15話 小さくあれど一国一城の主
素敵なログハウス風の小屋があったから、買ってみたら組み立てキットだった。
何を言ってるのか解らねぇと思うが――いや、道理で安いはずだよ。こんな立派な小屋が170万円って、マジで安いと思ったもん。
しかし、どうしようコレ?
確かに、ログハウスを建てようと色々と調べてみた事があったけどさぁ……。
これ、棟上げとかどうするの? 俺1人じゃ無理だろ。
「はぁ……」
思わずため息をついて、その場にへたり込んだ。だが冷静に考えてみると――そういえば重機があるんだ、梁の1本や2本どうって事ねぇ。
バケットに吊るして持ち上げれば良い。
なにはともあれ、組み立て説明書を読んでみるか。
「う~ん……」
説明書を読んでみた。
なるほど、構造は普通のログハウスと一緒だな。積み上げた板で壁を作り、それで屋根を支える。だから太い柱は無い。
壁の板も本格的なログハウスのような丸太ではなくて普通の板だ。
普通の家は外壁があって部屋の中には内壁があるが、これは板1枚で外だ。
要は、デカい板を立てて壁が作れないから、細い板を並べて大きい板を作っていく。
梁も他の構造も板の集合体で、太い材料は一切使ってない。これなら、なんとか1人で組み立てが出来るかもしれない。
「ここまで来たんだ、やるしかないだろう。もう買っちゃったし……」
もう一度、説明書を読むと作業に取り掛かった。
先ずは材料を確認する。
「あ~! 窓ガラス割れてるじゃん!」
一緒に降ってきた窓枠に、当然ガラスが嵌っているのだが、その一枚が割れている。
だが幸い、割れたのは3つの窓枠の内の一つだ。田の字になっている窓ガラスの右下が割れている。
なんだよ~くそ。責任者出てこ~い! 当然、誰も出てこないし、これだけ返品もきかない。
大体、サイトに返品の項目が見当たらないのだ。異世界までサービスして送ってやっているんだから、そのぐらいは何とかしろと言うことか。
サービスが良いんだか、悪いんだか解らねぇな。
やむを得ず修理することにしたのだが、窓用の薄い板ガラス単体ってのがシャングリ・ラで見つからない。
板ガラスはあるのだが、棚等に使う分厚い強化ガラスが多いようだ。
「う~ん」
板ガラスは無いが、アクリル板ならあるな――この際アクリル板でいいか。1000円でアクリル板を買って、窓枠に合わせてカッターで切る。
ガラスはゴム枠を使って嵌めこまれているタイプだ。ちなみに俺が田舎で住んでいたボロ屋は昔ながらの木枠留め。
1㎝ぐらいの小さな釘を使って木枠を固定する。今どきあんなのは売ってない。
確かガラス釘とか言ってたような――そのガラス釘をシャングリ・ラで検索しても出てこないが、今どき需要が無いのだろう。
実家にはガラス釘を打つ専用の小さなトンカチまであったし、よくガラスが割れたりしたのでガラス切りもあったな。
ガラス切りの先端はダイヤモンドなんだぜ ――オヤジのウンチク話に、目を光らせたガキの頃を思い出す。
そういえば、ガラスにヒビがはいってテープを貼っている家も見かけなくなった。
いや、そんな郷愁に浸っている場合ではない。
窓の修理が終わったので、地面にコンクリ製の束石を並べて、その上に小屋の底辺になる材木を四角に並べる――この上に壁が乗るわけだ。
束石は1辺に10個。底辺の材木との間に隙間が無いように高さを調節しなければならない。
シャングリ・ラで水平器も買って、水平出しもきちんとする。
そして、板を積んでいく。材料には、切れ込みが入っており、そこを組み合わせるようにして、上へ上へとドンドン積んでいく。
高い所へ載せるのが少々苦労したが――先ずは脚立を3つ並べる。 その上に、パワーショベルを使って複数枚を束ねた板を持ち上げ―― 一旦載せる。
それから、壁を作る作業を続けた。
壁板は載せるだけなので釘は必要ない。だが隙間が空いている場所があるので、コーキング剤等は必要になるだろう。
板には小さく番号が振ってあり、組み立て説明書の通りに組み立てていけば、間違える事はない。
