163話 湖の上で
予想外の戦力の増強もあって、俺たちはクラーケン退治に出発した。
船2艘に分乗して、俺のボートにはアネモネとミャレーとニャメナ。
一緒にアマランサスが乗っている。船の後ろにはロープで小さなボートを牽引しているのだが、そこには獣人3人組が乗り込んでいる。
「にゃぁぁぁ! 水の上をこんな速さで走るなんてぇ!」「ぎゃぁぁ!」「わぁぁぁ!」
後ろで3人組が騒いでいる。彼らにもライフジャケットを着せようとしたが、無理だった。
獣人ってのは、窮屈が嫌いらしい。
「お~い! しっかり掴まってろよ! 戦闘中に落ちても助けねぇぜ!」
後ろを向いて、ニャメナが3人組をからかっている。
「てやんでぇ! これしきのことでへこたれていられるかってんだ!」「そうだけど、ぎゃぁぁ!」「ちょっと、心が折れそうですぅ!」
「わはは!」
3人組を見て、ニャメナが笑っている。
「ニャメナ、あんまりからかうと可哀想だろう?」
「こういうやつが、いざというときにドツボにはまるにゃ」
ミャレーは冷静というか、一歩引いて考える――慎重派だ。
「うるせぇ、わかってるよ」
俺たちのボートに並走しているアキラが操縦するボートには――。
アキラとレイランさん。獣人のミャア、女騎士――そして、メリッサと婆さんが乗っている。
彼らのボートの後ろにも、ロープで牽引された小さなボート。
そこには、ノースポール男爵が、必死にしがみついている。
いきなり、こんな乗り物に乗せられて大変だとは思うが――本人たっての希望なのだから、仕方ない。
一応、俺は止めたからな。
今回、参加してくれた婆さんとメリッサには、魔法の触媒となるアルミのアクセサリーを渡してある。
アクセサリーといっても、元々は自転車のパーツらしいのだが、穴が開いているので、そこに紐を通してネックレス代わりにした。
アルミの触媒作用はかなり強力で危険を伴う――まぁ婆さんとメリッサなら大丈夫だろう。
アキラとレイランさんには以前に渡してあるし、アネモネは自分のものを持っている。
王国と帝国の魔導師が一緒に乗るという呉越同舟の中、ボートは船外機の音を響かせて、クラーケンと遭遇した場所へと向かう。
目印は、俺が投下したオレンジ色のブイだ。
暗かったので正確な位置は解らないが、船のスピードと進む時間でアバウトな位置は解る。
獣人たちに双眼鏡を渡して、探してもらう。
GPSがあれば、捜索位置のマークも簡単なのだが、ないものねだりをしても仕方ない。
あるもので対処しなくては。
「あったにゃ!」
ミャレーが、ブイを見つけてくれたようだ。
アキラにトランシーバーで連絡を入れる。
「アキラ、発見したぞ」
『了解!』
アキラと2人で、魚群探知機を出して周囲の索敵を開始する。
夜に遭遇した次の日に討伐作戦を行えばよかったのだが、他の魔導師たちに応援を頼む前に、いきあたりばったりで集魚灯を使ってしまった。
反省すべきだが――なに、発見できればいいのだ。
アキラの船と2艘、微速で進みながら魚群探知機で湖底をサーチ。
画面にカラフルな色に着色された湖面の様子が映し出されている。
後ろの獣人3人組から、声が聞こえてくる。
「旦那! 今は、なにをやってるんだい?」
「魔道具を使って、湖の底にいる化け物を探している」
「その変な箱で、湖の底が解るのかい?」
「ああ」
「「「へぇぇぇ!」」」
感心している彼女たちだが、敵が出てこないことには、暇だろう。
釣り竿を貸してやる。
「化け物が見つかるまで、あたいらは、釣りをしていればいいってことか」「楽な仕事だな」「そうですよねぇ」
3人組の様子を、ウチの獣人たちが横目で見ている。
「あいつらあんなことを言ってるにゃ」
「あの化け物を見て、腰を抜かさなきゃいいけど」
「そうにゃ、どっかのトラ公みたいににゃ~」
「それは忘れろ!」
100mほど離れているアキラの船にも釣り竿らしきものが見える。
おそらくアキラのアイテムBOXから出したものだろう。
こんな湖の上では、他にやることがない。
アマランサスとアネモネは、以前に捜索したときと同じように、日傘の下――。
元王妃の剣士は水面をじっと見つめ――大魔導師はタブレットの書籍を読んでいる。
「アマランサス。また何日か、見つからないかもしれないぞ?」
「これだけ巨大な湖ゆえ、致し方ないところじゃ。相手の魔物もこちらの都合など、考えてはくれぬじゃろ」
アマランサスは、扇子を出すと、パタパタと仰いでいる。
こっちの獣人たちは釣りをしているが、向こうにいる男爵はどうしているのだろう?
