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151話 測量が終わる


 巨大な湖の周りを測量するために、家族と一緒に冒険中。

 難関である北側――延々と崖が続き岸がない地点で測量をしていた最中に発見した洞窟。

 そこは管虫の住処だった。親玉である巨大管虫を撃破すると、俺は船外機をつけたゴムボートに乗り、1人で偵察に出かけた。

 最初に俺が、足の速いゴムボートで偵察してから、測量の計画を建てる作戦だ。

 なんだ――最初からこうすれば、家族を危ない目に遭わせなくてもすんだんじゃね?

 俺の心は少々暗くなった。

 曇りなき目で俺についてきてくれる家族を危ない目に遭わせすぎじゃないだろうか?

 悩む俺だが、彼女たちが言うことを聞いてくれないのも事実。

 いや、冒険は俺の力だけじゃ無理に決まっている。

 俺には彼女たちの力が必要なのだ。


 来た道――いや道じゃないが、水の上を進み、皆が待っている洞窟へ戻る。

 合計2時間の偵察だ。

 アイテムBOXからLED投光器を出して暗い洞窟を進むと、奥の砂浜に明かりが見えてきた。


「おお~い、戻ったぞ!」

「旦那!」「にゃー!」

 まるで太古の昔、洞窟に住んでいた原人が住処に帰ってきたような感覚に襲われる。

 洞窟内に反響する船外機を停止させると、ゆっくりとゴムボートを岸に寄せた。


「「ケンイチ!」」

 俺のところに、アネモネとリリスが走ってきて、抱きつく。


「そなたがいないのが、こんなに寂しいとは!」

「なんだよリリス。いい歳をして」

 彼女の頭をなでてやる。暗闇からベルが現れて、俺の脚にスリスリを始めた。


「はは、大人気だな」

 猫を留守番させて、帰ってくるとこんな感じなんだよな。


「それで旦那。どうだったんだい?」「にゃ?」

「ああ、あと2日で、岸にたどり着ける。途中で、狭いながらも岸を見つけたので、そこに泊まろうと思う」

「ほう、なるほどの」

「いやぁすまんな。最初に俺が偵察に出てから予定を立てていれば、皆を危ない目に遭わせることもなかったんだが」

「そんなことないから!」

 俺の言葉にアネモネが叫び、それにリリスが続く。


「そうじゃのう、その偵察とやらでケンイチになにかあれば、我らが助けられぬではないか」

「そうだよ、旦那! お姫様の言うとおりだぜ?!」「そうだにゃ!」

「皆、ありがとうな」

 こんなオッサンについてきてくれるなんて、涙がちょちょぎれるだろう。

 さて感傷に浸っている場合ではない、早速出発しなければ。

 コンテナハウスを収納すると、アネモネとリリスに救命胴衣を着せてゴムボートに乗せる。

 相変わらず、獣人たちは救命胴衣を着てくれない。

 ベルにもまた救命胴衣を着せた。彼女は嫌な顔をしつつ、俺に従っている。

 泳げないわけではないが、あまり泳ぎたくはないのだろう。

 ゴムボートは一つ余分に出していたので、そいつも収納だ。


 洞窟に入ってくるときは大変だが、出るときは簡単。

 出口が白く光っているので、そいつを目掛けて進めばいい。

 獣人たちには俺のゴムボートに掴まらせて、船外機のパワーで進む。


「旦那、その魔道具は便利だな」

「もっと大きな物を作れば、この巨大な湖も1時間ぐらいで横断できるだろう」

「へぇ~そいつはすげえや」

「でも、湖の真ん中にゃ、あいつがいるにゃ」

「ああ、多分な……」

 ミャレーが言うあいつってのは、クラーケンのことだ。

 あれが一匹だけなのか、複数いるのかは不明だが、この湖を経済的に使おうとするなら、退治する必要があるかもしれないな。


「じゃが、上手く退治できれば、他の場所にも村などができるやもしれぬ」

「そうなんだよ。もしかしてエルフたちも、交易に来てくれるかもしれないし」

「エルフと定期的に交易できる村や商人なぞ、聞いたことがないぞぇ?」

「そうだよ、旦那。あのへそ曲がり共と商売なんてさぁ」「にゃ」

「まぁ上手くいけばの話だ」

 話をしている間に、洞窟を出て――俺たちは陽の光の下へ。


「眩しいのう!」

