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143話 蜂の子


 湖から流れ出る川を見つけたので、2日ほど下り、川の測量をすることにした。

 川はほぼ平坦で、流れは激しくない。このまま大湿地帯を流れて、アニス川に合流するに違いない。

 ドローンを上げてみたが、森で隠れており高度100mほどでは、あまり先までは解らないようだ。

 順調に川を下りながら、測量を続けていたのだが、突然巨大な蜂に襲われた。

 全長が50cmほどで、黄色と黒の縞模様――元世界のスズメバチを彷彿させる。

 槍のように突き出た尻尾の針と、強靭な顎を持つ、凶悪な昆虫だ。

 多分、刺されたら即死だと思われる。


 シャングリ・ラから購入した殺虫剤と、獣人たちの必死の突撃で、巨大蜂を撃破。

 1匹だけ残して、巣の在り処を突き止める作戦に出た。

 仮死状態にした蜂の胴体に、吹き流しを括り付けて、敵のアジトを突き止める。


 森の木々の間を、ひらひらと飛ぶ白い吹き流しを追っかけて、獣人たちが走り出した。


「いくぜ!」「にゃー!」

 森の中での獣人たちは、実に生き生きしている。元々こういう森の中が、彼らの生息地だったみたいだからな。

 木の上に家を造り、大家族で住む――そういう種族だったらしい。


「あの者も立ち直ったようじゃな」

「ニャメナかい? ああ、クラーケンのあと、めちゃくちゃびびってたんで、ちょっと心配だったが、あの手の魔物が苦手なんだろう。触手に刺されたとか言ってたこともあったし」

