166話 解体作業
琵琶湖ほどもある大きな湖で、これまた巨大なクラーケンを仕留めた。
イカってのは海の生き物で、淡水にはいないのだが――そこは異世界、常識はずれの生き物もいるってことだ。
あまりに巨大過ぎて、アイテムBOXに入らないため、何箇所かで切断して収納した。
そのまま岸に戻り、待機組の出迎えを受け――軽く食事をしたあと、解体に移る。
俺がアイテムBOXから、クラーケンの躯をだすと、集まってきた野次馬が湧いた。
「「「うおおおっ!」」」
「「「うぎゃぁぁ!」」」
歓声に混じり、なぜか悲鳴も聞こえている。
見れば、尻尾を太くしている作業員の獣人たちだ。
デカい図体をした獣人の男どもが、尻尾を太くしている。
どうも獣人たちから見ると、この生物は気持ち悪い生き物に見えるらしい。
「ああっ、何回見ても気持ち悪い!」
ニャメナは何度も見ているはずなのだが、それでも慣れないようだ。
「よ~し! バラすぞ~。手伝ったやつには給金を弾む!」
俺の言葉に、男たちがクラーケンに群がり始めた。
とりあえず、バラバラにすればなんでもいい。
シャングリ・ラでイカの図鑑の電子書籍を買う。
「ふ~ん、なるほど……」
イカの塩辛で使う内臓の部分は、中腸腺というものらしい。
図鑑には、肝臓と膵臓の機能を併せ持つ――みたいなことが書いてあるな。
俺が図鑑を見ている間にも、作業員がクラーケンに群がり切り開いていく。
これだけ人がいるんだ、俺は参加しなくてもいいだろう。
一応、領主なので、現場監督ってことにする。
いい加減、人を使うことも覚えねば。
「お~い、内臓は傷つけないでくれよ~!」
「「「へ~い!」」」
――とはいえ、胴体には穴が開いているので、無駄な指示かもしれないが。
「クロ助、俺たちもいくか?」「にゃ!」
クラーケンに登るミャレーとニャメナに、3人組も続いた。
「負けてらんねぇぜ」「そうだな」「そうです~」
「お~い、戦ったあとなんだから、無理しなくてもいいぞ?」
「旦那! あんなの戦ったうちに入らねぇよ。ほとんど魔法で片がついちまったじゃねぇか」「そうそう」「もうちょっとお役に立たないと、申し訳ないです~」
彼女たちも十分に働いてくれたと思っているけどな。
解体の様子をリリスが眺めている。
「これが全体像か……こんな巨大なものが」
「水の中は浮力があるからな。巨大な生物でも暮らしやすい。こんなの陸に上がったら、自重で動けなくなってしまう」
「なるほどのう。そなたは博識じゃのう」
リリスと話していると、ユリウスが姿を見せた。
「ケンイチ様。サンタンカの村長にも、これを見せたほうがよろしいのでは?」
「そうだな!」
「きっとケンイチ様のお力に、畏敬の念を抱くものと思われます」
「そこまでは気にしていないが、彼らが安心して沖まで漁に出られるようになったな」
そこにアキラがやって来た。
「ケンイチ、どうした? なにかトラブルか?」
「いや、隣村のサンタンカの村長にも、こいつを見せたほうがいいんじゃないかという話になってな」
「そうだな! 化け物が退治されたとなれば、住民も喜ぶだろ?」
「村の住民にも行方不明者が出ていたようだし」
「よっしゃ! 俺が、船で迎えに行ってやるよ。向こうに桟橋はあるんだろ?」
「ああ、漁をやっている村だから、大丈夫だ」
「30分もあれば、戻ってこられるだろ」
早速、アキラは船に乗り込むと、船外機を始動させた。
「ケンイチ! ちょっと行ってくらぁ!」
「頼んだ!」
アキラは船外機を全開にすると、舳先を上げて白い波を切るように、水面を滑り出した。
「「「おおお! 水の上をすげぇ速さだ!」」」
クラーケンを見物していた野次馬たちが、船外機を取り付けた船のスピードに仰天している。
今は、アキラ1人しか乗っていないからな。船が軽いので、かなりのスピードが出るわけだ。
アキラを見送ったあと、解体現場に目を移す。
解体には、自前の剣を持ち込んでいる者が多いが、すぐに切れなくなるようだ。
