184話 ダリアの街中
俺は王国を流れる大河――アニス川を運河にする計画のため、海へ行くことになった。
そんなことが本当にできるかどうかは解らないが、男のロマン砲にマロウ商会も乗っかった。
マロウの商売に対する嗅覚は信用できるので、実際に運河の運用が可能ならば、ハマダ領の大きな武器となるだろう。
そのためには本格的な船の建造が必須。
王国で本格的な船を建造できるのは、南の港町――オダマキだけだという。
俺たちは2台の車に分乗して、海を目指す。
ついでに、その途中にあるダリアにも、仕事が溜まっていたので寄ることにする。
せっかくダリアまで来たんだ、昔の知り合いに会っていきたい。
俺は、皆と一緒に市場を訪れたが、後ろを見ればアキラとカールドンがいない。
市場を物色しているようだ。
「お~い、アマナ!」
俺は市場で知り合いを見つけて声をかけた。
この異世界に放り出されたあと、市場で露店を出した際、隣にいた女店主に色々と教えてもらったのだ。
彼女には、のちのシャガ討伐の際にも手伝ってもらった。
相変わらず、様々な色の布をパッチワークのようにつなげた派手な恰好をして、ジャラジャラとアクセサリーを沢山付けている。
これも全部売り物なのだが、彼女はアイテムBOXをもっていないので、こういう展示と売りかたをしている。
「え!? ちょ、ちょっと旦那じゃないか!」
俺の顔を見た彼女は驚いた顔をして、立ち上がった。
「元気そうだな」
「元気そうじゃありませんよ! いきなりどっかへ行っちまうなんてさ!」
「まぁ、それについては、悪いと思っているよ。皆に迷惑がかかりそうだったんでな」
「まったく水臭いねぇ!」
「すまん……」
怒っていたアマナだが、俺の陰に隠れているアネモネを見つけて目を細めた。
「おやまぁアネモネ! 元気だったかい」
「うん……」
ちょっと恥ずかしいのだろうか、青いローブを着たアネモネは前に出てこない。
アマナは、アネモネを養子にもらおうとしたことがあったのだ。
アネモネは結局俺と一緒にいることを選んでしまったので、彼女もちょっと後ろめたい気持ちがあるのかもしれない。
「アネモネは元気どころか、あのあとにな――魔法の才能に目覚めて、今やハマダ領の大魔導師様だぞ?」
「本当かい?」
「うん、本当……」
「本当にゃー! アネモネぐらい凄い大魔導師は王都にもいないにゃ!」
ミャレーのデカい声に市場にいる連中の視線が一斉にこちらに向くと、アネモネがローブをかぶって照れている。
「そりゃ、頑張ったねぇ――って旦那! 旦那が貴族になったって話は本当だったんだね!」
「まぁな……」
「マロウのお嬢さんから話は聞いていたけど、この目で見るまでは信じられなかったけどねぇ……」
「どうしてこうなったか、俺自身も信じられないよ」
そこにプリムラがやってきた。
「本当に――私がケンイチのことを子爵夫人に漏らしてしまったばかりに……」
「マロウのお嬢さんもお元気そうで」
プリムラは、ダリアを訪れた際にアマナと会っていたようだ。
「お城に呼び出されたと思ったら、あっという間に――」
「お城まで行ったのかい?」
「そりゃ貴族になるためには、国王陛下から拝命する必要があるしな」
「こりゃたまげたねぇ。あっという間に雲の上のお人だよ」
「そんなつもりはないんだが……」
「旦那が気にしなくても、こっちが気にするよ。でも元気ならよかったねぇ」
俺とアマナが話していると、なにごとかと人が集まってきた。
綺麗どころをひき連れているせいで、市場中から注目も浴びているし。
そろそろ退散するか……。
「それじゃなアマナ、ハマダ領に遊びにきてくれよな。アストランティアの隣だからさ」
「ちょいと待っておくれよ!」
アマナが叫ぶと荷物をまとめ始めた。
「なんだ、今日の商売はおしまいか?」
「おもしろそうだから、旦那についていこうかと思ってねぇ」
「おいおい……冗談だろ?」
「冗談で荷物は片付けないだろ?」
「その荷物はどうするんだよ」
「知り合いにでも預けりゃいいさ」
しかたなく、俺のアイテムBOXに入れてやる。
