146話 エルフたちとの夜
エルフの集落に滞在中。
とてもいい所で、チェチェというカカオ類似の植物を渡したお礼に、族長に指輪を作ってもらっている。
アキラが持っているのと同じ、他の種族の言語を翻訳できる指輪。
その効果のほどは、現在俺が使っていて、証明済み。
今後を考えても、是非とも欲しいアイテムだ。
これがあれば、未知の種族とのファーストコンタクトもはかどるってもんだ。
実際、アキラから借りたこの指輪がなかったら、エルフと揉め事になっていたかもしれない。
一泊して、まる1日をエルフの集落ですごし、その夕方。
夕飯を食べたあと、エルフの女たちが迎えにきた。
俺に色々ともらった礼がしたいらしい。
女のお礼というと――ナニをナニするナニだよなぁ……。
アネモネとリリスの白い目に見送られながら、女たちに手を引っ張られていく。
足下が暗いので、アイテムBOXからLEDランタンを出した。
LEDの青い光に照らされて、女たちの金髪がきらめく。
長い短い、髪型は様々だが、皆が美しい金髪で長い耳をしている。
「それって魔法の光?」
女たちが、後ろをチラ見しながら聞いてくる。
「まぁ、魔道具の一種だよ」
昨日のエルフたちにも説明したが、やはり気になるようだ。魔法のアイテムに見えるのだろう。
手を引かれて到着したのは、大きな木の上に作られたツリーハウス。
地面から細長いはしごが伸びている。
地上にある家は、草でできていて少々頼りないが、これは丸太で組まれていて、中々頑丈そう。
「へぇ、これは頑丈そうな家だな。他の家もこんな感じにすればいいじゃないか」
俺の問に、エルフの女たちが答える。
「普通の家は、1年ぐらいで、建て替えるんだよ」
「そうそう、これは避難に使ったりするんで、長い期間使えるように丈夫に作ってあるんだ」
「それに草の家ならすぐにできるけど、これを建てるのに何年もかかるんだよ」
「正直面倒くさい」
「そうそう」
エルフってのは基本面倒くさがりだと判明した。
云百年もその日暮らしなので、面倒なことはしたくないのか。
これじゃ発展はしそうにないなぁ。そもそも、そんなことも考えてなさそうだけど。
この原始的な生活のままで暮らす――これがエルフの教義なのだろう。
その教義を守るために、他の文化を寄せ付けず、排他的になっているわけだ。
彼女たちに誘われて、ツリーハウスに登る。
中に入ると、青い光に照らされて沢山の女達がいた。全部で20人ほどか。
板の間に女たちが座り、大きな木でできたベッドもある。
狭い部屋に、これだけ人数が集まっていると、樟脳の匂いで目がしばしばする。
族長のところにもあった、この青い光は多分魔法の光だろう。
熱を感じず、LEDの光によく似ているが、その光は柔らかく優しい。
その青い光に照らされて、彼女たちの青いドレスが、青みを増している。
「これって、村の女全員か?」
女たちは全員背が高いのだが、座るとそんなに大きさを感じない。
その分、脚が長くて胴が短いからだ。胴長短足の日本人に、その脚の長さを少し分けてほしい。
「そうだよ、村の女が全部集まっている」
「こんなに家に入って壊れたりしないのか?」
「避難にも使うって言ったでしょ? 全員が入っても壊れないようにできているから大丈夫」
部屋の中にいる女たちを見渡す。耳の長い美女がびっしりと満員だ。
こんな光景は滅多に見られないだろう。
「全員集まってなにをするつもりなんだ?」
「そんなぁ、もう知っているくせにぃ。小さい子供が好みみたいだけど、大人でもいけるんでしょ?」
「ちょっと待て、子供が好きってのは間違いだぞ。屋敷に帰れば側室もいるしな」
俺の言葉も聞かずに、エルフの女が抱きついてきた。
こいつは朝から俺たちの近くにいた、短いおかっぱヘアの女だ。
「それで? どれにする?」