いつでも彼らが剣やナイフを研げるように、シャングリ・ラで購入した砥石を置く。
セラミック砥石なので、この世界にはないものだろう。
中研ぎと、仕上げの石を並べている。
俺の設置した砥石を使っている作業員たちが驚いた。
「なんじゃこの砥石は?! まるで鋼が木剣のように削れちまう」
思うに――彼らの剣は、材質がよろしくないのだろう。
柔らかいので、すぐに研げるが、すぐに切れ味が落ちる。
そこに、大工の親方もやってきた。
「あの領主様。この砥石を俺たちにも使わせてもらいたいんですがねぇ」
「ああ、大工道具を研ぐのか? もちろんいいぞ。世話になっているからな。いい家を作ってくれよ」
「ありがてぇ!」
親方に、シャングリ・ラで購入した砥石を渡すと、見物を止めて仕事に戻るようだ。
早速、砥石を使ってみたいのだろう。
皆で解体を眺めていると、湖から船外機の音が響いてきた――アキラが帰ってきたのだ。
桟橋に船をつけたアキラが手を振っている。
「お~い! ケンイチ! 爺さんを連れてきたぜ!」
「ひえぇぇ!」
村長は船に掴まったまま、腰を抜かしている。
どうやらアキラがスピードを出しすぎたようだ。
「村長! よく来てくれた!」
ヒーヒー言っている爺さんを船から下ろすと、獣人たちに担いでもらい、魔物の解体現場に連れていく。
「村長、見ろ! あれが、この湖に巣食っていた巨大な化け物だ」
「ひぇぇぇ!」
巨大なクラーケンの死骸を見た村長が、再び腰を抜かして尻もちをついた。
「おい、村長!」
腰を抜かしただけではなく、胸を押さえて苦しみ始めた。
「うぐぐ……」
「おっと! 驚かし過ぎたか?」
こういうときは――そうだ! ○心だろ、救○! TVのCMで見たことある薬を思い出した。
シャングリ・ラで検索すると、その薬が売っていたので、早速購入。
「ポチッとな」
落ちてきた黒いゴマ粒みたいな薬を村長に飲ませて、聖騎士の回復も使う。
「はぁぁ……」
「村長落ち着いたか?」
その場で座り込み、ぼ~っとしている村長に話しかける。
「はい…………へへ~っ!」
突然、正気に戻った村長が、飛び上がって土下座した。
「村長、そんなに畏まる必要はないぞ?」
「いいえ! こんな凄い魔物を退治できる領主様だとはつゆ知らず、ご無礼のほどお許しを~!」
ああ、新しい領ができて、組み込まれたことを、あまりよくは思っていなかったようだ。
「まぁ、俺もつい最近までは、平民だったからな。あまり気にしなくてもいい」
「へへ~っ!」
「村長、こいつは食えるみたいだが、肉を持っていくか?」
「……あわわわ……」
魔物の肉なんて食いたくないし、でも領主の申し出を受けないとマズい――ってことで、あわわしているようだ。
「まぁ、無理にとは言わんよ」
「へへ~っ」
やっぱり、魔物の肉ってのは人気がないようだ。
牙熊や狼は平気だったのだが、やっぱり得体のしれない「イカ」ってのが、まずいんだろうなぁ。
元世界でもイカやタコを食うのは日本とか、一部の外国だけだったし……。
「さて、村長を連れてきてしまったけど、帰りはどうしようか……」
「ケンイチ――あとで村の船が迎えにくると言っていたぞ?」
「そうか。それじゃ村長。ここで、解体を見ていてくれ」
「へへ~っ」
村長はすっかり、恐縮してしまっている。
一仕事終えたアキラは、解体現場で使っている砥石に目をつけたようだ。
「ケンイチ、俺も砥石使っていいか?」
「おう、いいぞ」
俺から許可をもらったアキラは何かをするようだ。
「おし、クレメンティーナ。お前の剣を寄越せ」
「うむ……」
クレメンティーナが、自分の持っている剣をアキラに手渡した。
長身で金のガードがついて、きらびやかではないが、上等な剣なのがひと目で解る。
「こいつは、貴族だからな。自分で剣を研いだこともねぇんだぞ?」
「研ぎ方を教えたら?」
「ダメダメ、最初は教えたんだが、不器用がアーマー着ているような女だしな」
「う、うるさい!」
アキラが剣を研ぎ始めると、すぐに声を上げた。
