174話 スライム
サクラにドワーフたちがやって来た。
鍛冶場の準備を始めたのだが、俺が以前巨大な蜘蛛を倒した洞窟に興味があるという。
そこに案内をすると、大変気に入ったらしく、棲家として利用したいと言い出した。
俺としても断る理由がないのでそれを認めると、すぐさま彼らは、洞窟内に住居の建設を開始。
他の街からもドワーフたちを集めるという。
洞窟はドワーフたちに任せて、俺はサンタンカにクラーケンの肉を届けることになった。
生ものなので、俺のアイテムBOXから直接渡しているのだ。
サンタンカでの燻製の製造も順調に進んでおり、村も大きくなっている。
産業があって仕事があれば人は集まるのだ。
クラーケンの肉の配達が終わった俺たちは、湖の対岸にあるエルフの村を訪れてみようということになった。
同行しているアキラも、ここのエルフたちに会ってみたいようだ。
彼は帝国でエルフとも付き合っており、彼らの文化や暮らしをよく知っている。
俺たちを乗せた船は、エルフの村へ続く運河のような川へと進入した。
「こんないい運河が海まで続いているってのに、利用できないのは勿体ないよなぁ」
アキラの言うとおり、この川の先は、アニス川という大河に繋がっており、アニス川は海にも王都にも繋がっている。
船が利用できれば、大幅な輸送力アップに繋がるのだが……。
「でもさぁ、アキラの旦那。湿地帯には尋常じゃないぐらいの魔物がウヨウヨいるんだぜ?」
王都の近くを通ったアニス川は、大湿地帯に流れ込み、大蛇のようにうねうねと平地を進み海へ流れ込む。
ほとんどが湿地帯で、多数の魔物がいるという未開拓地――人も全く住んでいない。
森の中に住むというエルフさえも近づかない危険地帯だ。
魔物の中でも危険なのは、大量に生息しているというスライム。
元世界のゲームの中では雑魚扱いのスライムだが、ここでは強敵で人々に恐れられ――ほとんど水と変わらない姿で忍び寄り、いきなり捕食されるという畏怖の対象とされる。
森の中、木陰の間を縫うように流れる水路――その上をゆっくりと進む船の上で、スライム談義が続く。
「アキラ、スライムの攻撃ってのはどんな感じなんだ? 強酸で溶かされるとか?」
「いや、そんな強酸だったら、自分たちが溶けるだろ?」
「まぁ、そうか」
「まずは捕まえると、刺胞を打ち込む。こいつが痛くて痺れる」
「でさぁ――取り込んで窒息させてから、ゆっくりと消化されるんだよ」
ニャメナが説明してくれた。
なにそれ、怖い。
「魔法は効かないの?」
「アネモネちゃん、これがあまり効かないんだよなぁ」
「RPGの攻略法だと、コアを狙え! ――とか、あるだろ?」
「コアはないな」
魔石もあるが、それがない個体でも同じように動くので、魔石を攻撃する意味はないらしい。
「アキラ殿。燃やすのはどうじゃ」
リリスは、アキラが油を出せるのを知っている。
「試したことがあるんだが、水分が多いから燃えないし、大した痛手も与えられない」
「水分を蒸発させるぐらいの大火力があれば……」
「それなら、死ぬ可能性があるが――」
爆裂魔法で吹き飛ばしても、バラバラになるだけで、再度集合して元通りになるという。
「それじゃ、電撃は?」
俺の質問に、アキラが船外機を操りながら、唸っている。
「それが唯一有効だと思うんだが、水分がほとんどだからな」
「試したことは?」
「あ~、スライムがいるのって水辺じゃん。そこに電気を流したら……」
「ああ、なるほどなぁ」
