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141話 クラーケン


 貴族になった俺は、自分の領地――ハマダ領を把握するため、測量の旅に出かけた。

 拠点となるサクラ近くのサンタンカの村を通り、3日ほど順調に測量を続け、湖で釣った魚を食べて、風呂に入り、コンテナハウスで寝ていた。


 順調に進む測量に安心して、ぐっすりと眠っていたのだが、突然ニャメナに起こされた。


「旦那! 外にヤバイのがいるんだよぉ!」

 見れば、ベルの毛も逆だっている。こりゃただ事ではない。

 急いで皆を起こしたりしていると、コンテナハウスが動き始めた。

 こいつは鉄で出来ていて、かなりの重量がある。そいつを動かすなんて何がいるんだ?

 慌てていると、部屋がひっくり返り、回転する世界は阿鼻叫喚。


「一体なにが、どうなって……?!」

 コンテナハウスが90度横倒しになったので、窓ガラスが上にある。

 この部屋にはアルミ製の扉もついているが、外開きなので上に開くのは難しい。

 窓を開けて、そこから這い出ようとすると、人間の胴体ぐらいの太さがある透明ななにかが窓にへばりついた。


「なんじゃこりゃ!」

 LEDランタンで窓を照らすと、丸い円盤がガラスに吸着している。


「ふぎゃー!」

「旦那ぁ! なんだよ、これ!? 触手か?!」

「え~っ? これってもしかして、吸盤か?!」

 吸盤があるってことは、タコかイカ? 確か、タコとイカの吸盤って何か違いがあったような……?

 ――忘れた。こういう化け物ってなんだっけ? クラーケン? テンタクルス?

 淡水に、クラーケンとかがいるのか? あれって、海の化け物じゃなかったか?


 とりあえず相手は、なんでもいい――早く外に出ないと、このまま水の中に引き込まれるかもしれない。

 窓を少し開けると、アイテムBOXからカセットボンベのガスバーナーを取り出して、火を点けた。

 青い炎を、窓にへばりついている触手に当てて、ジリジリと焼いていく。

 白い煙が出て、部屋の中に漂ってくるのは、ゲソを焼いたような匂い――ということは、こいつはイカなのだろうか?

 熱さが触手に伝わったのか? 窓から巨大な白い物が引っ込んだ。


「よし! 今だ!」

 先に、身の軽い獣人たちに出てもらい、引っ張り上げてもらう。


「外、大丈夫か?」

「うわぁぁ! 旦那ぁ! 何かいる! 何かいるよ!」

 ニャメナがこんなに取り乱すのは、珍しい。

 それに引き換え、ミャレーは落ち着いてる。


「トラ公! ビビってにゃいで、さっさと引き上げるにゃ!」

 獣人たちに引き上げてもらうと、アイテムBOXからLEDライトを取り出す。

 青白い光を湖面に向けると、黒い水面から出ている何本もの巨大な触手。

 そのうちの3本が、コンテナハウスに吸い付いているが、本体は黒い水面下にいるのか、その姿は見えない。

 俺と獣人たちがコンテナハウスから飛び降り、リリスとアネモネを受け止めてやる。


「くそ! この触手を切り離さないと!」

 俺はアイテムBOXから、巨大な剣を装備した戦闘機械獣を召喚した。


「ケンイチ! ゴーレムのコアを出して!」

「解った!」

 アネモネに言われるままにゴーレムのコアを砂浜に投げた。


「むー!」

 アネモネの魔法とともに、暗闇に青白い光が集まって、コアの回りに砂が集まってくる。


「リリスは、岸から離れてくれ。ミャレー! リリスの護衛を!」

「わかったにゃ!」

 ミャレーにLEDライトを持たせて、照明係になってもらう。

 

