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195話 グリーンボール


 帝国からやってきたと思われる毒の花が森の中に繁殖しているらしい。

 森の中に広がってしまうと、街道も不通になってしまうし、駆除が難しくなる。

 帝国では、毒の花で放棄された都市もあるほどだという。

 その花を見た獣人の子どもの案内によって、俺たちは花園へやってきた。

 赤くて大輪の美しい花なのだが、これが全部毒。

 この花に詳しいアキラによれば、燃やすのが一般的な駆除方法らしいのだが――。

 

 俺は、アネモネのゴーレムを見て、いいアイディアを思いついた。

 アキラにそれを提案してみる。


「アキラ、ゴーレムのコアを使って花を集めたらいいんじゃね?」

 土を集めてゴーレムを作れるのなら、花を集めてゴーレムも作れるはずだ。


「そうだな! 毒花のゴーレムか。そいつをひとかたまりにして、火を点ける」

「この花畑の中心に集めて火を点ければ、周りの木を切らなくても済む」

「んん、そうすりゃ時間の節約にもなるな」

「よし! やろうぜ!」

 俺はアネモネを呼んだ。


「なぁに?」

 俺がアネモネを呼ぶと、ゴーレムが土に還って崩れ落ちた。落ち葉が辺りに舞う。


「コアを使って、土の代わりにこの花を集められるか?」

「う~ん――多分、できると思うけど……」

「試しにやってみてくれ」

「解った」

 彼女が魔法を使って腐葉土に埋もれたコアを花畑まで移動させる。

 背の高い花の近くまで行って魔法を使うと、コアの周りに花が集まり始めた。

 植物の上部だけではなく、土に埋もれている芋まで掘り起こされて塊になっていく。

 これなら何回かやれば、文字通り根こそぎ駆除することが可能だろう。


「な、なんと!」「凄い!」

 伯爵と騎士が目を丸くしている。


「ご、ゴーレムにこのような使い方があるとは……」

「爺さん、こいつを使って水を移動させたりもできるんだぜ」

「な、なに……?」

「その移動する水に船を乗せれば、水の上を高速で移動もできるんだ」

「なんじゃと? 船じゃと? なるほどのう、こいつはたまげた……」

 アネモネは次々と毒花をコアに絡め取り、塊にしていく。

 塊になったら、コ○ツさんに装備された大剣で両断してコアを取り出す。


「おおっ! 鉄の魔獣がこのような大剣を軽々と!」

 見物しているお客さんたちが驚きの声を上げた。

 北海道の地元で見た、牧草を丸めてサイレージにするのに似ているな。

 あれは円筒形だったが、アネモネのはボール型だ。

 根こそぎ刈られた毒花畑に足を踏み入れると、白い芋が残っている。


「おおい、白い芋を拾って、この箱に入れてくれ」

 獣人たちに、アイテムBOXから出したプラ箱を渡す。


「解ったにゃ!」「それなら俺たちにもできるぜ!」

 一杯になったら俺のアイテムBOXに入れればいい。


「聖騎士様、それは毒芋だと申していたようじゃが……」

 アマランサスは、俺とアキラの会話を聞いていたようだ。


「試しに、俺が飼っているスライムに食わせてみようかと」

 それを聞いたアキラが手を打つ。


「ああ、スライムが食って平気なら、燃やさなくてもいいから駆除が簡単になるかもな」

「そうだろ? 毒をもって毒を制すってやつよ」

 後ろを見ると、獣人の子どもがペタンと地面に座っている。

 彼の隣にはベルがついているので、様子を見に行く。


「大丈夫か? 無理はするな」

「うん」

 病み上がりの彼に椅子を出してやった。


「にゃー」

「お母さん、頼むな」

 彼はベルに任せた。


 作業は順調に進み、アネモネのゴーレムによって花畑の中心に草と芋の巨大な緑色のボールが6つならんだ。


