156話 コンポジションC-4
サクラに貴族が尋ねてきた。ナスタチウム侯爵――王都で一悶着あった大魔導師メリッサの実家である。
この貴族の当主が、アストランティアにいる道具屋の婆さんの息子なのだ。
赤ん坊のときに、手切れ金を渡されて離れ離れになってしまっていたが、それがやっと再会できたというわけだ。
よかったよかった――と、人の世話を焼いている場合ではない。
俺は俺の仕事をしなくては。
当面の俺の仕事は、湖にいるクラーケンと呼ばれる化け物退治。
こいつがいると、湖をハマダ領の経済に組み込むのに支障がでる。
それをなんとかしなくてはならない。
そのために、俺は兵器の製作に余念がない。
兵器といっても、俺が作るものは、基本的にはシャングリ・ラがないと作れないものばかり。
ここで便所を使って硝石を取る方法や硝石丘法などを教えてしまったら、この世界に火薬の製造法が広まってしまう。
そうなれば、とんでもないことになるのは目に見えるので、あくまで俺が使う特殊魔法としての爆薬の製造だ。
ここらへんは、アキラとも話をしてみたが――彼の意見も俺と同じようなものだった。
「アキラは、黒色火薬とかは作らなかったのか?」
「あ~、もう本当に切羽詰って願ったことはあったけど、作り方を知らなかったんだよ」
「俺の在庫を渡しておくか? 多少なら作りおきもある」
「少しもらっておくかな? センセになにかあったとき、魔法が使えないと困ることもあるし」
センセというのは、アキラ最愛の人――帝国の魔女こと夜烏のレイランさんだ。
アキラにタイマー式のパイプ爆弾を渡す。
俺がシャングリ・ラから買った単管パイプに黒色火薬を詰めたものだ。
「使い方は簡単。このタイマーをセットしてゼロになると起爆する」
「へぇ~って、これキッチンタイマーじゃね? それに、このパイプって単管だろ?」
「そうだよ。とりあえず作れるものを使って、さらに新しいものを生み出す」
彼にシャングリ・ラのことは話していない。
「いきなり爆弾とか作れないんだ?」
「作れない。普通に元世界のスーパーやら、ホームセンターで売っているものしか作れない」
「それでも便利な能力だよなぁ。俺のマヨネーズ能力とは大違いだぜ」
アキラはそう言うが、まったくチートがゼロの状況じゃ、この世界じゃ大変だろう。
いや普通に生活するだけなら困らないのかも……とはいえ、マヨネーズが出てくるチートというのは酷い。
苦労した彼には悪いが、それを労うためにビールを出す。
「アキラ、ビールを飲むか?」
「いいねぇ」
「今日は、ヨントリーモルツでいってみるか?」
彼の前に金色の缶を置く。
「おおっ! サンキュー! ――とはいえ、マヨネーズ能力でもなけりゃ、この世界でとっくに終わってたしなぁ」
「そりゃ、俺だってそうだ。能力がなけりゃ、タダのオッサンだからな」
「俺なんて、ブラック勤めの底辺だったからな」
アキラが、缶ビールをグビっといった。
「俺だって、しがない自営だし」
「帝国ですったもんだあったが、ここに亡命してやっと落ち着けているよ」
「それはよかった」
「ケンイチは飲まないのか?」
「俺は飲まない人だからな。どうも体質的に合わなくてな」
「あ~それは気の毒だが――酒なくて、なんの己が桜かな――人生の半分を損しているねぇ」
「俺に言わせれば、アルコールで脳細胞を死滅させているほうが、どうかしていると思うが?」
「へへへ」
お互い大人なので、これ以上は突っ込まない。
彼も口は少々悪いが、苦労人だ。引くべきところは、わきまえており、俺と喧嘩したって一銭の得にもならないことは知っている。
アキラにビールを飲ませ、俺は微糖の缶コーヒーを飲むことにした。
どうも微糖に慣れてしまうと、普通の砂糖入りコーヒーが飲めなくなってしまった。
コーヒーを一口飲むと、テーブルに缶を置く。
「さっきの話に戻るが――ケンイチも火薬の製法を広めるつもりはないんだろ?」
「ないない。俺の家族を守るために、やむを得ず作って使っているだけだ」
実際に――レッサードラゴン、ワイバーン、クラーケンと強力な敵から、家族を救ってくれたからな。
「まぁなぁ――ダイナマイトを作ったノーベルさんも、戦争にダイナマイトが使われて、苦しんだみたいだし……」
「原爆を作った科学者の話もあったなぁ」
「そんなのは、まっぴらごめんだぜ。この世界で平和に生きれりゃ、もうそれでいいんだ。帝国の裏側のドロドロを見ちまったからなぁ……きたねぇ政治のやり取りは、もうマジで勘弁」
「苦労したんだな」
「おうよ! 俺はなぁ、酒が飲めて、女とやれりゃそれでいいんだよ」
「まぁ、そうだな――けど、ウチの女たちには手を出すなよ」