俺とアキラの会話にリリスが首を傾げている。
「水がどうしたのじゃ?」
「電撃とか雷ってのは、水を走るんだよ。水辺で電撃の魔法なんて使ったら、脚を浸けている全員が感電――つまり雷に打たれる」
「なんと――」
「ゴム長靴を履けば平気だな」
「はは、そんなものがあれば、俺も苦労はしなかったな」
シャングリ・ラで、防水の胴長長靴を検索してみる――8000円ぐらいで売っているな。
これなら電気を通さないだろう。
「でも、長靴があっても、アネモネは電撃の魔法を覚えていないからなぁ」
「電撃の魔法ならセンセが使えるが――あまりゲームやアニメのように便利な魔法じゃないぞ?」
「そうなのか?」
アキラの話では、コントロールが難しいらしく、アーク放電がどこへ飛んでいくか解らないらしい。
なるほど、そう言われればそんな感じがするな。
雷がどこへ落ちるか解らないのと一緒だな。
「とりあえず、一番近い地面からの突起に落ちたり、金属部分に落雷したりする」
「そう聞くと、あまり役に立たないような……」
「すごい至近なら使えるぞ」
「それなら、最初から水を撒いて感電させる、広範囲魔法としたほうが役に立ちそう」
「まぁ味方が全員、ゴム長靴を履いているのが条件だけどな、ははは」
アキラの戦闘データはすごい役に立つ。伊達に死線をくぐり抜けてないな。
船はそのまま水路を進み、エルフの村の近くまでやってきた。
「ん~? お出迎えがないな?」
俺のつぶやきにアキラが反応した。
「エルフは結構境界や侵入者に敏感だからな」
「初めて会ったときは攻撃されたぞ?」
「はは、ありがちだな。知り合いになると、めちゃ図々しいんだがな」
エルフたちの出迎えがないまま、船は彼らの集落がある池の畔までやってきた。
「ケンイチ、全然見当たらないぜ?」
船の上から見渡すが――彼らの家などは以前と同じままだが、エルフたちの姿は見えずゴーストタウンのよう。
どこかにでかけているとしても、1人もいないというのは変だ。
「もしかして、引っ越したかな?」
桟橋がないので、先に獣人たちに降りてもらい船を押してもらう。
舳先を陸に少々上げたので、これなら流れていったりはしないだろう。
アイテムBOXから脚立を出すと、船の舳先から地面に降りた。
「ミャレーとニャメナ、少し濡れてしまったな。今、乾燥する魔道具を出してやる」
「いいよ旦那。このぐらいすぐに乾くからさ」「そうだにゃ」
「そうはいっても……」
俺がアイテムBOXのステータス画面を見ていると、突然ニャメナが叫んだ。
「旦那! あぶねぇ!」
突然、ニャメナに抱えられて、ジャンプした。
「ふぎゃ!」
ミャレーも、アネモネとリリスを抱えてジャンプ。
釣られたアキラもジャンプした。
「なんだ! なんだ!」
「なにごとかぇ?!」
見れば――池の淵から、なにか透明なものが上がってきている。
「おい、ケンイチ! スライムだ!!」
「これがか?! 結構、動きが速いぞ!」
本当に水が坂を流れるような速さで、透明なものが迫ってくる。
「むー! 光弾よ! 我が敵を撃て!」
ニャメナに抱えられたアネモネが、マジックミサイルの魔法を放った。
空中に現れた光の槍が、透明なスライムに命中するが――。
穴が開いて飛び散ったと思いきや、すぐに合体して、なにごともなかったように再びこちらに向かってきた。
獣人のスピードなら、逃げ切れるかもしれないが――ニャメナとミャレーも人を抱えている。