「ええ? ここから選ばせるために、皆集まったのか?」
「ええ、もちろんよ」
「村の男たちは、なにも言わないのか?」
「言わないよぉ、そんなこと。あはは」
「「「はははは!」」」
どうやら、エルフってのは固定のパートナーを決めない種族らしい。
「へぇ、そうなんだ」
「それにねぇ。何百年も一緒にいたら、もう空気みたいなもんだから、色恋の対象にはならないのよ」
「まぁ、そうかなぁ……」
人間の夫婦でも10年も一緒にいたら、倦怠期やらなんやらと、色恋なんてどうでもよくなるしな。
それが数百年同じ面子ってんだから、そりゃ、やりたくもなくなるってわけだ。
「それで、たまに外から男が来たんで楽しもうと――そういうことか?」
「そゆこと、あはは」
実にあっけらかんとしている。
「只人の男でもいいのかよ? エルフに比べたら、月とスッポン――って言っても解らんか」
「別にそんなこと気にしないし」
「たまに外に出るエルフもいるのか?」
「まぁ――たまにね。でも外で暮らしても、知り合いを作ってもすぐに死んじゃうから、また集落に戻ってくるしかないんだけどねぇ」
「この本みたいにか?」
俺に抱きついていたエルフの腕を解くと――前に作った自作の本をアイテムBOXから取り出した。
アネモネと一緒に作った『森のエルフ』である。
「へぇ、あなたが本を作ったの?」
「ああ、この絵も俺が描いた」
「すごーい!」
「でも、只人にとっては、この話はいい話かもしれないけど。エルフにとってはねぇ……」
「そうそう――結局、相手はすぐに死んじゃって、森に帰ることになるんだから」
「俺の聞いた話では、幸せに暮らしました――としか聞いてないがな」
「それは只人の視点ねぇ」
まぁ、どこかの村で暮らして知り合いを作っても、どんどん死んでしまうからな。
やっぱり相方が死んでしまうと、肩身が狭くなるし。
彼女たちの話によると俺が書いた話は、実話のようだ。
その話が書かれた俺の本を、女たちが回し読みをしている。
「それでぇ、本はどうでもいいんだけどぉ――誰にする?」
「誰かを選んで、他の女たちはどうするんだ?」
「ここで見てる」
「ええ~っ!? マジか」
改めて周りを見回す。こんな所で周りから見られたら、勃つものも勃たんぜ。
ストリップの、まな板ショーかよ――って、若い奴はしらんだろうなぁ。
エルフと一緒になった男ってのは、剛の者だったんだなぁ。
「それでぇ? 誰にするの?」
「じゃあ、とりあえず君から」
「ふ~ん、じゃあ……どうするの?」
おかっぱのエルフが再び抱きついてきたので、彼女の小さなお尻を掴む。
「ひ!」
彼女が小さな悲鳴を上げると、そのままストンと床に座った。
「はい、次ぃ~」
座った女の所に、他の女たちが集まってきた。
「ねぇ? どうしたの?」
「ああ! 今、ちょっと触らないで! ヤバいからぁ!」
俺は、次に目の前に座っていた、髪の長い女の手を取って立たせた。
「はい、ちょっと腕を上げてぇ~」
開いた脇に腕を通して彼女を抱き寄せると――再び、お尻を掴む。
「ひゃ!」
彼女はそのまま床へ倒れ込むと、ヒクヒクと痙攣している。
「ええ? なに? 魔法?」
「魔法みたいなものだなぁ。使うと腹が減るんだけどな」
2人の相手をして、もう腹が減ってきたので、シャングリ・ラからエナジーバーを買う。
女たちは、まだいるから、一気に2本食いだ。
「なにを食べてるの?」
「君たちの言う『チェチェ』から作ったお菓子だ。甘くて美味いぞ? 食べてみるか?」
シャングリ・ラからエナジーバーを30本ほど購入すると、床に山積みにした。
突然、目の前にできたお菓子の山に、女たちが飛びつくが――。
勢い余って、最初に倒れた2人を跳ね飛ばしてしまう。
「ひぃぃ!」「バカ! お前ら触るなぁ! ちょ! ヤバい! イクっ!」