――市場に露店を出しつつ、この作業で1週間が過ぎた。
次は床だ――。
板を縦にして格子状に組んだ物を床に入れていく。ここら辺から徐々に問題が出始めた。材料の微調整が必要なのだ。
例えば、少々長くて入らなかったりするものがある。これを処理するために、切断機と丸のこを購入。
当然、工具を動かすために電気が必要なので、ディーゼル発電機を出しっぱなしにしている。こいつが、こんなに活躍するとは思わなかったな。
床に格子が嵌ったら、その上に合板を載せていく。そして、さらにその上に格子を組んで、格子の間に断熱材を入れる。
その上に、床板を張れば、床の完成だ。
壁は単構造だが、床はこのように二重構造になっている。実際、こんな感じにしないと、床からの冷気が結構上がってくるからだと思われる。
この世界は、それほど寒くはならないようなので、これでも大丈夫だろう。
この作業中、途中で釘を打つのが面倒になったので、ネイルガンを購入した。ネイルガンは3000円ぐらいで、釘は2000本入って1000円だ――安い。
しかし、ネイルガンを使うにはエアが必要だ。ネイルガンには、それに対応した高圧コンプレッサーが必要なので10万円で購入。
だが、せっかく買ったが――ネイルガンぐらいにしか使い道が思い浮かばない。
まぁ、アイテムBOXへ入れておけば、困ることは無いからな。
これだけ工具を買ったら普通は小屋の中が一杯になってしまうのだが、アイテムBOXのおかげで困ることは無い。
――床の仕上げまでやって、さらに1週間程経過。
今度は屋根だ――。
板を組み合わせた棟木を屋根の中心――屋根の一番高い所へ横に固定。そこから、板を縦にした垂木をスダレのように垂らす。
それが完成したら、その上に合板を貼っていく。そして板が張り終わったら黒い防水シートを被せて止める。
シート貼りにはタッカーというホチキスのデカい奴を使う。手でハンドルを握ると、ホチキスのような針がダンダンと打ち込まれるのだ。
値段は1500円ぐらいで安いが――これをニギニギしていたら、あっという間に手が疲れてしまって放り投げた。
こんな事をやってられるか――と、タッカーで検索すると、バッテリータッカーとかいう素晴らしいアイテムが売ってるじゃないか。これを6000円で購入。
「めちゃ、楽!」
引き金のボタンを押すだけで、ドンドン針が打ち込める。こりゃ捗るわぁ。
しかし、せっかく買ったが、この作業が終わったら他に使い道が無さそうだ。これもアイテムBOXの肥やしになるに違いない。
屋根の最後の仕上げに屋根板を貼る。
板同士が重なるように貼る、鎧張りをしていくが――等間隔に綺麗に貼るのは中々に難しい……。
一応、絵描きを職業としている身としては、ブサイクなのは我慢出来ないので、少々頭を捻る。
屋根の両側と上部に、等間隔になるように調整した屋根板を仮止めして横に糸を張ることにした。この糸をガイドに使っていけば、等間隔に綺麗に貼れるだろう。
早速、貼る。ドンドン貼る。ここでも、ネイルガンが大活躍だ。こんなのトンカチを持って叩いていたら、いつ終わるか解らん。
プロの大工なら口から釘を出して、リズミカルに打ち込んでいくのだろうが、そんな真似を素人の俺に出来るはずもない。
大体、釘って真っ直ぐに打つのは難しいんだよ。曲がったりしたら釘抜きを使って抜かないとダメだし。
そんな事をするぐらいなら、ネイルガンの方が便利だ。
屋根板が貼り終わったら、最後に屋根のてっぺんにカバーを取り付けて、完成だ。
このカバーの名称は不明だが、組み立て説明書では、ただの板を三角形に合わせた物。
俺は少々追加加工する事にした。防水シートを貼って、その上にさらに板を貼ったのだ。これで完璧だろう。
ここら辺は日本みたいに長雨が続く事もないようだし、これで問題は起きないはずだ。
都合1ヶ月程掛かったが――素人の俺でも、なんとか家の形を完成させることが出来た。
