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159話 仲間を集める


 苦心の末、爆雷が完成したので、「クラーケン退治だ!」と張り切って、やつの居場所を突き止めるべく、探索を開始したのだが――。

 なんの成果もなく、1週間を棒に振って、空振り三振バッターアウト。

 皆に手伝ってもらったのに、さすがに俺は落ち込んだ。

 切羽詰まった俺は、夜に集魚灯を船で牽引して、クラーケンをおびき寄せる作戦に出た。

 元世界のイカ漁と同じことをやろうと考えたわけだ。


 当然、自分の不始末は自分で――と思ったのだが、アキラが手伝ってくれるという。

 まったくもってありがたいことだ。

 出発の準備をしていると、アネモネと獣人たちにも見つかってしまった。

 彼女たちを巻き込むのは不本意ながら、アネモネの魔法はいざというときに役に立つし、獣人たちの夜目はこの暗闇では有効だ。


 アマランサスを置いてきてしまったので、あとで愚痴を言われるかもしれないが、こういうのはノリと勢いだ。

 俺たちは、オレンジ色のライフジャケットを着込み、暗闇の中をボートを走らせる。

 一応、獣人たちにもライフジャケットを着させた。

 この真っ暗な中で、水に落ちたら、救助に時間がかかる可能性がある。


 真っ暗な中、シャングリ・ラで購入したLEDライトで前方を照らしているが、明るいのは正面のほんの一部だけ。

 ここ1週間でも、流木などは見かけなかったので、暗闇でボートを走らせても問題はないはずだが……。

 見張りをしている獣人たちに声をかける。


「ここで流木などは見ていないが、ちょっとでも怪しい影を見たらすぐに言ってくれ」

「わかったにゃ」

 返事をしたのはミャアだ。毛皮が黒いので、闇に溶けていて解らない。

 振り向くとエメラルド色に光る目だけが見える。


 船外機のスロットル開度と、進む時間でおおよその距離はわかる。

 しばらく進むと、この1週間で置いたオレンジ色のブイが見えてきた。

 ここら辺は捜索したってことだ。


「アキラ、もう少し戻って、湖の中央寄りで作戦を実行してみよう」

「オーケー!」

 反転して10分ほど戻り、準備をする。


「ケンイチ、何をするにゃ?」

「この明かりを水に沈めて、やつをおびき寄せる。水にいる生き物ってのは、明かりに集まってくるんだ」

「へぇ~。でも旦那、その明かりってのは、水に入れても消えないのか?」

「洞窟で水に明かりが沈んでも平気だったろ? あれと同じ明かりだから、大丈夫だ」

「凄いにゃ! アキラも、この魔道具を作れないにゃ?」

「そいつが、どういうものかは知っているが、俺にゃ作れない。俺が作れるのはマヨネーズだけだし、ははは」

 集魚灯をバッテリーに接続すると真っ白な眩ゆい光を放ち始めた。


「ふぎゃ! 目が潰れるにゃ!」

 ミャアが目と耳を閉じる。獣人たちの目は瞳孔が全開になっているからな。

 眩しいので、すぐに水中に放り込む。コードの長さは5mほどだが、全部で集魚灯は6つ。

 それを6回繰り返す。


「本当に水の中で光っているぜ!」

「ニャメナ、この光に魚が集まってくるんだよ」

「へぇ」

「あ! もう集まってきたよ」

 チラチラと見える魚影を見て、アネモネが喜んでいる。


「じゃあ、夜に明かりを点けて、集まってきた魚を網で掬うのもありってことか?」

「そういう漁法もあるぞ」

「へぇ~にゃ」

