175話 エルフはスライムが苦手
湖に出たついでにエルフの集落へ向かったのだが、そこはもぬけの殻。
エルフの姿はまったく見えなくなっていたので、不思議に思っていると透明な魔物の襲撃を受けた。
アキラによると、こいつらはスライム。
元世界のゲームでは雑魚扱いのスライムだが――切っても死なない、燃やしてもあまりダメージもない、魔法もあまり効かない――と、ここでは結構な強敵。
俺がシャングリ・ラから購入したバッテリーを使って電気ショックでダメージを与えられることが解ったので、電撃作戦を実行に移した。
シリカゲルを含んだ猫砂と塩でスライムの動きを止め、電気ショックで止めを刺す。
こいつを使って14匹のスライムを仕留めた。
周りの安全をチェックしたあと、エルフたちを探すことにした。
「アキラ、あっちだ」
「なにか当てがあるのか?」
「以前に来たときに、エルフたちがツリーハウスを作っていた。そこに避難しているんじゃなかろうか?」
完全に村を放棄するつもりなら、もういないかもしれないが、長年ここに住んできたのだ――そう簡単には見捨てないと思う。
皆を連れて、以前に行ったツリーハウスに向かう。
「確か、こっちのほうだと思うがなぁ……」
「旦那、間違ってねぇ。確かにエルフのにおいがする」「そうだにゃ」
「エルフのにおいは俺でも解るが、普通の――只人ってやつも、においはするのか?」
「もちろんだぜ」「そうにゃ」
「まぁ、俺と森猫のにおいを辿って、ミャレーがここまで追いかけてきたしなぁ」
「むふー、絶対に逃さないにゃ」
ミャレーが自慢の鼻をひくひくさせている。
「そうか、ケンイチが逃げたら、獣人たちに追わせればいいのじゃな」
「なんで、俺が逃げるんだ。領主になっちまって、正室までいるんだ。もう逃げられないだろ」
「ははは、俺もミャアから同じことを言われてるしな」
アキラが笑っているが、彼の下にも獣人の女性がいるので、状況は同じ。
「ケンイチ、多分――洗濯の魔法を使って、においを消せると思う」
「ああ、なるほどなぁ。こんど実験してみようか?」
「うん」
俺とアネモネの会話にリリスが声を荒らげる。
「まさか、本当に逃げる準備をするのではあるまいな?」
「そんなわけないだろ。敵に獣人がいることもあるし、そういう敵に追われたときのことも考えなくてはいけないだろ?」
「そうだなぁ。なにしろ貴族ってのは狙われやすいしな」
魔法を使ってにおいを消す方法に、アキラも興味があるようだ。
「アキラも獣人に追われたことがあるのか?」
「いや、追撃戦が多かったが、においが消せれば利用できることがある」
「たとえば?」
「通常、追うときは風下からってのがセオリーだが、それを逆手に取ることもできるだろうなぁ」
においを消すことができれば、色々と利用できそうだ。
「なにもしてなくても、悪巧みで嵌められることもありえるんだし。リリスも王侯貴族でそういう話を聞くだろ?」
「ううむ……」
話をしながら、丸太でできたツリーハウスに到着したので、声をかけてみる。
「お~い! 誰かいるか~?! っているんだろ?!」
本当に、ここに全員入っているのかな?
