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170話 魔道具モーター


 王宮の料理人だったサンバクが来てくれたおかげで、俺たちはこの世界での最高の料理を食えるようになった。

 もちろん、日本料理も彼の手にかかれば、完全に再現されている。

 この世界にない調味料は、俺がシャングリ・ラから購入して渡せばいいのだ。

 たとえば、昆布だしなどは――海岸沿いに行けば昆布に似た海藻も生えているらしいのだが、ここまでの輸送に手間暇がかかってしまう。

 シャングリ・ラで数千円で買えるものを、数十万の運賃を払って手に入れる行為は、いわゆる無駄遣いではあるが、この世界の経済を回す――という観点から見れば多少の意味はある。


 ――とはいえ、やはり無駄遣いはしたくない。

 食卓に並ぶ料理は、素人料理より数段優れ洗練されたものなのだが、アネモネとリリスは俺が作った料理を食べたいようだ。

 俺としては嬉しいが、プロの料理人が離婚までして、わざわざこの領へ来てくれたのだ。

 彼に任せるしかないだろう。


 それに彼は、この領に集まってきている獣人たちにも偏見がない。

 俺の考えに賛同して集まってきている人たちは、基本的に偏見が少ない人物が多いようだ。

 まぁ、これからどうなるか解らないが、獣人が多い街に獣人嫌いが来ることはないだろうと思う。


 ――サンバクが来てから、しばらくたったある日。

 昼過ぎに人が訪ねてきたというので、迎えに行くと――3台の荷馬車が荷物を満載して停車していた。

 黒や鹿毛の馬が6頭、大きな荷馬車を牽いている。


「辺境伯様!」

 馬車を降りてやって来たのは、黒い上下の服に黒いマントという、魔導師っぽい長身の男。

 ちらりと見えた腰のベルトには、短剣が見えた。

 長めの黒い髪を後ろでまとめている――王宮で魔道具の開発をしていたカールドンという魔導師だ。


「カールドン――さんは、要らないのか」

 これだけは、どうも慣れない。


「はは、いりませんよ。辺境伯様」

「まさか、サンバクに続き、カールドンまで来てしまうとは……」

「申しましたでしょう? 先進の技術を学ぶためには、辺境伯様のところしかありえないと」

 そこに白いワンピースのリリスがやって来た。


「ほう、カールドンではないか」

「これは、お久しぶりでございます。王女殿下にはご機嫌麗しく」

「もう王女ではないゆえ、リリスと呼ぶがよい」

「ははっ」

「まったくサンバクといい、そなたといい物好きよのう」

「なにをおっしゃいますか。辺境伯様の下でしか、学べぬことがあるのでは、当然の帰結でございます」

「サンバクと同じことを申すの」

 リリスの言葉を聞いたカールドンは、懐から手紙を取り出した。


「アルストロメリア様から、辺境伯様へ手紙を預かって参りました」

「ええ? なにかな?」

「あまり、いい話ではあるまい」

 赤い封蝋を切って、中の手紙を読む。


「え~と、『サンバクを返すがよい。アルストロメリア』これだけか?」

「ははは、サンバクがいなくなったことが、よほど堪えたと見える」

「それでございますが――お城では、料理が不味くなったと混乱しておりました」

「サンバクの話では、弟子は育っているって話だったがなぁ」

 手紙をもらったのだから、返信しなくてはならない。


「お~い! 誰がいるか?」

「お呼びでございますか? ご主人様」

 俺の呼びかけに答えたのは、マイレンだ。


「ユリウスはいるか?」

「ユリウス様は、打ち合わせのために、アストランティアへ向かわれました」

「そうか――それでは、マイレンが書き留めてくれ」

「かしこまりました」

「『サンバクは奥方と離縁を済ませ、すべての資産も手放してこの地へ参っており、説得は難しい』この文章でお城のアルストロメリア様へ手紙を送ってくれ」

「承知いたしました」

「アルストロメリア様が、地団駄を踏む姿を見たいが……」

「リリス、悪趣味じゃないか?」

「なにを申す。妾がいじめられたことに比べたら些細なことよ」

 リリスが腕を組んで憤慨している。

 いじめといっても陰湿なものではなく、いたずらのようなものらしい。

 親戚のお姉さんが、かわいい女の子をいじめて遊んだのだろう。