「さすが旦那! そうこなくっちゃ! ふひひ、これでしばらく美味いものにありつけるねぇ」
「やれやれ……」
毎日毎日、似たような生活をしているので、非日常的な変化が欲しいのだろう。
彼女の荷物はそんなに多くはない。ダンボールでいえば2つほどだな。
こいつを小さな台車で運んで、毎日店を出しているわけだ。
「ケンイチ、随分とにぎやかな市場だな」
辺りを散策したアキラが俺たちと合流したが、カールドンは一緒ではないらしい。
「外の森で目を覚まして、ここで商売して金を稼いでいたんだ」
「そういえば、俺も目覚めたら森の中だったなぁ。なにか意味があるんだろうか?」
「人のいない場所に出すって決まりかなにかがあるんじゃね?」
「俺たちみたいのが、他にもいるのかね?」
「さぁな」
俺がアキラの存在に気づいたのは、帝国からの噂だ。
マヨネーズやら、複式簿記やら、ガチャポンプやら――そんなものを知っているのは元世界の人間しかいない。
俺たちの他にも元世界からの訪問者がいる可能性はあるだろうが、他の国からは怪しいアイテムの噂は聞こえてこない。
市場を散策しつつ、人のいない場所まで歩くことにする。
ここじゃ車を出せないからな。
「アキラ、住むのはアストランティアじゃなくて、ダリアでもいいんだぞ?」
「ケンイチの近くに住んでいないと、色々ともらえないじゃん」
「まぁ、俺としても――思い立ったが吉日にアキラに色々と手伝ってもらえなくなるのは、ちょっと困る」
「だろ? ははは」
俺とアキラの会話にアマナが入ってきた。
「旦那、こちらの旦那は?」
「元帝国魔導師のアキラだ。かなりの実力者だぞ」
「アキラだ、よろしくな」
「へぇ~帝国の魔導師様ねぇ……」
感心しているアマナをよそに、後ろのアマランサスに話しかけた。
「アマランサスはダリアには来たことがあるのか?」
「何度かあるわぇ。一応、我が国がどうなっておるか、自分の目で確かめないとな」
「ちなみに、その視察に国王陛下は?」
「いや、妾だけじゃ」
やっぱりまともに国政をやってたのは、アマランサスだけなのか。
アマランサスもリリスには近場の視察はさせていたらしいし、後継者として育てるつもりだったに違いない。
他の王族――円卓会議の連中も、地方の視察なんてやったことないらしい。
もっとも、アマランサスなら途中で襲われても、単独で切り抜けることも可能だろうが、他の王族じゃむりだろうな。
そこに毛むくじゃらの獣人たちがやって来た。身体の大きい男の獣人が3人。
「おおっ! ほら、やっぱりいただろ?!」「マジかよ」「おお? いい女も一緒だぜ?」
俺の目の前に現れたのは、シャガの討伐でミャレーと一緒に戦ってくれた獣人たちだ。
リーダー格の虎柄は、ニャケロだったかな?
いい女ってのは、ニャメナのことだろう。
「おお! お前たちか。元気でやってたか?」
「へへへ、まぁ――旦那も元気そうで」
ミャレーが俺の後ろに隠れて、舌を出している。
「ミャレー、突然いなくなったと思ったら、旦那の所に行ってたのかよ」
「べぇ~にゃ!」
「ミャレーが言うのには――お前たちは、そろそろ金を使い果たした頃だって……そんなことないよな?」
「「「……」」」
獣人たちが一斉に黙る。
「おいおいマジかよ。褒賞金はかなりの金額だったはずだろ?」
「うへへへ……」
獣人たちが苦笑いしているが、彼らは金の勘定ができないので、文字通り湯水の如く無駄遣いをしてしまったのだろう。
ミャレーはギルドに預けた金には一切手をつけていないし、俺のアイテムBOXの中にあるミャレーフォルダには金が増え続けている。
彼女曰くに、獣人で一番金持ちだと言うのだが、使うつもりもないらしい。
「悪いが、仕事があるので一緒に遊べんが、これで飯を食って酒でも飲んでくれ」
アイテムBOXから出した銀貨2枚(10万円)を彼らに渡す。
「さすが旦那! 話が解るぜぇ!」
俺から銀貨をもらった獣人たちが小躍りしている。
「ケンイチ、こんな奴ら甘やかしたら駄目だにゃ」
「まぁまぁ、シャガのときに色々と手伝ってくれたしな」
「それは、褒賞金でチャラになってるにゃ」