「あのような大剣を鉄の魔獣が軽々と振り回すとは……」

 爺さんがコ○ツさんに感心している。


「作ったドワーフによると、刃はアダマンタイトなのでドラゴンでも切れるそうだが」

「なんじゃと! アダマンタイトじゃと?!」

「ああ、そのドワーフにしか作れないと自慢していたぞ?」

「これが本当にアダマンタイトなら、ドラゴンの鱗も切れるじゃろうが……」

 爺さんはイマイチ信じていないようだ。

 花畑に並ぶ6つの巨大な緑のボール。

 あとは燃やすだけなのだが――俺はその塊を見て、いいことを思いついた。


「アキラ、こんだけ塊になっているなら、アイテムBOXに入らないか?」

 牧草をまとめたサイレージの塊も1ロールとカウントされるはずだ。


「へ? そうか……入るかもな。やってみるか?」

「おう、よし――収納!」

 緑色の草の塊がアイテムBOXに吸い込まれた。


「おお! やった! これなら燃やして危険な思いをしないで済むぞ」

「ケンイチ、その処理はどうするんだ? アイテムBOXの中にあるっていう穴に捨てるのか?」

「さっき言ったが、スライムに食わせるのを考えているが……」

「でも、アイテムBOXに入れた毒の花のボールを出すと、また花粉が四散するぞ?」

「う……そうか。そうだよなぁ……」

 スギ花粉みたいのが、飛び散るわけだ。

 スギ花粉ならアレルギーで済むが、こっちはマジで毒。


「それじゃ、草のボールはそのままゴミ箱に捨てるしかないな」

「俺も、そのほうがいいと思う」

「だが、芋は平気だろ? ちょっと実験したいことがあるから試させてくれ」

「スライムか? 花を燃やすと毒ガスが出るから、燃やさないで済むならそれにこしたことはないんだよ」

「まぁ、より安全なほうがいいだろ?」

「本当にこいつは始末に悪いんだ」

 全草毒だし花粉も毒。燃やすと毒ガス発生と、最悪な兵器みたいなやつだ。

 実際に敵国に故意にバラ撒けば、国力を削ぐことも可能だろう。


「アキラ――こいつを兵器として使われたことはなかったのか?」

「ん? 帝国でも研究はされていたみたいだが、なにせ制御が利かないからな。下手したら自国にダメージが来るし……」

 やっぱり研究はしているのか。


「切羽詰まった国が、一発逆転を狙ってヤケクソで使ったりは」

「こいつは即効性に欠けるからなぁ」

 広がるのに何年もかかるし、広がる方向もコントロールできないとなると、ちょっとな。


「燃やすときに、今回みたいな防護服がなかったらどうするんだ?」

「ひたすら風上に回って、煙を吸わないようにするしかないな」

 彼も実際そうやって駆除をしてきたらしいが、突然風向きが変わったりして危険らしい。

 まずは、多数の人手を使って森を切り倒してから、作業が始まるという。


「それが、こんな数人の作業でできちまうんだから、アネモネちゃんはすげぇよな」

「えへへ」

 アネモネが防護服の透明なシールドの向こうで照れ笑いしている。


「あ~あ、今回も俺のいいところを見せられなかったぜ」

「いやいや、簡単に片付いてよかった――と言うべきだろ?」

「そうだな」


「なんと、帝国を苦しめている毒の花の駆除がいとも簡単に……」

「まったく、伯爵様のおっしゃるとおりで……」

 伯爵と騎士が俺たちの作業を見て驚いているが、まぁ当然だな。


「これが、聖騎士様のお力よのぉ」

 アマランサスが扇子を出したが、防護服を着ているので、いつものポーズもしまらない。

 彼女の言葉を聞いた伯爵が俺のほうをチラ見している。

 おそらく、俺の正体を探っているのだろうが、俺が異世界人なんてお釈迦様でもきがつくめぇ――って、ここに俺とアキラを送り込んだのが神様なら知ってるかもな。