「眩しい!」

「ふぁぁ! やっとお天道様の下へ出られたぜ」「にゃ~!」

「そういえば、お前たちの目も、ずっと黒目だったしな」

「あんな暗い場所じゃしょうがないよ」「にゃ」

 今、獣人たちの目は縦長で、普通の猫の目のようになっている。


「ケンイチ、なんで獣人たちの目は縦長なの?」

「ああ、彼らは光を多く目に取り込むことができるんだ。だから暗闇でも目が見える」

「なるほどのう。そのため陽の光の下では、明るすぎるので、閉じておるわけじゃな?」

「そのとおり、黒目をほとんど閉じるぐらいにしないと、眩しすぎるんだよ」

「旦那ぁ、それも俺たちのことをバラして調べたのかい?」「にゅ~?」

「俺が解剖して調べたわけじゃないよ。人がやったのを俺が教わっただけで」

「でも、やったやつがいるんだろ?」

「まぁ、そうだな」

 獣人たちが、俺の話を聞いてビビりまくっている。

 どうやら、この手の話は獣人たちには禁忌のようだ。

 アネモネに聞かれても、獣人たちのいない場所で話さないとダメだな。


 再び、湖の上での測量が始まった。

 レーザーで距離を測り、方角と一緒に地図に書き込んでいく――実に単調な作業だが致し方ない。

 暇なアネモネとリリスは、タブレットの書籍を読んで時間を潰す。

 そのまま測量も順調に進み、昼過ぎにはコンテナハウスを置ける、小さな砂浜へやって来た。

 獣人たちから、トランシーバーで連絡が入る。


『ケンイチが言ってた、小さな砂浜があるにゃ』

「お~、そこで飯にしようぜ」

『解ったにゃ』

 測量を一旦中止すると、砂浜にゴムボートをつけ、皆で砂浜に座る。

 場所がないので、簡単にインスタントもので済ませようと思ったのだが、獣人たちは他のものが食べたいようだ。


「旦那、アイテムBOXに、魚がまだ入っているだろ?」

「ああ、でも捌いてないぞ?」

「俺らがやるよ」

 アイテムBOXの中に入っていた、虹マスを2匹出してやると、彼女たちは魚を捌いて料理を始めた。

 焼きたいらしいので、アイテムBOXから薪も取り出して、浜に積む。


「こんなことができるのもケンイチのアイテムBOXがあるからじゃの」

「そのとおりにゃ!」

 獣人たちは火を起こし、捌いたマスを焼き始めた。

 塩と香辛料で食べるらしい。

 俺はやっぱり醤油だなぁ――多分、アキラもそうだろう。


「リリスも食べたいなら、魚を出すけど」

「いや、止めておくわぇ。昼に食いすぎると眠くなるのじゃ」

「寝てもいいが……」

「ケンイチの料理があまりに美味すぎて、自分でも食い過ぎだと思うておるので、少し自重じゃ」

 リリス自身も、食い過ぎって自覚はあったのね。


「ケンイチ、今日はここで泊まるにゃ?」

「そのつもりだ。このままもうちょっと先まで測量したら、ここまで戻ってきて部屋を出す」

「解った!」

 別にここで待っててもいいんだが、ついてくるって言うだろうし。

 まぁ、なにが出るか解らんしな。


 昼飯を食い終わったので、再び測量に出かける。

 空はいい天気で、湖面は鏡のように滑らか。

 それから2時間程、先まで測量して1時間かけて戻ってくると、小さい砂浜が俺たちを迎えてくれた。

 時間は午後3時頃。

 ゴムボートを砂浜に近づける。


「さて、部屋を出すか――」

 アイテムBOXからコンテナハウスを出すと、砂浜が斜面になっているために、斜めになる。

 これは、前に確認したとおりだ。ここは狭すぎて、ユ○ボも出せない。


「ケンイチ! お部屋をしまって、ゴーレムのコアを出して!」

「おっ! なにか思いついたのか?」

 俺の言葉に、アネモネがフンス! と気合を入れている。

 彼女の言うとおりに、コンテナハウスを一旦アイテムBOXに収納して、ゴーレムのコアを出してやった。


「む~!」

 彼女の集中とともに青い光が湧き出て、砂浜の砂がコアに集まり再び離れる。

 それを何回か繰り返したあと、砂浜が均されて平らになった。


「おおっ! ゴーレムにこういう使い方があったとは……凄いぞ! アネモネ」

 彼女の頭をなでてやる。

 