 俺は、転がっている蜂の死体をアイテムBOXに入れた。

 表示されているアイテム名は――キラーホーネットとなっている。


「こんな巨大な蜂がおるとはの」

「王都の周辺ではいないのか?」

「おらぬ。普通の蜂なら、王宮に巣ができたと大騒ぎになったこともあったが……」

「これは、キラーホーネットだな」

「ほう――これがキラーホーネットかぇ。書庫の本で読んだの」

「解りやすくいえば、殺人蜂とか殺し屋蜂とかが近いと思う」

「まさに、聞いた千より、見た一じゃな」

 日本語だと、百聞は一見にしかずか――。


 コンテナハウスにも上ってチェックする。

 貫通はしてないが、黒い鉄板がボコボコだ。そんなに厚い鉄板じゃないからな。

 同じ所を攻撃されたら、貫通したかもしれない。

 齧られた跡も残っている。


「やべぇ~、あんな顎に食いつかれたら、首がもげるな」

 さすが異世界、死が近すぎるが――ずっと街にいて、こんな場所に来なければ安全なのだ。

 コンテナハウスをチェックしていると、トランシーバーで連絡が入った。


『旦那、見つけたぜ~』

「一旦、帰ってきても、また同じ場所に行けるか?」

『大丈夫にゃ』

「それじゃ一旦、戻ってきて飯にしよう」

『解ったにゃ! クロ助! 俺がしゃべってるんだろうが! うにゃー!』

 通信が切れた。トランシーバーの取り合いをしていたようだ。


「蜂の巣をどうするのじゃ」

「当然、始末する」

「明日か?」

「いや、夜中だ」

「なに?!」

 蜂ってのは夜に飛ばないし、全部が巣に戻る。


「夜に巣に戻ったところを、一網打尽にする」

「そなた中々あくどいのう」

「また、人聞きの悪い」

 家族を守るためだ。虫や魔物なんて、全滅させる覚悟でするさ。

 リリスと話していると、獣人たちが戻ってきた。


「旦那、すげぇデカい巣があったぜ!」「うにゃ!」

 彼女たちの話によると、木々の間に巨大な茶色の巣を作っていたようだ。


「やっぱり蜂がデカいと巣もデカいのか――」

「それで、明日やるのかい?」

 獣人たちにも、リリスに話したのと同じ作戦を説明した。


「そんなの俺たちにゃ思いつかないよな」「真正面から戦うことしか思いつかないにゃ」

「そんな力押しじゃ、勝てるものも勝てないだろ」

 時間は夕方4時頃をまわり、辺りは暗くなってきている。

 夜に襲撃をかけるし、腹が減っては戦はできぬ。飯にする。

 マスが残っているので、あれを食べよう。下ごしらえをしている間に、アネモネにパンを焼いてもらった。


 3枚におろしたマスを焼いて、身をほぐす。

 それを醤油少々とマヨネーズで和えて、白胡麻と青紫蘇を刻んで入れる。

 できあがった和え物を、パンに載せて食う。

 スープは昆布だしに、岩塩と卵を入れた卵スープにした。これが簡単で美味い。


「あ、しまった! お前らの好みを聞かないで、青紫蘇を入れちまった」

「その香草のことかぇ?」

「ああ、まぁ口に合わなかったら、別のやつを作ってやるよ」

「旦那の作るものに、ハズレはないような気はするけど」「そうにゃ」

「ええ? 蜘蛛の卵とか食わないじゃん?」

「あれは……ちょっと勘弁してくれよ」

 獣人たちが露骨に嫌そうな顔をする。まぁ、無理に食わせるつもりはないし。


「美味しいのにな」

「ほんにのう――じゃが、これも食べてみねば解るまい――んぐんぐ。ほう! これは変わった香草じゃの!」

「うひょーこれもうめー!」「にゃー! 魚なんて焼いてまるかじりぐらいしか知らないにゃ」

 青紫蘇は大丈夫のようで、安心した。


「この沢山入っているつぶつぶは?」

 アネモネは、胡麻のつぶが気になるようだ。


「アネモネ、それは草の種だよ」

「この種も香ばしくて美味いのう」

「それは栄養もあるんだよ。油も採れるしな」

「この種も畑で栽培したら面白いのではないかぇ?」

「ああ、良いかもな――胡麻とか紫蘇なんて、いくらでも増えるし」

 簡単に増える紫蘇だが、野良になると臭くて食えないことも多い。


「旦那……」

 ニャメナが物足りなさそうにしている。


「夜に戦闘するかもしれないんだぞ?」

「大丈夫大丈夫」

「それじゃ、エールを1本だけな」

「うひょー!」

 ビールの缶を受け取ったニャメナが、早速プルトップを開けて、グビグビやり始めた。


「くそー! うめー!」

 ニャメナが口についた、泡を拭う。


「トラ公がヘマしてくたばれば、ケンイチはウチのものにゃ」

「おまえなーそういうこと言うなよなぁ」

「言うに決まってるにゃ」

 ミャレーは半分本気で言っているのが怖い。


 飯を食い終わったので、皆で焚き火を囲む。

 今日はここでキャンプだ。湖から10kmほどマッピングしたことになる。

 そのまましばらく話していると、辺りはすっかりと暗闇に。

 湖の畔は月の光があって、湖面に反射したりするので明るく感じるのだが――。

 森の中が真の闇に沈む頃、俺たちは行動を開始した。


 足下を照らす明かりが必要なので、アイテムBOXから以前購入したヘッドライトを取り出す。

 リリスの分も必要なので、その分は新規にシャングリ・ラから購入した。