「へへへ、解ってる。なにより、センセにバレないように上手くやらんとなぁ……」
アキラのグビグビが早いので、もう一本出してやる。
この世界には禁忌ともいえる爆薬だが、湖に住む化け物を退治するためにどうしても必要だ。
ファンタジーの世界らしく魔法でどうにかということも考えたのだが……。
水中では魔法が展開できないらしい。
ゴーレム魔法を使った水の操作も水面だけで、その力は水中には及ばない。
彼は、火薬の製法を知らなかったので、作りたくても作れなかったようだが。
俺も知識として硝石丘法やらを知っているが、実際に試したことはない。
そんなことをしなくても、シャングリ・ラから手に入れられるもので火薬の製造が可能だからだ。
たとえば――切り株除去などに使う薬品。
こいつも黒色火薬の原料として使用できるし、実に多種多様なアプローチがある。
元世界ならこんな研究は、あっという間に警察や公安にマークされて、デキッコナイスだが、ここには面倒な法律などは一切ない。
それは裏返せば、全てが自己責任の世界。
シャングリ・ラで読んだ電子書籍には、黒色火薬は古くなると爆薬化するものもあり大変危険だと書いてあるが――。
俺にはアイテムBOXがある。
ここに入れておけば、危険な爆薬も猛毒も、安全に保管できる。
まったく異世界様様ってやつだ。
俺は持っている能力をフルに使って、爆雷の製造の研究を続けた。
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最初はバイオディーゼル燃料を作るときにでるグリセリンを使って、ニトログリセリンを作るつもりだったが、シャングリ・ラの電子書籍を漁っていて、いいものを見つけた。
それは、キャンプなどで使う着火材を原料に濃硫酸で処理した、トリメチレントリニトロアミン――RDXやヘキソーゲン爆薬と呼ばれている代物。
有名なコンポジションC-4――俗にいうプラスチック爆弾の原料となるものである。
こいつを使って、より安価で簡単に作れるアンホ爆薬を起爆するつもりなのだが、こいつには毒性がある。
保管には、アイテムBOXを使い厳重に管理する必要がある。
試行錯誤の結果、トリメチレントリニトロアミンの合成には成功したが、このままでは威力が低いらしい。
威力をあげるためには、こいつを圧縮する必要があるという。
口で言うのは簡単だが、いったいどうすりゃいいのか。
ウランの圧縮には遠心分離器のようなものを使うとニュースで見たが、シャングリ・ラで売っているような商品で、そんな真似は不可能だろう。
これがだめなら、爆薬をニトログリセリンに路線変更をする必要がある。
――研究のあと、辺りが薄暗くなり皆で夕食。
屋敷が完成していないので、相変わらずの野外での食事。
これで慣れてしまったので、別に気にならないし、家族からも不満はまったく出ていない。
元世界のように雨が多いと困りものなのだが、この国は雨が少ない――というか、日本が降りすぎなんだよな。
テーブルの上にはLEDランプが置かれて、それを家族で囲む。
後ろには、メイドたちが交代で控えており、なにかあればすぐに対応してくれる。
まさに至れり尽くせり――プロの仕事だ。
そりゃ元々は王家のメイドなのだから、この世界でもトップレベルのメイド――ということになるだろう。
もう家で俺が料理をすることもなく、メイドたちが俺の味付けを覚えてくれて、寸分違わず同じ料理を出してくれる。
俺の手料理を食べられなくなって、アネモネは不満のようだが、味については問題がないようだ。
俺や、遊びにやってきたアキラが食べても、十二分に日本の味を再現している。
プリムラは、なるべく帰ってくるようにしているようだが、仕事が忙しくアストランティアに泊まることも多い。
一緒にアストランティアに行ってるカナンは、糸が切れた凧のように、帰ってこない。
よほどドレス作りが楽しいのか。いや楽しいことをできるのが一番いい。
プリムラの話では、カナンが作り出した新しい服やドレスは、マロウ商会を通じて国内に売り出される予定だと言う。
「プリムラ、カナンが作った服を見たかい?」
「はい、とても素晴らしいできでしたが――」
プリムラが言葉を濁す。
「なにか問題があるのかい?」
「脚が出ている服が受け入れられるのかが、疑問です」
「あ~なるほどなぁ」
この世界の女性は基本がロングワンピースで、脚を隠すってのが、たしなみになっているからなぁ。
でも、スカートが短くなるってことは、中身が見えてしまう可能性もあがるってことで、そうなると――下着の需要が高まるのではないだろうか?
