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158話 囮


 アキラと一緒にカニ漁をした次の日、泥抜きが終わったので俺たちはカニを煮ることにした。

 これが晩飯になるのだが――この世界にはカニを食べる文化がないらしく、皆が気持ち悪がるので、メイドたちに普通の食事も用意してもらった。

 カニは、サクラから離れた俺の爆雷研究室に置いてあるが、運ぶ際に生き物はアイテムBOXには入らない。

 そこで大型の寸胴にカニをいれて、アネモネの魔法で加熱してもらう。

 水がお湯に変わり、カニが死ねばアイテムBOXに入れられるようになる。

 しかも熱いままだ。少々、可哀想だが美味しく食べるための殺生なので、致し方ない。

 アキラはサクラに泊まったのだが、朝飯を食ってアストランティアに仕事に行くと、夕方には戻ってきた。

 もうサクラを自宅にする勢いだ。

 プリムラも帰ってきたので護衛のニャレサも一緒で、ニャメナたちとテーブルを囲んでいる。


「あの旦那たちは、なにを食おうってんだい?」

 ニャレサが、訝しげな顔でこちらを見ている。


「信じられるか? 虫を食うんだぜ?」

「虫? おえ~っ!」

 メイドが作った普通の食事を摂っている獣人たちだが、そんなことを言っているのが聞こえてくる。


 俺とアキラで、カニの入った寸胴をサクラに持ってきて、焚き火にかけて仕上げをすることに。

 ちょっと鍋が大きすぎて、コンロじゃ火力不足。

 轟々と燃え盛る炎の力を借りることにした。


「ほう、カニかぇ?」

 リリスが、寸胴の中のカニを覗き込んでいる。


「リリスはカニを食ったことがあるのか?」

「うむ、一度だけな。アイテムBOX持ちの商人が、城へ持ち込んだのじゃ」

「やっぱり、なまものだからなぁ。アイテムBOXがないと無理か」

「初めて食べたが、中々美味じゃったぞ?」

「どんなカニだった?」

「海でとれたものだと話しておったな。赤茶色で、1カンはあったろうか……」

 1カンってのは、この国の単位で1.8m相当だ。


「デカいな……」

 俺とリリスの会話を聞いていたアキラが入ってきた。


「それってタラバじゃね?」

「デカいのはタラバだよなぁ。海にはカニがいるんだな」

 まったく別の種類のカニの可能性もあるけどな。

 デカい亀や、デカいトンボ、デカいハチ、デカいイカがいる世界だ。

 デカくて化け物みたいなカニがいてもおかしくない。


「この世界には冷蔵技術や缶詰がないからな。容量の大きいアイテムBOX持ちは稀だし」

 あまり語られないが、財布ぐらいのアイテムBOX持ちは、それなりにいるとも言われている。

 アイテムBOXが小さいと、自分がアイテムBOX持ちだと気づかない人も多いらしい。

 まぁ、たしかにコイン一個とか小石一つ入るアイテムBOXじゃ、自分でも解らないかもしれないな。


「プリムラ、この生き物は、知っているかい?」

「はい、海辺の街で見ました。もっと大きいものでしたが、父と一緒に食べました。美味しかったですよ」

「へぇ、さすがマロウ商会、どこにでも行ってるなぁ」

 いい商品を探すためなら、たとえ火の中水の中。

 そのぐらいのバイタリティがなくちゃ、一流の商人にはなれんということか。


 カニが煮えて真っ赤になったので、お湯から上げると、アキラが食い始めた。


「アキラ、今日は日本酒でいってみるか?」

「おお? そうきたか? 肝酒だな」

「テキトーな大吟醸でいいか?」

「はは、なんでもいいよ。贅沢はいわんし。飲めるだけで万々歳だ」

 シャングリ・ラで大吟醸を探す。最初のページに出てきた5800円の酒にした――結構高いな。


「ポチッとな」

 緑色の瓶が落ちてきた。


「ほい、アキラ」