男の1人がニャメナに色目を使っているが、当然彼女は見向きもしない。
獣人たちは、ベルに頭を下げると――人混みの中に消えていった。
「まぁ元気そうでよかったよ」
「ああいう奴らは、心配するだけバカを見るにゃ」
ミャレーは彼らに当たりが厳しい。
話をきけば、それだけ振り回されて尻を拭かされたらしいので、仕方ないような気もする。
ミャレー、ニャメナと話をしながら歩いているのだが、彼女たちが時折人混みの中に鋭い視線を送っている。
「どうした? 怪しいやつでもいるのか?」
「違うよ旦那。獣人の女だ。隙あらば寄ってこようとしやがって!」
「やっぱり、ケンイチの身体からなにか出てるんじゃにゃいのか?」
そんなことを言いながら、ミャレーが俺の身体をクンカクンカしている。
脇の下とかに鼻を突っ込まれると、くすぐったい。
「あはは! ちょっと止めてくれ! そんなわけないと思うがなぁ……」
最初は祝福のせいかと思っていたのだが、ダリアにいたときから獣人たちには懐かれていたし。
「多分、聖騎士様は獣人に偏見がないのが、雰囲気で伝わるのじゃろ」
アマランサスはそう言うのだが、本当の原因は不明のまま。
そろそろ車に戻らないといけないのだが、カールドンが見当たらない。
「旦那、あそこだよ」
ニャメナが指差す方向に黒いマントを着たカールドンがいた。
市場の露店でなにかを買っているらしい。
掘り出し物でも見つけたのだろうか?
人混みから出ると、アイテムBOXから車を出して皆で乗り込む。
「旦那、なんだいこりゃ?!」
アマナが俺とアキラが出したSUV車に驚いている。
「シャガのときに、みんなで乗っただろう? あれの小さいやつだ」
「へぇ……」
彼女が、車のボディをペチペチ叩いている。
俺のラ○クルは人がいっぱいなので、アマナはアキラの車に乗ってもらうことにした。
アマナが車に乗ったのを確認すると出発する。次に向かったのは道具屋の爺さんの所だ。
彼は以前俺の住処にやってきたが、色々と世話になったのだから挨拶せねばなるまい。
それに彼は、俺が登録したギルドマスターの師匠らしいし。
コネは大切だ。
店の前に到着して車から降りると皆に伝える。
「すぐに終わるから、ちょっと待っててくれ」
「オッケー」
アキラの返事にミャレーがオウム返しをする。
「オッケーにゃ!」
皆を車に残したまま――木造の店先に家具やら道具が溢れている店にやってきた。
そんなに時間はたってないのに――懐かしい。
店が開いているってことは爺さんはいるんだろ。
「ちわ~じいさんいるかい?」
「は~い!」
爺さんの声を期待したのに、出てきたのはワンピースの若い女。
茶色の長い髪の毛をポニーテールにしている。
眉が太くて個性的な美人だが、胸がデカい。
ん~? どこかで見たような……。
「あれ? もしかして――爺さん、死んだのか?」
そんな話は聞いていなかったが……。
あの爺さんはマロウとも付き合いがあるから、そんなことになれば俺の耳にも入ってくるはずだ。
「え? あ~!? 旦那!?」
「え? 知り合いだったか?」
「森の中で一緒に暮らしてたでしょ!」
「あ~」
俺は手を叩いた。シャガから助けた女たちと一緒に森の中で、雀の学校をしていたのだ。
その中の1人らしい。
「パルドぉー! お客さんだよー!」
「パルド?」
俺は、女の言葉に頭をひねった。
「なんじゃ、お前が相手せんか」
「でも、ケンイチの旦那だよ」
「なんじゃと?!」
「おーい! 爺さん! 生きてるのか?」
「その声は……」
店の奥から爺さんが出てきた。相変わらず暗いグリーンのローブに白い髭を生やしている。
女性が呼んで爺さんが出てきたってことは、彼の名前はパルドってことになる。
ここに通っていたが、名前は知らなかったな。
「久しぶり。爺さんが死んで、店主が代わったかと思って焦ったよ」
「おお、辺境伯様ではございませんか。辺境伯様にはご機嫌麗しく――」
爺さんが胸に手を当てて、深くお辞儀をした。
「止めてくれ、嫌味かよ」
「ははは、まぁ人目もあるしの。なにか用事かの?」
「いや、ダリアまで来たので、顔を見に寄っただけだ。それより――あの女?」