アキラの相方、夜烏のレイランさん用にブラジャーを渡したのを、プリムラは知っている。
合わせて下着も革新的なオシャレとして、マロウ商会経由で広がる可能性がある。
多分、高額なものになるだろうから、最初は貴族やら大店の商人やらが、顧客になるだろうが。
マロウ商会といえば、もう一つニュースがある。
「プリムラ、伝書鳥の実験が上手くいったんだって?」
この世界に鳩はいないので、別の鳥を使っている。
「はい」
「たとえば、10羽放して、どのぐらい戻ってくる感じ?」
「5割ほどですか」
「それじゃ3羽放せば、ほぼ確実に連絡が伝わると」
「はい」
彼女の話では、王都まで500km弱を7~8時間ほどで結ぶらしい。時速70kmほど出る計算だ。
ダリアから王都は森の中を通り、道もカーブしているのだが、空を飛ぶ鳥ならそんなことは関係ない。
一直線に王都まで一飛できるってわけだ。
「よく、そんな鳥を見つけたなぁ」
「ケンイチの話を聞いてから、ずっと鳥を探し回っていましたから」
「伝書鳩の話をしたのは結構前だったと思ったけど、ずっと探していたのか」
「ええ、ケンイチの話が本当なら、他の商人たちより優位に立つことになりますから」
「そりゃそうだな」
今、そういう都市間の連絡は、獣人たちによる飛脚が使われている。
彼らの巡航速度は時速30kmほど、都市間を結ぶリレー方式の飛脚でも、ダリアから王都まで丸1日はかかる。
おまけに高額だ。
それが鳥1羽でひっくり返るのだから、これは大きな変革といえる。
確実性は、飛脚にアドバンテージがあるので、使い分ければいい。
時間がかかっても確実を要するものには、飛脚を使うとかな。
俺が使うだけなら無線機を使えばいいのだが――俺がいなくなれば、使えなくなってしまう。
俺はもう貴族であり、民を抱えた領主だ。
この世界の住民が使えるもので、役に立つものを考え出して供給しなければ、恒久的な領の繁栄に結びつかない。
俺が死んだあと、子供たちに継がせることができる領にしなくては。
――という具合に、皆が確実に結果を出しているのに、俺の爆雷は進捗状況がよろしくない。
「う~ん……」
皆と飯を食いながら、ずっとそのことを考えていたのだが、変な声が思わず口から出てしまった。
食卓に並んでいるのは、ドラゴンのカレー。
ちなみに、管虫やクラーケンの肉はまったく人気がない。
リリスやアマランサスは平気なのだが、ほかの子たちが気味悪がって、手をつけないのだ。
「どうしたのじゃ? 変な声を出して?」
真っ先に反応したのは、俺の隣に座っていたリリスだ。
「ちょっと、錬金術の研究が行き詰まっていてな」
「聖騎士様、なにが問題なのか話していただいては?」
アマランサスの言うとおりだが、果たして彼女たちに話してヒントになるものが得られるだろうか?
「う~ん、あるものをな――圧縮したいんだよ。ぎゅ~っとな」
「圧縮……」
リリスとアマランサスが、顔を見合わせてる。
なにを言われているか、ちんぷんかんぷんなのかもしれない。
「「「……」」」
「できるよ」
皆の沈黙を破り、カレーを頬張りながら声をあげたのは――俺の正面に座っていたアネモネだ。
「アネモネ、そういう魔法があるのかい?」
「それ専用の魔法はないけど、ゴーレムの魔法でできると思う」
「本当かい?」
「今試してみる?」
「今? コアは? どんなのが必要だい?」
「小さくて狭い範囲なら、コアはいらないと思う」
彼女はそう言うと、カレーに入っていた芋をスプーンで掬いあげた。
「むー!」
アネモネの精神統一とともに、芋の周りに青い光が集まってくると、変化が表れた。
スプーンの上の芋が、2周りほど小さくなったのだ。
「おおっ! こりゃ凄い! これは使えそうだぞ!」
「えへへ」
彼女の頭をなでてやりたいが、テーブルを挟んでいるので、あとでしてあげよう。
道筋が見えたと喜ぶ俺だが、爆薬作りをアネモネに手伝わせていいものなのだろうか?