「おい、これってメチャ高いやつじゃないのか? 普通の安い一升瓶とかでいいんだが……」

「まぁ、いいじゃないか。たまに飲む酒だし、贅沢しても」

「そんじゃ、ありがたくゴチになるぜ」

 アキラは、酒のキャップを開けると、カニの甲羅に注いだ。


「ジュルル……やべぇ……こりゃ、美味すぎるぜ……」

 甲羅を持って酒を啜ったアキラがつぶやく。


「高い日本酒はワインみたいだよな」

「でも、ワインでこんなことして飲めないぜ?」

「まぁ、ワインで肝酒とか骨酒とか聞いたことがないなぁ」

「ああ、骨酒って手もあったかぁ……小魚焼いて、酒に突っ込んだら美味そうだな」

 日本酒の原料は米だ。米の飯に合う料理なら、なんでも合う。

 ワインじゃこうはいかない。


「俺は酒を飲まない人だからなぁ」

 そうは言っても、まったく飲まないわけじゃない。

 付き合いで一口、二口ぐらいは、口をつけることもある。

 体質的に合わないのか、すぐに具合が悪くなるので、それ以上飲まないだけだ。


「アマランサスも飲んでみるか?」

「ふむ、このようなものを飲むのは初めてじゃ」

「ワインじゃ肝酒はできないからな」

「それにこの世界には、赤しかないし」

 アキラの言うとおりだ。この世界には赤ワインしかない。

 まぁ、魚介類を食べることが滅多にないから、赤ワインだけでも困らないと思うが。

 アキラにカニの甲羅を開けてもらったアマランサスが、そこに注がれた日本酒を口にする。


「……ほう、なんという深い味わい……そして、この香り――これは果実酒かえ?」

 日本酒を飲むアマランサスの顔が、なんとも色っぽい。さすが大人の女だ。


「いや、これは穀物から作った酒だよ」

「なんと、穀物――麦かぇ?」

「米っていうんだが、ここにはないからな」

 アキラとアマランサスが、日本酒を飲んでいると、ニャメナが揉み手をしながらやってきた。


「旦那ぁ……そのいい匂いのするやつを……」

「ああ、解った――これだな」

 俺が、カニを差し出した。


「ぎゃぁ!」

 真っ赤になったカニを見たニャメナの毛が逆立つ。


「ははは、冗談だよ。酒だろ?」

 シャングリ・ラから同じ大吟醸を買う。


「旦那、こんな高そうなのじゃなくてもいいのに……」

「でも、このいい匂いがするのを飲みたかったんだろ?」

「そ、そうだけどさ……」

 獣人たちの鼻は敏感だな。あんな離れた所から、吟醸香を嗅ぎ取ったのか。

 だいじそうに、緑色の瓶を受け取ると、自分たちのテーブルで酒を飲み始めたのだが――ニャメナとニャレサが揉めている。


「なんで、お前に飲ませなきゃいけねぇんだよ!」

「このケチトラが~、ちょっとぐらいいいじゃんか。そんないい匂いがする酒を独り占めなんてズルいぞ!」

「こらこら、揉めるな。ニャメナ、一杯ぐらい飲ませてやれ」

「やった!」

 喜ぶニャレサに、ニャメナは渋い顔だ。


「ちぇ――旦那は女に甘いんだから……」

「にゃはは。女に甘いから、トラ公もおこぼれにありつけるにゃ」

 まぁ、ミャレーの言うとおりだな。

 彼女たちは、普通の陶器のカップに酒をドボドボと注いで飲み始めた。

 巷の住民で、酒によって器を替える――なんて洒落たことをするやつはいない。


「にゃにゃにゃ――にゃんだこれ!」

「ああ、美味い! 美味すぎて死ぬ!」

 ニャメナとニャレサが、カップを持ったまま固まっている。


「大げさだな」

 その声を聞いて、アマランサスがつぶやく。


「聖騎士様――この酒なら、王室の宝物庫に入っていてもおかしくない代物ですよ」

「はぐはぐ……酒にうるさい、母上がそう言うのじゃから、相当な代物じゃの」

 静かだと思っていたら、リリスとアネモネとプリムラが、黙ってカニを食い続けていた。

