表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
164/275

164話 戦闘開始!


 戦力を集めてクラーケン退治に出撃。

 1日目は、空振りに終わったが、2日目はベルを乗せて、湖に出た。


「にゃー」

 ベルの見つめる方向へ船を走らせる。

 森猫の意見を聞く――という荒唐無稽にアキラも乗ってくれた。

 湖の上には相変わらず、なにも見えず、鏡のような水面が広がるが――。

 魚群探知機の画面を見つめる俺の目には、異形の物体が映し出されていた。


 掌を広げたように伸びる太い木の根のようななにか。

 山のような胴体も、カラフルなCGとなって画面に映し出されている。


「アキラ! いたぞ?!」

『おう! こっちにも映ってる! こりゃでかいぜ! 30mぐらいあるんじゃないか?』

 胴体の長さは十数mなのだが、四方に伸びている脚が数倍長い。

 そのために、少々離れた場所にいるアキラの魚群探知機にも映っているようだ。


『こ、これが、湖底にいる化け物を映し出しているって言うの?!』

『こりゃたまげた!』

 トランシーバーから、メリッサと婆さんの声が聞こえる。


「旦那! こいつがそうかい?」

「どのぐらいでかいにゃ?」

 ミャレーとニャメナが、魚群探知機の画面を覗き込んでいる。


「ええと、サクラにある崖の3倍ぐらいだ」

 少々アバウトだが、キリがいいほうが解りやすいだろう。


「そ、そんなにでかいのかい?」

「この前は脚しか見えなかったにゃ!」

 トランシーバーから、アキラの声が聞こえる。


『ケンイチ、やるのか?!』

「もちろん! あたりきしゃりきの、あたぼうってやつよ!」

 画面に映っている化け物は全く動いていない。

 おそらく夜行性なので、眠っているのかもしれない。

 俺たちの船を、アキラの船に寄せる。


「まずは、俺の爆雷で先制攻撃をする。ロープで牽引しているボートを切り離したほうがいい」

 俺たちの船は、男爵と獣人3人組を乗せた小舟を牽引している。


「そうだな。後ろにくっついていると、高機動ができねぇ。男爵様! 船を切り離すぞ?! 悪いが、この先は何があっても、自己責任で頼むぜ!」

「もちろん、承知している!」

「3人組も、あとは自分で漕いでくれよな」

 俺の問いかけに、3人組は剣を掲げている。


「もちろん、任せろ! 旦那!」「やってやるぜ!」「やりますよ~」

「まずは、俺の魔法を使って水中へ攻撃を仕掛ける。ちょっと離れていてくれ」

「あいよ~!」

 俺の家族にも確認を取る。


「アネモネとアマランサスも、準備はいいか?」

「もちろん!」「いつでもきやれ」

 アマランサスは、自分のアイテムBOXから長剣を取り出した。

 金色のガードがついた、美しい剣を掲げる。


 アキラのボート、男爵と3人組が乗った小舟が避難したあと、爆雷を落とす場所を選定する。

 脚を攻撃しても仕方ない。狙うのは胴体――目があるあたりだろう。

 胴体の先っぽのほうは内臓だしな。

 刺身を作るために、イカを捌いたときのことを思い出す。


 湖底までは50m――爆雷は毎秒2m沈降するから、底まで25秒かかる。

 アイテムBOXから爆雷を2つ取り出すと、26秒にセットして起動。

 すぐさま、アイテムBOXへ収納した。

 収納している間は時間がほぼ停止しており、再びアイテムBOXから出せば、タイマーが動き出す。


「よし! いくか」

 起爆実験はしたが、50mの水深で本当に爆発するかも不明。

 なんといっても手作り兵器だからな。

 少々離れた場所にいるアキラに合図を送る。


「アキラ、いくぞ! 間違って、水中に落ちたりするなよ」

 水中の衝撃波は、あまり減衰することなく、広範囲に拡散する。


『大丈夫だ! よっしゃ! こい!』