「サンバクもカールドンも、辺境伯領に来てくれたのは嬉しいんだが、屋敷がないんだよ」

「なにもない辺境に街を作るのでございますから、それは承知しておりますよ」

「とりあえず、俺が魔法で作った鉄の箱に、皆で住んでもらっている」

 彼を、コンテナハウスが並ぶ居住区へ案内するが――一応、身分で分けてある。

 黒い鉄製のコンテナハウスが一定間隔で並ぶ。

 こういうものはきちんと並べたくなる性分だが、これを殺風景と感じる人もいるだろう。


「ほう! これは面白い。皆同じ形をしておりますね」

 カールドンが、コンテナハウスの外側をペシペシと叩く。

 薄い鉄板なのだが、折り曲げ加工してあるので、強度が上がっている。


「同じ形をしていれば、大量に作るのも簡単なんだ」

「理にかなっておりますな。住むために強度も十分でございます」

「ああ、それは保証するよ」

 彼が中を確かめている。


「私といたしましては、家がなくてもこの箱でも十分でございますが」

「まぁ、どうしても住みたいというなら、止めはしないが」

 カールドンにコンテナハウスを3つ貸与する。寝室の他に研究室もいるだろうしな。

 本当にコレに住むというなら、穴を開けて繋げる手もある。

 人を集めてもらい、カールドンの荷物をコンテナハウスに入れる。


 引っ越し作業をしているとサンバクがやってきた。


「おおっ! これはホルト子爵様!」

 カールドンは貴族だが、領地は持っていない。カールドン・カールテン・ホルトが彼の名だ。

 サンバクも貴族だが、平民出身であり一代限りの騎士爵。

 先代王妃が、旅先でサンバクを捕まえて王宮にスカウトらしいのだが、詳細は不明。

 本貴族のカールドンのほうが、かなり身分が高い。


「はっは、カールドンでいいよ。サンバク殿も、お元気そうでなにより」

「カールドン様。この辺境は未知の知識が溢れておりますぞ?」

「私もそう思ったから、ここまでやってきた」

 このようにドンドン人が増えるサクラだが、深刻な住宅不足だ。

 石工も移住してきて、壁から石を切り出す作業を始めたが、土台や水回りに使うだけで、石造りの家はまだまだ先だ。

 俺の屋敷も土台は石だが、木造の予定で進んでいる。


 木は沢山生えているし乾燥は魔法でできるのだが、製材所は一箇所しかないので、加工できる材木も限られている。

 そこで製材所を新たに建築しようとしたのだが、製材に使うデカい丸鋸は、水力で動いているために、川の近くでないと使えない。

 川に新しい製材所を作るより、切り出す森の近くに建築したほうが運ぶ手間がかからない。

 アイテムBOXを使えば簡単なのだが、俺がなんでもやってしまっては、公共事業にならないしな。

 それで、いい考えが浮かんだ。


「カールドン、早速だが仕事がある」

「ケンイチ様、なんなりとお申し付けくださいませ」

「実は、製材所の巨大な丸鋸を動かす動力としてゴーレムを考えている」

「ほう! さすがケンイチ様。そこに気が付かれましたか」

「王女が乗っていたドライジーネを魔道具で動かしていたが、あれも中身はゴーレムなんだろ?」

「お察しのとおりでございます」

 つまり、ゴーレムのコアに回れという命令を与えて回し続けているのだ。

 ゴーレムでモーターができれば、色々と利用方法がある。

 洗濯機を作ったりとか、自動ドアを作ったりとかな。

 自動ドアはあるようなので、俺が考えたようにゴーレムを利用しているのだろうと思われる。


「ゴーレムのコアを回しているのは解るんだが、それだと魔導師がいるだろ? 魔道具にするためには、魔石から魔力を取るようにしたいんだが、その方法が解らん」

「それには、特殊な方法が必要になります」

 やっぱり、簡単にはいかないようで、それなりのノウハウが必要になるようだ。


「それを教えてもらうわけには?」

「こんなことでよろしければ、もちろんでございます」

「よかった」

 これで、糸口が見えたが――問題もある。

 工作機械のエネルギー源になるような大きな魔石に、魔力を注ぎ込める人間が、そうそういないことだ。

 小さな魔石への充填なら、そこらへんにいる魔導師でもできるのだが――。

 メイドを呼び、アネモネを呼んでもらう。


「ケンイチ、なぁに?」

「ちょっと魔法の実験だ。アネモネ、手伝ってくれないか?」

「いいよ」