 乾電池でLEDが光るタイプだが、凄く明るいし、ランタンと違い両手が使える。


「ほう! 魔法の光かえ? これは明るい!」

「ニャメナとミャレーはどうだ?」

「十分に見えるから、要らないよ」

「そうだにゃー」

 獣人たちの夜目からすると、十分に見える明るさらしい。


「旦那――ちょっと、こっちを見ないでおくれよ、その光は目がくらむから」

「悪い」

 暗さに目が慣れているので、LEDの光が眩しいようだ。

 コンテナハウスを収納すると装備を整え、身体に殺虫剤を巻きつける。

 俺たちは暗闇の中、蜂の巣へ向かった。


「場所は解るのか?」

「旦那、大丈夫だよ」「にゃ」

 暗い中を縦に並んで歩くが、足下がまったく見えない。下をLEDライトで照らしながら進む。

 自分たちの臭いが残っているので、獣人たちはそれを追っていくらしい。

 ミャレーは2ストバイクのオイルの臭いを辿って、俺を追っかけてきたりしたし、そのぐらいはわけないってことか。

 アネモネは一人で歩いているが、リリスはずっと俺にしがみついたまま。


「そなたたち、怖くはないのかぇ?」

「まぁ慣れたよ」

「私も」

 人間、なんでも慣れるものだし、それなりに経験を積んだからな。


「お姫様――貴族の奥方が、こんな怖い思いをしなくてもいいだろ?」

 そのニャメナの言葉に、リリスが反応した。


「このぐらいのことで、へこたれていては、ケンイチの近くにはおられん!」

「その気持ちはありがたいが、本当に危険になったときに、リリスを守り切る自信がない」

「そのときは、そのときじゃ! 妾はそれで満足じゃぞ?」

「あ――」

 俺は言葉に詰まる――この世界は強情な女性が多い。とにもかくにも、話を聞いてくれないで行動に移してしまう。

 たまたま、そういう女性が集まっているだけなのかもしれないが……。


 少々悩んでいると、件の場所に到着した。


「旦那、着いたよ」

 50m程先の木の間に巣があるらしいが、真っ暗でなにも見えん。

 アイテムBOXから、ナイトビジョンを取り出して覗く。

 緑色の視界の中――大木の間に縦に伸びる巨大な巣が見えるが、周りに飛んでいる蜂は、まったく見えない。

 俺の目論見どおりに、敵は寝ているようだ。


「私にも見せて!」

 アネモネにナイトビジョンを貸すと、覗き込んでいる。


「すごーい! 大きい!」

「妾にも見せてたもれ」

 リリスがナイトビジョンを覗き込んでいると、ニャメナがそわそわしている。


「それで旦那、これからどうするんだい?」

「アネモネの魔法を使う」

爆裂魔法エクスプロージョンで吹き飛ばすにゃ?」

「いや違う――加熱するんだ」

「魔法で温めるの?」

 俺の言葉に、アネモネも不思議そうな顔をしている。


「熱くて入れないお風呂ぐらいの温度にしてくれ。あの大きな巣を全部だが――できるか?」

「多分、大丈夫」

 爆裂魔法エクスプロージョンだと、散らばった蜂や幼虫が生きている可能性があるし――燃やせば確実だと思うのだが、森が火事になったら大変だ。

 それに、ちょっと考えがあるのだ。


「よし、念の為に――」

 俺は、アイテムBOXからコンテナハウスを出した。

 皆で入り、箱の中から魔法で狙撃する。


「ほう、これなら、万が一蜂に囲まれても安全じゃの」

「こんなの旦那だけだよ。普通は、もっと命がけになるんだぜ?」「そうにゃ」

「せっかく使える能力なんだから、どんどん使わんとな――アネモネやってくれ」

「わかった!」

 アネモネは窓を開けると、ナイトビジョンを覗き込み、魔法を使い始めた。


「むー! 温め(ウォーム)!」

 俺もナイトビジョンを追加購入して覗く。

 緑色の景色にキラキラと輝く光の粒子が沢山映っている。

 カメラのセンサーにも映るってことは、物理的に起きている現象なんだよなぁ……。

 大きな巣の側面には出入り口と思われる黒い穴が開いているが、そこから蜂が這い出てくる様子はない。

 タダの温めの魔法なので、20分ぐらいかけ続けてもらった。

 火をつけると周りから加熱されるが、魔法の温めは電子レンジに近く、内部も同時に加熱される。

 おそらくは魔法で原子を振動させて、熱を発生させているのだろう。

 逆に原子の振動を抑えれば、冷却されるわけだ。


「よしアネモネ。もういいよ」

「ふう……」

「旦那どうなったんだい?」

「多分、全滅したと思うけどな」

「本当かい?」

 獣人たちは信じられないようだが、生物を構成しているタンパク質は、45度辺りから変質を始める。

 料理でいう――火が通るってやつだな。

 前に食べた低温調理でも、十分に火が通っていた。


「巣が冷えるまで30分ぐらい待とう」

「オッケーにゃ」

 コンテナハウスのベッドに寝転び、まったりと待つ。

 アイテムBOXからブラシを出して、獣人たちの毛皮にブラシがけをしてやる。

 ベッドの下には、ベルも香箱座りをしているが、緊張している様子もないので危険は感知していないのだろう。

 彼女の様子から見ても、俺の作戦は成功したように思われる。


「ふにゃー、まだ敵との決着がついてないのに、こんなにまったりしてていいにゃ?」