避難にも使えるように、かなり丈夫に作ってあると言っていたけど。
少々心配になったのだが、小屋の中から聞こえてくる声が大きくなると、ドアが開いた。
「え?! 誰?!」
出てきたのは、前に来たときに俺に絡んでいた、ボブヘアのエルフだ。
族長を除けば、下っ端エルフのまとめ役のような存在らしい。
「お~い、俺だ! 湖の向こうで領主をしてるケンイチだ」
「え?! ちょっと危ないよ! スライムがいるんだって!」
「大丈夫、池にいたスライムは全部退治したから」
「ええ?! 本当に?!」
俺はアイテムBOXから、餅のようになったスライムを1匹だした。
「ほら、これがスライムだ」
「ええ? なになに」「どうしたの?」「だれ?」
エルフたちは、ドアから一斉に金髪の頭を出した。
「本当に大丈夫なの?」
「ああ、全部で14匹だったぞ。池でも調べたが、もういないようだった」
「1匹2匹残ってても対処できるから心配いらねぇよ」
アキラも翻訳の指輪を持っているので、彼らと話ができる。
「誰?」
「俺の領にいる魔導師だ。ドラゴンも倒したツワモノだぞ」
「ドラゴン?! 本当に?!」
「本当だ」
俺たちに説得されて、金色の飾りをつけた緑色のチャイナドレスのような服を着たエルフたちが、次々とツリーハウスから降りてきた。
降りてきたはいいが――まだビビって周りをキョロキョロしている。
本当に全員が、あの小屋の中に入っていたらしい。
「エルフってのは、結構強いんじゃないのか?」
「普通の魔物ならともかく、スライムって大変なんだからぁ!」
「そうそう、弓も効かないし、魔法も効かないしぃ!」
「皆であの狭い小屋の中に入っていたのか?」
「そうだよ」
男も女も一緒だが――今回、男たちはあまり役に立たなかったのか、肩身が狭そうだ。
「食い物はどうしてたんだ?」
「エルフは精霊がいれば、そんなに食べなくても平気だしぃ」
「それにこれがあるから」
エルフたちが、小屋から出して見せてくれたのは、バナナ。
「おお、俺が渡した果物の栽培に成功したのか?」
「ええ、簡単だったわ」
「株分けすれば、ドンドン増えるし、凄い便利だよねぇ」
「バナナは栄養満点だしな。青いバナナは料理にも使えるし」
1本もらって食べてみる。完熟バナナなので、凄い甘い。
皆にも食べさせる。
「あま~い!」「これは美味いの! 前にもらったものより甘い!」
「おお! こりゃうめぇ!」「甘いにゃ~!」
獣人たちも、バナナをがっついている。
シャングリ・ラに売っているのは、青いバナナを摘み取ったものだからな。
ここに生えているのは、摘みたての完熟バナナだし。
「ははは、こんな場所でバナナとはな。ケンイチがやったのか?」
「ああ、カカオの実と一緒に渡したんだ」
「カカオ? エルフはカカオに似た実を飲み物にして飲むのは知ってるが……」
「ここらへんに生えてたカカオの木が病気でやられたらしい」
「へぇ~そういうこともあるのか」
そう、このバナナと一緒にカカオの実も渡した。
カカオは、チェチェと呼ばれていて、エルフたちの生活にはなくてはならないものなのだ。
「チェチェの栽培は上手くいってるのか?」
「上手くいってるよ~まさか、チェチェを自分たちで育てるなんて思ってもみなかったけどね」
「自分たちで栽培すれば、欲しいときに手に入るし、予定も立てられるだろ?」
「そうなんだけどぉ――まさか、チェチェの木がなくなる日がくるなんてね」
「種類による違いは?」
「ちょっと粉が黒っぽい以外は、全然変わらないよ」
「それは良かった」
外来種を持ち込んでしまったことで、ここに生えている在来種と混じってしまう可能性があるが……。
考え込んでいると、アキラが声をかけてきた。
俺が難しい顔をしていたかららしい。
「どうした?」
「種類の違う元世界の作物を持ち込んで遺伝子汚染してしまうのではなかろうか?」
「ははは、大丈夫だよ。神様のくれた力で持ち込んだんだ。なにがあっても、全部神様の責任さ」
アキラは、俺たちが持っている力は、神様がくれたものと言うのだが――もしそうなら、彼の言うとおりだ。
遺伝子汚染が禁則事項だというのであれば、持ち込めないようにするべきなのだ。
禁止されていないってことは、想定の範囲なのだろう。
