194話 赤い花畑
ダリア近くの森の中に赤い毒の花が咲いているという。
帝国では度々繁殖して毒を撒き散らし、都市を廃墟にさせてしまうこともあるらしい。
ダリアの森の中で繁殖してしまえば、森の中を通っている街道も不通になってしまうだろう。
そうなれば、王国の通商にもダメージを与え、我がハマダ領にも確実に影響が出る。
これはダリアがあるアスクレピオス伯爵領だけの問題ではない。
俺たちは早速、毒花の花畑を知っているという獣人の子どもを案内人に、森の中に突入した。
当然、この地を治めている伯爵も同行しているのだが、森の深部は魔物だらけ。
黒狼の群れは簡単に撃退したが、今度は巨大な牙熊が待ち受けていた。
巨大な黒い魔物が俺たちに向けて突進してきて、威嚇のために立ち上がり、白く鋭い牙を剥き出している。
俺とアキラは車に乗ったまま、魔物と対峙。
2台の車は、フロントを熊に向けたまま、ゆっくりとバックを開始した。
こういう獣は、逃げると追ってくる習性がある。
「アキラ! ゆっくりとバックだ」
『おう!』
相手は巨大だ、無理に戦う必要もない。
相手の体重も数トンの巨躯――衝突すれば、こちらのダメージも計り知れない。
「辺境伯様……」
俺の隣に座っている伯爵が、椅子からずり落ちそうになり、目の前の巨大な魔物に青くなっている。
「大丈夫かの?」
後ろから聞こえてきた爺さんの声は落ち着いている。
さすが歴戦だ。
チラリとルームミラーをみれば――同行している騎士は剣の鞘をフロアに立てたまま固まっている。
「心配いらん」
最初から戦うつもりなら準備もしたのだが、まさか向こうから仕掛けてくるとは思わない。
いまさら、この状態で車から降りるとなると、リスクが大きすぎる。
2台の車がジリジリとバックすると、熊が立つのを止めて4脚に戻った。
その時、アキラの車から青い光が舞う。
『光弾よ! 我が敵を討て!』
「ちょ!」
アネモネの魔法だろう。予想もしなかった魔法攻撃に俺は焦った。
空中に顕現した白い矢が魔物の黒い毛皮に突き刺さる。
確かに命中はしたのだが、牙熊はそのまま俺の車に向けて突進を開始した。
「勘弁!」
俺はアクセルを強く踏むと、ハンドルを右に切って、巨大な魔物の突進を躱した。
車はバックのほうが、くるくると小回りが利く。
その間に、アキラの車は離れてしまったので、敵は俺の車に狙いを絞ったようだ。
再びの魔物の突進をまたバックで躱す。
まるで闘牛だ――オーレ!
「うわぁぁ!」
叫び声を上げる伯爵がやかましい。
「聖騎士様! 妾を降ろしてたもれ!」
「女を1人降ろして戦わせるなんて、そんな恰好悪いことができますかっての!」
「そんなことを申しておる場合ではないわぇ!」
「いいから、黙って座ってろ!」
熊が俺を追い回して、アキラの車のことを完全に忘れている。
そのアキラの車が熊の背後から忍びより、ケツをつついた。
向こうの車はカンガルーバンパーが装着されているので、このぐらいの衝突でも壊れない。
「グワァァァ!」
不意打ちを食らった熊は、立ち上がりアキラの車に威嚇を繰り返している。
「チャーンス!」
俺はアイテムBOXから、トリモチ付きのタイマー爆弾を取り出した。
この手の兵器は消耗する度に作って、ストック済み。
最初は黒色火薬を使った爆弾だったが、今はC-4――プラスチック爆弾ベースで、威力が段違いになっている。
「セットカウントは30秒! これが最後の決め手だよ、ゲ○ル君」
窓を開けると、トリモチ爆弾を持って熊の背中に突撃。
窓からそれを放り投げた。
魔物の黒い背中に爆弾がピタリと貼り付く。
あの体型で背中につけたら、取れないだろう。
「アキラ! 熊に爆弾をつけた! 退避!」
『オッケー!』
その場から逃走した2台の車だが、牙熊はアキラの車を追っかけている。
ケツを突かれたのがムカついたのだろうが――しばらくすると、小爆発が起きて黒い魔物が転がった。
動かなくなった熊は、破裂した爆弾によって背中がえぐれているように見える。