 皆が食っているので、俺はメイドたちの用意した普通の料理を食べている。


「酒だけで、こんな魂を撫でられるような味がするのかよ……」

「こりゃ、ヤバい代物だよ」

「うむ――魂を撫でられるか――獣人も中々詩人じゃの」

 アマランサスが酒を飲みながら、感心している。

 話を聞いたプリムラの商売人魂を刺激したようだ。


「ケンイチ、そんなにいい酒なら、貴族に売り出せば……」

「俺が魔法で出すものだからなぁ――この領の産業にならないし。醸造所を建てて酒を作るならいいんだが」

 醸造所の話に、アキラが反応した。


「前にも話にでたが、酒造りか――いいね。こんな上等なものは無理だとは思うが、リキュールぐらいはなんとかなりそうだ」

「ここにドワーフたちでも、やって来れば、話に乗ってくれそうだがなぁ」

「ケンイチは、そういう話もしてたな?」

「本当にドワーフたちが来るかは解らんよ。彼らにも生活があるし。でも俺が持っているものに興味はありそうだった」

「まぁ、見たこともない金属がゴロゴロしていたら、そりゃドワーフは気になるだろう。奴らは、金属オタクだからな、はは」

 金属オタクってのは少々言葉が悪いが、そんな感じだったな。


 獲ったカニは全て食い尽くされてしまった。

 俺の家族が、徐々にゲテモノ食いに汚染されているようで、少々気の毒な感じもするのだが、美味いものは美味いので仕方ない。

 そういう食文化がないだけで、カニ食もそのうち広まるのではないかと、俺は見ている。

 そうなれば、カニ漁もこの領の立派な産業となるだろう。


 ------◇◇◇------


 ――カニを食ってから1週間後。

 爆雷が4発完成して、クラーケン討伐作戦が開始された。

 ――とは言っても、まずはやつの寝床を見つけなくてはならない。

 イカってのは夜行性の印象が強く、俺たちが襲われたのも夜だ。

 昼間は湖の底で寝ていて、夜な夜な湖畔に水を飲みにやってくる獲物を捕らえていた可能性が高い。

 湖の底にいるなら魚探で見つけられるが、洞窟みたいな場所があってそこに隠れているようだと厄介だな。


 戦いの前に、俺とアキラとで船に乗って、クラーケンの寝床探しが始まった。

 探索範囲は以前俺たちが襲われた地点の沖――そこを中心にして探索する。


 探索に関して、元世界の住民であるアキラの存在は大きい。

 一々、説明をしなくても話が通じるし、常に阿吽の呼吸だ。

 船に装備した船外機も扱えるし、魚探などの元世界の備品も扱える。

 2人ともアイテムBOX持ちで、祝福持ちときてる。

 この世界のチート持ちが2人揃い、アキラは帝国でドラゴンを仕留めたドラゴンスレイヤー。

 1国の軍隊にも匹敵する戦力だ。


 一応、突発的な戦闘に備えて、準備は万端。

 俺の船には、アネモネとアマランサス。

 アキラの船には、ウチの獣人たちと、アストランティアから応援にやって来た、獣人のミャアが乗っている。

 ミャアはアキラの連れで、帝国からやってきた獣人だ。

 獣人たちは、クラーケンが苦手のようなのでちょっと心配だが、彼女たちは雪辱戦に燃えている。


「アキラ、そっちはどうだ?」

『反応な~し』

 彼には連絡用にトランシーバーを渡してある。

 なにせ、この湖は広い。直径40kmもある巨大湖なので、対岸も見えない。

 船同士の間を空けて魚探によるスキャンを行っているが、スキャンが終わった所にはブイを投げて、印をつけている。

 長期的には風などで流されてしまうだろうが、湖には流れはないので、一応の目印にはなる。


 もっと沢山の船を使って、ローラー作戦を展開すればいいのだが――これらの道具は、俺が作った魔道具ってことにしてある。

 この世界の住民に科学の力を使わせるわけにはいかないからな。


 果たして、これでクラーケンを見つけられるのか?