「ここから見ても、蜂どもが這い出てくる様子ねぇし、大丈夫なんじゃね?」

「ふにゃーん」

 ミャレーが起き上がると、俺に抱きついて、尻尾を腕に絡める。


「こらこら、調子に乗るんじゃない。まだどうなっているか解らないんだぞ」

「そうだぞ、クロ助」

「ふんにゃ」

 時間がきたので、俺だけ外に出て準備をする。

 LEDランタンを点灯して、テキトーに投げて周囲を照らすと、目の前に浮かび上がる茶色な巨大な巣。

 縞模様の壁に出入り口の黒い穴がポッカリと開いているが、相変わらず反応はない。


「よっしゃ! コ○ツさん召喚!」

 暗い空から黄色い車体が落ちてきて地響きを立てる。

 こいつは、剣装備型ではなくて、普通のバケットタイプだ。蜂の反応はないので、すばやく重機に乗り込む。

 コ○ツさんの運転席はガラスで囲まれているので、蜂が来ても多少は平気のはず。

 エンジンを始動させて、アームを振り上げても、巣は静かなまま。

 かなりの騒音のはずで、中で生きているなら出てきてもおかしくはないだろう。


 巣にバケットを食い込ませて、破壊する。コンクリートも砕く、鋼鉄の爪だ。デカいだけの蜂の巣なんて、どうってことはない。

 ダンボールを引き裂くような音を立てて巣が崩れると、中から蜂の死体が滝のように落ちてくる。

 巣の中には、棚状になった巣の本体が見え、白い卵か幼虫らしきものが沢山並んで見える。


「やっぱり、全部死んでたか」

 コ○ツさんのアームは高さ9mほどまで伸びる。

 そのバケットで、巣をすべて崩し、地面へ落とした。


「ふう……」

 深呼吸すると、重機のエンジンを停止させて、運転席から降りる。

 地面には、茶色いダンボールのような巣の残骸と、黄色い巨大な蜂のかばね

 棚状の巣には白い卵と幼虫、茶色のサナギも並んでいて羽化に近いものもある。

 転がっている蜂に蹴りを入れても、全て死んでいてピクリとも動かない。

 作戦は成功だが、蜂の巣と聞いてちょっと期待していた物があったのだが、それがなかった。

 蜂蜜だ。

 こいつはスズメバチのような肉食の蜂なので、蜜はないのだろう。

 残念……。


「おーい! 大丈夫だ! みんな死んでいる」

 コンテナハウスから様子を見ている皆に合図を送ると――俺は、コ○ツさんをアイテムBOXに収納した。


「本当に死んでいるのかぇ?」

 リリスが、おそるおそるやって来た。


「ああ、間違いない」

「うわぁ――本当にやっちまうなんて……」

「にゃー」

「アネモネ、ありがとうな」

「うん!」

 アイテムBOXからパレットを出す。

 獣人たちに手伝ってもらい、蜂の死体をパレットに山積みにしてもらい、縄で縛るとアイテムBOXに収納する。

 全部で90匹ほどの成虫だが、先に入れた10匹と合わせて100匹前後いたことになる。

 その中に、ひときわデカいのがいる――女王蜂だ。

 体長は、およそ1.5m。


「デカい! 怖すぎるだろう」

「この蜂は、どうするのじゃ?」

 リリスがパレットに縛りつけられている蜂を、こわごわと見ている。


「なにかの素材に使えるかもしれない。甲殻は軽くて丈夫そうだし、細かく切って、スケイルメイルみたいにしても面白そうかも」

「なるほどのう」

 残るは、棚状の巣と卵。触ってみると、ぷよぷよと柔らかい。

 ゆで卵にはなっていないようだ。これなら色々と使えるかも。

 試しに、アイテムBOXに入れてみると――そのまま棚ごと収納された。


「よっしゃ、うまくいった」

「旦那、蜂が素材なのは解ったけど、卵や幼虫はどうするんだよ」

「もちろん、食う」

 そのために、わざわざこんな回りくどい倒し方をしたんだ。

 その前に、これが一番安全そうな倒し方でもあったし。


「食うのかよ!」

「蜂の子は美味いぞ?」

「食うのかよ!!」

「大事なことなので、2回言ったにゃ」

 その場へニャメナが、バタリとうつ伏せに倒れた。


「ああ、なんで俺は、こんな旦那を好きになっちまったんだろう」

「別に、ニャメナに食べろとは言ってないぞ」

 倒れているニャメナの背中をなでる。


「そうだけどさぁ」

 巣の破片に近づいて、クンカクンカしていたベルが、顔を上げて耳を立てた。


「どうしたお母さん?」

「ケンイチ、なにか来たにゃ」

「ええ? またかよ」

「旦那、魔物じゃないような感じだぜ?」

 ニャメナの言葉に、アイテムBOXからナイトビジョンを取り出す。

 機械を覗いて見えたのは、緑の景色の中に白い人影――耳が大きい。


「もしかして、エルフかもしれん」

「げ! こんな所でエルフかよ!」

 相手を見て、アキラから借りたエルフと話せるという指輪を思い出し――俺はシャングリ・ラから、電池式の拡声器を購入した。

 運動会などで使われるメガホン型のやつだ――2500円也。


『あ~あ~! 本日は晴天なり本日は晴天なり! アメンボ赤いよあいうえお!』

「なんじゃそれは!」

 リリスの突っ込みは無視して、エルフたちと会話を試みる。

 彼らと話せるという指輪は借りたが、拡声器越しでも話しが通じるのだろうか?