『ケンイチ! やったか?!』
「アキラ、フラグを立てるなよ」
『おっ! やべぇ! フヒヒ、サーセン!』
彼も口に出してから、自分でもヤバいと思ったのだろう。
車に乗ったまま、ゆっくりと黒い小山に近づく。
「アネモネの魔法が効かないなんてなぁ」
「いくら牙熊の皮が魔法を通しにくいといっても、普通なら、あの魔法矢は貫通するじゃろ」
後ろから爺さんの声が聞こえる。
「貫通しなかったのには、なにか原因があるのかい」
「考えられるのは、あの魔物が持っている魔石が大きかった――じゃな」
「魔石がデカかったから、魔法に対する耐性も上がったと?」
「そうじゃな」
「それなら回収してばらしてみないとな」
俺は、熊の近くまで行くと窓から手を出して回収を試みた。
もちろん、アイテムBOXに収納するのだ。
「収納」
俺の思いとは裏腹に反応がない。
アイテムBOXに収納されないってことは、こいつはまだ生きているのだ。
「駄目だ、まだこいつには息があるぞ」
「そ、それでは、それがしが降りて、止めを刺してきましょう」
後ろに乗っていた騎士が、少々ビビりながら答えた。
ここらへんで伯爵にもいいところを見せたいのだろう。
少々心配だが、彼の気持ちも解る。
ドアの開け方を教えて、パキラという騎士を降ろした。
少し離れた場所で、それを見守る。
「可哀想だとは思うが、これも戦いの作法なれば覚悟!」
魔物にそんなことを言っても仕方ないと思うが、それは言うまい。
彼は剣を抜くと銀色の刃を高く掲げた――その瞬間。
「グワァァッ!」
突然、熊が立ち上がった。
最後の力を使って反撃を試みたのだろう。
目の前に立ちふさがった黒い壁のあまりの迫力に、騎士はその場で固まってしまった。
「ヤバい!」
俺が車を動かそうとすると、白い影が熊の下へ向かう。
騎士に向けた魔物の爪による攻撃を下から切り落とすと、そのままこちらに背中を向け、熊の上に仁王立ちになった。
魔物の上に立ったのは、剣を持ったアマランサスだ。
ガウチョパンツとかいわれる幅広でスカートのようなズボンに、彼女の美しいお尻のラインがくっきりと現れている。
少々歳は取りつつあるが、彼女の気高い美しさは健在。
まさに王者の風格だ。
すぐさま、その場でジャンプして前方に一回転すると、振り出された刃で牙熊の頭が真っ二つ。
脳みそを噴き出し、スイカのように頭が割れてしまっては、魔物も息絶えるしかない。
黒い毛むくじゃらは、その場に崩れ落ちてただの小山になった。
「はーっ! はーっ!」
腰を抜かした騎士が、尻もちをついて顔を青くしている。
「アマランサス! 大丈夫か?」
「問題ないわぇ」
「ありがとな」
アマランサスを軽く抱き寄せたのだが、彼女が騎士に向かって言った。
「そのような腕では、主を守ることは叶わぬ」
「……」
彼は剣を置くと、腐葉土に手をついた。
「是非、私に剣の道を!」
「ふはは、奴隷の私に剣を習おうと言うのかぇ?」
「う……」
勢いで手をついてしまった彼だが、冷静に考えれば少々マズいだろう。
彼には伯爵という主もいるしな。
「伯爵が主人である貴殿に、それはちょっとむずかしいな」
「は……」
俺にそう言われて――彼もそうだと思ったのだろう。
そこに爺さんと伯爵が、車から降りてやってきた。
「見事な牙熊だのう」
「爺さん、これはやらんぞ。魔石がデカいってなら使いみちがあるしな」
「解っておるわい」
黒い小山を見ながら、伯爵が青くなっている。
「ふう……魔物がこれほど恐ろしいとは……」
「軍でここまでのこのことやってきたら、大損害じゃのう」
爺さんが黒い毛皮を突きながら、白いひげをなでている。
「まことに」
アキラの車が戻ってきた。
「お~い、ケンイチ! 無事か!」
「ああ、大丈夫だ」
アネモネが降りてきたので、注意をする。
「アネモネ、勝手に魔法を使っちゃ駄目だ」
「ごめんなさい……」
「君が大人扱いしてもらいたいって気持ちは解るが、大人になれば、それに見合うだけの責任も問われることになる――責任って解るかい?」