 いよいよとなれば、奴が活動すると思われる夜に、明かりや囮を使っておびき出す作戦も考えてる。

 ――とはいえ、夜間の戦闘が、俺たちに不利なのは紛れもない事実。

 なるべく危険は避けたい。


 船が微速前進でスキャンを続けているが、やることがないアネモネとアマランサスは暇そうだ。

 日焼けしないように日傘の影、アネモネはタブレットに入っている書籍を読み、アマランサスは日がな一日湖面を見続けている。


「すまんなアマランサス、つき合わせてしまって」

「いいえ、これは妾にしかできない仕事でしょうから」

「確かに、ウチの家族では、一番戦闘力が高いからな。期待しているぞ?」

「ふふふ」

 50mほど離れているアキラの船を見ると――釣り竿が見える。

 暇な獣人たちが釣りをしているのだ。

 船はゆっくりと進んでいるので、ルアーを引かなくてもいい。


「アキラ、魚は釣れてるのか?」

『ああ、結構釣れているぞ?』

 釣った魚は彼のアイテムBOXに入れているらしい。


 あたりもなく昼になったので、2艘の船をくっつけて昼飯を食う。

 獣人たちは、メイドが作ってくれた弁当を――俺とアキラは、シャングリ・ラで買ったカップ麺とおにぎりを食う。

 アネモネとアマランサスも、同じものがいいと言うので、用意した。

 お湯と、おにぎりはアネモネの魔法で温めてもらう。


「ほう――このような食べものは初めて食べたが、なんというか――庶民の味じゃの」

 麺をすすれないアマランサスが、食いにくそうにハグハグしている。

 箸も使えないので、フォークでくるくる巻く食い方を教えてやった。


「まぁ、ここらへんの庶民の味ではないけどな」

「俺たちは、なぜかこの粗末なものがご馳走なんだよなぁ」

 アキラの言うとおりだ。なぜか無性に食べたくなる。


「本当にそうだな、はは」

「うわぁ……また旦那たちが、虫みたいの喰ってる……」「うにゃー」

「ウチのアキラも、あの手の虫みたいのが、大好きなのにゃ」

 アキラの連れのミャアが、そんなことを言っている。


「アキラ、帝国で麺類とかあったのか?」

「いいや、なかったので、小麦粉で自分で作った」

「自作か――執念だねぇ」

「小麦粉使って粉もの屋やってたからな。ついでってやつよ」

「麺類に対する、帝国民の反応は?」

「まぁ、ミャアみたいな反応だよ。どうしても、あの細長いのが、管虫に見えてダメらしい、はは」

「虫醤もあるって話だったのになぁ。そういう文化は発達しなかったのか……」

「まぁ、管虫食ってたのも俺だけだったし」

 アキラの話では、小さい管虫は柔らかく、シャキシャキして美味いらしい。


 飯を食い終わったので、引き続き探索を続行するが、当たりはなし。

 俺たちが使っているこの高性能な魚探は、垂直方向だけではなく、水平方向の画像も出すことができる。

 これに加えてGPSも使えれば、どこまで探索したかなんてことも解るんだが。

 この世界に人工衛星なんてないし……なにせこの湖は広いからなぁ。

 少々気が遠くなりそうな作業だが、探索を続けて解ったことがある。

 この湖の水深は深いところでも、50mほどで湖底面は平ら、あまり凸凹していない。


 当たりもなく一日が終わり、30分ほどかけてサクラに戻ってきた。


「ふぅ……そう簡単にはいかないか……」

「ははは、こりゃ大変だな」

「アキラ、こんなことに巻き込んで悪いが、1週間だけ探索に付き合ってくれ」

「あいよ~。まぁ、なんとかなるさ」

 1週間で無理なら、他の手を考えなくてはならない。


 ------◇◇◇------


 ――探索を始めて1週間、来る日も来る日も船を走らせて、魚探を使う日々。

 なにも反応がなく、さすがに作戦の立て方が間違っていたのではと思い始めた。

 皆は文句も言わず俺に付き合ってくれているが……。


 7日目も空振りに終わり、夕飯を食ったあと――キラキラと湖面に月が映る、暗くなった浜で落ち込む。

 俺の横にはLEDライト――目の前には、1週間使った2艘の漁船が湖面にたゆたっている。

 毎日使うので、木造の立派な桟橋も大工たちに作ってもらったのだが――そこに、ビール片手のアキラがやって来て、声をかけてくれた。


「はは、随分と黄昏れているじゃないか」

「そりゃ落ち込むぞ。1週間を棒に振ったんだからな」

「まぁ、勝負は時の運。しゃーない、切り替えていけ。グビグビ、ぷは~っ!」

「悪いな、アキラにも手伝わせてしまったのに……」

「気にするなって、ビールが飲み放題でチャラになってるからよ、ははは」

 彼にも仕事があるので、途中で抜けて運送の仕事をしたりしていた。


「ふう……」

 その場に座り込み、落ちていた棒を拾うと、砂浜にイカの絵を描く。


「それでどうする?」

「……俺自身を囮にして、やつの居場所を突き止める」

「どうやって?」

「船の脇に光ものをくくりつけて、湖の上を走る。イカ漁とおんなじだ」

「デコトラみたいな感じでか?」

「そう!」

 早速シャングリ・ラで検索する。

 LEDライト大型で検索すると、集魚灯というワードが出てきたので、改めて集魚灯で再検索する。

 210Wの大型集魚灯が1万円で売っているな。

 12Vで船で使っている100Aのバッテリーにそのまま繋げられる。