最初に触った女が床にひっくり返った。
「腹ごしらえも終わったから、はい次~」
次の女の手を取る。髪は短くて、ちょっと少年風だが、男ではない。
「あの、ちょっと心の準備がぁ」
「こんな場所に来てるんだから、やる気満々だったんだろ?」
「いや、まさか、こんなことになるなんて――」
四の五の言う彼女を抱き寄せると、尻を掴む。
「にゃ!」
そのまま倒れそうになったので、ゆっくりと床に座らせる。
「なに? どうなってるの? 魔法?」
「あ~! ちょっと触らないでぇ! 触るとイッちゃう!」
他の女たちが集まってきて――座ったままで、硬直しているショートヘアのエルフを囲んでいる。
「なになに? どうしたの?」
不思議そうにしていた女たちだが、ひっくり返っている女を放置して、俺のやったエナジーバーを食い始めた。
「あまーい!」「あ~、これってチェチェだ!」「すごく美味しい!」
「お前らぁ、私の分も残しておけよ」
ひっくり返っているエルフが、何か言ってるが、動けないでいる。
「はい、次いってみようか」
「それじゃ、私!」
勢いよく立ち上がったのは、ちょっとくせ毛のエルフ。
ふわふわした金髪が綿あめみたいで、美味しそう。
俺のことを、イタズラ好きのような視線でじっと見つめて、興味津々の顔をしている。
「はい、こっちに来て~」
「ねぇねぇ――耳を――触ってほしいんだけどぉ」
「耳?」
それを聞いたエルフたちが、止めに入った。
「ちょっとぉ! 耳なんて止めておきなよ! どうなるか解らないよ!」
「だってぇ――どうなるか、興味があるじゃん?」
俺の正面に立った、くせっ毛のエルフの耳をそっと掴む。
すごく熱くて、ぷにぷにと柔らかい耳をなでると、彼女が身をよじる。
どうやら彼女の仕草を見る限り、エルフにとって耳は敏感な場所らしい。
「んぅ……」
「それじゃ」
俺は、長い耳を摘む指に力を込めた。
「ぴ!」
彼女が奇声を上げると、白目を剥いてその場にぶっ倒れる。
ガクガクと痙攣する青いエルフドレスが濡れて、彼女の身体からいろんな物が溢れ出した。
「ちょっとぉ! マジでぇ?!」
エルフの女たちが、座ったまま尻込みをして後ろに下がるが――ここは狭い部屋の中。
もう逃げ場はない。
「はい~、次ぃ~」
俺は、両手をワキワキしながら、エルフたちに近づく。
「あ、あの! 普通のでいいので、普通ので――」
彼女たちも、耳はマズいと悟ったのだろう。
まぁ、俺もそれを理解した上で強引にやったりすると、強姦と一緒だからな。もちろん無理強いはしない。
「ひ!」「にゃ!」「ひゃぁ!」「あ!」
エルフの女たちは、次々と床に座り込んでいる。
ひっくり返り方にも、色々と個性が溢れてて面白いが、さすがに耳を触らせようとするエルフのチャレンジャーは続かないようだ。
エナジーバーとバナナを食べて、作業を繰り返す。
そう、これはもう作業だ。
「ねぇ~、その長くて黄色いのって木の実なの~?」
ひっくり返っているエルフからバナナについて聞かれる。
「そうだ、食ってみるか?」
「うん」
床に寝転がっているおかっぱのエルフに、バナナを食わす。
「あ、意外と美味しい……すごく柔らかい」
「結構、栄養もあるんだぞ」
バナナにもエルフたちが群がって、長い白い実を頬張っている。
「結構、美味しいね」「うん」
「熟す前の青い果実は、芋みたいに料理にも使えるぞ」
「へぇ~」
そうだ、エルフたちにバナナを栽培してもらったらどうか。
バナナとカカオじゃ栄養とりすぎかもしれないけど。
その前にシャングリ・ラにバナナの苗って売ってるのか? 早速、検索してみると――売っている。
さすが、なんでも売ってるシャングリ・ラだ。カカオの実も売っているぐらいだし。
バナナの苗は1ポット2000円――そいつを2株購入した。
ちょっと大きめで、つるつるの葉っぱが2枚出ている苗を床に置く。