「ケンイチ、そなたはどうするのじゃ!」

「どうにかするしかないだろ」

「シャァァァ!」

 ベルが懸命に威嚇しているが、こんな巨大な敵では彼女の力でもどうしようもないだろう。

 コンテナの外には出られたので、このまま逃げる手もあるのだが――それは最終手段。

 重機に乗り込むと、エンジンを始動する。

 運転席右側のコンソールから、パワーモードを選択すると、アームに取りつけられたアダマンタイトの剣を高く掲げた。


「コ○ツ一刀両断! それは、常世とこよ幽世かくりよを両断する、神鉄の一撃!」

 俺はレバーに力をいれると、巨大な剣を振り下ろした。

 剣が通過した透明な触手は音もなく切断され、打ち付けられた砂浜から砂塵が舞い上がる。

 コンテナハウスに取り付き透き通っていたそれは、瞬時に真っ白に変わり、うねうねとランダムに動きだす。


「うわぁぁぁ! 気持ち悪ぃぃ!」

「シャァァァ!」

 ニャメナとベルがそれを見て、毛を逆立てている。

 化け物の巨大な触手が切断できるのは解ったが、今度は俺とコ○ツさん目掛けて触手が襲ってきた。


「くそっ!」

 レバーをガチャガチャとして、アームに取り付けた剣で触手を弾こうとしたが――。

 重機の反応は、そんなに速いわけではなく、本当の生き物の速さや敏捷さには、かなわない。

 コ○ツさんの黄色の車体に触手が巻き付こうとした瞬間、アネモネが作ったゴーレムの砂の壁が立ちふさがった。


「よっしゃ!」

 俺は巨剣を水平にすると、ペダルを踏み込み、その場で車体を1回転させた。


「コ○ツ大回転斬り! それは、天地を両断する、神鉄の手刀!」

 ゴーレム魔法が作り出した砂の壁ごと、透明な触手を水平に薙ぎ払う。

 上下真っ二つになったゴーレムが崩れ落ち、白くなった触手がバタバタと砂浜の上で暴れまわる。

 2本の腕が切断されたせいか、コンテナハウスに取り付いていた他の腕も引き始めた。


 俺はコ○ツさんから降りると、アイテムBOXから圧力鍋爆弾を取り出して、ニャメナに渡した。


「ニャメナ! 触手が出ている水面へ向かってこいつを投げろ!」

「わぁぁぁ!」

 彼女は、半ばパニック状態になっていたが、仕事はこなしてくれた。

 放られた銀色の鍋は、放物線を描いて、黒い水面へ着水。

 攻撃の準備は整った。


「アネモネ!」

「むー! 爆裂魔法(エクスプロージョン)(小)!」

「皆! 伏せろ!」

 アネモネの魔法とともに、大音響が鳴り響き、水面に巨大な水柱が上がる。

 それが炸裂すると、まるで動画を逆再生するような動きで、巨大な触手が黒い水中に引き込まれた。

 化け物がいったいどうなったか確認する術はない。止めを刺したくても、こんな真っ暗な中で水中への追撃戦は無理だ。

 なにもなくなった水面には、波紋だけが漂っていたが、すぐに白い魚がぷかぷかと浮き始めた。

 さすがに、この状況で魚を拾う気にはならない。

 切断した化け物の腕を2本と、コンテナハウスをアイテムBOXに収納すると、代わりにラ○クルを取り出した。


「皆、乗れ! この場から離れる!」

 皆が慌てて、ラ○クルに乗り込むと、エンジンを始動。

 ヘッドライトを点灯して水際を走り出した。

 車のライトに照らされて、光っている2つ玉がちらちらと見えるが、動物の目玉だろう。

 5kmほど進んだところで、砂浜が広い場所を発見――車を停める。

 水際から離れた所に、コンテナハウスを設置した。


 部屋の中に入ると、ベッドがグチャグチャになっている。

 一々直すより、アイテムBOXに一旦収納してから、また出して設置したほうが早い。

 ベッドを出し直すと、シーツも敷き直す。その縁に腰掛けて、皆でため息をついた。


「ふうぅぅぅ……」

「うにゃー」

 獣人たちは、ほっとしたようにベッドに寝転んでいる。


「ケンイチ、ここは大丈夫だろうの?」

 ベッドの上に座っているリリスがつぶやく。


「解らんが、この鉄の箱にいるかぎり、いきなり死ぬってことはないだろう」

「そうだにゃ、黒狼でも、牙熊でも平気だにゃ」

「俺たちの攻撃で、あのデカいのも痛い目にあったはず、また襲ってくるとも思えんし……」

 ニャメナの毛が逆立ったままなので、抱いてなでてやる。

 アマランサスや、ワイバーンも平気だった彼女だが、生理的に合わない敵だったのか?