「うん……」
「まぁまぁ、アネモネちゃん。たまに失敗はあるさ」
アキラが彼女を慰めていると獣人たちもやってきた。
「そうだにゃー! けど、あの魔法で仕留められないなんてにゃー」
「爺さんの話だと、中の魔石が大きいんじゃないかという話だ」
「なるほどねぇ。アネ嬢、気にすることはないぜ。普通なら、あの魔法で真っ二つになってるんだからさ」
「うん……」
彼女も反省しているようなので、これ以上はなにも言わんが、侮りってのは危険だ。
魔物の躯をアイテムBOXに収納した。
「おお……こんな巨大な魔物まで……」
伯爵がアイテムBOXに驚く。
「これさえあれば、軍の兵站も……」
「伯爵、そういうことには協力しないぞ? 王家からの要請なら一考するけどな」
「ほほほ、辺境伯様は逃げて正解じゃな」
「爺さんが言うように、どう考えても――そういう用途にしか使われないのが、目に見えるからな」
俺の言葉に、伯爵が渋い顔をしている。
「その通りでございますが……」
そこにアキラが入ってきた。
「フヒヒ、アイテムBOXを使うのは、平和と正義のためって言わないのか?」
「そんなことを口に出して言うやつに、ロクなやつがいないし」
「まぁな、はは。でも、たまには錦の旗として役に立つ」
「そんな旗を持つのは勘弁してもらいたいね」
「はは、俺もだ」
ちょっと寄り道をしてしまったが、こんなのが今回の目的でない。
再び、皆で車に乗り込むと、森の中をひたすら進む。
すでに、街から30㎞以上は森の深部に入っている。
こんなに森の奥に入ることはめったにないだろう。
アキラの車から連絡が入った。
『ケンイチ、そろそろらしいぞ?』
「そうか、一旦停止してくれ」
『オッケー!』
車を停止させると、皆を降ろして準備をする。
シャングリ・ラを検索して、使い捨ての化学防護服を10着購入する。
1着3000円で、全部で3万円だ。
「ポチッとな」
黄色い防護服が沢山落ちてきた。
「おおっ! 辺境伯様これは?」
「伯爵――こいつで身体を覆って、毒の花粉に触れないようにする」
「これはお城の地下で使ったやつだね」
「ネズミ退治で使った、中が暑いやつにゃ!」「ああ、あれかぁ」
「毒を吸い込むよりいいだろ?」
「なるほど、化学防護服か……こんなものまで作れるのか」
「まぁな」
アキラが、ペラペラのスーツを手に取っている。
ペラペラで使い捨てだが使えればいい。
皆に黄色いペラペラを着てもらう。
顔は透明なプラで覆われていて、ガスマスクまでついている。
相手は花粉だ。毒ガスよりは粒が大きいはずだから、これで簡単に防げるだろう。
「これは珍妙な……」
「伯爵、毒を防ぐためだ、我慢してくれ」
「もちろん承知しております」
「お前さん、こんなものまでもっておるとはのう」
「持っているというか、こいつは魔法を使って作ったものだからな」
「このような魔法がこの世界にあるとはのう」
「だから、独自魔法っていうんだろ?」
「確かにそうじゃが……」
爺さんが自分のひげをなでようとしたが、ガスマスクをつけているので、空振りしている。
アネモネと獣人の子どもは、サイズが合わないので、折り返してガムテープで固定。
子ども用の化学防護服なんて売ってないので仕方ない。
そこに、ベルがやってきた。
「にゃー」
「しまった、ベルの服はどうしよう……」
悩む俺だが、ベルから答えが返ってきた。
「にゃー」
「え? 必要ないって? でも、毒の花粉だぞ?」
「にゃー」
「大丈夫なのか?」
「辺境伯様、その森猫は?」
騎士がベルを恐る恐る見ている。
彼にとっては、彼女も魔物なのかもしれない。
「彼女も俺の家族だ。ここの出身だから、この森にも詳しいぞ」
「辺境伯様が以前、助けようとしていたのは、その森猫なのですかい?」
爺さんの回復の魔法で彼女を助けてもらおうとしたのだが、あっさりと拒否されてしまったのだ。