「投下!!」

 アイテムBOXから、湖の上に爆薬を2つ出すと、小さな水柱を上げて水中に没した。

 爆発するまで25秒。急いでその地点から離れる。

 50mほど離れた地点で、船を旋回させて、投下地点を見る。


 ――その時、湖面に白い泡が広がり、湖底が白く濁り始めた。

 ボートの外板にも振動が伝わってくる。


『爆発したみたいだな!』

「ああ、だが水柱が上がらんな」

『船舶免許を取りに行ったときに、海上自衛隊のやつがいたが、映画の爆雷シーンで派手な水柱があがるのは演出らしいぞ?』

「そうなのか」

 あれは、せいぜい5m~10mほどの浅瀬で爆雷を起爆させているらしい。


「問題は、これで効き目があるかだが……」

 水が濁っているので、どうなっているか確認できないのだ。

 水面にたくさんの魚が浮かんできた。

 魚群探知機で調べようとすると、ベルが声を上げた。


「にゃー!」

 俺は、ベルの声に反応した。

 こちらじゃない、アキラの船だ。


「アキラ! 避けろぉ!!」

『おっ!!』

 返答する間もなくアキラが舵を取った瞬間――水中から飛び出た巨大な物体が水面を切り裂いた。

 バシャバシャと滝のように水を落下させながら、透明でしなやかな管が高く掲げられる。

 日の下で見たのは初めてだが、透明な管に光が乱反射して、それは幻想的な光景に見えた。


「ぎゃぁぁぁ!」「うぎゃ!」「にゃぁぁ!」

 ちょっと離れた場所にいた3人組から悲鳴が上がり、全身の毛を逆立てて、尻尾の太さも倍以上になっている。


「アキラ!」

 空中高く振り上げられた巨大な透明な脚が、アキラたちが乗っている船に向かって振り下ろされた。

 確実にヒット! ――と思われた腕が、船の上の空中で止まっている。

 なにか透明な板で攻撃を遮っているようだ。


聖なる盾(プロテクション)だよ!」

 アネモネが叫んだとおり、婆さんかメリッサが防御魔法を使ったのだろう。

 普通の盾ならば、慣性の法則でそのまま押しつぶされて終了だろうが、魔法の盾は空間に固定されていて、見えない壁のように敵に立ち塞がる。


「にゃー!」

 ベルの声が響く。


「今度はこっちか!?」

 船の舵を切って斜めに移動すると、俺たちのすぐ横の水面が盛り上がる。

 巨大な脚が水を切って持ち上げられ、透明な管には巨大なタライにギザギザがついたような吸盤が無数に並んでいるのが見える。


「ふぎゃぁぁ!」

 叫んだ3人組のミケ子が、ボウガンを発射したのだが、吸盤に当たって弾かれた。

 吸盤の部分は非常に硬いのだ。他の獣人たちもボウガンを撃ったのだが、透明な脚に矢が刺さってもダメージが入っているようには見えない。

 振り上げられた脚がそのまま水面に叩きつけられると、高い水柱が3人組が乗ったボートを襲い、水面に浮かぶ木の葉のようにくるくると回す。


「「「ぎゃぁぁ!」」」

 俺たちの船も、グラグラと立っていられないぐらいに揺れ、縁に必死に掴まった。

 その時、隣から閃光と爆発音が響き、水面を伝った爆風が、こちらまでやってきた。

 アキラの船で、誰かが爆裂魔法エクスプロージョンを使ったようだが、敵にダメージがあるように見えない。

 向こうの船も健在、助太刀したいところだが、こちらはこちらで手一杯。


「くっそ! 爆雷もまったく効いてないようだが!」

 いままでの苦労はなんだったんだ――と悩み、ボートの縁に掴まる俺に、アネモネが叫んだ。


「ケンイチ、ゴーレムのコアを出して!」

 アネモネの言うとおり、アイテムBOXからゴーレムのコアを水面へ直接出す。


「むー!」

 彼女の唱える魔法によって、青い光とともに水面が持ち上がり、敵の脚が釘付けになっている。

 水をゴーレム化して、スライムの中に閉じ込めるように敵の脚を押さえ込んだようだ。


「でかしたぞぇ! アネモネ!」