非常に悩むが――ここは異世界だし、家族を守るためには少々危ない橋を渡る必要がある。
そのためには、彼女たちの協力が不可欠だ。
俺1人では、できることに限界があるからな。
この前の測量旅行でも、それを痛感したはずだ。
------◇◇◇------
――カレーを食べた次の日。
俺のコンテナハウスに作った実験室に、アネモネを入れた。
部屋の中にはテーブルと、液体を分ける魔導具。
テーブルの上には、各種試験管やらビーカーが並ぶ。その光景にアネモネが目を輝かせている。
元々、こういうものが好きなのかもしれない。
彼女の母親も高名な魔導師だったらしいし、この世界でいう錬金術に興味を持ってもおかしくない。
誰も入れていない部屋に、自分だけ招かれてアネモネは嬉しそうだ。
「これは、なにを作っているの?」
「魔力を使わなくても爆発する薬だよ」
「爆裂魔法とかじゃなくて?」
「そう、今までは、アネモネの魔法を使って起爆させていたけど、これを使えば魔力を持っていない人でも、爆裂魔法と同じ力を持つことができる」
「ふわぁぁ」
アネモネの目が輝く。
マッドサイエンティスト的な才能もあるのかもしれない。
「広まったらとんでもないことになるから、絶対に人に言っちゃダメだよ?」
「ケンイチと私の秘密?」
「そう、2人の秘密だ」
「リリスも知らない?」
「知らない。彼女はこれを魔法だと思っているからな」
それを聞いたアネモネはニコニコ顔だ。
俺と2人で秘密を共有できて嬉しいのだろう。
それに秘密を教えたってことは、信頼をおいている証ってことにもなるしな。
それはさておき――肝心の実験だ。
これが上手くいかなければ、路線変更をする必要に迫られる。
俺は、アイテムBOXから、合成した白い結晶を取り出した。
「これだ。こいつを圧縮してもらいたい」
カレーの芋も圧縮できたのだから、大丈夫だと思うが……はたして。
「わかった――むー!」
彼女の魔法とともに、青い光が白い結晶を圧縮していく。
数十秒で結晶は、直径1cmほどの白い玉となった。
「おおっ! やった!」
「上手くできた?」
「上等だよ!」
アネモネの頭をなでると、彼女が手を差し出してくる。
「ぎゅっとして」
彼女を抱き寄せて、頬摺りをする。
「もう、アネモネは甘えたさんだなぁ」
「甘えてないもん。上手くできたから、ご褒美だもん」
「そうだよなぁ」
意地を張っていても、まだまだ子供で甘えたい盛りだ。
けど、そろそろ反抗期に入りそうなんだがなぁ。
本当の親じゃないからなぁ――そういうのはないのだろうか?