 真夜中なのに、どうも興奮してしまって、心がそわそわして眠れそうにない。

 精神的にも疲れたので、甘いものを飲むことにした。

 なににしようか……ホットチョコミルクなんてどうだろう。


 小さな鍋にチョコと砂糖を入れて、アネモネの魔法で温めてもらう。

 ねちょねちょになったチョコに、牛乳を入れてかき混ぜ、再びアネモネの魔法で温める。

 部屋の中に甘いチョコの匂いが立ち込める。


「ちょっと味見――こんなもんだろ」

 人数分カップを用意してそそぐ。


「ふぅ……甘いのぅ。チョコの味じゃ」

「美味しい」

「甘いにゃー」

 黙っているニャメナにも飲ませてやる。


「ほら、ニャメナ」

 カタカタと震えていたニャメナだが、ゆっくりとチョコミルクを飲み始めた。

 いやはや、楽勝だと思ってた測量の仕事に、こんなトラブルがあるとは。

 サンタンカの連中が言ってた、化け物の話は、あながち嘘じゃなかったんだな。


 腹も精神も落ち着きを取り戻したら、眠気が襲ってきたので、寝ることにした。

 明かりを消そうとしたのだが、皆が怖いというので、卵型の小さいライトを購入し点灯させることにした。

 明るさが調節できるので、皆の意見を聞く。

 ニャメナがまだ不安そうにしているので、彼女と一緒に寝ることにした。


 ------◇◇◇------


 ――そのあと、なにごともなく次の日。

 窓から斜めに入ってくる日の光が眩しい。生きているってことは素晴らしいことだ。

 この湖にもあんな化け物がいるなんて。サクラに戻ったら、皆に注意喚起をしないとな。


 皆も起こす。ちょっと強制的に夜更かしをしてしまったからな。

 それに精神的にも疲労困憊したろう。

 皆にダメージはないようだが、心配なのはニャメナだ。なんだか、すごいショックを受けていたみたいだしな。

 彼女を起こしてみる。


「おい、ニャメナ――」

 俺の声にむくりと起き上がった彼女だが、抱きついてきた。


「ニャメナ、もう大丈夫だぞ」

「旦那。面目ねぇ……」

「ワイバーンも平気だったお前が、こんなになるなんて、よほど嫌な敵だったんだな」

「そりゃもう――思い出すだけで……」

 彼女の毛皮がまた逆立つ。これは、人間でいう鳥肌状態だ。

 そんな彼女の毛皮をなでてやる。


「ケンイチ、甘やかすからダメなんにゃ」

「まぁ、そう言うなよ。怖い敵に立ち向かってくれたんだからさ」

「……」

 ニャメナは黙ったまま耳を伏せて、俺に抱きついている。

 さてさて、外で料理する気にもならないので、シャングリ・ラからパンを買って、牛乳とグラノーラで済ませることにした。

 こういうときは便利でいい。食欲がなくても、腹に入るし栄養もある。

 ニャメナは食欲がないようなので、ゼリー状の栄養食を食わせた。


 腹も膨れたので、外に出て伸びをする。


「ん~っ! まったく昨日の騒ぎで、随分と走ってしまったな。昨日の場所に戻って、測量をし直さないと」

 風呂の穴を掘ったりしたので、戻っても場所はすぐに解るだろう。


 アイテムBOXからラ○クルを出すと、皆を乗せる。


「ニャメナ、戻るのが怖いなら、ここで待っててもいいけど……」

「1人なんて嫌だよ!」

 尻尾が垂れ下がっているので、まだテンションが低い状態のようだ。

 車を走らせると左手の湖を見る。湖面は鏡のようで、昨日のことが夢のようだが……。

 ところがどっこい、あれが現実。


「ずっと湖の近くに住んでいたけど、あんな化け物がいたなんてなぁ」

「本当だね!」

「そうだにゃー。まったく気配なんてなかったにゃ」

「今まで遭遇したことがなかったのかぇ?」