まぁ、素人と言っても田舎でDIYしてたから、工具は殆ど使った事があるし工作事も経験済みだ。
だが、こんなデカい物を組みたてたのは初めてだ。やっている事は本棚等を組み立てているのと然程変わらないのだが……。
出来上がった家を見ていると、もっとデカ物でも自分で建てられそうな気がしてきて、気分が大きくなる。
完成したのは正方形の敷地に建つ、ログハウス調の立派な小屋。だが小屋というよりは家だ。
敷地は正方形だが、建物の一角が欠けた構造。そして、その部分には玄関が付いており、その前がデッキになっている。
形は完成したが――やることは、まだまだ残っている。デッキには板を貼らないとダメだし、窓枠も取り付けないといけない。
そうだ、デッキには手すりも必要だろう。だがその前に、壁や屋根に塗料を塗る必要があるな。
デッキと玄関は結構高い場所にあるので、そこへ上がるための階段も必要だ。
手抜きの階段なら簡単にすぐに作れる。シャングリ・ラから、コンクリートブロックを買って積み重ねれば良い。
しかし、見た目に情緒もくそもないな。暇を見て分厚い板とかで作り直そう。
さて、今後の作業の優先順を決めよう――やっぱり先ずは窓枠だな。
部屋の中に入れておいた窓枠を壁に嵌める。場所は3カ所だが、アルミサッシではなくて木枠の窓である。
窓枠には、昔懐かしいねじ込み式の鍵が付いているが、こんな窓に立派な鍵をつけても壊されて終了なのだから、簡素な物で良いのだろう。
玄関に扉を付ける。建てたのはログハウス調の小屋だが、窓と扉を付けると、一気に家らしくなった。
別荘地や観光地にコテージとか言って小さな建物が置いてあるが、モロにそんな感じだな。これが170万円なら安い。
勿論、こういうのは手間賃が高いのであって、これを大工に頼んだら工賃が500万円ぐらい掛かるに違いない。
実家でトタンで作った小さな小屋を建てたが、その時の工賃200万円とか言っていたからな。
コンクリブロックで作った階段を上り部屋の中に入ると、中は12畳の空きスペース。がらんどうな部屋には当然、何も無い。
台所も無いし、便所も無く、タダの箱だ。だが、シンクを取り付けて台所を作る事も可能だろう。どんな仕様も自分の思い通りだ。
今日から、この中で寝泊まりする事にしよう。その前に殺風景な床を何とかするための、フローリングを貼る。
そのための簡単なフローリング材がシャングリ・ラには売っている。ぱっと見、黒檀にも見える黒い床だが、シール状になっている樹脂製だ。
保護シートを剥がして、シールを貼るように床にペタペタと貼っていけば、あっという間になんちゃってフローリングの完成だ。
そこに安い絨毯を敷いて、その上にベッドを置く。
ベッドは色々と迷ったが、【天然スノコベッド】というのを1万6千円で購入してみた。
そして、マットレスが5000円、敷き布団が6000円、そして羽毛布団が1万円だ。
早速、出来たてのベッドへ飛び込む。
「おお~っ、フカフカだぜぇ」
寝転がって天井を見る。当然、天井板は無いので梁が剥き出しだ。
勿論、天井板を貼れば天井だって作れるし、内壁も貼って壁紙を貼れば、元世界風の住宅にもする事が可能だ。
だが、この方がスローライフっぽいので、このまま行く事にした。
「そうだ、灯りが無いな……」
とりあえず、ガソリンランタンを梁に取り付けて灯してみる。ランプの光に照らされる木材の色が、いい感じだ……。
でも、電気を使うとなると配線工事をしないとダメだな。電気はどうしようか?
あのディーゼル発電機は煩いので、もっと静かなタイプに交換するとしても、ガソリン代や灯油代が掛かるな……。
川に水車を作り発電機を設置して、バッテリーを充電するのが良さげな感じがするが――絶対に盗まれるな。
ここで、太陽発電パネルや風力発電機を使ってバッテリーチャージ出来るかな?
昼になれば日差しは結構入ってくるが、その日照時間は少々短い。太陽発電パネルを何枚か並べたところで発電出来るだろうか?