動物に魔法を使うなんてありえないってことだったな。
まぁ、この世界には獣医もいないし、そういう文化なのだ。
ベルに何度確認しても大丈夫だというので、仕方ない。
そのまま皆を車に乗せて出発した。
「ふう……この中は蒸しますな」
「脱がないでくれよ。暑いだけで死にはしないからな」
「もちろんです」
森の深部は鬱蒼としていて薄暗いのだが、徐々に空が明るくなってきている。
上を見ると、木が枯れ始めて空が見えてきている。
『ケンイチ、ストップ!』
「どうした?」
『だれか倒れてる――みたいに見える』
「なに?」
乗っている皆に待つように伝え、車を降りてアキラの所に行く。
確かにライトアーマーを着た男らしき人影が、大木に座り込んでいる。
「おい、生きてるか?」
「そうは見えんな」
男には沢山の虫が集まっている。
防護服を着ていると触って確かめたりができないが――虫がたかっているということは……。
「アイテムBOXに入れてみれば解る。生きていれば入らないからな」
「そうだな」
「収納」
すると男が収納された――ということは、これは死体だったということだ。
「ミャレー! こんな場所まで来ることがあるのか?」
「人によるにゃ。多分、自信があったんじゃにゃいかなぁ?」
「そうか」
「「なんまんだぶなんまんだぶ」」
俺とアキラで手を合わせたあと――車に戻る。
「辺境伯様」
伯爵が心配そうだ。
「死体だ、もしかして花の毒でやられたのかもしれない」
「そうですか、気の毒なことです」
「服を脱ぐとああなるからな」
「解っております」
即死するような毒じゃないが、肺をやられたら動けなくなってしまうからな。
アキラの車に連絡を入れる。
「ニャンコロを出してくれ」
『ニャンコロ、呼んでいるにゃ』
『なぁに?』
「お前はよく平気だったな。花が沢山咲いていたんじゃないのか?」
『蕾は沢山あったけど、まだ、そんなに咲いてなかった……』
そのせいで急激な症状が出なかったのか。
あの男は、その後にここにやってきたんだな。
運が悪かったか。
『そのときに燃やせれば、よかったんだがなぁ』
アキラの愚痴が聞こえてくるが、なかなかそうタイミングよくはいかないだろう。
それから5㎞ほど進むと、完全に森が枯れている。
「すげぇ枯れてるなぁ」
『こうやって、葉や根っこからも毒を出して、周りを枯らして版図を拡大するんだ』
「すげー凶悪」
『まじで凄いぞ』
完全に木がなくなっている場所にくると、明るい日差しの中に背の高いヒマワリ畑のような場所が見えてきた。
『ケンイチ、見えてきたぞ』
「あれか――伯爵、あれらしい」
「なんと! 本当に赤い花が……あ、あの、この服を着ていれば本当に大丈夫なのでしょうか?」
「ああ、大丈夫なはずだが、気分が悪くなったら早めに言ってくれ、対処する」
「承知いたしました」
「後ろの皆も、体調には気をつけてな」
防護服の中は暑いから、熱中症にも気をつけないとな。
火をつけるので、ちょっと離れた場所に車を停めると、花畑に向かった。
背の高い植物が、晴天の青空の下、赤くて見事な大輪の花を咲かせている。
「すげー綺麗だけどな」
俺の言葉に、アキラがつぶやいた。
「きれいな花には毒がある」
「棘じゃなかったか?」
「はは、そうか」
「こ、これが全部毒花とは……」
伯爵が花畑を見て愕然としているが、その隣で爺さんも唸っている。
「これがそうか。長年生きてきたが、噂にきいたこの花を見たのは初めてじゃな」
爺さんの歳まで生きても見たことがないってことは、王国ではやはり珍しい植物ってことらしい。
俺の足下にはベルがいる。
彼女にはなにも対策をしていないのだが、平気なのだろうか?
「お母さん、本当に大丈夫なのか?」
「にゃー」
「本当か?」
「にゃー」
彼女が、防護服を着た俺の脚にスリスリしてくる。
彼女が大丈夫だというのだから、大丈夫なのだろう。
実際に平気な顔をしている。
この花粉は動物には効かないのだろうか?
それとも、彼女の持つなにか特別な力か?
