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189話 本来の仕事をする


 俺は――以前、色々と世話になったノースポール男爵の領を訪れていた。

 この領には、黒狼とゴブリンが頻出しているという。

 男爵領で戦えるのは男爵と、獣人のニャニャスだけ。

 明らかに戦力不足だし、男爵になにかあれば領民たちが路頭に迷ってしまう。

 それで俺が一肌脱いだ。

 男爵は、騎士としてアマランサスに忠誠を誓った、間違いない俺の味方だ。

 助けるしかないだろう。


 こちらは一国の軍隊にも匹敵する戦力で、相手は黒狼とゴブリン。

 あっけなく勝負はついて、魔物の巣穴も発見。

 穴に閉じ込めてから毒ガス攻撃を加えたのち、重機で穴を埋めた。

 これで間違いなく全滅させられるだろう。


 俺たちは、プリムラやアマナが待つ男爵の屋敷へ戻ることにした。


「旦那! 大丈夫でしたか?!」

 真っ先に出迎えてくれたのは、アマナだ。

 彼女は凄く心配しているのだが、シャガ討伐のあとの俺たちの活躍を見てないからな。


「心配いらない。全滅させたぞ?」

「本当ですか?」

「ああ、なぁ男爵」

「ケンイチ様のおっしゃる通り、間違いない」

「こんなちっこいのに、エゲツねぇ魔法を使う魔導師様もいるしよ」

 アネモネが胸を張っているところにカールドンがやってきた。


「ケンイチ様、ご無事でなにより」

「ああ、クラーケンなどに比べたら、余裕があったな」

「さすがでございます」

「アネモネ~!」

「マリー!」

 女の子2人が握手して、ぴょんぴょん飛び跳ねている。


「大丈夫だった?」

「うん! 平気だよ! もっと大きな魔物と戦ったこともあるし!」

 その2人をアマナが渋い表情で見ている。


「旦那、こんな小さい子に、あまり危ないことは……」

「そんなことを言ってもなアマナ。彼女はもう大人だし、俺たちと同じ扱いをすることになってるんだ」

「その通り! 私は大人だから!」

 アマナは困ったような顔をしているが、アネモネは譲らない。

 実際にアネモネの歳だと、この世界では大人として扱われて仕事もしているのだ。

 元世界の常識に当てはめると、子どもを戦闘に参加させるなんて――と、俺も思うのだが、郷に入っては郷に従えの言葉どおりに、この世界の道理に従うことにしている。


「腹減ったにゃー!」「いいにおいがしているぜ!」

 料理のにおいをクンカクンカしている獣人たちの所に、プリムラがやってきた。


「皆さん、食事ができてますよ~」

「やった! 早速、食おうぜ。ケンイチ!」

 アキラも空腹なようで腹を押さえている。


「おう! ――とその前にアネモネ。皆を綺麗にしてやってくれ」

「うん、皆集まって!」

 アネモネの号令で、皆が一箇所に集まった。


「むー! 洗浄クリーン!」

「ひゃー! アネモネ、本当に魔法が使えるようになったんだね」

 アマナは自分の目で見るまで、アネモネの魔法を信じていなかったようだ。

 魔法が終わったアネモネは、マリーと手を繋いで食事が並ぶテーブルに行った。


「助かったぜぇ。犬臭くなってたからな」

 アキラが黒い制服の袖をクンカクンカしている。


「そりゃ、わざわざ黒狼に噛ませてからマヨを使ってるからだろ」

「ああするのが一番確実だからな」

「牙で破れたりはしないのか?」

「大丈夫だ。こいつは見かけよりかなり丈夫なんだ。なにせ皇帝から直接賜ったものだからな。どのぐらいの価値があるか解らねぇ、ははは」

 アキラは帝国で近衛としてかなりの戦歴を積んでいるのだ。

 それから導かれた戦法なのだろう。


「いいのか? そんなものを持ち逃げして」

「ああいいのいいの、その分ぐらいは働いたからな」

 そこにニャニャスがやってきた。


「ちょっと旦那。皇帝ってなんですかい?」

「帝国皇帝だよ。ブリュンヒルドだっけ?」

「そうそう、よく知ってんじゃん」

「このアキラは、帝国皇帝の懐刀だったんだ」

「ええ~っ! なんで、そんな偉い人が、こんな僻地に?!」

 ニャニャスが驚くのも無理もない。


「僻地は酷いな。それに僻地だったら、俺のハマダ領も負けてないけどな、ははは」

 ニャニャスがアキラの正体に驚いているが、無駄話はこれぐらいにして飯を食うとしよう。


 皆でプリムラのところに行ってテーブルにつく。

 サクラでの食事と同様に獣人たちのテーブルはちょっと離れた所にある。

 俺たちは気にしないのだが、獣人たちが逆に気にするようだ。

 偉い方々と一緒だと、気を使って料理の味が解らないらしい。

 まぁ下手に気を使って食事をするより、自由に食えたほうがいいよな。


 人数が増えて足りない分の椅子は、男爵のメイドが用意してくれた。

 メニューは、プリムラが言った通り肉団子のスープ。

 アイテムBOXの中には色々と肉があるからな。はやく消費しないと、どんどん溜まる。

 どうしても消費できないようであれば、村の住民にくばるのもいい。

 この世界で肉の大量生産などはされていないので、その値段は高い。

 肉ってだけでありがたがる住民たちは多い。

 それでも――さすがに管虫の肉を食わせるわけにはいかないだろうが……。


 熱い肉団子を頬張る。

 ハフハフ――スープが染みていて美味い。


「ケンイチ!」

 アキラがビールを飲む真似をしている。

 まだ昼だが、彼も一仕事してくれたし、これから予定があるわけでもないし――いいか。

 アキラと獣人たちにもビールをやる。