 彼女とカールドンは、お城で面識がある。

 俺はアイテムBOXから、試作した小さなゴーレムのコアを取り出した。

 材質は木でできた十字架だが、傘のように先端が垂れ下がっており、やじろべえのようにバランスを保って、支柱の上に留まっている。

 回すことを前提にしているので、バランス取りもした。

 ゴーレムのコアでモーターを作る想定をしていたので、試作はしていたのだが、魔力の供給元を魔石にする方法が解らず詰んでいた。

 メリッサやレイランさんも、ゴーレムは扱えるのだが、魔道具は詳しくないらしい。

 そこで、魔道具の専門家であるカールドンの出番だ。


「さすが辺境伯様。このようなことを想定して、辺境伯という地位をお求めになったのでございましょう?」

「ん? なんのことだ?」

「ゴーレムを起動するのは国の許可が必要ですが、辺境伯であればその権利が認められてると――」

「あ~、そのことか。まぁな、ふふふ」

 したり顔で笑ってみせるが――大嘘である。まったくそんなことは考えていなかった。


「でもな、このようなゴーレムの使用方法は魔道具扱いで、王国が想定しているゴーレムではないとアマランサスも言っていたが……」

「確かにそうでございますが、開発などで汎用のゴーレムもお使いになるでしょう?」

「そうだな」

 アネモネのゴーレムがあれば、崖の上に荷物を上げたりとか、クレーンがなければ大変な家の棟上げなんかも、簡単にできる。

 利用価値が大きいゴーレムであるが、辺境伯であれば、その使用の権限が認められてるのだ。

 これは大きい。辺境伯が多大な権力を持っていると言われるのは、伊達ではない。


「それはさておき、アネモネ。こいつを回してみてくれ」

「うん」

 彼女が魔法を使うと、青い光が十字の傘を回し始めた。


「ここから、魔石で動かすにはどうする? 特殊な方法を使うと言ったが?」

「実は、ゴーレム魔法に変更が必要なのでございます」

「変更?」

「通常、ゴーレムを起動するたびに魔法を流しこみますが、それをコアに直接書き込みます」

「それじゃ、ゴーレムの用途が固定されるわけだな」

「はい」

 ゴーレム魔法はコアを通じて、色々と複雑なことができるが、コアに直接書き込んでしまうと、単純なことしかできない。

 移動し続けるとか、回り続けるとか、カックンカックンするとか――。

 遺跡などにあるという自動ドアってのは、これと同じ技術なのかも。


「そうやって変更すると――近くにある魔力源を探して、コアが動くようになるのか?」

「そのとおりでございます」

 実際に、彼に魔法を書き換えて、実践してもらった。


「これで動くのか?」

「はい」

 試してみるため、俺はアイテムBOXから、魔石を取り出した。

 クラーケンから取り出した、ソフトボール大の魔石。すでに充填済みで、中が青く光っている。


「これは、見事な魔石」

「この湖にいた巨大な魔物を討伐して、取り出したんだ」

「魔物でございますか?」

「これだよ」

 俺はアイテムBOXから、画家が描いたスケッチを取り出した。

 写真も撮ってあるのだが、彼にカメラを見せるのはまずい。質問攻めにあってしまうし、答えられない。


「なんと! こんな巨大な魔物が、湖に!」

「水上での戦闘は困難を極めたが、なんとか討伐できた」

「すばらしい! お見事でございます!」

 話をしながら、コアに魔石を近づける――と、ものすごい速さで、コアが回転し始めた。


「コアに対して、魔石が強力過ぎますな」

「おもしれぇ」

 魔石を離すと回転が落ちて、近づけると回転が増す。


「ケンイチ、私にもやらせて!」

「ほい」

 アネモネが魔石を近づけたり離したりして、遊んでいる。


「これの巨大なものを作って、製材所の丸鋸を動かしたいんだよ」

「ははぁ、なるほど」

「カールドンに作ってもらいたいんだが」

「かしこまりました! 私におまかせくださいませ」

「引き受けてくれたお礼に、いいものを見せてやる」

 俺は、アイテムBOXから、別の小さいゴーレムコアを取り出して、地面に置いた。


「こいつをちょっと動かしてみてくれ」

「私は、魔道具が専門でして、いわゆる普通のゴーレム魔法は得意ではないのですが……」

 この場合のゴーレム魔法というのは、王国で普通に使われている、人形を作って動かす――というものだ。