「おっ! これは、セラミック砥石だな。高いやつだろ?」
「まぁな。普通のよりは対価が高いな」
ここじゃ剣は実戦に使うものだから、鏡面仕上げなんて必要ない。
元世界の日本刀も、観賞用の研ぎと試し切りをする研ぎは違う。
それに、この世界の剣は切るというよりは、刺したり殴るほうが多いような……。
相手の剣やアーマーに向けて、力まかせに叩きつける戦いかただ。
そんな使いかたをする剣に、上等な鋼を使ったり新聞紙が切れるような研ぎにしても仕方ない。
――と、普通の住民はそう考えているように思える。
それゆえ、クラーケンのような柔らかい獲物を切るのに、苦労しているのだろう。
アキラは、クレメンティーナの剣を研ぎ始めたが、婆さんとメリッサ、レイランさんは疲れたらしい。
先に戻るようだ。
「あたしたちは、先に休ませてもらうよ」
「解った、あとは任せろ。なにかあれば、ウチのメイドたちに言ってくれ」
「はいよ」
「メリッサも、レイランさんもお疲れ様」
「……」
メリッサからの返事がない。
「この度は、ご領主様の御恩に報いることができて、ホッとしております」
レイランさんが礼をすると、胸がとんでもないことになるので、いかん。
「本当に助かったよ。ありがとう」
こんなことあるし、なにがあるかわからんからな。恩を売っておくに越したことはないってことだ。
「アキラー、ウチも戻るにゃ!」
「おう! これだけ人がいりゃ、問題ないだろ」
「全然いいところ見せられなかったので、ふて寝するにゃ!」
「まぁ、慣れない水の上だし、しゃーない。切り替えていけ」
ウチの獣人たちは解体をしているが、ミャアは休むようだ。
解体作業の頭数は揃っているので問題ないだろう。
「そういえば、ベルは――狩りにでも行ったかな?」
黒い姿を求めて辺りを探すと、作業が見える場所で丸くなり、日向ぼっこをしていた。
魔導師たちは、部屋に戻り始めたが、アマランサスとアネモネは俺にピッタリとくっついたままだ。
「アマランサス、お前の剣も研いでもらったら、どうだ?」
「板前のバイトして、毎日包丁研いでたんで、研ぎには自信があるぜ」
アネモネが、アキラの研ぎをしゃがんで見つめている。
興味があるのだろう。
「なんでもやっているなぁ」
「いろんなバイトしながら、日本一周と世界一周をしたからな。フヒヒ」
アキラの研ぎの様子をしばらく見ていたアマランサスだが、自分のアイテムBOXから剣を取り出した。
輝く細身の剣身に、金色のガード。この剣も実戦本位なのか、過剰な装飾は一切ない。
「それでは頼もう」
剣を受け取ったアキラは、砥石の前に座ったまま、刃の様子を見ている。
「こりゃ上等な鋼と研ぎだなぁ――ケンイチ、もっと上の番種の砥石はあるか?」
「ああ」
超仕上げとか、鏡面仕上げ用の砥石は高価で、値段が跳ね上がるが――。
アマランサスのような達人の剣なら、多少のメンテナンス代がかかっても仕方ない。
シャングリ・ラから追加購入してアキラに渡す。
ドワーフたちがやってくれば、彼らにアマランサスの剣のメンテを頼んでもいいだろう。
「ほへ~カミソリみたいな切れ味だな。このぐらいの達人になると、剣と剣が当たったり、アーマーを叩いたりしなくなるからな」
「人体の柔らかい部分だけ狙うように作られた剣ってことか?」
「まぁ、そうだろうな」
確かにアマランサスぐらいの達人なら、そういう使いかたもできるだろう。
俺たちは武器のメンテナンスを始めたが、なにを思ったか男爵が、クラーケンに向かっていく。
「男爵、なにをするんだ?」
「せっかく、剣の練習台があって、好きなだけ切れるのです! こんな機会はめったにない」
男爵はクラーケンの身体を、巻藁代わりにするようだ。
「やぁぁぁ!」
剣を上段に構え、振り下ろすと、刃が通った所に大きな亀裂が入る。
「「「おお~っ!」」」
男爵の剣の切れ味に周りにいた見物客からも歓声があがった。
男爵が3度ほど、クラーケンを切りつけるのを眺めていると――化け物の上に乗っていた、作業員から声がする。