 剣を構えたアマランサスが、刃を光らせながら、水面に出ている敵の脚へ飛んでいく。

 透明な吸盤をはしごのように登り、化け物の脚の頂上に立つと、その場で前方1回転。

 回転する勢いで、透明な土管のような脚を一刀切断した。


「おおっ! す、すげぇ!」

 こんな女と戦って、俺もよく生きてたな。

 我ながらの無茶振りに後悔しつつ――とりあえず彼女が味方でよかった。

 アマランサスによって切断された敵の脚は、数秒水面で暴れていたのだが、すぐに白く変色して、湖面を漂い始めた。


「こいつは、逃げ回るのに邪魔だ!」

 俺は、アイテムBOXに切断された脚を収納すると、そのままアキラの船のほうへ近づく。


「アキラ! 大丈夫か?!」

「そのコア借りますよ!」

 その声は、黒いワンピースに黒い髪――レイランさんだ。


「むぅ!」

 彼女の魔法で、青い光をまとった水がスライムのようになり、透明なクラーケンの脚を持ち上げた。


「えっ?! ゴーレムの所持者の書き換えをそんな一瞬で?!」

「ひゃーこりゃ、たいしたもんだよ」

 レイランさんの近くにいたメリッサと婆さんが驚く。

 ゴーレムのコアを使うときには、使う術者に合わせて、イニシャライズする必要があるのだが、彼女はそれを一瞬でやってのけたのだ。


「むう! なんという卓越した魔法なのじゃ!」

 王国でお抱えの魔導師を多数見ているアマランサスでも、見たことがない光景らしい。


「私に任せろ!」

 叫んだのは、剣を構えたクレメンティーナだ。

 アキラの操縦で横に回り込んだ船からジャンプすると、白い刃を振り上げて巨大な脚に切りかかった。


「ぬおおおおっ!」

 渾身の力を振り絞ったが、アマランサスのように、一刀両断とはいかず――浅い。


「助太刀いたす!」

 いつの間にかアキラの船の反対側に回り込んでいた男爵が叫んだ。


「ぬぅぅ! 吼えろ! 我がウルフファング! 今こそ、そのときだ!」

 ボートを踏み切った男爵が、長剣を振りかざして一閃。

 敵の肉深くまで刃が食い込んだが、両断まではいかない。

 男爵は、暴れる脚に弾かれて飛ばされたが、運良く自分のボートに転がり、水面に落ちそうになっているのを、なんとか堪えている。


「止めは任せるにゃ!」

 黒い毛皮が宙に舞う。船の縁を蹴った獣人のミャアが剣を振ると、敵の脚は見事に切り離された。


「にゃー!」

 再び、ベルが叫ぶ。


「今度は俺たちか!」

 不思議なことに、ベルが言っていることがわかるような気がする。

 あの夢を見たせいだろうか? 船の舵を切ると、巨大な脚が水しぶきを上げて持ち上がり、俺たちの前に立ち塞がった。

 獣人たちが、船の上で剣を構える。


「アネ嬢! もう一回あいつを押さえ込んでくれ! 今度は俺たちがいく!」

「いっくにゃー!」

「コアの書き換えに時間がかかるよ!」

「大丈夫だ、アネモネ! こんなこともあろうかと!」

 俺は追加のコアをアイテムBOXから取り出して、湖に直接落とした。


「やった! でも、ちょっと時間がいる! 逃げ回って」

「任せろ!」

 船を操り、クラーケンの脚の間を逃げ回るうちに、コアのイニシャライズが完了したようだ。

 アネモネが再びゴーレム魔法を使う。


「むー!」

 青い光が水面に次々と吸い込まれていく。

 彼女の魔法で水が盛り上がり、巨大な手のようになってクラーケンの脚を掴んだ。


「うひょー! すげぇ!」「トラ公! 感心してないでいくにゃ!」

「解ってるよ!」

 アネモネが魔法をコントロールして、クラーケンの脚を切断しやすい位置まで運んでくれる。

 徐々にこの魔法のコントロールの勝手が解ってきたようだ。


「おりゃぁぁ!」

 船の縁を蹴り、クラーケンの脚についている吸盤を踏み台にして、ニャメナが敵に一太刀を浴びせる。


「いくにゃ!」