「まぁ、頼むよ。面白いものを見せてやるからさ」

「はぁ――むん!」

 彼の精神統一と共に、青い光が地面の土をコアの回りに集めはじめた。

 すぐに人形になったのだが、動き出しそうで動かない。

 カールドンには、これが精一杯なのだろう。


「アネモネ、あのコアを奪ってみてくれ」

「うん! ――む~!」

 すぐに土の人形が、てくてくと歩き始めて、腕をグルグルと回す。


「ロケットパーンチ!」

 ゴーレムの腕が千切れて、前方へ発射された。


「け、ケンイチさま! これはいったい!? ゴーレムが乗っ取られた?」

 突然のできごとに、カールドンは目を白黒させている。


「王国で使われてる汎用のゴーレム魔法には欠陥があるらしく、裏技ですぐに乗っ取ることができるらしい」

「な、なんですと?!」

「おっと、カールドン。この情報は、ハマダ領だけの秘密にしてくれ」

「し、しかし……」

 彼は根が真面目なのだろうが――アマランサスが言ったとおり、この情報は領のカードの一つに使える可能性がある。


「約束してくれれば、その方法も教える」

「…………承知いたしました」

 彼は、下を向き目をつぶって、了承してくれた。

 悪いが、これも領のためだ。


「ケンイチ、ちょっと悪い顔してる~」

「え? そう?」

「アマランサスに影響受けているんじゃないの?」

「そんなことは、ないと思うけどなぁ……」

 とりあえずアネモネを抱っこして誤魔化すが、まつりごとについて海千山千のアマランサスの言葉は、至言だ。

 取り入れざるを得ない。

 アネモネに頼み――ゴーレム魔法の欠陥と、レイランさんが改良した魔法を、カールドンに教える。


「まさかゴーレム魔法に、このような欠陥があろうとは……」

「君に頼む魔道具は、修正した魔法を使ってくれ」

「承知いたしました。部屋の片付けをいたしましたら、すぐに製作を始めさせていただきます」

「よろしく頼むよ」

 これで製材所のほうはなんとかなりそうだな。


 1ヶ月ほどして、改良型のゴーレム魔法で動く、巨大な丸鋸モーターが完成した。

 サクラから少々離れた場所に、丸鋸だけが設置されている。

 これを収める工場などは、あとから建築される予定だ。

 早速行われた試験の結果は良好。トルクも十分で、太い丸太が茶色のおがくずを噴き出しながら真っ二つにされていく。


「おお~っ、すげぇな」

 異世界モーターの視察にアキラもやって来ていた。


「さすがのアキラも製材所でのバイトはしたことがないだろう?」

「それはなかったかな……」

「なんだか、資格マニアみたいだけど、あとなにを持っているんだ?」

「別にマニアじゃないぞ? 仕事に必要だから、取っただけ」

 彼が持っているのは、宅建、簿記、普通車&バイク&大型免許、大型特殊免許、クレーン、玉掛、フォークリフト、船舶免許、ボイラー、危険物――らしい。

 これで資格マニアじゃないと言い張るのは無理があるんじゃなかろうか?

 これに板前もやってたって話だし。


「あ、調理師も持ってたな。持ってると、飲食店とかのバイトがすぐに決まって便利だったぞ」

「そんなに持ってるのか? 試験が大変だったろう?」

「プーで時間はあったからなぁ。金にも困ってなかったし、並行して色々と勉強してた。自慢じゃないが、暗記は得意なんだ、ははは」

 両親が亡くなって入った保険金で暮らしていたので、時間はあったらしい。

 退屈しのぎで資格を取っていたが――あまりに暇で旅を始めたのが、放浪生活のきっかけのようだ。


「へぇ~あと、ボイラーってどんな仕事したんだ?」

「ああ、山奥の宿泊施設みたいな所の全館暖房の管理人だったな」

「ホテルか?」

「いや、なにか会社の研修施設だとか言ってたが、あまりに暇でよぉ~3ヶ月ぐらいで辞めたな――ははは」

 マジでなにもなくて、ずっとTVを観てたらしい。


「危険物ってのは?」

「ああ、ガススタのバイトとかで使ったな」

「あれって、危険物がいるのか?」

「丙種危険物は簡単だぞ? 灯油とガソリンとどっちが燃えやすい? みたいな問題ばっかだし」

「ガススタはどのぐらいやったんだ?」

「ん~確か2ヶ月だな。客のDQNと喧嘩してな、フヒヒサーセン」

 どうも、基本的にダメな感じがするのだが、気のせいだろうか?