まぁ、物は試しに、やってみるのも良いか。
ベッドに寝転がり、電気工事に頭を悩ませながら壁をみると、隙間から光が見える――これだけ隙間が空いてるって事だな。
壁の隙間をコーキング剤で埋めて塗料を塗らないと。
シャングリ・ラを検索すると、シリコンアクリル塗料が売っている。これは俺の家の屋根に塗っていたものと同じ物だ。
防水性があり水を弾く。これだな。
壁と屋根の色はこげ茶色にしよう。そして、窓枠は白だ。う~ん、軒先の板も白が格好良いかな……悩むところだ。
まだまだ、やる事は山程ある。
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――それから、さらに1ヶ月後。
俺の家は完成した。
全体がこげ茶色で塗られて、軒先と窓が白い家だ。
家の隣には10m×10mの畑のスペースが造られて、敷地を囲むように柵も作ってみた。杭はシャングリ・ラで買うと高かったので、川沿いにあったアチコチの木を切り倒して自作。
杭や柵板にはシャングリ・ラで購入した防腐剤が塗ってある。
そして柵の周りには黄色とオレンジのマリーゴールド。こいつは虫除けに使える。
一応、虫除けの魔石を買ったが効果範囲が余り広くなく、畑までカバーできそうにないので、この黄色の花を植えてみた。
この世界を遺伝子汚染してしまう可能性があるが、効果が無かったら引っこ抜こう。
風呂は位置の調整のために移動して、釜口を大きくした。そのせいでドラム缶を高い場所に置かねばならなくなってしまい――。
さすがに手では持ち上げられなくなってしまったので、シャングリ・ラで玉掛けの本を買って、少々お勉強。
積み上げられたコンクリブロックの上にパワーショベルを使って固定した。
そしてドラム缶風呂の周りに階段付きのプラットフォームを作って、入浴の際の出入りを改善。
周りを板で囲み、上にも簡単に屋根を付けている。誰も見ていないとはいえ、丸見えだと精神衛生上宜しくない。
だが、入浴はすこぶる快適で、たまの風呂日が捗っている。
そのための補助機能として掴まるためのパイプも用意してある。またドラム缶の中に入っているスノコには、プラ製の椅子を固定して、風呂から上がる時は、こいつを踏み台にするようにした。
勿論、入浴中に座るための椅子としても利用出来る。
部屋の奥にはシンクを付けて台所を作ったが、棚等の収納は作っていない。全部アイテムBOXに収納出来るからだ。
また下水は当初の計画から変更。半分に切ったドラム缶が1万で売っていたので、こいつを2個購入して沈殿槽を作った。
階段状に並べた半切りのドラム缶の上部にヘドロが沈殿し、下部に上澄みが落ちる。
ここに水石をいれて浄化するのだが、どのぐらい綺麗になるものなのか? とりあえず、やってみない事には解らない事が多い。
もしヘドロが溜まったら敷地の片隅に作られた堆肥スペースへ持っていき処理するというわけだ。
堆肥をたまにかき混ぜるのは大変だが、パワーショベルでやれば良い。
その近くにはプラ容器とプラ製の洋式便器を使ったトイレも設置し、周りには小屋を建てて屋根付きの隔離スペースを作ってある。
見た目は元世界のトイレとなんらかわりが無い。便器の蓋も閉まるのでハエや虫もシャットアウト出来る。
トイレは狭いに限る――何故か広い所や開放的な場所だと落ち着かなくて、出る物も出なくなってしまう。
やはり排泄中というのは無防備であり、隠れて事を済ませたい――という、かつて動物だった時の名残なのであろうか?
勿論、この溜まった糞尿も堆肥にしてリサイクル。そして、その堆肥で作物を育てる。
これぞ、スローライフ。
だが、この便所を夜に使うのは、ちょっと怖そうだな。
懸案だった電気だが森の木を3本追加伐採してスペースを確保。そこに1枚1万円の太陽電池を20枚並べた。
一枚の発電量は50wらしいので、20枚で1kwの出力だ。それにバッテリーを購入。
バッテリーは車などの物ではなく、充電機能が付いたモバイルバッテリーを購入した。値段は一台4万5千円だ。
これなら充放電コントローラを使わなくても、直接太陽電池に繋いで充電する事が出来る。こいつを3台買って交代で使うことにした。
そして、このバッテリーで足りない分はガソリン発電機で補う。
実際に使ってみても、電気が必要なのは部屋の灯り程度。電球にLEDを使えば消費電力も少なく、このぐらいでも十分に使える事が解った。
TVなどは、シャングリ・ラを使って動画を見れば良いので欲しいとも思わない。
ただ、冷たい飲み物を飲みたい事が多いので、小さなモバイル冷蔵庫を買った。これなら昇圧しなくても12Vに直接繋げられるからだ。
発電量がもう少し欲しければ、さらに木を伐採して太陽電池の数を増やせば良い。
城が完成して、一国一城の主となった俺の異世界スローライフが始まった。
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