「伯爵様、このパキラお役に立てませんで申し訳ございません」

「気にするでない」

 伯爵が騎士をなだめている。


「伯爵の護衛なのだから、伯爵が無事というだけで十分な仕事をしていると思うが」

「辺境伯様のおっしゃるとおりでございますな」


 デカい草の塊は片付けてしまったので、俺はアネモネとコアを使ってゴミ漁りをする。

 再度、コアを使って毒花の欠片を集めるのだ。

 集まった欠片はプラケースに入れて、アイテムBOXのゴミ箱へ投入する。

 これを数回繰り返せば、確実性は上がるだろう。


「さてと――ここでさらに止めを刺したいところだが……なにかいいものはないかな?」

 そのために、シャングリ・ラを検索――いいものを見つけた。

 除草剤だ。根こそぎ枯らすという遅効性で顆粒タイプのもの。

 元世界で使ったことがあるが、笹などにも使えるから、毒花の根にも効果があるに違いない。


 この手を、最初から思いつかなかったのだが、除草剤が効くには少々時間がかかる。

 可及的速やかにってわけにはいかなかったので、今回の作戦はこれでよかったはずだ。

 今回は時間がなかったが、ハマダ領で花が見つかったときには除草剤攻撃が使えるだろう。


 俺が紙の箱に入った除草剤を撒き始めると、獣人たちから悲鳴が上がった。


「くっ、くさいにゃ!」「なんだ、このにおいはぁ!」

 確かに、こいつは薬くさい。鼻が敏感な彼女たちには堪えるだろう。

 防護服を着たまま、バタバタと逃げ回ってる。

 防護服で毒は防げるが、においは防げない。


「ああ、こいつは植物を枯らす毒なんだ。俺たちでやるから獣人たちは離れていろ」

 アネモネとアキラにも手伝ってもらう。


「ケンイチ、こんなのがあるなら、グ○ホサートなんかもあるのか?」

「ああ、あるぞ。数週間の時間が取れるなら、除草剤攻撃でもいいと思うんだが」

「確かに即効性には欠けるな」

 伯爵と騎士がやってきて、俺たちの作業を見ているが、彼らも臭そうだ。


「辺境伯様、毒を使って毒花を枯らすのでございますか?」

「こいつは1年ぐらい効き続けるから、効果があると思う」

「なんと……」

 多分、これで万全だとは思うが――。


「伯爵、今日の作業の後も、定期的にここを監視する必要がある」

「そうですな……」

「公子経由で、あの獣人の子どもに頼めばいい」

「承知いたしました。では、そのようにいたします」

 こんな森の奥なんて獣人たちじゃないと、遭難間違いなしだ。

 それに移動に時間もかかるしな。

 獣人の脚なら日帰りも可能だろうし、魔物と遭遇しても逃げることができる。

 只人ではそうもいかんし――伯爵も、騎士団などを送って犠牲は出したくないだろう。


 帝国からやってきた毒の花に緊張してやってきたのだが、俺とアネモネとのタッグであっさりと片付いてしまった。


「やれやれ、今回のことで、わしが浅学だと思い知ったわい」

「爺さん、やっぱり帝国の魔法は進んでいるぞ?」

「そのようじゃな」

 彼もそれは解っているだろうが、歳をとってから、新しいことを覚えるってのは中々大変だ。

 俺の歳でも苦労するぐらいだし。

 アネモネぐらい若いと、どんなことでもどんどん吸収できるんだろうけどな。


 作戦は終了したので、引き上げることにして、コ○ツさんを収納した。

 アネモネに魔法で洗浄を頼むため、皆を集めた。


「むー! 洗浄クリーン!」

 黄色い防護服を魔法の青い光が包む。


「アキラ、これで花粉が落ちたと思うか?」

「多分、大丈夫だろ? 帝国でも、この方法だし」

 俺の足下にはベルがいる。


「お母さんも平気か?」

「にゃー」

 大丈夫らしい。


「アネモネ、魔法はまだ大丈夫か?」

「うん!」

