家が金になるなら、住民たちもありがたいだろう。

 それで終了かと思ったのだが、村長がまだ用事があるようだ。

 俺たちが村中を見て回ったので、村人全員が集まってきてしまった。

 おそらくは20人ぐらいだと思われるが、皆ボロボロの服で痩せこけている。

 みるからに栄養状態はよくない。


「あの……マロウ商会ということは、物資をお持ちなのでは……」

 村長の話では、ものが不足しているらしい。

 ここで金貨をゲットしても、店もなにもないからな。

 近くの店といえば、街道沿いにある宿場町まで行くか、流しの商人を待つぐらいしかいない。


「あいにく……」

 ――と、言いかけたマロウを止める。


「なにか欲しいものがあるのか?」

「はい、小麦粉と塩を……」

「解った、融通してやろう」

「おお……」

 シャングリ・ラで小麦粉を検索する。

 この世界で小麦粉といえば全粒粉だ。ん~25kgで7000円のものがある。

 こいつを20袋と、次に塩――。

 塩はこの世界では高価だが、シャングリ・ラなら安い。25kgが2500円で買える。

 こいつを2袋――小麦粉と塩、どちらも紙の袋に入っている。


「ポチッとな」

 空中から、ドサドサと紙の袋が落ちてきて山積みになった。

 料金は金貨1枚――この世界の相場に当てはめると、これでも安いらしい。

 出血サービスになるが、建物を安く買い叩いてしまったし、サービスってことで。


「おおおっ!」

 村長が感激して涙を流している。


「ありがとうございます!」

「村の家を売った金で物資を買ったんだから、礼を言わなくてもいい」

「いいえ、これでこの村はしばらく食っていける」

「しばらくって――そのあとはどうする?」

「う……」

 村長はそのまま黙ってしまった。


「俺の領でも領民を募集している。希望者がいれば受け入れるぞ」

「アストランティアの近くでございましょう? とてもではありませんが……」

 引っ越しをするための、馬車や馬――そして金もないってことなのだろう。

 着の身着のまま出発したとしても、ハマダ領まで約500km、1日25km歩いたとしても20日かかる。

 その間の食料や金なども必要だ。

 その日暮らしのカツカツなのに、そんな金など用意できないのだろう。


「希望者がいるなら、俺が連れていってやるが」

「はい?」

「俺たちは、オダマキに向かう最中なのだが、その帰りなら――あの乗り物に乗せて連れていってやる」

「ほ、本当でございますか?」

「ああ、荷物があるなら、俺のアイテムBOXに入れて持っていってやるぞ」

「おお!」

「その前に言っておくが、俺の領は未開の僻地だ。それなりの苦労はするぞ」

「しかし、ここよりは……」

「そうだな、俺の領で飢えている民はいないし」

「真に、真に……」

「俺がここに戻ってくるまでは、その小麦粉でなんとかなるだろうか、それまで待っててくれれば、帰りに寄らせてもらう。そのときまでに希望者を募っていてくれ」

「かしこまりました」

 村人が、500kgの小麦粉に群がった。


「やった! これでしばらくパンが食える!」

 村人たちが、25kgの袋を抱きしめている。

 パンを作れるってことは、酵母とかはあるんだろうな。


「あと、病人はいないか? 治療できるか解らんが、診てやってもいいぞ」

 住民たちが顔を見合わせる。

 話を聞くと、ちょうど熱を出している男がいるらしい。

 夕方で暗くなりつつある中――その男がいる家に行くと、見えてきたのはバラックでできたような粗末な家。

 中に入ると家の中は真っ暗なのでLEDランタンを取り出す。

 頭のハゲた初老の男がベッドに寝かされ――熱があるのだろう、おでこには濡れた白い布が乗せられていた。

 顔をしかめて、苦しそうな表情をしている。


「彼は、どうしたんだ?」

「あの、焚き木拾いをしていて脚に怪我をしてしまい……」

 麻のワンピースで、茶色になった前掛けをしている、ちょっと小太りの女性が答えた。

 白髪交じりで同じく初老なので、彼の妻なのだろう。

 ベッドの毛布をめくると、左のふくらはぎが腫れているようだ。

 満足に消毒もできないので化膿している。


 けが人の身体に手をかざすが、脚以外に悪い場所はない。

 アイテムBOXから消毒用のアルコールを出して、傷口を拭く。

 ナイフも取り出して消毒すると、男の脚の下にバスタオルを重ねて敷く。

 膿を出すために切開すると、臭くて黄色いドロドロが溢れ出した。

 ベルの傷を治療するために使った、生理食塩水と抗生物質があったはずだ。

 そいつをアイテムBOXから取り出して、傷口の中までしっかりと洗うと、抗生物質のクリームを塗り込んだ。

 最後に俺の祝福の力を使うと、男の顔が和らいだ気がする。

 魔法と近代医学の複合技だ。


 アイテムBOXから消炎剤を取り出す。

 その薬とカップに入れた液体の栄養補助食品を一緒に女性に渡した。


「こっちのカップを飲ませてから、薬を飲ませてやってくれ。明日の朝、もう一度診てやる」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 女性が、薬を握ったままペコペコと頭を下げている。