少々荒っぽい解釈ではあるが。
ビビっているエルフたちと一緒に村に戻る。
「本当に大丈夫なのぉ?」
「心配なら、2~3日滞在して、様子を見てやるよ」
「そうだな。退治の仕方はもう解ったし、簡単にできるからな」
「本当! ありがとう~!」
俺とアキラが、エルフたちに抱きつかれる。
「むー!」
「アキラ殿はともかく、ケンイチには妾とアネモネがおるではないか!」
アネモネとリリスのご機嫌が急に斜めになる。
それにエルフたちが気づいたようだ。
「あ、そうそう。領主様は小さい子が好きだったんだよねぇ」
「おい、誤解を招くようなことを言うなよ」
「アキラ殿も、あまり羽目をはずすようなら、レイラン殿に言いつけるぞぇ?」
「ちょっと待ってくれ! お姫様、そりゃないぜぇ」
「我々には、協定があるからの!」
「わかったにゃ! それがネットワークにゃ!」
またミャレーが、元世界語を覚えてしまった。
騒いでいる俺たちの所に、和服の羽織のようなものを着たエルフの族長がやってきた。
確か、メーサラだったか……。
「チェチェやバナナのみならず、スライム退治までしてもらえるとは、ケンイチ殿に幾千万の感謝を」
抑揚のない淡々とした声が響く。
「まぁ――ここも一応領地になっているし、領主としては当然の義務を果たしただけだな」
族長と話している俺に、リリスが満足そうにつぶやく。
「ほう、ケンイチも徐々に為政者らしくなってきたのう」
「リリスとアマランサスの見様見真似だけどな」
「けどよう……本当にスライムはいなくなったのか?」
女たちの後ろをついてきた、男のエルフたちがビビりまくっている。
「そんなに心配なら、池の周りを回ってくればいい。スライムがやってきたら、俺たちが退治してやるよ」
「ほ、本当か?」
「もちろん。逃げてくるだけなら、できるだろ?」
30人ほどのエルフたちが族長を中心に円陣を組む。
池の周りで騒ぎたてて、スライムをおびき寄せる作戦らしい。
さすがに、これだけの人数でおびき出して出てこなければ、全滅させたと信じてもらえるだろう。
「残っていたら、本当に退治してくれるんだよな?」
「なんだ――エルフは、女より男のほうがビビりだな」
俺の嫌味に男のエルフたちは心外そうだ。
「スライムってのはなぁ、マジでヤバいんだぞ?」
「大丈夫だっての。心配するな」
こいつら全員数百歳で、俺たちよりめちゃ年上のはずなんだが――全然そんな感じがしないのは、なぜなんだぜ。
エルフたちが池に向かうと、俺たちが乗ってきた船を見つけた。
「これって、あんたらの船なのか?」
「ああ、それに乗ってやってきたんだ」
「すげ~!」
「後ろに魔道具がついているから。漕がなくても進むぞ?」
「すげ~!」
まるで、スーパーカーを見る子どものような、キラキラした目で船を眺めている。
そのあと、30人のエルフたちが、池をぐるりと取り囲み、スライムのおびき出しを始めた。
――といっても、ビビりまくりで腰が引けまくり。
その光景に笑っちゃ悪いが――ウチのアネモネのほうが、よほど腹が据わってる。
アキラと一緒に、プラケースに入った猫砂と塩の準備をして待つ。
しばらくすると、池の反対側が騒がしくなった。
「まだ、残っていたか?」
「らしいな」
エルフの男たちが、こちらへ走ってきた。
「「「うわぁぁぁ! 来たぞぉ!」」」
「よ~し、そのままこっちへ来い!」
アキラと一緒に、猫砂と塩を横に線を引くように撒く。
ここをスライムが通れば、動けなくなるトラップだ。
猫砂で書かれた白い線の上をエルフの男がジャンプすると、そのあとを透明な水たまりがついてくる。
どうやら2匹のようだが、トラップに引っかかると、白い粘膜を出して縮み始めた。
「おっしゃ! 追加で喰らいやがれ!」
アキラが猫砂をぶっかけると、みるみる白く濁って固まっていく。
それを見た俺は、シャングリ・ラから鉄筋を購入した。建築現場などでコンクリートを打つときに使われている鉄の棒だ。
「おりゃ!」
その鉄筋を、スライムに突き刺す。
完全に動きの止まった2匹のスライムにエルフたちが集まってきた。
「お~い、エルフで電撃の魔法を使えるやつはいないのか?」
「ええ? 私が使えるけど……」
手を上げたのは、おかっぱヘアのエルフ。
