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18話 家庭菜園を作ろう


 ――朝起きると。ミャレーがいなかった。

 俺が起きるのが遅いので、早めに起きて帰ってしまったのか。

 森猫を見ると猫缶を半分ぐらい食べている。


「やったな。このまま良くなれよ」

 背中を撫で、再び傷口を消毒して薬を塗る。なんだかんだで、この薬も効いているようだ。

 アイテムBOXからパンを取り出して頬張る。


「さて、飯の後は草刈りでもするかな」

 森の大木を切り倒して太陽発電パネルを設置したのだが、日光が入るようになったので日が当たる所に草が生え始めたのだ。

 まだ1ヶ月ほどしか経ってないのに、この草は何処からやって来たのであろうか?

 柔らかい雑草ばかりなので草刈機にはチップソーではなくて、ナイロン紐のカッターを使う。これで十分だ。

 多分このまま放置すると、森の外の平原のような背の高い草で覆われてしまうのだろう。


 草を刈り終わって草刈機をアイテムBOXに収納していると、背中に弓を背負ったミャレーが森の奥からやって来た。

 彼女の手には青い羽が光る鳥の首が握られている。大きさは鳩ぐらいか。


「ミャレー、帰ったんじゃなかったのか?」

「昨日、鳥をあげると言ったにゃ」

「そういえば、そんな話もしたか……」

 鳥を獲ってくるから猫缶をくれという話だったな。別にタダでも良いのだが。


「弓なんて何処から持ってきたんだ?」

「朝起きてから家に帰って持ってきたにゃ」

「一旦、家まで帰って、またやって来て森の奥まで行ったのか?」

「にゃ」

 どんだけ、スピードとスタミナがあるんだよ。

 彼女が鳥を捌くと言うので、やり方を教えてもらう。


「ミャレー、鳥を捌いた事がないから、やり方を教えてくれよ」

「良いにゃ」

 ミャレーに鳥の解体の仕方をレクチャーしてもらう。やはり内臓は傷み易いので、早目に抜いた方が良いらしい。

 可能なら冷やせば良いと言うのだが、俺にはアイテムBOXがある。どんな獲物でも、つっこんで置けば腐る事はない。


「次に羽をむしるにゃ」

 おっと、毟ってそこら辺を羽根だらけにされると困る。シャングリ・ラから麻袋を買って、その中で毟ってもらう。

 