 ミャレーが水に沈んだ明かりに集まってくる魚を目で追っている。


「ミャレー、水に飛び込むなよ」

「大丈夫にゃ、多分」

 なんか尻尾がピクピク動いていて、怪しい。

 獣人たちが動くものに飛びかかるのは、本能的なものらしいからな。


「アネモネ、眠くないか? これから、しばらく時間がかかるぞ?」

「大丈夫!」

 彼女が暇なときに読んでいるタブレットは、バックライトがあるから、暗闇でも平気だ。

 準備は整ったので、アイテムBOXから方位磁針を取り出す。


「お~しアキラ、北へ向けて微速前進――向こうだ」

「微速前進、よ~そろ~」

 俺が指差した方向に、船がゆっくりと進み出した。

 あまり速く進むと、コードが切れたりするかもしれない。


「アキラたちが話しているのは、何語にゃ?」

「さぁにゃ? ケンイチたちは、たまにわけのわからない言葉を話すにゃ」

 そのまま船はゆっくりと進み、3時間ほどたった。


「ふぅ……これでもダメか?」

「まぁ、1日じゃ結果は出ないと思うぜ?」

 アキラの言うとおりだが……。

 なにもかも、この湖が海みたいに大きすぎるのが原因だ。

 あまり深夜まで、アキラや家族を連れ回すわけにもいくまい。

 夜間の行動をするなら、もう少し準備も必要かもしれないしな。


 そう考えていると――突然、獣人たちが3人共耳を立てて、飛び上がった。


「なにかくるにゃ!」

「やべぇ!」

 獣人たちの毛が逆立ち、ただ事でないなにかが起きようとしているのが解る。


「アキラ! 突っ走る準備をしてくれ!」

「お~し! 任せろ! 行くぞ~!」

 アキラが、スロットルバーを握ると、気合を入れる。

 皆で、明かりが灯る水中を眺めていると、黒い水中が突然白っぽく染まる。

 何か巨大なものが、水中の奥底から上がってくるのだ。


「アキラ! ダッシュ!」

「おう!」

 勢いよく船が走り出すと、掴まっていなかったアネモネが転がる。


「いた~い!」

 俺たちがいた場所に、白く透明なものが水中から這い出てきた。


「にゃにゃにゃ!」

「きたにゃ!」「ぎゃあ!」

 獣人たちが全身の毛を逆立て、尻尾の太さが倍以上になる。

 俺はアイテムBOXから、重りのついた連結ブイを出して放り込んだ。

 この場所をマーキングするためだ。


 囮の役目は済んだので、急いで集魚灯を引っ張り上げて、バッテリーから外す。

 その作業をしていると、船の脇の水中からイボイボがついた巨大な脚が出てきた。


「うひょ~! こいつはマジでデカいぜ!」

 舵を握るアキラが叫ぶ。

 ライトの明かりに浮かび上がる巨大な脚を縫うように走ると――アネモネが指差す。


「ケンイチあれ!」

 沢山の水中から伸びる脚――そのうちの1本が途中から消えている。

 こいつは間違いなく、俺たちを襲ったやつだ。


「――ということは、クラーケンはこの1匹だけって可能性が高いな」

「むー! 爆裂魔法エクスプロージョン!」

 アネモネの魔法で青い光が集まり、水面でオレンジ色の爆煙が上がる。

 水上で広がる光だが、小波が起きる程度で威力は水中へ届いていない。

 やはり、水中で爆発させる必要があるようだ。


「ケンイチ! ここでやるのか?!」

「いや、今日はマークだけだ。この暗闇じゃ戦闘は危険だ」

 急いで現場から離れる。

 水中の明かりが消えたので目標を失い、クラーケンの脚はその場でウロウロしているようだ。

 クラーケンの移動速度はどのぐらいなんだろうか?