「ほら、黄色い実が気に入ったなら、この苗を育ててみろ」
「これって木の苗?」
「これはすごく大きくなるけど、草の仲間なんだ」
「へぇ~変わってる」
エルフが寝転がったまま、バナナのつるつるな葉っぱをなでている。
「異国の植物だよ。実に種がないから、株分けで増やすしかないのが欠点だけど」
「種がないの?」
「さっき食べただろ?」
バナナの原種には種があるが、種ばかりで食いにくい。
バナナとカカオの栽培が上手くいけば、エルフたちにも売り物ができるな。
バナナを食べているおかっぱの頭から出ている耳に手を伸ばす。
「あっ!」
「エルフって耳が敏感なのか?」
「ち、ちょっとダメっ! あっ! い、イクっ!」
エルフが、おかっぱ頭を床につけたまま、エビゾリになって身体を痙攣させている。
「……はぁはぁ……なに? その力?」
「祝福だよ」
「祝福? 本当に祝福なの?」
「ああ」
「王族に知り合いでもいるの?」
「俺が連れている正室が、元王族だ」
俺の言葉にエルフが驚く。
「ええ? 王族が正室だなんて、あなた何者なの?」
「王族の連中は、俺を聖騎士と呼んでいるが」
「本当に聖騎士なの?」
「ああ」
どうやら、エルフたちは聖騎士を知っているらしい。
「そりゃねぇ。エルフってのは、ここに只人がやって来て国を作る前から、森に住んでいるわけだし」
「俺の知り合いに魔導師がいるんだが、そいつも帝国の皇帝から祝福をもらっているんだ」
「ええ? 帝国人もいるの? しかも皇帝から祝福をもらったなんて、近衛なんでしょ?」
「そうらしい」
俺と、おかっぱエルフの会話を聞いていた、他のエルフたちも集まってきた。
「ええ? なになに?!」
とりあえず、色々と説明をする。
この土地のことを、だれよりも知っている連中だし。
「そうねぇ――祝福って力を持った一族が、王族や皇族になったって話は知ってるよ」
エルフたちが、床にゴロゴロと横になっている。
「その力を持った一族は、そもそもどこから来たんだ?」
「どこから来たかはしらないけど、その力は神様からもらったって話だと思ったけど」
神様ねぇ――俺のシャングリ・ラやアイテムBOXなんて能力もそうだけどな。
アイテムBOXは俺の他にも使える人間がいるし、凄い魔法を使えるアネモネみたいな女の子もいる。
その力の大元があったはずだと思うんだが……。
「さて、一息ついたし、続きをやるか」
まだやってないエルフの所へ行く。
金髪を編み込んで後ろで纏めている女だ。
「えっ、ちょっと……」
抱き寄せてお尻を掴むが、別に尻じゃなくてもどこでもいいんだが。
「あ! ひっ!」
ストンと女が座るとプルプルと震えている。
「はい、一丁上がり」
「なにこれぇ……」
「はい次~」
とりあえず全員とやったのだが、部屋の中は樟脳といろいろな匂いでとんでもないことになっている。
それでも義務は果たしたろう―― 一服して飯を食う。
エナジーバーは飽きたので、大福でも買ってみるか――。
シャングリ・ラで、色々な大福が入ってセットになっているものを購入。
こういうのは、普通は贈り物のようだ。
餡の他にクリームが入っていたり、キャラメルが入っていたりと、変化に飛んでいる。
「これ、食べたいやついる?」
「それってなぁに?」
「外側は穀物を炊いて潰して練ったもの。中の黒いものは、豆を煮て砂糖を入れて練ったもの」
エルフたちは、動物由来のものは食べないっぽいので、普通の大福を購入した。
「それじゃ食べる」
寝転がっているエルフの希望者に大福をやる。
「甘くて美味しい」「この白い皮はなんでこんなに伸びるの? 本当に穀物?」
「本当だよ」
「この黒いのも豆って本当?」
「ああ」
シャングリ・ラから小豆を1kgほど購入して、見せてやる。
「ほら、この豆だ」