「アストランティアの噂でもそんな話はなかったみたいだしなぁ。ただ、サンタンカの連中はなにかいるのを知っていたみたいだけど……」

 実際に、行方不明者もいるらしいのだが、あいつにやられたかは不明だ。


 ベルも湖を警戒している感じではなかったので、普段は湖の奥深くに潜んでいるのだろう。

 この湖の底がどうなっているか、皆目見当もつかないし。

 それに、なにせデカい湖だからなぁ。

 外周が150kmとすれば、円周率で割れば直径は47km以上。

 こんなにデカい淡水湖は、あまりないだろう。


 昨日、キャンプしていた場所に到着した。

 俺たちが到着すると、その場にいた色とりどりの鳥たちや、小動物が一斉に散っていく。

 水際には沢山の魚が打ち上げられているが、こいつを食べていたらしい。


「魚が沢山あるにゃ」

「そいつは傷んでると思うから、食うなよ」

「もったいないにゃー」

 砂浜には、穴を掘って風呂に入った跡や、コンテナが引きずられた跡が残っている。

 車から降りて測量の準備をする。


「リリスとアネモネは、乗ったままでいいぞ」

「トラ公も乗ったままでいいにゃ」

「うるせぇ! もう大丈夫だよ!」

 ミャレーの挑発に乗って車から飛び出たニャメナだったが、まだビクビクしている。

 俺も、あまりこの場所にはいたくないので、さっさと測量を済ませてしまおう。

 測量の看板を持って、獣人たちに水際を走ってもらう。

 俺たちが水際を無視していると、鳥たちが打ち上がった魚をついばみに、また集まってきた。

 それを、車から降りたベルが狙っている。


 黒い身体を地面スレスレに伏せて、スルスルと音もなく水際に近づいていく。

 鳥たちがそれに気づいて飛び立ったのだが、それに合わせてベルが大きくジャンプ!

 大きな白い鳥を口にキャッチした。


「すげー! そうやって鳥を獲ってたのか」

 ベルが得意げな表情で、鳥を咥えて俺の所に見せにやって来た。

 咥えた鳥はまだ生きてバタバタしている。

 ベルはそのままどこかへいなくなったので、鳥を食べているのかもしれない。


 俺は測量の続きだが、レーザー距離計を覗き込むと、値を測定して地図に書き込めば終了。

 簡単なもんだ。

 ベルを呼び寄せると、すぐ車に乗って次の場所へ向かう。

 彼女の口周りには、白い毛がついていたので、食事をした後だろう。


 そのまま、昨夜避難した場所も測量しながら通り過ぎると、目の前に湿地帯が広がる。

 湿地帯の中は車では進めないので、ゴムボート2艘で水際を進むことにした。


「このようなことは、アイテムBOXに信じられないようなものが、なんでも入っている、ケンイチだからできる所業じゃぞ? 普通の貴族に任せたら、数年はかかる大事業じゃ」

「その前に、昨日の大きなニョロニョロで全滅しているし……」

「アネモネの言うとおりじゃな。騎士団を連れていても、あれにかなうとは到底思えん」

 まぁ、水の中に引き込まれたら、どんなに屈強な騎士や戦士でも戦えない。

 かといって、手こぎボートがあっても、戦闘の役には立たないだろう。

 あれと戦うには、巨大な軍艦が必要だぞ?

 それとも、大人数で岸に引っ張り上げて戦うか。


 獣人たちには、ピンク色のペンキスプレーを持たせて、看板を立てた場所をマーキングしてもらう。

 俺は、ゴムボートの上にコンパネを出して、その上に三脚を載せてレーザー距離計を覗いている。

 かなり不安定だが、なんとかなる。

 さすがにこの調子では、距離を稼ぐ事ができないが、それでも10km進むと湿地帯が切れた。

 

 まるで未踏の大地を進む探検家だ。

 大昔にいた元世界の探検家たちも、誰も知らない土地をこんな具合に探検したのだろうか?