「まぁ、こんなデカブツが、マジでいるって解っただけでも収穫だな」

「明日から、さっき落としたブイの周りを探索すればいい」

 多少は移動するとは思うが、闇雲に探すよりはマシだろう。

 それでダメなら、夜間戦闘も視野に入れないとな。


「俺たちが、獣人並に目がよけりゃなぁ、夜間戦闘もありなんだろうけど」

「軍隊が持っている照明弾があればな。ケンイチ、照明弾は作れないのか?」

 アキラの言葉にハッとなり――一応、シャングリ・ラを検索してみる――当然、ない。


「さすがに照明弾は作れんなぁ」

光よ(ライト)!の魔法じゃ、ちょっと範囲が狭いし」

「あの魔法なら、LEDライトのほうが明るい」

「そうだぁ」

 マグネシウムのペレットは売っているので、こいつを燃やせれば――あるいは……。

 いや、危険を冒してまで夜間戦闘はするべきではない。

 急いては事を仕損じる――敵を確認できたのだから、徐々に包囲網を狭めていけばいい。


 クラーケンから離れたが、追ってくる節はない。


「アキラ、東の方角だ」

「オッケー! ふあぁぁぁ! そろそろ眠いぜ。この世界は夜ふかしできないから、すっかりと朝型になっちまった」

「まぁ俺もだよ。いつもなら、寝ている時間だ」

 隣にいるアネモネも、俺に掴まったまま眠たそうにしている。


「アネモネ、ありがとうな」

「うん」

「皆も、手伝ってくれて、ありがとうな」

「なんだい旦那。今更だよ」

「そうにゃ、ケンイチは領主なんだから、もっと人をこき使ってもいいぐらいにゃ」

「金で雇った人間ならともかく。家族なんだから、そうはいかんよ」

 船が30分ほど進むと、獣人たちが反応した。


「岸が見えるにゃ!」

「さて、ここから多分、南だな」

「旦那、あっちから滝の音がするぜ」

 ニャメナが指差したのも南だ――間違いない。

 そのまま5分ほど進むと、桟橋に置いてきた、LEDの明かりが見える。


「誰かいるよ!」

 アネモネの言葉どおりに、白い服を着た女が立っていたのだが――あのシルエットは……。

 船がゆっくりと近づく。


「やっぱり、アマランサスか」

「せ、聖騎士様! 酷いであろう! 妾を置いていくなんて!」

「ごめんごめん、ノリと勢いで、出発してしまったからな」

 船が桟橋に着くと、アマランサスが俺に飛びついてきた。

 思わず、バランスが崩れる。


「あぶないな!」

 まぁ、ここは水深数十cmだから、落ちてもどうってことはないけどな。


「今回の戦闘は、私を参加させてくれると約束してくださったのに!」

「戦闘じゃなくて、あいつに会いに行っただけだからな」

「そんな屁理屈を!」

 アマランサスは待っていたようだが、リリスは寝ているようだ。

 彼女も大物だな。まぁ戦闘の役に立たないことを理解しているからだろうと思うが。


「でも、その甲斐はあった。明日から忙しくなるぞ! 婆さんの所にいる、メリッサや、レイランさんにも応援を頼まにゃならん」

「センセのほうは、俺から話すよ。多分、問題ないと思うが……」

「よろしく頼む」

「任せろ」

「アマランサスに、大魔導師クラスが3人、それと祝福持ちが2人か――敵が湖の中だから普通の騎士団はまったく役に立たない……」

「それでも、1国の軍隊に匹敵する戦力だの」

 アマランサスの言うとおりだ。


「これだけの戦力を集めたら、王家からなにか言われないかな? 謀反の疑いあり――とか?」

「そんな話が円卓の議題に上がる前に、決着がつくじゃろ? それに聖騎士様は辺境伯なのじゃぞ? 異種族との交渉、大型の魔物との交戦の裁量も認められておる」

「そうらしいけどなぁ……ふぅ」

 やれやれ、政治家ってのは大変だ。

 やることがいっぱいで、明日から忙しくなりそうだ。


「「「ふぁぁぁ」」」

 皆であくびをする。

 とりあえず寝るとするか。

 皆で寝床へ戻った。


 ------◇◇◇------


 ――次の日の朝。皆で食事を取るが、カナンとプリムラはアストランティアだ。

 カニは全部食べてしまったので、今日は普通の食事だ。

 メイドが食事を作ってくれるのはありがたいが、気まぐれでジャンクフードなどを食えなくなるのが少々辛い。

 普通の生活に飽きたら、2~3日留守にして、森にこもるのもいい。

 少しぐらい俺がいなくても領の経営が回ることは確認済みだしな。

 一緒に朝飯を食っているユリウスに、今日の予定を伝える。


「ユリウス、今日はアストランティアに行って、戦力調達の交渉をしてくる」

「承知いたしました」

「やれやれ、領内に化け物がおるとなると、退治せねばならぬからのう」

 リリスの言うとおりだ。


「俺たちが、浜から引きずり込まれそうになったように、領民に犠牲者が出る可能性があるからな」

「戦闘に領民は参加させるのかぇ?」

「いや、参加はさせない」

 あの化け物相手に、村の住民では可哀想だ。

 