「車も魔法で洗ってくれ。黒狼の血と脂でぐちゃぐちゃだし」

「これ、放置すると腐るし錆びるし、大変なんだよなぁ」

 どうやら、アキラにも元世界でのロードキルの経験があるらしい。

 2台の車が並べられて、アネモネの魔法で綺麗になった。


「これで、普通に洗ったら大変だぜ?」

「そうだな」

 魔法万々歳だ。

 作業は終了――皆で車に乗り込むと10kmほど移動して、防護服を脱いだ。


「にゃー! 暑いにゃー!」「死ぬぅ!」

 やっぱり毛皮を着ている獣人たちに、この防護服はつらそうだ。


「気分が悪くなったら、すぐに言えよ」

「解ってるにゃ」

 アネモネの魔法で綺麗になっているとはいえ、油断はできない。

 皆が汗だくなので、再び皆を集めて魔法を使う。

 本当は水浴びをしたいところなのだが、森の中じゃそうもいかない。

 今度は魔法を爺さんが使ってくれた。


洗浄クリーン!」

「ありがとう爺さん」

「この老いぼれには、まったくいいところなしじゃからな。このぐらいはさせてもらわんと」

 皆で防護服を脱ぐと、全部アイテムBOXのゴミ箱へ投入。

 この手の防護服は最初から使い捨てなので、これでいい。

 皆が暑さで消耗しているようなので、シャングリ・ラで経口補水液を購入する。

 500mlのペットボトル24本で、4000円。

 蓋を開けて皆に配る。


「ポ○リでいいのに」

「まぁ、熱中症になるとまずいからな」

「む、これは――甘いというか塩味というか……」

 伯爵と爺さんは、初めて飲む味に少々戸惑っている。


「ケンイチ暑いにゃー!」「旦那助けてくれ!」

 どうやら獣人たちには、これだけじゃ足りないらしい、ぐったりとして舌を出している。

 アイテムBOXの中に水が入っているので、出してやることにした。

 収納から出したプラケースの中に水が並々と入っている。

 この状態でアイテムBOXに入れても、水が溢れたりすることはない。


「アネモネ、この水を冷やしてやってくれ」

「解った――むー! 冷却(リフリジレイション)!」

 アネモネの冷却魔法を見た爺さんが白いひげをなでている。


「ほう! 冷却(リフリジレイション)の魔法は難しいのじゃがのう。いとも簡単にやってのけるの」

「そうなのか? そうは聞いていたが――彼女が普通に使っているので、あまり気にしたことがなかったな」

 獣人たちは、服を脱ぐと魔法で冷えた水をバケツで掬い、頭からザバザバとかけ始めた。

 ミャレーが、ニャンコロにも頭からぶっかけている。


「おいおい!」

 ふさふさの毛皮がペションとなって、獣人たちの身体のラインが浮き出る。

 普段は毛皮を着ているから裸という感じはしないのだが、こう見るとやっぱり裸だ。


「うにゃー!」「あ~生き返るぜぇ!」

「つめたーい!」

 裸になったニャンコロは真っ黒な身体に手足が白い手袋と靴下で可愛い。


「ほう、愛らしいのう……」

「アマランサスもそう思うか?」

「ええ」

 獣人たちの濡れた毛皮を乾かさないと駄目だな。


「お前達、毛皮を乾かす魔道具を出すから待ってろ」

「このまま走って乾かすからいらないにゃ!」

 車も森の中なので、スピードは出せない。

 せいぜい毎時10~20kmぐらいだ。

 森の中なら、獣人たちの脚で走ったほうがかなり速い。

 ちなみに、元世界の地元にいたヒグマも、山の中で凄いスピードを出す。

 追っかけられたら人間の脚では逃げ切れない。

 木登りも上手いしな。


「伯爵、すまんな。不躾で」

「構いませんよ。ここが戦場だとすれば、作法がどうのと言っておられません」

 貴族らしからぬ話の解る御仁だ。

 地方に行くほど、まともな貴族が多いような気がするのだが、気のせいだろうか?