「やった旦那、話が解るぜ」

 ニャメナがアルミ缶に手を伸ばして、舌なめずりをしている。


「なんじゃこりゃ?」

 ニャニャスは缶ビールは初めてだからな。


「こうやって飲むんだよ」

 ニャメナが、ニャニャスにビールの飲み方を教えている。

 彼が不思議そうな顔をして、ビールに口をつけた。


「おっ! うめぇ! こりゃエールか」

「うめぇだろ」

 獣人たちは獣人たちで楽しんでもらえばいい。

 俺たちのテーブルに戻る。


「か~っ! うめぇ! やっぱり一仕事終わったあとのビールは格別だな。どうだい男爵様も」

「さすがに昼間から……」

「いいじゃねぇか」

 アキラの言葉にも、男爵は「うん」と言わないので、ワインを出した。

 ワインなら食事中に飲むのは、この世界でも普通だからな。


「うぉ! 美味い。こんな上等のワインなど……」

「まぁ、遠慮なく飲んでくれ」

 シャングリ・ラでも、安いワインだからな。

 アマランサスにもビールをやる。


 いつも俺の隣に座ったりするアネモネも、今日はマリーと一緒に座って食事をしている。

 あれこれ話をしているようだが、今までの積もる話があるだろう。

 その隣にはアマナがいて、また世話を焼いている。


 カールドンは相変わらず、自分の部屋で食事を摂っているようだ。

 本でも読みながら食べているのだろう。

 彼のような人間は好きにさせるのが一番効率が上がるのだが、俺もその手の人間なので、彼の気持ちは解る。


 テーブルにはマリーの父親のクロトンも一緒に座っているが、随分と居心地が悪そう。


「私も同席してしまってよろしいのですか?」

「ああ、構わんよ。クロトンもここの役人をしているのであれば、男爵と食事をしたりすることがあるだろう?」

「それは、たまにはありますが……さすがに辺境伯様となると」

 まぁ辺境伯ってことになるとかなり高位の貴族だからな。

 普通の貴族より権限も色々と与えられているし。

 困惑する彼の顔をみて、思い出したことがあった。

 いつぞや、彼から借金のカタとしてもらった金の指輪だ。

 古い結婚指輪で2つの指輪が対になっていて、宝の隠し場所が記してあった。


「クロトン、これを」

 俺は彼に、金の指輪を返却した。


「え? この指輪は……」

「実は、その指輪で稼がしてもらったから十分に元は取れた。金も返さなくてもいいぞ」

 俺の話を聞いたクロトンは、狐につままれたような顔をしている。


「いや、そんなわけには……」

「はは、いいからいいから」

 あの指輪に刻まれた文をたどって見つけたお宝――その中に入っていた爆裂魔法エクスプロージョンの魔導書だけで、十分に元を取っているし。


「この御恩は一生忘れません」

 クロトンが頭を下げた。


「相変わらず、旦那は人がよすぎるんだね」

「アマナのお小言も相変わらずだな」

「放っといてくださいよ!」

「そこがケンイチのよいところですし」

「そうは言いますけどね、お嬢さん。あなたが見張ってないととんでもないことになりますよ」

「それでも聖騎士様に従うのが、妾たちの務め」

 アマランサスにピシャリと言われて、アマナは呆れた。


「やれやれ――あたしゃ知りませんよ」

 食事が終わると、皆で後片付け。

 そのあとは俺の車に男爵を乗せて領の視察に出た。

 俺の隣の助手席には男爵が乗っていて、プリムラは後ろだ。

 マロウ商会が行なった投資が上手く機能しているか、彼女には確かめる必要があるので同行している。


 他の領の話を聞くのは、とても参考になる。

 なにせ素人領主の上、素人異世界人だからな。

 たまたま、なぜか使える能力を使って、成り上がったのに過ぎない。

 俺を支えてくれる人々がいなくては、領の経営なんて大それたことは不可能だ。

 この世界の主食は麦なので、多くの畑が麦だが、麦以外の農作物も緑の葉っぱを茂らせている。

 多くの人々が農作業をしており、馬なしで動く奇妙な乗り物に、その手を止めている。


「うちから提供した、農作物の生育は順調みたいだな」

「はい、見たことがない野菜ばかりですが、味もいいと評判です」


 シャングリ・ラに売っている種や苗は、F1種が多いので、できた野菜から種を取ると、先祖返りをしてしまう。

 そのため古い種類でもいいので固定種の作物を提供したのだが、上手くいっているようだ。

 俺が視察をしている間、獣人たちは狩りに行き、アキラは昼寝をすると言ってた。

 アネモネはマリーと遊んでいるようだ。

 アマナとアマランサスは――2人で話をしていた。

 あの2人は馬が合うらしい。


 領の運営は上手くいっているようで、資金を提供しているマロウ商会の娘、プリムラも喜んでいる。

 もちろん領主である男爵もだ。

 彼は、一代貴族である騎士爵から陞爵して男爵になったわけだが、領地を任されたということは、この領地を存続させていかなければならない。

 そのためには世継ぎが必要だ。

 それは俺のハマダ領でも同じなのだが……。


「男爵、お互い領地を任されて、次に考えるのは世継ぎのことだと思うのだが……」

「はぁ……」

「あ、いや――男爵が求婚したプリムラの前でそれを聞くのはまずかったかな?」

「……」

 話を聞いていたプリムラは黙っている。


「いいえ、私よりケンイチ様を選んだ、プリムラ嬢の目は確かだったと言うことですよ、ははは」

 男爵は暗い顔をして苦笑いをしている。少々やけくそ気味だ。

 この感じだと、まだプリムラに未練があるのだろうか?