俺はとっさに、アイテムBOXからコンテナハウスを取り出した。
目の前に黒いコンテナが、地響きとともに落ちてくる。
「皆! とりあえず、あの中へ!」
「うおお!」「にゃぁぁぁ!」
皆でコンテナハウスに入ると、アルミサッシの扉を閉め、ノブについている鍵を回した。
「はぁはぁ……」
「こ、これがスライムかぇ」
「初めて見たぁ」
リリスとアネモネが青くなっているが、あれじゃ水の中にいたら本当に解らんな。
ズリズリとコンテナハウスにへばりついて、這いずり回る音がする。
ガラス窓にも、透明ななにかが覆う。
「さすがに鉄板を溶かしたり、穴を開けたりはできないだろう」
「多分な」
サッシの隙間から流れ込んでくる――みたいなこともできないらしい。
「本当に透明なんだな……」
「水辺だとマジで解らんからな」
「ミャレーとニャメナ、スマン。先に水の中に入ってもらったおまえたちが犠牲になるかもしれなかったよ。もっと注意すべきだった」
「多分、ウチらが水に入ったんで、よってきたにゃ」「ああ、多分な」
いつもおちゃらけているアキラが、マジ顔だ。
「さて、ケンイチ――どうする?」
「まいったな」
まさかスライムがいるとはな。
このせいでエルフたちも、ここから避難したのだろう。
「魔法は効かない――アキラの油で燃やすのもダメときたか……」
「そのとおりだ」
爆裂魔法で吹き飛ばしても、すぐに集まってきて元通り――となると、船に乗って逃げるのも危ない。
船に乗っているときに襲われてなくて、よかったな。
水の上じゃ逃げ場がなかった。そう考えると――これは、たしかに危ないな。
アニス川を運河として利用できないわけだ。
「有効なのは電撃か……皆、ちょっと部屋の隅に行ってくれ」
俺はシャングリ・ラからトラック用のバッテリーを5個購入した。1個1万3000円ほど。
ついでに、バッテリーを接続するためのバッテリー渡り線を4本購入。全部で8000円だ。
「ポチッとな」
車のバッテリーとは違う、黒白の細長いバッテリーが空中から落ちてきて、床を太鼓のように鳴らした。
「ケンイチ、バッテリーを使うのか?」
「ああ、こいつを直列に繋げば、溶接ができるぐらいの直流パワーがある」
これをプラ製の洋服ケースの中に入れて、バッテリー渡り線で直列につなぐ。
つなぎ方は、小学校の授業でやった乾電池と同じだ。
パワーが段違いだけどな。
溶接用のケーブルをバッテリーに繋げるように改造して、銀色で細長い溶接棒を固定する。
別に溶接するつもりはないが、他にいいものがなかった。
普通の溶接機は、マイナスにアース線を繋ぐが、こいつはマイナスにも溶接棒が固定されている。
「これでアークが出るのか?」
「ちょっとやってみるか?」
溶接棒同士をちょんと接触させると、青白いスパークが発生した。
「うおっ! 魔法だ!」「魔法だにゃ!」
「すご~い!」「すごいのぅ!」
リリスとアネモネも、アークの明るさに目をしばしばさせている。
直接見ると目玉が焼けるほどの威力だ。
「奴らの身体のほとんどが水なら、電気を通すだろ?」
「よっしゃ、やってみようぜ」
アキラはマイナス側、俺はプラス側を持って準備。
用意ができたので、2人で窓に張り付く。
「ニャメナ、窓を少し開けてくれ」
「わ、解った……」
窓には透明なスライムが、まだ張り付いていて、ニュルニュルと動き回っている。
屈折率の違いで、景色が歪むので、かろうじてなにかいるってことが解るのだが――敵は箱の中に人がいるのが解るのだろうか?