「承知したが――領民にも無理をさせるのが、領主なのだぇ?」

「そりゃそうだが、俺の仲間内で対処できるのなら、領民を巻き込みたくない」

「いやはや……」

 呆れたようにリリスが、スープを啜る。

 王家の人間からすると、有無を言わさず領主に従わせるのが、まつりごとだと言いたいのだろう。

 相手は巨大な化け物だし、水上戦闘に素人を参加させてもなぁ。

 サンタンカには船もあるが、大切な商売道具だし、彼らの船は手漕ぎだ。

 俺が使っている船外機付きの船と一緒に作戦行動できるとも思えん。

 あのデカい脚を避けるにはスピードがいるだろう。


「でもまぁ――お姫様。俺とケンイチが敵わない相手なら、王国の騎士団だって無理だぜ?」

「アキラ殿の言うとおりじゃ。そもそも騎士団は、船の上で戦うものではないからの」

「魔法と爆雷がダメだったら、どうする? 大砲でも作るか?」

「それもありだろうな。魔法が効かなくても炸裂弾なら効果はあるだろう」

「さすがに、大砲や軍艦はケンイチの魔法でも作れないんだろ?」

「ああ、無理無理。砲身はドワーフたちが来れば作れるはずだが……いきなり武器を作らせるのは……」

「剣だって武器だろ?」

「そりゃそうだが……」

 せっかく新天地に来てくれたのに、いきなり兵器開発ってのは……。


「聖騎士様がおっしゃる大砲というのは、地面が爆発するのとは違うものなのじゃな?」

「爆発って――アマランサス、見てたのか?」

「はい。あれを地面に埋めて、敵軍が通りかかったときに爆発させるのじゃろ? あれなら一気に数百人はほふれる。しかも魔法を使わない……」

 アマランサスが扇子を出すとパッと開いて、口元を隠している。


「母上がおっしゃるのが本当なら、強力な兵器じゃの!」

「「ふふふ……」」

 王族親子が怪しい笑みを浮かべている。


「まてまて、戦には使わないぞ?」

「聖騎士様のおっしゃることも解りますが、ここに敵が攻め込んできたら、そのようなことを申してはおられませぬ」

「そ、そりゃそうだけど……」

「敵を退ける手段は、多ければ多いほどいい」

「その通りじゃ!」

「聖騎士様がおっしゃる大砲というのも、さぞかし強力な兵器なのでしょうなぁ、ふふふ」

 アマランサスには奴隷契約があるため、俺の不利になることは絶対にしないはずだが、躊躇なく強力な兵器を使うことが領の利益につながると、信じて疑わないのだろう。


「旦那とお姫様たちが、またなにやら怖い話をしているぜ?」

「ウチらにはどうしようもないから、諦めるにゃ」

 ちょっと離れた場所に座っている獣人たちが、ぶつぶつ言っている。


「まぁケンイチ、その時はその時だ」

「それしか手がないならそうだが……」

 不本意ながら、アキラの言うとおりで有事には備えなくてはならない。

 なにが起こるか解らんし、俺も火薬や圧力鍋爆弾を作って、数々のピンチを切り抜けてきた。

 兵器開発はしておくべきだろうなぁ――やっぱり。


 食事が終わると、アキラのプ○ドに乗って、アストランティアへ向かう。

 アネモネも一緒だが、どこにでもついてきたがるので困りもの。

 まぁ、貴族が護衛の魔導師を連れていることも多いので、彼女が俺の護衛といえば、その通りだろう。

 これだけの大魔導師は、この国にもそうそういないのだから。


 俺が切り開いた真っ直ぐな道を、アキラが運転する車で走る。俺が助手席、アネモネは後ろだ。

 道にはすでに轍ができており、タイヤや車輪が通過するところが凹んでいる。

 切り開いた森の中は意外と高低差があって、低い所は埋めたのだが、その部分が沈下してしまっている。


「ああ、道路が沈下しているな。後で土を盛ろう」

「このぐらいは大丈夫じゃね?」

「車なら平気だが、馬車だとちょっとした凹みで動けなくなることがあるし」