「電撃の魔法は、制御が難しいって聞いたけど、この鉄の棒に雷を落とすのは簡単だろ?」
「そりゃ、これだけ近ければ……」
「止めを刺してくれ」
「それで、こいつら死ぬの?」
「ああ、地面も乾いているから平気だろ」
かろうじて濡れているのは、スライムが這ってきた場所だけだ。
「それじゃ、やるよ――『青き雷よ、我敵を切り裂く剣となりて宙を走れ――電撃!』」
破裂音とともに青い閃光が鉄筋のてっぺんに落雷――本当に雷だ。
強烈な電撃を受けたスライムは、数秒で白い煙を上げ始めた。
前のときと同じように、お菓子っぽい甘い香りが、辺りに漂う。
「この香りだけ嗅ぐと、美味しそうに思えるが……」
「うそ?! 只人ってスライムを食べるの?」
俺のつぶやきに、エルフたちが反応する。
「いや、食わんが――食ってみようかと、思ってな」
「いやだぁ!」
彼らの反応からすると、エルフもスライムは食わないみたいだな。
もう1匹残っているが、こいつは実験材料にした。
この状態で切っても死なず、切り取ったものを水に漬けても蘇生する。
動けない状態で、アネモネの乾燥魔法を使うとカラカラにできるが――しばらくはそのままでも生きており、水を与えると復活する。
かなり生命力は強い。カラカラの状態で火を点けるとよく燃えたので、燃料として使えるかも。
動けない状態なら凍らせる事もできるが、不凍成分が多いらしく完全には凍らないし、溶けると動き出す。
生命力が強靭すぎる。
「もう、残っていないだろ? 心配ならまだやるが?」
「「「う~ん」」」
エルフは、よほどスライムが嫌いのようだ。
「だって! 1匹見たら、凄い勢いで増えるんだから!」
「まぁ、切ったり爆破したりすると、分裂するみたいだしな」
「そうなんだよ! 刺されると痛いしさぁ!」
「ケンイチ殿、誠に申し訳ないが、彼らの不安を取り払ってはくれまいか」
族長に頭を下げられてしまっちゃ――仕方ねぇ。
とことんエルフたちに付き合うことに。
「アキラ、俺たちは飯を食おうぜ?」
「いいねぇ。なにを食う?」
「俺的にはカップ麺を食いたいのだが……」
「いいじゃん! 俺も久々に食いたいぜ」
「それじゃカップ麺とおにぎりで、それからシ○ウエ○センだな」
「シ○ウエ○センとか作れるのかよ」
「大丈夫だ、問題ない」
俺とアキラはカップ麺の用意をするが、普通の食事――パンとスープも用意した。
後は、サンタンカで作っているスモークサーモン。
リリスや獣人たちの大好物だ。
「アキラ、コンロとフライパンを出すから、ウインナーを焼いてくれ」
彼にシャングリ・ラから購入した業務用のシ○ウエ○センを渡した。
1kg入りで3000円だが、ウインナーは獣人たちでも食べられるだろう。
「任せろ~」
鍋に入った水と、シャングリ・ラで買ったおにぎりをアネモネにあたためてもらう。
「ケンイチ、私もそれを食べる」
アネモネはカップ麺を食ったことがあるからな。
「よっしゃ」
「リリスはどうする?」
「妾もそれを」
「それじゃ追加だな」
リリスも、カップ麺を食べるらしい。
追加で購入して、準備をしているとエルフたちが集まってきた。
「なになに? なにを食べるの?」「なにこれ? 乾燥させた管虫?」「いや、この細さは、紐虫だろ?」
「違う違う、小麦粉を練って細長くして乾燥させたものだ」
「へぇ~」
エルフたちが、皆でカップ麺を覗き込んで興味津々だ。
「食いたいのなら、食わせてもいいが……おたくの族長から、只人の文化に染めるなって苦情がくるからなぁ」
「「「メーサラ~!」」」
エルフたちが、族長の所へ団体交渉をしにいく。
さすがに数十人に囲まれては、「うん」と言うしかないだろう。
族長が俺の所にやってきた。
「申し訳ないが、食料をわけてくれないだろうか? 金はないが、なにか対価を用意する」
「ああ、構わんよ。災害時に領主が行う炊き出しみたいなものだからな」
「ケンイチ殿に、幾千万の感謝を」
早速、人数分のカップ麺をシャングリ・ラで購入した。
購入ボタンを押すと、空中からガラガラとカップ麺が落ちてくる。
「これって魔法なの?」
おかっぱのエルフが、落ちてきたカップ麺を手に取る。
他のエルフたちは、日にかざしたりしているが、なにか意味があるのだろうか?