果てしなく続く鏡のような水面には、なにも変化はない。
夜戦という最悪の展開が頭に浮かぶが、それを振り払うように、作業を続ける。
そのまま当たりがなく、昼になった。
「アキラ、昼飯にしようぜ」
『オッケー!』
アキラの船がやって来ると、2艘並べて飯にする。
後ろで牽引していた、獣人3人組と、男爵のボートも引っ張りよせた。
メニューは、船の上でも食べやすいように、サンドイッチと唐揚げだ。
足りないやつには、エナジーバーを食ってもらう。
「おお~っ! うめぇ! パンに肉とか挟んであるのか?」「へぇ~っ!」「美味しいね!」
3人組にもサンドイッチは好評だ。
彼女たちに、エナジーバーを数本投げる。
「小腹が空いたら、それでも食べろ」
「これは?」
「甘いお菓子だ」
お菓子ではないのだが、この世界の住民からみれば、お菓子のようなものだろう。
小腹が空いたらって言ったのに、受けとった彼女たちは、早速エナジーバーのパッケを千切り始めた。
「うめーっ!」「甘いぜ!」「美味しい!」
「ゴミは捨てないで、集めておいてくれよ。あとで回収するからな」
「あいよ~」
アキラたちにもエナジーバーを渡す。
彼はアイテムBOXを持っているので、余ったらそこに入れればいい。
サンドイッチを頬張っていた婆さんが、話しかけてきた。
「そこのアキラに聞いたんだけど、その箱で湖底の様子を見ているんだって?」
「ああ、底になにかいれば解る仕掛けだ」
「そんな魔道具なんて聞いたことがないよ。他の貴族に知られたら大騒ぎになりそうだけど」
「一応、国王陛下から天下御免の書状をもらっているから、他の貴族たちは手をだせないぞ」
話を聞いていた男爵が会話に入ってきた。
「ケンイチ殿。天下御免とは――貴殿はいったいなにをやったのですか?」
「はは、まぁ色々とな。それに辺境伯領にはリリスとアマランサスがいる。迂闊なことはできないはずだ」
「そりゃ、こんな所に王族がいるなんて、だれも思わないだろうし……」
それを聞いた男爵が、飲んでいたワインを噴き出した。
「王族?! もしや、アマランサスとリリスというのは……」
彼も、彼女たちの正体に気がついたようだ。
その解説を、サンドイッチを頬張るメリッサが、呆れたようにしてくれる。
「そうよ。ここにおわすのは、王妃――元王妃様のアマランサス様と、お見送りをしてくださったのは、元王女のリリス様なの」
それを聞いた、男爵がボートの上で膝をついた。
「なな――なんですって! これは知らぬこととはいえ、申し訳ございません。このノースポール男爵、汗顔の至り!」
「よいよい――妾はすでに王族ではなく、タダの奴隷じゃ」
「な、なぜ、王妃様がこのような場所に――まして奴隷などに……」
「そこにいる、非道な男に聞いてみたら?」
メリッサが、唐揚げを食べている俺を指差した。
「別に俺が強制しているわけじゃないぞ?」
「あなたが強制してなくて、誰が王妃様を奴隷にしたのよ!」
「アマランサスが、自ら進んで俺の奴隷になったんだ」
「そ、そんなこと!」
「そのとおりじゃ、メリッサ。聖騎士様は、なにも間違ったことを申してはおらぬ」
俺を聖騎士と言ったアマランサスに、男爵が首をかしげる。
「ケンイチ殿――聖騎士というのは?」
「よくわからんのだが、この国を救う力を持つ者が授かる称号らしい」
聖騎士がこの国を建国したってのは、伏せておいたほうがいいだろう。
「王国にそんな称号が――」
「王族しか知らないみたいだし」
「そのとおり、門外不出じゃ」
「俺は、リリスから祝福を受けて聖騎士になったんだけど、帝国皇帝から同じように祝福を受けた男がそこにいる」
俺は、アキラを指差した。
「フヒヒ、サーセン」
アキラが笑いながら、頭をかいている。
「なんと、帝国にも――知らないことばかりです」
「まぁ、あまり口外しないように……」
俺の言葉に男爵が頭を下げた。
「もちろんでございます!」
「まさか、家に買い物に来た男が、こんな凄い人だったなんて、思いも寄らなかったよ」
婆さんが笑っているが、俺だってこんなことになるとは、自分でも思わなかった。