「えへ――多分、もっと違う使い方もできるよ。試していい?」

「ああ、もちろん。なにをするんだい?」

 彼女の指示でゴーレムのコアを水に浮かべた。


「む~!」

 彼女の魔法が発動。

 コアが動いて俺たちのゴムボートの下へ潜り込むと、皆を乗せたまま水面を動き始めた。

 これはゴムボートが動いているのではなくて、水そのものが動いているのだ。

 それに、かなりのスピードが出ている。これなら俺が買った船外機より速い。

 素晴らしい水上航行能力だとはいえ、彼女の魔法が頼りだ。

 連続で1時間~2時間使えるかどうかだが、緊急時には、皆のボートをまとめて運ぶことも可能だろう。


 アネモネの魔法によって、湖面をぐるりと回って、俺たちは元の場所へ戻ってきた。


「凄いぞ! アネモネ、こんな方法を思いつくなんて!」

「なんにゃ! それって、アネモネの魔法で動いたのきゃ?」

「そうだよ」

「いやぁ、アネ嬢もドンドン凄い魔導師になっちまうねぇ。これじゃ王都の大魔導師様でもかなわないんじゃね?」

「確かにのぅ……こんなゴーレムの使い方など聞いたこともないわぇ」

「アネモネは、こんな方法を自分で気づいたのかい?」

 俺の言葉に彼女が首を振った。


「ううん、お城でアキラさんが、ゴーレム魔法の応用で、油を撒いたって言ってたでしょ?」

「ああ、確かにな。油を動かせるなら、水だって動かせるはずだ」

 ゴーレムで水を動かして、それにゴムボートを乗せて動かしたわけだ。

 理論上は、もっと大きな船でも動かせるだろう。


「それに単純に動かすだけなら、術者がいなくても魔力の供給さえあればできるかもな。今度、カールドンさんに会ったら、聞いてみよう」

 これは内燃機関などがなくても、この世界の画期的な移動手段になるかもしれない。


「そなた目が輝いているの?」

「そりゃそうだ。もしかしたら、この世界がひっくり返るかもしれない」

「そんなに凄い?」

 アネモネも目をキラキラさせて聞いてくる。


「凄い凄い!」

「そんなに凄いなら、チューして」

「ほら! チュー」

 彼女を抱き寄せて、軽く唇を重ねる。


「ぬぐぐ! ケンイチ! 妾にもチューじゃ!」

「だって、リリスはなにもしてないでしょ?」

 アネモネが俺の身体を押してリリスとの間に入ると、光る金髪に背中を向ける。


「ぐぬぬ!」

 まさに正論。リリスがぐぬぬ状態のまま固まっているが、少々なだめたあと、砂浜にコンテナハウスを出した。

 今日はここが寝床になるが、砂浜はコンテナハウスの幅ギリギリいっぱいなので、水際に扉がある。

 これじゃ簡単に出入りもできないな。

 扉を開けて、ゴムボートから直接乗り込むことにしよう。

 まずは身の軽い獣人たちに入ってもらい、サポートをしてもらう。

 そのあと俺はゴムボートの収納だ。


「ミャレーとニャメナ、アネモネとリリスを入れてやってくれ」

「オッケーにゃ」

 ゴムボートの上から、おっかなびっくり部屋へ入ろうとしているアネモネとリリスの横を、スルりとベルが通り抜けていく。

 さすが猫は液体だ。

 俺も中に入ると、乗っていたゴムボートをアイテムBOXに収納。

 振り返り中を見ると、ベッドがグチャグチャになっていた。

 コンテナハウスを傾いた場所に出したからだ。

 皆でベッドメイキングをやっているうちに、もう4時だ。


 疲れたのでベッドに横になると、皆も真似をしてベッドに横になる。

 すると水の上じゃないのに、グラグラと揺れているような感覚に襲われる。

 これはずっと水の上で仕事をしたりして、慣れると消えるものなのだろうか?


「やはりベッドの上で休めるというのは大事じゃのう」

「そうだね」

「お姫様の言うとおりにゃ」

「まったくだぜ。こんなの旦那のアイテムBOXがなきゃ絶対に無理だ」

 さて、飯はどうしようか。外に出るのは大変だから、火は使えない。

 この中でもカセットコンロは使えるが、ここで料理はしたくないな。


「飯はなにを食う? ここじゃ料理はできないし」

「ケンイチ! 金属の筒に入ったのを食いたいにゃ!」

 金属の筒って――ネコ缶だろ?