 意外と男ってのは引きずるからなぁ。

 まして、世間に求婚したと噂が流れてしまったあげく、盛大にフラれてしまったのも、街の噂になっている。

 彼の心中を考えると少々バツが悪い……。


「実は村の庄屋の娘と縁談の話が進んでまして」

「ほう、それはめでたい。そのときには参加させていただくよ」

「いいえ、男爵の婚姻に辺境伯様が出ていただくなど……」

 婚姻の話が出て、プリムラが後ろから話しかけてきた。


「男爵様、ハマダ辺境伯様とつながりを示すいい機会ですよ」

「今は、本当にただの辺境だがな、ははは」

「すでに、アストランティアを含む、ユーパトリウム子爵領の運営は実質辺境伯様によって行われておりますので」

 実際の経理はマロウ商会で、政治的な決定はアマランサスがやっているのだが。


「それでは、ハマダ領とユーパトリウム子爵領は……」

「近いうちに合併いたします」

「まぁ、身分は気にすることはないよ。アマランサスに忠誠を誓った男爵は、もう身内同然なんだからさ」

「承知いたしました」

 ぐるりと視察が終わると、午後の3時頃。

 男爵の屋敷に戻ると、プリムラたちは料理の準備を始めた。


「辺境伯様、申し訳ございません。本当は我が領がおもてなしをせねばならないのに……」

「財政が厳しいのは知っているから、無理をさせるわけにはいかないからな。こちらが連れてきた人数も多いし」

「あまつさえ、黒狼とゴブリン退治までしてくださったのに……」

「さっきも話したが、もう身内なんだから気にしないでくれ」

「承知いたしました」

 それにしても毎日料理をするってのは大変だな。

 俺も元世界にいたときは自炊してたが、毎日テキトーな料理だったし、面倒なときはインスタントで済ませていた。

 シャングリ・ラがあるのでインスタントも購入可能だが、普通の人たちは毎日苦労して料理をしているわけだ。

 サンバクとメイドたちが来てくれて、随分と楽になったが――。

 まぁ、その分経費がすごいかかっているんだけどね。

 その経費も、高価な砂糖の生産で十分にまかなえるようになってきている。


 さて、料理はできつつあるのだが、アキラからリクエストをもらってしまった。

 ドラゴンのホルモンだ。

 彼の言うとおり、あれも食べなくてはいけない。

 普通の肉なら他に配ってもいいが、内臓となると抵抗がある者も多いだろう。


「プリムラ、せっかく料理を作ってくれてありがたいのだが、こっちは勝手にやるので」

「旦那! 女の作った料理を袖にするなんて、偉くなったものですねぇ」

 アマナが怒るのだが、一応こっちの事情も説明をする。


「そう嫌味なことを言うなよ。アイテムBOXに入っている食材も消費しないといけないし、他の人が食えないものもある」

「その食えないものってなんですか?」

「魔物の内臓だ」

 話を聞いたアマナがすごい顔をする。


「それとも、管虫のほうがいいか?」

 俺のゲテモノコレクションに、アマナもお手上げ状態だ。


「……解りましたよ。ゲテモノ趣味のお貴族様ってのはどうなんですかねぇ」

「プリムラすまんな」

「いいえ、それでは余った分はアイテムBOXに入れてください。明日の朝に食べましょう」

「解った――どうだ、男爵もこちらで料理は?」

「いや――あの……」

「あはは、冗談だよ。無理に食わせるつもりはないし」

 貴族が動物の内臓を食べることなんて、ないらしいからな。

 お城で、この世界の食材を数多く食べたリリスとアマランサスも、内臓は食べてなかったみたいだし。

 アキラと2人で包丁を振るいドラゴンの腸を切り刻み下ごしらえをする。


「ケンイチ、それを食べるにゃ?」「旦那、俺にも食わせてくれぇ」

 ミャレーとニャメナが涎を垂らしながらやってきた。