多分、俺と同じようにこの世界に転移してきた、アキラもそうだろう。
「ああそうだ、アネモネ。ゴーレム魔法で水を動かす魔法を、皆に見せてやってくれ」
「解った」
水に、アイテムBOXから出した巨大なコアを放り込む。
「むー!」
アネモネの魔法によって、コアが水中に沈むと、俺たちのボートの下に潜り込む。
2艘の船と牽引していたボートを丸ごと動かし、結構なスピードで移動を始めた。
船の下にある水ごと動いているので、俺たちは止まったままで、揺れもしない。
すごく奇妙な感覚だ。
「こりゃ、たまげた。本当にこんなことができるなんて」
婆さんがアネモネの魔法に驚いた。
「アネモネ、もういいよ。ありがとう」
「ふう……」
「……」
この光景を見て、メリッサが難しい顔をしている。
自分ができない魔法をアネモネが軽くやってのけたので、心中複雑だろう。
「なんと――アネモネ殿は、本当に大魔道師になられたのですね」
男爵も驚く、アネモネの実力。
「これだけの実力を持っている魔導師は、王国にも帝国にもそうそういないだろう? どうだい、アキラ?」
「確かに――だが、帝国の魔導師は実戦経験が豊富だし、応用も利く」
「それは、俺も感じたな。固定観念に引っ張られることなく、魔導を追究しているように見えるし」
「そのとおりだ。結構、危ない実験とかも、公認でやられているしな」
「物騒な話だな。どんな実験なんだ?」
「ホムンクルスとか、アンデッド――それから反魂だな」
アキラの言葉で語られる帝国魔導の実情に、メリッサが驚く。
「なんですって? そんな危険な研究が、帝国では禁忌ではないの?」
「まぁな。反対している魔導師もいるが――たとえば、ウチのセンセとか。でもなぁ皇帝が止めないから、実質野放しだぞ?」
「なんてこと……」
話を聞いていたアマランサスの目が輝き、扇子で口を隠す。
「なるほどのう。しかし、帝国が外法を使ってくるのであれば、こちらも聖騎士様が作り出した兵器を思う存分使うことができるというもの、ほほほ」
「ふう――そうならないことを願うしかないよ」
俺たちの話を聞いていた男爵が居心地悪そうだ。
本来なら、国のトップレベルの会議で語られるような内容だからだろう。
飯も食い終わったので、話は終了。
戦場だというのに和やかだ。なにせ敵がいないからな。
昼食のあとも、湖底の探索作業を続行したが、当たりがないまま夕方になり一旦打ち切り。
俺たちは、サクラに戻ることにした。
暗くなる湖面を1時間ほどかけて、サクラに到着。
皆の出迎えを受けた。
「「「おかえりなさいませ、ご主人様!」」」
「お弁当、美味しかったよ。ありがとう」
メイドたちに礼を言う。
「どうじゃ? その様子では空振りだったようじゃが?」
リリスの問に返事をしようとしたところ、走ってきたプリムラに抱きつかれた。
「ただいまプリムラ。今日は、なにもいなかったよ」
抱きつく彼女の頭をなでる。
「リリス、初日は空振りだよ」
「にゃー!」
俺の足下にやってきたベルの身体をなでる。
「今日はなにもなかったよ、お母さん」
船から降りたアキラたちもやってきた。
「ふあぁぁ! 飯だ! 飯! 腹減った!」
「すまんなアキラ。またしばらく付き合ってもらうことになりそうだぞ?」
「まぁ、相手は神出鬼没の魔物だ。しゃーない。どこかの洞窟にいる! ――とか確定的なら、やりやすいんだがなぁ」
婆さんも腰に手を当てて、伸びをしている。
「やれやれ――なかなか上手くいかないもんだねぇ」
「婆さんとメリッサも、お疲れさん。悪いがこんな感じで、しばらく付き合ってもらうぜ?」
「ひひひ、まぁ白金貨のためさ。仕方ないね。それにしても、この湖がこんな大きいなんてねぇ」
「婆さん、ここに来たことがなかったのか?」
「もちろんあるさ。けど、対岸に行ったこともなかったし、沖に出たこともなかったしねぇ」
アストランティアの住民でも、対岸まで行ったことがある人間は少ないという。
「だって旦那。アストランティアの酒場でそんな話を聞いたこともないしね」
「ニャメナも聞いたことがないのか」