「コレか?」

 俺は起き上がると、アイテムBOXからベル用にストックしてあったネコ缶を取り出した。

 ネコ缶を見たベルも、すぐさま反応して俺の膝に前脚を載せてきた。


「それにゃ!」

「出来合いのカレーとかもあるぞ?」

「今日はそれでいくにゃ」

「マジか……」

 まぁ彼女がそれでいいっていうなら、いいけどなぁ……。


「それじゃチ○ールもやる」

「にゃー!」

 飛び跳ねるミャレーに呆れたようにニャメナがつぶやく。


「それじゃ、俺もそれに付き合うか」

「ニャメナは別のものでもいいんだぞ?」

「まぁ……その、俺もそれは好きだからさ……」

 ニャメナがチ○ールをチラ見している。

 彼女たちのリクエストだからな。シャングリ・ラから高そうなネコ缶を色々と購入して、出してみる。


「にゃ? 色々な種類があるにゃ! こんなにあるのかにゃ?」

「へぇ~」

 獣人たちが感心しているが、原料をみると、鶏とマグロとカツオが多い。

 見た目もシーチキンだ。

 ベルにもネコ缶をあげる。


「塩味が足りないなら、調味料や香辛料も置くからな」

「にゃー!」

 コンテナハウスの中はベッドでいっぱい。

 スペースがないので、食事はベッドの上で摂らざるをえない。

 汚さないように、それぞれにベッドの上にレジャーシートを敷いて、ちゃぶ台を置く。

 シートは3000円で、ちゃぶ台は2000円だ。


「ほい、ニャメナには、エール」

「へへへ、これこれ! こんな美味いエールが飲めるってだけで、旦那についていく価値があるってもんだぜ」

「トラ公は、本当に意地汚ないにゃ~」

「てやんでぇ、クロ助だってそうだろうが!」

「実はそうにゃ、にゃはは。こんな美味しいものを色々食べられるなんて、他にはないからにゃ」

「まぁ、そのとおりだな。貴族だって、こんなものを食えっこねぇし」

 獣人たちは、ちゃぶ台の上にズラリとネコ缶を並べて楽しんでいるようだ。

 それじゃ俺たちもなにか食うか。


「俺たちはカレーでいいか?」

「うん」

「構わぬが……作り置きがあるのかぇ?」

「ちょっと違うんだが……」

 簡単にパウチのインスタントにしよう。

 せっかく食うのだから、変わったカレーにしようと、シャングリ・ラを検索する。

 目に止まったのは、世界ご当地カレー15種類セットで4000円。

 世界ご当地って書いてはあるが、普通のビーフカレーや、チキンカレーもある。


「これにしよう、ポチっとな」

 ベッドの上に、インスタントカレーの箱が15個落ちてきた。

 銀色のパウチを箱から出して、アネモネに温めてもらう。


温め(ウォーム)!」

 洗い物も出来ないので、紙皿で食おう。

 ちょうど紙のカレー皿が売っている。50枚で1200円だ。


「よし!」

 ああ、スプーンも買わないとな。使い捨てスプーンの定番といえばプラスプーンだが、シャングリ・ラを見ると、木製のものも売っている。

 プラ製品は環境に悪いとかなんとか言われていたが、こういうものも売っているのか。

 100本で1000円と安い。


「最後に飯だな」

 パックご飯を買う。アネモネが1つ、俺が2つ、リリスが3つの合計6個だな。

 シャングリ・ラで購入すると、パックご飯が落ちてくる。


「アネモネ、コレも温めを頼む」

「うん」

 アネモネが温めをしていると、リリスが紙皿を眺めている。


「なんと、紙の皿とは……」

「これは使い捨てなんだよ」

「な、なんだと! 紙を使い捨て!?」

 まぁ、この世界で紙って結構高価だからなぁ。リリスの反応も当然と言える。

 それぞれの紙皿にご飯を盛って、その上からカレーをかけて食う。

 いつもと違い、あまりとろみのない黄色っぽいカレーだ。


「おおっ! これは、いつも食べているものと風味が違うの! 香辛料の香りが鮮烈じゃ!」

「うん! これも美味しいね」

 俺も一口食べてみる。

 いつも作っているカレーは、マイルドな味なのだが、これは香辛料の香りが明確に自己主張しているな。

 東京にいたときに、スリランカカレーの店に何軒か入ったが、こんな味だったな。

 リリスのご飯はパック3つ分の大盛りなので、途中でルーがなくなってしまった。

 新しいルーをかけてやる。


「ふぉ! これはまた違う味じゃの! なんという奥の深い料理よのぉ!」

 俺たちの食事を見ていた、ニャメナがそろりとやってきた。


「あの……旦那ぁ……」

「解った、お前達も食べたいんだろ?」

 紙皿にカレーを盛ってやる。パックにはマレーシアカレーとか、インドネシアカレーって書いてあるんだが、どんな味なのか?