さて、作戦を練る――まずは現状確認だ。
アイテムBOXから、ドローンを出して飛ばす。
「おおっ! 空を飛んでる!」
「なんと!」
伯爵と騎士が驚く。
上空から撮影された映像を見ると、直径100mぐらいの範囲で円形に広がっているな。
周りの草や木を枯らしながらここまで勢力を拡大したのだろう。
元世界でもセイタカアワダチソウなどは、毒を出して他の植物を枯らすと学校で習ったな。
「なんと、空を飛ぶ召喚獣とは……」
爺さんも空を見上げ、唸っている。
「アキラ、範囲は直径100mほどだな」
「そんなには広がっていないか……」
もともと鳥などが運んだ数粒の種などが発芽して、ここまで勢力を広げたのだろう。
深い森の中だったので、広がるのに時間がかかったに違いない。
「アキラ、どういう感じで進めるんだ?」
「そうだな、まず必要なのは、延焼しないように周りの木を切り倒す――だな」
「そ、それでは、手勢が必要なのでは?!」
伯爵が、アキラから聞いた作戦に異議を唱える。
「まぁ、普通ならそうですねぇ。でも、ここにはケンイチ――いや、辺境伯様がいらっしゃいますので」
「ケンイチ! ウチらも手伝うにゃ!」
「それを着て、激しい運動は無理だ。熱でやられるぞ」
獣人たちは毛皮を着ていて汗もかかないので、暑さに弱い。
こんな化学防護服を着て斧を振ったりしたら、熱中症間違いなしだ。
「辺境伯様、いったいどうするおつもりで?」
「大丈夫だ伯爵――コ○ツさん、戦闘バージョン召喚!」
久しぶりに呼び出した俺の相棒が、腐葉土に落ちてきて地面を揺らす。
アダマンタイトの大剣を装備した、黄色い重機だ。
「おおっ! 巨大な鉄の召喚獣!」
「シャガのときに使ったものより、随分と巨大じゃな?」
シャガのときは、小型のユ○ボだったからな。
「ケンイチ! それで木を切るにゃ?」
「ああ、お前たちに木を切らせるより、これで切ったほうが早いだろ?」
「まぁ、旦那の言うとおりだねぇ」
獣人たちが木を切る間に、こいつなら10本以上木を倒せる。
いや、もっといけるか?
「アネモネ! ゴーレムを出して木を倒してくれ」
「解った!」
アイテムBOXから巨大なゴーレムのコアを出す。
「ゴーレムじゃと? 辺境伯様、そんなものを使う許可を取ったのですかな?」
「爺さん、俺はその辺境伯だぜ? 辺境伯にはゴーレムを運用する許可が、王家から与えられてる」
「そ、そうなのか?」
爺さんも魔導師なので、ゴーレムの稼働に国の許可がいると知っていたようだが、辺境伯が持っている権限までは知らなかったようだ。
「むー!」
アネモネの精神統一とともに、腐葉土がコアの周りに集まり、うず高くなっていく。
それが一本に伸びて、葉っぱが少なくなり枯れかけている巨木の天辺を押し始めた。
こうすると、テコの原理で大木でも簡単に根元から倒すことができる。
枝がこすれる音を出しながら、大木が根元からえぐれるように倒れた。
地面を地響きが伝わり、俺たちの足下を揺らす。
「おおおっ!」
「なんじゃと!? これがゴーレムじゃと?」
アネモネの人型じゃないゴーレムを見て、爺さんが驚嘆している。
王国のゴーレム魔法ってのは、どれだけ人型に近づけて人と近い動きができる――ってことに注力されてきたからな。
既存の魔導師からは、こんな方法は邪道だと言われるだろうが、邪道でもなんでも使えればいい。
「爺さん、ゴーレムをある目的に使うなら、別に人型である必要はないってことだよ」
「そ、そう言われれば、そうじゃが」
「これが、帝国から入ってきた、最新の魔法使用法だぞ?」
「なんと……」
爺さんは、ショックを受けている。
古い伝統的な手法をなぞるだけで、新しい考えで自分の魔法を作り出せなかった後悔だろう。
俺には、この世界の常識に囚われない元世界の考え方があるし、アネモネは若い。
それに彼女は、魔法の師匠に習ってはいないので、伝統に囚われず柔軟な発想ができるわけだ。
若いメリッサも、ゴーレムは人型――っていう固定観念から離れることができなかったわけだし。
まぁ、別に伝統に沿うのが悪いとは言わないがね。
さてさて、後はこの塊を燃やすだけなのだが――俺はアネモネのゴーレムを見て、いいアイディアを思いついた。
そいつを試してみるか。