こういう世界での酒場ってのは、貴重な情報収集の場だ。
珍しい場所へ行ったのなら、必ず自慢話がどこからか聞こえてくる。
事情通のニャメナが聞いたことがないってのは、誰も行ったことがないってことだ。
3人組と、男爵にも声をかける。
「どうだ? しばらくこんな感じかもしれないぞ?」
「まぁね――狩りなら、敵を待つのも狩りのうちさ」「そういうこと」「こういうのは、こんくらべですよねぇ」
「ケンイチ殿――相手は魔物だ。一筋縄でいかないのは覚悟の上」
皆、それなりに歴戦なので解っているらしく、不満はないようだ。
「相手が水の中では、どうにもならぬのう」
「本当にそう!」
アマランサスとアネモネに抱きつかれて、皆と一緒に食卓に向かう。
すでにメイドたちによって、料理ができており、席について食うだけだ。
そこに、アストランティアから、カナンが馬車でやってきた。
黒く小さな、1頭立ての馬車だ。
「おお! カナン、久しぶりだな」
走ってくると、カナンが俺に抱きついた。
「魔物退治だと聞いたが?」
「皆に手伝ってもらったのに、今日は空振りさ、ははは」
カナンに、討伐部隊の面々を紹介すると、婆さんが驚く。
「ちょいと、お前さん! この方は子爵夫人だろ?」
「婆さんはカナンを知っているのか。ああ、子爵と離縁して、俺の側室になっているんだよ」
「呆れた! あなたが、そんなタラシだとは思わなかったわ!」
メリッサが手をバタバタさせて叫ぶ、そこにリリスがやってきた。
「メリッサ、なにを今更。妾を王族から引き抜いて、母を陛下と離縁させたのだぞ?」
「もう、信じられない!」
「そう改めて聞くと、自分でも酷いと思うが――でも、アマランサスとカナンは、ほとんど押しかけだし……俺が悪いのか?」
「悪いに決まっているじゃない!」
「みんな俺が悪い~って歌があったなぁ……」
アキラの言葉に、俺の脳裏にも、そのフレーズが浮かぶ。
「ああ、あったあった」
抱きついていたカナンが、俺の顔を覗き込む。
「随分と疲れているようだな! 私が癒やしてやるぞ?」
祝福があるので、肉体的な疲れは感じないが、精神的なダメージはあるのかもしれない。
なにせ沢山の人々を参加させて、デカい作戦を展開中だ。
そのプレッシャーもある。
なにせ、おれは普通のオッサンだからな。
「そういうカナンこそ、ちょっとやつれていないか?」
「……あの最近、夜ふかしが多くて……」
「なにか問題ごとかい?」
「いいや違う! 仕事が楽しくて仕方ないのだ! もう私は、なんという無駄な人生を過ごしてきたのだろうと、改めて思う」
どうやら、服飾の仕事が上手くいっているらしい。
プリムラのほうをみると、軽くうなずいている。
「自分の好きなことに打ち込めるってことは、とても素晴らしいことだよ」
「ああ! もう10年――いや20年! ケンイチと会うのが早ければ!」
「はは、アマランサスと同じことを言ってるな」
俺の横にいつの間にか、アマランサスがやってきた
「そこでだ、カナンよ! 耳寄りな情報じゃ。帝国には若返りの神器があるという――」
「なるほど! アマランサス様!」
「おいおい! 止めろって! お前たちが言うと洒落にならないんだよ」
「聖騎士様は、我ら女子の夢を叶えてはくれぬのかぇ?」
「できることと、できないことがある。大体、若返りの神器って本当なのか? アキラ?」
「残念ながら、マジだ」
「はぁぁ……絶対に無理だからな」
「そんなぁ――聖騎士様ぁぁぁ」
カナンと一緒に、アマランサスも俺に抱きついてきた。
「甘えても、ダメなものはダメ」
「「ぷー!」」
お姉さんたちの行動に、アネモネも呆れている。
そのあと、皆で揃って食事だ。
今日のメニューは、ビーフシチュー。
討伐に参加した皆が、舌鼓を打っている。
「あ~あ、あたいも護衛の仕事がなけりゃ、討伐に参加するのになぁ。旦那もこんな奴らを雇うぐらいなら、あたいを雇ってくれりゃいいのに」
そんなことを言っているのは、プリムラの護衛――シャム柄のニャレサだ。
「おうおう! 言いたいこと言ってくれるじゃねぇか」「やんのか、コラ?」「そうですよ~怒っちゃいますよ?」