 王都に近いほど選民意識が強くなるのかもしれないな。


 車に乗り込む前に、ドアを全開にしてまるごと魔法で洗浄してもらう。

 もちろんアキラのプ○ドもだ。

 車の中にも花粉が残っているかもしれないからな。洗浄は念入りに行う。

 アネモネに魔法を頼むと、車の中まで綺麗になった。


「ありがとう、アネモネ」

「えへへ」

 彼女の頭をなでてやると喜んでいる。


「魔法って便利だよなぁ。車の中の掃除なんて普通は大変だし」

 俺の言葉にアキラも同調する。


「そうだよな。水もあまり使えねぇしな」

 俺もど田舎で中古の車を持っていたが、洗車も掃除もあまりしたことがない。

 完全に道具として割り切っているからだ。

 どうせ汚れるし。

 まぁ、俺が独身だったせいもあるんだろうなぁ。


 洗浄が終わったので皆を乗せると、森の中を帰路につく。

 濡れた毛皮を乾かすため、裸の獣人たちがアキラの車と並走している。

 ニャンコロは、ミャレーが肩車して万歳――なんだか楽しそう。

 やっぱり獣人たちには、こういう森の中のほうが性に合っているのだろうか。

 生き生きとしているような気がする。


 そのまま10kmほど走ったところで、獣人たちは再びアキラの車に乗り込んだ。


 ――2時間ほどして、街道に到着。

 朝一で出発して、すでに午後2時頃を過ぎ、飯も食べずに移動してきた。

 森の中は危険が多すぎるため食事どころではない。

 俺たちだけならどうとでもなるが、伯爵が一緒なので、危険に巻き込むわけにはいかない。

 俺が住んでいた場所のような街に近い森ならともかく、深部での無理は禁物。

 街道に出れば車のスピードも上げられるのだ。

 まずは安全な場所に到着するのが先決だろう。

 2台の車は街の北門に到着した。


 北門にはまだ銀色の鎧を着た軍がスタンバっているが、伯爵が責任者の男を見つけたようだ。

 彼は車を降りるとその男の所に行き、なにやら話し込んでいる。

 伯爵が車に戻ってくると、軍が撤収の準備を始めた。


「何ごともなく収まり、まったく一安心でございますな」

 ルームミラーで後ろを見ると、戻ってきた伯爵が安堵した表情を見せている。


「早めに見つかってよかった。あの子どもには可哀想だが、怪我の功名ってやつだ」

「そのとおりでございますな」

「しかし、これからだが――このまま黙っているべきか、それともギルドなどに赤い花の注意を促すべきか……」

 俺の言葉に爺さんが反応した。


「そうじゃのう、赤い花を見たら報告するようにしたほうがよくないかの?」

 爺さんの提案に、伯爵が考え込んでいる。


「そうだな……どこかに残っていて手遅れになるとまずい。ここはパルド殿の案に乗るということで」

「それでは、わしのほうから、ギルドマスターに話を通しておこう」

「よろしく頼む」

「まかせてもらおう」

 ダリアだけじゃなくて、他領でも注意が必要だろう。


「それじゃ、ハマダ領の住民や、アストランティアのギルドには、俺から注意を促しておくよ」

「よろしくお願いいたします」

「それから、森のことといえば、エルフにも話を通したほうがいいだろうな」

 俺の口から出たエルフという単語に、伯爵が驚く。


「辺境伯様は、エルフとも交流があるのでございますか?」

「ああ、俺の所にエルフの大使も滞在している」

「なんと」

「彼らに頼めば、森の超広範囲の探索も可能だろう。うってつけだ」

 森に住む彼らにとっても、赤い花は問題になるはずだ。

 無線機のマイクを取った。


「アキラ」

『なんだ?』

「帝国でも赤い花が出たら、森に住んでいるエルフたちも困るんだろ?」

『もちのろん。エルフと共同で駆除したこともあるぜ』

「やっぱり」

 それじゃ、エルフたちにも連絡は必須だな。

 長寿の彼らなら、当然赤い花のことは知っているのだろうし。

 そのまま車2台で市場の近くまでやってくると、爺さんの店で彼を降ろす。


「それじゃ爺さん、ギルドに連絡頼むぜ」

「任せてもらおう」

「今日の給料は、伯爵からもらってくれ」

「そんなもん、いらんわい! なにもしとらんじゃろ」