 続いて、ミャレーが飛び上がり、ニャメナと同じ位置に切れ込みを入れたが――浅い。

 獣人たちは速さを武器にしているので、あまり長い剣は装備していないのだ。


「どけどけぇ! お前らばっかりに、いい恰好させてたまるかってんだ!」「どりゃぁぁ!」「いっきま~す!」

 全身の毛を逆立てて、船を踏み切った獣人3人組が、ナントカストリームアタックのように、3連続攻撃を仕掛け――クラーケンの脚は見事に切断された。

 この攻撃に――本体に繋がっている脚は、全て水中へ素早く引っ込み、白く変色した残骸だけが水面に残されている。

 邪魔になる脚を、俺はアイテムBOXへ収納した。


「こんな脚をいくら切っても――胴体に魔法を撃ち込まないと!」

「落ち着きなメリッサ!」

「でも、お婆ちゃん!」

「私に任せて!」

 2人を制したのは、アネモネだ。


「むー!」

 再びゴーレムのコアを使って、なにか魔法を使うようだ。

 水面に浮かんでいるゴーレムのコアに、青い光が集まっていくと、それに呼応するようにアネモネの身体も薄っすらと輝き始めた。

 こんな状態は見たことがなかったので、かなりの魔力をつぎ込んでいるに違いない。

 これで一体なにを――と思っていると、目の前の湖が左右に割れ始める。

 水が割れて壁のようになった所から、泳いできた魚が次々と落下していく。


「おおっ! こりゃまるで、モーゼの海割だぜ!」

 聞こえてきたのは、アキラの言葉だが――この世界で、モーゼなんて単語を知っているのは、俺と彼だけだ。

 その先に透明で巨大な三角形が見え始めた。


「あれが、クラーケンの本体か?!」

 俺が叫ぶと同時に、アキラの船から閃光が走る。


『『光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)』』

 レイランさんとメリッサが、ほぼ同時に唱えた魔法が、空中に浮かぶ無数の光の槍を召喚した。

 2人同時にチャンスだと判断して、同じ魔法を使ったに違いない。

 次の瞬間、高速の光の槍が、クラーケンの胴体に無数の穴を空けた。


「*&&(_*!」

 化け物がなにか叫んだはずだが、人の言葉では言い表せないような断末魔か。

 次の瞬間、敵がなにかを噴き出し、辺りが突然真っ黒になった。


「な、なんだぁ!?」

「ふぎゃー!」

 誰かの叫び声が聞こえるが――。


「こ、こりゃ、イカスミか?!」

 元世界のイカも、敵から逃走するときに、スミを吐く。


「ケ、ケンイチ! 身体がしびれる……!」

 アネモネの声が聞こえる。

 この黒いスミは、なんらかの毒が含まれているのかもしれないが――祝福の力がある俺には、効果がないようだ。


「旦那……大丈夫だよ」「ふにゃー」

 アネモネや獣人たちを見る限り、そんなに深刻な様子ではないようだ。

 少々しびれるぐらいらしい。


「アマランサスは?」

「大丈夫だわぇ」

 やはり、アマランサスは聖騎士と似たような力を持っているのかもしれない。

 俺たちから離れた場所にいる、獣人3人組も、ボートの上でひっくり返っている。


「アキラ!」

「大丈夫だ! こっちより、クラーケンに止めを刺したほうがいい!」

 アキラのボートでも、メリッサやレイランさんたちが、ひっくり返っている。

 婆さんや男爵、ミャアも同様だ。


「解った!」

 全身を黒く染めたまま、船外機のエンジンをふかすと、クラーケンがいた場所へ向かう。

 そこで魚群探知機のセンサーを下ろした。


「結構、致命傷だったはずだ。遠くには逃げていないはず……」

 そのまま魚群探知機で調べつつ、逃走したと思われる方向へ100mほど進むと、センサーに反応があった。

 画面に映し出される巨体は、脚が何本か欠損している――アイツだ。

 これで逃げられていると思っているのだろうか?