「ぬっふっふっ――もちろん、コレじゃ」
爺さんが小指を立てる。
「なんじゃとて? おいおい、仕事を探す面倒を見てくれとは頼んだが、手をだせとは言ってないぞ?」
「なにを言うか、純粋に愛じゃぞ! 愛に歳は関係ないじゃろ」
俺の前で、爺さんと巨乳の女がベタベタし始めた。
「ああ、解った解った――まぁ元気そうでなりよりだな。それじゃな爺さん」
「もう帰るのか?!」
「顔を見に寄っただけだからな」
「なにか買っていかんかい」
買うってなぁ――ほとんどのものは、シャングリ・ラで買ったほうが安いし、ものがいいからな。
「それじゃ、魔道具か魔導書」
「ぐぬぬ……ない」
「でもまぁ、俺も手土産も持たずに来てしまったからなぁ」
シャングリ・ラを検索して、果物の詰め合わせを買う――色々入って4000円だが少々高い気もする。
こういう詰め合わせものは基本贈り物だからな、高くても普通なのだろう。
「ポチッとな」
白い箱に入った果物の詰め合わせが落ちてきた。
「ほい爺さん。土産だ。その人と食べてくれ」
「おお~、こりゃ見たこともない果物ばかりじゃぞ。異国ものか?」
「そうそう」
「美味しそう~」
女性も目を輝かせて、箱の中を覗き込んでいる。
箱の中にはみかんといちごが入っている。
爺さんにはミカンを食わせた記憶があるが、市場では見たことがないので、この世界にはないのだろう。
りんごや梨に近い果物はあるのだが。
女とイチャイチャしている爺さんに別れを告げると、次の目的地に向かう。
爺さんが元気そうでよかったが、いい歳してよくやるぜ――アストランティアの婆さんにも教えてやらないと。
俺たちは車でマロウ商会の本店に到着した。
王都にも支店ができているそうだが、あくまでも支店で、ダリアにあるここが本店ということになる。
マロウも、ここから動くつもりはないらしい。
ここで生まれ育ったので思い入れがあるのだろう。
それに今後を考えると、王都よりサクラ――アストランティア――ダリヤのほうが発展するような気がするしな。
石造りで2階建ての建物の前に到着すると、プリムラが降りて店の中に入っていく。
店に訪れる客は多く、繁盛しているようだ。
新品のドライジーネが少々高い位置に掲げられて陳列されており、子どもたちが群がっている。
子どもが乗るのにはかなり高価な代物だ。
俺が子どもの頃に流行ったスーパーカーに近いのかもしれない。
そういえば、スーパーカーみたいな機能満載な自転車も流行ったな。
ここでマロウ商会の店員を乗せて、ダリアでゲットする廃屋に案内してもらう予定なのだが――。
プリムラを待っていると、子どもたちに車を囲まれた。
「すげー! 鉄の荷車?」「なにこれ?!」
窓を開けて、子どもたちに挨拶をする。
「こいつは、俺の魔法で動く召喚獣だよ」
「召喚獣? おっちゃん魔導師なの?!」
窓から顔を出した俺のところに、子どもたちが集まってきた。
「すげー! 森猫だ!」「森猫も連れている!」「黒くて大きい!」
車と一緒にベルも人気だ。
男の子が多いが、男の子に連れられた小さな女の子もいる。
兄妹なのだろう。粗末な服とズボンの子どもたちばかりだが、結構小綺麗な恰好の子どももいる。
子どもたちは貧富の差に関係なく友達になれるのだが、いつの間にか接触がなくなり階層に分かれるのは悲しいよな。
「まぁ、そうだな」
デモンストレーションで、ちょっと車を動かしてみせる。
「「「すげー!!」」」
「大盗賊シャガの討伐で、魔法で動く召喚獣を使って兵隊を運んだって話を聞いた!」
「それは俺たちだな」
「ええ?! 本当?! おっちゃんが、シャガをやっつけたの?」
「そうにゃ! ウチらが、シャガをやったのにゃ!」
後ろからミャレーの声が聞こえてくる。
「それで、ここ――マロウ商会のお嬢さんを助け出したんだ」
「聞いた聞いた! 本当におっちゃんなんだ!」「「「すげー!!」」」
「俺はシャガを討伐したんだが、後ろの召喚獣に乗っているオッサンは、帝国の竜殺しだぞ」
「ええ?! ドラゴン?!」「ドラゴンを倒したおっちゃん?」「本当?!」