「赤い豆なの、変わってるぅ」「小さくて可愛い」「ここでも栽培できるかな?」
「豆類はどこでも育つから、問題ないと思うぞ」
彼女たちに、エルフの畑作について聞く。
森の中にテキトーな場所を選んで、そこにバラまいて放置らしい。畑を作ったりとか耕したりもなし。
毎日森を巡回するので、そのついでに収穫するらしい。
30人ぐらいの集落ならそれでいいのか……。そのため、カカオも栽培するという概念がなかったようだ。
それはいいが、小豆って餡の他に食い方があるのかな? 赤飯に入っているぐらいしか知らないが。
ついでに大豆もやる。
「ほら、昼間飲んだ豆の汁はこれを絞ったものだ。ただ、あれはかなり魔法で調整してあるけどな」
「へぇ~白くて丸くて綺麗ね」
大豆は利用方法が色々とあるからな。重宝するだろう。
果たして、エルフがどうやって大豆や小豆を使うか、興味があるし。
なにか異世界らしい、とんでもない利用方法を思いついてくれないだろうか。
「さて、やることやったから寝るかぁ」
せっかくベッドがあるので、ここで寝ることにした。
「あなたはしなくてもいいの?」
「うちには女が沢山いるからな」
「只人の貴族なんて、しょーもないやつだと思っていたら、とんでもないやつに引っかかったわ」
「そうそう」
「全員がまんべんなく楽しめたんだから、いいだろ?」
部屋の床に、寝転がったエルフたちが敷き詰められている。
「その前に、これっていつまで続くの? 動けないんだけど」
「朝までには、解けるよ」
「ええ~っ?」
「それじゃ耳を触ってみるか? 一発で天国行きだぞ?」
耳を触って、失神したままのくせっ毛の女を指さす。
「じ、冗談!」
部屋にあるベッドに寝ようとしたが、ゴツゴツと硬い寝心地。
こりゃ、つらい。アイテムBOXからマットレスを取り出して、敷いた。
うん――いい感じだが、1人で寝るのには、ちょっと大きいサイズ。
「独り寝は寂しいから、誰かに添い寝をしてもらおうかなぁ~」
――と見回したら、最初にやったおかっぱエルフが、目をそらした。
「よし! 君に決めたぁ!」
おかっぱエルフを抱き上げて、ベッドの上に放り投げる。
「あっ! ああ~っ!」
着地したショックで、エルフがベッドの上でジタバタしている。
「よっしゃ、寝ようぜ~」
「ちょっと、待って死んじゃうからぁ」
「大丈夫大丈夫、今まで死んだやつはいないから」
おかっぱエルフを抱き寄せると、彼女が悲鳴を上げたが、その力はかなり頼りなく、弱体化している。
「はぁはぁ! さ、触るなぁ!」
「君が、エルフの代表ってことで、俺を受け止めてくれないと」
「私は違うからぁ!」
そう言う彼女だが、色々と率先してやっていたように見える。
俺に抱きついてきたのも、彼女が最初だったしな。
「ひぃぃ!」
夜中まで、エルフの叫び声が、森にこだました。
------◇◇◇------
――エルフの集落に泊まって2日目の朝。
朝起きると、床の上でエルフの女たちがぐったりとしている。
「酷い目にあった……」
そこに、くせっ毛のエルフが起き上がって、大きく伸びをした。
「う~うん! スッキリしたぁ! 1年分まとめてしたって感じかな?」
「ほら――結局、耳を触って一発で失神昇天したほうが、良かったんだ」
「あう~」
女たちは、返事にならないような返事を繰り返している。
「エルフなら、自分で回復魔法を使えるだろ?」
俺は腹が減ったので、家族の所に戻ることにした。
外に出るといい天気。ツリーハウスの細いはしごを降りて、集落へ向かう。
コンテナハウスの前では、すでに皆が起きて、食事の準備を始めていた。
道具は全部、出しっぱなしだったからな。
「おはよーさん」
「ふん、随分と楽しんだようじゃの……」
「そう口を尖らせるなよ、リリス。これも他種族との友好を司る、政治ってやつじゃないか」