ニャメナがガラス窓をそっと2cmほど開けたので、そこにアキラと2人で溶接棒を突っ込む。
スパークこそ出なかったが、スライムが飛び上がって、コンテナハウスから剥がれた。
「ははは、スライムってジャンプするのかよ。初めて見たよ」
ジャンプしたスライムを見たアキラが笑っている。
「結構、飛んだな?」
「ああ、びっくりだ」
スライムとの戦闘の経験も豊富なアキラも初めて見たという、スライムのジャンプだが、電気ショックがこの透明な魔物に有効だと解った。
「けど、死んだようには見えなかったな」
アキラが、窓から外を見ている。
「動きを止めてから、長時間流せば死ぬんじゃね?」
「そりゃそうだが……どうやって動きを止める?」
「う~ん」
しばし考える。そういえば、ナメクジに塩をかけると、動きが止まるよな……。
「アキラ、ナメクジに塩作戦はどうだ?」
「塩をぶっかけるのか?」
「いや、塩よりなにか……」
シャングリ・ラを検索する。水を吸うといえば――シリカゲルか。
いや、もっと良さげなものが、目に止まった――猫砂だ。
ペット用品のコーナーに、顆粒状の猫砂が売っている。
木製ペレットやら、紙製など色々とあるが、シリカゲルが主成分のものを買う。
こいつなら大量に買っても安い。塩よりは水分を吸うのに違いない。
10Lで6袋を1万円で購入。
「ポチッとな」
ドサドサと猫砂が落ちてきた。パッケージデザインなどはされておらず、白い顆粒だけが入っている。
「なんだ? 砂か?」
「いや、シリカゲル入りの猫砂だよ」
「猫砂かよ。効くかな?」
「それじゃ、ナメクジ退治と同じように、一緒に塩も追加してみるか」
追加で塩を20kg2000円で購入して、猫砂に混ぜる。
これなら効くだろうが、そのためには外に出なくてはならない。
スライムは刺胞を打ち込んでくるので、そいつをガードするために必要な胴長を買う。
全身黒いゴムでできているスーツ型だ。これなら電気も通さないだろう――1着1万円。
追加で、ブラスト加工などをするときに使う、ゴムのマスクガードも買う。
顔の部分がガラスになっており、肩まですっぽりと覆ってくれる頭巾のようになっている。
この組み合わせなら、スライムの攻撃も防げるに違いない。
「胴長にゴム頭巾か。確かにこれなら、スライムに刺されても平気かな?」
「ゴム製だから、電気を使っても平気だろ?」
「そうだな」
俺とアキラとで服を脱ぐと、下着姿で黒い胴長を着込む。
「うひゃ~こりゃ暑いぜ~サウナかよ。汗だくになるな」
「スライムに刺されるよりはマシだろ?」
「ふう、マジで大事になったぜ、こりゃ……」
アキラが愚痴っているが、あのスライムを排除しないと、帰ることもできない。
「旦那、俺たちも手伝うよ!」「そうだにゃ!」
「いや、砂を撒くだけだからな、俺たちだけで大丈夫だ。それに俺たちはスライムに刺されても、回復が使えるからな」
「まぁ、ケンイチの言うとおりだ。ここから見物してな」
「ううう……」
ニャメナがしっぽをブンブンしている。
苛ついているのだが、仕方ない。
「う~! 私の魔法が役に立たない……」
スライムを乾燥させればいい――ということで、彼女が乾燥の魔法を使ったのだが、すぐに察知して逃げられてしまった。
魔法が発動して、乾燥が始まるまでタイムラグがあるので、それに気づかれてしまうようだ。
それに乾燥が始まっても、しばらくじっとしてもらわないと、乾燥が完了しない。
スライム自体にも魔法に耐性があり、効果が薄いと解った。
「そうむくれるなアネモネ。こういうときだってある」
「そうだぞ、アネモネちゃん。ウチのセンセだって、スライムは苦手なんだからさ」
「ケンイチ、気をつけるのじゃぞ!」
「大丈夫だ、リリス」
リリスを抱き寄せるが、ゴムの胴長の上からなので、いまいち。