 カレーの入った紙皿を受け取ったニャメナが、ネコ缶の中にカレーを入れた。


「おおっ! クロ助、この中にカレーを入れてみろ! うめぇぞ!」

「ウチもやってみるにゃ!」

 まぁ、シーチキンカレーはあるからな。あれと同じ味だと思うが。


「このカレーは、いつもより香辛料がきつめだな」

「でも、美味いにゃ~! ヤバイにゃ~こんなの食べたら戻れなくなるにゃ~」

「なに言ってんだよ、とっくに戻れねぇっての。こんなの知っちまったら、街の料理なんて食えねぇっていつも言ってるだろ」

 マレーシアとインドネシアの感想は聞けなかったが、とりあえず美味いらしい。

 皆で腹いっぱいになったので、ベッドの上のレジャーシートとちゃぶ台を片付けてから、寝転がる。

 ニャメナは、ほろ酔いになっているようで、俺の所にやってきた。


「旦那ぁ、明日には岸に辿りつくのかい?」

「ああ、間違いないな」

 俺に抱きついてきたので、ニャメナの顎を撫でると、ゴロゴロと大きな音を立てる。


「ふわぁ~やっと、船の上から逃れられるよ」

 ニャメナの背中をなでながら話す。

 行動的な獣人たちには、さぞかし狭い空間なんだろうな。

 そこにベルもやってきてすりすりを始めたので、一緒になでてやる。

 彼女も狩りができなくて退屈だろう。

 ずっとゴムボートの上で、丸くなっているだけだからな。


 おそらく水の上で最後の夜になるだろう、ベッドの上で皆と一緒に寝た。


 ------◇◇◇------


 ――小さな砂浜の上で、次の朝。

 起きて外を見ると、白い霧がかかっている。


「おわぁ、こりゃ霧が晴れるまで出発できんなぁ」

 まぁ朝飯を食っているうちに、日が高くなれば晴れるだろう。

 皆が起きてきたので、湖の水を汲んで顔を洗う。

 大変なのはトイレ。

 いちいちゴムボートを出して、玄関から乗り込み、砂浜の隅まで行ってしないといけない。

 男なら立ちションで簡単なんだけどね。


「ケンイチ、面倒だからあれにする。出して」

 アネモネは、俺からもらった尿瓶にし始めた――メンタルが強すぎる。

 それを見た獣人たちも、笑いながらそれを見習ったのだが、リリスは王族だ。

 やはり抵抗があるのだろう。

 俺がゴムボートに乗せて砂浜の隅まで行き、穴を掘ってやった。

 彼女のお花摘みが終わるまで、後ろを向いている。


「ごめんな――王族にこんなことをさせて」

「このようなこともあるのも当然じゃ。覚悟ができていなかった妾が悪い。それに戦になれば、糞尿を垂れ流しながら戦うこともあるそうじゃ」

「そりゃなぁ小便したいから待ってくれ! といっても、敵は待ってくれないからな……」

「それに我らは夫婦じゃ。地獄まで一緒なら、このぐらいはどうということはない」

「別に地獄までついてくることないだろう」

「ふ、ケンイチらしいのう。そこは『地獄までついてくるがよい!』とは言えんのか?」

「あ~、無理だなぁ~俺の性分からして」


 部屋に戻ると――皆でグラノーラを食べて、霧が晴れるのを待っていたのだが、

 意外と霧は晴れず。視界が開けたときには、かなり日が高くなっていた。

 青空の下、皆でゴムボートに乗り込むと、コンテナハウスを収納。

 再び、水に揺られての測量を開始した。

 もうすぐ岸が見えるというので、獣人たちも張り切っている。

 岸があるのはドローンで確認済みなので、間違いない。


 ――そのまま測量を続け、その日の3時頃、砂浜が見えてきた。


「やったぜぇ! やっと岸だ!」「にゃー!」

 先に到着した獣人たちが、岸にボートを乗り上げると、はしゃぎまくってバク転をしている。

 ついで俺たちも岸に到着したが、最後の最後は、アネモネのゴーレム魔法で運んでもらった。


「やっと難所を乗り越えたな。アネモネありがとう」

「私も早く岸上がりたかったし」

「やれやれ、やっとこれで、地に足がつけられるのぉ……地面がこんなに恋しいものだったとは」

「俺の国にあった物語の言葉に――人は地から足を離しては生きられない――というのがあったなぁ」

 リリスじゃないが、やっぱり地面が恋しいのは間違いない。


 上陸地点で一泊したあと、順調に測量を進め、3日後にはサクラの周辺へ。

 湖の東側はずっと砂浜が続き、なんのトラブルもなく、サクサクと測量は完了した。

 最後の測量地点を地図に書き込むと、獣人たちをラ○クルに乗せて、サクラへ向かう。

 そのまま家の前まで帰ってきた。


 ――およそ2週間の旅路、途中に危険なこともあったが、なんとか家まで帰ってこれた。

 これも皆のおかげだ。



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