 そんな無駄話の間にも順調に木が真っ二つにされていく。


「こんなデカいモーターが作れるなら、車も作れそうだが……」

「電池になる魔石が問題だ。これに使っている魔石でも屋敷が建つぐらい高価だし、大魔導師クラスじゃないと、充填できない」

 ここには、アネモネと俺がいるからな。アキラに頼んでもできそうだし。


「そうだな、1~2台だけ装甲板を貼った戦車を作るとか」

「そういう手はあるな」

「ケンイチ様! 戦車とは!?」

 俺たちの話に聞き耳を立てていた、カールドンが掴みかかってきた。


「あうう……ちょっと図を描いて説明する」

 アイテムBOXから、スケッチブックを取り出して、絵を描く。

 大砲などは、この世界では作れないから、箱型に装甲板を貼って、窓から弩弓で撃つタイプを描いてみた。

 正面には、ドーザーブレードを装着して敵を排除する。


「こうやって敵中に突き進んで、敵を蹴散らすわけだな」

「ほうほう! これは素晴らしい」

 カールドンが、穴を開くようにスケッチブックを覗き込む。


「さすがケンイチ、絵はプロだな。でも、魔法は鉄の装甲だと弾けないぞ?」

「ドラゴンや、レッサーのウロコを貼るとか、魔物の皮を貼るとか」

「ハイブリッド装甲だな、めちゃ金がかかりそう……」

「まぁな。戦争には金がかかるんだよ。戦車だって1台10億とか聞いたことがあるし、ここで作ったら――え~と、金貨5000枚か?」

「そう考えると、そうだなぁ」

 とりあえず、実験は上手くいっている。

 極太の大木を真っ二つにしてもなんの問題もない。

 これから、しばらく使ってみて、耐久性などの問題を洗い出していけばいい。

 こいつの電池は、湖で倒したクラーケンの魔石だが、その管理は大工の親方に任せてある。


「ドラクラ、魔石の管理を頼んだぞ?」

「承知しやした――が、こんな高価なものの管理を仰せつかるとは……」

「お前が持っているのが一番いいだろ? 一々、俺の所に取りに来るのは面倒だろうし、長期に渡って留守のこともある」

 後ろから、大工が割り込んできた。


「親方、その魔石ってどのぐらいの価値があるんでやんすか?」

「どのぐらいって言われるとなぁ」

 大工なら魔石は専門外だろう。代わりに俺が答える。


「そいつで、貴族のデカい屋敷が一つ買えるぐらいだ」

「ひょぇぇ!」

「そいつを売ろうとしても、その大きさの魔石は滅多にないから、出どころがすぐにバレるぞ?」

「め、滅相もねぇ……」

 面白がって、アキラも会話に加わってきた。


「そいつには、呪いの魔法がかけられている。もし盗んだりすれば、不思議な力で死ぬことになる」

 アキラは、親指を立てて、首の前で横に走らせた。


「ひゃぁ!」

 その場にいた職人たちが、一歩後ろに下がる。

 まぁ、大嘘だが、抑止力にはなるだろうな。


 アキラと2人、ちょっと離れた場所に行く。


「ケンイチ、さっきの戦車の続きだけど、火薬の生産とかするのか?」

「そのつもりはないけどなぁ。肥料として、空気中の窒素の固定はしたいんだよな」

 肥料に使う硝酸態窒素がイコール火薬、爆薬の原料なのだ。

 農協とかで普通に売っている、硝安や硫安がそれ。

 俺は、シャングリ・ラで買った硝安を爆薬へと転用しているわけだ。


「農作物の生産を上げるのには、確かに肥料は必要だな」

「俺がいる間は、チートで化学肥料もどきが作れるんだが、俺がいなくなったら、それが途切れてしまう」

「それで、この世界の技術で生産しようってことか?」

「まぁ、そうなんだが――魔法を使ってなんとかできないかな?」

「魔法……か? 元世界でアンモニアを作るのに、ハーバーボッシュ法とか使うが、そいつを魔法で再現するのか?」

「う~ん、どうやってやるのか、考えもつかないが……」


 ハマダ領の農業生産の向上のため――とりあえず、シャングリ・ラで買った化学肥料を使い、いずれは魔法による硝酸態窒素の製造を目標にすることにした。

 使い方を間違うと危険な物質だが、火薬爆薬の原料になることを教えなければいい。

 そのうち誰かが気づくかもしれないが、そのときには、錬金術の発達で硝酸態窒素の正体が明らかになっているだろう。


 そう考えると――硝酸態窒素と硫黄と炭素で火薬になるって、最初に発見したやつは凄いと思う。

 化学なんてない時代にそれをやったのだからな。

 

 

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