「どうだかのう……」
「むう……」
アネモネも機嫌が悪いが、パンを焼いてくれた。
スープはインスタントにして、ベーコンエッグにしよう。
エルフの女たちは、皆へばっているので、食事を奪いにくる奴らもいない。
家族で朝食を摂っていると、エルフの族長がやってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「コレが指輪だ」
族長が、完成した翻訳の指輪を俺に渡してくれた。
「おお、ありがとうございます」
「ミルラから聞いたぞ。女たち全員を相手にしたそうだな」
ミルラってのは、くせっ毛のエルフのことらしい。
「相手といっても、特殊な力を使っただけで、本当にやったわけじゃないからな」
「それじゃ旦那、あの力を使ったのかい?」「にゃ?」
「ああ、とてもじゃないが、まともには相手ができないからなぁ、ははは」
「むう」
それを聞いても、アネモネとリリスは不機嫌だ。
「というわけで、やってないからいいだろ? リリス」
「そうはいくかぇ!」
「やっぱり、ははは」
俺は、シャングリ・ラから、小麦粉と塩を買った。
小麦粉は、パンを焼くために使うだろうから、強力粉を購入――20kg4500円が10袋。
塩は10kg1000円の業務用を5袋。
「楽しませてもらったから、これはお礼の小麦粉と塩だ。どっちも必要だろ?」
「しかし……」
「エルフの女たち20人とするなんて、伝説に残るできごとだからな、このぐらいは払っても当然」
族長はしばらく考えていたが、もらうことにしたようだ。
「それでは、ありがたく収めさせてもらう」
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいよ」
そこに女たちもやって来た。
「あ~もう、酷い目にあった」
「中々できない経験だったろ?」
「そうだけどぉ~」
女たちは、なにか不満そうなのだが、せっかく相手してやったのに、なにが不満だというのか。
飯を食い終わったので、出発することになった。
ここから引き返して、また湖まで出て測量を続ける。
エルフからの情報で、この川の行く先がアニス川だと判明したからな。
エルフたちに別れの挨拶をする。
「何かほしいものがあれば、俺の屋敷までくればいい」
「辺境伯領って言ってたけど、屋敷ってどこ?」
一番仲良くしてくれた、おかっぱエルフが質問してきた。
「川の上流に大きな湖があるだろ? その対岸だ」
「もしかして、滝がある所?」
「お、知っているのか?」
「ああ、あそこねぇ」
意外と、エルフたちの行動範囲は広いらしい。
アストランティアとダリアの間にある森の深部にもエルフがいるそうだし、その他の部族との接触もありそうだ。
まぁ、俺専用の指輪もできたし、これでファーストコンタクトもはかどるってもんだ。
集落にある小さな湖にゴムボートを浮かべて、ここから川を測量しながら遡る。
川の流れはゆったりなので、逆走するのも問題ないだろう。
もちろん、下るよりは大変だとは思うが、いざとなれば文明の利器もあるしな。
ニャメナとミャレーが乗っていたボートは、蜂に追われて放置してしまったので、新しいのを購入した。
「それじゃなー」
「これをあげる~!」
エルフの1人が、何か細長い生き物の干物をくれた。赤っぽい茶色で、縞々模様をしている。
イメージとしてはミミズだろうか。
「なんだこれ?」
「多分、管虫にゃ」
こいつの正体はミャレーが知っているようだが、とりあえずアイテムBOXに入れた。
「「「さよなら~」」」
およそ30人のエルフたちに見送られて、湖から川を遡り始めた。
流れに逆らうことになるので、ちょっと心配したのだが、問題ないようだ。
今回、初の他種族とのファーストコンタクトだったが、まぁまぁ成功だったといえるだろう。