「まぁな」
不思議そうに元世界の食い物を見ている彼らに、食い方を教える。
「そのまま火にかけたりするなよ。燃えちゃうからな」
お湯が沢山必要なので、アイテムBOXから出した寸胴に水を入れないと。
「水が必要なの? 汲んでくるよ」
彼らは、池の水を使うらしい。
「池の水を飲んで大丈夫なのか?」
「浄化すれば大丈夫だよ」
どうやら魔法を使うらしい。
エルフたちが水を汲んできた寸胴に浄化魔法をかけてもらったあと、彼らにお湯も沸かしてもらう。
金髪の森の住民たちは全員魔法が使えるので、だれでもお湯ぐらいは沸かせる。
こっちは、おにぎりを温めよう。海苔が食えるか解らないので、海苔なしのおにぎりにしてみた。
彼らも肉は駄目でも、おにぎりは食えるだろう。
「お湯が沸いたら、こうやって容れ物にお湯を注ぐんだ」
「すぐに食べられるの?」
「いや、180数えてくれ」
「解った」
エルフたちは、お湯が入ったカップめんを地面に置くと、円陣を組んでしゃがみ、じ~っと見ている。
背のデカい子どもが並んで待っているようで、なんというか――可愛い。
3分たった。
「食べていいぞ~」
彼らにプラ製のフォークを渡した。
「本当?!」
「ああ」
エルフたちは俺の真似をして蓋を開けると、すぐに食べ始めた。
「美味しい! 只人の村には、こんな食べ物があるの?」
「いや、こいつは俺の魔法で作ったものだから、俺の所でしか食えない」
「つまり、ケンイチと一緒にいれば食べられるのね?」
「まぁ、そういうことになるかな?」
エルフたちはおにぎりも頬張っている。
中身は、ねぎ味噌なので彼らでも大丈夫だろう。
「はふはふ、美味しい!」
得体のしれない食べ物を喜んでいる村民たちに、エルフの族長は渋い顔をしている。
本当は、異文化の食事を摂らせたくないのだろう。
「うめー!」「美味いにゃ!」
獣人たちは、シ○ウエ○センを食べて上機嫌だ。
「旦那ぁ……」
ニャメナがクイクイと飲む真似をしている。酒の催促だろう。
「駄目だぞ、こんな昼間から。アキラだって飲んでないんだ」
「ははは。まぁ、こんな昼間から飲んじゃ――ただの駄目親父だからなぁ」
「ちぇ!」
「リリスはどうだ? 細い長い食い物の味は?」
「うむ! これは美味い! おかわりじゃ!」
「ええ? もう食べたのかい?」
「うむ!」
飯で腹いっぱいになったエルフたちは、再び池の周りでスライムのおびき寄せをしているが――夕方までやったのに、もうスライムは出てこなかった。
「これで、安全だろ?」
「いや! 明日、もう1日やる!」
どんだけスライム嫌いなんだ。まぁ、いいけどな。
暗くなってきたので、俺たちはコンテナハウスを出して、中で食事を摂ることにした。
「ケンイチ、俺はテントでいいぞ?」
「大丈夫か?」
「テントの周りに猫砂撒けばいいだろ?」
「なるほど、そういう手もあるか……」
まぁ、彼が大丈夫だというので、アイテムBOXからテントと寝袋を出してやった。
「飯はどうする?」
「俺のアイテムBOXに入っているものを食うよ」
「そうか」
コンテナハウスに入ろうとすると、エルフの女たちに抱きつかれた。
「今日の夜はどうするぅ~?」
鼻孔まで草のようなにおいが漂ってくる。
「どうするって、どうもしないよ。うちの正室からのお許しがでないし」
「俺も浮気をしたら、街にいる連れ合いにバラすって言われているしな、はは」
アキラは、エルフのお誘いに未練があるようだ。
もしかしたら、リリスが寝たあとに、夜這いに向かうかもしれない。
「女とやるのが駄目なら――それじゃ俺たちとやろうぜ?」
「はぁ?」
手をあげたのは、エルフの男たちだ。
そりゃキラキラ金髪ヘアのイケメンばかりで、一見美女にも見えないこともないのだが……。
「やるってなにをやるんだよ」
「なにってナニに決まってるだろ? 只人は違うのか?」
「ええ?!」
アキラの話では、エルフってのは男でも女でもいけるらしい。
「ああ、そういう……って――アキラ。お前、エルフの男とやったことがあるのか?」
「フヒヒ、サーセン」
アキラが下を向いて頭を掻く。
「マジかよ。いや、それはちょっと……」
「そういう話ならば、妾も興味があるのう。妾の前で見せてくれるなら――ケンイチ、エルフたちとしてもいいぞぇ?」
リリスが、興味津々キラキラと目を輝かせている。いや、王都ではやっている薄い本じゃないんだからさ。
「してもいいぞぇ――って、じょ、冗談ヨシ子さん」
顔を赤くして、アネモネも手をあげた。
「わ、私もちょっと見たいかも……」
「ブルータス――じゃあねぇ、アネモネ――お前もか~」
いや、好奇心は旺盛な俺だが、それはお断りした。
だが、アキラは皆が寝静まったころ、エルフの所へ向かったようである。
相手が男か女かは、不明だが。