「ああ」
子どもたちが一斉に後ろにいるアキラの車に群がった。
「こらぁ! ケンイチ、こっちに話を振るなよ!」
プ○ドの窓から上半身を出して、アキラが怒っている。
「すまんすまん」
車を子どもに囲まれていると、プリムラが店員を連れて戻ってきた。
若くて短い金髪の男だ。
茶色のズボンに白いシャツを着ているのだが――さすが大店のマロウ商会に勤めているだけあって、いいものを着ている。
「へ、辺境伯様にはご機嫌麗しく――」
男が、直立不動から礼をした。
「ああ、いいからいいから」
毎回これじゃ、リリスやアマランサスが、堅苦しい挨拶を嫌がる気持ちが解るような気がする。
「ケンイチ、これは?」
プリムラが車に群がる子どもたちに呆れている。
「鉄の召喚獣が珍しくて、集まってきてしまってな」
やむを得ず、シャングリ・ラから袋に入った飴を買った。
それを子どもたちに一粒ずつあげることにしたのだが、肝心の子どもたちが渋っている。
「どうした? 甘いお菓子だぞ?」
口に入れてみせた。
「ケンイチ私にも!」
窓からアネモネが手を出してきたのであげる。
「聖騎士様! 妾にも」
「旦那、俺にも!」「ウチにもにゃー!」
「ほら、みんな食べてるぞ?」
「知らない人からものをもらっちゃいけないって言われてる……」「うん」
子どもたちが顔を見合わせている。
なるほど、俺が子どもの頃にもそんなことを言われてたなぁ。
俺はプリムラを指差した。
「知らない人じゃなければいいんだろ? この綺麗な人はマロウ商会のお嬢様だ。みんな知ってる有名人だから、知らない人じゃないだろ?」
「ケンイチ、それじゃ私からお菓子をあげればいいんですね」
「誰からお菓子をもらった――と聞かれたら『マロウ商会のお嬢様からもらった』って言えばいいから」
俺の屁理屈に納得したのか、飴をもらった子どもたちが散り始めた。
「「「わぁぁ~」」」
どこの世界でも子どもは元気だ。
日本では子どもがすっかりと少なくなってしまったが、この世界には沢山いる。
子どもたちがいなくなったので、アキラの車へ行く。
「アキラ、これから街中を回るから、マロウ商会で待っててもいいぞ?」
「どうせすることもないし、一緒に行くぜ?」
「カールドンは?」
「私も構いませんよ。これは乗り心地もよいですし、全然疲れません」
「旦那、こりゃ凄いね! 前に乗ったあれより、断然乗り心地がいいよ」
アマナも絶賛だが――まぁ、この世界の馬車に比べたら月とスッポンなのは確かだな。
俺の車に乗っている連中にも確認したが、皆が不動産巡りについてくるという。
もしかして観光がてらなのかもしれないが、話は決まった。
マロウ商会の案内人はアキラの車に乗るので、彼の車に先導してもらい不動産を集めに行く。
誰も住んでいない廃墟をゲットして、サクラに移築するためだ。
事前にプリムラに聞いた情報では、25軒の物件があるという。
俺たちでは絶対に解らない路地を進み、1軒目の建物に到着した。
古い石造りの建物だ。さすがにダリアのほうが大きな都市なので、いい物件がある。
「ケンイチ、これならサクラの役所に十分に使えるんじゃね?」
「そうだな。意外といい。とりあえずゲット!」
建物をアイテムBOXに収納した。
「す、すごい――建物がまるごと入るアイテムBOXなんて」
マロウ商会からやってきた店員が驚いている。
「それは、私の御主人様なのですから、当然です」
プリムラがドヤ顔をしている。
あまり俺のことを自慢したりしない彼女だが、自分の店に勤めている身内には自慢したいのだろう。
「このぐらいの大きさの建物なら、10軒まで入るのは確認したが、その先は未知数だ」
「10軒もはいるのですか?」
「ああ、可能ならば、今日中に25軒全部回りたいのだが。場所の把握はできるのかい?」
「も、もちろんです!」
店員に案内してもらい、ダリアの街中を走り回る。
色々なタイプの家があり、十分に使えるものばかりだ。
15軒ほど回ったところで、昼になった。
家をアイテムBOXに収納すると空き地ができる。
そこで皆で昼食を摂ることにした。