「この袋貰っても良いにゃ? この鳥の羽根は引き取ってもらえるにゃ」

「ああ、青くて綺麗だな」

 こういう素材の引取も冒険者ギルドで行われているらしい――ふむふむ。

 レーザーサイトかドットサイトを付けたボウガンを買って、狩をするのも良いかもしれない。


「後は残った羽を焚き火で焼くにゃ」

「ああ、それは俺に任せろ」

 アイテムBOXから、カセットガスバーナーを取り出して火を付け、裸になった鳥の表面を焼いていく。

 チリチリと、タンパク質が焦げる臭いが辺りに充満する。


「それ便利だにゃ!」

「魔法を使っているから売り物じゃないけどな」

 なんでも魔法で済んでしまうという、この便利さ。しかも獣人はあまり難しい事が解らないので追及もしてこない。

 本職の魔導師等に、こんなのを見せたら魔法で無いのが一発でバレてしまうから、アウトだろう。


「ミャレー、朝飯食ったか?」

「食べてないにゃ」

「じゃあ、これを焼き鳥にして食おう。一口サイズ――じゃねぇ、一口の大きさに切ってくれ」

「このぐらいかにゃ?」

 ミャレーに肉の下ごしらえを任してしまい、俺はシャングリ・ラで焼き鳥用の竹串を探す。

 業務用、鉄砲串って奴だな。250本入りで、800円。そうそう焼き鳥のタレもいるな――ポリ容器に入った物が600円だ。

 カセットコンロをアイテムBOXから出して、焼肉用の網を敷く。その上に串を打った鳥肉を早速焼いてみる。


「こうやって焼いて食うんだ」

「にゃ!」

 鳥だから、しっかりと焼かないとな。しかも野鳥だ。ヤバい病気とか持っていると困る。

 肉に火が通ったら、タレを付けて再度焼く。


「ほら、一本食ってみろ」

「にゃ~!」

 喜び勇んで食いつこうとしたミャレーだったが動きを止めた。


「どうした?」

「前に嗅いだ変なソースの臭いがするにゃ。 それに何か別な臭いもするんにゃけど」

「臭い?」

 焼き鳥を1本取って、クンカクンカしてみる。なんだろう? イマイチ解らん。

 瓶のタレのほうか? 瓶のラベルを確認してみると醤油が入っている。

 あ~醤油はダメだって言ってたからな、このせいか? だが、彼女の話だと醤油の臭いだけではないようだ。


「どんな臭いがするんだ?」

「なんか野菜が腐ったみたいな臭いだにゃ」

「ん~? まさか」

 おれは、カセットガスバーナーのバルブを開けて、ガスを少々彼女に嗅がせてみる。


「この臭いだにゃ!」

「ええ~? 鼻が良すぎるだろう」

 そうか直火で焼くから、ガスの臭いが付いてしまうのか。

 獣人は鼻が良いので、臭いに敏感なようだ。しかし、これはイカンな。

 ――となると……。シャングリ・ラで七輪を探す――あった。

 しかも、バーベキュー用の四角タイプだ。これが良いだろう――1000円だ。

 ついでに燃料の備長炭をさがす。いろんなタイプがあるが、お徳用って奴は安いが評価を見るとあまり宜しくない。

 ここは、1kg1800円の少々高い物を買ってみた。しかし野鳥の焼き鳥を炭火で焼くなんて贅沢過ぎるな。

 こんなの元世界で食ったら、どんだけ金を取られるか解らん。ツグミとか美味いらしいけど禁鳥で獲っちゃダメなやつもあるし。


 しかし七輪で炭を起こすとなると、少々時間が掛かるぞ。必死に炭を起こしている俺にミャレーがつぶやく。


「うちは、昨日の美味しいので良いにゃ」

 昨日の美味しいのって猫缶かよ。どうも調子が狂うな。せっかく美味い焼き鳥を食おうとしているのに、猫缶で良いと言われてしまうとは。

 しかし腹を空かせているミャレーが可哀想なので、猫缶を買ってみた。しかし、マジで良いのかよ……。

 猫缶を検索して一番高いゴールド缶って奴を購入してみる。昨日、彼女に食わせた物は肉だったが、金の帯が入っている高級缶の中身は魚らしい。

 皿をアイテムBOXから出して猫缶を乗せて見せる。


「これは魚らしいぞ」

「にゃ!」

 飛びついたミャレーが一口頬張る。


「う、美味いにゃ~!」

 口からビームが出そうなぐらいに叫んでいるが、そんなに美味いのか。

 そんな事をやっているうちに炭の準備が出来たので鳥を焼き始める。俺もパンを少し食ったが焼き鳥の1本2本なら腹に入る。

 真っ赤に焼けた炭の上に鳥の脂が滴り落ちて、白い煙をモウモウと上げる。それと一緒に漂ってくる香ばしい匂い。

 やっぱり炭火で焼くと美味そうに見える。タレを塗って更に焼いた奴を――パクリと一口。


「美味い!」

 少々肉は堅いが臭みなどは一切なく美味い肉だ。ブロイラー等と違って皮に脂身等は少ないが、それでも美味い。


「ほら、こっちも焼けたぞ。食ってみろ」

 焼き鳥のタレはイマイチらしいので、ミャレー用には塩で焼いてみた。俺から差し出された串を頬張る、ミャレーなのだが――。


「美味しいけど、こっちの魚の方が美味いにゃ」


 マジかよ、猫缶に負けるのかよ……オジサン超がっかりだよ。

 ミャレーが帰った後、森猫にも焼き鳥を3切れ程おすそ分けをする。

 さて今日は畑起こしでもするかな。


 ------◇◇◇------


 10m×10m程の小さな畑なので、くわで良いか~とくわを買ってやってみたのだが――早々にギブアップ。

 文明の利器があるんだから無理をしない事にした。なんのためにシャングリ・ラがあるんだ。

 早速、耕うん機で検索を掛ける。う~ん――こんな小さな畑なら電動でも良いかもな。エンジン式だと後の手入れが少々面倒だ。

 キャブレターからガソリンを抜かないと詰まったりするからな。まぁ、アイテムBOXに入れておけば時間経過は無いみたいだから、使用後のままだと思うが……。

 しばし考えて電動にした。


「ポチッとな!」

 ガシャ! と電動耕うん機が落ちてくる。普通はダンボール等で包装されて送られてくるのだが、何故かそこら辺は省かれている。

 包装があっても取り出す手間が掛かるだけだし、ゴミが出なくて良いのだが……。


 落ちてきた電動耕うん機を見てみる。俗に言う耕うん機は極太タイヤが付いていて、その後ろに逆転ローターが付いているタイプだ。

 だが俺が購入した物は簡易型。耕うん機のタイヤの所が順転のローターになっている。

 そのまま使っても、ローターで地面の上をコトコトと走るだけ……。これでどうやって畑を耕すかというと――。

 耕うん機の後ろに棒が付いている。こいつを地面にグサリと刺すとブレーキが掛かって、ローターがズブズブと地面に潜っていくのだ。

 適当なところで、地面に刺した棒を抜いて前に進む――同じ事を繰り返すと、ドンドン畑が耕せるという寸法だ。


 ディーゼル発電機を出して、エンジンを掛け電源を繋ぐ。俺は耕うん機の取っ手を持っているだけなので楽ちん。電動なので凄い軽い。

 やってみると意外と面白いので、30分程で耕し終わってしまった――早い!