『とりあえず、やってみるか――え~! エルフの皆さんこんばんは! 我々は敵ではありません!』

 少し喋ったところで、なにかが飛んできたので、避けた。

 ドス! という音とともに地面に刺さったのは、縞々の羽がついた矢。


「とりあえず退避~!」

「「「わぁ~」」」

 LEDランタンも放置したまま、皆で走って、コンテナハウスの中に逃げ込む。

 鉄板で囲まれたここなら、矢は貫通しないだろ。


「アネモネ、奴らとの真ん中に、ちょっと弱い爆裂魔法エクスプロージョンを撃ち込め」

「うん、むー! 爆裂魔法エクスプロージョン(中)!」

 暗闇の中に青い光が輝き、爆炎の光が辺りをオレンジ色に照らす。

 爆発の光で人影が見えた。10人ほどいる感じだ。

 俺は再び、拡声器を使って話しかけた。


『聞こえるか?! 俺たちが敵なら、今の爆裂魔法エクスプロージョンでお前らは全員吹き飛んでたぞ!』

「随分と過激な交渉じゃの」

「話し合いもせずに、先に撃ってきたのはやつらだからな。こちらの戦力を見せつけるしかないだろ?」

「エルフも魔法を使うぞぇ?」

 まぁそうだろうな。この世界のエルフに会ったのは初めてだが、魔法が得意なはずだ。


「アネモネ、魔法の反応はあるか?」

「ないよ」

「デカい魔法が来そうだったら、至高の障壁(ハイプロテクション)を頼む」

「うん」

 しばらく反応をみていたのだが、静かなまま動きはない。

 ナイトビジョンで観察していると、円陣を組んでなにか話し合いをしているようだ。

 突然の訪問客に面を喰らっているのかもしれない。


「エルフって攻撃的なのか?」

「すごく排他的なのは、確かだよな」「にゃ」

 こちらも皆で話し合いをしていると、ベルが窓を気にして前脚でカリカリしている。


「ん? ベル出たいのか?」

 窓を開けてやると、ぴょんと窓枠に脚をかけて、彼女が外へ飛び出した。

 この状況でちょっと心配したのだが、彼女は賢い。なにかわけがあるのだろう。

 黙って見ていると、ベルはそのままエルフのほうへ歩き始めた。


 攻撃されるんじゃないかと、ハラハラしていたが、大丈夫のようだ。

 彼女はエルフたちに囲まれて、なにやら会話しているようにも見える。

 人間とは話せないが、なにかコミュニケーション手段を持っているのだろうか?


 しばらく待っていると、彼女と一緒に一人の人物がやって来たので、会談の舞台を設置する必要がある。

 俺は窓から――コンテナハウスの周りに、LEDランタンを何個か放り投げた。

 輝き出したLEDの光で、辺りがうっすらと明るくなる。


 浮かび上がった人物は――金色の飾りをつけた緑色のチャイナドレスのような服を着ているが――男か女か解らん。

 髪は金色で肩まで伸びたストレート。

 細長い目に長い耳、絶世の美女か、それに引けを取らない美男か。

 武器は、なにも持っていないようなので、俺も外に出ることにした。


「皆は中で待っててくれ」

「旦那、大丈夫かよ」「にゃ」

「大丈夫だ、心配するな」

 不安げな家族をコンテナハウスに残し――暗く、足下だけがLEDの光で照らされている草の中へ降り立つ。

 目の前には、ファンタジー世界の肝ともいえる美しいエルフ。肩幅が広いようなので、男かもしれない。

 エルフがいるとは聞いていたが、やっと彼らに会えるとは。

 ちょっと行き違いはあったが、なんとかファーストコンタクトを成功させなくては。

 だったら魔法を撃つなよって話なんだが、敵意100%の相手だと交渉もクソもないからな。


 俺が、エルフの前に立つと、ベルが足下にやって来て、スリスリとしている。

 彼らとの仲介をしてくれた彼女に感謝しなくてはならない。


「俺は、カダン王国貴族、ケンイチ・ハマダ辺境伯だ」


 俺とエルフとの交渉が始まった。

 

 

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