 さぞかし苦労したかとは思うが、俺にはアイテムBOXがあるので楽勝だ。


 湿地帯が切れ地面が見えた所で、コンテナハウスを設置して、そこで一泊することにした。

 火を起こして、ドラゴンの肉を焼く。

 肉がいい感じで焼けてきたところで、ふとあることを思い出した。

 昨日アイテムBOXに入れた、化け物の脚だ。

 バーナーで焼いたときは、ゲソみたいな匂いがしていたし、食えるかもしれない。

 アイテムBOXの表示を見ると、クラーケンの脚――となっている。

 やっぱり、クラーケンなのか。

 そいつをアイテムBOXから取り出した。


「ひぃぃぃ!」

 白い巨大なイカの脚を見たニャメナが逃げ惑う。


「ケンイチ、それをどうするのじゃ?」

「いや、食ってみようかと」

「ぎゃぁぁぁ! 旦那ぁ! 止めてくれぇ!」

 トラウマになっているニャメナの前で、こんなものを出す俺が無神経なのは解っている。だが俺の好奇心にブレーキはかけられない。

 

「トラ公は、うるさいにゃ」

「まぁ、試しにだよ」

 白い脚をナイフで薄く削ぐ。それを、アイテムBOXから取り出した串で波型に打つ。


「こんなもんだろうな」

 白い波型に醤油をかけて、焚き火の横に刺した。

 すぐに、ゲソと醤油が焦げる香ばしい良い香りがしてくる。匂いだけだと美味そうだけどな。


「そろそろ焼けたかな?」

 ゲソを取ると、一口食べてみる。


「ひぃぃぃ!」

 ニャメナが叫んでうるさいが――中々イケる! 別にエグミもないし、甘みもある。普通に新鮮なイカの味だ。

 やっぱりあれはイカってことになるな。まぁ、アイテムBOXの表示もクラーケンってなってるし。


「うっぷ……」

 俺の食事風景を見たニャメナは、飯前なのに吐きそうになっている。

 彼女が可哀想なので、脚はアイテムBOXに収納した。

 これは、ニャメナの見えないところで食わないとな。


「ケンイチ、妾にもたもれ」

 リリスはなんでも食うなぁ。


「安全性が確かめられたわけじゃないから、一口だけな。俺は祝福があって簡単には死なないらしいから、心配ないが」

 俺が差し出したゲソの串を、リリスがパクリと頬張った。


「ほう! 魚ともつかん、獣の肉ともつかん、まさに珍味! この前食べたタコ焼とやらに入っておったものに似ておるの」

 残りをアネモネが食べているが、普通に食べているな。

 美味しいようだ。


「お! さすがリリス、鋭いねぇ。しかし、あんな化け物がいると知られていたか?」

「いや、初めて聞いたが……」

「ああいうのは、普通は海にいると思ったんだがなぁ」

「ケンイチは知っておるのかぇ?」

「あれは、クラーケンだな」

「クラーケンとな――確かに、お城の書庫で読んだ本の中に、海にいる魔物として載っていたような……」

 俺たちの行動を見たニャメナは、完全に食欲をなくしてしまったらしい。

 シャングリ・ラから流動食や、栄養食を購入して食わせる。

 甘いものは平気なようなので、チョコもやる。

 なにも食わないよりはマシだろう。


「トラ公が、こんなに弱いとは思わなかったにゃ」

「うるせぇ……」

 ミャレーの煽りに答える彼女のキレもイマイチだ。

 辺りが暗くなり、空は紫から濃い青に変わり、湖は漆黒な鏡と化す。


「また、あのデカいのが来るかにゃ?」

 ミャレーの言葉に、ニャメナがビクっとなっている。


「腕を2本も切り落として、爆裂魔法エクスプロージョンで脅したんだ。しばらくはやってこないだろ?」

「あの触手が来るかと思うと、ちょっと恐怖があるがのう――」

「あの手の生物って、かなり知能が高いんだよ。おそらく大丈夫だろう」

 人類が滅亡したあと、覇権を取るのはイカやタコだという、TV番組もあった。

 そのぐらいに知能が高い。


 皆で肉を食っていると、ネコ缶を食べていたベルが立ち上がった。


「ん? お母さんどうした?」

 ベルがじっと森のほうを見つめている。


「なにか来たか?」

「ケンイチ、来たにゃ」

 車をアイテムBOXから出して、リリスを押し込める。