 ここが年貢の納め時ってやつだ。イカには年貢はないけどな。


「深度は40m――セット時間は20秒! 投下!」

 俺は、セットした2発の爆雷を、即座にクラーケンの上に投下した。

 すぐに、その場所を離れて、成り行きを見守る。


 しばらくして水の中に白い花が咲き、周囲の水が白く濁る。

 もう爆雷は品切れだ。これで水中への攻撃手段は尽きてしまった。

 これで仕留められないとなると、再度爆雷を作って、戦いを挑まねばならない。

 いや――レイランさんとメリッサの魔法が命中した時点で、かなりの深手だったはずだ。

 多分、助からないのでは……。


 そう考えながら、水面をじっと見つめていると、白いものが浮かび上がってきた。

 水面にプカプカと浮かぶ、巨大な物体。

 透明だった、クラーケンの脚を切り離すと白く変色したので、これは胴体が死んだ――ということなのでは。

 近くに寄って突いてみる。


「死んだみたいだな……」

「ケンイチ!」

 同じ場所に、アキラの船もやってきた。


「アキラ、大丈夫か?!」

「はは、なんとかな。俺の出番はまったくなしだったが」

 謙遜する彼だが、船の操舵などは元世界の住民だからできる芸当だ。


「敵が片付いたみたいだから、スミをなんとかしないと!」

「まったく、イカスミかぁ――そりゃ、イカだからなぁ」

 アキラがボヤくが――どうすりゃいいかな?

 まずは、洗濯の魔法を使えるアネモネか。

 アネモネの頭に手を乗せて、聖騎士の回復ヒールを使う。


「ふあぁぁぁ!」

 彼女の顔も真っ黒なので、どういう顔をしているのかよく解らん。


「アネモネ、痺れはとれたか?」

「ふぁい!」

 アイテムBOXからタオルを出すと、とりあえず彼女の顔を拭いてやる。

 

「それじゃ、洗濯の魔法で皆を綺麗にしてやってくれ」

 顔を赤くしたアネモネが、魔法を使うと周囲に青い光が広がる。


洗浄クリーン!」

 魔法によって、真っ黒だった船と仲間が、元の色を取り戻す。

 船の底に溜まっていたスミも、透明な液体に変わる。

 これって毒素も分解されるのだろうか?