 これをくわでやったら翌日筋肉痛間違いなしだ。耕した畑は森の腐葉土がたっぷりだから、栄養満点だろう。

 うねを作りながら考える。何を作ろうか。

 先ずは定番のトマト、ナス、芋かな……ってみんなナス科だよ。これじゃローテションが出来なくて連作障害が出ちまう。

 畑で同じ種類の物を連続して作ると色々と障害が出て、まともに育たなくなってしまう。

 連作障害が出にくい植物もある。例えばイネ科の植物――米、麦、トウモロコシ等だ。

 だが、これも厳密に言えば、連作障害が出るらしいが、地元にも俺が小学生の頃から延々とトウモロコシを作付している畑があったりしたので……実際はどうなのか?

 もしかして、あの農家のマル秘テクニックがあったりしたのかもしれないが、詳しくは学者じゃないので解らん。


 とりあえず、トマトだけ植えてみるか。色々と料理に使えるしな。


 トマトの苗を検索してみるが、さすがに苗は無いようなので種を買う。種類は適当だが桃太郎で良いだろう。有名な奴だ。

 スーパー等で売ってるトマトの殆どはコレだったはず。後は――。

 黒いトマトが珍しいので黒い種類を買ってみる事にした。栽培した事も無いし、食べた事も無いので楽しみだ。

 芽出し用のポットを買って、トマトの種を植え畑にはマルチを張る。

 マルチってのは、うねにビニールシートを張って雑草を防いだり乾燥を防ぐ物だ。

 正式には何と言うか不明。農家は皆、マルチマルチって呼んでいるので、マルチで通用する。


 シャングリ・ラで野菜も買えるのに、こんな菜園をやる必要も無いのだが、スローライフと言えば菜園じゃん。

 これは外せない。かなりチートだけどな。

 もしかして魔法が使えれば、すぐに実がなったりとか便利な呪文があったりするのかもしれないが――。

 逆に、すぐに大きくなって結実したんじゃ栽培する楽しみがなくなると思うんだ。


 後は何にしようかなぁ……採れたてで美味い野菜か。


「そうだ、アスパラガスなんてどうだ?」

 さすがに俺も家庭菜園でこれは栽培した事がない。通常、アスパラを種から育てると、大きくなるのに4年ぐらいの年月が掛かってしまう。


 だが、採れたてのアスパラガスは本当に美味い。親戚の畑に植えていたのを採った事があったが――甘みが全然違う。

 俺の地元の農家でも、アスパラガスが沢山栽培されていた。アスパラは『畑の豚』というぐらい、肥料をバカ食いして凄いスピードで成長する。

 それ故、アスパラは摘み取っても自分の栄養を使ってドンドン成長してしまい、切ってから時間が経つと全然甘みが無くなってしまうのだ。

 通常、畑で収穫してから街のスーパー等に並ぶまでには、少なくとも2~3日は掛かる。

 その間に甘みが抜けてしまい、市販のアスパラガスで美味しい物を食べるというのは、かなり難しい。


 ここはチャレンジしてみるか――と、シャングリ・ラでアスパラガスの苗を検索してみることにした。


 ――ある。アスパラガスの苗だ。種類も色々とあるが結構高い物なんだな。まぁ手間と時間が掛かってるからな。

 10株5000円の物を購入した。

 パサっと、根っこだけが落ちてくる。んん~? この根っこを植えれば、アスパラガスが生えてくるって事なのか?

 多分そうなんだろう。何分、自分でもアスパラは作ったことが無いので色々と解らん。

 とりあえず一緒に肥料も大量に購入して畑に植える。そして水もやる。水はポリタンクに入った川の水だ。


 しかし一々ポリタンクを使って、川から森まで運んでくるのも面倒だな。森の中で井戸は掘れないものか?

 何も釣瓶つるべを落とす大型の井戸は必要ない。手動式のガチャポンプも売っているし、前に購入した電動ポンプがアイテムBOXには入っている。

 ドリルでも使ってホースやパイプを通すだけの穴が開けば良い。シャングリ・ラには塩ビ管も沢山売っているしな。

 それに、これだけ森に巨木が生えているのだ。この森の地下には、それなりの水が蓄えられているに違いない。


 そのシャングリ・ラで井戸を検索してみる。

 ほほう――穴掘りの機械も売ってるな。2ストエンジン式で4万5千円だ。だが、こんな1m程のドリルで水が出るはずがない。

 井戸なら5m~7mぐらいは掘らないとダメなはずだ。

 穴掘りドリルのオプションで1mの延長棒が4000円で売ってるが、7mを掘るとなると――2万8千円か。

 ここでダメでも他の場所で使える可能性もあるが……こんな特殊な機械の購入は、ちょっと悩むな。

 だが、穴掘りの機械は杭を立てる時にも使えそうだしな……。

 パワーショベルがあるから最初に重機で2~3m掘れば、もっと作業も楽にはなるが……う~ん。


 ちょっと保留かな。

 井戸の知識を得るために井戸掘りの本をシャングリ・ラで購入した。

 購入した本には様々な地方や地域での井戸掘りの実例が紹介されており、大変に参考になった。

 これは素晴らしい物だ。偉大な先人に畏敬の念を抱かざるを得ない。

 ベッドに寝転がり、1日中読みふけってしまった。


 だが読むと試したくなってしまうな。



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