 マジか――暗くて解らん。シャングリ・ラを検索して、4万円ぐらいのナイトビジョンを買う。


「ポチッとな」

 濃い緑色に塗られた、双眼鏡のような機械が落ちてきた。

 スイッチを入れて、とりあえず覗き込む――緑色の視界に白く光る2つの目が沢山動いているのが見える。

 四脚で黒い毛皮――黒狼。


「また、黒狼か」

「ケンイチ、見せて!」

 アネモネが見たいというので、ナイトビジョンを見せてやる。


「凄~い! 暗くても見える! ねぇ、魔法を撃っていい?」

「ええ? まぁ、今のうち蹴散らしたほうがいいだろうなぁ……」

「むー! 爆裂魔法エクスプロージョン!」

 アネモネがナイトビジョンを見たまま魔法を使う。距離感とか大丈夫なのか心配したのだが――以前にスコープを見ながら魔法を使ったこともあったし、問題ないか。

 森の中の暗闇に青い光が集まると、黄色い閃光が赤い爆炎に姿を変えた。

 激しい爆風が俺たちを襲い、湖の上を吹き抜けていくと、森の木々がバタバタと倒れる。

 コレを食らっちゃ、狼たちはひとたまりもないだろう。


 アイテムBOXから獣人たちの装備を出した。


「ミャレー、生きてるやつらに止めを刺してきてくれ。食えそうなやつは回収も頼む」

 獣人たちは天然のナイトビジョンを装備していて夜目が利くので、暗闇でも平気。


「任せるにゃ!」

「旦那、俺が行く!」

 剣を持って立ち上がったのはニャメナだ。


「大丈夫か?」

「大丈夫だよ!」

「別に無理する必要はないにゃ?」

「うるせぇ!」

 ミャレーがさっと、俺の後ろに隠れた。


「こら、ミャレー! 煽るんじゃない」

 それでは、ニャメナにもやってもらうことにした。

 相手が狼なら、彼女も大丈夫だろう。

 これで楽勝――と思ったのだが、生き残った多数の黒狼が、攻撃をかいくぐってきた。


「まだ、いやがる!」

 いつもは、このぐらい痛めつけると尻尾を巻いて逃げるのだが、今回は少々違うようだ。

 俺は、シャングリ・ラから安いLEDランタンを6つほど購入すると、点灯させて辺りに放り投げた。

 青白いLEDの光に浮かび上がる、黒い毛皮たちは――およそ10匹ほどか。


「よっしゃ! コンテナハウス召喚! コ○ツさん召喚!」

 俺の声と共にコンテナハウスと重機が、黒狼たちの上に落下する。


「ギャン!」「ギャイン!!」

 次々と獣たちが鉄の塊の下敷きになったが、ベルの毛がまだ逆立っている。

 こりゃまだ、なにかいるんだろう。


「まだ、いるぞ!」

 奥から出てきたのは、一際大きいクマのような獣だが、間違いなく狼。


「旦那! 俺が切り込む!」

「大丈夫か?!」

「任せてくれ! うぉぉぉ!」

 切っ先を地面に摺るように構えて突進したニャメナが、黒狼の噛みつき攻撃を躱すと、下から切り上げた。

 一旦、距離を置き、右左に素早いフェイントをかけながら、黒狼の牙を躱しジャンプ。

 大きく振りかぶった剣を、黒い毛皮の眉間に叩き込んだ。

 ニャメナが攻撃している間に、俺は重機に乗り込むとエンジンを始動させる。

 コ○ツさんのエンジン始動音を聞いたニャメナは、パッと身を翻し、ポンポンと連続バク転で距離を取った。


「旦那!」

「よっしゃ! それは死の淵から振り下ろされる黒い断頭台!」

 動きが鈍った巨大な黒狼の頭にアダマンタイトの刃が振り下ろされると、地面も切り裂き頭が縦に真っ二つに割れる。

 これで勝負がついた。


「やったにゃ! トラ公も中々やるにゃ!」

「やったね!」

 アネモネの喝采に、ちょっとニャメナは照れくさそうだ。

 ベルが、ボス狼の所へいくと、クンカクンカしている。


「中々やりよるのぅ!」

 車からリリスも降りてきた。


 ニャメナが残っている黒狼に止めを刺したあと、獣人たちがかばねを回収。

 俺のアイテムBOXの中に、黒狼が25匹ほどと、巨大な黒い毛皮が1頭増えた。


 

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