 そういう場所に来たら、スピードを上げて一気に駆け抜けるなどの、御者の腕の見せどころなのだが――なるべく平坦のほうがいいだろう。


「そうだなぁ。車輪も細いからすぐに埋まるしな」

 車輪を太くすると、抵抗が大きくなって馬の疲労度が上がってしまう。

 今の車輪の太さってのは、色々な条件を踏まえて最適化された結果だ。

 そのまま道を走り、アストランティアとダリアを繋げている街道と合流する。


「ここには信号がないから、注意しないとなっと」

 ハンドルを握りながら左右を見ているアキラの言葉にアネモネが反応した。


「シンゴウってなに?」

「え~、どっちが優先か教えてくれる看板のようなものかな?」

「この交通量じゃいらねぇよな」

「まぁそうだな」

「ふ~ん」

 車はアストランティアの街の中に入るが、街の住民は車を見慣れているのか、注目もされない。


「皆、車に慣れたようだな」

「まぁ、毎日走っているからなぁ。一応、マロウ商会に世話になっているってことにしてる」

「そうしないと、商人にものを運んでくれとか頼まれるだろ?」

「はは、その通り。この世界の商人は、グイグイくるからなぁ。日本人みたいに、空気を読むとかないし」

「女も結構、グイグイだしなぁ」

「はは、そうだな。センセもそうだったし」

「とにかく、この世界の女は行動力がありすぎる」

 俺たちの会話に後ろから声がする。


「ねぇ、空気を読むってなぁに?」

 それに対応する、こちらの言葉はないようだ。


「え~とな、雰囲気を察する――みたいな」

「へ~」

「アネモネちゃん、皆で楽しく酒を飲んでいると、いきなりつまんねぇことを言うやつがいるだろ? そういうのを空気が読めないって言うんだよ」

 ハンドルを持っているアキラがつぶやく。


「う~ん――配慮がない、みたいな?」

「それに近いかな」

「日本語にゃ、空気を読むが沢山でてくるがなぁ」

「世界で一番、空気を読む民族だよな」

「ははは、そうだな」

 車を走らせ、婆さんが営む――スノーフレーク道具店へ。


「おお、ここだ。サンキュー!」

「それじゃ俺は、例の話をセンセに話しておくぜ。まぁ大丈夫だと思うが」

 アキラがプ○ドの窓から顔を出して答える。


「アキラはいいのか?」

「俺はもちろんオッケーよ! 今後も世話になるしな」

「ドラゴンスレイヤーが一緒なら心強いよ」

「そっちも聖騎士様なんだろ?」

「祝福をもらっただけだからな、それを言うとアキラだって、この国だと聖騎士ってことになる」

「う~ん、そうか。そういうことになるのか」

「ありがとうな」

「おう!」

 アキラと別れて、道具店の中に入る。

 相変わらず薄暗くて、わけの解らんものが沢山並んでいる。

 初めてここを訪れてから、こんな大事になるとは……。


「私は、中を見てる」

「解った――お~い、婆さんいるのかい?」

「はいよ~」

 暗闇の中から、ダーク色なローブを被った婆さんが現れた。


「おや、あんたかい。なにか買いに来たのかい?」

「いいや、頼みごとだ」

「あんた、頼みごとするのに、手ぶらなのかい?」

「ちゃんとアイテムBOXに入っているよ」

 ――と言いつつ、シャングリ・ラでお土産を検索する。

 ケーキを喜んでいたので、ケーキでいいだろう。2000円のロールケーキを購入する。


「ポチッとな」

 目の前のカウンターにクリーム色のロールケーキが落ちてきた。


「甘いお菓子だ。婆さんも好きだろ?」

 ケーキを見た、婆さんの目の色が変わる。


「ちょっと待ってな! 切って、飲み物も持ってくるから!」

 えらい変わりようだな。


「ケンイチ……」

 そこにアネモネがやってきた。