 単純な化膿ならこれで大丈夫だと思うが――破傷風だったりしたら、祝福で治るのだろうか。

 ちょっと心配だな。


 仕事は済んだので、食事の準備をしている皆の所に戻ることにした。

 キャンプのあちこちにLEDランタンが置かれて、そこだけ別世界のように明るい。

 アマランサスがアマナと一緒に、アキラからもらったビールを飲んでいた。


「アマランサス、ここの住民で移民を希望している者がいるらしい。帰りに何人か連れて帰ることになるだろう」

「承知した。確かに――この村では先は望めぬだろうて」

「ここら辺じゃ大変だよねぇ。この村って、旦那がシャガから助けた女を送ってきた所だろ?」

「アマナも覚えていたのか?」

「そりゃまぁ……」

 こんな場所じゃ、貴族が治めても赤字になるので治めないらしい。

 貴族だって経営だからな。不毛の地にいくら金を突っ込んでもリターンが望めない。

 元世界のような灌漑技術があれば別だが、この集落のために大事業の投資をしても回収はできないだろう。

 マロウも同じく首を振っている。

 彼の金儲けに対する嗅覚は特別だ。それが反応しないってことは、望みはない。

 商売は慈善事業ではないし、可哀想だからといって、感情論だけで動いては破綻する。

 俺とて、タダで助けるわけではない。

 善良なる領民と、働き手が欲しいからである。

 アマランサスもそう思っているから、俺の考えに同意した。


「悲しいけどこれ、現実なのよね」

 ビールを持ったアキラが誰かが言ったセリフをつぶやく。

 そのとおりだ。


 今日の夕飯は、黒狼のスープと肉野菜炒め、そして串焼き。

 獣人たちのメニューは、カレー粉をかけてスパイス風味になっているらしい。

 マロウ商会のメイドである、マーガレットもカレー風味にして食べている。

 獣人と一緒で彼女もカレーにとりつかれた人間である。

 カールドンはいつものように自分のコンテナハウスで食べているようだ。

 ベルとカゲにも猫缶をやると、美味しそうに食べている。


 飯を食っていると、白いブラウスを着た女性がやってきた。

 茶色の巻き髪を後ろで結んでいるが、腰の辺りまで長さがある、田舎のお嬢さんって感じだ。

 俺がシャガの所から助けた女性だろう――正面から見たら、なんとなく思い出した。

 顔はやつれていて身体も痩せており、見るからに栄養状態はよくない。


「あの……私のことを覚えていらっしゃいますか?」

「ああ、シャガの所から助けた女性だろ? 元気だったか?」

「はい! あなた様からいただいたお金で、母を看取ることもできました」

 ああ、人目があっても村に帰りたいというのは、そういう事情もあるのか……。


「苦労したんだな」

「本当に、ありがとうございました。あの……貴族様になられたとお聞きしましたが……」

「ああ、色々と活躍してな、ははは」

「ワイバーンも倒して、お城のお姫様も助けたにゃ!」

「あの獣人の女性も、助けにきてくれた方ですよね」

「そうだ。一緒にあそこから助けたマロウ商会のお嬢さんも一緒だし、彼女も知っているだろ?」

 俺はパンを食べているアネモネを指差した。


「はい、シャガに雑用をさせられていた女の子ですよね」

「今じゃ、我が領の立派な魔導師様だ」

「魔法が使えるのですか?」

「ああ、才能があったらしくてな」

 アネモネに光よ!(ライト) の魔法を使ってもらう。


「凄い、本当に魔法が……」

「私も側室になったのですよ」

「マロウ商会のお嬢様が、貴族様の側室ですか? あの……あの方も一緒でしたよね?」

 女性がアマナの方を見た。


「はは、彼女は違う。今回の旅に勝手についてきているだけだ」

「なんだか面白そうだしねぇ。こうやって美味い料理と美味い酒が飲めるんだから、たまらないねぇ」

 まったく遠慮しないのが、アマナらしい。

 そういえば初めて獣人たちと河原で飯を食ったときもついてきて、一緒に飲み食いしてたな。


「シャガのアジトから、ダリヤの街に行った女たちも、皆元気に暮らしているぞ」

「そうなのですか……」

「俺たちと一緒に戦った魔導師の爺さんと暮らしている女もいるし」

「中々やるにゃ!」「はは、そうだよなぁ。あの爺さんが死んだら、店がもらえるんだし」

 ニャメナの言うように、あの女性がそこまで考えているとは思わないが……。

 傍からはそう見えても不思議じゃないな。


「ウチの領で領民を募集している。興味があるなら帰りにここに寄るから、それまでに考えておくといい」

「はい」

 彼女を食事に誘ったのだが、村の皆と黒狼を食べるようだ。

 ここの住民たちにとっては久々の肉のようだしな。


 飯を食い終わるとコンテナハウスとテントを出した。