 前に食ったのを覚えていたのだろう。


「解った解った」

 大きな腸を切っていると、徐々に日が傾き始める。

 周りは本当に静かで、のどか――それに静けさにちょっとした哀愁を感じつつ、アイテムBOXからLEDランタンを出して並べた。


 辺りが暗くなるころ、コンロを出してホルモンを焼き始める。

 アキラが持っている魔導コンロでも火は通るが――やはり直火のほうが美味い。

 肉を焼くともうもうと白い煙が舞い上がる。

 外でやると、いくら煙を出してもいいからな――これがありがたい。

 こんなの家の中じゃ不可能だな。


 ビールが飲みたいやつにはビールを出した。


「か~っ! こりゃうめぇ!」

 アキラがホルモンを食いながら、ビールをあおっている。


「美味いにゃー!」

「ああ! うますぎて死ぬぅ!」

 最初は遠巻きに見ていたニャニャスも、においに我慢しきれずに参加してきた。


「なんじゃこりゃ! 美味い、美味すぎる!」

「「○万石まんじゅう」」

 俺とアキラの声がハモった。


「「ははは」」

「はぁ――これは、相変わらずたまらぬ美味さじゃのう……」

 アマランサスも、以前にこいつを食べて虜になったようだ。

 いつもは俺と一緒に飯を食っているアネモネも、今日は向こうのテーブルでマリーと一緒だ。


「ミャレー、悪いがこいつを、あそこのカールドンのところへ持っていってやってくれ」

 俺はホルモンが3切れ入った小皿を、ミャレーに渡した。


「解ったにゃー!」

 ゲテモノを食わしちゃ悪いと思うが、彼は常識には囚われないタイプだ。


「にゃー」

 俺の足下にベルがやってきたので、タレのついてないホルモンをやると、美味しそうに食べている。


「ホルモンとビール、異世界痛風スペシャルバンザイ!」

 異世界のごちそうとビールに、アキラはご機嫌だ。


「聖騎士様、痛風とは?」

 アマランサスにとっては、聞き慣れない単語らしい。


「贅沢な食事ばかりしていると、足の先などが酷く痛むようになる」

「貴族の話で聞いたことがあるわぇ」

「魔法で治らないのかい?」

「それが効き目がないらしく、激痛で転げ回るらしい」

 魔法も万能ではなく、尿酸は分解しないようだ。

 治りが早くなるってだけで、基本的な問題を解決しないことにはいつまでたっても治らない。

 食事療法をするとか、運動するとかな。


 皆でジュウジュウと肉を焼いていると、カールドンが走ってきた。


「ケンイチ様、この肉はなんでございますか?」

「ドラゴンの内臓――腸だ」

「なんと! このような美味なるものを食べたことがございません! 魔物のはらわたがこのように美味いとは――なんという僥倖!」

 カールドンが、また万歳をしている。

 よほど美味かったらしい。


「もっと食いたいなら、好きなだけ持っていけ」

「ありがとうございます!」

 カールドンは焼けたホルモンを小皿に山盛りにすると、自分のコンテナに帰っていった。


 夕飯が終わると皆で後片付け。

 それぞれ寝床を出したが、クロトンの娘マリーはここに泊まっていき、アネモネと一緒に寝るという。


「それでは辺境伯様、娘をよろしくお願いいたします」

「ああ、明日ダリアに帰るときに家まで送っていってやるから。奥さんによろしくな」

 クロトンとニャニャスにワインの瓶を持たせて、彼らは一緒に家に帰っていった。


 1つ余分にコンテナハウスをちょっと離れた場所に出す。

 こいつはゴニョゴニョ用だ。


「あのケンイチ――今日は」

 俺の所にプリムラがやってきた。


「あ~、今日はアマランサスに話があってなぁ……」

「……そう……ですか」

 彼女の凄くしょんぼりとした顔を見て、激しい罪悪感に襲われた。