「私も!」
アネモネも一緒に抱き寄せる。
「領主様はモテモテだな」
「ははは――さて、行ってみるか?」
「おう!」
バッテリーセットをアイテムBOXに入れると、プラ箱に入った猫砂だけ持って、素早く外にでる。
「まずは、バラ撒こう! 猫砂の上を通れば、水分を吸われるはずだ」
「おりゃりゃりゃ!」
俺とアキラが両手を使い、派手なアクションで周りに白い顆粒の猫砂をバラ撒き始める。
2人の動きに反応して、すぐにスライムも集まってきた。
まるで透明な水たまりが地を這ってくるようだが、猫砂の上を通過すると、すぐに粘膜を出して白くなり縮み始めた。
猫砂が効いているのか、それとも一緒に混ぜている塩が効いているのか、またはその両方か。
「お! アキラ! 効いてるぞ!」
「マジだ! おりゃ! 追加で喰らいやがれ!」
アキラが、バサバサと猫砂を上からぶっかける。
猫砂が効くようなので、同じものをシャングリ・ラから追加購入して、プラ箱へ補充した。
ついでに塩も追加する。
「おりゃりゃりゃ!」
動きが止まったスライムに、アキラが猫砂をかけまくると――透明だったスライムは、縮み上がり餅のように。
俺は、アイテムBOXから、バッテリーセットを取り出すと、高く電極を掲げた。
「ダブルケンイチコレダー! それは、失われた世界からもたらされた、神代の雷撃!」
銀色の電極をブスリとスライムに差し込むと、5秒ほどで煙が上がり始める。
「はは! 効いてる効いてる!」
「煙が出たら、もう死んでると思うけど、なんか――いいにおいじゃね?」
「そうだな、なんかお菓子っぽい……甘い香りが……」
電極を抜くと、隣のスライムに差し込む。
次から次へと電極を差し込んで、止めをさすこと――10匹。
「くそ、こんなにいやがったのか……」
それはすでに透明ではなくて、猫砂と電撃で白く濁った状態。
アキラが、動かなくなったスライムを踏むと、魔物の身体に胴長の足型が残る。
「アチアチ~」
思わず俺は、ゴムの頭巾を脱いだ。
ひんやりとした風が涼しいが、実際は気温が下がっているわけでもないので、そう感じるだけだ。
「マジでサウナだぜ!」
アキラも釣られて脱いだのだが、すでに汗だくで、玉のような汗が額を流れている。
「でも、スライム退治はできたぞ」
「この世界でこんな猫砂は手に入らないが、塩なら使えるかもな。でも、こんな胴長はないぜ?」
「似たようなものはないのか?」
「そうだな、厚めの革で全身を覆えば使えるかもな……」
2人で、シャングリ・ラで買った経口補水液をがぶ飲みすると、作戦を続行。
陸に上がってきた分は退治できたが、水の中にはまだいるかもしれない。
再び、アキラと一緒にゴム頭巾をかぶると、水場へ向かいバシャバシャと暴れ始めた。
「来るかな?」
なんて言ってると、俺の身体を透明なものが這い上がってきた。
「ケンイチ!」
そのまま、魔物を引きずり陸に上げると、アキラが猫砂をぶっかけた。
水面を叩く振動につられてか、次々と透明な魔物が集まってきたので陸まで誘導。
2人で猫砂をかけ、ケンイチコレダーで止めを刺した。
全部で、4匹の餅が転がっている。
「これで全部だろうか?」
「まぁ、相当バシャバシャやったから、これで全部じゃね?」
スライムは退治できるのは解ったが、この世界で塩は貴重品で結構高い。
販売に国の許可がいるような品物を地面に撒くなんて、チートを使っている俺だからできる戦法だ。
「「アチアチアチアチ!」」
アキラと2人でゴム胴長を脱いで、放り投げると、スポーツドリンクをがぶ飲みする。
「ケンイチ! もう大丈夫?」
コンテナハウスの窓からアネモネが顔を出して叫んでいる。
「ああ、大丈夫だ!」
アキラと一緒に座り込んでスポーツドリンクを飲んでいる所に、コンテナハウスから出てきた皆がやってきた。