 その前に皆で固まり、アネモネの魔法を使ってもらう。


洗浄クリーン!」

 前は苦労して風呂に入っていたのだが、アネモネの魔法が使えるようになったので、魔法に頼ることが多くなった。

 非常に便利なのだが、1週間に1度はお湯に浸かりたい。

 アキラに聞いても同じ感想なので、やはり日本人の性ってやつだろうか。


 ――そして暗くなる。

 外に明かりはないので真っ暗だが、村には灯りがついている家が多い。

 久々のごちそうなので、楽しんでいるのだろう。

 寝る前にスライムの世話をしてから寝るとするか。

 2つに切ったら2匹に増えてしまったのだが、両方まだ生きている。

 毒芋を食わせたら魔石ができたので、そいつを取り出したのだが、それで死ぬことはないらしい。

 魔石のない魔物もいるし、魔石があれば能力が底上げされる――黒い石はブースターのような役割らしい。

 現在、食わせる毒芋の重量を測って、何gの魔石ができるかのデータを収集しているところだ。

 本格的に養殖するとなると、データは大切だからな。

 ここら辺が日本人らしいといえば、日本人らしい行動かもしれない。


 スライムの世話も終わり――今日は獣人たちと寝ることにした。

 ベルとカゲも一緒だ。

 皆にブラシをかけてやる。

 カゲの毛艶はまったくないが、毎日美味いものを食って、ブラッシングしてやればピカピカになるに違いない。


「みゃー」

 ブラシをかけられて、カゲも気持ちよさそうに目を細めている。


「次はウチにゃ!」

 裸のミャレーが抱きついてきたのだが――。


「なうーん」

 変な声を出して、ニャメナがスリスリしてきた。

 どうも少々酔っ払っているらしい。


「よしよし、それじゃニャメナからやってやるか」

「トラ公は甘えたにゃ。しょうがないにゃ」

 こういうとき、ミャレーは少々お姉さんっぽい行動をする。

 ベッドに仰向けにさせて、黄色い虎柄の毛皮にブラシをかける。


「なーん」

 ブラシをかけるたびにニャメナの尻がプルプルと震える。

 そのあと、ミャレーにもブラシをかけてやる。

 すごく気持ち良さそうだが――さすがに獣人2人に森猫が2匹。ベッドの上が毛だらけになる。

 いろんな毛が混じっているが、やっぱり黒が多いな。

 アイテムBOXから粘着のコロコロを出して毛を集めたあと――ふわふわの毛皮に包まって寝た。


 ------◇◇◇------


 ――村へやってきた次の日の朝。

 皆で集まって朝飯を食う。いつものようにグラノーラだ。

 朝のメニューはこれが一番簡単で評判がいい。

 足りない者には、パンやゆで卵を食べてもらう。


「アキラ、そろそろレイランさんが恋しくなってきたんじゃないか?」

「ははは、明日にはオダマキに着くんだろ? 早速、街へ繰り出すぜ!」

 女性陣から白い目で見られても、アキラはお構いなしだ。

 サクラ女性ネットワークがあるってのに、中々豪気だ。

 さすがドラゴンを倒した勇者。


 朝食のあと、昨日治療を行った男性の所へ行くと、様子を見に村人が集まってきた。


「おはよーさん。どうだい患者の様子は?」

「すっかり熱が下がったようです! ありがとうございます! ありがとうございます!」

 涙目になった女性が、礼をして洗ったカップを返してきた。

 それを受け取ると男性の身体を確認する。

 彼の身体に手をかざすが反応は――ない。順調のようだ。

 彼女に固形のカロリーバーと薬を渡す。


「これを食べさせて、薬を2~3日飲ませてあげるように」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

 家の外に出ると村人たちに囲まれた。


「貴族様の領に行けば、俺たちも病気になったら診てもらえるんだべか?」

「領には魔導師もいるし、領民になった者にはそれなりの対応をするぞ」

「「「おおっ」」」

「開墾や農業についても補助するし、希望者がいれば読み書き計算も教えてやる」

「「「おおっ!」」」

「ここから、あの鉄の乗り物に乗せて連れていってやるし、荷物も運んでやる」

「「「おおおっ!」」」

 彼らに移民を考えておくように伝え、出発の準備をする。

 すでに乗り気の者も多いようだ。


 しかし、まるごとの村の移築か……。

 大容量のアイテムBOXがあるから、できる芸当だな。

 ここを治めている貴族がいないからできるんであって、どこかの領地なら大問題になるところだ。

 村長にも挨拶を済ませると、コンテナハウスを収納して皆で車に乗り込む。


 村の住民の熱い視線に見送られて、俺たちはオダマキに向けて出発した。

 

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