「あ~ほら、まさか3人でするわけにもいかないだろうし」

「……あの、3人でもいいですけど……」

「はぁ? いや、アマランサスがなんというか……」

「妾はなにも申しませんぞぇ? 聖騎士様のすることに、なにも否定はできませぬし……」

「そうだけどさぁ……」


 結局――本当に3人でゴニョゴニョする羽目になってしまった。

 3人が裸で、大きなダブルベッドに寝ているが、2人は大きな耳を付けている。


「にゃーん」

「おい、アマランサス、止めろ。プリムラに誤解されるだろ?」

「聖騎士様は、こういうのがお好きなのであろ?」

 そりゃ、好きだけどね。


「まさか、アマランサス様とこんなことをしているなんて」

 俺とアマランサスの行為に、プリムラがショックを受けている。


「にゃーん……」

 それでもプリムラが、顔を真っ赤にして俺に抱きついてきた。


「プリムラ、無理をしなくてもいいから」

「いいえ、無理をしますから」

 いやいや、そうじゃないんだ。

 2人にはもっと大事な話があったはず――。


「ちょっと2人とも聞いてくれ。プリムラにも話してもいいだろう」

「話……?」

「俺とアキラは……実はこの大陸の人間じゃない」

「やはりそうかぇ――薄々そう思うておったが……」

「遠くの国から飛ばされてきたんだが――そういう話は聞いたことがないか?」

 ファンタジーには転移の魔法などがあることが多いが……。


「ありませぬ……が、初代国王は、どこから来たのか解っておりませぬ」

 ああ、奴隷だったという初代国王か。


「それじゃ転移の門とか、転移の魔法とかの話は?」

「転移門の話なら王家の秘書の中にありまする」

「え? 本当か?」

「はい、失われた魔法だと……」

 王家の書庫からはすべての本をコピってきたが、抜けているものもあるようだ。

 あそこにあるのが全部ってわけでもないのだろう。

 閲覧自体が不可って本もあるだろうし。

 たとえば禁止されている魔法が書かれた魔導書とか……。

 アマランサスと難しい話をしていると、プリムラがしょんぼりしている。


「ごめんなさい、ケンイチ。そのような大事な話をアマランサス様とお話をするのに、割り込んでしまって……」

「アマランサスには奴隷紋があるから、秘密を漏らさないのは確実だけど、プリムラも大丈夫だと思ったからさ」

「もちろんです」

「なるほどのう……聖騎士様の卓越した知識は、他の国のものだと」

「そういうことだ。俺が秘術を公開してそれが戦に使われたりすれば、戦死者は10倍から100倍にも跳ね上がるだろう」

「なんと……」

「まぁまぁ、俺の秘密の話は済んだから、もう1回やろうぜ」

「……はい」

 裸の3人が重なり、夜はふける。


 ------◇◇◇------


 ――男爵領で魔物退治をした次の日。

 皆で朝食を摂るが、昨日ホルモンを食べた連中は、夕飯の残りだ。

 作ってすぐにアイテムBOXに入れたのでまだ温かいが――たとえば一晩寝かせたカレーを味わえないのはちょっと寂しい。

 まぁ、外に放置すればいいのだが……。


 アネモネとマリーも積もる思い出話ができたようだ。

 食事のあと皆で車に乗り、男爵に別れを告げる。

 アネモネの隣にはマリーを乗せて、彼女の家に向かう。

 彼女を家に送ったあと、クロトンと彼の女房に挨拶をして、俺たちは進路をダリアに取った。


「レッツラゴーにゃ!」

「ミャレー、そんな言葉も覚えたのか?」

「オッケーにゃ!」

 その使いかたは違うけどな。


 ちょっとしたトラブルはあったが――俺たちは青空の下、車を走らせてダリアに戻ることにした。


 

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