「嬢ちゃんも来てたのかい」

「こんにちは!」

「それじゃ、一緒に食べようかね」

「うん!」

「悪いな……」

「いいってことさ!」

 ニコニコ顔の婆さんはケーキを持って奥へ行ってしまった。


「なにか面白そうなのはあったか?」

「この本を買って?」

 アネモネが、青い表紙の大きな事典のような本を両手で持っている。


「おお、解った――後でな」

「うん」

 アネモネと話をしていると、婆さんが戻ってきた。

 トレーの上に、切ったロールケーキと、カップに入った飲み物が載っている。

 俺はブラックコーヒーが飲みたいところだが――さっきの話じゃないが、ここは空気を読もう。


「メリッサ! こっちへおいで、オヤツがあるよ~」

「え? オヤツ? どこどこ?!」

 バタバタという足音と共に、暗い紫色のワンピースを着た、メリッサがやってきた。

 歩く度に、白い太ももがチラチラと見えている。


「ああ、ケンイチが来てたのね?」

「こんにちは」

「アネモネ、こんにちは」

「ほら、美味いお菓子を持ってきてくれたから、一緒に食べようじゃないか」

「やったぁ!」

「なにやら辺境伯様は、お前に頼みがあるようだよ」

「頼みってのは、魔物退治だ」

「ふ~ん、魔物ねぇ……」

 俺は、湖に住み着いているクラーケンの説明をした。


「ちょいとお待ちよ。まさか、そんな危険な仕事をお菓子で頼もうってんじゃないだろうね?」

「お婆ちゃん、ケンイチにお世話になったんだから、ここは恩を返す場面でしょ?」

「いいや、命がけとなると話は別だ。可愛い孫の命がかかってるんだからさ!」

「もちろん、それ相応の対価を払うよ」

 俺は、アイテムBOXからプラチナ硬貨を取り出した。


「銀貨? そんなもので――」

「婆さん、これは白金貨だ」

「な、なんだって!?」

 婆さんが、俺の手から硬貨を奪い取った。


「これが白金貨の本物だってのかい?」

「ちょっと魔力を流してみれば解る」

 俺の言うとおりに、婆さんが硬貨に魔力を流し始めると、丸く輝く板がほのかに光り出した。


「おおお~ほ、本物! あたしゃ、この歳まで生きて白金貨なんて初めて見たよ!」

「綺麗……」

 婆さんとメリッサが、プラチナ硬貨を覗き込んでいる。

 この店は暗いので、プラチナの輝きがよく見えるのだ。


「それを対価にやる」

「よっしゃ! それじゃ、あたしも参加しようじゃないか」

 突然、婆さんがとんでもないことを言い出した。


「ええ? 本気かよ、年寄りの冷水だぜ?」

「バカをお言いじゃないよ。それに、ダリアの爺にも、野盗退治に参加させたそうじゃないか」

「あのときは、人数不足でな」

 野盗退治も大変だったが、相手の人数が多かっただけで、相手は人間だ。

 今回の相手は、巨大な化け物――難易度が違う。

 

「当然、あたしの対価も白金貨で払ってもらうかねぇ、ひひひ」

「ごめんなさい、ケンイチ。お婆ちゃん、言い出したら聞かなくて」

 これも、さっきの話になるが、この世界の女性は強くて、行動力の塊だ。

 白金貨に目が眩んだようにも見えるが。


「まぁいいよ、メリッサ。王立学校を揺るがしたという、スノーフレークお姉さまの実力を拝見といこうじゃないか」

「はん! まだまだ若いもんには負けないよ!」

「悪いが、さっき説明したように相手は強敵だ。死んでも怪我しても自己責任だぜ。もちろん骨は拾ってやるが」

「任せておきなよ! ひひひ」

 アネモネと顔を見合わせ、少々呆れる。


 予想外に魔導師が1人増えた。大幅な戦力アップだ。

 これで、レイランさんが参加してくれれば、鬼に金棒だろう。

 


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