俺たちからちょっと離れた場所で、一緒にビーフシチューを食べている獣人たちがにらみ合う。
「こら、喧嘩するなら、討伐から外すぞ?」
「ニャレサ、騒ぎはダメですよ?」
俺とプリムラの言葉に、獣人たちが揃って、明後日の方向を向いた。
飯を食いながら、今日の反省会と、明日からの打ち合わせをする。
反省会と言っても、なにも反省するところがない。
いよいよになったら、夜間戦闘も考慮していることを、皆に告げる。
皆も納得しているようだ。
「にゃー」
俺の足下でネコ缶を食べている、ベルが俺を見上げる。
「お母さんにも手伝ってもらえればいいけど、水の上だからなぁ」
「にゃー」
ベルが俺を見つめる。
食事が終わると、カナンが俺に抱きついてきた。
「久しぶりに帰ってきたのだ! 私の順番が溜まっておるだろ?」
「そうだな」
俺とカナンの間に、アネモネが割って入ろうとしている。
「ケンイチは疲れているから、休ませてあげたら?!」
「はは、大丈夫だよ、アネモネ」
「むー!」
その光景を見たアキラが笑っている。
「ケンイチ、側室が多いと大変だな」
「まぁな。でも、アキラの所も大変そうに見えるけど」
「ははは! まぁ、お互い祝福持ちだ。このぐらいでへばることはねぇ」
「そうだな」
肉体的な疲れは、祝福のせいか残らない。
アラフォーになって、疲れが一日遅れで出るようになったりしたが、当然そんなこともなくなった。
自然回復が働くと腹が減るが、そのときには、カロリーバーでも食えばいい。
片付けはメイドたちに任して、俺たちはツリーハウスへ行く。
裸になったカナンとベッドの上で、無制限1本勝負。
久しぶりのせいか、彼女の当たりが激しい。
「自分の好きな仕事をして疲れたら、ケンイチの下へやってきて癒やしてもらえばいいのだ……」
「俺は皆から癒やしてもらっているからな。俺が癒やしになるなら、いつでもいいぞ」
「ケンイチ!」
裸のカナンが、俺に抱きつく。
2人だけの夜がふけていく。
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――カナンと一緒のベッドで、次の日の朝。
「おい、カナン。朝だぞ」
「う~ん……」
朝日に浮かび上がる美しい裸――しばらく見とれていても、カナンが起きない。
置いていくと怒るので、服を着させて、無理やり連れていく。
彼女は俺にベッタリだ。
「皆、おはよう」
「「「おはようございます。ご主人様!」」」
メイドたちから、元気のいい挨拶が返ってくる。
「もう! ケンイチ! くっつきすぎ!」
「はは、アネモネも、おはよう」
アネモネがカナンを俺から引き剥がそうとしているが、彼女はひっしとくっついて離れない。
皆で揃って朝食を摂ったあと、再び湖へ繰り出す。
昨日と違うのは、一緒にベルが乗っていることだ。
彼女に、「私も連れていけ」――と言われている気がしてならない。
実際に、彼女が黙って俺の船に乗り込んできた。
湖の上を船で進み、現場に到着――鏡のような水面に俺たちの白い乗り物だけが浮かぶ。
アキラとトランシーバーで連絡を取る。
「アキラ、そっちはどうだ~?」
『反応な~し』
「ふう……まいったなぁ……」
「まぁまぁ旦那! 気楽に行こうぜ!」「そうだにゃ」
「そうは言うがな……」
慰めてくれる獣人たちには悪いが、半ばあきらめの感情と、作戦失敗のプレッシャーが俺を襲い――それを振り払うように、魚群探知機の画面を覗き込む。
「にゃー」
「なんだベル?」
「にゃー」
「……わかった」
彼女が見つめる方向へ、ボートを走らせる。
「アキラ、森猫が気配を感じているようなので、そちらへ向かう」
『オッケー! 動物の勘ってのは、鋭いからな。俺も向かうぜ!』
ベルの指示を受け、やってきた場所で探索を開始。
しばらくは、いつもと同じ画面だったのだが、今までと違う模様が写り始めた――大きい……。
平らな湖底に、這うように存在する巨大な物体。
「これは……?!」
「にゃー!」
俺の視線は、画面に釘付けになった。