 普通のLEDライトだと防水されていないので、ショートして壊れてしまうが、これなら水に入れても大丈夫だ。

 早速、購入する。


「ポチッとな」

 細長い円筒形のLEDライトが落ちてきた。

 尻から赤黒のコードが伸び、その先がワニ口クリップになっており、バッテリーの端子に繋げられるようになっている。


「それが、ライトか?」

「集魚灯だ」

 悔しいので、すぐに動作試験をする。

 明かりを持って船に乗り込むと、集魚灯をバッテリーに接続する。

 スイッチはないので、繋ぐと即座に光り出した。


「うおっ! 眩しい!」

 辺りを昼に変える目も眩むようなまばゆい白い光。


「こりゃ、すげぇな! 目が潰れるぜ!」

 アキラも、掌で影を作っている。


「こいつを水に入れて、曳航してクラーケンをおびき寄せる!」

「それで、いつやる?」

「今、これからだ!」

「ええ? 俺、ビール飲んじゃっているけど……」

「俺1人でやるから、構わん。奴がいる場所を特定するだけで、別に戦うわけじゃないからな」

「よし! 俺も付き合うか!」

「おいおい、飲酒運転だぞ?」

「うへへ! ここは異世界だから無問題!」

 最後のビールを飲み干すと、空き缶を俺によこす。

 この世界でアルミは魔法の触媒になるので、空き缶の放置はできないのだ。


 追加して6個の集魚灯を購入――同時にバッテリーを6個追加購入する。

 シャングリ・ラの評価を見ると、バッテリー1個で5~6時間の連続点灯が可能らしい。

 長時間点灯させるためには、集魚灯1個につき、バッテリーが1個必要になる。


 それとヤツの居場所をマークするブイが必要だ。

 直径30cmのオレンジ色プラブイを10個ほど購入してまとめ、ナイロンロープを60mほど繋ぐ。

 終端は、コンクリブロックにしよう。

 こいつを水中に放り込めば湖底まで50mなので、マーキングとして使えるだろう。


 俺が準備をしていると、アネモネと獣人たちがやってきた。


「戻ってこないと思ったら、なにをやってるの!」

「ああ、アネモネは戻って寝ていなさい」

「私も行くに決まってるでしょ!」

「暗くて危ないから」

「絶対に行くから!」

 アネモネが言うことを聞いてくれない。


「へへへ、暗闇っていえば――俺たちの出番だよな」「そうだにゃ」

「お前らもいくのか? 大丈夫か? あれが出てくるぞ?」

「もう、覚悟は決まっているから、大丈夫だよ旦那!」「にゃー!」

 暗闇から、光る目が走ってくる。アキラの連れのミャアだ。

 黒い毛皮なので、本当に見えない。


「ウチも行くにゃ!」

「おおっ! ミャア! お前も来い!」

「にゃー!」

 そこに暗闇からもう2つの光る目――ベルもやってきた。


「にゃー」

「さすがに、お母さんは留守番な」

「にゃー」

 彼女は船に乗るとは言わないようで、安心した。


「さて、ケンイチ。ここに戻ってくるために、灯台がいるぞ?」

「あ、そうか。真っ暗だからな。ここには街の明かりもないし……」

 灯台代わりに桟橋の上にLEDライトを置いた。

 場所が解らなくなっても、東へ進んで岸に当たるまで進めばいい。

 皆が船に乗り込むと、アキラがエンジンを始動させた。

 船の操舵はアキラだ。酔っぱらい運転だが――。


「ビール1本だし、へーきへーき! ははは! それに、その気になれば、アルコールも分解できるからな」

「なんだそりゃ? あ、もしかして祝福の力で?」

「そう!」

「――ということは、俺も酒が飲めるようになっているとか?」

「多分、大丈夫だと思うが……」

「そうか――でも、基本的にあまり酒が好きじゃないんだよなぁ。酔っ払って騒ぐのも苦手だし……」

「そりゃ、しょうがないな」

 俺たちが出発しようとすると、LEDランプを持ったマイレンが様子を見にやってきた。

 皆が戻ってこないので、確認をしに来たのだろう。


「ご主人様!」

「マイレン! ちょっと出かけてくる! お前たちは、先に休んでいろ!」

「あ、あの! ご主人様!」

 メイドを岸に残して、けたたましい船外機の音とともに、船は発進した。

 アマランサスを置いてきてしまったが、帰ったら怒るだろうなぁ。

 まぁ仕方ない。


 明かりはまだ点けていないが、点灯するのは現場に着いてからでいいだろう。


「ひょ~! 真っ暗でまったく見えねぇ!」

 操舵しているアキラが叫ぶが――湖面に月の明かりが反射しているので、なんとなく見える。


「大丈夫にゃ! アキラ! ちゃんと見えてるにゃ」

 舳先にミャアが立ち、アキラの目となって、進む方向を定めている。


「旦那が暗い顔をしてたんで、絶対になにかやると思ってたから、酒も飲まずにいてよかったぜ」

「そうだにゃー」

 俺の行動はバレバレか。まぁ、いつも一緒にいるし、死線も一緒にくぐり抜けたからな。


「それで? この暗闇の中でなにをするんだい?」

「明かりを点けてやつをおびき寄せて、場所を特定する」

「それじゃ、今日は戦わないのかい?」

「そうだ! 戦闘は、戦力を揃えてからやる」


 俺たちを乗せた船は、暗闇の中を突き進んだ。



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