「一応、魔法を使ってたろ?」

「街の魔導師でも使える魔法では、金は取れんわい」

 車から降りた爺さんは、すぐに店から出てきた巨乳の女とイチャイチャし始めた。


「よくやるぜ」

 呆れて車を発進させると、大通りを進みギルドに向かう。

 森の中で見つけた死体の身元を確認するためだ。

 彼がギルド証の石を持っていたので、すぐに身元が割れた。

 その後はギルドにまかせてマロウ邸に戻ってくると――車の窓を開けてアキラと話をする。


「アキラ、俺は伯爵を送ってくる」

「オッケー」

「オッケーにゃ!」

 ニャンコロはミャレーに抱っこされている。

 大分、回復したようだ。

 彼女が、こんなに子ども好きだとは思わなかった。


 マロウ邸を離れて、車で貴族街までやってくると伯爵邸の門前に到着。

 当然、伯爵が乗っているので顔パスだ。

 屋敷の玄関に到着すると、伯爵と騎士を降ろす。

 大した活躍もできなかった騎士は、暗い表情だが仕方ない。

 毒花は無事に駆除できたし、犠牲者やけが人が出なかっただけでも上々だ。


 車を降りて伯爵に別れの挨拶をすると、護衛のアマランサスも一緒に降りて、俺の後ろに立っている。


「今回は大事にならなくてよかった」

「これも辺境伯様のおかげでございます。このご恩は、必ずなんらかの形でお支払いいたしますので……」

「いや、森であの花が繁殖すれば、ハマダ領や子爵領にも影響が出るゆえ、協力は当然だ」

「し、しかし……無理を申して真珠を譲っていただいたのに、あまつさえ毒花の駆除までしていただいて、なにも礼をしないとなると貴族としても面子が……」

「そうは言ってもなぁ……ハマダ領や子爵領での問題ごとでお世話になることもあるだろうし、お互いさまってことで」

「しかし辺境伯様――」

 そこにエリカがやってきた。


「辺境伯様! ニャンコロは治った?」

「ああ、治ったよ。もう元気だし、獣人たちの長が面倒を見てくれると約束してくれたので、もう大丈夫だ」

「よかった!」

「彼には、伯爵から仕事を頼むので、エリカちゃんが仲介してやっておくれ」

「うん! それじゃ、ニャンコロの所に泊まってもいいの?」

「いや――それはまずいんじゃない?」

「ニャンコロとねぇ――いっしょに寝ると、ふわふわですごく気持ちいいの!」

 彼女がすごく嬉しそうに話した、その言葉に――伯爵が青くなって倒れそうになっている。

 相手が子どもとはいえ、伯爵令嬢が男と一緒に寝たとなれば貞操を疑われる。

 これは非常にマズい。


 彼女は屋敷を抜け出して、外で一泊することもあったという話だったから、そのときニャンコロと知り合ったのかもしれない。

 これがエリカとニャンコロのボーイ・ミーツ・ガールか。

 彼も、まさかエリカが伯爵令嬢だと思ってもみなかったのだろう。


「伯爵、冷静に。あの子どもや獣人たちの協力がないと、森の監視ができない」

「わ、わかっておりますが……」

「あの子どもは、ガレー地区の獣人の長、ニャルニャルサという女が面倒を見ることになった」

「し、承知いたしました」

 愛娘の突然の言葉に彼はかなり動揺している。

 エリカのことは、家庭の問題なので部外者は口出しできない。

 アマランサスと伯爵がなにか話したあと――俺たちはマロウ邸に戻ることにした。


 最後にアマランサスと伯爵がなにを話していたか気になる。

 車の中で聞いてみた。


「伯爵と、なにを話したんだい? アマランサス」

「僭越だと思うのだがぇ、ふふ――聖騎士様が、あまりにお人がよすぎるのでな」

 彼女は苦笑いして答えたのだが、嬉しそうにも見える。


「まぁ、よく言われるよ」

 なんとなく察したので、それ以上は聞かなかった。

 いつまでもまつりごとの難しいことは全部彼女とリリスに丸投げ――ってわけにはいかないのだが、この世界の常識は不明なことが多すぎる。

 俺は素人貴族で、もともとは普通のオッサンだしな。


 森での今後の経過を見守る必要はあるが、問題なく処理できたので今回の作戦は上々だろう。



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