う~ん。
「なにか、私の悪口考えてる?」
「そんなことはないよ。アネモネはいい子だなぁ――と思ってさ」
「嘘!」
「嘘じゃありません~。俺のやることを手伝ってくれるし、みんなだって助けてくれただろ?」
「……」
アネモネを抱き寄せるが、難しい年頃だ。
子供なんていなかったのに、いきなり子持ちになったので、正直どうしていいか解らん。
一番近い立場なのは、マロウさんかなぁ。でもプリムラは反抗期とか、なさそうだった感じだし……。
今度聞いてみよう。
なにはともあれ、爆薬の結晶の圧縮ができたので、早速起爆実験だ。
圧縮の方法が見つからなくて、先に起爆装置などを作っていたので、こちらは準備万端。
いつでも、どんとこいだ。
集落から遠く離れた湖の砂浜に、爆薬を埋めて起爆装置を取り付ける。
とりあえず長いコードを引っ張って有線起爆だ。
シャングリ・ラで買った10m――1100円の家庭用の延長コードを流用して、5本連結する。
こいつにバッテリーをつないで起爆するわけだ。
起爆は電気雷管だが、こいつはシャングリ・ラには売ってないので、自作した。
黒色火薬をアネモネの魔法で目一杯乾燥圧縮したものに、白金の電極を刺してある。
こいつで爆轟を起こしRDXを起爆するわけだ。
異世界でこんなものを作るなんて思ってもみなかったが、なせばなる。
シャングリ・ラには、その手の電子書籍も揃っているしな。
準備をしていると、アキラがプ○ドで様子を見に来た。彼なら見せても問題ないだろう。
「オッス! これが新しい爆薬か?」
「オッスオッス! これは、トリメチレントリニトロアミンだ」
「鳥? なんだ?」
「FPSとかに出てくるだろ? C-4ってやつだ」
「C-4って――プラスチック爆弾ってやつか?」
「その元な。化学実験で作った」
「ケンイチ――恐ろしい子!」
彼もゲームやアニメネタは多少は知っている。最近の新しいものを知らないのはお互いさまだ。
「フヒヒサーセン!」
冗談を言いつつ結晶を砂浜に埋めて、起爆装置を接続する。
ヘキソーゲン爆薬は、ショックを与えても爆発しないし、火を点けたりしても普通に燃えるだけ。
アキラのアイテムBOXに車を収納させて、皆で地面に伏せる。
目の前には、ポリカーボネートの盾を置く。
「この透明なプラ盾も、魔法で作ったのか? 機動隊とかが持ってるやつだろ?」
「そう、こいつは重宝してるぜ? 持っていくか?」
「後で2枚ほどくれ」
「はいよ~」
準備完了。
「ほんじゃいくぞ~」
「おう」
オッサン2人と、少女が伏せている姿は、傍からみたらシュールに違いない。
「起爆!」
俺はスイッチを入れた。
50m先の砂浜が小爆発を起こし、砂煙を上げて大音響が轟く。
「おお~っ! すげぇ! 爆裂魔法とは、やっぱり違うな。魔法はぼわ~ん! って感じだけど、これは、ボヒューン! って感じ」
アキラの感想が、テキトーだけど的確だ。
「上手くいった――よし! 次だな」
こいつを使ってアンホ爆薬を起爆できないと、他の方法を考えるしかなくなる。
いつも使っている圧力鍋爆弾に、今回作った結晶を埋め込んで、起爆装置をセットする。
雷管が爆発し、次にRDXが爆発して、最後にアンホ爆薬が爆発する三段スライド爆発だ。
アイテムBOXからユ○ボを取り出して、鍋を砂浜に埋めた。
「これが本番か?」
アキラが、ユ○ボの運転席に掴まり、一緒にぐるぐると回っている。
「そうだな、これで上手くいけば、魔法を使わないでも起爆できるようになる」
「地雷にも使えるな」
「使いたくはないがな」
ユ○ボを収納したのだが、俺とアキラの会話をアネモネが聞いていた。
「……私は、いらなくなっちゃう?」
一緒にいるアネモネが、悲しそうな顔をする。
「そんなことないさ。戦闘中の即応性なら、魔法での起爆のほうがより実戦的だ。これからも頼むよ」
アネモネの頭をなでる。
「うん」
準備完了したので、こんどはポリカボネートの盾を2枚にして、地面に伏せる。
「おお! なんかどきどきわくわくだな」
「爆発は男のロマンだからな」
「ああ、ケーキに入ってるやつやろ! そりゃ、マロンや!」
アキラの1人ボケ1人ツッコミが炸裂する。
「そんなことよりいいか」
「いいぜ」
「大丈夫」
アネモネが耳を塞ぐ。
「よし、起爆!」
スイッチを入れると砂浜が盛り上がり、黒い湿った砂が、爆音とともに辺り一面に飛び散る。
降ってきた砂や小石が、バラバラとポリカーボネートの盾に当たって音を出す。
爆発で開いた大穴に、湖の水が勢いよく流れ込み、コーヒー牛乳色に染まった。
「おお~っ! やったな。これで実戦に投入できるのか?」
「爆弾としては使えるのは解ったが、これを水中用の爆雷に改造して――兵器として使うために、色々と前もって調べることもある」
「なにを調べるんだ?」
「そうだな――沈降速度を測る実験が必要だが、それはドラム缶に砂を入れて同じ重さのものを作って沈めれば解る――かな?」
「おっしゃ、さっそくそれをやろうぜ」
「う~ん、そうだな」
アイテムBOXから、爆雷に使用する予定の小型のドラム缶を出して、砂を詰める。
こいつを湖に沈めればいい。
俺たちは、湖に先日買った漁船を浮かべて爆雷の沈降実験をすることにした。
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