 においもなくなるので、猛毒ではなければ分解されているような気はする。


 こんなの魔法じゃなきゃ、絶対に無理だ。

 シャングリ・ラに売っているどんな洗浄液でも、こんなに綺麗にはならないだろう。

 透明になったスミだが、気持ち悪いので外へ出すことにした。

 シャングリ・ラを検索して、充電式の掃除機を買う。水も吸えるやつだ。


 スイッチを入れると、音で獣人たちが飛び上がるが、ドンドン水が吸える。

 タンクがいっぱいになったら、蓋を開けて外に捨てる。


「それ、私がやる!」

「それじゃ、アネモネに頼んだ。俺は皆の治療をするから」

「うん!」

 彼女に掃除機の使い方を教えて、水を吸い出してもらうことにした。

 俺は、船の隅で丸くなって固まっていた、ベルを治療する。


「お母さん、大丈夫か?」

「にゃー」

「ふう……ありがとうな」

 彼女の言っていることが解ったような気がしたので、クラーケンの攻撃を避けることができた。

 すぐに彼女も回復して、俺のほほを舐める。


「ちょっと、ベル! 舐めるのは痛いので勘弁してくれ!」

 猫の舌はザラザラで、紙やすりのようだ。本当に皮が剥けるぐらいザラザラ。


 ベルのあとは、ひっくり返っていた獣人たちも抱き寄せて、聖騎士の力を使う。


「あ~っ、ダメだよ旦那ぁ! こんな所で!」「はにゃ~!」

「身体を治すためにやってるんだよ」

 効き目があったようで、すぐに獣人たちも動けるようになった。


「はう~全く酷い目にあったぜ」「うにゃ~」

「でも、あんなデカい化け物を倒せたのも皆のおかげだ」

「聖騎士様~! 妾もじゃ!」

「アマランサス、お前は痺れてなかったじゃないか」

 そう言った俺に構いもせずにアマランサスが抱きついてきたので、力を使う。


「あっ! あ~っ!」

 甘い声を上げるアマランサスが凄い力で抱きついて離れない。

 そのまま船外機を操って、3人組の所へ行く。

 毛皮が真っ黒になった3人組が、ボートの中でひっくり返っていた。


「おい、大丈夫か?」

「しびびび……」「にゃにゃにゃ……」「だだあぁ……」

「あまり大丈夫じゃないみたいだな」

 ボートに、洗濯の魔法をかけてもらう。


「アネモネ、頼む」

「むー! 洗浄クリーン!」

 アネモネの魔法で、黒い汚れは綺麗になった。

 彼女たちのボートに乗り移ると、抱き寄せて回復ヒールを使う。


「頑張ってくれて、ありがとうな」

「うにゃぁぁぁ!」「にゃー!」「ふにゃぁぁぁ」

 それを見た、ミャレーとニャメナからクレームだ。


「ちょっと旦那! そりゃ奉仕サービスしすぎだろ!」「そうにゃ!」

「ひゃ~、旦那に抱かれたら、獣人の男の相手なんて馬鹿らしくてやってらんねぇ」「いや全く」「もう責任取ってもらうしか……」

「おっと、女は増やすなって言われてるからな」

 3人組はブーブー言っているが、きりがない。


 こちらは済んだので、アキラたちの所へ向かう。


「アキラ! そっちはどうだ?」

「洗浄して、麻痺の治療が終わったところだ」

 あちらは、祝福の力ではなくて、普通に回復ヒールの魔法を使ったらしい。

 向こうは魔導師が3人もいるからな。


「まったく生きた心地がしなかったよ」

「だから、年寄りの冷や水だと言ったじゃないか」

「白金貨のためなら、多少の無理も承知さ」

「ケンイチ、このデカブツはどうする?」

 アキラが水面を漂っている、白いむくろを指差す。


「一応、食えるしな。アイテムBOXに入れて保存しておくつもりだ」

 胴体を解体すれば、魔石があるかもしれないしな。


「胴体の内臓ゴロで、塩辛を作れないかな?」

「う~ん、ミサイルみたいな魔法が命中してたぞ? バラバラじゃないか?」

「ありゃ――そういえば、マジックミサイルが命中してたな……」

 男爵にも声をかける。


「誠に役に立たず、不甲斐ないことに……」

「そんなことはない。敵の脚を一本両断したじゃないか」

「いや、腰が引けてしまって、剣筋が浅かった……」

 落ち込んでいるのは男爵だけではない。

 メリッサも落ち込んでいる。


「メリッサは、なんで暗いんだ? こんな大物仕留めたんだぞ?」

「こ、こんな実力で、王国の大魔導師を名乗っていたなんて、自分の不甲斐なさに呆れたわ……」

「王都の魔導師って、外部との交流がなさそうだし。地方にも結構凄い魔導師がいるって解っただろ?」

「まぁまぁメリッサ。まだ若いんだから、私みたいなババアに比べたら、先があるさ」

「……ううう」


 メリッサが、アネモネをチラ見している。

 小さいアネモネに完全に負けた感じだったからな。

 自分が使えないような魔法を使って、血路を開いたのもアネモネだし。

 これが、メリッサの糧になってくれることを願うしかない。


 さて、魔物討伐はこれで終わりではない。

 面倒な後処理の時間だ……。


 俺は、水面に漂う巨大なむくろにため息をついた。

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124fgnn52i5e8u8x3skwgjssjkm6_5lf_dw_a3_2
スクウェア・エニックス様より刊行の月刊「Gファンタジー」にてアラフォー男の異世界通販生活コミカライズ連載中! 角川書店様より刊行の月刊「コンプティーク」にて、黒い魔女と白い聖女の狭間で ~アラサー魔女、聖女になる!~のコミカライズ連載中! 異世界で目指せ発明王(笑)のコミカライズ、電子書籍が全7巻発売中~!
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