「領主様! 腹が割けましたぜ!」
「解った! アキラ! 中を見ようぜ!」
「おお~っ! すぐにいく!」
2人でクラーケンに登り、割かれた腹を見ようとすると――。
「ケンイチ! 私も見たい!」
「ケンイチ! 妾もじゃ!」
アネモネとリリスが、手をあげた。
「リリス、服が汚れるぞ?」
「そんなものは、魔法ですぐに綺麗になるわぇ」
どうしても見たいというので、女の子2人、アキラと俺、4人一緒にクラーケンに登る。
「お~っ! これがクラーケンの中身か」
アキラが、切り開かれた魔物の内臓を見て感想を述べる。
俺たちは脚側から見て、アマランサスが切落した先っぽが向こうだ。
普通の内骨格動物とは違い、実に単純な造りだが、所々に魔法で開けられた穴が開いている。
「こんな魔法があるんじゃ、装甲とか役にたちそうにないな」
「ん? マジックミサイルのことか?」
「ああ」
「連射はできないが、威力は凄いぞ。ただ、魔法に耐性を持っている相手だと、かなり威力が減衰するが」
「魔物ってのは、魔法に強いのか……」
「そうだな――だから、ケンイチの爆弾ってのは、かなり有効だと思うぜ」
2人で話しつつ、クラーケンの内臓を隅々まで観察する。
「アキラは板前のバイトしてたって言ってたけど、イカも捌いたのか?」
「ああ、デカいだけで、こいつはほぼ一緒だな。真ん中のデカいのが肝臓っていうか、中腸腺ってやつだな」
破損している器官が多いが、中腸腺は無事のようだ。
「これが、イカのゴロってやつだろ?」
「そうそう、こいつを塩辛にするわけよ」
シャングリ・ラの電子書籍で確認する。
向かって右側が消化器系、真ん中が中腸腺。そして左側が神経系だ。
俺はアイテムBOXから、カメラを出して撮影をした。
「あの先っぽにあるのは」
「ありゃ、精巣だと思うぞ?」
なんと、頭のてっぺんに精巣があるのか――って違うよな。
イカの頭ってどこになるんだ?
図鑑を見ると、目のあるところが頭になるらしい。つまり頭から脚が出ている。
それで頭足類っていうのか……。
「そういえば――イカって骨があったな。こいつにもあるのかな?」
「骨っていうか、貝殻な。こいつだと左側にあると思うぜ」
イカを捌いていたというアキラは構造に詳しい。一緒にクラーケンの左側へ行き、そこを切り開いてもらうと、5mほどの透明な板が出現した。
「やっぱりあるのか」
「まぁ、デカいだけでイカだからなぁ」
一緒についてきたリリスが驚く。
「これは?! 骨かぇ?」
「リリス、これは貝殻らしい」
「貝殻? 貝殻というと、海にいる貝の貝殻かぇ?」
リリスが両手を合わせて、貝の真似をする。
「そうそう、イカってのは、貝の親戚だからな」
「…………はぁ? なんじゃと?! 妾が知らぬと思って、デタラメを申しているのではあるまいな?」
「そんなわけないだろ? なぁ、アキラ?」
「お姫様、ケンイチの言うとおり。こいつは貝の親戚で、透明な板は貝殻の名残ってわけよ」
「すごーい!」
アネモネの目がキラキラと輝く。
「旦那は、なんでも知っているぜ!」「そうだにゃ」
解体作業をしていた獣人たちが、驚いている。
「ニャメナ、こういう知識を得るために、獲物をバラす必要があるんだよ」
「う! そりゃそうだけどさ。人までバラさなくていいじゃん――いいじゃん」
「ニャメナの頼みでも、それは聞けないな」
「うう……」
彼女が尻尾をブンブンしていて、明らかにテンションが下がっている。
「面白いよな、アネモネ」
「うん! この板って、なにかに使えるの?」
「あ~、乾燥させて粉にすると、磨き粉や止血剤として使える」
「薬になるの?」
「ああ、それから加工しやすく高温に耐えるから、鋳物の型として使える」
「へぇ~なるほどなぁ、そいつは知らなかったなぁ」
アキラも感心する俺の知識だが、電子書籍を見てのカンニングだ。
「すごーい!」
「全く、知らないことばかりじゃ。さすが賢者だのう」
「鋳物の型に使えるから、ドワーフや、カールドンが喜ぶかもしれない。取っておこう」