「こ、これがスライムかぇ……」
リリスが、拾った棒でスライムをツンツンしている。
アネモネが、俺のところにやってきて抱きついた。
「アネモネ、汗臭いから。抱きつかないほうがいいぞ」
「そんなことないよ」
獣人たちは、スライムが恐ろしいのか、ちょっと遠巻きに見ている。
「こいつらを倒したのは初めて見たぜ……」「そうだにゃ」
「まぁ、塩だけでも倒せるかもしれないが、魔法で塩を作れる俺じゃないとできないよな」
「なんで、塩や砂で動きが止まったの?」
アネモネの質問に答えるのは難しい。本当は浸透圧の関係なのだが……どうやって説明するか。
「う~ん、塩に水分を吸われたからだよ」
一応、そう説明しておく。
「へ~」
「あ~! ケンイチ! 俺、ちょっと水浴びしてくるわ!」
暑さに我慢できなくなったのか、アキラが下着姿で、池に走り出した。
「なんだよ我慢してたのに。俺も行くぞ」
2人で水際に行くと、バケツを使って思う存分に水浴びをする。
一応、交互に水浴びをして、スライムの接近に注意したが、襲ってこない。
すべて退治したようだ。
身体も冷えたので、皆の所に戻ると固まっているスライムを調べる。
「ふ~ん、これって食えないかな?」
「だ、旦那~!」
俺の不意の一言に、ニャメナが俺に掴みかかってきた。
その顔は――獣人たちは涙を流さないので、よくわからないのだが、もしかして泣いているのかもしれない。
「なんだニャメナ。もしかして泣いてるのか? 泣くことはないだろう? 別にお前に食わせようとは思ってないぞ?」
「もう、勘弁してくれよ~」
「気持ちは解るが、解るわけにはいかないな。これは、俺のライフワークでもあるし」
とりあえず、倒したスライムはアイテムBOXに収納した。
刺胞があるらしいので、そこは食えないだろうから、解体して調べてみないことには……。
俺のライフワークに理解を示さない家族がドン引きしている。
「食うのは別として、解体して構造などを調べてみないとダメだろう」
「ケンイチの言うとおり、もしかして弱点が見つかるかもしれないしな」
「そうそう、それが見つかれば、もっと簡単に倒せるかもしれないし。スライムに効く毒も開発できるかもしれない」
スライムが駆除できれば、川を運河としても利用できる可能性が出てくる。
「なるほどのう……ケンイチがいつも言う――敵を知り己を知れば百戦百勝じゃな?」
「そのとおり」
「もしかして、魔法も使える?」
アネモネが俺に抱きついて離れない。
「そうだな、その可能性もある」
「ううう……」
ニャメナがしっぽを垂れて、耳を塞ぐ――完全にテンションだだ下がりである。
「トラ公は、ケンイチのこと諦めて、あとはウチに任せるにゃ」
ミャレーも俺に抱きついてくると、クンカクンカしている。
彼女は俺のやることに批判的ではないのだが、どちらかといえば諦めているといった印象。
寝床も提供してくれて、美味いものを食わせてくれるので、多少変なところは妥協してもいいにゃ――といった感じだ。
「そうはいくか!」
ニャメナも俺に抱きついてクンカクンカし始めた。
俺の汗のにおいが好きなのか?
「むりすることにゃいにゃ」
「うるせぇ!」
完全にニャメナに嫌われてしまったのかと思ったが、そうでもないらしい。
「あはは! ちょっと待て! 2人とも、脇に鼻を突っ込むなって! くすぐったい!」
獣人たちが俺に抱きついて、脇をクンカクンカしてくるのだ。
しばらく悶えたあと、一息ついて俺は腰をあげた。
「さて――エルフたちを探しにいくか?」
「そうだな、どこかに避難しているんじゃね?」
「多分、あそこだろ」
俺には心当たりがある。
ここに来たときに泊まった、エルフたちが作ったツリーハウスだ。
皆でそこに避難しているのではなかろうか。
俺たちは、ツリーハウスへ行ってみることにした。