俺は、巨大で透明なクラーケンの貝殻を、アイテムBOXに収納した。
「ケンイチ、この中腸腺をもらっていいか?」
アキラが、クラーケンの内臓の真ん中に鎮座する、巨大な器官を指差した。
「いいぞ。こんなの誰も使わないだろう」
「アキラ殿は、そんなものをどうするのじゃ?」
「お姫様、もちろん食うんですよ」
「食えるのかぇ?」
「まぁ、できあがったら食ってみてください、フヒヒ」
アキラはニヤニヤしながら、それを自分のアイテムBOXに入れた。あとで加工をするのだろう。
「まったくのう――そなたたちの食に対する、貪欲さはなんなのじゃ?」
「なにって言われてもなぁ。王侯貴族だって、美味いものを追求してゲテモノ食いに走るのはいるのだろう?」
「妾とて、献上されたものを食しているだけで、わざわざゲテモノを漁っているわけではないぞ?」
「そりゃ、俺たちだってそうだし」
「本当かのう……」
リリスが、じ~っとこちらを見ている。
「このクラーケンだって、食べられるのに! 捨てるのはもったいない!」
「アネモネの言うとおり! せっかくの獲物だ。有効的に活用しなくては。イカ料理ってなにがあったっけ?」
「焼いても美味いし、煮ても美味いぞ? あとはイカ飯か」
「おお、イカ飯いいな。刺し身もいけそうだけど?」
「イカって、寄生虫がいるぞ?」
そうか、寄生虫なぁ。
俺の脳裏に、白くて細いウネウネしたものが思い浮かぶが…………あることをひらめいた。
「アキラ、アイテムBOXに虫って入れたことがあるか?」
「あるぜ。 小さい虫は生きてても収納できるけど、出すと死んでる」
「――ということは、アイテムBOXに食材を収納した時点で、寄生虫も死んでないか?」
俺の言ったことに、アキラも気がついたようだ。
「あ……確かに!」
「こりゃ、禁断のマスや川魚の刺し身も可能ってことじゃないか?」
「おおお……アイテムBOXすげぇぇ」
アキラは小躍りするが――刺し身で食えるのは魚の種類による。ウグイなどは小骨が多くて食えたもんじゃないけどな。
この湖にいるマスは美味いので、刺し身も美味いはずだ。
「あと、イカの身を薄く削って、イカの燻製も作れるかもな」
「おお! イカクンか! ビールにピッタリだぜ! はは、夢が広がるな」
俺たちの会話を聞いていたリリスが呆れている。
「本当に、そなたたちは――魔物を倒して食の夢が広がるとか、聞いたこともない」
「まぁ、誰も食わないなら、俺とアキラで消費するから別にいいけどな」
「別に食わぬとは申しておらぬだろ! そなたたちが食べるものなら、絶対に美味いに決まっておる!」
「たまにマズいものも食わしているだろ?」
俺の食わせたマズいものを、リリスが思い出したようで、口をモゴモゴさせている。
「マズいって、なにをお姫様に食わせたんだ?」
「サ○ミアッキだ」
「ぶ! お姫様に、なんてものを食わせてるんだ。そこは基本のベ○マイトだろ」
「マ○マイトもあるな」
くさやに鮒ずしなんて、定番もある。
「う~ん――ケンイチ、臭いといえば納豆は作れないのか?」
「作れるぞ」
アキラが腕を組み、目をつぶって日本のことを思い出しているようだ。
「あ~、納豆も食いてぇなぁ……」
「納豆巻きでも作るか?」
俺の言葉に、アキラがひらめいたようだ。
「それじゃ、イカもあることだし、寿司でも作るか?!」
「おおっ! 寿司かぁ! いいなぁ! でも、寿司なんて作ったことがないぞ?」
「ははは、まっかっせっなっさっい!」
「握れるのか?」
「おうよ!」
話を聞いていたアネモネが俺の袖を引っ張る。
「ケンイチ、なにか美味しいものが食べられるの?」
「あ~、俺とアキラには美味しいんだが、他の人にはどうかなぁ」
「ケンイチの食べるものは、みんな美味しいけど……」
アネモネはそう言うが、生食はどうかね? この世界で今まで暮らしてきたが、生食は聞いたことがない。
俺が悩んでいると、内臓を切り開いていた作業員が走ってきた。
「領主様!」
彼が何かを見つけたようだ。